Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2016」 コンサート・レポート【8/22 Update!!】

Posted on 2016/8/13

『ワールド・ドリーム・オーケストラ』(W.D.O.)は2004年に久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団が始めたプロジェクト、今年で10回目を迎えました。2014年以来続けてきた同コンサートでのテーマ、「鎮魂のとき」と「祈りのとき」の最終章として「再生」。しかも今年はAとBのふたつのプログラムを用意。Aプロでは宮崎駿監督作品の楽曲を交響組曲にするプロジェクトから第2弾「もののけ姫」を初披露、Bプロでは「天空の城ラピュタ」と「ハウルの動く城」が披露されました。会場によって演奏プログラムが違っており、東京はAとBのプログラムを2日間に渡って公演。『久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2016』ツアーは7月29日の長野を皮切りにWDO過去最多となる国内9都市で10公演行われ、さらに海を渡ってW.D.O.として初の海外公演を台湾にて敢行。

補)
ツアー初日の長野公演は、久石譲が芸術監督を務める「アートメントNAGANO2016」最終日でもありました。今年夏開催のフェスティバル、その最後を飾るフィナーレ公演が、W.D.O.2016の幕開けともなりました。

 

2016.8.22 追記

台湾公演はアンコールが1曲追加されました。「One Summer’s Day」

 

まずは演奏プログラム・アンコールのセットリストから。

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2016
JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2016

[公演期間]WDO_A4Flyer長野新潟_front_校了
2016/7/29 ~ 2015/8/20

[公演回数]
11公演
7/29 長野・長野市芸術館 【Aプロ】
7/30 新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール【Aプロ】
8/1 大阪・フェスティバルホール 【Bプロ】
8/2 福岡・福岡シンフォニーホール 【Aプロ】
8/3 岡山・岡山シンフォニーホール 【Bプロ】
8/5 東京・サントリーホール 【Bプロ】
8/6 東京・すみだトリフォニーホール 【Aプロ】
8/8 名古屋・愛知県芸術劇場 コンサートホール 【Bプロ】
8/9 福島・とうほう・みんなの文化センター 【Aプロ】
8/10 仙台・東京エレクトロンホール宮城 【Aプロ】
8/20台湾・台湾総合体育館【Aプロ】

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ (W.D.O.)
ソプラノ:市原愛【Aプロ】 安井陽子【Bプロ】

[曲目]
【Aプログラム】
久石譲:THE EAST LAND SYMPHONY *世界初演
1.The East Land  2.Air  3.Tokyo Dance  4.Rhapsody of Trinity  5.The Prayer

—-intermission—-

[Melodies]
久石譲:Summer
久石譲:Life is *世界初演
久石譲:Dream More

久石譲:Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE *世界初演

—–encore—–
久石譲:One Summer’s Day (Pf.Solo) (台湾のみ)
久石譲:World Dreams

 

【Bプログラム】
久石譲:THE EAST LAND SYMPHONY *世界初演
1.The East Land  2.Air  3.Tokyo Dance  4.Rhapsody of Trinity  5.The Prayer

—-intermission—-

[Melodies]
久石譲:Summer
久石譲:Life is *世界初演
久石譲:Dream More

久石譲:Castle in the Sky
久石譲:Symphonic Variation “Merry-go-round”

—–encore—–
久石譲:World Dreams

 

 

さて、個人的な感想はひとまず置いておいて、
会場にて販売された公式パンフレットより紐解いていきます。

 

【楽曲解説】

THE EAST LAND SYMPHONY
1. The East Land
2. Air
3. Tokyo Dance
4. Rhapsody of Trinity
5. The Prayer

「THE EAST LAND SYMPHONY」は全5楽章で約42分かかる規模の大きな作品です。実はこの原稿を書いている今日の段階で「2.Air」はまだ完成していません。ツアーが始まる1週間前だというのに、やれやれ。文字通りお尻に火がついています。そういう訳で冷静に曲を語ることはできません。メモ書き程度を記します。

「1.The East Land」は5年前に作曲しました。そのときは、自らの交響曲第1番とマーラーの交響曲第5番を演奏する予定でしたが、この楽曲しか発表することができませんでした。今回若干の手直しをして演奏します。核になっていることはセリー(音列)*的な要素とミニマルを合体することでした。全体を覆う不協和音はそのためです。中間部を過ぎてからアップテンポになるのですが、そこで炸裂する大太鼓はまるでクラブのキックドラムのようで個人的には気に入っています。

