Info. 2024/09/06 久石譲、HarrisonParrott社(イギリス)とグローバル・マネジメント契約を締結

Posted on 2024/09/06

HarrisonParrottとのマネジメント契約のお知らせ

久石譲はこのたび、HarrisonParrott社(イギリス)とグローバル・マネジメント契約を締結いたしました。 “Info. 2024/09/06 久石譲、HarrisonParrott社(イギリス)とグローバル・マネジメント契約を締結” の続きを読む

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(10)~ネクストアップ~

Posted on 2024/08/20

最後は、これからです。今回改めて久石譲インタビュー・前島秀国氏解説に触れてからまた『君たちはどう生きるか』の音楽を聴き返してみましょう。きっと新しい聴こえ方がしてきます。これから先この映画音楽はどのような道を歩んでいくのでしょうか。誕生にも立ち会った、そしてこれからを一緒に見守りながら歩んでいけるファンは幸せものです。

 

 

久石:

「「ハウル」を書いたときの久石は間違いなく一生懸命書いていたんです。それと今の自分は同じ人間なんだけど、同じ作家じゃないんですよ。今あれと同じ曲を書こうとしても書けませんし、あれ風に書いてくれと言われても碌なものは書けないです。」

「今、自分はミニマルの作家でクラシックも指揮している。海外でツアーをするし、映画音楽も作る。その自分が考える正しい音楽、いいと思う音楽をしっかり書くしかない。それがたぶん一番誠実な作家の道だと思うんですよ。映画であろうと何であろうとそれを忘れちゃうと、注文をこなすだけの作家になっちゃう。」

 

「クラシックの世界ってちいさいんです。だからそこでばかり作品を作っていると人が喜ぶという実感が遠のいていく。だけどエンターテインメントばかりやっていたら、今度はいかに売れるかしか考えなくなる。作家としては両方が必要なんです。売れるためには今日的なニュアンスを勉強してでも入れなきゃいけない。年取ったら取ったほど意識的に入れなきゃいけない。エンタテインメントはそれを試す場所でもあるし、そこで身についたものを現代音楽やクラシックの作品の中でより深めてもいける。両側があるおかげで両方が上がっていく。」

 

「当時の一番最初にミニマリストだった自分が、今回は徹底してミニマルですべて曲を書けた。ミニマルの曲を書いた。だから40年かけて一番自分がやりたかったことが出来た、ということになります。」(出典:2024年1月30日公開/DVD映像特典収録 久石譲インタビュー動画より)

 

 

前島:

「大雑把に言えば、ミニマル・ミュージックとはひとつのフレーズやリズムや和音を繰り返しながら、それらを徐々に変化させ、聴き手にその「差異」を強く意識させることで、既存の音楽のあり方に疑問を投げかけるような音楽である。同じであると思っていたものが実は違う、常識であると思っていたことが実は違う。そうした疑問の投げかけにこそ、ミニマル・ミュージックを聴く意義が存在し、聴く楽しみが存在する。

『君たちはどう生きるか』という映画も、ある意味では同じである。青サギと思われていた鳥がサギ男であり、「上の世界」で老婆だったキリコが「下の世界」で若い働き手であるというように、この映画で描かれている「同一性」と「差異」のさまざまな例をあげていけば、キリがない。だからこそ、この映画の音楽がミニマル・ミュージックで書かなければいけなかった必然性が生まれてくる。ひとつのキャラクターに特定のメロディを記号的に与えていくような、エンタテインメント作品でおなじみの映画音楽のやり方では、この映画のユニークな特徴を埋もれさせてしまうからだ。」

 

「『君たちはどう生きるか』という映画が全編にわたって暗喩的・象徴的・多義的な表現がこめられている以上、リスナーは誰かの考察に頼ることなく、自分自身で久石の音楽が意味するところを考え、咀嚼し、味合うべきであるし、それがこの音楽に最もふさわしい鑑賞法ではないかと思う。楽曲解説は、あくまでも筆者という映画の一観客の拙い考察であって、作曲者自身の公式見解ではない。それどころか、久石の作曲意図と大きく食い違っている可能性も高いので、それをあらかじめお断りしておく。」

(引用ここまで)

 

 

前島秀国氏のLPライナーノーツは、アナログ盤ジャケットサイズの濃密な約1万字です。今回、当サイト楽曲解説に際して引用したのはその2,3割程も満たしません。全曲きれいに取り上げて解説したものではありませんが、スタジオジブリと久石譲の関係性と歴史を俯瞰するように綴られています。英文・日文のインターナショナル仕様です。ぜひレコードを手にとってみてください。

 

 

あれ、今回の久石譲はいつもと違う。初めてこの映画を観たときにそう思った人は決して少なくないと思います。現実世界と異世界をミニマルで書ききったことは、映画公開から時間を経過してこそ強く深くその凄さを実感しています。ミニマルで貫くことで時間の流れも空間も異なる二つの世界に均衡な存在感を与えています。ミニマル・ミュージックは、どこで始まってもいいしどこで終わってもいい、あるいは終わりすら持たなくてもいい。作品世界観の永遠性とも繋がってくると感じます。エンドロール最後に「おわり」のクレジットもない本作は、宮﨑駿物語の序章に過ぎないこともまた示唆しているのかもしれません。

