Info. 2025/03/30 作曲家の久石譲さん オーケストラ率い「未来の音」創造(NIKKEI The STYLEより)

Posted on 2025/03/30

2025年3月30日(日)日本経済新聞「My Story」にインタビューが掲載されました

2025年3月30日(日)の日本経済新聞朝刊、NIKKEI The STYLE「My Story」に久石譲のインタビューが掲載されました。
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作曲家の久石譲さん オーケストラ率い「未来の音」創造
NIKKEI The STYLE 「My Story」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOIH11CXU0R10C25A3000000/

(久石譲オフィシャルサイトより)

 

 

2025.05.04 update
Reprint

 

作曲家の久石譲さん オーケストラ率い「未来の音」創造
NIKKEI The STYLE 「My Story」

日本センチュリー交響楽団とは互いに息が合ってきた。音楽監督就任に向けて「いい状態」と実感している(大阪府豊中市)

 

作曲家・指揮者の久石譲さんは映画音楽やCM曲で印象的なメロディーを生み出してきたが、その原点はクラシック音楽だ。4月からは日本センチュリー交響楽団の音楽監督に就く。作家としての模索があったからこそ、そのタクトには未来の音を創造する力が宿る。

 

ひさいし・じょう 1950年長野生まれ、国立音楽大学卒。クラシック音楽の作曲家として活動するが、80年代初頭に商業音楽を含めたエンターテインメント分野に転向。84年に映画「風の谷のナウシカ」の音楽で注目を浴び、宮崎駿監督作品などの映画音楽に欠かせない存在に。2000年ごろからオーケストラの指揮者としての活動を本格化。25年4月から日本センチュリー交響楽団の音楽監督に就任する。

 

作家としての表現にこだわり

「30歳を過ぎてから50代の途中まで一切、『作品』を作らなかったんです」。1984年公開の「風の谷のナウシカ」から「君たちはどう生きるか」(2023年)まで宮崎駿監督の映画音楽を一貫して手がけ、北野武監督らの作品への楽曲提供やソロアルバムも制作してきた。にもかかわらず、こう話す背景には「作品」への並々ならぬこだわりがある。

「やっぱり作家、アーティストですよね。その人が作家として表現しているものが『作品』になるわけで、それは『作品』としか言いようがない」。自身の表現としての楽曲と依頼されて制作する音楽とをはっきり線引きする。

20代までは「相当、作品を書いてきた」。作曲を学んだ国立音大在学中から作曲仲間とともに学内の先生や先輩らに声を掛け、ホールを借りて自分たちの作品を披露してきた。「コンサートを作っていかないと(曲を)書かなくなっちゃうから」と若き日々を振り返る。

 

音大でミニマル音楽に傾倒 理屈っぽいとエンタメ転向

クラシック音楽は西洋で17世紀頃から隆盛し、その形式や語法を発展させながら現代まで受け継がれる音楽ジャンルだ。しかし、100年、200年前の古典と、20世紀半ば以降の「現代音楽」と呼ばれる分野とでは大きな隔たりがある。事実、オーケストラの演奏会では18世紀古典派から19世紀ロマン派の曲、モーツァルトやベートーベン、ブラームスなどが王道とされ、難解な現代音楽は取り上げられにくい。

そんな現代音楽の中でも、フレーズを繰り返し、音のズレを楽しむ「ミニマル・ミュージック」に心を引かれ、在学中から作品を制作・発表してきた。

ただ「どうもこの世界、よくないなと」。無調、偶然性、図形譜など様々な音楽的革新が考案され尽くした後でもあった。「みんな理屈っぽくて全然面白くなかった。だからもういいや、クラシックからエンターテインメントに変わってやる」と決断した。

 

テクノポップやプログレッシブ・ロックから影響

1970年代、テクノポップの先駆者と言われるクラフトワーク、プログレッシブ・ロックのタンジェリン・ドリームやマイク・オールドフィールドなど「ミニマルをベースにしたバンドが席巻してた。大衆向けだけどコンセプチュアルですごくカッコよかった」。

81年にミニマル曲の集大成的なアルバム「MKWAJU(ムクワジュ)」をプロデュースした後、エンターテインメントの分野に軸足を移す。「レコーディングしてアルバムを作り、映画やCMの音楽も一緒にいれて、それを持ってツアーをして」という活動に精力を注いだ。映画音楽では国内外の様々な賞を受賞。特に宮崎監督のスタジオジブリの作品で一躍、名を馳(は)せた。

 

オーケストラの中に自分を見いだす

ところが徐々に「4〜5分の曲ばかりだと物足りなく感じてきて、単純な音楽がつまらなくなっちゃった」。並行して、何人もの奏者が一体となって音を奏でるオーケストラへの興味が湧いた。大林宣彦監督の映画「水の旅人 侍KIDS」(93年)で作ったテーマ曲をロンドン交響楽団が演奏した際、「指揮はしなかったんだけど、オケの中に自分を見いだしたっていうか、オケをやりたい自分がいた」という。

