Blog. 久石譲 「ミュージック・フューチャー Vol.1」コンサート・レポート

Posted 2014/10/02

先日久石譲が新しいコンサート・シリーズ企画として始動した「ミュージック・フューチャー Vol.1」 が開催されました。これまでの久石譲作品コンサートとも、クラシック企画コンサートとも一線を画した新しい試みのコンサート企画です。ズバリ、現代音楽中心の構成です。

 

まずはセットリストから。

久石譲プレゼンツ「ミュージック・フューチャー vol.1」

[公演期間]
2014/9/29

[公演回数]
1公演(東京・よみうり大手町ホール)

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
ヴァイオリン:近藤薫 / 森岡聡 ヴィオラ:中村洋乃理 チェロ:向井航
マリンバ:神谷百子 / 和田光世
Future Orchestra 他

[曲目]
久石譲:弦楽四重奏 第1番 “Escher” ※世界初演
第1楽章「Encounter」
第2楽章「Phosphorescent Sea」
第3楽章「Metamorphosis」
第4楽章「Other World」
ヘンリク・グレツキ:あるポーランド女性(ポルカ)のための小レクイエム

– interval – (休憩)

久石譲:Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas ※世界初演
アルヴォ・ペルト:スンマ、弦楽四重奏のための
アルヴォ・ペルト:鏡の中の鏡
ニコ・ミューリー:Seeing is Believing

 

今回のコンサートではアンコールはなかったようですが、それでも通常のコンサートとは一味違うとても贅沢な空間だったようです。なによりもアンサンブルのレベルが高く、500席という小規模ホールにて至福の音楽を堪能できる内容。

久石譲作品である「弦楽四重奏 第1番 “Escher”」「Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas」久石譲ピアノ参加はなく、アンサンブル演奏となっています。

アルヴォ・ペルト「鏡の中の鏡」はピアノ&チェロ版での演奏、こちらは久石譲によるピアノです。

Future Orchestra(14名)と名づけられたこのためだけの楽器編成もあり、弦楽四重奏やマリンバだけでなく、小編成でありながらも、フルートやクラリネットなど管楽器も加わった大所帯なアコースティック・コンサート。

 

コンサート・プログラムには作曲家ニコ・ミューリーからのコメントも寄せられ、今回のコンサートとシリーズ化への期待が高まります。

なによりも、世界初演となった久石譲作品の2曲、今後ますますお披露目の機会が増えるのか、CD作品として発表されるのか、期待しながら目が離せません。

今回のコンサートレポートは、当日コンサートに行かれた方からの貴重な情報をもとにまとめさせていただきました。至福の音楽空間、うやらましい限りです。ありがとうございました。

 

 

【曲目解説】

久石譲(1950-)
弦楽四重奏曲第1番「Escher」(世界初演)
2012年に東京で開催された「フェルメール 光の王国展」のために久石が書き下ろした室内楽曲《Vermeer & Escher》から4曲を選び、弦楽四重奏曲として新たに構成・再作曲した作品。久石は作曲活動の初期から、画家マウリッツ・エッシャーのだまし絵〈錯視絵〉がもたらす錯視効果と、ミニマル特有のズレがもたらす錯聴効果の類似性に強い感心をいだき、「だまし絵」をタイトルとする楽曲を発表している。エッシャーの版画さながらに線的なラインで構成された弦楽四重奏が、久石ミニマルのエッセンスを凝縮して表現した作品。

第1楽章「Encounter」
冒頭のユニゾンで提示される主題を基にした、ユーモアにあふれるズレの遊戯。

第2楽章「Phosphorescent Sea」
グリッサンドの弦の波、それに夜のミステリアスな音楽で表現された「燐光を発する海」の情景。

第3楽章「Metamorphosis」
厳格かつ対位法的な音楽で表現される、ズレの「変容」の過程。

第4楽章「Other World」
13/8拍子という珍しい拍子を持ち、オクターヴを特徴とする反復音形が中心となる終楽章。オリジナル版では、全音階の人懐こいモティーフが静かに登場した後に、コーダを迎えるが、今回の弦楽四重奏版ではそのモティーフを中心とする新たなクライマックスが築き上げられるなど、大幅な改訂が加えられている。

