Blog. 「久石譲 presents ミュージック・フューチャー Vol.1」 コンサート・パンフレットより

Posted 2014/10/02

先日久石譲が新しいコンサート・シリーズ企画として始動した「ミュージック・フューチャー Vol.1」 が開催されました。これまでの久石譲作品コンサートとも、クラシック企画コンサートとも一線を画した新しい試みのコンサート企画です。ズバリ、現代音楽中心の構成です。

 

 

まずはセットリストから。

久石譲プレゼンツ「ミュージック・フューチャー vol.1」

[公演期間]
2014/9/29

[公演回数]
1公演(東京・よみうり大手町ホール)

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
ヴァイオリン:近藤薫 / 森岡聡 ヴィオラ:中村洋乃理 チェロ:向井航
マリンバ:神谷百子 / 和田光世
Future Orchestra 他

[曲目]
久石譲:弦楽四重奏 第1番 “Escher” ※世界初演
第1楽章「Encounter」
第2楽章「Phosphorescent Sea」
第3楽章「Metamorphosis」
第4楽章「Other World」
ヘンリク・グレツキ:あるポーランド女性(ポルカ)のための小レクイエム

– interval – (休憩)

久石譲:Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas ※世界初演
アルヴォ・ペルト:スンマ、弦楽四重奏のための
アルヴォ・ペルト:鏡の中の鏡
ニコ・ミューリー:Seeing is Believing

 

 

今回のコンサートではアンコールはなかったようですが、それでも通常のコンサートとは一味違うとても贅沢な空間だったようです。なによりもアンサンブルのレベルが高く、500席という小規模ホールにて至福の音楽を堪能できる内容。

久石譲作品である「弦楽四重奏 第1番 “Escher”」「Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas」久石譲ピアノ参加はなく、アンサンブル演奏となっています。アルヴォ・ペルト「鏡の中の鏡」はピアノ&チェロ版での演奏、こちらは久石譲によるピアノです。

Future Orchestra(14名)と名づけられたこのためだけの楽器編成もあり、弦楽四重奏やマリンバだけでなく、小編成でありながらも、フルートやクラリネットなど管楽器も加わった大所帯なアコースティック・コンサート。

 

コンサート・プログラムには作曲家ニコ・ミューリーからのコメントも寄せられ、今回のコンサートとシリーズ化への期待が高まります。なによりも、世界初演となった久石譲作品の2曲、今後ますますお披露目の機会が増えるのか、CD作品として発表されるのか、期待しながら目が離せません。

今回のコンサートレポートは、当日コンサートに行かれた方からの貴重な情報をもとにまとめさせていただきました。至福の音楽空間、うやらましい限りです。ありがとうございました。

 

 

【曲目解説】

久石譲(1950-)
弦楽四重奏曲第1番「Escher」(世界初演)
2012年に東京で開催された「フェルメール 光の王国展」のために久石が書き下ろした室内楽曲《Vermeer & Escher》から4曲を選び、弦楽四重奏曲として新たに構成・再作曲した作品。久石は作曲活動の初期から、画家マウリッツ・エッシャーのだまし絵〈錯視絵〉がもたらす錯視効果と、ミニマル特有のズレがもたらす錯聴効果の類似性に強い感心をいだき、「だまし絵」をタイトルとする楽曲を発表している。エッシャーの版画さながらに線的なラインで構成された弦楽四重奏が、久石ミニマルのエッセンスを凝縮して表現した作品。

第1楽章「Encounter」
冒頭のユニゾンで提示される主題を基にした、ユーモアにあふれるズレの遊戯。

第2楽章「Phosphorescent Sea」
グリッサンドの弦の波、それに夜のミステリアスな音楽で表現された「燐光を発する海」の情景。

第3楽章「Metamorphosis」
厳格かつ対位法的な音楽で表現される、ズレの「変容」の過程。

第4楽章「Other World」
13/8拍子という珍しい拍子を持ち、オクターヴを特徴とする反復音形が中心となる終楽章。オリジナル版では、全音階の人懐こいモティーフが静かに登場した後に、コーダを迎えるが、今回の弦楽四重奏版ではそのモティーフを中心とする新たなクライマックスが築き上げられるなど、大幅な改訂が加えられている。

 

Shaking Anxiety and Dreamy Globe  for 2 Marimbas (世界初演)
原曲は2台のギターのために書かれたHakujiギターフェスタ委嘱作《Shaking Anxiety and Dreamy Globe》(2012年8月19日、荘村清志と福田進一により初演)。曲名は、アメリカの詩人ラッセル・エドソン(1935-2014)が生命の宿る瞬間を表現した一節に由来する。躍動感あふれるミニマルの反復と複雑な変拍子を用いた原曲の構成を踏襲しながら、今回の新版ではマリンバの第1奏者がグロッケンシュピールを、第2奏者がヴィブラフォンを兼ねることで、より多彩な音色を獲得している。「dolente(悲しみを込めて)」と記された第208小節からのセクションでは、繊細かつ清麗な響きを奏でるグロッケンとヴィブラフォンがききどころ。

 

ヘンリク・グレツキ(1933-2010)
あるポーランド女性(ポルカ)のための小レクエイム(1993)
《交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」》の大ヒット後にグレツキが発表した作品だが、具体的に誰を追悼したレクイエム(鎮魂歌)なのか、作曲者はいかなる解説も残していない。ドイツ語の原題《Kleines Requiem Für eine Polka》に含まれる”eine Polka”は、民俗舞曲”ポルカ”とも、あるいは”1人のポーランド女性”とも解釈できるので、おそらくダブルミーニングを狙ったものと推測される。1993年6月12日、ラインベルト・デ・レーヴ指揮シェーンベルク・アンサンブルによりアムステルダムで初演。

第1楽章「Tranquillo」
弔鐘が厳かに響く中、ピアノとヴァイオリンが慰めに満ちた主題を導入する。突如として悲しみが絶頂に達し、再びピアノとヴァイオリンの静かな音楽に回帰する。

第2楽章「Allegro impetuoso-marcatissimo」
ピアノが打楽器的にリズムを刻む中、管弦楽が強迫的な主題を反復する。トランペットが悲痛な叫びをあげた後、クラリネット、ホルン、ピアノによる葬送音楽と弦楽のコーダが続く。

第3楽章「Allegro-deciso assai」
ブラックユーモアにあふれたポルカ風の舞曲。管弦楽が、何かにとり憑かれたように舞曲を踊り続ける。

第4楽章「Adagio cantabile」
弔鐘が再び鳴り、安堵の満ちた祈りの音楽で全曲が閉じられる。

 

アルヴォ・ペルト(1935-)
スンマ、弦楽四重奏のために(1977/1991)
「スンマ」とは”大全”の意。もともとはラテン語の信仰宣言(クレド)を歌詞に用いた無伴奏混声四部合唱曲として作曲された。本日演奏されるのは、ペルトがクロノス・クァルテットのために編曲した弦楽四重奏版。参考までに、原曲の歌詞の冒頭部分の大意を掲載する。
「我は唯一の神を信ず/全能の父にして、天と地の創造主、見えるものと見えざるものすべての創造主を/我は唯一の主、イエス・キリストをを信ず/神のひとり子にして、世に先駆けて父よりお生まれになった主を/神の中の神、光の中の光、まことの神の中のまことの神/作られずしてお生まれになり、父なる神と一体となり/すべては主によりて作られた」(訳:前島秀国)

 

鏡の中の鏡(1978)
ペルトが故国エストニアから西側に亡命する直前に書いた作品。それまでの西洋音楽の調性システムと機能和声に頼らず、鏡の響きを思わせる三和音からメロディとハーモニーを定義し直したティンティナブリ様式(鈴鳴り様式、鐘鳴り様式)と呼ばれる作曲技法で作曲されている。原曲はヴァイオリンとピアノのための二重奏で、指揮者/ヴァイオリニストのウラディーミル・スピヴァコフに献呈された。聴く者の心を安らかにする三和音が微妙に色合いを変えながら、合わせ鏡のような無限のイメージを生み出していく。今回の演奏ではチェロとピアノの二重奏版を使用。

 

ニコ・ミューリー(1981-)
Seeing Is Believing(2007) (日本初演)
曲名は「百聞は一見に如かず」の意。通常の4弦ヴァイオリンより2弦多い、6弦エレクトリック・ヴァイオリンがループペダル(ループマシーン、ルーパー)をを使って自己の演奏音を反復再生するという特殊なテクニックが用いられている。作曲者自身の解説によれば、空に点々と浮かぶ星々を線をつないで星図を描いていくように、エレクトリック・ヴァイオリンがオーケストラという”空”の中で”星図”を描いていく作品で、1980年代に制作された科学教育ビデオの伴奏音楽を意識しながら作曲したという。2008年1月7日、トーマス・グールド(独奏ヴァイオリン)とニコラス・コロン指揮オーロラ・オーケストラによりロンドンにて初演。

