Blog. 映画『Quartet カルテット』(2001)監督・音楽:久石譲 劇場版パンフレットより

posted on 2016/6/8

2001年公開 映画「Quartet カルテット」
監督・音楽:久石譲 出演:袴田吉彦 桜井幸子 大森南朋 久木田薫 他

久石譲第1回監督作品です。脚本も共同で手がけ、もちろん音楽も全編久石譲による書き下ろしが中心。映画タイトル「カルテット」とあるとおり、弦楽四重奏をベースとしたストーリーであり、音楽もクラシカルな弦楽四重奏をベースに構成されていますが、フルオーケストラや、シンセサイザーを織り交ぜた楽曲、久石譲ピアノによる演奏などバラエティ豊かな楽曲群です。

映画公開時、劇場等で販売された公式パンフレットより、この映画の製作過程をご紹介します。

 

 

この作品は僕の自伝ではないけれど、ある意味で僕の物語。
僕の周りにいた、音楽と共に生きようとして悩み立ち止まる、繊細で、美しい人たちの物語です。
-久石譲

 

INTRODUCTION

映画音楽の第一人者、久石譲が映画監督に初挑戦!

誰にも忘れられない夢がある。誰にも捨てられない友がいる・・・。
『もののけ姫』(宮崎駿)、『BROTHER』(北野武)、『はるか、ノスタルジィ』(大林宣彦)、『時雨の記』(澤井信一郎)、『はつ恋』(篠原哲雄)など、現代日本映画を代表する監督たちの秀作、話題作の音楽監督を一手に担い、海外からも熱い注目を集める久石譲がついに映画監督に挑戦した。その記念すべき第1回作品『カルテット』は、久石自身がかねてより温めていたオリジナル・ストーリーをもとに、弦楽四重奏団を組んだ4人の若者の挫折と再起、愛と友情を描くさわやかな青春ドラマだ。

 

絵コンテは、なんとオリジナル40曲の譜面

もちろん日本屈指の作曲家としての久石譲もまぶしく輝いている。撮影1ヶ月前に劇中使用音楽約40曲を作曲したばかりか、海を渡ってロンドンの一流弦楽四重奏団バラネスク・カルテットとそれらを録音。演奏シーンの撮影には現場で実際に音楽を流しながら、譜面を絵コンテ代わりに俳優、カメラの動きを決定するという異例の方法がとられた。映画で音楽はどう使われるべきか、どう見せる=魅せるべきか。これまでになくリアルな演奏描写、スキのない音楽配置は、出演陣に課せられた弦楽器の演奏訓練、及び半端なクラシックの使用に甘えないオリジナル曲の創作を含め、映画音楽を知り抜いた才人ならではの演出で、結果、従来の日本映画にはない本物の”音楽映画”となった。

 

日本映画界の第一線で活躍するスタッフが集結!

久石自身による原案をもとに、『君を忘れない』『ホワイトアウト』などの脚本を担当し、『恋は舞い降りた。』で監督も手がけた長谷川康夫が約1年をかけて久石と共同で脚本を執筆。撮影には『金融腐蝕列島/呪縛』の阪本善尚が久石たっての希望で登板。大林宣彦作品で知り合った両者の息の合った映像処理も本作品の見どころの一つだ。そして音楽監督には、勿論久石譲自身が兼任。編集終了後もできあがった映像を見ながら音楽を追加作曲し、より緊密な作品の完成に尽力している。撮影は2000年8月20日から9月22日まで行われ、東宝・砧スタジオのほか、東京都内、熱海などでロケが敢行された。

 

PRODUCTION NOTES

そもそも”カルテット”とは?

カルテット(英語表記で quartet)とは、広義で四重奏(唱)のこと。四重奏曲を指すこともある。『新音楽辞典』(音楽之友社刊)には「4個の独奏楽器による室内楽重奏。弦楽四重奏が基本的で、(中略)ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロにピアノ四重奏、木管をひとつ加えたフルート四重奏、オーボエ四重奏、木管、金管、ホルン、サクソフォーン四重奏その他各種の編成がある」と記されている。今日まで続く弦楽四重奏曲の基本様式を確立したのはフランツ・ジョゼフ・ハイドン(1732~1809)という説がもっぱらである。その醍醐味は様々だが、劇中で三浦友和扮する青山助教授わいく「アンサンブルの中でも弦楽四重奏ってのは、余分なものをすべて削ぎ落とした究極の形態だ。演奏家としての力量がこれほどはっきり表れるものはない」とのこと。幼少の頃バイオリンをたしなんでいた久石自身の弦楽四重奏に対する考え方としてとらえてもいいだろう。

 

ロンドンで録音されたオリジナル40曲

撮影スタート1ヶ月前の2000年7月に、劇中で演奏される楽曲40曲がロンドンで録音された。本格的な音楽映画を作り上げるため、ありきたりのクラシックではなく、自身のオリジナル曲で攻めいたとする久石の意気込みの結果だった。演奏はアレクサンダー・バラネスク率いるバラネスク・カルテットが担当したが、同カルテットと久石は既に懇意の仲で、撮影を控えた2000年5月にリリースされたオリジナル・アルバム「Shoot The Violist」(ポリドール)でも共演を果たしている。同アルバムでは久石が過去に手掛けた『ふたり』『キッズ・リターン』『菊次郎の夏』などの主題曲が演奏&収録されており、同じく『となりのトトロ』『キッズ・リターン』『HANA-BI』がドサ回りの場面で演奏される映画本編のバージョンと比べても興味深いだろう。