 

Shaking Anxiety and Dreamy Globe  for 2 Marimbas (世界初演)
原曲は2台のギターのために書かれたHakujiギターフェスタ委嘱作《Shaking Anxiety and Dreamy Globe》(2012年8月19日、荘村清志と福田進一により初演)。曲名は、アメリカの詩人ラッセル・エドソン(1935-2014)が生命の宿る瞬間を表現した一節に由来する。躍動感あふれるミニマルの反復と複雑な変拍子を用いた原曲の構成を踏襲しながら、今回の新版ではマリンバの第1奏者がグロッケンシュピールを、第2奏者がヴィブラフォンを兼ねることで、より多彩な音色を獲得している。「dolente(悲しみを込めて)」と記された第208小節からのセクションでは、繊細かつ清麗な響きを奏でるグロッケンとヴィブラフォンがききどころ。

 

ヘンリク・グレツキ(1933-2010)
あるポーランド女性(ポルカ)のための小レクエイム(1993)
《交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」》の大ヒット後にグレツキが発表した作品だが、具体的に誰を追悼したレクイエム(鎮魂歌)なのか、作曲者はいかなる解説も残していない。ドイツ語の原題《Kleines Requiem Für eine Polka》に含まれる”eine Polka”は、民俗舞曲”ポルカ”とも、あるいは”1人のポーランド女性”とも解釈できるので、おそらくダブルミーニングを狙ったものと推測される。1993年6月12日、ラインベルト・デ・レーヴ指揮シェーンベルク・アンサンブルによりアムステルダムで初演。

第1楽章「Tranquillo」
弔鐘が厳かに響く中、ピアノとヴァイオリンが慰めに満ちた主題を導入する。突如として悲しみが絶頂に達し、再びピアノとヴァイオリンの静かな音楽に回帰する。

第2楽章「Allegro impetuoso-marcatissimo」
ピアノが打楽器的にリズムを刻む中、管弦楽が強迫的な主題を反復する。トランペットが悲痛な叫びをあげた後、クラリネット、ホルン、ピアノによる葬送音楽と弦楽のコーダが続く。

第3楽章「Allegro-deciso assai」
ブラックユーモアにあふれたポルカ風の舞曲。管弦楽が、何かにとり憑かれたように舞曲を踊り続ける。

第4楽章「Adagio cantabile」
弔鐘が再び鳴り、安堵の満ちた祈りの音楽で全曲が閉じられる。

 

アルヴォ・ペルト(1935-)
スンマ、弦楽四重奏のために(1977/1991)
「スンマ」」とは”大全”の意。もともとはラテン語の信仰宣言(クレド)を歌詞に用いた無伴奏混声四部合唱曲として作曲された。本日演奏されるのは、ペルトがクロノス・クァルテットのために編曲した弦楽四重奏版。参考までに、原曲の歌詞の冒頭部分の大意を掲載する。
「我は唯一の神を信ず/全能の父にして、天と地の創造主、見えるものと見えざるものすべての創造主を/我は唯一の主、イエス・キリストをを信ず/神のひとり子にして、世に先駆けて父よりお生まれになった主を/神の中の神、光の中の光、まことの神の中のまことの神/作られずしてお生まれになり、父なる神と一体となり/すべては主によりて作られた」(訳:前島秀国)

 

鏡の中の鏡(1978)
ペルトが故国エストニアから西側に亡命する直前に書いた作品。それまでの西洋音楽の調性システムと機能和声に頼らず、鏡の響きを思わせる三和音からメロディとハーモニーを定義し直したティンティナブリ様式(鈴鳴り様式、鐘鳴り様式)と呼ばれる作曲技法で作曲されている。原曲はヴァイオリンとピアノのための二重奏で、指揮者/ヴァイオリニストのウラディーミル・スピヴァコフに献呈された。聴く者の心を安らかにする三和音が微妙に色合いを変えながら、合わせ鏡のような無限のイメージを生み出していく。今回の演奏ではチェロとピアノの二重奏版を使用。

 