TEXT:前島秀国 (サウンド&ヴィジュアル・ライター)

(【曲目解説】 ~コンサート・パンフレットより)

 

 

オリジナル作品「Vermeer & Escher」
久石譲 『フェルメール&エッシャー』

「Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas」
和訳「揺れ動く感情と夢の形態」
※コンサート内での久石譲コメントより

 

 

2014年夏に開催された「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」そのパンフレットに収められた久石譲インタビューを紹介します。

 

ABOUT
MUSIC FUTURE

日本を代表する作曲家、久石譲が最先端の現代の音楽を紹介するコンサートを仕掛ける。

「欧米に比べ、日本では現代の音楽が演奏される機会が極めて限られている。難解、取っつきにくいというイメージでとらえられてしまうのがネックとなっているようだが、本当にそうなのだろうか。現代に書かれた優れた音楽を紹介することで、そういった先入観を変えるきっっかけにしたい」

そんな思いが発端となった。「1回限りの公演ではなく、現代の音楽に触れられる場としてシリーズ化したい」と構想が膨らみ、その第1弾がついに実現する。

初回は久石自身のルーツと言えるミニマル音楽に焦点を合わせる。国立音楽大学時代、テリー・ライリーやスティーヴ・ライヒらが作り出した最小限の音楽を繰り返すミニマル音楽に、「何だこれは」と衝撃を受けた。1981年のデビュー・アルバム「MKWAJU」はこのスタイルを踏襲している。壮麗な映画音楽で大成功を収めた後も、「Shoot The Violist」(2000)や「Minima_Rhythm」(2009)など、ミニマル色の強いアルバムを出してきた。「折に触れて自分の原点を突き詰めたいという欲求が湧いてくる」のだという。

「現代音楽が生んだスタイルの中で、ミニマル音楽は、ポピュラーを含めその後の音楽に最も大きな影響を与えてきたと言えるんじゃないでしょうか。今回取り上げる作曲家にもはっきりその痕跡が刻まれている」

エストニアのアルヴォ・ペルトやポーランドのヘンリク・グレツキはミニマルとともに教会音楽からの影響が色濃い。「戻るべき伝統と精神的よりどころを持つ彼らヨーロッパの作曲家には羨望を覚える」と語る。ペルト作《鏡の中の鏡》では、久石がピアノを演奏する。両巨匠に加え、30代のニコ・ミューリーも取り上げる。「映画音楽もオペラも、ビョークと共演するなど、ジャンルの壁を感じさせない活動は共感できる。まさにポスト・クラシカルの新星だ」と評する。

自作曲も披露する。オランダの画家、マウリッツ・エッシャーのだまし絵をイメージした《弦楽四重奏曲 第1番「Escher」》と、「エモーショナルなミニマル音楽」だという《Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2Marimbas》で、いずれも世界初演となる。「この2曲を収録したアルバムも作りたい」と意欲を見せている。

(コンサートパンフレットより)

 

 

PROFILE of COMPOSERS
作曲家 プロフィール

ヘンリク・グレツキ(1933-2010)
ポーランド・チェルニツァ生まれ。小学校教師を勤めながらカトヴィツェ音楽院で作曲を学び、パリでシュトックハウゼンやブーレーズらの前衛音楽の影響を受ける。その後、ペンデレツキと並ぶポーランドきっての現代作曲家として頭角を現すが、1970年代に入ると伝統的な調性音楽に回帰し、反復語法を用いた宗教色の強い作品を作曲するようになった。15世紀ポーランドの哀歌とゲシュタポ収容所に書き残された言葉を歌詞に用いた《交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」》(1976)は、作曲から16年を経た1992年に突如として大ブレイク。全英ポップスチャート第6位、ビルボード・クラシック・チャート38週連続第1位にランクインし、数百万枚とも言われる現代音楽史上空前のCDセールスを記録した。ペルト、ジョン・タヴナーらと共にホーリー・ミニマリズム(聖なるミニマリズム)を代表する作曲家のひとり。遺作は今年4月ロンドンで初演された、グレツキの反復音楽の集大成というべき《交響曲第4番「タンスマンのエピソード」》(2010)。

アルヴォ・ペルト(1935-)
エストニア・パイデ生まれ。エストニア放送のサウンド・プロデューサーを努めるかたわら、先鋭的な現代音楽を禁じられていた旧ソ連支配下のエストニアで前衛作品を発表。70年代に入ると作曲に行き詰まりを感じ、創作活動を中断してロシア正教に改宗。中世・ルネサンス期の聖歌や古楽を学びながら伝統に回帰し、70年代後半からティンティナブリ様式と呼ばれる作曲技法で西洋音楽のあり方を問い直す。80年代に入ると、スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスらのアメリカン・ミニマル・ミュージックと共通する反復語法が注目を集めるようになり、現在ではホーリー・ミニマリズムを代表する作曲家とみなされている。クラシック、オペラ、バレエ演奏のデータベースサイト「Backtrack.com」の統計によれば、ペルトは2013年に最も多く演奏された現役作曲家第1位(現役第2位はジェームズ・マクミラン、現役第3位はジョン・ウィリアムズ)にランクイン。過去の作曲家も含めた演奏回数ランキング(第1位モーツァルト、第2位ベートーヴェン、第3位バッハ)では、ペルトは第38位にランクインしている。

ニコ・ミューリー(1981-)
バーモント州生まれ。コロンビア大学とジュリアード音楽院で学び、ジョン・コリリアーノに作曲を師事した後、フィリップ・グラスのアシスタントを務める。2006年にはビョークから直接の依頼を受け、DVDシングル『Oceania』のピアノ・アレンジを担当。翌年には名プロデューサー、ヴァルケイル・シグルズソン率いるBedroom Communityレーベルからデビューアルバム『Speaks Volumes』を発表し、ポスト・クラシカルの新しい才能として一躍脚光を浴びる。2011年にはメトロポリタン・オペラから作曲委嘱を受けたオペラ《Two Boys》を初演するなど、いまアメリカで最も注目を集めている若手作曲家のひとり。映画音楽での代表作に『愛を読むひと』(2008)や『キル・ユア・ダーリン』(2013、DVD公開)など。ザ・ナショナル、オーラヴル・アルナイズ、ヒラリー・ハーンなど、同世代のアーティストとのコラボも多い。

(作曲家プロフィール ~コンサート・パンフレットより)

 

 

上記紹介した久石譲インタビューにもあるように、長い歴史の久石譲音楽活動において原点とも言えるミニマル・ミュージックは、年代ごとにその代表作を発表してきていることがわかります。

エンターテイメント音楽としての映画音楽やCM音楽のかたわら、自身のルーツや音楽性、そのバランスをとるかのように、芸術性の高いオリジナル作品(とりわけミニマル音楽も色濃く反映)を発表しています。

2015年の久石譲の音楽活動、その方向性を導くかのうような今企画。このミュージック・フューチャーが布石となるのでしょうか。新しい幕開けへと、確証はないですが勝手に胸踊っています。

 

最後に、YOMIURI ONLINEが掲載したコンサートレポートのご紹介と、コンサートの模様をおさめた貴重な写真です。

こちら ⇒ 久石譲がコンサート…“現代の音楽”ナビゲート 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

「ミュージック・フューチャー Vol.1」に関する久石譲関連ページや、アルヴォ・ペルト作品を動画視聴で紹介したページなどは、下記ご参照ください。

 

久石譲 ミュージック・フューチャー Vol.1

 

Related page:

 

Blog. 久石譲 「風の谷のナウシカ」 インタビュー ロマンアルバムより

Posted on 2014/09/27

1984年公開 スタジオジブリ作品 宮崎駿監督
映画「風の谷のナウシカ」

映画公開と同年に発売された「ロマンアルバム」です。インタビュー集イメージスケッチなど、映画をより深く読み解くためのジブリ公式ガイドブックです。今では復刻版としても登場していますし、さらに新しい解説も織り交ぜた「ジブリの教科書」シリーズとしても刊行されています。

今回はその原本ともいえる「ロマンアルバム」より、もちろん1984年制作当時の音楽:久石譲の貴重なインタビューです。

 

 

「ナウシカを通して音楽を入れてみました」

-久石さんはシンセサイザーによるイメージアルバム、オーケストレーションによるシンフォニー、そしてサントラ盤のBGMと3種類の「ナウシカ」の音楽を作られていますね。

