Blog. ラジオ J-WAVE 「ANA WORLD AIR CURRENT」久石譲出演(2005) 内容紹介

Posted on 2016/4/25

ラジオ J-WAVE 「ANA WORLD AIR CURRENT」

ヴァイオリニスト葉加瀬太郎さんがパーソナリティを務める同番組。2005年久石譲が出演した回での対談内容および楽曲オンエアリストです。

 

London 2005/02/26

トラブルを抱えてそれをクリアしていくっていうのは、人生そのものだと思う。

ラーメン屋の光景が出る度に、25歳の時の気持ちを思い出します。(久石)
海外で見るラーメン屋の威力ってすごいですよね(笑)。(葉加瀬)

葉加瀬:
久石さんが初めて海外を訪れたのはいつですか?

久石:
25歳の時にロンドンでした。

葉加瀬:
25歳でロンドンに向かうというのはどういう理由だったんですか?

久石:
たまたまある会社でレコードで20数枚の“映画音楽集”を作るという事で、1枚あたり何の曲を選ぶかっていうのを手伝った事があったのね。それが全部ロンドンレコーディングだったんですよ。それで「せっかくだから連いて行っちゃおう」って見に行ったのが最初でした。

葉加瀬:
なるほど。

久石:
後に「スーパーマン2」の音楽をやったケン・ソーンとかいろんな人たちがアレンジをしていました。だから1ヶ月半くらい、毎日彼らの世界レベルのアレンジ譜を見ていたんです。

葉加瀬:
スコアを現場でそのまま手にしてね。

久石:
そう、「ここの音が違う」とか言っている訳じゃないですか。あれはとても貴重だった。ブラスのかけ方なんかも、ほとんどフルオーケストラの編成ですから。リズムの入ったフルオケなんですけど。弦の密集でワーッとメロディにいったり、ブラスが入った時の弦の配置だとかが「なるほどな」って。あれはとてもいい勉強になったな。

葉加瀬:
初めて憬れのロンドンに行った時というのは、街の雰囲気などはどう映りました?

久石:
最初に歩いたのはケンジントンだったんですよ。「おー」って思って、きょろきょろと3回くらいしたらすぐ目の前にラーメン屋があって、いきなり入っちゃいました(笑)。「わー、懐かしい」って。「まだ4日だろ!」みたいなね。

葉加瀬:
分かる、気持ちが! 海外で見たときのラーメン屋の威力はすごいですよね。

久石:
そのラーメン屋は、その後自分のソロアルバムを録りに行ったりしてもずーっとあったんですよ。今度行ったらあるかどうか分からないけど、見る度に25歳の時にここを歩きながら、「ロンドンだ、世界だ」って思った事を思い出します。だから“世界だ”って思うとロンドンの街が真っ先に思い浮かぶんです。

葉加瀬:
初めてのっていうのは、やっぱりそれほど大きな印象になりますものね。

久石:
そのラーメン屋の光景が出る度に、何度もソロアルバムを録りに行っても25歳の時の気持ちを思い出します。だからロンドンに行ったら必ずそこを1人で歩くんですよ。

葉加瀬:
でもそれがテムズ川とかビックベンじゃなくて、ラーメン屋っていうのがいいですね(笑)。本当にリアルを感じるな。

 

イギリスって見事なくらい階級社会なんです。(久石)

葉加瀬:
海外にお住まいになったことはあるんですか?

久石:
今から11~2年くらい前かな。ロンドンに2年くらいいました。

葉加瀬:
それは拠点を移されるという気持ちですか?

久石:
その時はどうだったでしょうね。半々くらいか、出来たら移りたいなと思っていたんですね。ただ年間10数回東京と往復してました。

葉加瀬:
お住まいになられていたのはどの辺りですか?

久石:
最初はアビーロードのすぐ側。で、その次がケンジントンの方でした。こんな事言ったらまずいのかもしれないけど、日本のミュージシャンって皆勘違いしてロンドンに住むんですよ。第2の天地を求めてアパート借りたりするんですよね。僕もすぐ勘違いしたんだけど…。

葉加瀬:
はい。

久石:
向こうで家を借りたら、3日後にキング・クリムゾンのドラマーが傘を持ちながら「ハロー」って来た。次のレコーディングでオファーを出してたんですけど、すぐに来ちゃうんですよ。それで自分のデモテープとかを渡すんですよ。そうすると自分がすごく有名になったような気がするんです。あそこを見ていると、きっかけさえあったらチャートに入れることも出来るだろうし、いろんなことが出来そうな気がする。で、皆“ロンドンをベースに世界に羽ばたく”と思って行くの。

