Blog. 「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第290回 定期演奏会」コンサート・レポート 【6/18 update】

Posted on 2025/06/15

2025年6月13日、「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第290回 定期演奏会」が開催されました。久石譲は2021年に日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者に就任して以来数多くの定期演奏会・特別演奏会を精力的に行ってきました。そして2025年4月日本センチュリー交響楽団音楽監督に就任しました。その記念すべき1年目のシーズン、満を持しての定期演奏会登場です。

 

 

日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #290

[公演期間]  
2025/06/13

[公演回数]
1公演
大阪・ザ・シンフォニーホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:日本センチュリー交響楽団

[曲目]
ベートーヴェン:交響曲 第6番 へ長調 作品68 「田園」

—-intermission—-

久石譲:交響曲 第2番

—-encore—-
ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第8番 ト短調 作品46-8

[参考作品]

久石譲 ベートーヴェン 交響曲全集 JOE HISAISHI IN VIENNA

 

 

前日には同内容公演が茨木市文化・子育て複合施設 おにクル ゴウダホールにて開催されました。2025年2月に追加公演で発表されたものです。「2025-26シーズン 日本センチュリー交響楽団 北摂定期演奏会」として今後も北摂地域(茨木市、高槻市、箕面市)全3カ所で定期演奏会に合わせて開催予定になっています。

 

 

2025.06.18 update
公式写真4枚を追加しました。
from 日本センチュリー交響楽団公式SNS

 

 

まずは会場で配られたプログラム冊子からご紹介します。

 

 

MESSAGE

皆さんこんにちは、久石譲です。

このたび、2025年4月に日本センチュリー交響楽団の音楽監督に就任することになりました。日本センチュリー交響楽団とは10年以上前から共演し、2021年からは首席客演指揮者を務めてきました。

一度はオーケストラともっと深く関わる仕事をしたいと思っていたので、今回このようなポジションを頂くことはとても嬉しく、光栄です。

就任最初のシーズンである2025-2026年の定期演奏会はすべて、ベートーヴェンの交響曲と現代の音楽を組み合わせるプログラムにしました。親子で楽しめるコンサートや小編成アンサンブルで最先端の現代の音楽を聴いてもらえるコンサートも企画します。

このオーケストラとともに、過去から未来につながるクラシック音楽の在り方を追求していく。そして、たくさんのお客様に喜んでもらい、応援してもらえるオーケストラになるよう努めます。

楽しみにしていてください。

(日本センチュリー交響楽団イヤーブック2025-2026 より)

 

 

 

Program Notes

久石譲:交響曲 第2番

Symphony No.2は2020年4月から夏にかけて作曲し、翌年2021年3月から6月にかけて3管編成のオーケストレーションを施し、その年の夏に行ったワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)ツアーで初演した。

本来なら2020年にストラスブールとパリで初演し、その後世界各地で演奏する予定だったが、COVID-19により延期を余儀なくされたためにこのようになった。その後、ストラスブールとパリは2022年5月、そして6月にはバンクーバー、トロントなどで演奏し、現在世界各地で演奏している。

当初は全4楽章を想定していたが、3楽章で完結していることがわかり、またパンデミックの時だからこそ重くないものを書きたかった。つまり純粋に音の運動性を追求する楽曲を目指した。その結果36分くらいの作品になった。

Mov.1 What the world is now?
チェロから始まるフレーズが全体の単一モチーフであり、それのヴァリエーションによって構成した。またリズムの変化が音楽の表情を変える大きな要素でもある。

Mov.2 Variation 14
元々シンフォニーの2楽章として作曲したが、2020年は大きな編成の楽曲がソーシャルディスタンス確保のため演奏できないので「Variation 14」として僕自身が主催しているMusic Future(MF)Vol.7(2020)においてラージ・アンサンブルで演奏した。MFはミニマル系のコンテンポラリー・ミュージックを演奏するコンサート・シリーズである。曲はテーマと14のヴァリエーション、それとコーダでできている。とてもリズミックな楽曲に仕上がった。ネット配信で観た海外の音楽関係者からも好評を得た。

Mov.3 Nursery rhyme
日本のわらべ歌をもとにミニマル的アプローチでどこまでシンフォニックになるかの実験作である。途中から変拍子のアップテンポになるがここもわらべ歌のヴァリエーションでできている。より日本的であることがむしろグローバルである!そんなことを意識して作曲した。約15分かかる大掛かりな曲になった。

(久石譲)

(「日本センチュリー交響楽団 第276回定期演奏会 第290回,第291回 2025年6,7月プログラム冊子」より)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

 

