Blog. 「VOGUE JAPAN 2020年9月号 No.253」久石譲×Cocomi 特別対談 内容紹介

Posted on 2020/08/25

雑誌「VOGUE JAPAN 2020年9月号 No.253」に久石譲とComomiの特別対談が掲載されました。

 

 

VOGUE CHANGE PRESENTS PART.2

久石譲とComomi──異世代が語る、「音楽が奏でる果てしない力」。

「物心ついた頃からジブリ音楽に触れ、久石さんの音楽は常に私の心にある」──作曲だけでなく、指揮や編曲も行う世界的音楽家・久石譲についてこう述べたのは、音楽家の卵でありファッションアイコンとしても皆を魅了するComomiだ。ヴォーグ・ウェブサイトで連載中の「Comomiが学ぶ」企画のスピンオフとして、今回、憧れのマエストロとの初対面が実現。音楽が与えるさまざまな力について語り合った。

 

ファッションアイコンとして天性のカリスマ性を見せつつ、フルート奏者としての顔も持つComomi。そんな彼女が「最も会ってみたい方の一人」と対談を熱望していたのが、宮崎駿監督や北野武監督の映画音楽などで知られる作曲家・久石譲だ。世代は異なれど、ともに音楽に生きる二人が語る「音楽の力」とは──。

Comomi:
私は、小さい頃からジブリの音楽に囲まれて育ったので、久石さんの音楽は常にともにあるものでした。実際、スマホのプレイリストの中には、何曲も久石さんの作品が入っています。とにかく、ずっとお会いしてみたかった憧れの方なので、今日はすごく緊張しています……。

久石:
Comomiさんは、現在、音楽大学の1年生でフルートを専攻されているそうですね。僕は大学生くらいの方と話す機会があまりないので、今日は若い世代の音楽家たちが、音楽とどう向き合っているのかを聞かせてもらいたいです。Comomiさんの場合、小さいときから音楽は身近だったと思いますが、始めたきっかけはなんでしたか?

Comomi:
3歳のときにジブリ映画の『耳をすませば』を観て、登場人物の一人であるヴァイオリン職人を目指す男の子・天沢聖司さんに憧れてしまって。それがきっかけでヴァイオリンを始めました。

久石:
あ、最初はヴァイオリンをやってたんですね。実は僕も4歳から習ってたんです。

Comomi:
え!そうなんですね。

久石:
でも、レッスンが全然好きじゃなくて、途中でやまちゃいましたけど(笑)。フルートに転向したのはなぜだったんですか?

Comomi:
音楽教室に通っているとき、隣の部屋で年上のお姉さんがフルートを演奏しているのを見て、「きれいな楽器だな」と関心を抱いたのがきっかけです。その後、初めてフルートに触ったら、楽器自体がすごく手になじんで。「あぁ、これだ」って、しっくりきました。

久石:
「しっくりきた」という感覚はよくわかります。自分が「いいな」と思って選んだ楽器こそ、長く続けられるものだと思います。

 

中学時代から、作曲家以外の選択肢はなかった。

Comomi:
久石さんは、作曲家になろうと思い始めたのはいつ頃だったんでしょうか?

久石:
中学生のときですね。

Comomi:
かなり早い段階で、将来の道を決めていらしたんですね。

久石:
中学校のとき、ブラスバンドでトランペットを担当していたんです。自分で言うのもなんですが、結構演奏はうまくて(笑)。ただ、演奏も楽しいけど、知っている曲を毎晩譜面に書いて、ブラスバンド用にアレンジして、それを翌日みんなに演奏してもらうことのほうが、すごくうれしかった。それで作曲家になろうと思ったんです。

Comomi:
中学生でそんなアレンジをしていたなんて、すごいですね……。

久石:
だから、作曲家以外の選択肢はなかったんです。中学時代まではクラシックがベースでしたが、高校時代からは、カールハインツ・シュトックハウゼンやピエール・ブーレーズ、ヤニス・クセナキス、日本人なら黛敏郎さんや武満徹さんといった前衛音楽ばかり聴くようになったんですね。それで、「現代音楽の作曲家になろう」と大学に進学したら、大学2年生のとき、知人の評論家の家で、初めてミニマル・ミュージックというものに出会ったんですよ。

