Disc. 久石譲 『柘榴坂の仇討 オリジナル・サウンドトラック』

2014年9月17日 CD発売 UMCK-1493

 

2014公開 映画『柘榴坂の仇討』
監督:若松節朗 音楽:久石譲 出演:中井貴一・阿部寛 他

 

 

『柘榴坂の仇討』への想い

脚本を読んで最も心に残ったのは”武士としての矜持”、即ち、何があっても揺るぐことのない武士の魂でした。「メインテーマ」ではその”潔さ”を音楽でも表現しようと心を砕きました。そして仇討を表す「宿命のテーマ」と金吾とセツの「夫婦のテーマ」を含めた三つのテーマをできるだけ立体的に、観る人に広がりを感じてもらえるように構成しました。若松監督は登場人物の心の流れを丁寧に撮られていたので、音楽は芝居から一歩引いて、それぞれの気持ちに寄り添うような形で組み立てたつもりです。映像と距離をとろうと心がけたことが、ささやかな”音楽家としての矜持”だったと言えるかもしれません。冒頭の曲が書けたときに、今までにない時代劇の音楽の形を作れるのではないかという予感がありました。映像と音楽が一体となって、観客の皆さんの心に届いてくれるならば、とても嬉しく思います。

(久石譲インタビュー CDライナーノーツより)

 

 

上記インタビューにもあるとおり、一言で言えば”押しころした”音楽となっている。”寄り添う音楽” ”立体的な広がり” ”映像と距離をとる” という言葉のとおり、決してインパクトのある旋律たちではないけれども、その分観る人、聴く人の受け止め方や感じ方に委ねる音楽といえる。

小編成なオーケストラサウンドを基調とし、ひかえめながらも、そこには緊迫感や緊張感という糸がぴんと張っている。一定に刻むストリングスをはじめとして、そこには脈を打つ鼓動のような、息をころす、気配をころすといった、そして激動の瞬間を生きた登場人物たちの宿命や覚悟のようなものが感じられる。

時代の脈打ちともいえるこの一定のリズムが、ただならぬ物語の、そして歴史の1ページを浮き上がらせているよう。”今までにない時代劇の音楽” という言葉にあるとおり、まさにその時代を生きた、それぞれの武士たちの、それぞれの信念や正義、全体をとおして聴いてみると、その鎮魂曲のような響きがしてくる。

 

 

 

2015年4月3日発売DVD 『柘榴坂の仇討 -特装限定版-』

特典DISCにて「監督・若松節朗×音楽・久石 譲 対談」が収録されている。約30分にも及ぶスペシャル対談において、本映画の音楽について、随所にそして具体的に語られている。

 

【「雪」を音楽にする】

若松:
最初にオーダーしたのは、「雪」を音楽にするということ。いろいろな雪がイメージできるが、久石さんがどのような雪の音楽を作ってくるのか楽しみだった。

最初に聴いた本編冒頭のM1で驚いた。夢の中で起こる事件の話だったが、サスペンス的な音楽かなと想像していたら、久石さんの楽曲は、とても温かい音楽でまさに雪の音楽だった。

久石:
メインテーマは別にもあるが、この映画ではM1がすごく重要だったかもしれない。

いわゆる時代劇のような音楽ではないほうがこの映画にはいいと思った。時代劇とするよりは、たまたま設定が時代劇で、現在の自分たちととても近いものとしたほうが。

 

【秋元邸で金吾が涙を流すシーン】

若松:
音楽の止める場所とかものすごく学ぶことが多かった。

久石:
構成の問題もあって、あのあと最後の決闘シーンが控えている。登場人物たちの心情を表現するとしても、音楽はそこにとっておく必要がある。なのでこの場面はあえて突き放して音がないほうがいいと思った。

 

【映画音楽の作り方】

久石:
今ハリウッドでやっている映画音楽は「効果音楽」。そのシーンごとに切り取ったらぴたっとはまるけれど、全体としては残らない。そこには全体の構成がないから。

これはあまりにもデジタル技術が発達したため、つまりシュミレーションが簡単にできるようになったために起こっている現象だと思っている。

 

【俯瞰した音楽をつくる】

久石:
映画音楽は一般的に「状況に音楽をつける」「登場人物の心情に音楽をつける」という大きく二つの方法がある。最近はそのどちらでもなく、もう一歩引いたところから、「俯瞰して音楽をつける」ということをしている。そうすることによって作品が言いたいことがより伝わりやすくなったり、より立体的になるように思っている。

 

以上、インタビュー内容を一部抜粋書き起こし。

 

 

柘榴坂の仇討 サウンドトラック

1. 悪夢
2. 夫婦
3. 敬愛
4. 予兆
5. 宿命
6. 悲愴
7. 決意
8. 本懐
9. 呵責
10. 本分
11. 安息
12. 時代
13. 前夜
14. 永遠
15. 悔恨
16. 寒椿
17. 邂逅
18. 逡巡
19. 覚悟
20. 出発

指揮:久石譲
演奏:東京ニューシティ管弦楽団

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

Disc. 久石譲 『小さいおうち オリジナル・サウンドトラック』

小さいおうち 久石譲

2014年1月22日 CD発売 UMCK-1472

 

2014年公開 映画「小さいおうち」
監督:山田洋次 音楽:久石譲 出演:松たか子 他

 

 

インタビュー

-今回の『小さいおうち』は、前回にも増して音楽の曲数が多いと思いました。

久石:
単純に、本編の内容から出てくる違いです。『東京家族』は非常にシリアスな内容の作品でしたので、音楽を少なめにした方がよいという判断がありました。それに対し、『小さいおうち』はラブストーリー的な側面が強い作品ですから、音楽も当然増えてきます。山田監督からも「今回は音楽を多くしたい」という要望をいただきました。それと、「非常に甘みのあるメロディが欲しい」という要望も。

-それが、冒頭の火葬場で流れてくるメインテーマですね。

久石:
本編全体を見てみると、最初はタキの葬儀の場面から始まり、ラストシーンもタキがある重要な役割を果たしています。平成から激動の昭和へ、たとえ物語の時空が自由に飛んだとしても、タキの”目線”だけは変わらない。そのタキの”目線”のテーマ、わかりやすく言えば、タキの”運命のテーマ”です。ただし、そのメインテーマだけだと音楽全体が非常に重くなってしまうので、もう1曲、別のテーマを作曲しました。

-アコーディオンで演奏されるワルツのテーマですね。

久石:
こういう作品にワルツが似合うかどうかはともかく、結果的には、ワルツによって”昭和という時代に対する憧れ”や、”小さいおうちの住人に対する憧れ”を表現できたのでは、と思っています。昭和ロマンに憧れるワルツ、という意味では、松たか子さん演ずる”時子のワルツ”と呼んでよいのかもしれません。その”時子のワルツ”と、メインとなるタキの”運命のテーマ”のデモ2曲を最初に作曲したところ、山田監督から早々にOKをいただきました。

Blog. 映画『小さいおうち』(2014) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

「基本的にはメーンとなるテーマ曲は2つなんです。その時代を生きてきたタキのテーマみたいなものと、もうひとつは意表をつくようなワルツ調の曲。深い根拠はないんですが、直感みたいなもので、ある種の軽やかさが出たらいいなと思ったんです。守りに入るよりは、こちらも冒険させてもらったんですが、それが結果的に良い形になればいいなと思っています。」

