「原曲は2015年1月5日、すなわち宮﨑監督74歳の誕生日に献呈されたピアノ曲《祈りのうた》で、もともとは三鷹の森ジブリ美術館のBGMとして作曲された。同年夏に開催された久石指揮新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)のツアーで初演され(本盤と同じピアノ、弦楽合奏、チューブラーベルズのためのヴァージョンで演奏された)、その際、「Homage to Henryk Górecki(ヘンリク・グレツキへのオマージュ)」という副題が附された。その副題が暗示しているように、《祈りのうた》は久石が(ポーランドの作曲家グレツキの音楽で知られる)ホーリー・ミニマリズムの様式を強く意識して作曲し、東日本大震災の犠牲者追悼の意味を込めた作品である。曲の構成は、ピアノだけで演奏される主部、弦楽器が加わった中間部、そして主部の再現という三部形式で作られているが、中間部の終わりに聴こえるチューブラーベルズは弔鐘、つまり追悼の鐘にほかならない。出産を控えた夏子と眞人が産屋で再会するシーンにおいては、そのチューブラーベルズが鳴り響く瞬間、音楽は感情的に最も激しいクライマックスを迎えるが、そのシーンの映像と《祈りのうた》の音楽が生み出す、いわば”生”と”死”が隣り合わせになった凄絶な表現は、もはや筆舌に尽くしがたい。」
「祈りのうた」は、「祈りのうた for Piano」が『Minima_Rhythm II ミニマリズム 2』(2015)に、「祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-」が『The End of the World』(2016)にアルバム収録されています。約7分大きく静謐に繰り返す後者をもとに約4分のシーンに合わせて再録音されています。ピアノ左手の深い低音から一音一音上行していく動きは、深い場所から出口へ向かっていく神聖さを感じます。
音楽にまつわる投稿第一弾だったこともあり、その時は「Ask me why」のことかなと思い込んでしまいました。しかし、久石譲インタビューを経て改めて注目すると、2020年1月6日と2022年1月5日、これは別の曲ということになります。さて、この曲は映画で使われたのでしょうか。いつか誕生日プレゼント(三鷹の森美術館オリジナルBGM集)がアルバムになって届けられたなら、その時に真実は明らかになるでしょうか。
Track. 1. Ask me why(疎開) 12. Ask me why(母の思い) 34. Ask me why(眞人の決意)
久石:
「それから年が明け、(2022年)1月5日に宮﨑さんが、僕の仕事場に来られました。あの日は宮﨑さんの誕生日で、僕は毎年、曲を書いて二馬力に持って行くんですが、その時に作った曲が、眞人のテーマ曲ともいえる「Ask me why」だった。この段階では、僕は絵コンテも映像も観ていません。でも、宮﨑さんがその曲をすごく気に入られて、後日「宮﨑さんが『これってテーマ曲だよね』と言っていた」ということを伝え聞きました。それを聞いて、しまった、と(笑)。宮﨑さんって刷り込みの人だから、一度曲を聴いて「いい」というスイッチが入ってしまったら変更が利かない。僕自身は、映像を観てからテーマとなる曲を書くつもりだったけれど、こうなっちゃったらもう、戻れない。覚悟を決めました。」
「11月15日、映画の主要なシーンに10曲ほどの音楽を仮付けしたものを、宮﨑さんと鈴木さんに聴いてもらいました。映像を見ながらじっと音楽を聴いていて、眞人の部屋の机の上に積まれていたあの本(『君たちはどう生きるか』)が床に落ちて、表紙の内側に母の文字が見えたところに「Ask me why」が被さった時、宮﨑さんが涙を流されたということがありました。」
Joe Hisaishi, the veteran composer of every Miyazaki feature since 1984, responded to that original name and gave his theme the English title “Ask Me Why.” Through a translator, Hisaishi said he did that “to show that we’re constantly asking ourselves questions and asking ourselves the meanings of things.”(出典:Miyazaki’s ‘Boy and the Heron’ should be felt, composer says – Los Angeles Times, Nov. 29, 2023)