Comomi:
同じパターンの音を反復しながら、少しずつ変えていく現代音楽ですよね。アメリカ人のスティーブ・ライヒさんの楽曲などは、私も聴いたことがあります。

久石:
そうそう。僕が最初に聴いたのは、テリー・ライリーの「A Rainbow in Curved Air」という7拍子の曲だったんです。

Comomi:
私も聴いたことがあります!

久石:
初めて聴いたとき、「こんな音楽があるのか」と、雷に打たれたようなショックを受けて。以降、20代はずっとミニマル・ミュージックの作曲をやっていました。

Comomi:
その後、映画音楽の道へと進まれたのはなぜですか?

久石:
30歳のときに、「これ以上続けても、不毛だな」って思っちゃったんですよ。当時の現代音楽は理論と理屈にがんじがらめで、僕はそれがすごく嫌で。それで現代音楽とは決別し、エンターテインメントの世界に移りました。そして83年、僕が33歳のとき、宮崎駿さんから『風の谷のナウシカ』の映画音楽のお話をいただいたんですよ。

Comomi:
ジブリ音楽などを多数手がける久石さんにとって、映画音楽とはどんな存在ですか? 私は、映画音楽のように、イメージや情景を描写するような物語性を感じる音楽が大好きなのですが。

久石:
映画のような物語につける音楽は、自分一人で作曲するのとは大きく違いますよね。一番の違いは、監督たちにインスパイアされ、化学反応が起きて、「自分一人だったら書かなかっただろう」と思うような曲が生まれる点。つまり、コラボレーションですよね。映画音楽は、自分の可能性を広げてくれました。

 

クラシック音楽は、古典だけど古典芸能じゃない。

Comomi:
感覚的には、いろんな楽器で合奏するアンサンブルに近いのかもしれませんね。実は、私はアンサンブルで演奏するのが好きなんです。機会があれば、よく友達を誘って、いろんな楽器と合奏するようにしています。

久石:
それはいいことですね! アンサンブルで大切なのは、「人の音を聴く」ということだから。たとえば、同じ管楽器でも、音の出し方は違うから、何も考えずに一緒に音を出そうとすると、タイミングがどうしてもずれてしまう。合わせるためには、相手の音をしっかり聴いて、微調整を繰り返さないといけませんよね。そういう経験を重ねると、確実にご自身の音楽性が伸びていくと思いますよ。

Comomi:
楽器によって、起きる反応が違うのがおもしろいです。個人的には、特にオーボエと一緒に合わせるのが楽しいですね。

久石:
ぜひ、オーボエとたくさん合奏してください! 僕自身もオーケストラの指揮をするとき、フルートとオーボエの呼吸がどのくらい合うかで、オーケストラの完成度が決まると感じているので。ちなみに、アンサンブルを演奏するならば、伝統を重視するドイツ音楽と、より自由度の高いフランス音楽と、どちらが好きですか?

Comomi:
悩ましいですね。ドイツとフランスは、例えるなら盆栽と森のような違いがありますよね。一人ひとりの風がわかって、細かく微調整できる点では、私自身はフランスのほうが好きです。ただ、ドイツもかっこいいと思います。

久石:
「ドイツもかっこいい」って言えるのがかっこいいね(笑)。たしかにドイツは全体がカチッと決められていて、個々の表現というよりは、全体の中の一人として演奏する感じになりますからね。

Comomi:
久石さんは、ドイツとフランスのどちらがお好きなんですか?