葉加瀬:
うん。

久石:
ところがこれは大きな間違い。イギリスって見事なくらい階級社会なんです。そうすると、例えば“ミック・ジャガーのツアーをやりました”。3ヶ月とか半年のツアーをやったギターの人はン千万円くらい入るんですよ。それで大きな家も建てて、ビックネームになったんだけど、普通はビックネームって上に突出したら裾野の仕事もあるじゃない。ところが無いんですよ、それだけなの。ここが一番問題なんです。

葉加瀬:
なるほど。

久石:
日本だとミック・ジャガークラスの人のツアーをやるという事は、裾野に一流人としていっぱい仕事があるわけじゃない。そうすると当然食べていける状況になるはず。ところが向こうでは棒グラフのように、“ミック・ジャガーのはやれた、でも後はない”んですよ。この現状に気付くのに住んで1、2年かかるんです(笑)。

葉加瀬:
はははは(笑)。

久石:
それで何となく日本に戻ってくるという、そういうケースが圧倒的に多くて。僕は幸か不幸か最初にそれが分かっちゃったんで、そういう欲望は抱かないことにした。でもとにかく日本にいる時より徹底的に集中出来るんですね。それからミュージシャン達の視野が広い。ロンドンのミュージシャンの人たちも、全く譜面を読めないけどすごい仕事をする人、耳で覚えちゃう人から譜面バッチリの人からいっぱいいますね。

葉加瀬:
はい。

久石:
そういう中で動いてるという事が、僕はとても気持ちよかったんで、その後もずっとロンドンでレコーディングをやってるという感じですね。

葉加瀬:
その2年間は楽しかったですか?

久石:
ロンドンにいる間はレコーディングしないで、暇だった(笑)。だって何にもないから公園散歩したり、そういうことばっかり。マネージャーが向こうにいるわけじゃないからね。東京からFAX来るのを見て、「嫌だ」とか言ってるだけで(笑)、自分の時間はたっぷり持てました。

葉加瀬:
はい。

久石:
それはすごい良かったんだと思う。きっと物を作る人たちっていうのは孤独でなきゃいけないと思うんですよ。皆嫌いですよね、孤独なんて。嫌いなんだけど1人になっている時間の中でのた打ち回ってないと、たぶんダメなんだろうなって思います。

葉加瀬:
その通りだと思います。

 

オーケストラってダンプカーだから、急には曲がれない。(久石)

葉加瀬:
昨年はカンヌで指揮をしたとか?

久石:
それはね、バスター・キートンというチャップリンと並んでトーキー映画(無声映画)の有名な映画人がいるんだけど、彼の作品をあるフランスの会社が買ったんです。キートンの『ザ・ジェネラル』、日本では『キートン将軍』って題なんですけど、その音楽を書いたんですよ。それで去年のカンヌ映画祭で“上映しながら生のオーケストラでやってくれ”っていうのがあったんですよ。

葉加瀬:
スクリーンの前でオーケストラ! かっこいいなぁ。

久石:
コートダジュール・カンヌオーケストラという、ちょっと小ぶりのオーケストラがあって、フランスではすごく有名なんです。そのオケでなんと僕は指揮をしちゃったんですよ。これが大変なの! 自分で言うのも何だけど、絶対に生で演奏できないんですよ(笑)。簡単に言っちゃうと、ピストルとか大砲のシーンがありますよね。それもフレーム単位で、30分の1秒まで合わせて「ドーン」とか、そういったきっかけが異常にあるわけよ。

葉加瀬:
全部入れたんですか?

久石:
入れた。75分くらいの映画で全編音楽なんですよ。それを22曲に分けたんだけども、1曲の中で予備カウントもなくテンポがガンガン変わってくわけ。で、ちょっとトリッキーに譜面を作っちゃったの。「生でやれるわけないだろ」って所まで書いちゃって。そうしたら、それを自らやらなくちゃいけなくなって、もう真っ青。しかもオケの指揮なんてたまに振った事しかない自分が、フランス人のオーケストラを相手に!

葉加瀬:
格好いい!

久石:
東京でレコーディングしている時でも1曲でヒーヒー言って録った曲を、ぶっ通しで75分をスクリーンを見ながらやるんですよ。

葉加瀬:
当然、テンポを維持する為のクリック音も一緒に走っているという事ですか?

久石:
例のカンヌのメインの会場でやるわけですから、装置が良いのが無いんですよ。

葉加瀬:
なるほど。状況としては良くないですね。

久石:
一応僕がクリックを聞く、そしてバイオリンのそれぞれのセクションだとか木管などのトップの人もイヤホンをつけるということでやったんですよ。ところが、リハーサルが始まると1人抜け2人抜けで、皆が外してるんですよ。

葉加瀬:
オケの人にありがちな(笑)。

久石:
オケの中で合わなくなるから。やっぱりオケってダンプカーだから、急には曲がれないじゃない。そうすると音楽的にならないからと皆が外しだして、2日目にはコンサートマスターも外しちゃったんです。気付いたら僕1人なんですよ! 打点がいくら明確に振ったって、インテンポで始まったものって微妙にずれ出したら軌道修正効かないじゃない?

