Disc. 久石譲 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック』

2009年11月18日 CD発売

2009年から2011年まで足掛け3年にわたって放送されたNHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」
原作は司馬遼太郎の同名小説「坂の上の雲」
2009年第1部 2010年第2部 2011年第3部 全13回
その3年間にわたって放送された全3部の音楽を担当。

 

司馬遼太郎の長編小説を原作とする大型企画ドラマ「坂の上の雲」。
日本のテレビ史上これまでにないスケールを目指しNHKが総力を挙げて取り組んでいるドラマであり、国内21都府県でのロケおよびスタジオ収録(2009年9月現在)、海外では、2次にわたるロシアロケ、中国、フランス、イギリス等でロケを実施。そして番組はいよいよ2009年11月より3年に亘って放送される。

ドラマ「坂の上の雲」の音楽を手掛けるのは日本を代表するコンポーザー久石譲。壮大なスケール感。希望に満ちた旋律。坂の上の雲に向かってひたすらに歩み続けた明治人の世界が鮮やかによみがえるオリジナル・サウンドトラック。

サラ・ブライトマンと久石譲。奇跡の初コラボレーションによるメインテーマ「Stand Alone」収録。

 

明治を生きた若者達の群像。坂の上を目指し、”凛として立つ”彼らを音楽で描く。
久石譲

今から十数年前に司馬遼太郎さんの著書を夢中で読み漁ったことがあります。いずれも名作でしたが、なかでも明治以降の日本を描いた『坂の上の雲』は、特に興味深く、この時代を生きた人々の純粋なエネルギーに心惹かれました。ドラマ化の話を聞いた時はすごく嬉しかったです。

映像のための音楽を制作する場合、いくつか方法があります。たとえば、エンターテイメント性の高いアクション映画だと、登場人物ごとにテーマ曲を作ることがあります。でも、司馬さんがこの作品で表現したかった精神世界や明治という時代の空気感を描くためには、個々の人間をクローズアップする手法ではニュアンスは伝わらない。それよりは時代に衝き動かされた若者達を群像としてとらえて、それをテーマに曲を書く方がいいと考えました。

明治は、近代日本において重要な時代です。若者を中心に長い鎖国から開放された人々は、驚くほど純粋で、素直に西洋に目を向けて世界の強国に追いつくためにひたむきに”坂の上”を目指していました。そのために西洋の文化も貪欲に取り入れようとしました。

音楽でいうと、当時はイギリスの教育を模倣し、教科書にはスコットランドやアイルランド民謡が多く載っています。その時に日本古来の文化を切り離そうとしたのは反省すべき点だとは思いますが、いずれにしても日本人が初めて西洋の音楽に触れた時代です。

『坂の上の雲』の音楽を制作するにあたり、その時代の高揚感を日本の五音階の世界観と西洋のモダンな和音の感覚を融合させながら描き出したいと考えました。そして敢えて協和音と不協和音がせめぎあう大人の音楽を目指しました。さらに音楽の手法として、僕の原点であるミニマル・ミュージックを随所で取り入れ、「激動」や「蹉跌」などでそれを前面に打ち出しています。

また、構想を練る段階でこれまでの「NHKスペシャルドラマ」の音楽にはない新しいチャレンジをしたいと考えました。そこから生まれたのが「Stand Alone」です。明日に向かって”凛として立つ”明治の人々の美しき姿を壮大なオーケストラの演奏だけではなく、普遍性のあるメロディの歌で伝えたいと思ったのです。そして、この歌を歌う最高のシンガーとしてクラシックとポップス両方の組成を持つサラ・ブライトマンさんに歌っていただきました。

このサウンドトラックには「Stand Alone」の4ヴァージョンが収録されています。サラさんの日本語の歌とヴーカリーズ、僕がピアノを弾いたボーナス・トラック、さらにオーケストラのインストゥルメンタル・ヴァージョンです。それぞれ違いを楽しんでいただけるかと思います。

今はさわやかな達成感とともに、「Stand Alone」がスタンダードとして長く歌い継がれていくことを望んでいます。

(2009年9月25日都内にて/取材・構成:服部のり子)

(CDライナーノーツより)

 

風が吹いた瞬間

もう正確な日付は覚えていないのだが、NHK交響楽団の演奏による録音を控えたある日のこと。久石譲さんから、何曲か音楽のデモが出来たとの連絡があり、演出家と音響効果のディレクターそして私の3人で、いささか緊張しながら久石さんの事務所へ向かった。そこは西麻布の一角にあり、六本木通りという日本でも有数の繁華な場所の近くにしては非常に閑静な住宅街の中で、もう日も暮れようとしている頃だった。

