Disc. 久石譲 『ASIAN SYMPHONY』 *Unreleased

2006年5月10日開催「「名曲の旅・世界遺産コンサート」〜伝えよう地球の宝〜」のために書き下ろされ、同コンサートにて「Asian Crisis」がオーケストラ作品(二管編成)として初演。

2006年8月10日開催「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ サイコ・ホラーナイト 一日だけのスペシャルコンサート 真夏の夜の悪夢」においても演奏され、三管編成へと再構築されている。

2006年10月4日発売オリジナル・ソロアルバム『Asian X.T.C.』では、「Asian Crisis」他アジアをテーマとした楽曲が多数収録される。編成はバラネスク・カルテットやパーカッションなどによるアンサンブル構成。

同アルバム収録曲から選ばれたアジアン・ミニマル楽曲、2006年からの「アジアツアー2006」を経て、2007年3月5日開催「アジアオーケストラツアーファイナルコンサート」まで、オーケストラ作品として披露された4曲「Dawn of Asia」「Hurly-Burly」「Monkey Forest」「Asian Crisis」を総称して《アジア組曲》と呼ばれている。(=久石譲自身がそう名付けている)

 

時系列

「タイトルは『Asian Crisis』。この楽曲を作曲していた久石は実に楽しんで作曲していた。不協和音ギリギリの官能的な楽曲に細かい作業が続き、体力の限界にもかかわらず、終始笑顔が絶えなかった。去年は、「『D.E.A.D.』、今年はこれが出来たからもういいや」という声が出るくらい出来上がりに満足していた。「6分前後だけど、本当は12分前後の曲だな」とも言っていた。~(略)~”危機(Crisis)の中の希望”と久石がいっていた通り、核心に迫るような、官能的なイメージが頭をよぎる。」

(名曲の旅・世界遺産コンサート レポートより ファンクラブ会報 JOE CLUB 2006.6)

 

久石譲 『Asian X.T.C.』

陰side [Minimal side]
007. Asian Crisis
NHKの世界遺産コンサートに合わせ、フルオーケストラ楽曲として書き下ろされたものを、このアルバムのために再編曲した曲。久石譲は著作の中でフィリップ・グラスとマイケル・ナイマンをひきあいに出し「日本でミニマル・ミュージックのスタンスを取っていた僕もまた、映画音楽をつくっている。にもかかわらず、僕は現代クラシックでの作品を作ってきていない。もちろん僕の作ってきた音楽に、ミニマル的テイストはあちこちに入っている。だが、作品といえるものはない。今、作曲家として僕がやらなければならないテーマは何だろうかと思ったとき、そこが気になりだした。これは、今の僕のそうした心境を反映させた新しいスタイルの曲だ」と書いているが、その思いはまぎれもなくひとつの形になっている。

008. Hurly-Burly
4歳の頃からヴァイオリンを学び、国立音楽大学作曲科に入学した久石譲が最初に感化されたのが”ミニマル・ミュージック”で、出発点が現代音楽の作曲家だったということは、久石譲というアーティストの本質を理解する上では非常に重要なポイントだが、ミニマルをこれだけポップに表現できるアーティストはそう多くないだろう。6月7日に久石譲自身が主宰するレーベル、ワンダーランドレコードのベスト・セレクション『THE BEST COLLECTION』のライナーノーツにも書いたが、アメリカのフィリップ・グラス、イギリスのマイケル・ナイマンと久石譲は確実に横位置に並んでいる。

009. Monkey Forest
バリ島のウブドにあるストリートの名前をタイトルにした曲で、芸術家村としても知られるウブドがガムランの発祥地であることを考えると、様々なアイデアが練り込まれていることがよくわかる。バラネスク・カルテットとレコーディングすることを念頭に作られた曲で、このアルバムの中で、ボーナス・トラックとして収録された「Woman ~Next Stage~」を除いて一番最後にできたものだという。