Info. 2013/08/10 山田洋次監督最新作「小さいおうち」 久石譲音楽レコーディング より抜粋)

 

 

赤い屋根の小さな家で働く女中・タキの目線を通し、昭和から平成へと激動の時代を生き抜いてきたタキの自身のテーマでもある“運命のテーマ”と、アコーディオンの甘美なメロディが印象的な“ワルツのテーマ”を主軸に構成。昭和モダンのノスタルジックな雰囲気が満載のサウンドトラック。

2つのテーマにより構成されたサウンドトラックは、
”運命のテーマ” (1) (2) (3) (5) (8) (10) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20) (21)
”時子のワルツ” (4) (6) (7) (9) (11) (12)

”運命のテーマ”はときにピアノの単音で、ときにフルートやオーボエの木管で、ときに弦楽やピッツィカートで、ギターなども加わりとてもシンプルなアコースティックサウンド。シンプルなというか極限まで削ぎ落としたメロディと言っていい。

”時子のワルツ”はアコーディオンの旋律が特徴的だが、こちらもトラックごとに、ピッツィカートや木管編成、ピアノにより構成されている。

エンドクレジットにあたる(22)は、この主要な2つのテーマが、”運命のテーマ”から”時子のワルツ”へと引き継がれ幕をとじる。その(22)を除く、すべての楽曲が1-2分程度の長さであり、サウンドトラック全体としても30分程の音楽となっている。

ここで注目すべきは、映画本編2時間として音楽が約半分以下の時間しか流れていないということ、まさに山田洋次監督がオーダーした”空気のような音楽”ということである。

久石譲はセリフを重視する山田監督の演出に配慮するため、本編用のスコアでは特徴的な音色を持つ楽器(ダルシマーなど)を効果的に用いている。ハンマー・ダルシマーは「ピアノの先祖」とも言われる楽器である。

しかしながら、主要テーマのどちらもメロディの長さは短くも、とても印象的で、記憶に残らない耳に残らないということは決してない。これこそが久石譲のメロディの強さであり、かつ効果的にモチーフを2つに絞り込んで、あらゆるバリエーションで効果的な楽器編成で配置した結果といえる。

 

この後、久石譲「WORKS IV」にて、フルオーケストラ用にオーケストレーション、メインテーマ(22)は、楽曲構成はほぼ同じとしながらも、ギター、アコーディオン、マンドリンが加わり、サウンドトラックにはないオーケストラの華やかさと優雅さに磨きがかかっている。ひかえめながらも力強い華麗な輪舞曲(ロンド)に仕上がっている。全体の構成は、久石のソロ・ピアノによる序奏に続き、タキが象徴する激動の昭和を表現した「運命のテーマ」、そして時子が象徴する昭和ロマンを表現した「時子のワルツ」となっている。

 

 

映画「東京家族」につづく山田洋次監督とのタッグは久石譲にも大きな変化をもたらしている。具体的には、別項にて紹介しているが、一部抜き出すと下記とおり。

 

  • オーケストラなどで音楽が主張をすることをひかえたつくり方
  • 空気のような音楽、雰囲気を邪魔しない音楽、芝居や映画と共存する音楽
  • 小編成にシンプルに、おさえるけれど、ただうすいだけにならないつくり方
  • 登場人物や観客の気持ちを煽るような音楽をつけない
  • より映画にコミットするかたちで音楽をつける

“今まではどうしても映画音楽としても主張してしまう自分がいたけれど、その力みがなくなった”といつかのインタビューでも語っている。

 

 

 

 

今後の久石譲映画音楽制作の分岐点になるであろう作品である。

 

 

小さいおうち 久石譲

1. プロローグ
2. 僕のおばあちゃん
3. 上京
4. 赤い屋根のおうち
5. 昭和
6. タキと時子
7. 雨の日も風の日も
8. 南京陥落
9. 師走
10. 正治と恭一
11. 嵐の夜
12. タキの幸せ
13. 本当の所
14. タキの悲しみ
15. 開戦
16. 事件
17. 別れ
18. 手紙
19. B29
20. イタクラ・ショージ記念館
21. 時効
22. 小さいおうち

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by Joe Hisaishi (Track 1,11,20)
Conducted by Joe Hisaishi

Performed by
Flute: Hideyo Takakuwa
Oboe & E.Horn: Satoshi SHoji
Clarinet: Kimio Yamane
Bassoon: Masao Osawa
Guitar: Masayoshi Furukawa
Hammered Dulcimer: Keiko Tachieda
Accordion: Hirofumi Mizuno, Patrick Nugier
Percussion: Marie Oishi
Harp: Yuko Taguchi
Piano & Celesta: Ryota Suzuki
Strings: Manabe Strings

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio
Recording & Mixing Engineer: Suminobu Hamada
Manipulator: Yasuhiro Maeda(Wonder City Inc.)

 

Disc. 久石譲 『スイートハート・チョコレート』 *Unreleased

2013年 中国公開

 

2013年 映画「スイートハート・チョコレート」(原題:甜心巧克力)
監督:篠原哲雄 音楽:久石譲 出演:リン・チーリン 他

2012年制作、日中合作映画である本作品は、日本では2012年10月20日-28日に行われた「第25回東京国際映画祭」にて期間上映された。2013年11月2日、第13回韓国光州国際映画祭で最高賞の審査員大賞を受賞し、中国国内でもメディアの注目度が急上昇している。そんななか中国国内で11月08日から上映開始されることが決定。

 

 

メインテーマは切ないピアノの旋律。1音1音丁寧に、お互いの愛を確かめあうような美しいメロディー。チェロによる主曲もまた悠々としっとりと歌い上げている。哀愁漂う叙情的なメロディーが印象的。他にもギターやピチカートによる軽快でリズミカルな曲も含まれている。

全体的にはシンプルなアコースティックサウンド。隠し味的に使用されているシンセサイザーのバックグラウンドもちょうどいい。映画のとおりハートウォーミングな音楽となっている。

 

日本公開日:2016年3月26日

 

 

甜心巧克力 スイートハートチョコレート

 

 

Disc. 久石譲 『ふるさとのメロディー』 *Unreleased

ラーメンよりも大切なもの

2013年6月8日 映画公開

 

ドキュメンタリー映画「ラーメンより大切なもの ~東池袋 大勝軒 50年の秘密~」
監督:印南貴史 音楽:高田耕至
エンディングテーマ:久石譲

 

 

エンディングテーマ 『ふるさとのメロディー』を作曲。ピアノトリオというピアノ、ヴァイオリン、チェロというアコースティックなシンプルな構成。

久石譲本人もこう語っている。「あえてクラシカルなスタイルにした。包み込むようなメロディー。」と。

ひとりの男の人生の背後に流れるドラマや歴史、そして希望。4分弱の楽曲に人生が凝縮されている。温かくもあり、力強くもあり。ヴァイオリン、チェロ、ピアノがそれぞれ絡み合い、メロディーを織りなし、それはまさに歩んできた足あとや道標のよう。クラシカルな構成ながら、「古き良き時代の昭和」「古風な昭和の男」を感じされるのもメロディーの巧みな力だと思う。

サウンドトラック未発売楽曲。

 