また、俳優たちは撮影前に用意された曲を個々に練習しなければならなかった。主演の袴田吉彦は4ヶ月に及ぶヴァイオリンの訓練に追われ、さらにコンクールのシーンで演奏する主題曲の難しさにも悲鳴を上げた。「この映画の苦労なら2時間は平気で話せる」とは演奏シーンを撮影中の彼から漏れた言葉。一方、大介役の大森南朋は「撮影前の1ヶ月の準備が助かってます。現場も居心地がいいです」と、終始明るい笑顔だった。

 

久石監督が熱望したカメラマン

1年以上をかけたシナリオ作業を受けて、いよいよ撮影の準備を始めた久石が熱望したのが阪本善尚カメラマンの起用だった。両者は大林宣彦監督の『はるか、ノスタルジィ』の現場で出会い、その後同監督の『水の旅人』でさらなる交友を深めた。「現場が好きな作曲家だと思った」とは『はるか、ノスタルジィ』小樽ロケでの出会いを振り返っての阪本カメラマンの言葉。久石の初監督ぶりには「最初の一週間は戸惑いがあったかもしれないけれど、以降はもう他の監督と同じですよ。ズバズバ御意見をおっしゃる。音楽家らしい独特のリズムがありますね。特に”音楽とはアクションです”という言葉が印象に残っています。オーソドックスなタイプだけれど、ものすごい量を撮ってますね。イメージもはっきりされているし。僕もMDを買って音楽の勉強をしました。やはり一芸に秀でている人は違うと思いました」とのこと。絶妙のコラボレーションは作品を見ての通りだ。

 

映画と音楽の究極の関係を実現

久石譲は今回の監督挑戦にあたり、あくまで”映画音楽家・久石譲”として演出に臨むことを広言していた。つまり、これを契機に今後、監督業を定期的にこなしていくのではなく、映画音楽の仕事を極めていくための経験の一つとしての監督挑戦だと言うのだ。これまで宮崎駿、北野武などの有名監督との仕事を通じて知った映画や映画音楽の世界を、自身がどれだけ自分のものにしたかという検証が一つ。そして映画音楽を手掛ける者が映画監督を試みるときにできることへの挑戦が一つである。特に後者については本格的な”音楽映画”を作ることが第一の目的だった。音楽への理解が足りないために半端な音楽挿入、幼稚な演奏描写などに終わっていることが多かった過去の作品に対する答えを自分なりに出そうとしたのだ。その結果、音楽が台詞となった『カルテット』では、幸福でリアルな映画と音楽の究極の関係が誕生したと言っても過言ではない。音楽が映像に、映像が音楽にそれぞれ新たな命を吹き込んだのだ。久石は言う、「後悔はありません」と。

 

総額数億円の小道具と『二人羽織』、『合わせ鏡』

この映画のもう一つの主役は「楽器」。楽器は「小道具」でもあるが、この映画ではとても重要な役割を担っている。プロ・レベルの楽器をぜひ撮影に!という久石の要望は、日本の弦楽器業界ではナンセンスな話で、楽器探しも非常に困難を極めた。が、とある楽器商が今作品の企画意図を理解し、「本格的な音楽映画であるならば中途半端なものはお貸しできない」と、1700年代イタリア、及びフランス製のオールド楽器を惜しみなく提供。これらの銘器を使っての演奏シーンは、まさに今作品のメイン。ではなぜ、久石はこれらの銘器を必要としたのか。久石曰く「やはり本物の楽器は色、(木目の)模様、スタイル、どれをとっても素晴らしく、撮影していてもとても美しい。それと、これらの楽器を使って演じる役者達が楽器をとても大切に扱います。このことは演技においても、非常に良い影響を彼らに与えています。」俳優はクランクインまでの間、時価数千万円の楽器を手にプロの演奏家から個別にトレーニングを受ける。そして、撮影では監督考案による様々な撮影技法が駆使された。その中に『二人羽織』と『合わせ鏡』と呼ばれるものがある。『二人羽織』は演奏シーン中、顔の表情のアップの撮影の際使用された方法で、これは実際に演奏できるプロの演奏家が役者の背後(もしくは下方)から左手のみを差し出して楽器を演奏し、表情、及び右手の弓の演奏は俳優が演じる、というもの。また『合わせ鏡』は、実際に演奏している演奏家の動きを俳優が演じやすいように、撮影中の役者の対面でプロの演奏家が同時に演奏し、役者はその演奏家を見ながら演じる、という方法だ。これらあらゆる撮影技法によって、よりリアルで迫真のシーンが撮影された。

(映画「Quartet カルテット」劇場版パンフレット より)

 

その他、パンフレットでは、映画主要キャストによるインタビュー等も掲載。
袴田吉彦 / 桜井幸子 / 大森南朋 / 久木田薫

 

久石譲 カルテット パンフレット

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