久石:
「そうです。まあ、モチーフとかメロディーは同じですけれども。最初のイメージレコードは昨年の8月から9月にかけて、原作を読んでそこから発想した音を作り上げていきました。シンセを中心にしてケーナ(笛の一種)とかターブラ(太鼓)、ダルシマ(ピアノの原型)といった民族楽器を使っています。

次のシンフォニーが11月から12月にかけての制作で、そのすぐあとにBGMのスコアを書き始めました。ぼくとしては一つのモチーフで3種類もレコードを作ったのは初めてですよ。だいたい映画のBGMまでずっと手がけるようになるとは予想していませんでしたからね。ぼくの場合はスタジオ入りの前の晩に作曲するとか、時には録音の合間に作ってしまうというやり方をしてるんで『ナウシカ』のメイン・テーマなんかもあまり苦労せずに作った感じなんですね。それが幸いにもスタッフの方たちに好評で、シンフォニーを作って、さらに映画までまかせていただいたわけで、大変幸せだと思っています」

-宮崎さんはイメージレコードが先にあったので、このシーンはこういう音楽がつくだろうというのがある程度わかっていたから、大変助かったとおっしゃっていましたね。

久石:
「いやあ、宮崎さんもそうですし特に高畑さんが音楽に大変くわしい方で、このお二人はもう異常に耳がいいみたいね(笑)。例えば最初に作った『腐海』という曲などは、後半に出てくるメロディーがドビュッシー的なので今度の映画には合わないんじゃないでしょうか──というくらいに突っこんだお話をなさるんです。曲のニュアンスがどうこうという点になると大変に熱心で、音楽の打ち合わせは毎回10時間くらい。えんえんとやっていましたよ(笑)」

-そうすると、実際に画面に流れるBGMの時が一番大変だったでしょうね(笑)。

久石:
「ええ。お二人ともメロディーはもう頭の中に入っているわけですから、じゃあこのテーマをもっと壮重な感じにして下さいとか、具体的な注文が次々に出てくるわけです。普通はある程度おまかせ的になるんですが、今回は音楽のイメージがはっきりしていますのでね」

-久石さんとしてはやりにくかった?

久石:
「ということではないんですが、大きな問題が二つあるんです。一つは、イメージが先行しテーマがたくさんありすぎるために、新しいイメージをつけ加えにくかったこと。出来上がった画面を見て、このシーンではもっとこういうふうにすればよかったとか、別のイメージが生まれてくる可能性も大きいわけですからね。それともうひとつは、作曲の段階ではオールラッシュをビデオにしたものを見ながら作っていったので、音がテレビ的に、小さな画面に合わせた感じになてしまうのではないかという危惧も生まれてきたんです」

-でも、劇場で見ると非常に映画的というか、拡がりを感じるんですが……。

久石:
「それは、そうしようと心がけましたから(笑)。でももう少しイメージを飛躍させてもよかったかなというところも、反省としてありますけどね」

-BGMとしてどこに一番注意なさいましたか?

久石:
「音楽のつけ方が普通の映画とは違う場所で入れているんですよね。感情の起伏につけるのではなく、状況的なものにつける。ユパが谷へ降りてくるシーンなんかで突然音楽が盛り上がっているでしょ?ああいうところで目いっぱい音楽を使って、そのかわりセリフの入るところや効果音の生きるところにはなるべくBGMを入れないというポリシーですね。

つまり、音楽をナウシカの目を通して入れているんです。ナウシカの感情につけるのではなく、ナウシカが見て感じるものに入れていったわけで、そうやってアニメの虚構の状況というものを浮き出させようとしたんです。わりと成功したんじゃないかと思いますよ」

(書籍「風の谷のナウシカ ロマンアルバム」より)

 

「ジブリの教科書 1 風の谷のナウシカ」(2013刊)にもオリジナル再掲載されています。

 

 

 

今から30年以上も前の作品です。

それにしては、ジブリ作品における音楽の在り方が、久石譲が音楽を担当したジブリ最新作 映画『かぐや姫の物語』(高畑勲監督)のそれと同じところも多いですね。

間違いなく映画音楽の扱われ方を変えた革命的作品、そして宮崎駿監督との奇跡の出会いによる記念すべき第1作『風の谷のナウシカ』。

今観ても、今聴いてもまったく色褪せることのないその理由が少しわかったようなインタビュー内容でした。

 

 

Related page:

 

風の谷のナウシカ ロマンアルバム

風の谷のナウシカ GUIDEBOOK 復刻版

 

Blog. 「久石譲&W.D.O. 2014」WOWOW放送内容 & CD「WORKS IV」詳細比較

Posted on 2014/09/24

2014年9月23日(火・祝)17:20~19:20
WOWOW放送

「久石譲 × 新日本フィルハーモニー交響楽団 WORLD DREAM ORCHESTRA」

内容

「世界中にすばらしい曲がたくさんある。ジャンルにとらわれず魅力ある作品を多くの人々に聴いてもらおう」という想いをテーマに、久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団が2004年に立ち上げた「新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」。ジャンルを超えた幅広い音楽性で人気を博した同楽団が、2011年8月の公演以来3年ぶりに復活。2014年8月に東京で行なわれたプレミアムな公演の模様をお届けする。
2013年には『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』という2本のジブリ作品に関わった久石譲。今回の公演ではそれらの楽曲をアレンジも新たな組曲として国内初演する(『かぐや姫~』の組曲は世界初演)ほか、2014年のベルリン国際映画祭で大きな話題を呼んだ『小さいおうち』の音楽も世界で初めて演奏。さらに「鎮魂の時」と題して、ペンデレツキの「広島の犠牲者に捧げる哀歌」、バッハの「G線上のアリア」などを演奏する。

8月9日にサントリーホールにて行われた公演初日の模様を18台のカメラによる迫力あふれる音楽でお届けします。そのほか、リハーサルでの様子や、久石によるインタビューなども盛り込まれる。

 

 

実際にWOWOW放送では、下記コンサートプログラム全11曲(アンコール含む)を完全ノーカットで、加えて久石譲のインタビューやリハーサル風景もまじえながらの永久保存版的内容でした。

[公演期間]
2014/8/9,10

[公演回数]
2公演(東京・サントリーホール / 東京・すみだトリフォニーホール)

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
バラライカ/マンドリン:青山忠
バヤン/アコーディオン:水野弘文(9日) 大田智美(10日)
ギター:千代正行

[曲目]
久石譲:交響ファンタジー「かぐや姫の物語」 ※世界初演
【鎮魂の時】
ペンデレツキ:広島の犠牲者に捧げる哀歌
バッハ:G線上のアリア
久石 譲:ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」

久石 譲:
バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲 ※日本初演
「小さいおうち」

【My Melodies】
「水の旅人」
「Kiki’s Delivery Service for Orchestra」 ※日本初演
「World Dreams」

—アンコール—-
One Summer’s Day (ピアノ・ソロ)
風の谷のナウシカ (鳥の人)

 

実際にコンサート会場で聴く体感や臨場感にはもちろんかないませんが、18台のカメラという様々なアングルで、曲やフレーズごとに、指揮、ピアノ、オーケストラ楽器たちそれぞれズームでフォーカスした、オーケストラを堪能できる迫力あるカメラアングルでした。

  • どんな表情で指揮しているんだろう
  • この曲のこのフレーズはこんな楽器が演奏していたのか
  • こういう楽器がこんな音を出すんだ
  • こんな演奏方法や指使いがあるんだ
  • 聴こえていないけれどこんな楽器もしっかり鳴っているんだ

さながらオーケストラ譜を視覚的にとらえているようなそんな贅沢な気分になります。

久石譲によるインタビューも、過去紹介してきた「W.D.O.2014」に関するものから新しい発言もあったりで。(これまでのインタビュー、久石譲が語ったWDO2014は最後に紹介しています)

なぜW.D.O.はその活動を休止して、今回3年ぶりに復活することになったのか。そのあたりのことが語られていました。要約して箇条書きで紹介します。

 

・世界中のいい音楽をオーケストラ作品として仕上げて発表していくことが当初コンセプトだった

・オーケストレーション(アレンジ)の作業に自分自身興味がなくなってきた

・自分の作曲やその曲のオーケストレーションはするけれど、他のものはやらなくなった

・コンセプト的に煮詰まってしまってそれでお休みしようと

・オーケストラが一般の人にもエンターテインメントとして楽しめて、かつひとつのテーマがある。1個は皆に訴えかけるもの、そういうコーナーをつくって、ベーシックは自分の曲を中心にやっていこうと。それで今回復活ということで始まった