[自身のテーマに英語のタイトル「Ask Me Why」を付けた。久石は通訳を介して、「私たちが常に自分自身に疑問を持ち、物事の意味を問い続けていることを示すために」そうしたと語った]Web翻訳
久石譲のジブリメロディといえば、新しくて懐かしい旋律に、神秘的に包み込んでくれるハーモニーにとファンをとろけさせてきました。「Ask me why」は、静かに呼吸するようなイントロに同音連打で始めるメロディと、まるで心の扉をノックしているようにも聴こえてきます。そして運命の扉をたたく、扉を開いていく力を感じています。映画を観た世界中の人々がフルバージョンで聴けるときをいつまでも心待ちにしている一曲です。
Ask me why のふしぎ
サビのメロディの一音が違います。とてもシンプルな曲だから同じことを繰り返しているだろう先入観もあってか、気づきにくいかもしれません。2回目に臨時記号♭(フラット)が付きます。この微細な変化が得も言われぬ奥深いニュアンスを与えてくれています。とても気に入っていました。しかし、コンサートなどで演奏しているピアノ曲は繰り返すどこにも♭は付いていません。ぜひ「34. Ask me why(眞人の決意)」を聴いてみてください。first time “D7”, second time “D7(-9)”のような、たった半音のズレからくる夢幻の響きです。この曲眞人の決意のためだけなのでしょうか。ズレあり派です。
一方では、なくても揺るがなかったことがあります。誕生日プレゼントから選曲したという点です。宮﨑監督のために書き下ろした曲たちは、いわば宮﨑駿イメージアルバムともなり得るからです。その中から宮﨑監督は「Ask me why」を選び久石譲は他の曲を選び、シーンに合わせて書き足されていった。【自身の少年時代を重ねた自伝的ファンタジー映画】(公式パンフレット 作品解説より)とあります。本作の音楽は、宮﨑監督という世界観と映画の世界観という二つの世界観を共生させて奥深い魅力を放っています。
「2021年11月、久石は宮﨑監督から『君たちはどう生きるか』の作曲を正式に依頼されたが、翌年の夏ぐらいまでにほぼ映像ができあがる予定なので、それを先入観なしに観てほしい、それまでは絵コンテも読まないほうがいいと宮﨑監督から伝えられ、映画の内容に関する具体的な話は出なかった。次に久石が宮﨑監督と会ったのは年明けの2022年1月5日、すなわち宮﨑監督の誕生日である。毎年、久石は監督への誕生日プレゼントとしてピアノ曲を作曲・録音し、それを本人に届けるのが恒例となっているが、2022年の誕生日プレゼントとして書かれた新曲《Ask me why》を久石から贈られた宮﨑監督はこの曲を大変気に入り、宮﨑監督の希望でこの映画のテーマ曲に用いられることになった。それから7ヶ月後の同年7月7日、久石はようやく本編映像の試写に臨み(その段階で映像は95%以上完成していたという)、本作の内容を初めて知る。しかしながら、これまでの作品で必ずおこなわれてきた宮﨑監督との音楽打ち合わせはいっさいなく、「あとはよろしく」の一言だけで久石は宮﨑監督から音楽の作曲を一任された。試写で受けた衝撃を消化するのに数ヶ月を要した久石は、海外ツアーの合間にデモ曲の作曲に着手すると同時に、これまで宮﨑監督の誕生日プレゼントとして作曲したピアノ曲のいくつかをサウンドトラックに用いるという決断をした。11月15日、久石は映画の主要なシーンに10曲ほど仮付けしたものを宮﨑監督と鈴木敏夫プロデューサーに聴かせ、両者の了承を得る。そして11月後半から本格的な作曲作業に入り、翌2023年1月21日からオーケストラの収録がスタートし、その後まもなくサウンドトラックが完成した。」
