1996年10月25日 CD発売 POCH-1604
【MEMORANDUM】
Friends
子供の頃思った。「お酒飲んでたばこ吸って、それにカウンターに座って寿司だっていつか食べてやる」気づいたらバーの片隅に一人座っていた。
Sunday
日曜日の午後、ふらっと画廊を訪れるのもよい。スコーンととびきり上等のアフターヌーンティーを飲みながら眺めるワッツの絵画は、本物の英国の香りがする。
Asian Dream Song
滔々と流れる黄河、人を寄せ付けないヒマラヤの山々、砂漠の民ベドウィン、インドの過去から未来に連なる永遠の時間の流れ、モダンでほんとうはヨーロッパよりも深い歴史と近代性をもっていた日本。僕はアジアの一員でしかも日本人であってほんとうによかった。
Angel Springs
6年間もあるウイスキーのコマーシャルにつき合った。何も足さない、何も引かない、このコンセプトは美しい。人が手を加えないことは現代では極めて難しい。例えばひとりの少年がいる。手を加えて型にはめるより、ほうっておいて発酵するのを待つ。もしかして天才が生まれるかも知れませんよ。
Kids Return
ミニマルミュージックの香りのする青春音楽。クールでどこか切なげ、ワイルドで繊細、淡々としているのに衝撃的、二律背反の世界、それが僕だ。僕の白は限りなく黒を連想させ、優しさは限りなく毒を含んでいる。見せかけのヒューマンは独裁者の心を隠し、愛と感動のメロディーは限りなく前衛の心の鎧となる。
Rain Garden
ふと、ラヴェルが弾きたくなった。その響きが心に微かな波紋となって広がっていく。フランス印象派は空ろいゆく時の陽炎(かげろう)。
Highlander
地図で見る英国は左の上の端にある。そのまた上の方にHighlanderがある。寒くて荒涼とした土地、手が届きそうに低く垂れ下がった天空。ケルトの里は何処か毅然としていて生きる厳しさと尊さを教えてくれる。
White Night
夕暮れ、密やかに闇が訪れ、家々の窓には灯がともる。空からは軽やかなダンスを踊っているかのような温かい(心の)雪が舞い降りている。もしかしたらマッチ売りの少女は幸せだったんだ。
Les Aventuriers
「冒険者たち」という映画があった。男はこの言葉が好きだ。冒険に乗りだす時の昂揚感、細心の注意と計画。大胆にも繊細な神経、思いがけない緊張感。でも実際の映画はふたりの男と一人の女の友情と愛情の物語り。はしゃぐ大人たちは幼稚な子供心を引きずったピノキオ。でもリノバンチュラだったら良いか?
PS.演奏が難しすぎた。プロのミュージシャンがほとんど弾けなかった。5拍子なんて人間の生理に合わないのか?でも「Take 5」や「Mission impossible」はとても心地良いのに…。ええい!一気の緊張、極限のスイードもありなんだよ。
The Wind of Life
日々の積み重ねの上に人の一生は成り立つ。淡々と繰り返される日々、でもその日々が大変だ。泣いたり怒ったり絶望したり歓喜の涙をこぼしたり誠に忙しい。でも同じ日は二度と来ないのだから日々を受け入れ真摯な精神で生きる事が肝心だ。生命の風、人の一生を一塵の風に託す。陽は昇り、やがて沈む。花は咲き、そして散る。風のように生きたいと思った。
(【メモランダム】 久石譲)
「難しかったんだよね。それまでガッチリとコンセプトを組んできたんだけれど、最後の最後で自分を信じた感覚的な決断をしたということです。あの弦の書き方って異常に特殊なんです。普通は例えば8・6・4・4・2とだんだん小さくなりますね。それを8・6・6・6・2と低域が大きい形にしてある。なおかつディヴィージで全部デパートに分けたりして……。チェロなんかまともにユニゾンしているところなんて一箇所もないですよ。ここまで徹底的に書いたことは今までない。結果として想像以上のものになってしまって、ピアノより弦が主張してる……ヤバイ……と(笑)。」
「僕は戻りって性格的にできないし、オール・オア・ナッシングなんですね。時代って円運動しながら前へ進んでいると思うんですが、自分にとってのミニマルとか弦とか、原点に立ち返るというのは前に戻るのではなく、そのスタイルをとりながら全く新しいところへ行くことだと。そうでなければ意味がない。単なる懐古趣味に終わってしまうでしょう。ピアノというコンセプトでソロアルバムを作るということに変わりはなかったけれども、思い切りターボエンジンに切り替える必要があったわけです。」