5月「大阪4オケ2025」でのお披露目も経て(プログラム:「久石譲:Adagio for 2 Harps and Strings」「ストラヴィンスキー:火の鳥(1945年版)」)いよいよ音楽監督就任記念となる今シーズン初の定期演奏会です。

ホール入り口に設置された久石譲サイン入りのコンサートポスター掲示は、ちょっとした写真スポットとしておなじみになっています。若い人から海外のお客様までワクワクな期待と笑顔に頬があがっています。そしてこちらもおなじみになっている満員御礼です。

久石譲は年間シーズンプログラムのコンセプトとして「ベートーヴェン交響曲と現代の作品」を掲げています。久石譲指揮ではベートーヴェン交響曲から第6番・第1番・第3番をプログラムしています。

 

 

ベートーヴェン:交響曲 第6番 へ長調 作品68 「田園」

よく知られている作品だけに、観客それぞれにイメージがある第6番、これこそ田園だという演奏もあるだろう作品です。久石譲のアプローチは、弦14型2管編成で古典時代からあった対向配置をもとにバロックティンパニの小気味よさも活かしながら、あくまでも作曲家視点から作品を浮き立たせる。そしてプログラム全作品をとおして同じように現代的なアプローチでオーケストラと臨む、そんな意欲的な演奏が特徴です。

ここは個人の感想を書く場所でもあるので、ちょっと主観的にストレートに書くところもあります。いわゆる画面下隅に「※個人の感想です」テロップがあると思って見てください。

第1楽章から僕の雲行きが怪しい。木管のいくつかのパートが明らかに音楽にブレーキをかけてしまっている印象。周りのテンポ感とそこだけが分離していて違和感が響いてくる。第1楽章も第2楽章も弦楽パートと木管パートがフレーズをかけ合ったりが多いです。弦楽や全体が軽快に刻みながら進んでいるのに、そのいくつかの木管パートがかけ合いで主旋律に出てくるたびにそこでブレーキがかかって0コンマ何秒のはっきりと体感できるテンポダウンする。そして僕の気持ちもトーンダウンする。音楽を進めている推進力を削いでしまっていると感じてストレスのたまる「田園」でした。どうも意図的にとは感じとれなかった。

そのぶん第3楽章は弦楽セクション中心にキビキビとザクザクと勢いよく進むパートもあって、そこは水を得た魚のように活き活きとした響きでした。

そうは言っても全体的には「快速な田園」という感想も多かったです。僕には第1,2楽章の印象もあって…やあやあごにょごにょ…、印象も感想もいろいろです。まだまだアプローチや解釈のせめぎ合いだったんでしょうか。これから久石譲×日本センチュリー交響楽団がどう溶け合っていくのか、どんな化学反応を起こしていくのか、とても楽しみです。

 

 

 

久石譲:交響曲 第2番

堂々久石譲交響曲の第2番です。日本では「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」での世界初演以来となる2度目です。どうしてこんなことになってるの、とても悲しい、もっと聴きたい!プログラムされるやテンション爆上がりな作品です。

前半部の「田園」を聴いてからの休憩時間、これ第2番どうなっちゃうのかなと勝手な不安よぎっていました。杞憂でした。素晴らしい演奏でした!!WDO2021、パリ公演配信、グラモフォン録音アルバムなども経てきたなか、かなりベストに近い満足感を得ることができました。もちろん難しすぎる作品なので精度を突き詰めれば違った見方もできるのかもしれません。それでも全体を支配する強靭なまとまり、勢い、重厚なアタック、ハイライトの爆発力、これを聴いてしまったらCDは物足りなくなる。間違っても復習~復習~とルンルンでコンサート後にアルバムを聴き返さないほうがいい、損をする。今日の演奏の余韻を音源でかき消さないほうがゼッタイ良かったと。前半部よりも少し大きい弦14型3管編成です。第2楽章のリズミックで楽しいところや、第3楽章のどこか懐かしいわらべ歌の心地よさと巨大に膨れ上がっていくさまは、今日のこの演奏が記憶に残らないはずはない、そんな満足感でいっぱいです。

耳ではっきりわかるほどの改訂はなかったように思います。グラモフォンアルバムでは見つけることができなかったフレーズに気づいたり、隠れていた楽器の音がライブらしい音像で明瞭に聴こえてきたり。だから楽しい。日本でももっと聴きたい!