肝心の曲目はスティーヴ・ライヒの「The Desert Music」と僕の「The End of the World」です。1983年に作曲された「The Desert Music」はあまりの規模の大きさと難しさでこれまで日本では演奏されず、今回が日本初演になります。両曲とも戦争に関する題材を扱っています。戦後80年近くなるのに今の状況はいつでも世界戦争が起こってもおかしくないように見えます。多くの人が亡くなり、多くの文化が破壊されています。
Joe Hisaishi:The End of the World 久石譲:ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド
久石譲が2007年秋にニューヨークを訪れた時の印象がきっかけとなり、2008年から作曲に着手した組曲《The End of the World》は、2001年同時多発テロ(9.11)による世界秩序と価値観の崩壊が引き起こした「不安と混沌」をテーマにした作品である。もともとは《After 9.11》という仮タイトルが付けられていたが、久石はカントリー歌手スキータ・デイヴィスが1962年にヒットさせたヴォーカル・ナンバー《この世の果てまで The End of the World》にインスパイアされ、組曲全体を《The End of the World》と命名した。2008年に、〈I. Collapse〉〈II. Grace of the St.Paul〉〈III. Beyond the World〉の3楽章からなる組曲として初演された後、この作品は一種のワーク・イン・プログレスとしてさまざまな変遷をたどり、2015年のW.D.O.(ワールド・ドリーム・オーケストラ)公演において、上記3楽章に〈D.e.a.d〉を挟み込んだ4楽章+久石がリコンポーズした《この世の果てまで》の計5楽章(4+1)の組曲として演奏された。本日演奏されるのは、そのW.D.O.2015公演で初演されたヴァージョンである。
I. Collapse
ニューヨークのグラウンド・ゼロの印象を基に書かれた楽章。冒頭、チューブラー・ベルズが打ち鳴らす”警鐘”のリズム動機が、全曲を統一する循環動機もしくは固定楽想(イデー・フィクス)として、その後も繰り返し登場する。先の見えない不安を表現したような第1主題と、より軽快な楽想を持つ第2主題から構成される。
II. Grace of the St. Paul
楽章名は、グラウンド・ゼロに近いセント・ポール教会(9.11発生時、多くの負傷者が担ぎ込まれた)に由来する。冒頭で演奏されるチェロ独奏の痛切な哀歌(エレジー)がオリエンタル風の楽想に発展し、人々の苦しみや祈りを表現していく。このセクションが感情の高まりを見せた後、サキソフォン・ソロが一種のカデンツァのように鳴り響き、ニューヨークの都会を彷彿とさせるジャジーなセクションに移行する。そのセクションで繰り返し聴こえてくる不思議な信号音は、テロ現場やセント・ポール教会に駆けつける緊急車両のサイレンを表現したものである。
III. D.e.a.d
もともとは、2005年に発表された4楽章の管弦楽組曲《DEAD》の第2楽章〈The Abyss~深淵を臨く者は・・・・~〉として作曲された。《DEAD》(”死”と、レ・ミ・ラ・レの音名のダブル・ミーニング)の段階では器楽楽章だったが、本日演奏されるW.D.O.2015ヴァージョンに組み込まれた際、久石のアイディアを基に麻衣が歌詞を書き下ろした声楽パートが新たに加えられた。原曲の楽章名は、ニーチェの哲学書『ツァラトゥストラはかく語りき』の一節「怪物と闘う者は、その過程で自分が怪物にならぬよう注意せねばならない。深淵を臨(のぞ)くと、深淵がこちらを臨き返してくる」に由来する。ソリストが歌う歌詞が、特定の事件(すなわち9.11)や世俗そのものを超越し、ある種の箴言(しんげん)のように響いてくる。
IV. Beyond the World
3楽章版の《The End of the World》が2009年のアルバム『Minima_Rhythm』に収録された際、久石自身の作詞によるラテン語の合唱パートが新たに加えられた。「世界の終わり」の不安と混沌が極限に達し、同時にそれがビッグバンを起こすように「生への意志」に転じていくさまを、11/8拍子の複雑な変拍子と絶えず変化し続ける浮遊感に満ちたハーモニーで表現する。楽章の終わりには、第1楽章に登場したチューブラー・ベルズの”警鐘”のリズム動機が回帰する。