・今回《広島の犠牲者に捧げる哀歌》に85%くらい時間をとられた

・クラシックコンサートのときもそうだが、自分の曲そっちのけでクラシック作品ばかり勉強するから、自分の曲が一番指揮が下手(笑)

・今年はノルマンディー上陸70周年、来年は日本終戦70周年。「どう生きるか」ということを、音楽を通じて感じてもらえれば。今年と来年は「鎮魂」というテーマで、…もし来年もやるんだったら(笑)、そういうテーマでやっていきたい

 

5分程度の短いインタビューでしたが、とても興味深い内容でした。最後は来年の構想もすでに!?と思わせてくれる爆弾発言的内容もあったりで。

演奏プログラムの詳細はすでにたくさん紹介していますので省略します。そしてここで!同じタイミングで「WORKS IV」の収録曲が決定しました。

 

久石譲 「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」

1. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~旅路(夢中飛行)~菜穂子(出会い)
2. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~カプローニ(設計家の夢)
3. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~隼班~隼
4. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~旅路(結婚)
5. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~避難
6. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~菜穂子(会いたくて)~カストルプ(魔の山)
7. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~菜穂子(めぐりあい)
8. バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~旅路(夢の王国)
9. Kiki’s Delivery Service for Orchestra (2014)
10. ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」
11. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~はじまり~月の不思議
12. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~生きる喜び~春のめぐり
13. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~絶望
14. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~飛翔
15. 交響幻想曲「かぐや姫の物語」~天人の音楽~別離~月
16. 小さいおうち

コンサートプログラムから上のような楽曲たちが選ばれたことになります。

 

実際にコンサートプログラムから外れている曲は、
久石譲作品ではない《広島の犠牲者に捧げる哀歌》 《G線上のアリア》と、

  • 「水の旅人」
  • 「World Dreams」
  • 「One Summer’s Day」
  • 「風の谷のナウシカ」(鳥の人)

という名曲たちではありますが、過去たくさんコンサートで演奏もされ、CD化もされている楽曲たちです。小さいことですが、WOWOW放送時もそうでしたが、「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」では、交響ファンタジー「かぐや姫の物語」 から交響幻想曲「かぐや姫の物語」 へとタイトル改訂されています。

 

まとめです。

WOWOW放送詳細
演奏プログラム(全11曲)および久石譲インタビュー

「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」CD収録曲決定
収録されないW.D.O.2014プログラムは?

追記
WOWOW放送は8月9日コンサート内容
「WORKS IV」収録曲は8月9日,10日両日からのベストテイク選曲

結論
今回のWOWOW放送内容は貴重な永久保存版

願望
Blu-ray/DVD化してほしい

 

という流れのことが言いたい、となります。

「水の旅人」も「World Dreams」も「ナウシカ」も「あの夏へ」も、コンサート定番曲ではありますが、演奏機会が多いだけに進化したかたちに発展しています。過去のCDだけにとめておくのはもったいないですよね。

過去の名曲たちも、今の久石譲によってとらえなおされ、オーケストレーションの修正、演奏方法の修正、演奏の向上、つまりは、今の久石譲によるベストテイクが披露されていることになります。

 

もし今回の放送を見逃した方は、

再放送:2014年10月19日(日)7:30-9:30 WOWOWライブ

公式サイト》》》
WOWOW公式サイト:「久石譲 × 新日本フィルハーモニー交響楽団 WORLD DREAM ORCHESTRA」

 

いよいよ「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」の全貌も明らかになりました。スタジオジブリの2大巨匠最新作が1枚のCDで楽しめる!「風立ちぬ」(宮﨑駿監督)「かぐや姫の物語」(高畑勲監督)サウンドトラックからの発展型組曲として音楽絵巻を楽しめる!小編成によるサントラから、フルオーケストラ作品への進化!ここが「WORKS IV」最大のセールスポイントというところでしょうか。

さらに、今月、来月と久石譲のコンサートはつづき(新しいプログラム!)、2014年は大晦日のジルベスター・コンサートで締めくくり予定です。

「WORKS IV -Dream of W.D.O.-」CDジャケットも更新しています。今回書いた内容をもっと知りたい方、深く掘り下げたい方は、下記ピックアップページなどを参考にしてください。

 

Related page:

 

久石譲 WDO2014 WOWOW

久石譲 WORKS IV

久石譲 WDO 2

 

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」 クラシックプレミアム編集部 ルポルタージュ

Posted on 2014/09/23

CD付 隔週刊マガジン「クラシックプレミアム」

久石譲による連載エッセイ「久石譲の音楽的日乗」も掲載された全50巻にもおよぶラインナップ(最終巻2015年11月予定)です。毎号ごとに久石譲のエッセイ内容は抜粋紹介しています。

そんななか「クラシック プレミアム 19 ~チャイコフスキー3~」では、久石譲の筆休め、編集部によるコンサートレポートでした。Blog. 「クラシック プレミアム 19 ~チャイコフスキー3~」(CDマガジン) レビューではすべてを紹介しきれませんでしたので、ここに完全版です。

リハーサルから本番まで、貴重な舞台裏とコンサートレポート、2014年夏復活した久石譲&W.D.O.の記録です。

 

 

ルポルタージュ 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2014を聴く

3年ぶりに久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団とによる「ワールド・ドリーム・オーケストラ」が復活。8月9日・10日に東京でコンサートが行われ、リハーサルから本番まで編集部が取材した。

【8月6日 13時30分 会場入り】

リハーサルの初日。今回のプログラムは、冒頭に久石さんの交響ファンタジー《かぐや姫の物語》(世界初演)が置かれ、第1部が「鎮魂の時」というタイトルの下、ペンデレツキ《広島の犠牲者に捧げる哀歌》、バッハ《G線上のアリア》、あとはすべて久石作品でヴァイオリンとオーケストラのための《私は貝になりたい》、《風立ちぬ》第2組曲(日本初演)、《小さいおうち》(世界初演)。第2部は「Melodies」として、久石作品の《水の旅人》、《Kiki’s Delivery Service for Orchestra》、《World Dreams》という構成である。

第1部の「鎮魂の時」という言葉に込めた特別な想いを感じる。世界初演、日本初演を含む久石作品の中で、《広島の犠牲者に捧げる哀歌》という表題が異彩を放つが、これはポーランドの作曲家ペンデレツキによる1960年の作品だ。8月6日は広島に原爆が投下されて69年目のまさにその日に当たる。13時55分、久石さんが大きな楽譜を抱えて登場。

【14時 リハーサル開始】

本番のプログラム順に練習するのかと思っていると、最初は《水の旅人》。久石さんが、団員たちに丁寧な言葉ながら、てきぱきと指示を与えていく。リズムの細部のニュアンスや、「このメゾ・フォルテなもっと弱く」のような強弱の微妙な調整、メロディーとハーモニーのバランスについては「ここはメロディーを立てて」、ティンパニには「もっとクリアな音を」など、どれも譜面だけでは読みとれないことばかりだ。それをひとつひとつ伝えていく作業の積み重ねで、指揮者のしごとはこんなにも大変なのかと実感。その後、第2部の作品を演奏していくが、あっという間に時間が過ぎる。14時52分から休憩。このあとほぼ1時間おきに休憩をはさんでリハーサルは進んでいく。

15時10分にリハーサル再開。《私は貝になりたい》から始まる。これはもうヴァイオリン協奏曲だ。ソロ・ヴァイオリンに聴き入る。途中、久石さんが弦楽器のクレッシェンド(だんだん弱く)の個所について話す。「これは第2次世界大戦の時、四国のある床屋さんのお話で、徴兵され時代に翻弄され……」。これまで、ずっと演奏の具体的な指示をしていた久石さんがこの音楽がつけられた映画のストーリーを語る。「ここでのクレッシェンド、デクレッシェンドは、時代の大きな波です……」。話の後、オーケストラの音は、確信をもってうねるような波を描き出し、久石さんは身体全体でOKの合図を送ったように見えた。こうやって音楽は伝わるのだ。

最後の休憩の後、《広島の犠牲者に捧げる哀歌》。強烈な不協和音に満ちたこの難曲は、通常の拍子と音符による楽譜ではないので、久石さんは1、2、3……と指で数字を示していく。曲の始まりから、団員たちのあいだに驚きと動揺が広がるが、久石さんはもつれそうになった糸を解きほぐすように冷静に指示していく。団員から次々に質問が発せられ、久石さんはそれぞれに即答。すでに久石さんの頭の中には、音楽は鳴り響いているのだ。最後に《G線上のアリア》を1回通してこの日のリハーサルは終了。18時59分。