ニコ・ミューリー(1981-)
Seeing Is Believing(2007) (日本初演)
曲名は「百聞は一見に如かず」の意。通常の4弦ヴァイオリンより2弦多い、6弦エレクトリック・ヴァイオリンがループペダル(ループマシーン、ルーパー)をを使って自己の演奏音を反復再生するという特殊なテクニックが用いられている。作曲者自身の解説によれば、空に点々と浮かぶ星々を線をつないで星図を描いていくように、エレクトリック・ヴァイオリンがオーケストラという”空”の中で”星図”を描いていく作品で、1980年代に制作された科学教育ビデオの伴奏音楽を意識しながら作曲したという。2008年1月7日、トーマス・グールド(独奏ヴァイオリン)とニコラス・コロン指揮オーロラ・オーケストラによりロンドンにて初演。

TEXT:前島秀国 (サウンド&ヴィジュアル・ライター)

(【曲目解説】 ~コンサート・パンフレットより)

 

オリジナル作品「Vermeer & Escher」
久石譲 『フェルメール&エッシャー』

「Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas」
和訳「揺れ動く感情と夢の形態」
※コンサート内での久石譲コメントより

 

2014年夏に開催された「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」そのパンフレットに収められた久石譲インタビューを紹介します。

 

ABOUT
MUSIC FUTURE

日本を代表する作曲家、久石譲が最先端の現代の音楽を紹介するコンサートを仕掛ける。

「欧米に比べ、日本では現代の音楽が演奏される機会が極めて限られている。難解、取っつきにくいというイメージでとらえられてしまうのがネックとなっているようだが、本当にそうなのだろうか。現代に書かれた優れた音楽を紹介することで、そういった先入観を変えるきっっかけにしたい」

そんな思いが発端となった。「1回限りの公演ではなく、現代の音楽に触れられる場としてシリーズ化したい」と構想が膨らみ、その第1弾がついに実現する。

初回は久石自身のルーツと言えるミニマル音楽に焦点を合わせる。国立音楽大学時代、テリー・ライリーやスティーヴ・ライヒらが作り出した最小限の音楽を繰り返すミニマル音楽に、「何だこれは」と衝撃を受けた。1981年のデビュー・アルバム「MKWAJU」はこのスタイルを踏襲している。壮麗な映画音楽で大成功を収めた後も、「Shoot The Violist」(2000)や「Minima_Rhythm」(2009)など、ミニマル色の強いアルバムを出してきた。「折に触れて自分の原点を突き詰めたいという欲求が湧いてくる」のだという。

「現代音楽が生んだスタイルの中で、ミニマル音楽は、ポピュラーを含めその後の音楽に最も大きな影響を与えてきたと言えるんじゃないでしょうか。今回取り上げる作曲家にもはっきりその痕跡が刻まれている」

エストニアのアルヴォ・ペルトやポーランドのヘンリク・グレツキはミニマルとともに教会音楽からの影響が色濃い。「戻るべき伝統と精神的よりどころを持つ彼らヨーロッパの作曲家には羨望を覚える」と語る。ペルト作《鏡の中の鏡》では、久石がピアノを演奏する。両巨匠に加え、30代のニコ・ミューリーも取り上げる。「映画音楽もオペラも、ビョークと共演するなど、ジャンルの壁を感じさせない活動は共感できる。まさにポスト・クラシカルの新星だ」と評する。

自作曲も披露する。オランダの画家、マウリッツ・エッシャーのだまし絵をイメージした《弦楽四重奏曲 第1番「Escher」》と、「エモーショナルなミニマル音楽」だという《Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2Marimbas》で、いずれも世界初演となる。「この2曲を収録したアルバムも作りたい」と意欲を見せている。

(コンサートパンフレットより)

 