 

ラーメンよりも大切なもの

 

Disc. 久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

2013年6月5日 CD発売 UMCK-1449

 

2013年公開 映画「奇跡のリンゴ」
監督:中村義洋 音楽:久石譲 出演:阿部サダヲ 菅野美穂 他

 

 

コンセプトは、”津軽のラテン人”でした。

-今回の音楽設計はどのようになされたのですか。

久石:
台本を読んだら、単なるハートウォーミング路線の映画ではなくて、しっかり人間が描かれていました。そこで、まず全体をつなぐメインテーマとして「リンゴのテーマ」のようなものと、夫婦愛が出てくるので愛のテーマが必要だろうと。それを一旦書いたんですけど、青森ロケを見学させていただいたときに幸か不幸か、木村さんにお会いしちゃいまして(笑)。あの天真爛漫さを出すには、もうひとつ別のテーマを作らなければいけないと思ったんです。そこから結構、悩みました。結果としてたどり着いたコンセプトが「津軽のラテン人」(笑)。オーケストラのほかにマンドリンとウクレレ、口琴(ジューズハープ)を使って、なんとか木村さんの陽気さを出せないかと工夫しました。どちらかというとイタリア的なラテン感覚ですね。そんな感じの明るさが音楽で出せたらいいなと。

 

-ご苦労された部分となると、どのあたりでしょうか。

久石:
夫婦愛やリンゴ栽培の難しさを描く部分と、木村さんのキャラクターをどう両立させるか、ですね。ジューズハープって、一歩間違えると漫画チックになってしまうでしょう。あと、山崎努さん演じる父親のラバウルの話をどれだけきっちり書くか、山へ木村さんが自殺を図りに行くくだりの長いシーンをどうするかという配慮は大変でした。何より、エンターテインメントに落とし込まなければいけない作品ですからね。実は観客が一番シビアにご覧になるジャンルです。中途半端なことをやってしまうと一発で見抜かれます。そういう意味では全力、かつ、できるだけ客観的に臨まないといけない作品でした。エンターテインメントは、しっかりした形で作ろうとすると、意外に手間暇がかかりますし、思うほど簡単ではないんです。この映画は、ちょうど昨年の7月からの3~4ヶ月で映画3本を立て続けにやった時期の最後の作品だったんですが、集中していた分、いいものができたのかなとも思っています。少なくとも、あの時点でできることは100%やったという実感は確実にあります。個人的には結婚式のシーンが好きですね。音楽的にもうまくできたと思いますし、とてもいい感じだなと、完成した作品を観て思いました。

Blog. 映画『奇跡のリンゴ』(2013) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

「それはいちばん重要なところです。映画を2時間で構成するとなると、どこに音楽を入れ、どこに音楽を入れない箇所を作るかが重要になります。今回は、冒頭はエンターティメントでいかなければいけません。中盤は、(主人公の状況が悪い方向に)落ちていく。ただ、落ちたときに悲しげな音楽を入れてしまうと、その音が救いになってしまいます。だから音楽は抜くことにしました。普通なら「ここに音楽が入るな」という箇所もありましたが、あえて「抜きましょう」という話になって。そういう設計的な部分の考え方に関しては、中村義洋監督とも一致しました。だから、とてもやりやすかったですね。」

Blog. 「東洋経済オンライン」 久石譲 Webインタビュー内容 より抜粋)

 

 

「驚いたことに、『どこに音楽を入れるべきか』という意見が僕と監督でほとんど完璧に一致したんです。映画音楽を深く理解している監督で、一緒に仕事をするのは楽しかった。だから僕も一所懸命にやってしまいましたよ(笑)」

「まず第一は、リンゴのテーマですね。人類が何千年にもわたって苦労して栽培してきた、普遍的な果物としてのリンゴのテーマ音楽。それからもうひとつはこの映画の主題である愛のテーマ。木村さんと奥さんの夫婦の愛、それを包みこむ愛のテーマが必要です。本来ならこのふたつで行きたかったんですが、映画の撮影現場を訪ねた時に、映画のモデルになった木村秋則さんというとんでもなく個性的な方に会ってしまったんです。それですぐに気づいた。この人にリンゴのテーマだけでは太刀打ちできないなと」

「たどりついたのは『津軽のラテン人』というコンセプトでした。マンドリンとウクレレと口琴というあり得ない編成で、木村さんの天真爛漫で明るい雰囲気を出せないかと考えたんです。それでちょっと奇妙でコミカルなテーマ音楽が生まれた。ただ、雰囲気で決めたわけではない。この映画にはどういう音楽が必要なのかを考え抜き、詰め将棋のように緻密に、必要な音楽を作って組み立てる作業のなかで、あのテーマもできあがっている。映画音楽は大変ですから、1本作り上げようとすると、魂を入れるような作業が必要なんです。だから、あまり本数をやるべきじゃないと思っているんですけど(笑)」

Blog. 「GOETHE ゲーテ 2013年7月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

全編において特徴的なのが、その軽快なタッチ。主要な2つのテーマを作曲しながらも、主人公になっている実在の方にお会いしてから、その陽気なキャラクターを表現するために別のテーマ曲も作曲。

コンセプトは「津軽のラテン人」という能天気な明るいイメージから、マンドリン、ウクレレ、口琴などの楽器をオーケストラと合わせる構成になっている。本来ならば「日本 津軽」という舞台にも関わらず、その音楽世界が「異国 南国 ラテン」の香りがするのはそのためだろう。そのギャップが結果として見事に功を奏していると思う。

ちなみに口琴という楽器にだけ触れる。口琴は、原始的な楽器で古くから世界各地に分布。日本では古くから北海道や津軽などでアイヌ民族が好んで用いていた。そのビヨ~ンという独特の音色は、飛び跳ねる動き等を表現する効果音としてもよく使われる。アニメ『ど根性ガエル』の主題歌といえば、一番想像しやすい。

というわけで、マンドリンやウクレレといった「ラテン」を意識しながらもそこに口琴を組み合わせることによって「ラテン+津軽」を、そして「陽気さ 明るい」空気感を演出している妙。いつもの久石メロディーが、よりパッと明るくなっている作品である。

メインテーマ、そしてそれをモチーフとした(1) (6) (9) (13) (21) (23) (25)はまさに自然の音楽。壮大というよりは、空気も水も透きとおるような音楽。日本だけでなくヨーロッパの田園、畑、山脈なども連想できる、心地のよい曲。

モチーフによって、フルート、ホルン、ストリングスなどの楽器が旋律を奏でることからも、そういった連想や世界が広がるのかもしれない。

主人公のテーマ、そしてそれをモチーフとした(2) (4) (10) (12) (14) (27)などは、冒頭に書いた「津軽のラテン人」をコンセプトに、その楽器たちをうまく組み合わせた軽快な曲。マンドリン、ウクレレ、口琴、オーケストラが、モチーフごとにその旋律を軽やかに彩っている。いろんなCMにも使用できそうな、短いメロディーながらもインパクト十分な、陽気な明るい曲。

ラブテーマ、そしてそれをモチーフとした(5) (20) (22)は、ピアノをメインにしたシンプルな旋律。少しメインテーマを垣間みるような音階が特徴的。

そして、最後の(28)にて、ラブテーマ~主人公のテーマ~メインテーマと上の3つのテーマを1曲として繋いで聴くことができる。映画のエンドクレジットに華を添えている、そして余韻が香る。