2曲目は飛ばして「3.Tokyo Dance」について。ソプラノが入ります。自分と自分の周りだけが大切、世界なんかどうでもいい!というような風潮のガラパゴス化した今の日本(東京)を風刺したブラックなもの、そして日本語で歌うというコンセプトで娘の麻衣に作詞を依頼しました。何回か書き直しをしていく中で数え歌というアイディアが浮かび、いわば「東京数え歌」ともいえる前半ができました。僕の周りの人にはすごく評判がいいです。ロンド形式のように構成しましたが、中間部、後半部は英語とミックスしながら『平家物語』のような諸行無常を歌っています。何故こういう曲を書いたのか?あるいは書こうとしたのかわかりません。たぶん数年後には腑に落ちるかもしれません。

「4.Rhapsody in Trinity」は当初「東京ダンス」という仮のタイトルで作曲を始めたものですが、前曲にタイトルを譲りました。日本語で書くと「三位一体の狂詩曲」ということですが、前曲と同じくブラックな喜劇曲です。実は悲劇と喜劇は表裏一体です。本当の悲哀や慈しみはチャップリンの映画や山田洋次監督の『男はつらいよ』シリーズを観れば一目瞭然、喜劇が適しています。ただしそれを作るのは本当に難しい。音楽も同じです。悲しい曲はまあ誰でも作れますが(作れない人もいますが)楽しく快活に音符が飛び回っている向こう側で何かただならぬものを感じていただく、ということはいわば俯瞰、ある意味で神の視線が必要です。いや、そういう哲学的知恵が必要だということです。僕はまだそこに至ってはいないので(到底無理なのかもしれませんが)チャレンジし続けるしかないと思っています。11/8拍子という何とも厄介なリズムが全体を支配しています。つまり演奏が難しいのですが、新日本フィルの皆さんは初日のリハーサルで難なく演奏していた。これでW.D.O.の力だ!と思った次第です。

「5.The Prayer」は今の自分が最も納得する曲です。ここのところチャレンジしている方法だいうことです。最小限の音で構成され、シンプルでありながら論理的であり、しかもその論理臭さが少しも感じられない曲。すべての作曲家の理想でもあります。もちろん僕が出来たと言うことではありません。まあ宇宙の果てまで行かないと実現できそうもないことなのですが、志は高く持ちたいと思っています。ソプラノで歌われる言葉はラテン語の言諺から選んでいます。もちろん表現したかったこと(それは言わずもがな)に沿った言葉、あるいは感じさせる言葉を選んでいます。後半に表れるコラールはバッハ作曲の「マタイ受難曲第62番」からの引用です。このシンフォニーを書こうと考えた時から通奏低音のように頭の中で流れていました。

最後に、「2.Air」は鍵盤打楽器が大気の流れのように止め処なく、くり返されます。少し抽象的な表現をすると「時間の進行を拒否した」ような佇まいです。5年前に作曲し大方のオーケストレーションも出来ていたのですが、そこから進まない。何度も書き直しをしているのですが、全くフォームを変えようとしない。そこで気がついた、このままでいい!そういう曲なんだと。だからあと2~3日で完成します。締め切り力!で(笑)

タイトルの「THE EAST LAND」は、「東の国つまり日本」であり、その日本の中の東の国は、「東北地方」を指します。もちろん社会的な事象を表現しようと思って作曲した訳ではありません。ありませんが、あれから5年、本質は何も変わっていない、我々はどこに行くのだろうか?という思いはあります。それでも生きる勇気と力を表現したい。世界のカオス(混沌)の中でも自分を見失わない日本人であってほしいという思いもあります。奇しくも、5年前に作り出した楽曲を、この夏皆さんに聴いていただくということは、あのときから「あらかじめ予定されていたこと」だったのかもしれません。

ちょっと書きすぎました。聞き手を誘導するような言葉は避けるべきです。上記のことを気にせず、軽く聴ける楽曲だとは思いませんが、ただただ聴いて感じて楽しんでいただけると幸いです。

久石譲

*セリー:音列のこと。特に十二音技法においては、すべての音を1回ずつ用いて構成する。

(楽曲解説:久石譲 ~「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2016」コンサート・パンフレットより)

 

Summer

どこか遠くで暮らしているという母親に会うため、お小遣いを握りしめて家を飛び出した小学3年生の正男と、正男の旅に同行することになったチンピラ・菊次郎の心の交流を描いた、北野武監督作品『菊次郎の夏』のメインテーマ。ピツィカート奏法の弦楽器がテーマを導入した後、久石のピアノ・ソロが軽やかにテーマを演奏する。ミニマル+メロディーという、久石の音楽の2つの大きな特長を凝縮して表現した楽曲である。