映像も音楽も新しさに満ちた『君たちはどう生きるか』は、待ち望んだファンに感動だけではなく挑戦や勇気の心も芽生えさせてくれました。好きなジブリ作品を3つ聞いたら世代がわかる、そのくらい日本人はジブリ作品で育ってきた、親密に過ごしてきた大切な時期があると思います。この作品は世代を超えて一人一人の人生にどのくらいランクインしてくるのでしょうか。

 

久石譲は映画やCMのために書いた曲を演奏会用の音楽作品として再構築することにも積極的に取り組んできました。スタジオジブリとの長い歴史のなかで自身が音楽担当した長編映画は全て交響組曲化されています。そのプロジェクトは新旧ありますが発表順にこのようになります。『風の谷のナウシカ』(1997/2015年版)『もののけ姫』(1998/2016/2021年版)『千と千尋の神隠し』(2001/2018年版)『となりのトトロ』(2002)『ハウルの動く城』(2005)『風立ちぬ』(2014)『かぐや姫の物語』(2014)『天空の城ラピュタ』(2017)『魔女の宅急便』(2019)『紅の豚』(2022・未音源化)『崖の上のポニョ』(2023・未音源化)です。

さらには2017年から「Joe Hisaishi Symphonic Concert:Music from the Studio Ghibli of Hayao Miyazaki」の世界ツアーを展開しています。2008年武道館コンサートから継承進化させたジブリ・スクリーンコンサートです。そのパリ公演の模様はNHKでTV放送され反響を呼びました。そして、ドイツ・グラモフォンと専属契約を結んだ第1弾アルバム『A Symphonic Celebration』(2023)で待望の音源化を果たすことになります。あとは未だ実現していない日本凱旋公演を待つのみです。

宮﨑駿監督、高畑勲監督とのコラボレーションはプログラムの要望も高く、久石譲が指揮・ピアノを務める日本/海外公演と注目の的です。さらにジブリ演奏会の需要は高まるばかり、交響組曲の音源化と並行してオリジナル・スコア出版も進めています。映画が世界中に広まるのに合わせて音楽でもそのブランドを広げてきたスタジオジブリ×久石譲の一大プロジェクトは、今まさに歴史のど真ん中にいます。映画『君たちはどう生きるか』のピアノ曲や交響組曲がそのラインナップに加わることは歴史の必然と言えるでしょう。

究極のヒサイシズムがここにあります。久石譲にとって宮﨑駿監督は常に本気になれるところ、全力で向かって行けるところ、そう思います。

 

 

 

2023年8月7日スタジオジブリ公式ツイッターから投稿された動画と同じ、海外配給会社GKIDSから再投稿されたものです。「Ask me why」(2023年1月ピアノ・レコーディング風景)

 

 

ピアノ・レコーディング風景から「転生」(ピアノパート・オンリー)「白壁」「Ask me why」の一部を聴くことができます。

THE BOY AND THE HERON | Joe Hisaishi on the Piano (約1分)

from GKIDS Films Official YouTube

* same video posted on X(Twitter) Jan.27, 2024

 

 

オーケストラ・レコーディング風景から「最後のほほえみ」です。NHKドキュメンタリー番組で放送されたものよりも長尺です。

THE BOY AND THE HERON | Joe Hisaishi Conducts “The Last Smile”(約1分)

from GKIDS Films Official YouTube

* same video posted on X(Twitter) Feb.23, 2024

 

 

「Ask me why」をBGMに使用した『風の谷のナウシカ』から『君たちはどう生きるか』まで宮﨑駿監督作品ラインナップにもなっています。

THE BOY AND THE HERON | The Final Teaser (約1分半)

from GKIDS Films Official YouTube

* same video posted on X(Twitter) Nov 30, 2023

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(9)~眞人とヒミ・大伯父 ほか~

Posted on 2024/08/19

つづけて、アルバムを聴いてみましょう。

 

Track.
26. 眞人とヒミ

時空を超えた二人の触れ合いにそっと寄り添っている曲です。メロディの断片のような旋律は、ここではきれいに時間は進み流れることのない、ただ漂っているだけの空間、そんな異世界を暗示しているようにも聴こえてきます。ひとときの中で二人が感じる温かいぬくもりもまた伝わってきます。

 

Scene 01:26:05 / Track 26. 眞人とヒミ

 

Scene 01:26:25 / Track 26. 眞人とヒミ

 

 

Track.
30. 大伯父
33. 大伯父の思い
35. 大崩壊

この世界の天から地までを司るように高音域と低音域を同時に強く鳴り響かせるピアノが印象的です。そのハーモニーは神聖さや荘厳さをもって大伯父の大局観を見事に表現しています。弦楽と管楽の上から下へ連なる二音の連続は、トリルや特殊奏法を駆使しながら鋭く重層的に鳴っています。そこからは、稲妻や亀裂のような現象性から軋轢や歪みといった関係性までもを滲ませ現出させています。曲が進むごとにそのねじれは大きくなっていきます。

 

Scene 01:38:05 / Track 30. 大伯父

 

 

Track.
36. 最後のほほえみ

やさしく果てしなく広がっていく曲です。この曲もメロディの断片のようで、もしかしたら「眞人とヒミ」にアプローチや意図のつながりがあるのかもしれません。海のように大きく包み込むものを感じます。

 

Scene 01:49:55 / There is no music in this cut.