Recomposed by Joe Hisaishi:The End of the World
原曲《この世の果てまで》の歌詞の内容は、作詞者シルヴィア・ディー(Sylvia Dee)が14歳で父親と死別した時の悲しみを綴ったものとされている。久石がこのヴォーカル・ナンバーを組曲の終わりに付加した理由のひとつは、この曲のメロディーが持つ美しさを久石が高く評価していたからである。このように、パーソナルな思いを表現した世俗曲や民謡のメロディーを、シンフォニックな大規模作品の中に引用する手法は、久石が敬愛するマーラーの作曲の方法論に通じるものがあると言えるだろう。愛する者を失った悲しみをエモーショナルに歌うソリストと、その嘆きを温かく包み込むコーラスの背後で、チューブラー・ベルズのリズム動機がかすかに聴こえてくるが、その響きは今までの恐ろしい”警鐘”から、祈りの”弔鐘”へと変容を遂げている。最後に、チューブラー・ベルズが”希望の鐘”を静かに暗示しながら、全5楽章の組曲全体が安らかに閉じられる。
このような構造に加え、先に紹介したライヒの発言にもあるように、音楽にはテキストの内容が色濃く反映されている。具体的を挙げると、第2楽章と第4楽章の歌詞は、ライヒ自身の音楽とその聴取態度を自己言及的に表現したテキストとして歌われる。合唱が「半分ほど目を閉じてみよう。目で聴くわけではないのだから」と歌うのは、1970年代にライヒの音楽に対して貼られた「睡眠音楽」「トランス音楽」というレッテルに対する反論である。これに対し、半音階を多用した暗い第3楽章では音楽外の問題、すなわち原爆が扱われている。それを端的に表しているのが、第3楽章のIIIAとIIICで歌われる「ようやく願望を実現した以上、人類は願望を変えるか滅びるしかない」という黙示録的な歌詞であり、IIICでヴィオラが演奏するサイレン音すなわち”警報”である。そして、合唱がIIIBで「音楽の基本はテーマの繰り返しだ」と歌い始めると、音楽は”カノン地獄”と呼びたくなるような凄まじい対位法(カウンターポイント)に突入し、やがてカノンは「現状の解決」すなわち「解決すべき現実の諸問題 the facts to be resolved」という言葉を扱い始める。つまり、「繰り返し」を続けるライヒのミニマル・ミュージックと同様、たとえ難しくても、人類は「諸問題」に厭くことなく向き合っていかなければならないという言外の意味がそこに込められている。
リハーサルも約1週間をかけて行われています。今年は「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.11」との2週にわたるスペシャル・ウィーク、期間中リハーサルも同時進行で行われたことがSNS記録からわかります。頁末にまとめています。あとでゆっくり楽しんでください。
久石譲:The End of the World
今でこそ交響曲第1番~第3番と発表している久石譲ですが、その前までは多楽章からなるシンフォニー作品が交響曲ばりの大作とファンのなかでは位置づけられていました。その中の重要な一作品「The End of the World」です。これまでの変遷や楽曲解説は素晴らしくきれいにまとめられています、いつでも上に戻ってご覧ください。
エラ・テイラーさんは、ジブリ・スクリーンコンサート「JOE HISAISHI SYMPHONIC CONCERT: Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki」2023年ロンドン、2024年パリ、ドイツなどで共演を重ねています。押しつけることのないまっすぐな歌声と、息が立ち上がる瞬間から息が切れるところまでの繊細さや胸が高鳴ってくる力強さまで、ずうっと聴き惚れていました。ほんと心に沁みました。
「The End of the World」過去一の名演でした。たしかに作品の進化に合わせて2009-2010年、2015年と演奏頻度もそう多くはありません。ここにきて作品のもつ巨大な存在感や久石譲作品において極めて極めて!重要な一作品であることをまた思い知らされました。正直どちらがプログラム先行後行でも良かったんじゃないかと思えるほど甲乙つけがたい。どちらも約40-45分ならなる久石譲作品とスティーヴ・ライヒ作品、とてつもないバランスで拮抗していたと感じています。作品が終わってもすぐに拍手をすることが出来ないほど息をのむ緊張感と凄みがありました。