 

 

 

久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

1.奇跡のリンゴ
2.運命の始まり
3.母親の言葉
4.東京の空
5.祝言の夜
6.津軽の風物詩
7.安全の代償
8.幸福の訪れ
9.答えへの入口
10.挑戦の始まり
11.試練の訪れ
12.挑戦の決意
13.ラバウルの記憶
14.挑戦の日々
15.悪夢
16.三等分の想い
17.約束の光
18.現実の地獄
19.雛子倒れる
20.薄暮の背中
21.暗闇の出口
22.人間の証
23.挑戦の再開
24.困窮の果て
25.ありがとうの言葉
26.小さな希望
27.挑戦の続き
28.リンゴの軌跡

All Music Compose, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra
Madolin:Tadashi Aoyama
Guitar & Ukulele:Mikihiko Matsumiya
Jew’s Harp:Ikuo Kakehashi

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

Disc. 久石譲 『東京家族 オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『東京家族 オリジナル・サウンドトラック』

2013年1月16日 CD発売 UMCK-1442

 

2013年公開 映画「東京家族」
山田洋次監督50周年記念作品
監督:山田洋次 音楽:久石譲 出演:橋爪功 吉行和子 他

 

 

インタビュー

-これまでの久石さんの映画音楽のアプローチは音と画を拮抗させ、そのぶつかり合いのなかから某かのものを醸し出す方法論が多かったと思いますが、今回は驚くほど奥に引いています。それはある意味、挑戦だったのではないでしょうか?

久石:
そうですね。まず台本を読んだ段階で、今回はあまり音楽を前に出さず、包み込むようなものが良いだろうとは思ったんです。山田監督とお話させていただいた時も「空気のように、劇を邪魔しないものを」という注文がありました。現にラッシュ(撮影済みで未編集のフィルムや映像)を観ても音楽が入る余地が全然ない(笑)。これはもう劇を受け止めるような音楽を書かなければ駄目だなと。

-しかし、少ないながらも入る箇所は的確で、音楽が流れるごとにあの老夫婦の心情と呼応し支え合い、じわじわと相乗効果がもたらされていくのがわかります。

久石:
最終的にはお母さんが亡くなり、お父さんが独り残される。そのことをメインに据えて、そこに至るまでをどう行くかというのが、今回はプランとして非常に大事でした。例えば病院の屋上でお父さんが次男に「母さん、死んだぞ」と言うところまでは、ピアノを一切使ってないんですよ。逆にその後からは、ピアノを自分で弾いています。音楽が少ないからこそ、そのなかで効果的な変化をつけたかったんですね。

-『東京物語』(53)が「人生は無である」と説いた映画だとすれば、『東京家族』は「人生は決して無ではない」と説いている映画だと思います。だからあのお父さんが独りになって終わるラストも、厳しくはあれどこか明るい感触を受けますし、エンドタイトルの高らかな音楽はその後押しとして、観る者まで前向きな気分にさせてくれます。

久石:
そういう風に捉えていただけると嬉しいですね。僕も『東京物語』は大好きな映画なのですが、『東京家族』はそれと同じストーリーラインではありながら、やはり山田監督独自の世界観でしたので、こちらも特に意識することはなかった…と言いますか、先ほど申しましたように意識するどころではないほど大変だったわけです。今回は本当にオーケストラを薄く書いているんですけど、痩せないように書く方法とでもいいますか、その作業も難しかったし、40秒の曲を書くのに普段の3分以上の曲を書くのと同じ労働量を必要としました。でもその代わり、新しい技もいくつか開発しましたので、もう次からは何が来ても怖くない(笑)。何よりも今回は憧れの山田作品に自分の音楽を入れさせていただくことができたわけですから、本当に光栄でした。

Blog. 映画『東京家族』(2013) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

今回、監督作品81作目にして初めて久石譲に音楽を依頼したが「もちろん(久石が担当した)作品は拝見していましたし、ぜひ一度、お仕事させていただきたいと思ってました。映画音楽は映画が好きな人じゃないとダメなんです」と念願かなってのタッグ実現を嬉しそうに振り返った。だが映画監督にとっては音楽家との仕事はなかなか気疲れするもののようで「最終的なイメージは作曲家の中にあるんでね。とても気を使うんです。お見合いのようにドキドキします」と語る。

一方の久石譲は今回の仕事について「苦労しましたよ!」と告白。「普通、2時間の映画にだいたい50分から60分くらい音楽が付くんですが、今回は2時間半くらいの映画で音楽は25分くらい。平均して40秒から50秒くらいの曲が多いんです。短い音楽を書くのは難しいんです」と述懐する。しかも監督からは「空気のような音楽」というリクエストがあったとか。「芝居の邪魔にならずにそれでもどこかで共存するものとして考えました。いかに薄く書くか? でも痩せちゃいけない…。工夫する中で新たな発見がありました」と明かす。

Info. 2013/01/25 山田洋次監督 × 久石譲 スペシャルトークセッション より抜粋)

 

 

「空気のような音楽、雰囲気を邪魔しないような音楽と言われていました。今回はあまりたくさんの音楽を必要としない、芝居を邪魔しないで共存出来る音楽なんだと思いました。」

「今回は2時間半ぐらいの映画なんだけど、曲は全部で25分ぐらいしかないんです。いかにうすく書くか、でもやせすぎちゃいけない…そんな色々な工夫をしていくうちに、こんな技があるんだと、3つぐらい新しい技を発見しました。」

Blog. 映画「東京家族」 山田洋次監督 × 久石譲 スペシャルトークセッション より抜粋)

 

 

 

シンプルで素朴なメロディーのメインテーマ。オーケストレーションも小編成。曲も1-3分程度の短いものが多く、そっと映像に寄り添うような音楽。

メインテーマ(15)、メインテーマをモチーフに編曲した(1) (2) (3) (7) (10) (13)、メインテーマ以外だと(4) (5) (11)など、管楽器、とりわけオーボエやファゴットをうまくメロディーラインに取り込み、それにより、素朴な、温かみのある、空気感を演出している。

特に邦画作品を手がけるときにはよく見られる。音をつめすぎない、余白のある音楽。これにより映像やストーリー、風景、俳優さんの感情や観る人の感情に寄り添うかたちで、かつ、印象的に際立つのかもしれない。

また近年の作品に多いが、変拍子のメロディが増えている。でも、なぜか不思議と変拍子としての違和感がない。そのままきれいにメロディとしてリズムとして流れているので不思議。曲構成として映像のいわゆる細かい尺に合わせるために、タイミングやタイムを要所要所で合わせることはあってもメロディラインとしてここまで変拍子がきれいに成立しているのはすごい。特に今作品のようなシンプルな主題曲だと、シンプル=簡単のように思ってしまうが、いざ譜面を見たら、おそらく聴いた印象よりも標記の多い楽譜になっているはず。

メインテーマをピアノにメロディラインを配置しているあたりがこの作品を象徴しているのかもしれない。しかも、メロディの冒頭は、まさに片手で、数本の指で弾けるくらいの、メロディ旋律のみを大胆にもってきているアレンジ。メロディが凛と立っているからこそ、できる業なのかもしれない。