 

Scene 01:56:35 / Track 36. 最後のほほえみ

 

 

Track.
37. 地球儀 / 米津玄師

映画公開時から多くの活字や動画などで制作過程やエピソードは語られています。そちらにじっくり触れることをおすすめします。Disc.ページに関連リンクはまとめています。

この曲を初めて聴いたとき、言葉への比重が大きい曲だと思いました。曲は素朴でシンプルです。曲想も転調もリズムもアレンジもどこまでも凝ってドラマティックに仕立て上げられることは、これまでに発表された楽曲達から一目瞭然です。この曲はあえてそれをしなかった、削ぎ落としていって残ったものが結晶となって強く光っています。

Aメロは変拍子になっていますが、まるで手紙を読むようにセンテンスの間を感じます。込み上げてくる感情を抑えながらとつとつと読まれる手紙、駆け巡る走馬灯にひと呼吸おきながら一文一句読まれる大切な手紙。だから、リスナーもその行間をくみ取るようにいろいろなことが伝わってきます。静かにすっと心に入ってきます。

バグパイプを使用した理由は、エリザベス女王の国葬からきているとエピソードで語られています。昔からアイルランドによく旅行で訪れていた宮﨑監督にとってもケルティックなものへの馴染みは深いです。他方、『君たちはどう生きるか』で「影響を受けた本」としてクレジットされている「失われたものたちの本/ジョン・コナリー著」アイルランド作家です。とにもかくにも、宮﨑駿監督への生涯のリスペクトの意志が込められているようにバグパイプの音色は響いています。祝福の架け橋のようなピアノ・ブリッジも素敵です。

映画『海獣の子供』(2019)は音楽:久石譲、主題歌:米津玄師「海の幽霊」で共演しています。サウンドトラックと主題歌はそれぞれ独立してリリースされました。本作は、スタジオジブリ作品では恒例といえる主題歌までサウンドトラックに収録されています。

 

次回は、これからです。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(8)~追憶・陽動 ほか~

Posted on 2024/08/18

つづけて、アルバムを聴いてみましょう。

 

Track.
4. 追憶
9.静寂

および

Track.
24. 陽動

28. 巣穴
31. 隠密
32. 大王の行進

前島:

「実はこれら6つの楽曲に、本作の謎めいた象徴表現を読み解く重要な鍵が隠されていると、筆者は考えている。便宜的にa.とb.のふたつのグループに分けて分析していくと、まずa.の《追憶》と《静寂》は、いずれも眞人が自室のベッドで横たわっているシーンで流れてくる楽曲。2曲とも、同音反復を特徴とするミニマルなモティーフと静かな和音が交互に登場する形で始まる。物語の状況に沿って聴くならば、ミニマルなモティーフは外から眞人の様子を伺っている青サギの気配を、静かな和音は眞人の孤独な心情を代弁していると言えるかもしれない。そして、ミニマルなモティーフと和音が繰り返された後、ピアノがリズミカルなモティーフを新たに導入する。そのモティーフが何を意味するのか、《追憶》と《静寂》が流れてくる時点ではわからない。しかし物語が後半部に入ると、このリズミカルなモティーフはb.のグループ《陽動》《巣穴》《隠密》《大王の行進》の4曲において、全く予想外の形で再登場する。b.の4曲は、「下の世界」にあふれかえったインコのテーマとして書かれているが、その楽想は弦楽器がピツィカートで演奏するユーモラスなモティーフ──ここでは仮にインコのモティーフと呼んでおく──を中心にして構成されている。そのピツィカートのモティーフ、すなわちインコのモティーフこそ、実はa.の2曲に出てきたリズミカルなモティーフにほかならない。なぜ、インコのモティーフが、物語前半部の眞人のシーンの音楽にも登場するのか? 作曲者の久石がインコのモティーフをa.の楽曲の中に意識的に仕込んだことは間違いないが、その真の理由は、作曲者以外に誰もわからないし、おそらく本人もそれを明かすことはないだろう。答えは観客ひとりひとりの解釈に委ねられている。」

 

 

前島氏が指摘したこの箇所は、当時久石譲ファンのブログでも解釈や考察がなされていました。他にも気づいていた人はいたのかもしれません。その時自分は同じ旋律が隠れていることに気づけていなかったので、はっと驚いたことを覚えています。

「SWITCH VOL.41 NO.9 ジブリをめぐる冒険」(2023.8)の中で、鈴木敏夫プロデューサーはこんな発言をしています。【宮さんは「インコ大王は自分だ」と言う。そして「なりたかったもうひとりの自分が眞人だ」と言っていました】。真実は神のみぞ知るですが、そういう視点で映画をまた観ると面白いです。大伯父との会話や並んで歩く姿、積み木を崩し終焉へと導いたインコ大王。さておき、前島氏が言うように久石譲が意識的に仕込んだことは間違いないと思います。たまたまの可能性は極めて低い、久石譲の音楽設計において、宮﨑駿作品はなおさらのこと。

 

「追憶」ではピアノで「静寂」ではハープで、どちらも曲の約1分過ぎあたりから聴けるモチーフです。

 

 

「陽動」のイントロから、こんぺいとうのようにパステルにカラフルなインコたち、音色も色彩感いっぱいに魔法をかけられています。鳥の鳴き声や群集を思わせるウッドパーカッションも効果的です。曲ごとに同じモチーフを使いながら、高い音から低い音まで鳥の大きさの変化に合わせてバリエーション豊かに並んでいます。

『紅の豚』(1992)の「セリビア行進曲」、『ハウルの動く城』(2004)の「陽気な軽騎兵」、『風立ちぬ』(2013)の「カプローニ(設計家の夢),(幻の巨大機)」や「ユンカース」など、久石譲の行進曲はパレード的な賑やかな描写にとどまらない、そこに国が築かれていることやそこが活気に満ち繫栄しているであろう世界観までも立ち上げてくれます。

 

Scene 01:44:30 / There is no music in this cut.