 

Life is

エリエールのブランドテーマ曲。本公演で初披露される「Life is」は、軽やかなメロディーが”Life”のように、やさしく、そして力強く躍動する。

 

Dream More

サントリー「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム」のCMテーマ。久石は作曲の狙いについて「ノスタルジックで感傷的なメロディ」を「いろいろな味わいのする多重奏」に仕上げたと語っている。ピアノ、木管、弦をはじめとする、オーケストラのさまざまな楽器の味わいによって奏でられる「多重奏」が聴きどころ。

 

Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE

宮崎駿監督が構想16年、製作日数3年を費やして完成された『もののけ姫』から。タタリ神によって死の呪いをかけられた青年アシタカは、呪いを解くために西の地に向かい、タタラ場の村に辿り着く。そこでアシタカが見たものは、エボシ御前が率いる村人たちが鉄を鋳造するため、神々の森の自然を破壊している姿だった。そしてアシタカは、森を守るためにタタラ場を襲う”もののけ姫”サンの存在を知る。サンと心を通わせていくうち、アシタカは人間と森が共生できる道が存在しないのか、苦悩し始める。

本日世界初演される「Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE」は、昨年初演された「Symphonic Poem NAUSICCÄ 2015」に続き、宮崎監督作品の音楽を交響組曲化していくプロジェクトの第2弾。楽曲構成は次の通り。まず、アシタカが登場するオープニング場面の「アシタカせっ記」。アシタカがタタリ神と死闘を繰り広げる場面の「TA・TA・RI・GAMI」。大カモシカのヤックルに跨ったアシタカが、エミシの村から西の地に向かう場面の「旅立ち」(ここで「もののけ姫」のメロディーが初めて登場する)。負傷した村人を背負って森の中を進むアシタカが、森の精霊コダマと遭遇する場面の「コダマ達」。傷ついたアシタカを森のシシ神に癒やしてもらうため、サンがアシタカをシシ神のもとに連れて行く場面の「シシ神の森」。サンの介抱によって体力を回復したアシタカが、人間と森の共生をめぐり、犬神のモロの君と諍う場面で流れる主題歌「もののけ姫」(本日は、ソプラノ歌手によって歌われる)。エボシ御前とサンの争いを仲裁したアシタカが、自ら負った瀕死の重症を顧みず、サンを背負って森に向かう場面の「レクイエム」。そして、久石のピアノ・ソロが登場する「アシタカとサン」は、シシ神の消えた森に緑がよみがえり、アシタカとサンが互いの世界で生きていくことを誓い合うラストの音楽である。

 

Castle in the Sky

宮崎駿監督作品『天空の城ラピュタ』から。青白く光る謎の飛行石を持った少女シータと、空から落ちてきた彼女を助ける少年パズー。空中海賊ドーラ一家やムスカ大佐率いる政府特殊機関らの追手をかわし、シータとパズーは伝説の空中都市ラピュタに向かう。本日演奏されるヴァージョンでは、トランペットがコンチェルティーノ(小さな協奏曲)のように活躍する。最初に登場するのは、劇中でパズーが起床ラッパを吹く場面の「ハトと少年」。続いてメインテーマ「君をのせて」の部分となり、トランペットが技巧をこらした変奏を披露する。

 

Symphonic Variation “Merry-go-round”

宮崎駿監督作品『ハウルの動く城』から。荒地の魔女の呪いによって、90歳の老婆に姿を変えられてしまった帽子屋の少女ソフィー。家出したソフィーは、人間の心臓を食べると噂される魔法使いハウルの動く城に住み込みながら、ハウルに淡い恋心を抱き始める。本日演奏される「Symphonic Variation “Merry-go-round”」は、物語の中で形を変えながら何度も登場するメインテーマのワルツ「人生のメリーゴーランド」を変奏主題に見立て、オーケストラのための変奏曲としてまとめたもの。サントラ盤収録曲との対応で楽曲構成を記すと、最初に久石のピアノ・ソロが「人生のメリーゴーランド」の主題を導入する「オープニング」。ハウルとソフィーが初めて出会う場面の「空中散歩」。90歳になったソフィーが家出する場面の「さすらいのソフィー」。城の家政婦となったソフィーが大掃除を始める場面の「大掃除」。ソフィーが城の隙間に挟まったカカシのカブを引っ張りだす場面の「星の湖(うみ)へ」。ソフィーがハウルの代理として王宮に向かう場面の「虚栄と友情」。ハウルを救うため、ソフィーが火の悪魔カルシファーを焚きつける場面の「ソフィーの城」。そして、久石のピアノ・ソロで「人生のメリーゴーランド」のワルツが再現し、曲が華やかに締め括られる。