春に聴けば桜が舞い、夏は木漏れ日、秋は紅葉と秋桜、冬は暖を囲む居間、そんな四季折々の日本家族や日常生活を表現した音楽。

 

 

久石譲 『東京家族 オリジナル・サウンドトラック』

1. プロローグ
2. 初めての東京
3. 夫婦
4. 丘の公園
5. 東京観光
6. うなぎ屋の親子
7. ホテル
8. 観覧車
9. 孤独
10. 若者たちへ
11. 約束
12. 母さんの死
13. 病院の屋上で
14. 紀子へ
15. 東京家族

All Music Compose, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio, ABS Recording

Recording & Mixing Engineer: Hiroyuki Akita
Manipulator: Yasuhiro Maeda (Wonder City Inc.)

and more

 

Disc. 久石譲 『天地明察 オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『天地明察 オリジナル・サウンドトラック』

2012年9月12日 CD発売 UMCK-1414

 

2012年公開 映画「天地明察」
監督:滝田洋二郎 音楽:久石譲 出演:岡田准一 宮﨑あおい 他

 

 

INTERVIEW

監督との共同作業は、音楽をつくるうえで理想的な環境でした

滝田洋二郎監督とご一緒するのは3作目になります。『壬生義士伝』(02)と『おくりびと』は自分にとっても大事な作品になりましたから、今回のお話をもらったときも、一も二もなくやらせていただきたいと思いました。

通常、音楽は撮影後に制作することが多いのですが、『おくりびと』のときに、主人公の弾くチェロの曲だけは先に必要で撮影前に書いたんです。滝田監督は、先にテーマとなる音楽があると現場で表現できることの幅が広がる、作品を象徴する世界観の全体像を掴むことができる、と喜んでくれて、今回も早い段階から曲づくりに取りかかりました。撮影の途中にピアノだけのサウンドスケッチを1曲つくり、お送りしたのですが、うえを見あげ跳躍するような、シンプルだけどメロディの出だしに特徴のある曲にしました。監督に気に入っていただいて、結局その曲がメインテーマになったんです。

今回は、時代劇というよりも、ひとつの夢を追い続ける人間が夢をかなえていく、青春ドラマの側面に焦点を当てて楽曲をつくりました。もちろんメインテーマのさびの部分には、日本音階的な雰囲気を入れていますが、滝田監督もいかにも時代劇風の音楽は望まれていませんでしたし、僕自身も、これは現代の人に見てもらう映画ですから、時代劇にはこだわらないようにしようと。スケール感や希望を感じさせることを大切にしつつ、オーケストラによって、あたかも全体がひとつのシンフォニーのようになればと思いました。

これまでに、さまざまな監督の作品に参加させていただいてきましたが、滝田監督はとても丁寧な演出をなさるので、僕の音楽がなくともお客さんを魅了できると思うところもあるんです。だから、僕の役割は一歩引いたスタンスから、滝田監督の撮られた映像を包み込む音楽をつけることだと思っています。僕は、芝居がよければ音楽は極力入れないほうがいいと思っているんですよ。芝居で伝えている感情を音楽でなぞる必要はないですから。芝居がよければ、引いた感じの音楽を載せるだけで相乗効果が生まれます。『おくりびと』のときはそれこそ引き算で、どれだけ音楽をつけないかというのが僕にとってのテーマだったりもしたんです。ただ『天地明察』は青春ドラマの要素もあるので、音楽の量は若干増やしましたけど、基本的には画角を支える存在でありたいというスタンスで音楽をつけていきました。

それから今回は、音楽で芝居のリズムに変化をもたらせないかと考えました。具体的に言うと、安井算哲が梅小路を走るシーンでラテン系の音楽が流れるのですが、クライマックスへの導入部分でもある場面なので、物語の句読点、アクセントになればと思い、提案させていただきました。

滝田監督は音楽を知り抜かれていますから、求められるハードルも高いんです。でも、音楽を大切に扱ってくださるからやりがいがあります。特に今回、いままでよりもさらに明確なビジョンを音楽に対しておもちでしたし、僕からも具体的な提案ができました。映画音楽をつくるうえでの共同作業としては、理想的な環境でしたね。

(映画「天地明察」劇場用パンフレット インタビューより)

 

 

 

 

全編フルオーケストラ。江戸時代という時代背景ながらも、天文学というストーリーからか、天を仰ぎ見るような、澄みきった音楽たち。

メインテーマの(25) (27)、(25)が純粋なフルオーケストラなのに対して、(27)はリズムパーカッションが加わる。そればかりかオーケストレーション・構成・編曲も異なる。メロディーラインを奏でる楽器が違うかと思えば、それに合わせてアレンジも変わっている。

どちらもしっかりと成立した芯のある2曲だけれど、どちらかと言われれば(27)のほうが起伏に富んだダイナミクスな構成にはなっている。少し聴いただけでは(25)と(27)のこまかい違いはわからない。聴き比べると、聴きこむと、そしてなぜ2曲を並べたのか考察するのもおもしろい。

メインテーマをモチーフにした(1) (3) (8) (9) (13) (14)、心温まる美しい旋律のラブテーマともいえる(6) (18) (21)、星空を天体観測しているような高音の旋律がまばゆく輝いている。

またこの作品ならではの佳曲(2) (4) (15)などは、天文学的、数学、そこからミニマル・ミュージックの要素が垣間見える。全面にではなく、アクセント、隠し味くらいのさじ加減。

 

 

久石譲 『天地明察 オリジナル・サウンドトラック』

1. プロローグ
2. 好奇心
3. 初手天元
4. 真剣勝負
5. 予感
6. えん
7. 北極出地-開始-
8. 星の申し子
9. 見事なる誤問
10. 北極出地-不穏-
11. 北極出地-建部-
12. 任命
13. 観測
14. 確信
15. 三暦勝負
16. 襲撃
17. 挫折
18. 祝言
19. 発見
20. 勅使
21. 約束
22. 最終勝負
23. 決断
24. 運命の刻
25. 天地明察
26. フィナーレ
27. TENCHI MEISATSU

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

Disc. 久石譲 『この空の花 -長岡花火物語 オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『この空の花 -長岡花火物語 オリジナル・サウンドトラック』

2012年5月1日 CD発売 PSC-0001

 

2012年公開 映画「この空の花 -長岡花火物語」
監督:大林宣彦 主題曲:久石譲 主題歌:伊勢正三
挿入曲:パスカルズ サックス演奏:坂田明 映画音楽:山下康介
出演:松雪泰子 高嶋政宏 他

 

 

映画物語が、音楽で紡がれる。
學 草太郎(映画音楽作家)

01 これまでのように心地良く抒情的な音楽ではなく、何か心にゴツーンとくるような、拳を強く握りしめたような音楽を、という監督のオーダーに久石譲が応えて、黒人霊歌のようにシンプルなメロディーだが祈りを籠めた主題をボレロのように繰り返す、というコンセプトで作曲されたメインテーマがこれ。映画の冒頭部、メインタイトル部分に物語の序章として誘うように忍び込んでくる。一気に映画に吸い込まれていく痺れ感が魅力。久石譲が17年の空白を経て大林映画に復帰した、その緊張感が聴く者に至福感を醸造する。それがこの導入部の枝となっている。