 

 

次回は、つづけてアルバムを聴いてみましょう。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(7)~ワラワラ・炎の少女 ほか~

Posted on 2024/08/17

つづけて、アルバムを聴いてみましょう。

 

Track.
16. 箱船

神秘的な世界への場面転換をシンセサイザーやエスニックなパーカッションを導入することで演出しています。久石譲らしい音色パレットはファンタジーらしさいっぱいです。

『千と千尋の神隠し』(2001)の「神さま達」で船に乗って登場するシーンにもボーンと響く打楽器が鳴っていました。

 

 

Track.
17. ワラワラ

前島:

「本作のスコアの中でもとりわけユーモラスな音楽として書かれた、ワラワラのテーマ。日本の観客ならば、メロディの曲調から日本の伝統的な「わらべ歌」を即座に連想するであろう。宮﨑監督がワラワラというキャラクター名を「わらべ」から発想したと仮定するならば、久石がそのテーマとして一種の「わらべ歌」を作曲したのは、非常に納得がいく。メロディの合間に聞こえてくるサンプリング・ヴォイスの掛け声も、おそらくはこの曲の「わらべ歌」な性格を強調するための隠し味であろう。ベートーヴェンの《月光ソナタ》を思わせるアルペッジョで始まる《転生》は、《ワラワラ》と全く異なる詩情豊かな音楽として書かれているが、熟したワラワラたちが夜空に飛び始めると、ワラワラのテーマが断片的に聴こえてくる。」

 

 

楽しいわらべ歌のような曲想がキャラクターに愛らしさを与えている一曲です。神秘的なオリエンタリズムに溢れていますが、本作で聴くことができるミニマルは西洋的なものから日本的なものまであります。ことオリエンタルなミニマリズムでいうと、久石譲は先駆者の一人として常に進化を続けてきました。日本を代表するミニマル作家は今さらに世界へ発信しています。

『となりのトトロ』(1987)の「メイとすすわたり」はピグミー族の声をエディットしたものです。『もののけ姫』(1997)の「黄泉の世界」、『千と千尋の神隠し』(2001)の「神さま達」、『ハウルの動く城』(2004)の「サリマンの魔法陣」、『かぐや姫の物語』(2013)の「天人の音楽」、久石譲がそれぞれに多彩なサンプリングボイスを込めた曲たちです。そこには神聖なもの霊的なものが表現されていると感じています。生命、魂を宿しているものたち。ワラワラのサンプリングボイスはどこからきたのでしょうか。

 

Scene 01:00:55 / Track 17. ワラワラ

 

 

Track.
18. 転生

シンセストリングスも融合しながら紡ぐピアノは、暖かくやわらかい響きに包まれています。繊細な音の強弱やテンポの揺らぎからくる久石譲らしいピアノのニュアンスとたゆたう調べは、生まれる前から知っていた心地よさに安らぎを憶えます。ストリングスの下から上への二音の繰り返しは、高く高く昇っていくことを誘導しているようです。ワラワラのモチーフも登場し、ここまでの三曲は神秘的なシーンを印象づけています。

 

Scene 01:07:00 / Track 18. 転生

 

 

Track.
19. 火の雨
25. 炎の少女
27. 回廊の扉

久石:

「やっぱり人の声を使うとより観る人に強く響く。なので、たくさん使うんではなく効果的なところに使いたい。今回の場合はヒミというキャラクターがとても重要で、そんなにたくさん出てくるわけではないんだけども、とても特別な部分を占めてると思ったので。ここにコーラス、それも女声コーラスを使う。わりと感覚的にそれがフィットするだろうと使いました。」(出典:2024年1月30日公開/DVD映像特典収録 久石譲インタビュー動画より)

 

前島:

「ヒミのテーマに基づく音楽だが、女声コーラスの歌声(歌唱は麻衣&リトルキャロル)が端的に示しているように、母性そのものを象徴した音楽と捉えるのが自然である。」

 

 

変幻自在な変拍子です。「火の雨」では、ストリングスの旋律の動きに合わせてスネアが重ねられています。音楽的に分厚くならなくても迫力や立体感を与える久石譲音楽の一手です。「炎の少女」では、メロディを歌うコーラスの3拍子とバックのオーケストラは4拍子という巧みなポリリズムを聴かせています。ものすごく複雑なことが起こっています。ミニマルはリズムもズレたり変化したりと、どこに集中して聴くかでがらっと表情が変わります。火を操るほどのリズムトリックは、聴くたびに面白い躍動感が迫ってきます。

 

Scene 01:08:35 / Track 19. 火の雨

 

Scene 01:23:55 / Track 25. 炎の少女

 

Scene 01:28:45 / Track 27. 回廊の扉

 

 