【19時20分 楽屋へ】

楽屋を訪ねてみる。
「こんなプログラムをするって、チャレンジャーでしょ。エンターテインメントとみえるけど、かなり過激なことを試みているよね」
と久石さん。7日も同じ時間にリハーサルがあり、9日にゲネプロ(通し稽古)ののち、その日と翌10日の17時に本番だ。

【8月10日 本番を聴く】

最初の《かぐや姫の物語》では、6人の打楽器奏者が作り出す響きが衝撃的だった。リハーサルで久石さんが「ここはかぐや姫の狂乱の場。ここでかぐや姫が都を飛び出す」と言っていたところだ。次の《広島の犠牲者に捧げる哀歌》では今でも斬新なこの作品を、みな集中して聴いている。それが終わろうとして、一瞬の静寂が訪れると、そのまま《G線上のアリア》が静かに始まった。まさに混沌の中から、清冽な光が差してきたかのような瞬間だ。そして、変化に富んだシンフォニックな久石作品が続く……。

今回のプログラム全体が、壮大な交響曲のようだった。万雷の拍手。アンコールの《風の谷のナウシカ》が終わり、オーケストラの全員が舞台を降りても拍手は鳴りやまず、最後に久石さんが一人で舞台に登場し喝采に応えていた。

 

久石譲 WDO 4

(「クラシックプレミアム 第19巻」より)

 

Blog. 「クラシック プレミアム 19 ~チャイコフスキー3~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2014/09/20

「クラシックプレミアム」第19巻は、チャイコフスキー3です。

第7巻ではチャイコフスキー1として3大バレエ音楽、第11巻ではチャイコフスキー2としてピアノ協奏曲第2番 他、今号第19巻ではチャイコフスキー3として、交響曲 第6番 《悲愴》 幻想序曲 《ロメオとジュリエット》が収録されています。

チャイコフスキーの「後期3大交響曲」(第4番・第5番・第6番)のなかでも第6番《悲愴》はチャイコフスキーの最高傑作とされています。そしてチャイコフスキー生涯最後の交響曲です。

《悲愴》という副題は、ロシア語では”パテティーチェスカヤ”。これは曲が完成・初演されたのちに、チャイコフスキー自身と弟のモデストのふたりが話し合って決めたそうです。

”パテティーチェスカヤ”は、従来から多くのロシア音楽学者やロシア語の専門家が繰り返し指摘しているように、ロシア語では「情熱」「魂を揺さぶる」などを意味する言葉で、「悲しい」の意味は含まれない。その点で英語の「パセティック」や日本語の「悲愴」とはややニュアンスが異なる。

こうしたクラシック音楽の副題における言葉の表現や解釈の問題は、他の作曲家やポピュラーなクラシック音楽にもたくさんあります。

 

今号に収録されている《悲愴》はカラヤン指揮によるものです。カラヤンは同じ作品であっても何度も録音することでも有名ですが、そんななかでも録音回数が群を抜いているのがこの《悲愴》。チャイコフスキーの《悲愴》交響曲は、その生涯に7回も録音されていて、何か特別なこだわりを感じます。今号に収録されているのは最後の録音でウィーン・フィルとのもの。解説ではこう述べられています。

「こうして録音された《悲愴》の世界は、従来の名演の世界を超えたものであり、カラヤンが自身の信仰の告白をしているかのようですらある。息遣いがまったく異なり、カラヤンがまさに《悲愴》の世界に同化し、一言一句を自身の言葉として歌い上げている。しかもそれは、驚くべき空気感の中で行われており、その完成度の高さは、もはや名演と呼ぶのも似つかわしくない、凄みを感じさせる演奏なのである。」

「それは冒頭の低弦の響き、そこに姿を現すファゴットの旋律の重い表情といったものから容易に感じられる。それは魂の告白とでも言えるものであり、ここにいたってカラヤンは一指揮者から脱皮し、音楽の心と結ばれた本当の表現者になったとも考えられる。」

 

【収録曲】
交響曲 第6番 ロ短調 作品74 《悲愴》
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1984年

幻想序曲 《ロメオとジュリエット》
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1982年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第19回は、
ルポルタージュ 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2014を聴く

今回は久石譲によるエッセイの筆休め。

なんと編集部による「W.D.O2014」コンサートのリハーサルから本番までの取材内容となっています。

3年ぶりに久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団とによる「ワールド・ドリーム・オーケストラ」が復活。8月9日・10日に東京でコンサートが行われ、リハーサルから本番まで編集部が取材した。

という書き出しになっています。

 

【8月6日 13時30分 会場入り】
リハーサルの初日。
~省略~
13時55分、久石さんが大きな楽譜を抱えて登場。

【14時 リハーサル開始】
本番のプログラム順に練習するのかと思っていると、最初は《水の旅人》。久石さんが、団員たちに丁寧な言葉ながら、てきぱきと指示を与えていく。
~省略~

【19時20分 楽屋へ】
楽屋を訪ねてみる。
「こんなプログラムするって、チャレンジャーでしょ。エンターテインメントとみえるけど、かなり過激なことを試みているよね」
と久石さん。7日も同じ時間にリハーサルがあり、9日にゲネプロ(通し稽古)ののち、その日と翌10日の17時に本番だ。

【8月10日 本番を聴く】
最初の《かぐや姫の物語》では、6人の打楽器奏者が作り出す響きが衝撃的だった。リハーサルで久石さんが「ここはかぐや姫の狂乱の場。ここでかぐや姫が都を飛び出す」と言っていたところだ。
~省略~

 

こんな感じでぎっしり1ページ分レポートされています。”~省略~”が多いですが、どこを抜粋するか、どこまで書くかで模索中。せっかくの貴重な舞台裏とコンサートレポートということなので、ここから離れて単独でアップしたいと思います。書き起こしに時間がかかるかもしれませんが、これもまた久石譲の大切な記録と足跡になりますので。

⇒ Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」 クラシックプレミアム編集部 ルポルタージュ

 

クラシックプレミアム 19 チャイコフスキー3

 

Blog. 久石譲 × アルヴォ・ペルト ~ミニマル・ミュージック~

Posted on 2014/09/14

2014年秋、久石譲による新しいコンサート企画が始動します。「久石譲プレゼンツ ミュージック・フューチャー」です。9月29日に記念すべき第1回が東京・よみうり大手町ホールにて開催予定です。

 

久石譲プレゼンツ「ミュージック・フューチャー vol.1」

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
ヴァイオリン:近藤薫 / 森岡聡 ヴィオラ:中村洋乃理 チェロ:向井航
マリンバ:神谷百子 / 和田光世 他

[曲目] (予定)
久石譲:弦楽四重奏 第1番 “Escher” ※世界初演
久石譲:Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2Marimbas ※世界初演
アルヴォ・ペルト:鏡の中の鏡 (1978)
アルヴォ・ペルト:スンマ、弦楽四重奏のための (1977/1991)
ヘンリク・グレツキ:あるポーランド女性(ポルカ)のための小レクイエム (1993)
ニコ・ミューリー:Seeing is Believing (2007)

 

 

久石譲によるオリジナル曲の世界初演もひかえています。いずれもすでに発表された曲を再構成したもので、ミニマル・ミュージックが基調、つまり現代音楽の世界です。

そして世界的な現代作曲家の作品が取り上げられています。この演奏プログラム予定を知ってから興味をもっていくつか聴いてみました。ニコ・ミューリーとアルヴォ・ペルトです。今回はアルヴォ・ペルトを掘り下げます。

 

〈ミュージック・フューチャー Vol.1〉をひかえて、
すでに久石譲は今企画のこと、そしてアルヴォ・ペルトなどの現代音楽について語っています。

 

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現代音楽の今を伝えるコンサートを始める作曲家・久石譲

「現代音楽は難解というイメージが先行し、日本では演奏される機会が少ない。でも本当に難解なのか。最先端の作曲家の魅力的な作品を紹介することで、先入観を打ち破るきっかけにしたい」

9月29日によみうり大手町ホールで開く「ミュージック・フューチャー」はそんな思いから企画された。巨匠ヘンリク・グレツキから30代の俊英のニコ・ミューリーまで。アルヴォ・ペルトの「鏡の中の鏡」では、久石がピアノを演奏する。

「柱となっているのはミニマル音楽。現代音楽が生んだスタイルの中では、ポピュラーを含めその後の音楽に最も大きな影響を与えた。今回の演目で、そのことが雄弁に伝わるはずだ」

久石自身、国立音大在学中に、最小限の音型を繰り返すこの様式に感化された。宮崎駿監督作品をはじめ、オーケストラによる壮麗な映画音楽で成功してからも、折に触れミニマルの作品を生み出してきた。今回、その様式を踏襲した自作の弦楽四重奏第1番「Escher」を初演する。「一回限りの公演ではなく、現代音楽に触れられる場としてシリーズ化する」と語る。