PROFILE of COMPOSERS
作曲家 プロフィール

ヘンリク・グレツキ(1933-2010)
ポーランド・チェルニツァ生まれ。小学校教師を勤めながらカトヴィツェ音楽院で作曲を学び、パリでシュトックハウゼンやブーレーズらの前衛音楽の影響を受ける。その後、ペンデレツキと並ぶポーランドきっての現代作曲家として頭角を現すが、1970年代に入ると伝統的な調整音楽に回帰し、反復語法を用いた宗教色の強い作品を作曲するようになった。15世紀ポーランドの哀歌とゲシュタポ収容所に書き残された言葉を歌詞に用いた《交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」》(1976)は、作曲から16年を経た1992年に突如として大ブレイク。全英ポップスチャート第6位、ビルボード・クラシック・チャート38週連続第1位にラインクインし、数百万枚とも言われる現代音楽史上空前のCDセールスを記録した。ペルト、ジョン・タヴナーらと共にホーリー・ミニマリズム(聖なるミニマリズム)を代表する作曲家のひとり。遺作は今年4月ロンドンで初演された、グレツキの反復音楽の集大成というべき《交響曲第4番「タンスマンのエピソード」》(2010)。

アルヴォ・ペルト(1935-)
エストニア・パイデ生まれ。エストニア放送のサウンド・プロデューサーを努めるかたわら、先鋭的な現代音楽を禁じられていた旧ソ連支配下のエストニアで前衛作品を発表。70年代に入ると作曲に行き詰まりを感じ、創作活動を中断してロシア正教に改宗。中世・ルネサンス期の聖歌や古楽を学びながら伝統に回帰し、70年代後半からティンティナブリ様式と呼ばれる作曲技法で西洋音楽のあり方を問い直す。80年代に入ると、スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスらのアメリカン・ミニマル・ミュージックと共通する反復語法が注目を集めるようになり、現在ではホーリー・ミニマリズムを代表する作曲家とみなされている。クラシック、オペラ、バレエ演奏のデータベースサイト「Backtrack.com」の統計によれば、ペルトは2013年に最も多く演奏された現役作曲家第1位(現役第2位はジェームズ・マクミラン、現役第3位はジョン・ウィリアムズ)にランクイン。過去の作曲家も含めた演奏回数ランキング(第1位モーツァルト、第2位ベートーヴェン、第3位バッハ)では、ペルトは第38位にランクインしている。

ニコ・ミューリー(1981-)
バーモント州生まれ。コロンビア大学とジュリアード音楽院で学び、ジョン・コリリアーノに作曲を師事した後、フィリップ・グラスのアシスタントを務める。2006年にはビョークから直接の依頼を受け、DVDシングル『Oceania』のピアノ・アレンジを担当。翌年には名プロデューサー、ヴァルケイル・シグルズソン率いるBedroom Communityレーベルからデビューアルバム『Speaks Volumes』を発表し、ポスト・クラシカルの新しい才能として一躍脚光を浴びる。2011年にはメトロポリタン・オペラから作曲委嘱を受けたオペラ《Two Boys》を初演するなど、いまアメリカで最も注目を集めている若手作曲家のひとり。映画音楽での代表作に『愛を読むひと』(2008)や『キル・ユア・ダーリン』(2013、DVD公開)など。ザ・ナショナル、オーラヴル・アルナイズ、ヒラリー・ハーンなど、同世代のアーティストとのコラボも多い。

(作曲家プロフィール ~コンサート・パンフレットより)

 

上記紹介した久石譲インタビューにもあるように、長い歴史の久石譲音楽活動において原点とも言えるミニマル・ミュージックは、年代ごとにその代表作を発表してきていることがわかります。

エンターテイメント音楽としての映画音楽やCM音楽のかたわら、自身のルーツや音楽性、そのバランスをとるかのように、芸術性の高いオリジナル作品(とりわけミニマル音楽も色濃く反映)を発表しています。

2015年の久石譲の音楽活動、その方向性を導くかのうような今企画。このミュージック・フューチャーが布石となるのでしょうか。新しい幕開けへと、確証はないですが勝手に胸踊っています。

 

最後に、YOMIURI ONLINEが掲載したコンサートレポートのご紹介と、コンサートの模様をおさめた貴重な写真です。

こちら ⇒ 久石譲がコンサート…“現代の音楽”ナビゲート 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

「ミュージック・フューチャー Vol.1」に関する久石譲関連ページや、アルヴォ・ペルト作品を動画視聴で紹介したページなどは、下記ご参照ください。

久石譲 ミュージック・フューチャー Vol.1

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