緊張していたというのは、映画音楽の第一人者のデモをその本人を前にして聞くということもあったのだが、事前の打ち合わせで、ドラマの登場人物に即した音楽は作らないと決めていたこともあって、一体どのようなプレゼンテーションになるのか予測がつかなかったからだ。例えばこのドラマで言えば、秋山真之のテーマだとか好古のテーマといったものは出来るだけ作らない。「坂の上の雲」の世界を構成するテーマを大掴みにして、そこからイメージする曲をひとつの作品として作ってゆく。打ち合わせで久石さんが提示したコンセプトはそういうことだったと思う。

予測がつかないまでも、「明治の青春」を感じさせる曲をいくつか聞けるのではないかという予想はあった。久石さんの周辺からもそんな情報が入っていたと思う。ドラマ全13本のうち初年度に放送する5本は、まさに「坂の上の雲」の「青春篇」というべきもので、生まれたばかりの「明治日本」という若い国の姿を主人公たちの青春像とが、折り重なるように描かれてゆく。その意味で青春をモチーフとした曲は重要だったし、久石さんもそういう曲から作るのではないかと想像した。

果たして、久石さんのワーキングスペースに通された私たちに渡されたリストには、「青春」や「旅立ち」といった曲名がある。そして、リストの最後には”Stand Alone”と記されていた。「???」。曲名からは何をモチーフとした曲なのかわからなかった。

その曲は美しい旋律で、デモの段階では英語の歌詞が乗っていた。大地に颯爽と立つ少年が風に吹かれている。その風は時に優しく、時に厳しく吹いているが、少年は空に輝く雲を見つめ、そこに向かって歩みを進めてゆく。そんなイメージが頭に浮かんだ。

聞き終わった瞬間、部屋の中に風が吹いた、本当に。そう感じるほど、感動していた。打ち合わせに来たはずが、最後には「久石譲コンサート」の聴衆になっていた。

そうした作品の数々が、外山雄三さん指揮によるNHK交響楽団の演奏や小山薫堂さんの歌詞、サラ・ブライトマンさんのヴォーカルという素晴しい援軍を得た。

みなさんの所にも、きっと気持ちの良い風が届けられることと思います。

NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」
チーフ・プロデューサー 藤澤浩一

(CDライナーノーツより)

 

 

この「オリジナル・サウンドトラック 1 」は第1部の楽曲を中心に構成されている。なんといっても、主題歌でありメインテーマの『Stand Alone』が名曲。本当に時代を越えて響き継がれていくべき名曲だと思う。この1曲だけでも、相当な原稿になってしまいそうなので、別のページに。

特集はこちら ⇒ Disc. 久石譲 『Stand Alone』 坂の上の雲 メインテーマ 全ヴァージョン紹介

第1部で歌っているのは、サラ・ブライトマン。(1)では、オーケストラをバックに日本語歌詞を丁寧に美しく歌い上げている。(7)では、ヴォカリーズ、つまり歌詞を伴わない母音のみによって歌う歌唱方法。(13)では、ピアノ伴奏のみに歌唱はヴォカリーズ。ピアノと歌の二つの才能が競演。(12)は、オーケストラのインストゥルメンタル。主にストリングスがメロディーを優雅に奏でる。

この「オリジナル・サウンドトラック 1」では、主題歌だけでなく、作品の世界観を象徴する楽曲として(2) (3) (5)。時代の変化を感じながら生き生きと進む若者を感じる、力強く活力に満ちた楽曲。

第1部はいわば「青春編」となっていて(制作サイド)、若い国の姿と主人公たちの青春像とが折り重なるように描かれている、それを感じさせる曲たちになっている。

(9)もまたメインテーマに引けをとらない美しい曲。(10)は全3部を通して随所に聴かれる緊迫感のある、映像に張りと重みを与える曲。この曲では原点であるミニマル・ミュージックも取り入れている。

第1部から第3部のすべてを通して、登場人物ごとにテーマ曲をつくる手法ではなく、その時代に生きた若者達を群像としてとらえてそれらにテーマ曲を書く手法となっている。

 

 

久石譲 『坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 1 』

1. Stand Alone /サラ・ブライトマン×久石 譲
2. 時代の風
3. 旅立ち
4. ふるさと ~松山~
5. 青春
6. 蹉跌(さてつ)
7. Stand Alone (Vocalise) /サラ・ブライトマン×久石 譲
8. 最後のサムライ
9. Human Love
10. 激動
11. 戦争の悲劇
12. Stand Alone for Orchestra
Bonus Track
13. Stand Alone with Piano /サラ・ブライトマン×久石 譲

音楽/久石譲
演奏/NHK交響楽団
指揮/外山雄三
歌/サラ・ブライトマン (M1,M7,Bonus Track)

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by 久石譲 (M1,M7,Bonus Track)

Recorded at NHK CR-509  Nemo Studios (M1.M7.Bonus Track)
Mixed at NHK CP-604 , CR-506  Nemo Studios (M1,M7,Bonus Track)

 

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