from [Steve Reich] The Desert Music (Score-Video) YouTube
作品のことは語れるほどないのが残念です、大人しくしゃべりません。久石譲ファンから感じたことだけ言わせてもらいます。「The End of the World」と「砂漠の音楽」、同じようなリズム動機も登場するし同じようなハーモニーを響かせたりもします。また、久石譲は両作品とも現代的アプローチで臨んでいるから、ダイナミズムやアクセントの表現も共通点を感じる場面が幾度あります。そこで突如現れてきたのが、「砂漠の音楽」を演奏しているのに表裏一体で「The End of the World」が浮かび上がってくるという瞬間です。そう感じたことに驚嘆しました。
この二つの作品には、同じミニマル作家として共鳴している音楽的素材があります。平たく言うと、このフレーズとか和音って久石譲のほうにもあったよねというのを、そんなことはわかっていると言わんばかりに、久石譲はそれを躊躇することなく堂々とした指揮で導き共振させています。意図的に「The End of the World」を連想させたということではありません。本公演の二つのプログラムが一体化して本日の大きなメインディッシュとなっていると感じたからです。これには唸らざるを得ません。久石譲の作曲家/指揮者として築きあげてみせた巨大構造物に驚嘆したのです、という息は荒いけどちょっと伝わりにくいかもな感じたことでした。
久石譲は過去にもスティーヴ・ライヒ作品を演奏会で取り上げています。2015年には「エイト・ラインズ」(『久石譲 presents MUSIC FUTURE 2015』ライブ音源収録)を、2016年には「シティ・ライフ」(『久石譲 presents MUSIC FUTURE II』ライヴ音源収録)を。またMUSIC FUTURE海外公演などではミニマルのリズムをわかりやすく紹介する「クラッピング・ミュージック」をイントロダクションに置いたり、2024年10月には日本センチュリー交響楽団定期演奏会にて「デュエット~2つの独奏ヴァイオリンと弦楽オーケストラのための」がプログラム予定になっています。
終演後、拍手は鳴りやまず久石さんは何回も何回もカーテンコールに応えてくれました。待望の久石譲「The End of the World」再演、そしてスティーヴ・ライヒ「砂漠の音楽」日本初演、プログラムの満足感は観客の大きな拍手となって跳ね返りました。
本公演はライブ配信はなし、記録用カメラのみです。こんな公演が会場に来た人だけしか味わえないなんて心から残念です。それは置いといたとしても、それは記録しないとダメでしょう、というか新聞からクラシック音楽誌までメディアはちゃんと取材に来てるんですか、ちゃんとプレス招いているんですか、そんな余計なお世話を一人ピリピリしていました。だって、そのくらい久石譲にとっても歴史的な公演です。しっかり各方面に取り上げてもらって一ページに刻んでほしいところです。そうして、そうして広く知れ渡ったその先に音源化や映像化を強く切望します。あとはあとは、FUTURE ORCESTRA CLASSICSで久石譲作品「The End of the World」「Sinfonia」「Oribis」あたりをしっかり録音するっていうのは、結構あり得てほしい期待値膨らみます。古典作品から現代作品まで培ってきたFOCの成果を久石譲作品で照らし返してほしい、心から願っています。
会場のCD販売コーナーでは、『JOE HISAISHI IN VIENNA』CD/LPと『久石譲 FOC シューベルト交響曲第7番・第8番』購入者《先着60名限定サイン会》もありました。先のMFコンサートで念願のサイン会再開となりましたが、どちらのコンサートも海外客も多いです。サイン会もそうなるから英語話せるスタッフさんをと大変です。予想もしていなかったギフトに日本土産に貴重ですね。本公演では久石譲さんの他、近藤薫さん(ヴァイオリン)向井航さん(チェロ)高島拓哉さん(オーボエ)もサイン会に参加いただいたようです。事前告知も予告もありません。行ったらわかるラッキーなチャンスこれからまたあるといいですね。