010. Dawn of Asia
アルバム『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』や久石譲自らが監督した映画『Quartet』のサウンドトラックにも参加していたバラネスク・カルテットのヴァイオリンと二胡が同じメロディーを繰り返す曲で、官能的でスピード感のある仕上がりは、このアルバムのラストを見事にしめくくっている。わかりやすいメロディーと複雑なアンサンブルの融合のさせ方は久石譲の最も得意とするところであり、それは「僕の作曲家としての原点はミニマルであり、一方で僕を有名にしてくれた映画音楽では叙情的なメロディー作家であることを基本にした。ただそのいずれも決して新しい方法論ではない。全く別物の両者を融合することで、本当の意味でも久石独自の音楽を確立できると思う。ミニマル的な、わずか数小節の短いフレーズの中で、人の心を捉える旋律を表現できないか…」という言葉がフラッシュバックしてきた。

2006年8月 立川直樹

(解説 ~CDライナーノーツより)

久石譲 『 Asian X.T.C.』

 

 

2007/3/5 東京・サントリーホール with 新日本フィルハーモニー交響楽団

「ピアノソロコーナーの後はアルバム『Asian X.T.C』の中から。「Dawn of Asia」、続いて「Hurly-Burly」「Monkey Forest」と、勢いのある3曲が続きました。駆け上がるようなフレーズがたたみかけるように続くのが特徴的なこの「Dawn of Asia」、実はリハーサルで最も時間を割いた曲なのです。続いての「Hurly-Burly」は遊び心満載な楽曲です。オリジナルはサクソフォーンが印象的でしたが、オーケストラバージョンも更に力強く、題名のとおり大騒ぎを物語る作品になりました。弦楽器だけという編成で演奏された「Monkey Forest」、テンポも速いし、複雑なリズム。他の楽曲にも増してしっかりと指揮をしなくては、と、久石は本番前に構えていました。「Asian Crisis」、後半に行くにつれての緊張感は圧巻でしたね。」

(久石譲 アジアオーケストラツアー ファイナルコンサート レポートより ファンクラブ会報 JOE CLUB 2007.6)

 

 

Dawn of Asia
亜細亜の夜明けは神秘的だ。まるで山水画のようなモノトーンから赤や黄色や緑の剥き出しの陽中に変貌していく。その力の前に人間なんて小さいものだと気づく。いい日もあれば落ち込む日もある。善も悪もミジンコも宇宙もすべては僕の中にあり、外にある。また新しい夜明け(Dawn)が始まる。

Hurly-Burly
台北の雑踏はエナジーに満ち溢れている。富と貧、老若、病と健康、喜びや悲しみ、笑い泣き、怒鳴り合う人々の顔は生命そのものだ。目の前を50ccのバイクが通り過ぎた。そこにはX’masツリーのように6人の子供を乗せたお父さんの逞しい姿があった。

Monkey Forest
モンキーフォレスト通りを歩いていたとき天が裂けたとした思えないほどの雨が降り注いだ。軒先の濡れたみやげ品を何事もなかったかのように片付けている少女を見て僕は意味のない傘を捨てた。

Asian Crisis
長い間封印していたことがある。青春の蹄鉄の中で描いて来たものに立ち向かうほど僕は強くなれたのだろうか?

Blog. 「久石譲 アジアオーケストラツアー ファイナルコンサート」(2007) プログラムより

 

通称《アジア組曲》としては、CD作品化されていない。

久石譲の現代音楽作曲家としての個性が堪能できる壮大な作品だけに、ぜひとも世に送り出してもらいたい作品である。

 

 

【2017.8 追記】

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」にて「ASIAN SYMPHONY」として改訂され世界初演。

ASIAN SYMPHONY
1. Dawn of Asia
2. Hurly-Burly
3. Monkey Forest
4. Absolution
5. Asian Crisis

久石譲コメント

「ASIAN SYMPHONY」は2006年におこなったアジアツアーのときに初演した「アジア組曲」をもとに再構成したものです。新たに2017年公開の映画『花戦さ』のために書いた楽曲を加えて、全5楽章からなる約28分の作品になりました。一言でいうと「メロディアスなミニマル」ということになります。作曲時の上昇カーブを描くアジアのエネルギーへの憧れとロマンは、今回のリコンポーズで多少シリアスな現実として生まれ変わりました。その辺りは意図的ではないのですが、リアルな社会とリンクしています。