Track.
20. 呪われた海

本作サウンドトラックで唯一本編と差異のある一曲です。老ペリカンのシーンに使われているのは曲冒頭から約1分半まで、そして音楽無しでカットは少し進んで飛んで曲終部が使われています。サウンドトラックの中間部は本編未使用です。もともと一曲として出来上がっていてそのまま収録したのか真意は謎ですが、呪われた海を表現するのに充実した収録です。

 

Scene 01:10:40 / Track 20. 呪われた海

 

 

次回は、つづけてアルバムを聴いてみましょう。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(6)~青サギ・黄昏の羽根 ほか~

Posted on 2024/08/16

つづけて、アルバムを聴いてみましょう。

 

Track.
3. 青サギ
5. 青サギ II
8. 青サギ III
10. 青サギの呪い

久石:

「一つだけあったのは、物語序盤に青サギが出てくるシーンの音楽です。宮﨑さんは青サギの存在をさりげなくしたかったんですね。僕はそこに少し派手目の音楽をつけちゃっていた。青サギのテーマのベースの曲は、最初はもっと激しかったんです。宮﨑さんはこれだと大げさになっちゃうから、ここは音楽はなくていいんじゃないかとおっしゃって。だけど、青サギの存在はそれ自体が現実ではない存在感を持っているので、完全に音を外してしまったら、今度は逆に悪目立ちしてしまう。僕は何かあったほうがいいと思うと伝えたんです。それで、最終的にピアノ1本のポーン・タランだけのスタートに変えて、それが3回目に出てくるあたりでちょっと厚くなるぐらいに切り替えた。そしたら、これは音があったほうがいい、と喜んでくれました。」

「そこで僕は、それはちゃんとある種曲になってたんですけども、どんどん音を抜いていって、で最後にあの一音が一番いいと。ただ、一音が次のシーンでは3つ5つになり、次のまた出てくるところではちゃんと曲になってる。これに関しては宮﨑さんほんとに喜んで「あっ、これやっぱりあってよかった」って、ほんとに喜んでましたね。」(出典:2024年1月30日公開/DVD映像特典収録 久石譲インタビュー動画より)

 

「たぶん鈴木さんもそう考えるだろうなとか、いろいろなことが、やっぱり長いつき合いだからわかるんです。デモテープはこれでOKで、その後いろいろなことがあった今の段階で考えると、この方法で行くならば、ここをそれほど過剰にしないほうがいいとか。だから後半はかなり音を抜く作業をやっていましたね。加えるというよりは。」

「うん、加えない。派手にしない。抜いていく作業。」

 

 

4度の二音からなる極めて最小のモチーフです。鳥の鳴き声にも聴こえる執拗に散りばめられた二音の繰り返しや、鳥の喉仏が鳴っているようにも聴こえる木管の低音など、不穏さや捕えきれない魅力に引き寄せられていきます。風を切るように一瞬にして切り替わるミニマルのハーモニーも秀逸です。主人公にとって無視できない存在へと膨らんでいく青サギは、同じように楽曲群も豊かに展開しながら存在感を浮き立たせていきます。

また、2022年11月15日音楽仮付けで課題にあがったこの青サギのテーマが、音楽の方向性を決定づけていったこともわかります。こういう感じでいくというイメージが三者間でかちっとはまった、制作過程においても大きな役割を果たしたといえるテーマです。

『千と千尋の神隠し』(2001)の湯婆婆も4度の二音からなるモチーフです。どちらも鳥に変身して空を飛びます。

 

Scene 00:27:45 / Track 10. 青サギの呪い

 

Scene 00:28:40 / Track 10. 青サギの呪い

 

 

Track.
6. 黄昏の羽根
22. 回顧

本編前半部では小さい編成で本編後半部では大きい編成で流れる、塔のテーマともいえる曲です。久石譲の説明にもあった「前半は現実世界で後半はファンタジーという2部構成だと感じた」という音楽的アプローチが具現化されています。たしかに、前半部のほうは弦楽のざらざらした音像が羽根の一本一本やその肌ざわりまでも想起させてくれます。粒立ちのいいピアノにFutune Orchestra Classicsのノンビブラート奏法にとピンッと張った緊張感を保っています。ノンビブラートとは、歌う時のビブラートをかけるかけないと同じで、音を震わせずにまっすぐに鳴らす奏法のことです。

 

 

Track.
7. 思春期

転校先でのシーンに流れています。その鮮烈なカットに強い衝撃を受けますが、音楽はそんな主人公の行動や感情からは距離を置いたものになっています。まるで軍歌や唱歌のような旋律は、当時の時代背景や取り巻く環境を俯瞰しながらも、とても風刺の効いた映像と音楽の対位法になっています。

 

 

Track.
11. 矢羽根
23. 急接近

明るいミニマルが何かへの好奇心や夢中さを表しているようです。「矢羽根」では、強めのピッツィカートがまるで工作でトントン打っている音や、はたまたピンと弓の張り具合を確かめているようにも聴こえてきておもしろいです。ピッツィカートとは、弦楽器の弦を指ではじいて音を出す奏法のことです。曲としてもきちんと成立しているなかで、効果音的な響きまでも意図的に音楽的に盛り込まれています。映像やシーンとの相乗効果で、もっと言うと映像から離れたときにもイマジネーションをかき立ててくれる久石譲映画音楽の秘技です。

「急接近」では、少しやわらかくなった曲調が距離感や歩み寄りを感じさせてくれます。昨日の敵は今日の友、まるで正反対の構図で流れるこの曲は、言葉ではうまく説明できない関係性や心の変化をミニマルなピースたちで並べていきます。

『風立ちぬ』(2013)の「紙飛行機」でも工作や胸の高鳴りが、「隼班」でも設計(工作)が、ミニマルの手法で表現されていました。

 

Scene 00:37:50 / Track 11. 矢羽根

 

Scene 01:13:40 / There is no music in this cut.