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また、

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「ちょっと大げさだが、僕の考えでは、まずクラシック音楽は古典芸能であってはならない。過去から現代に繋がって、未来に続いていく形が望ましい。そのためにはオーケストラをはじめ演奏家は「現代の音楽」をもっと積極的に取り上げたほうがいい。作曲家兼指揮者は特にこの問題に対しては最前線にいるのだから、誰よりも積極的に取り組むべきだと考える。未来に繋がる曲を見つけ、育てることが必要だと僕は考える。」

「例えばクラスター奏法のペンデレツキ(《広島の犠牲者に捧げる哀歌》が有名)はその後、新古典主義のスタイルになるショスタコーヴィチの後継者のような音楽を書く。東欧の作曲家、アルヴォ・ペルト、ヘンリク・グレツキなどはセリエル(12音技法)の書法を捨て、教会音楽や、中世の音楽をベースに調性のあるホーリーミニマリズム(聖なるミニマリズム)とカテゴライズされるスタイルに変わっていった。ただし彼らはミニマルにこだわってはいなかったのだが。」

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詳しい掲載内容は
こちら ⇒Blog. 久石譲が2014年、現代音楽のコンサートに挑む理由
こちら ⇒Blog. 「クラシック プレミアム 8 ~バッハ1~」(CDマガジン) レビュー

 

 

俄然興味をもって、CDを探してみました。

アルヴォ・ペルト(1935-)はエストニア出身の現代作曲家です。ミニマル・ミュージック、そして宗教音楽のような心洗われる世界です。コンサートでも取り上げる『鏡の中の鏡』 『弦楽四重奏のためのスンマ』この2曲が収録されていた2枚組ベスト盤(輸入盤)を聴いてみまいた。

アルヴォ・ペルト

<CD1>
1) スンマ(合唱のための) 2) 7つのマニフィカト 3) フラトレス(ヴァイオリンとピアノのための) 4) フェスティーナ・レンテ(弦楽オーケストラとハープのための) 5) 鏡の中の鏡(ヴァイオリンとピアノのための) 6) マニフィカト 7) 至福 8) スンマ(弦楽オーケストラのための) 9) フラトレス(弦楽オーケストラとパーカッションのための) 10) カントゥス-ベンジャミン・ブリテンの思い出に
<CD2>
11) タブラ・ラサ(2つのヴァイオリン、弦楽オーケストラとプリペアード・ピアノのための) 12) スンマ(弦楽四重奏のための) 13) フラトレス(弦楽四重奏のための) 14) デ・プロフンディス(深き淵より) 15) カンターテ・ドミノ 16) ベアトゥス・ペトロニウス 17) ソルフェッジョ 18) ミサ・シラビカ

 

 

まずは『鏡の中の鏡』について。

1978年作品です。このCDアルバム以外にもいろいろ調べていて知ったのですが、3バージョンあります。ヴァイオリン&ピアノ版、ヴィオラ&ピアノ版、チェロ&ピアノ版です。

上記CDには、ヴァイオリン&ピアノ版が収録されています。ヴィオラ版、チェロ版も、それぞれ趣と響きが違って好みもあると思います。

単純な和音を分解したシンプルなピアノの旋律が繰り返され、そこへ弦楽器が行きつ戻りつのゆったりとした響きを奏でます。劇的な展開をするわけでもなく、ずっと一定な響きです。そこが心地よさや安心感、癒やしや静寂をもらたしてくれます。

 

アルヴォペルト自身が語った言葉がすべてを表しています。

私の音楽は、あらゆる色を含む白色光に喩えることができよう。プリズムのみが、その光を分光し、多彩な色を現出させることができる。私の音楽におけるプリズムとは、聴く人の精神に他ならない。/ アルヴォ・ペルト

 

聴く人の環境、聴く人の心情、に委ねられた音楽。どういう情景が広がるかは聴く人のイメージによる無限の世界。

コンサートでは久石譲がピアノを弾くというこの作品。果たして、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、どの楽器とのデュエットになるのでしょうか。

ぜひ3バージョンを聴いて聴き比べて堪能してください。高音(ヴァイオリン)、中音(ヴィオラ)、低音(チェロ)、それぞれいい響きです。

ヴァイオリン版は一定のテンポとピアノのソフトタッチ、ヴィオラ版は一番テンポがスローでピアノタッチがやや強め、チェロ版はヴァイオリン版のテンポに近いですが少し抑揚があり呼吸しているようなタメのある旋律。

何回も聴き比べてみたのですが、このようなささやかな違いがありました。どのバージョンも曲全体としての印象は同じような世界観です。お好みのバージョンを見つけてみてください。

※CD含め原曲自体ボリュームが小さく聴こえづらいです。ご了承ください。

 

『鏡の中の鏡(ヴァイオリンとピアノのための)』 Arvo Pärt – Spiegel im Spiegel

『鏡の中の鏡(ヴィオラとピアノのための)』 Arvo Pärt- Spiegel im Spiegel

『鏡の中の鏡(チェロとピアノのための)』 Arvo Part – Spiegel Im Spiegel

 

 

 

次に『スンマ』について。

1977年作品です。CDには3バージョンが収録されていました。

『スンマ(合唱のための)』
『スンマ(弦楽オーケストラのための)』
『スンマ(弦楽四重奏のための)』

久石譲がコンサートでプログラム予定としているのは、『スンマ(弦楽四重奏のための)』です。(CD-2収録)どのバージョンも聴いた印象が全く異なる不思議な曲です。

合唱は、教会のミサのような、弦楽オーケストラは、重厚で流れるようなレガートで、弦楽四重奏は、カルテットらしくシャープに。

調べていたらもうひとつ上の3つと異なるバージョンも見つけました。弦楽オーケストラと同じ編成だとは思いますが、レガードではなく刻む奏法。

Youtubeで全4バージョンをピックアップしましたので、こちらもぜひ聴き比べてみてください。『鏡の中の鏡』よりもより鮮明に各アレンジの違いがわかると思います。

 

『スンマ(弦楽四重奏のための)』 Arvo Pärt – Summa, performed by Endymion

 

『スンマ(合唱のための)』 Arvo Pärt / Summa

 

『スンマ(弦楽オーケストラのための)』 Summa for Strings | Arvo Pärt

 

『スンマ(弦楽オーケストラのための)』 ?? Arvo Pärt Summa for strings

 

 

個人的には、重厚で感情の波が引いては押し寄せるような、『スンマ(弦楽オーケストラのための)』(3番目)が今気に入っています。

CD収録曲ではほかにも、おそらく代表的な作品だとは思うのですが、CD-1の『フラトレス(弦楽オーケストラとパーカッションのための)』あたりもよかったです。ミニマル・ミュージックのなかでも、スティーヴ・ライヒやテリー・ライリーとはまた違った、ゆっくりと聴ける宗教音楽、クラシックでいうところのバッハなどの古典音楽に近いです。

時に重厚で湧き上がるようなストリングスの展開は、チャイコフスキーの交響曲《悲愴》を思わせるようでもあります。

 

 

久石譲作品にも多くのミニマル・ミュージックがありますが、アルヴォ・ペルトの作品に近い響きのするものとしては、『悪人 オリジナル・サウンドトラック』『かぐや姫の物語 サウンドトラック』が心が清く浄化されるような透明感のある音楽を聴くことができます。

 

久石譲 『悪人 オリジナル・サウンドトラック』

かぐや姫の物語 サウンドトラック

 

 

ただただ静かで美しい音楽。

いつ聴きたいか?
聴いてどんな気持ちになるか?