 

レビュー

2006年初演から長い沈黙をまもってきた大作、ついにその封印がとけた瞬間でした。久石譲解説に「メロディアスなミニマル」とあります。当時の言葉を補足引用すると「僕の作曲家としての原点はミニマルであり、一方で僕を有名にしてくれた映画音楽では叙情的なメロディー作家であることを基本にした。ただそのいずれも決して新しい方法論ではない。全く別物の両者を融合することで、本当の意味でも久石独自の音楽を確立できると思う。ミニマル的な、わずか数小節の短いフレーズの中で、人の心を捉える旋律を表現できないか…」(CD「Asian X.T.C.」ライナーノーツより)、久石譲が現代の作曲家として強い意志をもって創作した作品「アジア組曲」改め「ASIAN SYMPHONY」です。

めまぐるしいアジアの成長と魅惑を時代の風でかたちにした2006年版「アジア組曲」、それはまさに天井知らずのエネルギーの解放であり同時に先進国が辿ってきた発展後にある危機(Crisis)を警鐘したものとなっていました。それから11年、現代社会におけるアジア、世界におけるアジアは、今私たちがそれぞれ感じとっているすぐ隣にある現実です。

久石譲が「ASIAN SYMPHONY」への進化でリコンポーズしたもの。既出4楽曲は大きな音楽構成の変化はありません。それでも当時の「アジア組曲」の印象とは変わった空気を感じる。溢れ出るエネルギーのなかに無機質な表情で鼓動する怒涛のパーカッション群、パンチの効いた鋭利な管楽器群。躍動的で快活なのに決して手放しで笑ってはいない。そんなシリアスな変化を感じとったような気がします。

そしてもうひとつ注目すべきは、映画『花戦さ』のために書かれた音楽から「4. Absolution」として組み込まれた楽曲。映画サウンドトラック盤では「赦し」(Track-21)として収録されています。そっと手をさしのべられるような、言葉少なにそっと寄り添ってくれるような、慈愛に包まれた楽曲。悠々と感情たっぷりに歌うのではなく、弦楽の弦のすすりが聴こえる涙腺の解放。”罪を赦す”というように、過去の過ちをも包みこみ苦しまなくていい安らかな気持ちで生きていきなさい、そんな意味あいになるのかなあと思います。”相手を赦す・自らを赦す”、そして前向きに未来へ歩んでいく。映画音楽のために書き下ろされた、誤解をおそれずにいえば「エンターテインメントのための楽曲」がこうやって「久石譲オリジナル作品の一部」として組み込まれる。これはこれまでにはなかったことで、とても重要なポイントなのかもしれません。それだけに「4. Absolution / 赦し」という楽曲に対する久石譲の納得と確信を感じます。見方をかえれば、映画音楽の一楽曲としては時とともに流れてしまう可能性のあるものが、オリジナル作品の一楽章として新しい命を吹きまれた、そして未来へとつながっていくもうひとつの機会を得ることのできた楽曲。そう思いめぐらてみるとこの楽曲が加えられたことに深い感慨をおぼえます。

そして、赦しのあとの警鐘。同じ過ちをくり返す危機(Crisis)、今までになかった新しい危機(Crisis)。そんな現実を僕たちは力強く生きていかなければいけない。久石さんは、当時のインタビューで「危機(Crisis)の中の希望」というフレーズを口にしています。危機を警鐘するだけではない、その中から希望をつかんで切り拓いていく、そんなエネルギーを強く打ち響かせる作品です。

壮大な大作「ASIAN SYMPHONY」の「アジア組曲」からの変遷は、時系列でまとめていますので、ぜひ紐解いてみてください。どんな音楽が気になった人はCD作品「Asian X.T.C.」でアンサンブル版を聴いてみてください。2016年「THE EAST LAND SYMPHONY」につづき2017年「ASIAN SYMPHONY」。こうやって久石さんの”シンフォニー”がひとつでも多く着実に結晶化している喜びをひしひしとかみしめながら聴きいっていました。そして1年後には…CD化が実現してくれることを強く願っています。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

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