 

 

Track.
13. ワナ

久石:

「眞人がキリコとともに屋敷の中でソロソロと入っていって、青サギとやりとりして地下へ向かう流れなどはシーンに合う曲をミニマルで書いている。こちらはやっぱりサスペンス調になるんですよ。すると、さっき言った夏子が子供を産むところや眞人がキリコと「下の世界」に行くシーンより、音楽の印象は薄いんです。」

 

 

久石譲インタビューは、誕生日プレゼントの「祈りのうた」や「祈りのうた II(聖域)」について語っているところからの流れです。この曲はその元になる素材(モチーフ)があったかどうかは別にしても、シーンに合わせて書かれたことがわかります。仮に映像と一緒に観た時マッチしていて音楽の印象は薄いと…全くそんなことは思いません。SNSでもNowplyaing投稿をよく見かけた曲でもあります。ずるずると嵌っていくように微細にグラデーションしていくハーモニーの変化も聴きどころです。

Futune Orchestra Classicsの特徴は、リズムをきっちり揃えること、音価(一音一音の音の長さ)をきっちり揃えることです。引き締まった音像になりとても芯の強い音楽になります。もうひとつは、感情を込めすぎないことで俯瞰した響きの印象になります。ある種つかむことのできない凄みが潜んでいます。ベタに怖いですよ怖いですよ、とは言っていない演奏といったらわかりやすいかもしれませんね。久石譲の最先端、現代的なオーケストラのアプローチは最新作にこそふさわしい、そう思えてきてうれしくなる曲たちばかりです。

 

 

次回は、つづけてアルバムを聴いてみましょう。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

Info. 2024/08/13 「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 京都特別演奏会」コンサート・プログラム 【8/16 update!!】

Posted on 2024/08/13

8月10日開催「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 京都特別演奏会」です。今年は夏恒例コンサートともいえる「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ(WDO)」の開催がなかったこともあり、この京都公演の注目度はプログラム発表前からキープしていました。翌日8月11日は同プログラムでの防府特別演奏会も開催されました。言わずもがなどちらも満員御礼です。 “Info. 2024/08/13 「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 京都特別演奏会」コンサート・プログラム 【8/16 update!!】” の続きを読む

Overtone.第98回 「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.11」コンサート・レポート by ふじかさん

Posted on 2024/08/12

7月25,26日開催「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.11」コンサートです。今年は「JOE HISAISHI FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.7」(7/31-8/1)とのスペシャルウィークです。久石譲の3大コンサート(WDO,FOC,MF)のうち2つのコンサートがこの夏一挙開催です。

今回ご紹介するのは、久石譲3大コンサートに久石譲指揮定期演奏会/特別演奏会にと足しげく参戦するふじかさんです。それうはもう聴きなれてる書きなれてるだけあって、そういう音楽なんだとイメージしやすい。ぜひお楽しみください。

 

 

JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE Vol.11

[公演期間]  
2024/07/25,26

[公演回数]
2公演
東京・紀尾井ホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:Music Future Band

[曲目]
フィリップ・グラス / 久石譲:2 Pages Recomposed
フィリップ・グラス:弦楽四重奏曲 第5番

—-intermission—-

デヴィッド・ラング:Breathless
マックス・リヒター / 久石譲:On the Nature of Daylight
久石譲:The Chamber Symphony No.3 *世界初演

[参考作品]

久石譲 presents MUSIC FUTURE IV

 

 

MUSIC FUTURE VOL.11 初日公演の様子をレポートさせて頂きます。

2024年7月25日 紀尾井ホール 19:00開演

久石さんが主宰するMUSIC FUTURE シリーズも早くも11回目になりました。現地に足を運ぶのは2018年以来、6年ぶりとなりました。コロナ禍から数年はライブ配信等もあり昨年まではネット上で追いかけることはできました。

開場10分くらい前に現地に到着。少し天気が崩れ始め、雨が少し降ってきたところで開場時間となりました。チケットもぎりをすぎて、ホール内に入ると天井のシャンデリアがとても煌びやかでした。

 

18:30を過ぎたところで、「第5回Young Composer’s Competition」の講評と演奏が始まります。まず依田さんが登場、紹介のちに、審査員の久石さんと足本さんが登壇されました。依田さんがMCで質問をしながら、久石さんと足本さんが回答するスタイル。近年の久石さんのコンサートではMCが無くなったため、久石さんの声を聞ける貴重なMFシリーズでもあります。

冒頭で依田さんの質問を久石さんが聞き取れず、何度も聞き返すところからはじまり、久石さんの「こんにちは」から始まり、MFが11回目の開催であること、コンペは5回目で、作品が40曲以上あったこと。今回の受賞作品は弦の書き方がよく、亡くなった西村先生へのオマージュも感じられたことなどから、ミニマルベースの作品ではなかったが、入賞することになったことなどが語られました。

