Disc. 久石譲 『この空の花 -長岡花火物語 オリジナル・サウンドトラック』

2012年5月20日 CD発売

2012年公開 映画「この空の花 -長岡花火物語」
監督:大林宣彦 主題曲:久石譲 主題歌:伊勢正三
挿入曲:パスカルズ サックス演奏:坂田明 映画音楽:山下康介
出演:松雪泰子 高嶋政宏 他

 

映画物語が、音楽で紡がれる。
學 草太郎(映画音楽作家)

01 これまでのように心地良く抒情的な音楽ではなく、何か心にゴツーンとくるような、拳を強く握りしめたような音楽を、という監督のオーダーに久石譲が応えて、黒人霊歌のようにシンプルなメロディーだが祈りを籠めた主題をボレロのように繰り返す、というコンセプトで作曲されたメインテーマがこれ。映画の冒頭部、メインタイトル部分に物語の序章として誘うように忍び込んでくる。一気に映画に吸い込まれていく痺れ感が魅力。久石譲が17年の空白を経て大林映画に復帰した、その緊張感が聴く者に至福感を醸造する。それがこの導入部の枝となっている。

02 映画全編が、冒頭で呈示された久石譲によるメインテーマの繰り返しである。それが大林映画によって発見され、久石譲が去った後の大林映画を17年に渡って担当して来た「天才少年」山下康介の名アレンジによって、見事な映画音楽として物語を紡いでゆく。物語のヒロイン、長崎原爆の被爆二世である天草の新聞記者・遠藤玲子が、ワンダーランド長岡を訪れ、様ざまな戦争についての出来事を知り、この里に迷い込んでゆく。その最初の一日目の不思議を描いた部分。山下康介は久石譲のメインテーマをモチーフに、押さえた表現で以降の展開に期待をつないでゆく。山下は実は近年、久石音楽のアレンジャーを勤めてもいたのである。監督と音楽家とのジョイント役として、完璧で見事な安定した滑り出しを音楽で造形し、音楽劇の演出として楽しんで戴きたい。

03 死者の霊がいまも目覚めて呼び掛けてくる。柿川の辺りを地元の新聞記者・井上和歌子に案内され、この川で一才半で死んだ少女から、いまは忘れられた戦争の物語に引き寄せられてゆく。そしてこの里を襲った中越地震、更には戊辰戦争の記憶が、玲子の現在は戦争に深く係っていると実感させてゆく。様ざまなモチーフがメインテーマの巧みな返送で綴られ、聴者の感情は揺さぶられ続ける。

04 東日本大震災から避難してきた少年との出逢い。若者の未来を望む明るさが光る。

05 古里の山の豊かな自然の恵みと、自然災害の中で生きる知恵。音楽は物語に溶け込み、意識に昇らぬまま感情を支える。映画音楽の古典的手法をじっくり味わって欲しい。

06 いよいよ物語の舞台は主題の中核へ。冒頭の密やかなアメリカ国歌から、敵機来襲の悲劇へと急速に落ちてゆく。以降、07、08と過去の記憶と現代の日常との間を激しく往き来する場面の中を音楽が重層的に結んでゆく。殊に09の坂田明演ずる片腕のサックス演奏と空襲の惨劇とのコラボレーションが生む劇的興奮は、思わず息を飲むエモーション。

10 花火による古里再生への祈りから、伝説の花火師・野瀬清治郎のシベリア抑留と、アムール川での追悼の花火打ち上げを描く11へ。

12 そして、かつて玲子が東京で共に若き日を過ごした片山健一が指導する、甦りの子どもたちが演じる戦争の劇。いまこの記憶を伝え切れば、次に起こるかも知れない戦争から未来を救えるか。間に戦争の記憶を挟んで、互いに見つめ合う玲子と健一。メインテーマが交叉する中を、音楽は強く思いを伝えてゆく。

13 山下清演じる石川浩司とパスカルズのメンバーが奏でる劇中曲。B-29から投下される焼夷弾が、過去を伝え未来を生きる子どもらの祈りによって、次つぎと美しいこの空の花、花火に変わってゆく。パスカルズのメンバーがこの映画にプレゼントした『花火』は、人間の祝祭を称え、未来の希望を紡ぎつつ、久石譲のテーマに結びついて14の大団円に帰する。めくるめく音楽的眩暈の時。

15 それぞれの最終章。別れは次なる出逢いの準備であるのか。久石譲のテーマが永遠の時を醸し出す。淡淡と、穏やかな日常に。

16 大林=伊勢の映画三作目のジョイントにして初のオリジナル。正やんはこの作詞に半年を苦吟した。監督と共に大人として、未来を生きる子らに過去を伝え、希望を手操り寄せようと。エンディングに歌われるこの歌は、そのまま久石譲のメインテーマと結び合って映画のエンドマークの無い未来へ向う。大林=久石=伊勢=山下の魅惑の最終章。

BONUS TRACKとして、17は正やんに代ってご自身で歌いながら、この映画の中を彷徨ってください。18は譲さんのプレゼントのメインテーマ・単独ヴァージョン。長岡花火「この空の花」の打ち上げ時に、永遠の平和を祈る。

(CDライナーノーツより)

 

主題曲 メインテーマとなる(1) (18)のみを担当している。ラムネのビー玉のような、故郷のよき夏を連想させるメロディーからはじまる。懐かしさと、子供の頃の夏のワクワク感、陽が沈むのが遅い長い夏を。ボレロのようなリズムが、その胸の鼓動を打つよう。

(18)ではこのメインテーマがより躍動的になっている。変拍子のリズムが、緩急よく、また間髪入れずに打ち上がっては花開く、さまざまな打ち上げ花火の風景を。ボレロのリズムで一体感を持ち、メインテーマが展開していく。弦の細かい高音の粒たちが、空に高く舞い上がっていく花火の瞬間を。

夏の名曲が『Summer』ならば、『この空の花』(1) (18)は、まさに“夏の花火”の名曲。隠れた渾身の1曲だと思う。

 

久石譲 『この空の花 -長岡花火物語 オリジナル・サウンドトラック』

1. この空の花(久石譲によるメインテーマ)
2.戦争からの手紙
3.柿川の少女の記憶
4.東日本から来た少年
5.古里に生きる
6.1945年8月1日の敵機襲来
7.想像力と生と死と
8.空襲と舞踏と母
9.焼夷弾をサックスで(坂田明 作・演奏)
10.自然災害と空に咲く花
11.祈りと再生の叙情詩
12.まだ戦争には間に合いますか
13.花火(パスカルズ 作・演奏)
14.世界中の爆弾を花火に
15.お別れは一度だけ
16.それは遠い夏(伊勢正三 作・歌)
&この空に祈りを(久石譲によるエンディング)
BONUS TRACK
17.それは遠い夏(歌唱用楽曲)
18.この空の花(久石譲 作曲)

#2~16,18 久石譲のモチーフによる山下庸介 作・編曲映画ヴァージョン
#17 伊勢正三のモチーフによる山下康介 編曲ヴァージョン

 

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