葉加瀬:
そうですね。気がついたら1拍2拍ですものね。

久石:
それで次のきっかけが来るでしょ。これで生演奏だったんですよ。頭の中は大変で「1小節半遅れた」「走った」とか、「どこかでその分かせがなきゃ、後3ページいったら崖がある」みたいなね。でも結果は、奇跡的にね…。

葉加瀬:
“奇跡的”って(笑)。

久石:
はっきり言ってあの成功は奇跡的でしたね。ところが今の話題で問題になってるのは音楽的な話でしょ。ところがここに“フランス人”っていうフィルターが入るわけよ。

葉加瀬:
はははは!

久石:
このバイアスがすごいんですよ(笑)。「OK」って言ってるけど「どこがOKだ」って言いたくなるくらい、きっちりしてないんですよ。全部話が食い違ってるし。その状況が全てに覆い被さるから「Oh, My God!」みたいな。本番まで1回もまともに通ってないんですから。

葉加瀬:
はー。

久石:
でもオケの人は素晴らしかった。日本人よりも几帳面。僕なんか「疲れたからもう止めます」なんて言ってると「ダメだ。時間が無いからもう1回」なんて言ってくれるくらい本気なんですよ。まあ、貴重な経験になりました。

葉加瀬:
なるほどね。

 

スペインはあまりにも文化が違って、曲が書けなくなった。(久石)

葉加瀬:
2002年にスペインへ行ったのは、お仕事ですか?

久石:
これはね、トマティートというギタリストにとても惚れ込んだんですよ。

葉加瀬:
トマティート! 素晴らしいですよね。

久石:
「どうしてもこの人とアルバムを作りたい」って叫んでたら、彼がちょうど日本に来ている時に会ったんですよ。それで意気投合して、僕はスペインに会いに行ったんです。そしてギターとピアノのためのコンチェルトを書く予定だったの。タイトルまで全部決めて、頭の中ではがっちり音楽構造も出来てた。ところが、そこで“フラメンコ”というものに出会っちゃったんですよ。彼はフラメンコギタリストだからね。

葉加瀬:
そうですね。

久石:
フラメンコギタリストっていうのは、まず譜面が読めない。一応僕も少しはフラメンコを知らなきゃいけないと思って、マドリードとかアンダルシア地方を周ったんだけど、調べいくうちに「ヤバイ」と思いました。何でかと言うと、あまりにもカルチャーが違うから。「これはダメだ」と思ったのが、「リズムの中にフラメンコというリズムがある」んじゃないんですよ。彼らは「リズム」のことを「フラメンコ」って言うんですよ。

葉加瀬:
はい。

久石:
僕が例えば向こうの図書館とかフラメンコ博物館だとかいろんな所へ行って、「フラメンコのギターのリズムの種類は何パターンあるか、書いてある本を見せてくれ」って言うわけ。すると「そんなものは無い」と。「無い」って言われてもねぇ…。僕は頭で考えちゃうから、「タンタンタタ」ってフラメンコ特有のリズムがいくつかあるじゃない?

葉加瀬:
「“タンタンタタ”ってやっていればフラメンコになるのかな」って思いますよね。

久石:
それをもうちょっと踏み込んで考えても、「そんな物は無い。フラメンコを知りたかったら、ここではワインを飲んでハモンを食べて、この光を浴びなさい」って皆言うんですよ。「いや、俺そんな暇ないから」って言うんだけどね(笑)。

葉加瀬:
はははは。

久石:
どこへ行ってもそれを言われちゃって。でも「俺はクラッシックの現代音楽を学ぶようなつもりでフラメンコというリズム構造を頭に入れようとしている。だけど、そんなものではフラメンコは分からないし、トマティートとやってもベーシックな部分の共通項は絶対に見つからない」と思っちゃったんです。その瞬間から、パツンとシャッターが下りて書けなくなっちゃった。

葉加瀬:
はー…。

久石:
たぶんアンダルシア地方とか行かないで、ミシェル・カミロとやったデュオCDなどを聞いて「あっ、この人とやりたい」って、自分のフィールドで作曲してたら出来てたんですよ。ところが踏み込んじゃった。

葉加瀬:
フラメンコのイメージだけを切り取ったらいけない、と思ったんですね。

久石:
あの時は学んだな。男と女もそうだけど、踏み込みすぎちゃダメだよね。適度に知らない方が上手くいくよね(笑)。

葉加瀬:
いや、本当に納得します。全然ジョークに聞こえない(笑)。でもそこで踏み込んでも久石さんだったら書けたと思うんですけど、「書いちゃいけない」と思ったんでしょうね。

久石:
うん。まだ自分がやる時期じゃなかったんだと思う。今でもその企画は持ってるし、やらなきゃいけないと思っているんだけど、それをやるためにはピアノ弾きとしてどうしてもクリアしないといけないものがあと3つくらいあるんですよ。これって“が熟してくるといろんな事がスパッとはまって出来る”っていうのあるじゃない?