久石:
僕はどちらかというと、ドイツのほうが好きかな。少し変な言い方だけど、クラシック音楽は古典だけど、古典芸能ではないんです。古いものを型通りに続けるのが古典芸能だけど、クラシックの解釈は時代とともに変わる。たとえば、日本では「ブラームスは重い」と言われるけど、それは日本で昔から重々しい演奏をするからこそです。いま、僕がやっているのは、ベートーヴェンやブラームスを現代風に演奏すること。テンポが速いので「ロックのようだ」とも言われますが、誰かが新しいアプローチをしないと、クラシックは変わらない。だからこそ、より理論的に構築できるドイツのほうが好きなんです。

Comomi:
私のように、まだまだ未熟な「音楽家の卵の卵」のような人間が言うのもおこがましいのですが、ときにスランプに陥ることもあります。久石さんは壁にぶつかったとき、どう対処されていますか?

久石:
作曲って、精神衛生上よい仕事ではないんですよ。「最低だ」と落ち込む日もあれば、「今日は調子がいいな」という日もある。毎日、その繰り返しなんです。

Comomi:
久石さんのような方でも、そんなことが起こるんですね。

久石:
しかもそれが一日の中で何度も起きることがあるんです。先日も、今年9月にフランスのパリとストラスブールでやる予定だったシンフォニーに取り掛かっていたんです。4楽章中3楽章までは順調だったのが、途中から何一つ音符が浮かんでこなくなってしまって。そうすると、できない言い訳を探すんです。「書けないのはコンサートがパンデミックのために延期になったせいだ」とかね。

Comomi:
私もまったく同じです。気持ちが乗らないときは、ついできない理由を探してしまいます。

久石:
結局、それが一番の問題なんですよね。その気持ちと戦って、自分をうまくなだめていかないといけない。多分、これを繰り返すことが苦しくなったときが、僕が作曲をやめるときだと思っています。しかも、この悩みって、実は僕が大学生の頃から変わってないんですよ。約50年間同じことを繰り返し、全然進歩していないんです(笑)。

Comomi:
大学生の頃から……。まさに私も練習しなきゃいけないのに、「あ! 今日一回もやってないから、ゲームやろう」と逃避してしまいます。

久石:
すごくわかる! 僕も「一本くらい海外ドラマを観ようかな」と逃避してしまいます(笑)。

Comomi:
何をご覧になるんですか?

久石:
いろいろ観ますよ。最近は『ウォーキング・デッド』をシーズン1からシーズン10まで、一気観しました。映像は昔から好きだから、映画もテレビもよく観ますね。Comomiさんはゲームをやるんでしたっけ?

Comomi:
私はアニメも大好きデスネ。ジブリ作品はもちろん、最近話題nなっていた『鬼滅の刃』まで、割とジャンルは幅広いです。

久石:
自分の専門外でも、いろいろなものに触れたほうがいいですよ。僕も作曲は毎日続けていますが、いつも「何かもう一個、別のことをやれないか」と思っているんです。だから、指揮者をやったり、映画の監督をやったりしている。メインの作曲ともう一つ何か別のことを一緒にやることで、自分のバランスを保っているんです。

Comomi:
たしかにそうですね。「もう何もしたくない」とスランプに陥った後、放心状態になって、普段は自分が聴かないような音楽を聴いたり、音楽以外のコンテンツに触れたりして、いろいろとイメージを取り入れると、自然にモチベーションが回復していくことも多いです。

久石:
Comomiさんもフルート吹きながら、もう一つ別のことをやってみてもいいかもしれませんね。あるいは、今日お話をしてみて、しっかりした方だという印象を受けたので、海外に行かれてみてはどうでしょうか?

Comomi:
短期で学びに行ったことはあるのですが、まだ外国の演奏家の方と一緒に演奏をしたことはないんです。

久石:
音楽は世界言語だから、海外に行くのは客観的に日本を見るいいチャンスかもしれません。実はこの数年間、僕のコンサートの半数以上は海外公演です。外国人と一緒にやると思い通りにいかないことも多いんですが、日本でやるのとは違ったものが得られる。その経験が、自分の音楽のスケールを大きくしてくれると感じます。

 