02 映画全編が、冒頭で呈示された久石譲によるメインテーマの繰り返しである。それが大林映画によって発見され、久石譲が去った後の大林映画を17年に渡って担当して来た「天才少年」山下康介の名アレンジによって、見事な映画音楽として物語を紡いでゆく。物語のヒロイン、長崎原爆の被爆二世である天草の新聞記者・遠藤玲子が、ワンダーランド長岡を訪れ、様ざまな戦争についての出来事を知り、この里に迷い込んでゆく。その最初の一日目の不思議を描いた部分。山下康介は久石譲のメインテーマをモチーフに、押さえた表現で以降の展開に期待をつないでゆく。山下は実は近年、久石音楽のアレンジャーを勤めてもいたのである。監督と音楽家とのジョイント役として、完璧で見事な安定した滑り出しを音楽で造形し、音楽劇の演出として楽しんで戴きたい。

03 死者の霊がいまも目覚めて呼び掛けてくる。柿川の辺りを地元の新聞記者・井上和歌子に案内され、この川で一才半で死んだ少女から、いまは忘れられた戦争の物語に引き寄せられてゆく。そしてこの里を襲った中越地震、更には戊辰戦争の記憶が、玲子の現在は戦争に深く係っていると実感させてゆく。様ざまなモチーフがメインテーマの巧みな返送で綴られ、聴者の感情は揺さぶられ続ける。

04 東日本大震災から避難してきた少年との出逢い。若者の未来を望む明るさが光る。

05 古里の山の豊かな自然の恵みと、自然災害の中で生きる知恵。音楽は物語に溶け込み、意識に昇らぬまま感情を支える。映画音楽の古典的手法をじっくり味わって欲しい。

06 いよいよ物語の舞台は主題の中核へ。冒頭の密やかなアメリカ国歌から、敵機来襲の悲劇へと急速に落ちてゆく。以降、07、08と過去の記憶と現代の日常との間を激しく往き来する場面の中を音楽が重層的に結んでゆく。殊に09の坂田明演ずる片腕のサックス演奏と空襲の惨劇とのコラボレーションが生む劇的興奮は、思わず息を飲むエモーション。

10 花火による古里再生への祈りから、伝説の花火師・野瀬清治郎のシベリア抑留と、アムール川での追悼の花火打ち上げを描く11へ。

12 そして、かつて玲子が東京で共に若き日を過ごした片山健一が指導する、甦りの子どもたちが演じる戦争の劇。いまこの記憶を伝え切れば、次に起こるかも知れない戦争から未来を救えるか。間に戦争の記憶を挟んで、互いに見つめ合う玲子と健一。メインテーマが交叉する中を、音楽は強く思いを伝えてゆく。

13 山下清演じる石川浩司とパスカルズのメンバーが奏でる劇中曲。B-29から投下される焼夷弾が、過去を伝え未来を生きる子どもらの祈りによって、次つぎと美しいこの空の花、花火に変わってゆく。パスカルズのメンバーがこの映画にプレゼントした『花火』は、人間の祝祭を称え、未来の希望を紡ぎつつ、久石譲のテーマに結びついて14の大団円に帰する。めくるめく音楽的眩暈の時。

15 それぞれの最終章。別れは次なる出逢いの準備であるのか。久石譲のテーマが永遠の時を醸し出す。淡淡と、穏やかな日常に。

16 大林=伊勢の映画三作目のジョイントにして初のオリジナル。正やんはこの作詞に半年を苦吟した。監督と共に大人として、未来を生きる子らに過去を伝え、希望を手操り寄せようと。エンディングに歌われるこの歌は、そのまま久石譲のメインテーマと結び合って映画のエンドマークの無い未来へ向う。大林=久石=伊勢=山下の魅惑の最終章。

BONUS TRACKとして、17は正やんに代ってご自身で歌いながら、この映画の中を彷徨ってください。18は譲さんのプレゼントのメインテーマ・単独ヴァージョン。長岡花火「この空の花」の打ち上げ時に、永遠の平和を祈る。

(CDライナーノーツより)

 

 

主題曲 メインテーマとなる(1) (18)のみを担当している。ガラス玉のような、故郷のよき夏を連想させるメロディーからはじまる。懐かしさと、子供の頃の夏のワクワク感、陽が沈むのが遅い長い夏を。ボレロのようなリズムが、その胸の鼓動を打つよう。

(18)ではこのメインテーマがより躍動的になっている。変拍子のリズムが、緩急よく、また間髪入れずに打ち上がっては花開く、さまざまな打ち上げ花火の風景を。ボレロのリズムで一体感を持ち、メインテーマが展開していく。弦の細かい高音の粒たちが、空に高く舞い上がっていく花火の瞬間を。

夏の名曲が『Summer』ならば、『この空の花』(1) (18)は、まさに“夏の花火”の名曲。隠れた渾身の1曲だと思う。

 

 

久石譲 『この空の花 -長岡花火物語 オリジナル・サウンドトラック』

1. この空の花(久石譲によるメインテーマ)
2.戦争からの手紙
3.柿川の少女の記憶
4.東日本から来た少年
5.古里に生きる
6.1945年8月1日の敵機襲来
7.想像力と生と死と
8.空襲と舞踏と母
9.焼夷弾をサックスで(坂田明 作・演奏)
10.自然災害と空に咲く花
11.祈りと再生の叙情詩
12.まだ戦争には間に合いますか
13.花火(パスカルズ 作・演奏)
14.世界中の爆弾を花火に
15.お別れは一度だけ
16.それは遠い夏(伊勢正三 作・歌)
&この空に祈りを(久石譲によるエンディング)
BONUS TRACK
17.それは遠い夏(歌唱用楽曲)
18.この空の花(久石譲 作曲)

#2~16,18 久石譲のモチーフによる山下康介 作・編曲映画ヴァージョン
#17 伊勢正三のモチーフによる山下康介 編曲ヴァージョン

 

Disc. 久石譲 『The Best of Cinema Music』

久石譲 『THE BEST OF CINEMA MUSIC』

2011年9月7日 CD発売 UMCK-1404

 

2011年6月9日東京国際フォーラムにて開催された「久石譲 3.11 東日本大震災チャリティー・コンサート」を収録したライブ音源。スタジオジブリ作品、北野武監督作品など自作の映画楽曲を中心に演奏。舞台上に大スクリーンを設置し、映像と音楽によって作品世界を演出。スクリーンに映し出される名場面とオーケストラによるテーマ曲たちの競演。

 

 

もう今は夢を語るときではない
- 東日本大震災に寄せて -

久石譲

(CDライナーノーツ および コンサート・パンフレット 同掲載)

 

 