新日本フィルハーモニー交響楽団と協演を重ね、2004年に共同プロジェクトとして「ワールド・ドリーム・オーケストラ」を結成。その演奏会で自作のジブリ音楽や「007」などの映画音楽のアレンジ、クラシック曲も並べた。作曲家であり指揮者であるからこその独自プログラムだった。

 

クラシックの「作品」再び 

作曲家としての転換点は、09年にアルバム「Another Piano Stories」を発表したとき。収録曲「The End of the World」を聴きながら「これはもう完全に『作品』だよなぁ」と感じた。

冒頭のピアノのリズムが音楽的モチーフとなって曲全体を支配しながら強靱(きょうじん)に推進する。ナウシカの腐海のシーンやトトロの登場シーンなどでミニマルの技法は使っていたが、「またクラシックに戻ってミニマルの『作品』をやろう」と思った瞬間だった。

何十年間も「作品」を書かずに戻ってくるのは「浦島太郎になるんじゃないか」との不安もあったが、驚いたことに「みんな時が止まっていたね」。現代音楽シーンは「悪いけど1900年代後半が全盛期。その後は何でもありの自己満足の世界に浸っていた」。

 

 

指揮と作曲が相乗効果に

クラシックとエンターテインメントを経験したことで「聴衆を楽しませて、自分自身も驚くような音楽」を書くことへの思いを新たにした。単にジャンルレスな音楽家ではなく、ある種の曲折が現在のユニークな活動を育んだ。

例えば古典作品を「未来に向けたもの」として刷新すること。「世界中にいい指揮者はたくさんいるので、遅くに始めた僕が同じことをやってもダメ。でも作曲家の目線で新たに読み直して、これからの新しいクラシック曲として提示するなら意味があるんじゃないか」。そんな思いは近年の演奏会で、クラシックの王道作品と、演奏されにくい現代作品を組み合わせたプログラム作りなどに反映されている。

指揮者としては世界の一流オケから声がかかり、作曲家としても「エンタメから交響曲、オペラまで」約6年後まで予定が埋まっている。「指揮してると『ああ、こういう音の重ね方でこういう響きがするんだな』と楽曲の形態がよくわかる。それじゃちょっと自分の作品でもやってみようかなって」と、相乗効果も強く感じている。

日本センチュリー交響楽団の音楽監督就任は新たな挑戦だ。楽団運営まで踏み込んでオケと音づくりをするのは初めて。今やどこのオケも集客や財政難に苦しむ。だからこそ「もっと広く聴衆を引き付ける仕掛けを打ちたい。それが巡り巡って自分の音楽家としての広がりにもなっていけばいいよね」。未来に向けて今日もタクトを振る。

 

 

自然の中を歩き、思索巡らす

作曲や譜面読みで多忙を極める毎日だが、リフレッシュには散歩をするのが好きだ。「創作の合間を見つけては、1時間でも2時間でも歩く」

軽井沢にあるアトリエで缶詰になっている時にも、周囲の自然に誘われるように外に出てどんどん歩く(下の写真)。自身のSNSにその様子を投稿しているが、表情や背景を眺めていると、トトロのオープニングテーマ「さんぽ」が聞こえてきそうな趣がある。

「自然の中を歩くのが気持ちいい。景色を眺めるというより、ずっと考え事をしている。とりとめもなく浮かんでくるアイデアなんかに、ぐるぐる頭を働かせる」そうだ。

日本センチュリー交響楽団は、服部緑地(大阪府豊中市)内にあるオーケストラハウスを練習拠点としている。広さ126ヘクタール、甲子園球場約33個分という広大な緑あふれる環境について、「歩くのに最高じゃないですか」と声を弾ませる。

この環境を生かした企画もすでに頭に浮かんでいるようだ。「野外コンサートもできるし、ファミリー向けのプログラムもよさそう」。オーケストラハウスも「やや殺風景ではあるものの、前衛的な現代音楽の演奏会にぴったり。舞台を円形にして奏者を囲みながら聴(き)くとか、そういう発想もありだよね」などと、歩きながら構想を巡らせるのだという。

 

 

晩酌タイムも愛犬とともに

創作が落ち着き、一息つけるタイミングで晩酌タイムを楽しむ。ビールやウイスキーのグラスを傾けていると、愛犬の「サンちゃん」(下の写真)がそばにやって来る。久石さんの隣でイスに座りながら一緒にご飯を食べて過ごす、まさに家族そのものだ。

晩酌に付き合うほか、仕事に行く前には必ず玄関まで見送りに来てくれる。「いつもくっついてくるような、かまってほしがる性格。寂しがり屋? 甘えたがり?」と笑う。

「事務所の近くでおやつを買って帰ってあげたり、クリスマスにはサンタの格好にしたりして、かわいがっている」。その話からは、日ごろの溺愛ぶりが目に浮かぶようだった。

 

 

安芸悟

岡田真撮影

[NIKKEI The STYLE 2025年3月30日付]

出典:作曲家の久石譲さん オーケストラ率い「未来の音」創造 – 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOIH11CXU0R10C25A3000000/

 

 

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