Blog. 次のステージを展開する久石譲 -2013年からの傾向と対策- 3

Posted on 2016/06/04

久しぶりにテーマを掲げて進めています。

ここまでは下記よりご参照いただき、そのままつづけます。

Blog. 次のステージを展開する久石譲 -2013年からの傾向と対策- 1

Blog. 次のステージを展開する久石譲 -2013年からの傾向と対策- 2

 

6.交響曲を完成させる時期(とき)がきた (WDO2016初演予定)

いつかは作曲家としてしっかりとした交響曲を書きたい、と過去語っていた久石譲。2013年以降その作曲活動スタンスをクラシックに戻すことで、今まさに交響曲を完成させる時期がきた、ということでしょうか。ここ数年間はそこへもっていくためのストレッチ、ウォーミングアップ期間だったという見方もできてきます。

『Sonfonia for Chamber Orchestra』(2009)の発表時、「副題として”クラシカル・ミニマル・シンフォニー”とつけたいくらいなのだが、それは、クラシック音楽が持っている三和音などの古典的な要素をきちんと取り入れてミニマル・ミュージックの作品にしたかった」とも語っていました。このことは【3.クラシック方法論による作風が、新たな一面を引き出す】項での考察とも整合性がでてきます。たとえば『Sonfonia for Chamber Orchestra』は全3楽章ではありますが、全楽章ともミニマル・ミュージックが基調となっており、急・緩・急の手法をとっていません。当時久石譲が”クラシカル”や”交響曲”と銘打たなかった、自身の明確な線引きが見え隠れしてきます。

ということは・・・・?

クラシックの方法論により、多楽章(全3楽章:急・緩・急 もしくは全4楽章:急・緩・舞曲・急など)で構成された作品であり、古典的な要素もしっかり盛り込んだ正統的な交響曲。作品コンセプトとして「3和音」など楽典的要素をすえて第1主題・第2主題・提示部・展開部・再現部などと構成され、”East Land”(作品名)という世界観が築きあげられた作品。従来の壮大なシンフォニーからより進化した、立体的な響きを求める楽器編成や管弦楽法(オーケストレーション)によって、大編成フルオーケストラでありながらシャープでソリッドな「現代の音楽」を高らかに鳴り響かせる、新境地久石譲の記念碑的作品である、かもしれませんね。

 

「久石譲 近年におけるアンサンブル・オーケストラ主要作品」リストにも紹介されていたとおり、『交響曲第1番 (第1楽章)』という作品が2011年一度だけ披露されています。第1楽章のみの未完作品のまま現在にいたります。この当時、「当初、全3楽章20-25分ほどの曲を考えていたが、第3楽章のスケッチに入った途端、第4楽章まで必要と感じ」(第1楽章のみの演奏となる)と久石譲が語っている記録があります。私個人は、この作品は未聴のため多くを語ることはできません。ただ、”披露された第1楽章はミニマル要素を取り入れた変拍子で構成され、パーカッションも鳴り響く大編成の作品”、と演奏会に行かれた方のレビューを参考までに。

さてその答えは?

本来であれば、この未完交響曲を完成させたもの、それが『交響曲第1番「East Land」』と推測するのが順当だとは思います。でも、でも、もしかすると・・・。未完交響曲の着想は2011年、それをベースに再構築することはもちろん想定できるのですが、2013年以降大きな方向性の転換とその結実ぶりからみたときに。上の”クラシックの方法論により~”箇所で書いたような、再度ゼロベースでスタートし、新たな着想点から作品をつくるのかもしれない、そんなもうひとつの可能性も感じてはいます。こればかりは何が起こってもおかしくない、いかなる完成版であっても純粋に楽しみです。

「East Land」、もしこのキーワードが”世界の極東、日本”(※)を意味するならば。「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ2016」のコンサート・テーマは「再生」。同2014「鎮魂」、同2015「祈り」から、前を向いて踏み出すとき。その一歩を私たちが生活する日本から、私たち一人一人から。「もののけ姫」が交響作品化第2弾として選ばれたことも、トータル・コンセプトとしてまた必然、なのかもしれません。