MUSIC FUTUREでは、久石譲の編曲による「2 Pages」も演奏されます。この曲は、音楽の素材を大幅に削ぎ落としていた時期のものです。実際、この曲には5つの音しかありません。新しい表現言語を発展させていた頃の作品です。久石氏の編曲は、音楽に新たな命や新たな色彩を音楽にもたらします。それはもともと意図されていなかったものかもしれませんが、そうした色彩や彼のエネルギーを歓迎します。
第2楽章は、聴きながら元となったピアノソロを一番想像しやすかったかもしれません。この楽章もモチーフが変容していきます。雰囲気的には、「The Black Fireworks II.Passing Away in the Sky」や「2 Dances II.Step to heaven」あるいは「2 Pieces II.Fisherman’s Wives and Golden Ratio」あたりを連想する場面もあります。これは音楽的アプローチや手法につながりがあり、そこからくる響きも影響していると思います。タイトルを考察するなら、3拍子を基調としていることからもScherzo(スケルツォ)とか、舞曲的側面もあるような気がしています。次の情報が待たれるところです。
第3楽章 Toccataは、強烈な最強音から始まります。スタジオジブリ音楽に馴染みがある人はすぐに「絶望」(映画『かぐや姫の物語』より)が頭を過るかもしれません。力強いパッセージが縦横無尽に飛び交っていきます。シンコペーションの効いたリズミックな旋律にワクワクします。ホルンの粒の細かい音型の繰り返しは「The Border Concerto for 3 Horns and Orchestra」(2020/『Minima_Rhythm IV ミニマリズム 4』収録)を連想する瞬間もあります。【トッカータ(伊: toccata)とは、主に鍵盤楽器による、速い走句(パッセージ)や細かな音形の変化などを伴った即興的な楽曲で、技巧的な表現が特徴。(Wikipediaより)】
久石譲の室内交響曲第1番は「Chamber symphony for Electric Violin and Chamber Orchestra」(2015/『久石譲 presents MUSIC FUTURE 2015』収録)、室内交響曲第2番は「”The Black Fireworks” for Bandoneon and Chamber Orchestra」(2017/『久石譲 presents MUSIC FUTURE III』収録)です。
MUSIC FUTURE BANDは久石譲の呼び掛けのもとコンサートのために集結する変動型スタイルです。今年も顔なじみのコアメンバーを始め、錚々たる顔ぶれが一堂に会しています。MUSIC FUTURE初参加となる郷古廉さん(ヴァイオリン)は、映画『君たちはどう生きるか』の音楽収録でもFutune Orchestra Classicsのゲスト・コンサートマスターを務めていました。プログラムごとにステージ・セッティングも行われ、多彩な編成で観客の脳と耳をダイレクトに刺激してくれます。
今年は「JOE HISAISHI MUSIC FUTURE SPECIAL 2024」と題してMUSIC FUTURE(MF)とFUTURE ORCESTRA CLASSIC(FOC)が2週にわたって開催されるスペシャル・ウィークです。MF本公演から「On the Nature of Daylight」は当時イラク戦争へのプロテスト・ミュージックでもあります。「Breathless」は平等を音楽的アプローチから構築したものであり、そこからくる響きは前半は集団で融合し後半は個性をもって分離していくようにも感じました。次週のFOC公演はスティーヴ・ライヒも久石譲も核問題やテロをテーマにした作品が並びます。今年は、MFもFOCも戦争がテーマなのでしょうか。
プログラム順に弦10型、弦12型、弦16型とオーケストラは拡大しています。なんとなく少し増えたのかな、みたいな数字の変化に感じますけれど、実際には弦10型と弦16型、ストリングスで2倍近く増えています。「I Want to Talk to You」で30人くらいだったのが「春の祭典」では60人くらいの弦楽奏者。ティンパニも二人いるなんてそうそうお目にかかれない。このあたりのことは下のレポートにも書いています。人間のもつ原始的で本能的なエネルギーの爆発をむき出しの指揮さばきで。伝わったり伝わらなかったりする感想もぜひご覧ください。