すべてが聴く人に委ねられた、深く心に染み入るアルヴォ・ペルトの音楽。

 

このアルヴォ・ペルトの作品を知ることができたのも、久石譲が新たに始動させたコンサート企画のおかげです。やはり好きなアーティストが取り上げる、別の作曲家による作品も気になってしまいます。

〈ミュージック・フューチャー Vol.1〉コンサート当日は、どんな楽器で、どのバージョンで、どんなアレンジで、アルヴォ・ペルトの曲を演奏するのか楽しみですね。

芸術の秋、音楽の秋、今までの自分の引き出しにはなかった、新しい音楽への扉、そんな出会いもまた素敵だと思います。

 

Blog. 「クラシック プレミアム 18 ~ベートーヴェン4~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2014/09/09

「クラシックプレミアム」第18巻は、ベートーヴェン4です。

第1巻ではベートーヴェン1として交響曲 第5番《運命》・第7番、第9巻ではベートーヴェン2として交響曲 第3番《英雄》ほか、第15巻ではベートーヴェン3としてピアノ協奏曲 第5番《皇帝》、それぞれ特集&CD収録されています。

今号は生涯を通じて創作し続けたピアノ・ソナタの中からの3大傑作です。そして毎号特集される収録曲の解説も深いですが、今回も3大ピアノ・ソナタを作品ごとに、各楽章ごとに、計5ページにわたって解説や考察が記されています。当時のベートーヴェンを取り巻く環境や時代反映にも触れながら。

 

【収録曲】
ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13 《悲愴》
フリードリヒ・グルダ(ピアノ)
録音/1967年

ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27の2 《月光》
アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)
録音/1994年

ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57 《情熱》
エミール・ギレリス(ピアノ)
録音/1973年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第18回は、
「楽譜の不完全さについて」

「音楽を伝える」というテーマで数回にわたって書き進められていました。今回がそのまとめの項となっています。久石譲が大学時代から愛蔵しているという音楽之友社刊『標準音楽辞典』。その辞典より「楽譜」や「記譜法」などの意味を紹介しながら、エッセイは進みます。さながら大学の講義を受けているような辞典からの音楽解説がつづき、それをふまえて久石譲の独自の解釈、結論へと導かれています。

一部抜粋してご紹介します。

 

「~中略~ 人はそれぞれの時代を生き、音楽と向かい合い、楽しみ、慈しみながらその感動を何らかの形で伝えようと書き記してきた。そしてそこに書き記されたものは間違いなく人類の財産なのである。」

「譜面とは何か?音楽を演奏者に伝えるために視覚化したもので、その視覚から入った情報を脳に伝達して、音に置き換えさせるもの。いずれにせよ音楽を視覚化したものではある。」

「プロの演奏家はこの視覚からの情報をいち早く体に伝え、身体的運動によって音に置き換える。同時に聴覚もフル活動させ音程やリズムに注意する。すべては脳でコントロールするのだが、それを経由しないで直接身体的運動にするまで修練する。まことに複雑なあるいは神秘的といっていいほどのメカニズムなのだが、この視覚と聴覚の問題は次回から書きたい。」

 

エッセイに登場した『標準音楽辞典』。調べてみましたら1966年に発刊された辞典で、なんと1542ページ。かなり分厚い、重い。この辞典の紹介には「音楽を極めたい人はぜひ」とほぼ書いてあります。

標準音楽辞典

そんな『標準音楽辞典』も長い年月を経て改訂され、今では『新訂 標準音楽辞典 第二版』として上下巻になっています。上下巻合わせて約3500ページに、第一版の倍近くに。詳しくはわかりませんが、おそらく1970年代から2000年代の音楽の歴史、さらには音楽史に刻まれる音楽家たちが加筆されているのだと思います。

法律を学ぶ人のバイブルである六法全書のように、音楽を深く学んでいる人たちは持っているのでしょうか? 標準音楽辞典。

 

クラシックプレミアム 18 ベートーヴェン4

 

Blog. 久石譲&京都市交響楽団 コンサート 演奏プログラム レポート

Posted on 2014/09/06

2014年9月3日に開催されたコンサート「久石譲&京都市交響楽団」のレポートです。

初共演となる久石譲と京都市交響楽団による演奏プログラムは?アンコールは?実際にコンサートに行かれた方からの貴重な情報をもとにレポートします。

セットリストとしてはネタバレになりますが1回限りの公演企画ですので掲載ご了承ください。

 

 

久石譲×京都市交響楽団

[公演期間]
2014/09/03

[公演回数]
1公演
京都・京都コンサートホール 大ホール

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:京都市交響楽団

[曲目]
久石譲:Sinfonia for Chamber Orchestra
I.Pulsation
II.Fugue
III.Divertimento

久石譲:Symphonic Variation ”Merry-go-round”

—-encore—-
One Summer’s Day

—-intermission—-

チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調 op.74 「悲愴」

—-encore—-
チャイコフスキー:バレエ音楽≪眠れる森の美女≫作品66より 第1幕 <ワルツ>

 

 

公演前の2日間リハーサル風景は、久石譲 オフィシャルサイト スタッフブログ にて紹介されています。写真つきでリハーサルの様子を知ることができます。こんな情報を公開してもらえるのもオフィシャルならではですね。

 

演奏曲順に見ていきます。

  • 久石 譲:室内オーケストラのための《シンフォニア》

アルバム「ミニマリズム」(2009年)に収録されている、渾身のシンフォニック・ミニマルミュージックです。過去コンサートでも取り上げられている同曲ですが、そのたびに(今回もふくめ)オーケストレーションが変化している、今も進化しつづけている久石譲のミニマル真骨頂です。

 

  • 久石 譲:ハウルの動く城

Symphonic Variation 「Merry-go-round」アルバム「WORKS III」に収録されている約14分に及ぶ大曲です。メインテーマ曲「人生のメリーゴーランド」の変奏バリエーション、サウンドトラックのスコアを巧みにつなぎ再構成した壮大なフルオーケストラと久石譲によるピアノ演奏も堪能できる楽曲です。8月には、久石譲監修によるオフィシャルスコアもショット・ミュージックから発売されています。

 

そして、休憩をはさむこのタイミングで、なんと前半アンコール!!

  • One Summer’s Day

映画『千と千尋の神隠し』より「あの夏へ」です。アルバム「メロディフォニー」や「The Best Cinema Music」にも収録されているピアノをメインにしっとりと聴かせるオーケストラ・バージョンにて。コンサートの定番ともいえる名曲です。どんなプログラムにも合う、いい意味でクセの強くない、美しい旋律と静かな余韻に酔いしれる響きです。

 

  • チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 op.74 「悲愴」

全4楽章からなるチャイコフスキー最後の大作であり、19世紀後半の代表的交響曲のひとつとして高く評価されている「悲愴」です。チャイコフスキー自身、最終楽章にゆっくりとした楽章を置くなどの独創性を自ら讃え、初演後は周りの人々に「この曲は、私の全ての作品の中で最高の出来栄えだ」と語るほどの自信作だったと言われています。

実は久石譲も、今公演前に、同曲について語っています。CD付きマガジン「クラシックプレミアム」へ毎号連載しているエッセイにて、

「《悲愴》は9月3日に京都市交響楽団と演奏するのだが、久しぶりのチャイコフスキーである。ミニマルではないがあの怒涛のごとく押し寄せるフレーズのくり返しや美しいメロディーの中の沈黙、そして金管の咆哮は意外にも得意かもしれない。」

もっと詳細を知りたい方は、

こちら ⇒ Blog. 「クラシック プレミアム 17 ~ベルリオーズ~」(CDマガジン) レビュー

 

ここでプログラム本編終了です。前半でアンコール演奏もしていますので、これで公演終了もありうるなか、またまた最後にアンコールで登場です!

 

  • チャイコフスキー:バレエ音楽≪眠れる森の美女≫作品66より 第1幕 <ワルツ>

プログラム後半「悲愴」の流れを引き継ぐように、同じくチャイコフスキーの楽曲を。華麗な輪舞曲で幕を降ろした、ちょっぴり大人なコンサート。8月に開催された「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」とは、また違った趣向をこらした本公演でした。

 

今回コンサートに行けずに残念だった方も、芸術の秋、音楽の秋。上にも紹介していますが、今回取り上げた楽曲の参考CD作品です。

久石譲 『ミニマリズム』

久石譲 『THE BEST OF CINEMA MUSIC』

久石譲 『メロディフォニー』

コンサートのリアルタイムな臨場感と感動にはかないませんが、大音量のスピーカーで楽しみましょう。

 

さて、これから師走に向けて、まだまだ久石譲の活動は止まりません。

9月29日には、現代音楽を伝える新たなコンサート企画の始動「久石譲プレゼンツ「ミュージック・フューチャー vol.1」」が控えています。

ほかにも、

とコンサートに関連した動きはたくさんあります。

 

そして!速報です!!!!

2014年、久石譲コンサート最後を飾るのはジルベスターコンサート!!

「風立ちぬ」に「かぐや姫の物語」、「魔女の宅急便」から「風の谷のナウシカ」まで!まさに2014年多種多彩なコンサート活動の集大成的プログラム予定です。チケット各種詳細は随時更新してお知らせしていきます。

 

2014年も精力的なコンサート活動ですが、長野公演(10月)、ジルベスターコンサート(12月)と、プログラム本編もふくめて、各会場アンコール演奏も気になるところですね。そして京都公演、また新たにコンサート活動履歴が刻まれました。

こちら ⇒ 久石譲 コンサート 2010-

 

久石譲 コンサート 2014 京都

 

Blog. 久石譲とアート・オブ・ノイズの共通点は?