”ぼくたちのストーリー”を語り始めた久石さんの音楽

「オーケストラは社会の鏡(An orchestra is a reflection of society)」という言葉がある。オーケストラは弦楽器、管楽器、打楽器など、個性溢れるさまざまな楽器が集まり、共に手を携え、ひとつのハーモニー(調和)を生み出していく。では、オーケストラの楽器が欠けたらどうするか? 例えば、オーケストラが海外公演をする際、手荷物の不着なので楽器が届かなかった場合には、現地のオーケストラが手を差し伸べ、楽器を貸し出すのが普通である。ぼくたちが生きる現実社会についても、同じことがあてはまる。今回の東日本大震災において、”日本という名のオーケストラ”は本当に多くの支援-あたたかいメッセージや義援金など-を世界中から受け取った。だから、震災で楽器を失った子供たちのために、久石さんが楽器購入支援のチャリティーコンサートをオーケストラと共に(ここが重要だ。その気になれば、ピアノ一台でもチャリティーコンサートは出来るのだから)開催するというニュースを知った時、映画音楽とクラシックの演奏活動を通じてオーケストラと日常的に接している久石さんならではの、とても素晴しいアイディアだと思った。子供たちに再び楽器を与えることは、音楽の喜びを取り戻すだけでなく、アンサンブルをすることの大切さを通じて-それがバンドであれ、吹奏楽であれ、オーケストラであれ-子供たちが社会というものを意識していく、強力な手段のひとつとなるからだ。

しかも久石さんは、今回のコンサートを単なる”自選ベスト”にはしなかった。3年前の武道館コンサートの時のように、舞台上に大スクリーンを設置し、映画と音楽が生み出す相乗効果-それこそが映画音楽の真の醍醐味である-を生の形で再現しようとしたのだ。幸運にもぼくは6月9日の東京公演を見ることができたが、『風の谷のナウシカ』~《風の伝説》のティンパニの強打で始まった約2時間のコンサートは、とても感慨深く、また新鮮な驚きに満ち溢れていた。映像付きの再演は困難と思われていた『THE GENERAL(キートンの大列車強盗)』の優雅なワルツが、白塗りのキートンの無表情と共に再び聴けたのは望外の喜びだったし、『Let the Bullets Fly(譲子弾飛)』の勇壮なマーチが、ダイナミックな銃撃戦の映像と共に演奏されるのを聴けば、一刻も早く本編を見たくなるのが人情というものである。

だが、コンサートはそれだけでは終わらなかった。

驚くべきことに、久石さんが指揮する音楽と、スクリーンに映し出された名場面の数々は、単に映画音楽の魅力と楽しさを伝えるだけでなく、映画の本編とは別の”もうひとつのストーリー”を語り始めたのである。

『風の谷のナウシカ』-暴走する王蟲の大群に呑みこまれたナウシカと、彼女に再生の力を与える《遠い日々》の清らかなコーラス。

『もののけ姫』-技術のために森を切り崩した傲慢な人間に襲いかかる、《タタリ神》の凶暴な和太鼓とホルンの咆哮。

『菊次郎の夏』-健気に生きていく天涯孤独の少年を温かく見守る、《Summer》の軽やかなピアノのメロディ。

『Brother』-閉塞した現状の中で怒りを爆発させるような、《Raging Men》の荒々しいパーカッション。

『Kids Return』-「俺たち、もう終わっちゃったのかなあ」「馬鹿野郎、まだ始まっちゃいねえよ」というラストのセリフと共に始まる、躍動感溢れるミニマルビート……。

そう、このコンサートで演奏された曲たちは、震災を体験した”ぼくたちのストーリー”を語り始めていたのだ。社会の鏡たるオーケストラが、映画という鏡を通じて”今ここにある現実”を映し始めたのである。

そのことに気づいた瞬間、ぼくはとてつもなく大きな衝撃を受けた。これまで30年近くに渡ってリアルタイムで親しみ、熟知してきたはずの久石さんの映画音楽が、全く違って聴こえ始めたからだ。「音楽は、あらゆる哲学や知識よりも高度な啓示である」とはベートーヴェンの言葉だが、この日演奏された曲たちは”今ここにある現実”を改めて目の前に突きつけたという点で、まさにひとつの啓示だった。ある人はそれを「既視感」と呼ぶかもしれないし、別の人はそれを「現実とのシンクロ」と表現するかもしれない。いずれにせよ、久石さんの指揮する音楽とスクリーン上に映し出された映像は、エンタテインメントという名の現実逃避から遠く離れ、”日本という名のオーケストラ”が置かれた現状を、ぼくたちに必死に認識させようとしていた。

コンサートの終わり近く、久石さんはソプラノの林正子さんと共に『悪人』~《Your Story》を演奏し、久石さんが被災地で撮影してきた生々しい写真をスクリーン上に映し出した。

What we both long a place, sweet home
If I could un-wine the time and stay with you
僕たちが求めるもの、それは安らげる安堵の場
もっと側にいたい、時計の針を戻せるのなら

この歌詞が歌われた瞬間、《Your Story》は映画音楽という枠を越え、”ぼくたちのストーリー”と完全に同化した。その場に居合わせた聴衆のすべてが、《Your Story》に込められた痛切な想いを”My Story”として受け止めたのである。おそらく、ポーランドでも大阪でもパリでも北京でも、聴衆の気持ちは同じだったはずだ。

でも、久石さんは、震災の悲劇を嘆き悲しむだけでコンサートを終わらせなかった、「ともに生きること」の大切さを高らかに歌い上げた『もののけ姫』~《アシタカとサン》のコーラス。土の中から芽を出したドングリの大樹そのままに、明るく壮大な響きを奏でた『となりのトトロ』のオーケストラ。ぼくにはそれが、これから”日本という名のオーケストラ”が鳴らしていくべき”復興のシンフォニー”の序奏のように思えてならなかった。

ぼくは、このコンサートを一生忘れないだろう。

前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)

(CDライナーノーツより)

 

 

本作はライブ音源なので、スタジオ録音されたもの、本作の楽曲構成に近い過去参考CD/DVDを中心に解説。

(1) NAUSICAÄ (映画『風の谷のナウシカ』より)
オープニング「風の伝説」~レクイエム~メーヴェとコルベットの戦い~遠い日々~鳥の人
約10分に及ぶ壮大な組曲。「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-ray)と同構成。ライブ映像音源。「WORKS I」17分にも及ぶ交響詩全3部として収録。本作はここからのダイジェスト版に相当する。

(2) Princess Mononoke (映画『もののけ姫』より)
アシタカせっき~タタリ神~もののけ姫(Vo:林正子)
約8分に及ぶ組曲。本作では主題歌『もののけ姫』が英語歌詞になっている。「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-lay)と同構成。ライブ映像音源。日本語歌詞。「真夏の夜の悪夢」同構成ライブ音源。主題歌『もののけ姫』はオーケストラ・インストゥルメンル。「交響組曲 もののけ姫」メドレーとなった3曲の各々オーケストラスコアをチェコ・フィルの演奏にて。「WORKS II ~Orchestra Nights~」「交響組曲 もののけ姫」の同構成各曲ライブ音源。

(3) THE GENERAL (映画『THE GENERAL(キートンの大列車追跡)』より)
「WORKS III」Movement1~Movement5 として組曲で構成。本作ではメインテーマを中心に抜粋。

(4) Raging Men (映画『Brother』より)
「WORLD DREAMS」新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラの演奏。「SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001」同構成ライブ音源。

(5) HANA-BI (映画『HANA-BI』より)
「WORKS II ~Orchestra Nights~」同構成ライブ音源。「WORLD DREAMS」ピアノが編成から外れた違った表情豊かなフルオーケストラ。

(6) Kids Return (映画『Kids Return』より)
「SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001」同構成ライブ音源。