(Blog. 「キネマ旬報 1996年11月上旬特別号 No.1205」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)
「8年前に出した時は、打ち込みを多用して音楽を作っていた時期だった。その時に、あえて「今自分ひとりで何ができるか」と立ち返ったのがピアノだったんです。つまり、いちばんピュアな音楽をやろうと思って作ったのが『Piano Stories』だった。そしてもう1度今、自分にとっていちばん原点になるべきものはなんだろうと考えたら、「ピアノとストリングスをメインにしたアルバム」だろう、ということになった。この1~2年ずっと考えていたことです。タイトルを『Piano Stories II』にしたのは、これが精神的に前作とつながるからです。」
「たとえば、クロノス・カルテットでジミ・ヘンドリックスの「パープル・ヘイズ」をやってますよね。僕もいろいろとリズムを作ってレコーディングをするからよくわかるんだけど、(リズムを)キープする楽器がない時って、実はすごく大変なわけ。でも、ドラムを入れてしまえばリズムがまとまるというものでもなくて、(そのドラムに)寄りかかってしまうわけだから、逆にそこからは細かいニュアンスって出てこない。弦楽カルテットとか今回のような編成の時は、そうとうしっかりしないとリズム・キープもまともにできない。だからみんな避けてしまうけど、あえて大変なところに今回は挑みました。ポップスの人がよく思い浮かべる弦楽カルテットは、ビートルズの「Yesterday」のバックとか(笑)そういう清らかなイメージかもしれない。でも、実は「Kids Return」のようにゴリゴリしていてすごく大変なリズムもある。中途半端にリズムが入っているものよりずっとワイルドな感じが出るんです。そういう方向でやってみたんですよ。」
「「Les Aventuriers」ですね。先日のリサイタルではやりませんでしたが、11月の赤坂Blitzではやりますよ。そうとう(演奏が)厳しいから(笑)。ソロ・アルバムの弦の音はずっとロンドンで録ってきていたので、日本で作ったのは本当に久しぶりなんです。それで、ちょっと”浦島太郎状態”になっちゃった曲です(笑)。つまり言い方はへんなんだけど、日本の(弦の)人たちはうまいけど、リズムが違うんですよ。僕が弦に託しているのは、打楽器扱いの弦みたいなリズミックな部分が大きいんです。そういうニュアンスが当たり前と思っていたんですが、それなりの訓練をしないと無理なわけで…。そのあたり、思いのままにはできなかったのでちょっと残念でしたけどね。」
「「Rain Gaeden」ですね。クラシックですよね。意外なんだけど、フランス印象派みたいなピアノ、ドビュッシーとかラベルとか、あのへんのラインを今まであまり自分の作品に取り入れていなかったんです。好きなんだけど、なぜかなかった。ただこのところ個人的に、練習のためにラベルとかクラシックをよく弾いているんです。ラベルのソナチネなんか弾いていると、自分がすごく好きだということがよくわかる。その中で出てきたアイディアで、たまたまこういう曲ができたんです。」
(Blog. 「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年12月号 No.143」久石譲インタビュー内容 より抜粋)
The Wind of Lifeは、「JOE HISAISHI PIANO STORIES 2000 Pf solo & Quintet」コンサートなどにおいて、原曲とは少し異なるアレンジ(和音)にて演奏されている。
1. Friends (トヨタクラウンマジェスタCMより)
2. Sunday (NHK「日曜美術館」テーマ曲)
3. Asian Dream Song (TOTATAカローラCMより / 1998年長野パラリンピックテーマ曲)
4. Angel Springs (サントリーウイスキー 山崎CMより)
5. Kids Return (映画「キッズ・リターン」より)
6. Rain Garden
7. Highlander
8. White Night
9. Les Aventuriers
10. The Wind of Life
Musicians
Pan Strings
Yuichiro Goto String Quartet
Daisuke Mogi(Oboe)
Takashi Asahi(Flute)
Masayoshi FUrukawa(Guitar)
etc.
Recorded at:
Wonder Station
Victor Studio
Sound City