一度、3人が舞台から袖に戻りましたが、慌てて依田さんが再登場。依田さんが「大事なことを忘れていました~」と久石さんが袖から「何のフリだよ~笑」と答えながら再登場。そこから久石さんが「今回は国立音大の学生さんたちが演奏してくださいます」と深々とお辞儀をされていました。その後学生カルテットチームが登壇し、コンペ作品の演奏に入りました。

 

・Fabil Luppi : SOL D’Oriente Fantasia for string quartet

3つの短めの楽章からなる作品でした。冒頭は久石さんの『Metamorphosis』のように音が変容していくようで、グラデーションが変化していくような音色でした。中盤の楽章ではグリッサンドで低音から高音まで駆け上がっていき、トレモロ奏法が各所で響き渡る構成。終盤ではピチカートやトレモロが次々と展開されて、さざなみが寄せて返していくような印象を受けました。

講評では「不協和音が全体を支配して~」とのことでしたが、聴きにくいわけではなく、カルテットという弦楽だけの響きを存分にいかした作品だなぁと素人目線ですが感じることできました。

 

演奏が終わり、奏者が退場すると、コンサート本編へ向けて舞台の配置転換が行われました。19:00すぎに会場が暗くなり、ステージに続々と奏者が登壇。チューニングの後に久石さんが登場。いよいよ本編のスタートです。

 

・Philip Glass/Joe Hisaishi:2 Pages Recomposed

2018年のMFでの演奏以来、再度プログラム入りました。「♪ソドレミファー」という音型をひたすら繰り返し、音型を微妙変えながら、発展させていくミニマルスタイルの作品です。久石さんがリコンポーズすることによって、久石さんの曲では?と錯覚を起こす楽曲でもあります。

CD音源にもなっているのですでに何度も聴いてきましたが、改めて生で聴くと、無いはずのフレーズが立体的に聴こえてくる面白さがより際立ちます。「ソドレミファ」の一部を強調していくだけで、揺らぎのような音型や、時計の針が動くような旋律が聴こえてきます。

中盤の盛り上がり後は、久石さんが音量を小さくする指示を出します。後半部は、ストリングスのトレモロが加わり、より迫ってくるような迫力が出てきます。1st Vnの奏でる「ソドレー」「ソドレミー」の鋭い旋律がとってもエモーショナルに感じました。

 

・Philip Glass:String Quartet No.5

舞台転換後、今度はカルテットのみの演奏。コンペの演奏では着席でしたが、本編では立奏スタイルになっていました。しかも、このカルテットでもいわゆる対向配置スタイル。久石さんのこだわりを感じます。

1.ピチカートのちに悲しげな旋律が提示されました。このモチーフが今後の楽章で展開されていきます。

2.チェロの波打つような低音の音型にピチカートと和音が繰り返されていきました。シンコペーションが印象的の少し明るさのある雰囲気から徐々に暗い雰囲気へ。

3.アップテンポで明るい雰囲気の楽章。二ノ国サントラの『ホットロイト』ような印象を受けました。時折2nd Vnの小林さんとViolaの中村さんが楽しそうに顔を見合わせながら笑顔で演奏されていました。

4.3楽章とは一変し、重苦しいく切ない旋律が印象的。1st Vnの郷古さんの音色が美しく響き渡っていました。

5.プログラムに記載されていた通り、ジェットコースターのように上下に大きく動き回る音型から始まります。時折『Tri-AD』に似たような旋律も聴こえてきます。1楽章の再現部の後に、激しいダンスパートのセッションへ。再度1楽章の再現部に戻り、最後はピチカートで静かに消えていくように終わりました。

 

ここまでで2曲の弦楽4重奏曲を聴いて、この編成の奥深さを感じました。久石さんのいつか書かれるはずの『String Quartet No.2』も期待しています。

 

ー休憩ー

 

・David Lang:Breathless

休憩をはさんで、今度は木管が中心の楽曲です。下手側からフルート、オーボエ、クラリネット、バスーン、ホルンと並んでいました。フルートから始まり次々といろんな楽器が単音を鳴らしていくと、それらが旋律のように聴こえたり、リズムが構築されていくような楽曲でしたが、個人的には今回のコンサートの曲目で一番難解に感じました。

小鳥のさえずりや、木々が風で揺れる音が意図しないところで楽曲のように聴こえてくるような効果を利用している雰囲気も感じました。演奏はとても難しそうで、皆がリズムをしっかりと刻みながら、個々のタイミングを測って音を紡いでいっているようでした。

 

・Max Richter/Joe Hisaishi:On the Nature of Daylight

続いては金管セクションがメインの楽曲。舞台下手側からトランペット、ホルン、バスーン、トロンボーンでトランペットのやや後ろよりにクラリネットという編成でした。

トロンボーンによる息の長い和音のベースにホルンの柔らかな旋律がゆったりとした気持ちにさせてくれました。そのホルンの旋律を福川さん信末さんと交互にパスしあう様子が印象的です。後半はトランペットのロングトーンも加わり、穏やかながら、とても力強いフィナーレへと向かっていきました。

 

最後の曲は、いままでのメンバー・セクションが集結して、久石さんの新曲へと続きます。

 

・Joe Hisaishi:The Chamber Symphony No.3

1.ストリングスの導入からはじまり、金管セクションが加わりました。「♪タラッ!タラー」というフレーズが随所に加わり、キャッチーで印象的なモチーフが繰り返されていきました。ピアノがそのフレーズを奏でると弦楽がピチカートを添えたり、木管が彩りを加え、フルートがそのフレーズを奏でるとトライアングルの音色が印象的に残ります。