葉加瀬:
はい。

久石:
あの時にある種の挫折も味わったけれども、やろうとした時の思いはあれから2年経っているけど全然消えてないんですよ。という事は、色褪せてないからあれは必ずいつかやるな。そういうことのほうが大切ですね。

葉加瀬:
そうですね。

 

音楽家人生を賭けたアルバムを出す時期が、必ず来る。(久石)
明るいメロディのほうがよっぽど救われるさ!(葉加瀬)

葉加瀬:
最新アルバムのお話を伺いたいと思いますが、リリースされたのは先月ですね。『Freedom-Piano Stories4』。今回はどういった感じですか?

久石:
「心の自由を求めて」という事で、自分の心の垣根を取り払いたいと思って作りました。僕自身もそうなんだけど、「とても生きづらいな」って最近思う。ちょっと閉塞的な社会状況の中で、皆が苦しい。その時に、実は「生きづらいという思いを作っている一番大きな要因は自分の中にあるよね」っていうことに気付いた。でも「もうちょっとやるだけやってみようよ」とか、「そんなにネガティブに捉えないで、毎日楽しいことを考えることも必要なんじゃないか」というような気持ちがあって、『Freedom』って付けたんです。

葉加瀬:
なるほど。

久石:
アルバムで言うと『ハウルの動く城』のメインテーマだったり、テレビで流れているコマーシャルだったり。そういう耳馴染みの曲をちゃんと1曲にしてあるので、とにかく聴きやすいです。

葉加瀬:
僕も聴かせていただきました。“あのメロディーも久石だったのか”というコピーがついていますが、まさしくそうでした! 「これもそうだったの!?」の連続ですね。

久石:
世の中がこういう状況の時、物を作る人間ってどうしても重い発言をしたくなるんですよ。だけどね、結局「言うべきじゃないんだ」って気がしたんです。

葉加瀬:
僕は生意気ながらすごい賛成するな。それより明るいメロディのほうがよっぽど救われるさ!

久石:
そうなの。ここまで現実が暗い時に、覆い被せるような物は「聴きたくないよ、そんな言葉」って。何年後になるかわからないけど、自分たちの音楽家人生を賭けたようなアルバムを出さなきゃいけない時期が必ず来るのよ。だけどこの時期はやるべきではないと思います。むしろ皆が重いんだから、せめてこのアルバムを聞いている間は気持ちが救われて欲しい。それが今、僕ら音楽家として一番大事なことかなと思っちゃう。

葉加瀬:
なるほど。では久石さんにとっての「旅」とは?

久石:
音楽を作っている行為自体が「旅」みたいなものじゃないですか。だから実際の旅ってあまり好きじゃなかったんですよ。ところがこの数年で分かったんだけど、旅に行くっていうのは、“自分のホームが良い事を確認しに行く”ようなものですよね。

葉加瀬:
そうかもしれませんね。

久石:
旅に行くと、いろいろと思い通りに行かなかったり、物を失くしたり盗られたりとか、「一流ホテルだ」って言われてるのに2階がうるさかったとかさ。

葉加瀬:
お湯が熱すぎるとか、お湯にならないとか(笑)。

久石:
「こんな“わらじ”みたいなステーキ食えないぞ」とか、トラブルが絶えずあるでしょ。いろんなトラブルを抱えてそれをクリアしていくっていうのは、人生そのものだと思うんですね。行って帰ってくると、一個ずつ視野が広がってるっていうか、変わるでしょ? だから今年は出来るだけ旅したいと思います。

葉加瀬:
そうしたら、またすごい作品がいっぱい出来ちゃうんでしょうね。待ってます! どうもありがとうございました。

久石:
こちらこそ。

 

ON AIR LIST
海の見える街 / 久石譲
ORIENTAL WIND / 久石譲
もののけ姫 / 米良美一
WILD STALLIONS / 葉加瀬太郎
EN CASA DEL HERRERO / TOMATITO
人生のメリーゴーランド / 久石譲

久石譲 葉加瀬太郎 2 久石譲 葉加瀬太郎 1

出典元:J-WAVE:ANA WORLD AIR CURRENT アーカイブ

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