(※)
ひとつの推測です。一般的に「極東」をさす英語は「Far East」です。この場合ロシアや中国、もしくはその東側地域や日本も含めたヨーロッパからみた世界の極東を意味することが多いようです。「East Land」とは、より範囲を限定することでの”極東の島国=日本”という連想になるのではないか、という勝手な推測ですので、ご了承ください。

 

「演奏会において古典クラシック音楽と自作を並べることの大変さ苦しさ」という表現で近年よく語る久石譲。ベートーヴェン:『交響曲第9番〈合唱付き〉』と久石譲:『Orbis for Chorus, Organ and Orchestra』、ドヴォルザーク:『交響曲第9番「新世界より」』と久石譲:『Sinfonia for Chamber Orchestra』。このように近年の久石譲コンサートでは、古典と自作を同一演奏会で並べるプログラムが多く見られます。そしてこれから先、次のステージとして古典交響曲に自作交響曲を並べる、そんな日がくるのかもしれません。もっとその先には、久石譲が「現代の音楽」としてアルヴォ・ペルトやジョン・アダムズの交響作品を演奏するように、国内外の指揮者や楽団が、久石譲の交響曲と古典交響曲を並列して演奏する、そんな日もまた訪れるのかもしれません。

 

7.シブリ交響作品化にも影響を及ぼすのか

この答えはNOでありYESだと思っています。それはスタジオジブリ作品がそもそもそれだけで確固たる世界観を表現しているからです。本編音楽やサウンドトラック盤から再構築されたとして、いずれの作品もコンセプトも骨格もはっきりしています。大改訂することよりもオリジナルを継承したスケールアップ、オーケストラ編成をベースにした交響作品としての「交響詩」や「交響組曲」という手法をとるのだろうと思います。

『Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015』は、『交響詩ナウシカ』(2007)を壮大にスケールアップしたもの。そのなかでも特筆すべきは「巨神兵」パートが新たに組み込まれたことです。ナウシカのもつ”光”に、巨神兵の”影”を持ち込むことであらゆる表裏一体の真理、その世界観は大きく深みをましています。オーケストレーションにおいても、弦楽合奏・コーラス編成ともに不協和音を堂々と響かせたこのパートは、近年の久石譲が色濃く反映されているとも感じます。

今年「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ2016」コンサート・ツアーにて、第2弾として初演予定の『交響組曲「Princess Mononoke」』においても、『交響組曲 もののけ姫』(1998)がベースにあります。全八章約50分に及んだ交響組曲を、どのように再構築するのか。近年のオーケストレーション傾向からみたときには、「レクイエム」や「黄泉の世界」のパートがもし盛り込まれるならば、おそらく新しい響きをつくるのではないかという大きな期待を膨らませています。

久石譲の匠技がフルスペックで発揮されるのは、「千と千尋の神隠し」あたりではないか、と想像するだけでもワクワクします。しますが、スタジオジブリ交響作品化シリーズとしては、限りなくクライマックスに近い位置づけではないかなとも思っています。スタジオジブリ長編映画X久石譲音楽全11作品、何年かかって完結するのでしょうか。ボーナス・イヤー、ドリーム・イヤーとかないかな!?なんて。そんな乱れた心は置いておいて、この交響作品化シリーズを同時代性においてリアルタイムに享受し、聴き喜ぶことができる私たちは、過去人にも未来人にもない幸せな特権ですね。

 

8.まとめ ~すべてはこの作品が大きな布石だった~

1.宮崎駿監督長編引退(2013)が与えた影響と分岐点
2.エンターテインメントの制約がなくなったときに、自ら創り出す制約=作品コンセプト
3.クラシック方法論による作風が、新たな一面を引き出す
4.「ミュージック・フューチャー」シリーズと「アメリカ」が与えた影響
5.大衆性と芸術性がクロスオーバー、象徴する2作品
6.交響曲を完成させる時期(とき)がきた (WDO2016初演予定)
7.シブリ交響作品化にも影響を及ぼすのか