(7) Let The Bullets Fly (映画『譲子弾飛』より)
初フルオーケストラ。

(8) Howl’s Moving Castle (映画『ハウルの動く城』より)
Symphonic Variation 「Merry-go-round」~Cave of Mind
約11分に及ぶ組曲。「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-lay)と同構成。ライブ映像音源。「WORKS III」原型となる約14分の組曲を新日本フィルの演奏にて。

(9) One Summer’s Day (映画『千と千尋の神隠し』より)
「メロディフォニー」ロンドン交響楽団の演奏。「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-lay) 平原綾香(Vo) 本作と「メロディフォニー」では、ピアノをメインにしたしっとりと聴かせるオーケストラ・アレンジ。

(10) Summer (映画『菊次郎の夏』より)
「メロディフォニー」ロンドン交響楽団の演奏。「空想美術館」ライブ音源。

(11) Villain (映画『悪人』より)
初フルオーケストラ。約11分に及ぶ組曲、映画のストーリー展開に沿って構成。クライマックスの主題歌『Your Story』ヴォーカルはソプラノ歌手:林正子。「悪人 オリジナル・サウンドトラック」では福原美穂がヴォーカル担当。

(12) Ashitaka and San (映画『もののけ姫』より)
本作でも日本語歌詞合唱。「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-lay)と同構成。ライブ映像音源。「交響組曲 もののけ姫」「WORKS II ~Orchestra Nights~」 (2)同様参照。

(13) My Neighbour TOTORO (映画『となりのトトロ』より)
本作では主題歌『となりのトトロ』のみを英語歌詞合唱。

「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-lay)風のとおり道~さんぽ withコーラス~となりのトトロ withコーラス メドレー。こちらではもちろん『さんぽ』『となりのトトロ』日本語歌詞合唱。

「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」映画『となりのトトロ』のすべての楽曲をオーケストラアレンジした作品。『風のとおり道』もフルオーケストラにて聴くことができる。オープニング/エンディング曲『さんぽ』『となりのトトロ』はオーケストラ・インストゥルメンタル。『さんぽ』においては、オーケストラの楽器紹介をかねた構成になっていて1番を木管楽器、2番を金管楽器、3番を弦楽器、4番を弦楽器、そして最後に全員フルオーケストラで、という趣向のある1曲になっている。

「メロディフォニー」主題歌『となりのトトロ』のみをロンドン交響楽団による演奏にて。コーラスなしのオーケストラ・インストゥルメンタル。(「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」収録同曲と同構成)

 

このチャリティーコンサートは、東京・大阪・パリ・北京にて公演されている。プログラムはほぼ同じと思うが、本作に収録されていない楽曲ももちろんある。

そのなかでも映画『崖の上のポニョ』からの組曲『Ponyo on the Cliff by the Sea』。本作に収録されたジブリ作品は、「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-lay)でのそれに近いが、組曲『Ponyo on the Cliff by the Sea』においてはかなり変更、進化している。組曲となる曲目構成も変更されていて、より緻密でダイナミクスなオーケストレーションになっている。クライマックスを飾る主題歌『崖の上のポニョ』もオーケストラがメロディーを奏でていて、サビは英語歌詞のコーラスにて大合唱となっている。収録されなかったのが非常に残念、ぜひ別の機会にでもCD/DVD化してほしい。

このチャリティーコンサート公演と本作CDの収益は東日本大震災で楽器を失った子供たちのために寄付されている。

 

 

 

 

なお、CD帯裏にはこのような記載がありCD発売当時Web閲覧することができた。

「久石譲3.11 チャリティーコンサート」で上映した久石譲監修による東日本大震災へ寄せたメッセージ映像の一部を期間限定特設サイトで公開しております。詳細は商品にてご確認下さい。

 

 

 

久石譲 『THE BEST OF CINEMA MUSIC』

1.NAUSICAÄ (映画『風の谷のナウシカ』より)
2.Princess Mononoke (映画『もののけ姫』より)
3.THE GENERAL (映画『THE GENERAL(キートンの大列車追跡)』より)
4.Raging Men (映画『Brother』より)
5.HANA-BI (映画『HANA-BI』より)
6.Kids Return (映画『Kids Return』より)
7.Let The Bullets Fly (映画『譲子弾飛』より)
8.Howl’s Moving Castle (映画『ハウルの動く城』より)
9.One Summer’s Day (映画『千と千尋の神隠し』より)
10.Summer (映画『菊次郎の夏』より)
11.Villain (映画『悪人』より)
12.Ashitaka and San (映画『もののけ姫』より)
13.My Neighbour TOTORO (映画『となりのトトロ』より)

All Music Composed, Conducted & Produced by Joe Hisaishi
Piano by Joe Hisaishi

Orchestra:Tokyo New City Orchestra , Kansai Philharmonic Orchestra
Soprano:Masako Hayashi 2. 11.

Recorded at
Tokyo International Forum Hall A (June 9, 2011)
Osaka-jo Hall (June 18, 2011)

 

Disc. 久石譲 『肩の上の蝶 / Rest on Your Shoulder』 *Unreleased

2011年7月8日 中国公開

 

2011年 中国映画 「肩の上の蝶 (Rest on Your Shoulder)」
監督:張之亮(ジェイコブ・チャン) 音楽:久石譲 出演:陳坤(チェン・クン) 他

日本未公開作品

 

録音:2011年3月8日、9日 アバコスタジオ
演奏:東京ニューシティ管弦楽団

 

 

同映画は恋愛ファンタジーで3Dを駆使し、完成までに8年を費やした意欲作。中国国内のみならず東京や北海道富良野でも撮影を行った大人の童話となっている。

「海洋天堂」以来、2作目の中国映画の音楽担当。実は「肩の上の蝶」の音楽の制作しているときに東日本大震災が発生。だが久石譲はジェイコブ・チャン監督の期待に応えるため、7月8日の中国公開に間に合わせるため作業を中断することなく制作を続けたという。

監督の熱烈なラブコールによって実現した久石譲の音楽だけあり、随所に音楽が登場する曲数の多い作品。これは作品の「ファンタジー 恋愛 ロマンス」という設定からくるものでもあると思う。

ファンタジックで夢の世界へと誘う音楽。フルオーケストラ構成でありながら、とてもメルヘンチックな印象を受けるのはそのメロディーによるところが大きい。

メインテーマはワルツで書かれた音楽になっていて、優雅に流れるようでもあり、飛び跳ねるようでもあり、いろいろなモチーフで登場する。弦楽器や管楽器をつかったフルオーケストラ編成に加えて、コーラスもフィーチャーしたアレンジがエンドクレジットなどでも聴くことができる。混声合唱が伸びやかに歌うその音楽は、愛とロマンスの象徴。

その他シーン音楽も、心温まる、ファミリー映画のような旋律が特徴になっている。そして、管楽器とりわけピッコロなどの高音楽器を使用することで、コンセプトともなっているファンタジーや蝶のイメージを見事に表現している。ファゴットなどの低音楽器もシーンごとのコミカルさやファンタジックな世界の表現に一役かっている。

とても丁寧に作り上げられた映画音楽。映画本編の日本公開のみならず、映画音楽としてのサウンドトラックの発売も期待する作品。

 

JASRAC登録 M1~M45

 

 

肩の上の蝶1 

肩の上の蝶2