Blog. 「NCAC Magazine Opus.4」(長野市芸術館) 久石譲 インタビュー内容

Posted on 2017/1/11

長野市芸術館 広報誌 「NCAC Magazine Opus.4」(2016年12月15日発行)にて、久石譲インタビューが掲載されています。巻頭2ページにわたって、「ナガノ・チェンバー・オーケストラ ベートーヴェン・シンフォニー・ツィクルス」について語られています。

定期演奏会のプログラムについて、ナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)が追求するベートーヴェンとは、第1-2回公演を振り返って。そして2月に迫った第3回公演に向けて。読み応えあるだけでなく、メディアを通して語ることが少ないだけに、久石譲のダイレクトなメッセージを受けとれる貴重なインタビューです。

 

作曲当時の編成で ロックのようなベートーヴェンを!
~ナガノ・チェンバー・オーケストラの比類ない魅力

文:柴田克彦(音楽ライター)

クラシックの最高峰を軸にしたかつてないプログラミング

長野市芸術館オープニング・シリーズの柱ともいうべき「ナガノ・チェンバー・オーケストラ ベートーヴェン・シンフォニー・ツィクルス」の第3回の公演が、2月に開催される。クラシック音楽の金字塔であるベートーヴェンの9曲の交響曲を、2年半・全7回で演奏するのがこのシリーズ。まずは、今なぜベートー ヴェンなのか?を、ツィクルスの指揮者である当ホールの芸術監督・久石譲の口から語ってもらおう。

「ベートーヴェンはやはりクラシック音楽の最高峰。何をどう頑張っても最後はここに行き着くんです。別の音楽を何回か経験した後に挑む方法もありますが、最初にベートーヴェンの交響曲全曲演奏を経験し、あるときにまた挑戦すればいい — 僕はそう考えました。演奏者もベートーヴェンをやるとなれば気持ちが違いますし、新たにスタートしたナガノ・チェンバー・オーケストラでも、メンバーの結束の強さが変わってきます。これはとても重要なことだと思っています」。

大きな特徴は、毎回「現代作品」がカップリングされている点。そこには、”作曲家”久石譲の明確な意志が示されている。

「現代に作られた曲と古典的な音楽を組み合わせるのが、僕の基本的な考え方。これは長野でも変わりません。クラシック音楽は、ほっておくと古いものばかり演奏されてしまいます。しかしそれでは古典芸能になってしまう。そうしないための唯一の方法は、今日作られている作品を演奏して、未来に繋げていくことです。また自分が一生懸命取り組んでいる音楽を、皆に聴いて頂きたいとの思いもあります。多くの現代音楽は、一部のファンだけを集めた特殊なコンサートで演奏されていて、普通のクラシック好きには届いていませ ん。今我々が生活している世界の動きの中で作られている作品を、理屈抜きに感じる意味においても、通常のコンサートで必ず現代曲を演奏すべきだと考えています」。

清新なアプローチと 類のない豪華メンバー

2016年7月に行われた第1回(第2回も翌日に開催)の公演を聴いて、生気に充ちた演奏に感銘を受けた。プログラムは、前半がヴィヴァルディ(久石譲編曲)の「ラ・フォリア」 とグレツキの「あるポルカのための小レクイエム」、後半がベートーヴェンの交響曲第1番という、見たことのない組み合わせ。これ自体がすこぶる新鮮だ。「ラ・フォリア」のソリストを長野市出身のメンバー3名が務めるのも、第1回の開幕に相応しい配慮。前半は普段聴く機会のない、しかしそれでいて明快な音楽が、シリアスかつ優しく耳に届けられる。後半は、小綺麗に整った模範的な演奏ではなく、各奏者の表現意欲が束になって前進するような、ビート感やライヴ感のあるベートーヴェ ン。オーボエをはじめとする各楽器のソロも表情豊かで、メインに置かれることの少ない第1番が、エネルギーと躍動感に溢れた力作であることを再認識させられた。

このベートーヴェン演奏には、久石の音楽観が強く反映されている。

「我々の演奏は、日本の人たちが通常やっ ているベートーヴェンではないんですよ。アプ ローチは完全にロックです。さらに言うとベートーヴェンが初演したときの形態でもあります。現代のオーケストラは、ワーグナー以来の巨大化したスタイルであり、ドイツ音楽は重く深いものだと思われています。しかしベートーヴェンが初演した頃は、ナガノ・チェンバー・オーケストラくらいの編成なんです。巨大なオーケストラが戦艦やダンプカーだとすれば、ナガノ・チェンバー・オーケストラは、モーターボートやスポーツカー。小回りが効くし、ソリッドなわけです。我々は、ベートーヴェンが本来意図した編成を用いながら、現代の解釈で演奏します。なぜなら昔と違ってロックやポップスを聴いている今の奏者は、皆リズムがいいからです。そのリズムを前面に押し出した強い音楽をやれば、物凄くエキサイティングなベートーヴェンになる。我々のアプローチはそういうことです」。