これらの考察点をもとに、テーマ・レポートを進めてきました。その流れのなかで俄然存在感を主張しだしたのが、あるひとつの作品です。『Single Track Music 1』、「バンド維新2014」に委嘱された吹奏楽作品です。映画「風立ちぬ」「かぐや姫の物語」(2013)の音楽制作を終えて、おそらく最初に書き下ろされたオリジナル作品になるのではないか、と思います。

この作品コンセプトは「単旋律のユニゾン」ということで、従来のミニマル・ミュージックとも少し異なる、今振り返れば新しい作風の第一歩だったのではないかという気がしてきます。”これからはクラシックをベースに、新しいことをやっていくよ”という名刺代わりな一曲、決意表明のようなものだったのではないかと。吹奏楽作品として書き上げたあと、早いタイミングで自身のオリジナル・ソロアルバム「ミニマリズム2」に収録。さらには作品のもつテーマやコンセプトをより明確に具現化すべく、[サクソフォン四重奏と打楽器版]というアンサンブル編成で再構築。その後の作品群へと派生する大きな布石だったのではないかと思えてきます。時間軸を俯瞰した流れで、あらためてしっかり聴いてみると、おもしろい作品だなと印象が変わってくるから不思議です。

 

コンサート・パンフレットに紹介されていたオリジナル作品リスト。そこに『Untitled Music』と『三井ホームCM音楽』を補足追加し、2013年以降に書き下ろされた新作および新楽章を赤太字・下線に、過去作からの改訂や楽章改訂などの再構築を青太字にしてみます。(原本は1.をご参照ください)

 

久石譲 近年におけるアンサンブル・オーケストラ主要作品

  • DA・MA・SHI・絵
  • Links
  • MKWAJU 1981-2009 for Orchestra
  • Divertimento for string orchestra
  • Sinfonia for Chamber Orchestra
    1.Pulsation / 2.Fugue / 3. Divertimento
  • 弦楽オーケストラのための《螺旋》
  • 5th Dimension
  • 交響曲第1番 (第1楽章)
  • Shaking Anxiety and Dreamy Globe
    [2台ギター版] [2台マリンバ版]

——————————————————— composed after 2013

  • Single Track Music 1
    [吹奏楽版] [サクソフォン四重奏と打楽器版]
  • String Quartet No.1
    1.Encounter / 2.Phosphorescent Sea / 3. Metamorphosis / 4.Other World
  • Winter Garden for Violin and Orchestra
    第1楽章 / 第2楽章 / 第3楽章
  • 祈りのうた ~Homage to Henryk Górecki~
  • The End of the World for Vocalists and Orchestra
    1.Collapse / 2.Grace of the St.Paul / 3.D.e.a.d / 4.Beyond the World
  • 室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra
    第1楽章 / 第2楽章 / 第3楽章
  • (Untitled Music)
  • コントラバス協奏曲
    第1楽章 Largo – Con brio / 第2楽章 Comodo / 第3楽章 Con brio
  • Orbis for Chorus, Organ and Orchestra
    1.Orbis ~環 / 2.Dum fāta sinunt ~運命が許す間は / 3.Mundus et Victoria ~世界と勝利
  • (三井ホームCM音楽)
  • 「TRI-AD」 for Large Orchestra
  • 交響曲第1番「East Land」
  • 祈りのうた II

 

・・・? ・・・!!!

そうか!そういうことだったのか!
頭の中で、作品リストがパズルのように交錯し、違う形(配置)を描き出しました。

と冒頭に書いたそのパズルと配置とは、上のようなリストの見方です。『Single Track Music 1』を起点として1本の線を引きます。そしてそのカテゴライズのなかから、”書き下ろし””改訂””再構築”などをすみ分けしていったイメージが上の色塗りになります。気が早くも、今年の夏初演予定の『交響曲第1番「East Land」』『祈りのうた II』をリストに含めていますが、次のステージを展開している新境地の久石譲作品として、同種赤太文字・下線作品群の延長線・発展系にあるだろうことは、大きく外れていないと思います。

 

 