(楽曲解説:前島秀国 ~「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2016」コンサート・パンフレットより)

 

 

W.D.O. -3年間の歩み-

2004年夏、ジャンルにとらわれない魅力ある作品を演奏・紹介していくオーケストラとして結成された、久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)。いわゆる軽音楽を演奏するポップス・オーケストラではない。久石自身の言葉を借りれば「スペクタクル」、つまり「100人の音楽家が命がけで演奏する時、PA(スピーカー)を使ったロック・コンサートでも敵わない迫力」を伝えるオーケストラである。その魅力を存分に発揮するため、W.D.O.は結成当初から、久石自身の楽曲、それに久石が自らアレンジを手がけた作品を数多く演奏してきた。映画音楽、ジャズ、ミュージカル、プログレッシヴ・ロック、それにクラシックの有名曲。毎回ひとつのテーマを設定しながら、W.D.O.は厳選された楽曲を迫力あるオーケストラ・サウンドで送り届けてきた。

 

W.D.O.2014

WDO 2014 表紙

2014年夏、すなわちW.D.O.結成から10年を迎えた記念の年、3年間の充電期間を経たW.D.O.は再び活動を開始した。これまで以上に久石自身の楽曲が大きな比重を占めるようになり、演奏プログラムに込められたテーマ自体も、最初の10年とは方向性が大きく変わってきた。

「鎮魂のとき」をテーマにしたW.D.O.2014では、久石が前年に手がけた映画音楽3本が一挙に披露された。通常のオーケストラ曲では用いられることのない独奏楽器を巧みに用いた《風立ちぬ 第2組曲》と、《小さいおうち》。色彩豊かなオーケストラのパレットを思う存分活かしきった交響幻想曲《かぐや姫の物語》(世界初演)。それらに加え、コンチェルティーノ(小さな協奏曲)のような雰囲気をたたえた《ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」》と、クラシカルな装いで新たな魅力を獲得した《Kiki’s Delivery Service》。作曲家・久石の”いま”を伝えながら、オーケストラの魔術師・久石の魅力をあますところなく盛り込んだ、これら5つの楽曲の演奏は、アルバム『WORKS IV』で聴くことが出来る。

もうひとつ、W.D.O.2014では今までになかった新たな試みとして、不協和音で書かれた現代音楽がプログラムの中で初めて演奏された。ペンデレツキ作曲の《広島の犠牲者に捧げる哀歌》。演奏時間こそ9分足らずと短いが、通常のクラシック・コンサートでもなかなか演奏されない楽曲である。新生W.D.O.の志の高さを象徴する選曲だったと言えるだろう。

 

W.D.O.2015

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2015

翌年、「祈りのとき」をテーマに掲げたW.D.O.2015では、2007年以来となる大掛かりな全国ツアー(5都市6公演)を開催。2015年8月6日、すなわち原爆投下70年の年の当日に広島公演を行った点でも、異色のコンサート・ツアーとなった。

それまでのW.D.O.公演では、オープニングの楽曲として、W.D.O.の壮大なテーマ曲《World Dreams》を演奏するか、あるいはスケールの大きい楽曲でコンサートを開始するのが、なかば慣例となっていた。しかし、W.D.O.2015はその慣例を覆し、久石のピアノ、弦楽合奏、チューブラー・ベルズという切り詰めた編成で書かれた《祈りのうた》をプログラム冒頭で披露。「祈りのとき」というテーマにふさわしい深い感銘を聴衆に与えた。続いて演奏されたのは、声楽と管弦楽のための《The End of the World》と、「この世の果てまで」の邦題で知られるヴォーカル・ナンバーを久石がリコンポーズした《The End of the World》(2曲は切れ目なく演奏された)。現代の音楽とヴォーカル・ナンバーが違和感なく繋がった《The End of the World》の演奏は、ジャンルを問わず魅力ある作品を演奏・紹介していくW.D.O.の特長をそのまま表していた。