中盤ではスローテンポとなり、弦楽とピアノをフレーズを紡いでいる記憶があります。終盤にかけて徐々に激しくなり、打楽器や金管が大活躍。スネアの連打や金管の華やかな咆哮から緊迫感がありました。

2.前楽章とは雰囲気が一変。急・緩・急の構成のためか、ゆったりと出だしから始まりました。古典的なピアノの旋律にストリングスが重なっていきます。元々はピアノソロのための作品だったためか、随所にピアノの旋律が場面転換時に現れる感じがしました。ピアノの旋律を挟み、金管が入ってきたり、木管が入ってきたり。

タンバリンとストリングス、ミュートのトランペットとピアノと音色が記憶残りやすい、組み合わせのパートが続きます。徐々に盛り上がっていき、『Metaphysica(交響曲第3番)』の2楽章のような構成を思い出しました。終盤は冒頭の雰囲気を再現し、次の楽章へ進みます。

3.かぐや姫の物語のサントラより『絶望』のような力強い音を4打くらい繰り返したのち、弦楽により細かく動くパッセージが繰り返されていきます。徐々に動きが大きくなり、上下へ駆け巡るような早い旋律が印象に残ります。この細かいパッセージがピアノソロや、木管、金管、弦楽と様々なパートへ次々と引継ぎ、時にはテンポを落としたり、急加速したり、息つく間もなく怒涛のように楽曲雰囲気が次々と変化していきました。

『Tri-AD』のような弦楽器が上昇していく様子や、『Contrabass Concerto』のような打楽器の連打。『2 Pieces』のような強い打撃の音。これらの久石さんの既存楽曲を次々と連想することができました。終盤は弦楽の上昇音型と激しいリズムの連打から、突如曲が止まり、ピアノの長い低音の伸ばす音で失速するようにして終わるのが記憶に強く残りました。

 

MFシリーズはアンコールはないため、演奏が終わると、メンバー全員がステージ前に一列になり、何度かお辞儀をしていました。久石さんも終始楽しそうにメンバーと交流をしていました。

今回、配信等は現時点では予定されていませんが、ステージや会場に少なくとも7台のカメラが置かれていました。収録用のマイクもかなりの本数がありましたので、新作を含め、どこかで機会がありそうです。

18:30くらいからスタートして、カーテンコールが終わると時刻は21:15くらい。舞台転換が多かったのもありますが、3時間近くのコンサートとなりました。

たっぷり音楽を聴けて大満足で会場を後にしました。

2024年8月9日 ふじか

 

そうこんなコンサートだったとか、そうこんな曲演奏してたとか、何年先に見てもすぐに思い出せそうです(感謝!)。そっかこんなコンサートだったんだとか、そっかこんな曲演奏してたんだとか、久石譲新作ってこんなんだったんだとか、何年先に映像がなくても音源がなくてもすごくイメージできそうです(チクッ!)。

ふじかさんのレポートにもありました「2 Pages Recomposed」の演奏についてです。音源化もされていて再演となりましたが、指揮の緩急や強弱は以前よりも明確になっていましたね。近年指揮するミニマル作品例えば「DA・MA・SHI・絵」などもそうですが、ある一定の音量で疾走感をキープする従来からの変化がうかがえます。ベートーヴェンやシューベルト交響曲にみられる明確な強弱記号のスコアなども影響があるのでしょうか。いずれにしても、ミニマルをp(ピアノ)で均一に鳴らすのはf(フォルテ)で鳴らすことよりも大変な気がします。ぜひ聴きどころです。

僕の知る限りふじかさんもショーさん(下に紹介)も、かなりの数のコンサートに行かれていて、イベントの重なるスペシャル・ウィークもあると思います。その全部を書くことはなかなか難しいことです。そんななかこうやって書き残してくれてありがたい限りです。

 

 

 

 

こちらは、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

みんなのコンサート・レポート紹介

会場でもお会いしたファンつながりショーさんのコンサート・レポートです。会場の雰囲気からコンサートの細かいところまでたくさん伝わってきます。同じコンサートにいても見ているところや感じているところは一人ずつ全く違う、それもわかって読んでてとても楽しいです。ファン歴も長く過去数多くのコンサート・レポートが収められています。今となっては触れれるだけ貴重なページ、ぜひめくってみてくださいね。

JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE VOL.11(2024.7.26)
from Sho’s PROJECT OMOHASE BLOG 改 seconda

久石譲コンサート オーナーの鑑賞履歴
from Sho’s PROJECT OMOHASE BLOG 改 seconda

 

それから、国際色豊かに英文レポートです。コンサート一日のことが鮮明に記されています。作品ごとの聴く前と聴いた後のイメージの変化がよく伝わってきます。こういう感じ方もあるんだと学びながら楽しく読ませてもらいました。世界各地の映画音楽作曲家のコンサートに足を運びそのレポートがいっぱいです。今は日本を拠点とされているようです。ぜひWeb翻訳してお楽しみください。

Joe Hisaishi presents Music Future Vol. 11 (2024) – Soundtracks in Concert
from Soundtracks in Concert – Your one-stop source for soundtrack concert reports, reviews and more!

 

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

reverb.
ひとつのコンサートに4つもコンサートのレビューを紹介できるなんてうれしい限りです。

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