奏者たちもそれに応えている。

「何十回もやって慣れてきたスタイルと全く違うので、メンバーも興奮していますよ。別に特別な細工をしたわけではありません。先に申し上げたように、編成はオリジナルに近づけて、リズムなどは現代的な解釈を採用しただけです。皆が色々な音楽を聴いている今は、その感覚で捉えなかったら、ベートーヴェンをやる意味はないと思うのです。ですから本当に、だまされたと思って一度聴きに来てくださ い」。

ナガノ・チェンバー・オーケストラは、何しろメンバーが素晴らしい。第1、2回に続いて参加する主な顔ぶれをみても、コンサートマスターの近藤薫(東京フィル・コンサートマスター)をはじめ、ヴァイオリンの遠藤香奈子(都響首席)、水鳥路(東京フィル首席)、ヴィオラの中村洋乃理(N響次席)、加藤大輔(東京フィル副首席)、チェロの渡邉辰紀(東京フィル首席)、向井航(関西フィル特別契約首席)、コントラバスの弊隆太郎(シュトゥットガルト放送響)、オーボエの荒絵理子(東響首席)、ファゴットの福士マリ子(東響首席)、ホルンの福川伸陽(N響首席)、日比野美穂(ドレスデン国立歌劇場管)、トランペットの長谷川智之(N響)、ティンパニの岡田全弘(読響首席)等々、各楽器屈指の名手が目白押し。これに今回初登場となるフルートの荒川洋(新日本フィル首席)、ファゴットのチェ・ヨンジン(東京フィル首席)、ホルンの豊田美加(神奈川フィル首席)などを含めて、著名オーケストラの首席クラスの奏者がズラリと顔を揃え、海外一流楽団からも参加し、フリーの名手や長野県出身者も複数いる。しかも若い世代の実力者が中心を成しており、気力と意欲に充ちた奏者たちが、久石の清新なアプローチのもとで生き生きとした音楽を聴かせてくれる。実はこのオーケストラ、東京でも聴くことができない唯一無二の豪華精鋭アンサンブルなのだ。

本格化の幕開けを告げる傑作が登場

第3回のプログラムの「現代曲」にあたる部分は、久石譲の新作の世界初演。これもまた豪華メンバーゆえに実現した。

「本当は別の曲を予定していたんです。でもオーケストラが物凄く優秀で、次世代を担う人たちが結集している。夏の第1、2回のコ ンサートも、メンバーたちが喜んでくれて、僕も嬉しかった。なので作曲家たる自分がこのオーケストラのために作品を書かないのは間違いだろうと思い、今回新作を作ることにしました」。

まだ内容は未定だが、「おそらく弦楽を主体にした作品になるだろう」との由。ナガノ・チェンバー・オーケストラのサウンドと技量を想定した初の作品だけに、大きな注目が集まる。

ベートーヴェンの交響曲は、第4番と第3番「英雄」。第4番は、「二人の巨人(第3番『英雄』と第5番『運命』)に挟まれた美しいギリシャの乙女」というシューマンの形容で知られる佳品にして、第1楽章の加速しながら主部へ移る手法や第2楽章の幻想的なロマンなど、古典的造作の中に新たな方向性を見出した意欲作である。それに楽曲の性格上、ナガノ・チェンバー・オーケストラの編成や持ち味が生きるのは間違いない。ここは若干隠れた名作の真髄を体感する好機となる であろう。

第3番「英雄(エロイカ)」は、かつてない巨大な構成で、交響曲の歴史を変えた作品。第2楽章の「葬送行進曲」は広くおなじみだし、第1楽章の大胆な開始と無限の推進力、第3楽章のホルン3本の効果(強力メンバーを揃えた今回の演奏は期待大!)、第4楽章の変奏曲の採用など、画期的要素が満載されている。しかもこの曲は、2014年10月の長野市芸術館開館記念プレイベントで、久石が新日本フィルを指揮して披露した演目でもある。彼は「『エロイカ』は、“ 崇高さと下世話”が同居しているので、大変なんですよ。本当に立体的に届けようと思ったら、正月も休め ないくらいです」と話すが、今回はそれを踏まえた久石のアプローチとナガノ・チェンバー・オーケストラの清新な熱演に期待がかかる。

久石は、こう語る。

「ナガノ・チェンバー・オーケストラを、”おらが街のオケ”と思ってもらえるよう、何とか努力したい。僕の理想は、駅前の飲み屋にチラシが置いてあって、『昨日行ってきたけど、これがいいんだよ』といった話が日常会話になること。自分の街がオーケストラを持っているのは自慢できることだし、『長野には善光寺プラスこういうのがある』といわれるためにも、『敷居は高くない。聴いたら絶対楽しい』ことをどんどん発信していきたいと思っています。それに ホールでの生の舞台には、格別な感動があります。とにかくこのオーケストラを、できる限り多くの人に聴いてもらいたいですね」。

ベートーヴェン中期“傑作の森”の幕開けを告げる名作を2曲聴ける今回は、ビギナーも音楽通も“おらが街のオーケストラ”に足を運 ぶ格好の機会だ。

(長野市芸術館広報誌「NCAC Magazine Opus.4」より 転載)

 

 

◆長野市芸術館 広報誌 Vol.4(NCAC Magazine)12月15日発行
※広報誌は長野市芸術館の公式サイト内からどなたでもご覧いただけます。
長野市芸術館公式サイト>>>
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