W.D.O.2015のプログラム後半では、宮崎駿監督作品の音楽を交響組曲化していくプロジェクトの第1弾として、《Symphonic Poem NAUSICCÄ 2015》が世界初演された。過去に久石が発表した『風の谷のナウシカ』の交響詩(1997年版と2008年版)を集大成し、『ナウシカ』の重要な楽曲がすべて網羅された画期的なヴァージョンである。さらに《紅の豚》から2曲と、2015年の新作《Dream More》の世界初演がプログラムに花を添え、W.D.O.2015はかつてない豪華なコンサートとなった。アンコール最終曲の《World Dreams》に至るまで、全体がひとつのトータル・コンセプトで貫かれたW.D.O.2015の全容は、演奏曲をすべて収録した久石初の2枚組アルバム『The End of the World』で堪能することが出来る。

 

W.D.O.2016

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2016 パンフレット WDO 1

「再生」をテーマにした今回のW.D.O.2016は、「鎮魂のとき」「祈りのとき」という過去2回のテーマを引き継いだ、いわば3部作の最終章的な意味合いを持つコンサートである。全国9都市10公演という、かつてない大規模なスケールでのツアー開催。2008年の「久石譲 in 武道館」以来となる、W.D.O.でのオール久石プログラムの演奏。3年間の最終章を飾るべく、久石が新たに書き下ろした新作《THE EAST LAND SYMPHONY》の世界初演。そして、これまでW.D.O.の夢でもあった、初の海外公演(台湾)の実現。今回の公演が、2014年から始まった新生W.D.O.の集大成になることは間違いない。

2004年の結成から12年を迎える2016年夏、久石譲とW.D.O.はさらなる飛躍を目指し、大きく羽ばたこうとしている。

前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)

(W.D.O.3年間の歩み ~「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2016」コンサート・パンフレットより)

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2016 パンフレット WDO 2

 

全12ページに及ぶ公式ツアー・パンフレットです。

今年も各会場ともにロビー販売コーナーは開演前・休憩中・終演後も人だかり。会場によっては当日分パンフレット売切となったところもあるほどです。またツアー開始前日に発売された久石譲待望の新刊『音楽する日乗』。こちらを手にとっている方も多かったですね。

久石譲 音楽する日乗

Book. 久石譲 『音楽する日乗』

 

 

楽曲解説で、充分にコンサートの内容は伝わると思います。

補足程度に、感想や参考作品、アンコールもまじえてご紹介していきます。

 

THE EAST LAND SYMPHONY 【A・B】
多くを語るにおよびません。やはり一聴だけでこの約42分の大作に対して簡単に感想は言えないですね。良いとも悪いとも、好きとも嫌いとも。ただ作品を覆う緊張感はものすごいものがありました。上の久石譲本人による楽曲解説を噛みしめるしかないと思っています。それぞれの楽章についての感想も同じですが、「3.Tokyo Dance」の歌詞はパンフレットに掲載されています。コンサート後にゆっくり読んだら、たしかに現代の時流をとても風刺しているおもしろい歌詞です。例えば、マーラーは交響曲の中に世俗曲や民謡の要素を盛り込んでいる作品が多くあります。久石譲が西洋音楽/古典音楽に対峙するとき、”現代作曲家”として”日本の作曲家”として、ひとつの導き出した答え、それが「THE EAST LAND SYMPHONY」という作品なのかもしれません。『現代の音楽』として響かせた記念すべき大作です。

さて、この作品への安易な感想は控えたいのですが、ひとつだけ気になったことを書き留めておきます。

直近のオリジナル作品で思うことは以前にも書きましたが、それに加えてこの新作を聴いたときに、点と点がひとつ結ばれたような感覚になりました。それは”情感”です。音楽的に言うと、情感を作りだしている和声・コードとその進行です。作品のとっかかり・作風・コンセプトの従来からの変化を掘り下げたことがありますが、その延長線上ともいえます。

《TRI-AD》もフレーズや旋律はとてもキャッチーです。この作品の「4.Rhapsody in Trinity」も久石譲が”喜劇曲”と語っているとおりです。でもなぜか単純に明るいとか楽しいとか、それとは少し違う、つかみにくい多面的側面をもっています。一種それが世界観の広さ深さ、また俯瞰性を表現しているようにも思います。

《Sinfonia for Chamber Orchestra》《The End of The World》といった過去の久石譲オリジナル作品とは明らかに違う位置に存在している。気になって過去のインタビューを紐解いてみました。すると《シンフォニア》について久石譲本人はこのように語っています。「4度、5度の要素をどこまで発展させて音楽的な建築物を作るか~」「和声も4度、5度の進行をベースに~」。