 

生演奏に遭遇する2度目ということもあり、やっとしっかり確認できたこともあって以下お詫びして修正いたします。(ほかにも間違ってるとこあるぞのツッコミはうすうす承知…)

 

Mov.3  Nursery rhyme

”ミニマル的アプローチでどこまでシンフォニックになるかの実験作である”、久石譲の楽曲解説からです。ここからはテーマ(メロディ)だけに注目して楽章冒頭を紐解いていきます。コントラバス第1群がD音から13小節のテーマを奏します。2巡目以降は12小節のテーマになります。本来は1コーラス=12小節のテーマでできていて、1巡目に1小節分だけ頭に加えているかたちです。「レーレレ/レーレミ、レーレーレー」(13小節版)、「レーレミ、レーレーレー」(12小節版)というように。なぜ、こうしているのかというと、かえるの歌の輪唱とは違うからです。かえるの歌はメロディ1小節ごとに、次の歌い出しが加わっていきますよね。なので、ズレて始まって、そのままズレズレて終わっていきます。

コントラバス第1群が2巡目に入るとき、同じ歌い出しの頭から、チェロ第1群コントラバス第2群がA音から13小節のテーマを奏します。同じく2巡目以降は12小節のテーマになります。この手法によってズレていくんです、すごい!12小節のテーマだけなら、同じ歌い出しの頭から次が加わっていくと、メロディをハモるように重なりあってズレることはありません。でも、なんらかの意図と理由で、歌い出しの頭を統一しながらもズラしたい。だからすべて1巡目だけ13小節で、2巡目以降は12小節なんだと思います、すごい!テーマは低音域から高音域へとループしたまま引き継がれていきます。つづけて、チェロ第2群チェロはE音から、ヴィオラはC音から、第2ヴァイオリンはG音から、第1ヴァイオリン第1群はB音から、最後に第1ヴァイオリン第2群はD音からと、壮大な太陽系を描くように紡いでいきます。そして全7巡回したころには、壮大なズレによる重厚なうねりを生みだしていることになります。対向配置なので、きれいにコントラバスから第1ヴァイオリンまで時計回りに一周する音響になることにも注目したい。さらに言うと、コントラバス第1群のD音に始まり、最終の第1ヴァイオリン第2群もD音で巡ってくるわけですが、このとき響きが短調ではないと思います。メロディの一音が替わっているからです。あれ? なんで同じD音からなのにヴァイオリンのときは抜けた広がりがあるんだろう、暗いイメージがない。ここからくるようです。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート より一部抜粋)

 

 

 

 

—-encore—-

ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第8番 ト短調 作品46-8

久石譲指揮の舞曲といえばこれこれ、こんな演奏になるよね。とても快速&躍動的に勢い一気に駆け抜けます。思えばスラブはロシアやウクライナなども含まれる民族や地域です。振り返ると、本公演のプログラムは土着的だったり民族的な着想をもった作品で貫かれています。その土地の大切さやその土地で暮らす人々の大切さ、それぞれの人が持ってる壊してはいけない原風景や心象風景、遺していきたい大切なもの。

 

 

本演終了後とアンコール・カーテンコールには「ブラボー!」も幾度となく飛び交っていました。だけど、僕は気になった、団員たちが活き活きと見えない。演奏中もたんたんとしている姿で、難しいスコアに挑む姿勢や食らいつこうとする前のめり感をあまり感じとることができなかった。カーテンコールになっても、やりきった感のシルエットや表情をオーケストラとして見ることは出来なかったと思う。観客の拍手喝采に応える一瞬の笑顔も見れない。あれ、演奏してるほうはそんな演奏でもなかった感じ??ってなったら悲しい。

もったいない、せっかくいい演奏会だったのに。たまたま自分がそう見えただけならそれでいいし、そうであってほしいかな。見せることも大切だと思います。やっぱりオーケストラも楽しさ・難しさ・真剣さを体で伝えてくれたらうれしいです。それを見て聴いたらもっと素晴らしい観客体験ができます。その演奏会の一期一会や感動はたった一瞬見せてくれた表情やしぐさだけで時として一生モノにもなります。関西オケの一つに収まることなく世界と勝負する日本センチュリー交響楽団であってほしいなと思います。

次回も全力で楽しみにしています。

 

 

今シーズンの日本センチュリー交響楽団ラインナップと今後の久石譲登場回です。

 

 

 

リハーサル風景

from 日本センチュリー交響楽団公式 X(Twitter) / Facebook
https://x.com/Japan_Century
https://www.facebook.com/JapanCentury

 

茨木公演ゲネプロ

from 日本センチュリー交響楽団公式 X(Twitter) / Facebook

 

リハーサル風景動画あり

from 久石譲本人公式インスタグラム

 

公演風景(茨木公演)

from 日本センチュリー交響楽団公式 X(Twitter) / Facebook

 

 

ゲネプロ

from 日本センチュリー交響楽団公式 X(Twitter) / Facebook

 

公演風景

from 日本センチュリー交響楽団公式 X(Twitter) / Facebook

 

from 日本センチュリー交響楽団公式Facebook

 

 

from SNS

 

 

 

カテゴリーBlog

コメントする/To Comment