「GQ MEN OF THE YEAR 2023」レジェンダリー・ミュージシャン賞を久石譲が受賞しました。そのトピックからWEB・SNS・雑誌などメディアに登場しています。ここでは雑誌「GQ JAPAN 2024年1・2月合併号」(12月1日発売)とWEB(12月9日公開)に掲載された久石譲インタビュー(同一)内容をご紹介します。
2023年4月にはクラシック界最高峰のレーベル「ドイツ・グラモフォン」と契約し、6月には、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団とのCD『A Symphonic Celebration – Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki』が発売。米ビルボードのクラシック部門とクラシッククロスオーバー部門で1位になるなど、クラシックCDとしては異例の売り上げを記録した。音楽で世界を旅している彼には、思いがけない体験も訪れる。
GQ最新号の特集は「MEN OF THE YEAR 2023」! 役所広司や安藤サクラ、Mrs. GREEN APPLE、新しい学校のリーダーズ、ヌートバーなど11組の受賞者を発表! 表紙は3パターンあり
12月1日(金)発売の『GQ JAPAN』1月&2月合併号は、恒例の「GQ MEN OF THE YEAR 2023」! 今年もっとも輝いた受賞者たちを写真とインタビューで大特集した。栄えある受賞者は、新しい学校のリーダーズ、安藤サクラ、桑田悟史(SETCHU)、ヒコロヒー、久石譲、BRIGHT、Mrs. GREEN APPLE、役所広司、山田裕貴、吉田正尚、ラーズ・ヌートバーの11組。インタビュー記事と撮り下ろし写真は必読・必見だ! 表紙は、通常版と2種類の特別表紙版の3パターン。
*表紙は3種類(GQ JAPAN 1・2月合併号、GQ JAPAN 1月号 増刊特別表紙版、GQ JAPAN 2月号 増刊特別表紙版)あり、それぞれに1面に登場する受賞者が異なります。
発表! GQ MEN OF THE YEAR 2023
日本で18回目を迎えた「GQ MEN OF THE YEAR」に、2023年、圧倒的なパワーと存在感を放った受賞者たちが登場。新しい学校のリーダーズ、安藤サクラ、桑田悟史(SETCHU)、ヒコロヒー、久石譲、BRIGHT、Mrs. GREEN APPLE、役所広司、山田裕貴、吉田正尚、ラーズ・ヌートバー〈※五十音順〉の11組が、これまでの活動を振り返りながら、自身の仕事観や未来について語った貴重なインタビューは必読だ。さらに、今回『GQ JAPAN』が特別に撮り下ろした、スペシャルポートレイトもお見逃しなく。
それから年が明け、(2022年)1月5日に宮﨑さんが、僕の仕事場に来られました。あの日は宮﨑さんの誕生日で、僕は毎年、曲を書いて二馬力に持って行くんですが、その時に作った曲が、眞人のテーマ曲ともいえる「Ask me why」だった。この段階では、僕は絵コンテも映像も観ていません。でも、宮﨑さんがその曲をすごく気に入られて、後日「宮﨑さんが『これってテーマ曲だよね』と言っていた」ということを伝え聞きました。それを聞いて、しまった、と(笑)。宮﨑さんって刷り込みの人だから、一度曲を聴いて「いい」というスイッチが入ってしまったら変更が利かない。僕自身は、映像を観てからテーマとなる曲を書くつもりだったけれど、こうなっちゃったらもう、戻れない。覚悟を決めました。
11月15日、映画の主要なシーンに10曲ほどの音楽を仮付けしたものを、宮﨑さんと鈴木さんに聴いてもらいました。映像を見ながらじっと音楽を聴いていて、眞人の部屋の机の上に積まれていたあの本(『君たちはどう生きるか』)が床に落ちて、表紙の内側に母の文字が見えたところに「Ask me why」が被さった時、宮﨑さんが涙を流されたということがありました。「これでいいです」と言って頂いて。修正やリテイクもなく、その段階で直しをお願いされたものは1曲もありませんでした。