ジブリ作品をはじめ久石譲たらしめているこの4度をベースにした和音やコード進行によって、独特の情感をうみだしています。明るくもあり切なくもありという。それがふんだんにではなくても《Sinfonia》などでは基本とされ顔をのぞかせていたことになります。

でも・・・?《TRI-AD》や《THE EAST LAND SYMPHONY》では、やはり作曲における手法や方法論が変わっているように思います。これ以上は語れる知識がないのでここでストップします。やみくもに分析したいわけでも、鬼の首をとったような気になりたいわけではなく、こういうところがもっとわかったらおもしろいだろうな!音楽の聴き方が豊かになるな!とただただ純粋に思っている心境です。

今後のオリジナル作品も含めって、もっと長い目で遠い将来、久石譲の2010年代作品を振り返ったときに、なにか見えてくるものがあるのかもしれません。

あっ、最後にひとつだけ。

久石譲新刊「音楽する日乗」(上記参照)のなかで、書き下ろしの特別対談が所収されています。ここでも久石譲の作曲コンセプトについて興味深く語られています。「《コントラバス協奏曲》の時は4度音程を基本として決めました」・・・うん、たしかに納得できる情感があるような。《TRI-AD》は3和音をベースに作らているし・・・《THE EAST LAND SYMPHONY》は・・・・? ぜひ書籍を読んでみてください!

うーん、クラシック音楽の3和音などの古典的な要素・・・3和音なら本来もっと明るい(長調)や暗い(短調)がはっきりするはず・・・でも久石譲の直近の作品には明快どころか俯瞰しているような末恐ろしさを感じ・・・モティーフもコードもシンプルなのに・・・ということはコードが展開していない?!あえて情感をもってしまうコード進行をおさえている?!楽器群やパートは3和音なんだけど、緻密なオーケストレーションでからみ合って音の響きが複雑になっている?!

・・・そんな迷宮にはまってしまいます。答えは遠い将来へ。

 

Summer 【A・B】
『メロディフォニー』(2010)にてロンドン交響楽団とのレコーディング録音、『空想美術館 2003 LIVE BEST』(2003)『THE BEST OF CINEMA MUSIC』(2011)にてLive録音がそれぞれ収録されている、同オーケストラ・ヴァージョンです。全体構成は同じですが、変化もありました。冒頭ピッツィカートがメロディを奏でたのち、久石譲によるピアノ演奏に入ります。本ヴァージョンは、ここでヴァイオリンがまずメロディを奏で、次の久石譲ピアノメロディへ流れ、そこからヴァイオリンの副旋律によってかけ合っていきます。従来以上に瑞々しさがまし、澄みわたる青い空と思い出切ない夏をたっぷり演出していました。冒頭のピッツィカートもアクセントがより強調されていたことも印象的です。今CDを聴きなおすと『空想美術館』のそれに近いような気がします。みんな大好きSummerも、実は貴重な初披露となった本公演ヴァージョンです。

[参考作品]
久石譲 『メロディフォニー』
『メロディフォニー Melodyphony』(2010)

久石譲 summer
特集》 久石譲 名曲「Summer」 CD/DVD/楽譜 特集

 

Life is 【A・B】
とてもクラシカルな軽やかな旋律、バロック・古典音楽のような清いシンプルさ。主題を木管や金管が奏であいながら、弦楽やパーカッションを含めて壮大になっていきます。とても清涼感のある佳曲です。これがCM曲でもないブランドイメージ曲ですから、贅沢の極みですね。

 

Dream More 【A・B】
W.D.O.2015で初披露され、そのヴァージョンが一年越しにCD化されています。全体構成はほぼ同じだったと思いますが、響きはよりゴージャスになっていました。メリハリの効いたオーケストレーションの修正がされていると思います。パーカッションや管楽器がより強調され、ソリッドに磨きのかかったシャープな輪郭ながらも、ダイナミックに進化していました。

[参考作品]
The End of the World LP A
『The End of the World』(2016)

 

Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE 【A】
スタジオジブリ作品の交響組曲化シリーズ第2弾です。まずは作品の軌跡を紐解きます。

2016年版
a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
c) 旅立ち
d) コダマ達
e) シシ神の森
f) もののけ姫 (vo)
g) レクイエム
h) アシタカとサン (vo)

 