Posted on 2014/09/01

最近TVCMで懐かしい曲が耳に入ってきました。

キムタクこと木村拓哉さんが出演しているSoftbankアクオス クリスタル のCMです。

アーティスト:Art of Noise(アート・オブ・ノイズ)
曲目:Moments In Love

 

他にもアート・オブ・ノイズのCM曲といえば、少し前には小泉今日子 × 松田聖子 出演CMでも別の楽曲が使われていました。

Art of Noise – Robinson Crusoe

 

上の2曲どちらも聴いたことない!という人でも次のこの曲は知っているでしょう。かつて一世を風靡したマジシャン:Mr.マリック。Mr.マリックのテーマ曲としても使われていたあの耳馴染みの曲です。

art of noise – Legs

 

 

【アート・オブ・ノイズについて】

1983年にデビューしたアート・オブ・ノイズの楽曲「Moments In Love」。1984年リリースの1stアルバム『Who’s Afraid of the Art of Noise?』(邦題『誰がアート・オブ・ノイズを…』 )に収められています。アート・オブ・ノイズは、本来裏方の録音エンジニアやスタジオ・ミュージシャンらが集まり、当時最新鋭の技術であったサンプリングを駆使して、車のエンジン音や物を叩く音など身のまわりのノイズを再構築し“騒音の芸術”を生みだした、革新的グループとして知られています。

80年代初頭では珍しかったデジタルシンセサイザーやサンプリングという手法を全面的に使用し、今日のアンビエント、ヒップホップ、エレクトロニカ、ワールドミュージックなどの要素を含んだ実験的な音楽で衝撃を与えた。初期の作品はフェアライトCMIを使用し、まもなくシンクラヴィアを使用するようになり、スタジオはもちろんライブでも演奏した。

 

 

やっと出てきました!久石譲との共通点。

『フェアライトCMI』

フェアライトCMI

フェアライトCMI(Fairlight CMI)は、オーストラリアのフェアライト社が1979年に発表、1980年に発売した電子楽器(シンセサイザー)。CMIは 「Computer Musical Instrument」の略。

 

発表当初、万能電子楽器と言われ、多くのミュージシャンがとりこになりました。日本でフェアライトを所有していたのは冨田勲、坂本龍一、久石譲、など数十名で、発売価格はなんと1200万円。

久石譲の初期の作品はフェアライトがかなり全面に出たシンセサイザー音楽です。1980年代のオリジナル・ソロアルバム、サウンドトラックでも垣間見れます。

こちら ⇒ 久石譲 ディスコグラフィー 1980年代

 

 

スタジオジブリ作品 宮﨑駿監督映画も全作品久石譲が音楽を担当しています。きれいなピアノ曲、美しくて壮大なオーケストラ曲のイメージが強いかもしれませんが、そのジブリ作品においても、フェアライトは活躍しています。

初期の『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』では間違いなく使用されています。久石譲はフェアライトシリーズをII ~ IIIまで所有していましたので、『天空の城ラピュタ』の頃にはフェアライトCMIではなくて、フェアライトIIIです。

ナウシカの美しい電子的で幻想的なコーラスも、ラピュタの竜の巣も、フラップターでシータを救出する臨場感あるサウンドも、トトロのススワタリたちのかわいらしくもコミカルな音楽も、このフェアライトというシンセサイザーの音が効果的に使われています。

あっ、北野武監督作品もそうですね。『あの夏、いちばん静かな海。』『Sonatine』などなど。

 

久石譲作品シンセサイザー使用作品一覧

こちら ⇒ 久石譲 ディスコグラフィー シンセサイザー

(CDジャケットをクリックすると作品詳細が閲覧できます)

 

当時は革新的な電子楽器だったんだと思います。同じように今聴いても色褪せないというか電子音なのにいい味わいがあります。

久石譲のCDでフェアライトを隅から隅まで堪能したいのであれば、未サントラ映画音楽のメインテーマばかりを収録したアルバム『B+1』がおすすめです。これを聴けば、シンセサイザーの音の世界が楽しめます。

硬質な音を響かせるシンセサイザー、フェアライト。そこに「久石メロディー」と言われる美しい旋律が奏でられる。シンセ音 x 美メロの化学反応です。

久石譲とアート・オブ・ノイズの共通点、それは『フェアライト』というシンセサイザーでした。

 

アート・オブ・ノイズ

 久石譲 『B+1 映画音楽集』

 

Blog. 「クラシック プレミアム 17 ~ベルリオーズ~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2014/08/30

「クラシックプレミアム」第17巻は、ベルリオーズです。

【収録曲】
ベルリオーズ
《幻想交響曲》 作品14a
シャルル・ミュンシュ指揮
パリ管弦楽団
録音/1967年

序曲《ローマの謝肉祭》 作品9
マリス・ヤンソンス指揮
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音/1991年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第17回は、
「発想記号の使い方について」

「音楽を伝える」というテーマでエッセイが続いているなか、今号では音楽記号のなかの発想記号(強弱記号や表記記号など)を取り上げながらお話は続きます。

そして9月3日に行われるコンサート「久石譲 × 京都市交響楽団」において演奏プログラムに予定されているのが、チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 op.74 「悲愴」です。その準備段階のなかで執筆された今号のエッセイ内容ということになります。

一部抜粋してご紹介します。

 

「《悲愴》は9月3日に京都市交響楽団と演奏するのだが、久しぶりのチャイコフスキーである。ミニマルではないがあの怒涛のごとく押し寄せるフレーズのくり返しや美しいメロディーの中の沈黙、そして金管の咆哮は意外にも得意かもしれない。」

「その中で強弱を伝える記号には実は二つの側面がある。一つは物理的な意味での音量として、もう一つは心情的な意味での記号だ。例えばpは、物理的には弱く演奏するのだが、別の側面はfではなく、ということでもある。つまりfと書くと音量的な強さだけではなく力強く演奏される危険があり、あくまで優しく包み込むようなメロディーを歌う場合はpあるいはmp、mf、meno f(メノ・フォルテ=それほど強くなく)など作曲家によって様々な表現を用いる。ドビュッシーの場合はあのアンニュイな表現のためp、ppなどが多用されている。だからそのまま物理的に演奏したらまったく他の音に消されて聞こえなくなる場合も多い。」

「その点チャイコフスキーはかなり物理的な記号として書いている。《悲愴》の冒頭は6小節のテーマを2回ファゴットが演奏するのだが(それをコントラバスと後半でヴィオラが支えるというかなり大胆なオーケストレーションですばらしい)、1フレーズずつpp、p、mp、sf(スフォルツァンド=特に強く)、pと書いた上にそれぞれクレッシェンド、デクレッシェンドがついている。要は6小節にわかり、波のようにうねりながら段々盛り上がり、最後には自問するかのように小さくなるということなのだが、かなりしつこい。チャイコフスキーの性格が垣間見えるようだが、物理的な記号を駆使しながら感情的なものを伝えようと試みている。これが全楽章にわたって細かく書いてあり、あの有名な第4楽章の哀歌(個人的にそう思っている)に繋がるのである。」

「このように作曲家によって発想記号の意味はかなり異なっているのだが、彼等はその曲を作ったまたその先の理由を発想記号に込めて書き込む。音だけでは出来なかったことを含めて。」

 

エッセイ本文では、ほかにもベートーヴェンやマーラーの表情記号にも触れられていて、作曲家ごとに譜面の書き方、つまりは発想記号の書き方に特徴があること、その先の音楽の伝え方に個性が現れていることがわかります。そして自ら作曲した曲に、譜面のなかで、音符以外の記号(発想記号)を記すことで、その想いを伝える。

さらには誰が指揮をしても、誰が演奏しても、ある程度作曲者の意図をくみとり、音楽の再現性を実現するための記号。一概に譜面といっても、奥の深さを感じました。

またそれは同様に「文字」にも言えることなのかもしれません。目に入ってくる「文字」はあくまでも無機質なものであり、その単語・文脈・表現方法などによって、イメージをふくらませる。

記録としての文字や譜面の役割。媒体としての文字や譜面の役割。媒体には、発信元と受信先があるので、作曲家と聴衆の関係性としたときに、音によってなにかが触れ、揺れる。

そんなことを考えながら興味深く読んだ今号のエッセイでした。

 

久石譲という作曲家が解説するクラシック。
久石譲という指揮者が解説するクラシック。

それをコンサートで聴くことができるわけですから、今号のエッセイを頭に入れて同曲を聴けるのは贅沢かもしれませんね。