結びにかえて。

現在進行形の久石譲ファンであることを自負していました。過去の久石譲作品も、特別な思い入れのある作品も数多くあります。そして同じように今の久石譲音楽を好きでいる自分もいます。そう言ってきたのに、「あれ、なんか違う」「過去のああいう作品を期待していた」と、直近オリジナル作品にはどこかそういった思いやズレがあったのかもしれません、無意識に。だから素直に聴けていなかった、無心で初対面できていなかった、結果受け止められなかったんだろうと。『「TRI-AD」 for Large Orchestra』を聴いたときの、なにかひっかかる違和感を持ってしまったのはここに起因します。

2013年以降の初演や改訂初演という時系列で見た場合に、『The End of the World for Vocalists and Orchestra』『Orbis for Chorus, Organ and Orchestra』のようなオリジナル版から昇華された完全版がある一方で、『コントラバス協奏曲』『「TRI-AD」 for Large Orchestra』のような明らかに作風・着想点・コンセプトの異なる新作も混在し初演披露されてきました。だから自分の頭と心のなかで、予測する新作・期待する新作の照準が絞れていなかった。「ヤバイ!自分の感覚が過去にひっぱられていた。もう久石譲は次のステージを展開しているんだ、ついていけてなかったんだ!」という閃光が走ったわけです。コンサート・パンフレットに感謝。

変わってしまった、とそっぽを向くのは簡単です。でも、わかりたい気持ちのほうが強い。いつも無条件に手放しで何を出されても受けいれますよ、とはならないかもしれません。一方で自分の無知や固執のせいで、見えてない部分があるんだったら、というのがこのテーマで書こうと思ったきっかけです。

『交響曲第1番「East Land」』も、今回のテーマ・レポートをしっかりと頭と心で整理することで、どんなものが飛び出してくるのか、期待と楽しみでいっぱいになります。たとえそれが素人にはいくぶん難解であったとしても、「おもしろい!」と思える自分でありたい。事実、近年の作品群をあらためて聴く・考える・書くを繰り返した一連の作業は、それぞれの作品に新たな発見と愛着を感じることができました。そうやってまた自分のなかでの久石譲音楽が豊かになったことは喜びです。

答えは久石譲ご本人にしかわかりません。それでも「こうかもしれない」とわかろうとすることも、聴衆や観客としてとても大切なことだと思っています。もし久石譲のファンでありつづけたいならば、自分もまた学びつづけなければいけない。いろいろなものに触れて、久石譲だけではないクラシック音楽や現代音楽にも耳を傾けることで、俯瞰して久石譲という作家性が見えてくる。海外で生活してみて、はじめて心に刻まれる日本への想い誇り、と同じ感覚でしょうか。だから、ファンとして視野や思考がガラパゴスになってしまったらだめですね、と言い聞かせ。主観全開ではありますが、言葉にすることの重みも感じながらの全力投球でした。書き記すことに意義があり、稚拙でも今の自分を出し切ることで、ひとつの通過点としたい。

このテーマは、一個人の解釈であり、わかろうする過程です。

 

わかろうとするからこそのPS.

『Untitled Music』『コントラバス協奏曲』はTV放映音源。『The End of the World for Vocalists and Orchestra』もTV放映音源でしたが、このたび7/13CD発売でひと安心。本来であれば『Winter Garden for Violin and Orchestra』『室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra』『Orbis for Chorus, Organ and Orchestra』もしっかりと考察の素材としたかったのですが、未発売音源。『「TRI-AD」 for Large Orchestra』は「読響シンフォニックライブ」(8月放映予定)にて、フルサイズ・プログラムとなりますよう、どうかよろしくお願いします!

 

テーマに興味を持っていただいた方へ

今回まとめるにあたって、2013年くらいからを振り返り紐解いた当サイト内での資料ページです。今読み返すと興味深い久石譲の言葉、伏線として現在の活動につながっているインタビュー、私がコンサートやCD作品で感じた感覚へのタイムスリップ、さまざまな点と線が見てとれます。

久石譲 傾向 論文

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