『交響組曲 もののけ姫』(1998)
映画公開翌年、久石譲がチェコ・フィルハーモニー管弦楽団とともに完成させた作品。サウンドトラック盤の楽曲群を、映像やストーリーから解き放たれた音楽作品へ再構成した、もののけ姫交響組曲全8章です。今回の2016年版の原型ともいえるものです。あえて記すと、「もののけ姫」も「アシタカとサン」もフル・オーケストラによるインストゥルメンタル・ヴァージョンであり、2016年版 d)コダマ達 は、未収録楽曲でこのときには構成されていません。交響組曲もののけ姫歴史の始まりであり骨格をなす50分大作。
a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
c) 旅立ち
f) もののけ姫 (inst.)
e) シシ神の森
g) レクイエム
h) アシタカとサン (inst.)

久石譲 『交響組曲 もののけ姫』
『交響組曲 もののけ姫』(1998)

 

『WORKS II』(1999)
『交響組曲 もののけ姫』から4楽曲を選りすぐり、短縮なく忠実に再現したLiveヴァージョン。
a) アシタカせっ記
f) もののけ姫 (inst.)
b) TA・TA・RI・GAMI
h) アシタカとサン (inst.)

久石譲 『WORKS2』
『WORKS II Orchestra Nights』(1999)

 

『真夏の夜の悪夢』(2006)
W.D.O.一夜限りのスペシャルコンサートを収録したLiveヴァージョン。『交響組曲 もののけ姫』より3楽曲を抜粋再構成した《もののけ姫組曲》として約8分半の作品に。主題歌の旋律はヴァイオリンをフィーチャー。
a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
f) もののけ姫 (inst.)

久石譲 WDO 『真夏の夜の夢』
『真夏の夜の悪夢』(2006)

 

『久石譲 in 武道館』(2008)
『真夏の夜の悪夢』で披露した組曲構成をほぼ継承したLiveヴァージョン。主題歌が林正子さんのソプラノによって歌われました。3楽曲すべてに迫力のあるコーラスが編成されています。
a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
f) もののけ姫 (vo)
*a) ~ f) with Chorus

またアンコールに、合唱版が初披露され大きな話題となりました。
h) アシタカとサン (chorus)

久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ DVD
『久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ 』(2009)

 

『The Best of Cinema Music』(2011)
『久石譲 in 武道館』を継承した構成で、主題歌は英語詞によるヴォーカル・ヴァージョンが披露されています。合唱編成あり。東日本大震災のチャリティーコンサートを収めたLiveヴァージョンです。
a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
f) もののけ姫 (vo) English ver.
*a) ~ f) with Chorus

『久石譲 in 武道館』での記憶が甦る日本語合唱版も披露されました。
h) アシタカとサン (chorus)

久石譲 『THE BEST OF CINEMA MUSIC』
『THE BEST OF CINEMA MUSIC』(2011)

 

以上、《Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE》の軌跡をたどりました。

《Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE》2016年版
a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
c) 旅立ち
d) コダマ達
e) シシ神の森
f) もののけ姫 (vo)
g) レクイエム
h) アシタカとサン (vo)

2016年版では、f) もののけ姫 でのソプラノ歌手にくわえ、h) アシタカとサン においても久石譲によるピアノ演奏とソプラノ歌手による歌唱でフィナーレを迎えます。どちらも日本語詞で歌われ、h) アシタカとサンは『久石譲 in 武道館』(2008)の同歌詞(作詞:麻衣)です。d) コダマ達 は、これまでサウンドトラック盤のみに収録されていた楽曲で、太古の森をオーケストラによる弦楽ピッツィカート・木管・鍵盤打楽器・打楽器を中心に表現されていました(サウンドトラック盤はオーケストラ+シンセサイザープログラミング)。

a) アシタカせっ記のオープニングからすでに高揚感はピークに達し、b) TA・TA・RI・GAMIに象徴されるけたたましい金管と和太鼓の響きに圧倒され、久石譲ファンのなかでは秘めたる名曲として名高いc) 旅立ち もめでたく交響組曲に組み込まれました。e) シシ神の森では緊張感と威厳のある重厚さに、コントラバスなどの弓を弦に強くぶつけて発せられる効果音的演出。g) レクイエムは、『交響組曲 もののけ姫』(1998)収録の同曲が、あますところなく盛り込まれていました。曲後半はサウンドトラック盤にはない新たに築かれた世界観であり、それが2016年版に引き継がれたことは、もののけ姫の世界を一層壮大にしています。

久石譲が宮崎駿監督との約30年の歴史を経て、新たに取り組んでいるジブリ交響作品シリーズ。国内外からのニーズに応えるべく楽譜出版も並行される同企画は、まさに久石譲が未来へつなげる音楽と言えます。ジブリ作品は日本屈指のエンタテインメントであり、やはりそこには歌の持つ力が重要視されているようにも思います。聴かれつづけること、演奏されつづけること、そして歌い継がれること。久石譲が古典的オーケストラ編成に固執することなく、あらゆる独奏楽器・特殊奏法、そして歌による声や歌詞。音楽的素材を総動員することで、もうひとつのジブリ作品を築きあげる。豊かな表現、巧みなオーケストレーション、そして作品構成力。これは総決算とは決して言いたくない、今なお進化しつづける久石譲音楽です。

 

Castle in the Sky 【B】
ハリウッド映画音楽でも活躍するトランペット奏者ティム・モリソンが吹くことを想定してアレンジされたヴァージョンです。パズーのトランペットが少年・男らしさを感じるもうひとつのラピュタの世界観。ダイナミックで高揚感いっぱいにクライマックスを迎えます。

[参考作品]
久石譲 『W.D.O.』 DVD
『W.D.O.』(2006)

 

Symphonic Variation “Merry-go-round” 【B】
《Summer》《もののけ姫》しかりこの作品しかり、久石譲の指揮とピアノ演奏といういわゆる”弾き振り”を目の当たりにすると感嘆してしまいます。『久石譲 in 武道館』(2008)『THE BEST OF CINEMA MUSIC』(2011)では、「人生のメリーゴーランド」+「CAVE OF MIND」(サントラ楽曲名「星をのんだ少年」)という組曲版が披露されていますが、こちらはその原型といえる2005年版です。

[参考作品]
久石譲 『WORKS3』
『WORKS III』(2005)

 

 

—–アンコール—–

World Dreams 【A・B】
この楽曲にかぎらず、W.D.O.2016の演奏は圧巻でした。貫禄のひと言です。研ぎ澄まされた技術で精巧なアンサンブルを聴かせ、悠々とした大きな包容力で会場全体を至福の音楽空間へ。W.D.O.2015ではアンコールにて合唱版が披露されましたが(東京・大阪公演)、今年はオリジナル版フル・オーケストラです。2004年の誕生から色褪せることのない堂々とした品格の《World Dreams》。そんななかでもCD盤から進化し、緻密なオーケストレーションの修正が重ねられいるのはコンサートでしか聴くことができません。

[参考作品]
久石譲 『WORLD DREAMS』
『WORLD DREAMS』(2004)

 

 

2016年の今年上半期だけでも、多種多彩なコンサートを繰り広げている久石譲。その数なんと6企画20公演です(W.D.O.2016まで)。今年下半期そして来年以降もコンサート活動から目が離せません。

久石譲コンサート 2015-

 

 

特集 久石譲 WDO 2016 感想

W.D.O.2016では、一個人コンサート・レポートから多面的・集合体への試みとして、コンサートに足を運んだみなさんの想いを記録していきました。せっかくの全国9都市10公演、たくさんの声が集まるいい機会だと思い、各公演会場のコンサート前・コンサート後ツイッターに放たれた言葉たちです。

どんな想いでコンサート当日を迎えたんだろう?

コンサートを体験して何を感じたんだろう?

ひとりひとりのシチュエーションとライフスタイルのなかで、コンサートを通してひとつ共感する喜び、そのパワーを感じます。日々のツイートのなかで、埋もれ流れてしまう言葉や想いを、どうしても”その瞬間のエネルギー”として封じこめたく記録させてもらいました。

あの日の大切な思い出に、次回は行きたいという想いに、そして未来の人たちがきっとうらやましがる音楽遺産に。『久石譲のコンサートを体感できる同じ時代に生きる喜び幸せ』は現代聴衆の特権です。

特集》 「みんなのW.D.O. 2016 Twitter編」~コンサートへの想い~

 

 

今年のW.D.O.2016コンサート・レポートでした。

コンサートに関する資料・感想などのすべてをこのレポートにまとめたかったので、すっかり長くなってしまいました。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

次回は、W.D.O.2016公演がTV放映されたとき、CD化されたとき、あわよくばBD&DVD化されたときなどに、また新しい発見ができて、そこから想い感じることができたらなと思っています。

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2016 パンフレット WDO 1

カテゴリーBlog

コメントする/To Comment