対談の終盤、「もし、ご迷惑でなければ……」とComomiが取り出したのは、愛用のフルートと、自身で手書きした久石譲の楽曲「Princess Mononoke」の譜面。「ご本人を前に演奏するなんて、震えてしまいます」と言いながらも、ひとたび彼女がフルートを構えると空気は一変。次の瞬間、スタジオ内に凛とした旋律が響き渡り、誰もがその音色に聴き入った。

演奏直後、真剣な眼差しで拍手をしながら、久石はこう呟いた。「すばらしい。僕はね、演奏家に会うと、毎回『何を一番大切にしていますか?』と必ず聞くんです。そうすると、みんな『自分の音』と答える。今日の演奏も、ご自分の音をすごく大切にしているのが伝わってくる、しっかりした良い音でした。今日は楽しかったです。いつか一緒に演奏しましょう」

その言葉を聞いた瞬間、無言のまま目もとを手で押さえたComomi。憧れ続けた人物からかけられた一言に、彼女が何を思ったか。頬をつたう涙がすべてを物語っていた──。日本を代表する音楽家と若き才能の奇跡のコラボを私たちが目にする日が、いまから待ち遠しい。

 

TALKING MUSIC

自分の専門外でも、いろいろなものに触れたほうがいい。僕は、作曲ともう一つ別のことを常にやることで、バランスを保っているんです。
Joe Hisaishi

アンサンブルで演奏するのが好き。楽器によって、起きる反応が違うのがおもしろいんです。
Comomi

(VOGUE JAPAN 2020年9月号 No.253より)

 

 

from 公式サイト:VOGUE JAPAN|9月号
https://www.vogue.co.jp/magazine/2020-9

 

from 撮影チーム公式SNS

 

 

 

Blog. 「久石譲、ベートーヴェンを振る!」コンサート プログラム 紹介

Posted on 2020/08/06

毎年夏開催「フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2020」に久石譲が登場しました。「新日本フィルハーモニー交響楽団 ベートーヴェン生誕250年記念 久石譲、ベートーヴェンを振る!」公演です。

開催も危ぶまれるほどの状況下、座席数を制限してのホール鑑賞とインターネット有料映像配信によるハイブリッド開催という新しい試みです。コンサートに足運ぶことを待ち望んだ観客は、拍手喝采にわき、オンライン鑑賞は当日のライブ配信から一定期間アーカイブ配信視聴まで楽しめるという、新しいかたちです。

 

 

新日本フィルハーモニー交響楽団
ベートーヴェン生誕250年
久石譲、ベートーヴェンを振る!

[公演期間]  
2020/08/04

[公演回数]
1公演
ミューザ川崎シンフォニーホール

[編成]
指揮:久石譲
ヴァイオリン:豊嶋泰嗣(ソロ・コンサートマスター) *
コンサートマスター:崔文洙(ソロ・コンサートマスター)
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

[曲目]
久石譲:Encounter for String Orchestra
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61 *
(カデンツァ:ベートーヴェン/久石譲)

—-intermission—-

ベートーヴェン:交響曲 第7番 イ長調 作品92

[参考作品]

久石譲 千と千尋の神隠し 組曲 

 

 

当日会場でも配布された「プログラム・曲目解説」はPDFで閲覧・ダウンロードできます。

公式サイト:フェスタ サマーミューザKAWASAKI 2020|新日本フィルハーモニー交響楽団
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/calendar/detail.php?id=2702

 

 

「Encounter for String Orchestra」は、だまし絵で知られる版画家M.C.エッシャーの同名の作品に触発された楽曲。リズムは変拍子のアフタービートで刻まれ、ミニマル・ミュージックを原点に持つ久石ならではのもの。ピアノと弦楽四重奏のための作品を弦楽オーケストラのために自ら編曲。ミニマル・ミュージックと、弦楽オーケストラならではの抒情的感性とが絡み合い、それぞれの特性が浮かび上がる。

「ヴァイオリン協奏曲 ニ長調」 今回、演奏されるヴァイオリン協奏曲のカデンツァは、そのピアノ協奏曲に編曲する際にベートーヴェン自身が作ったカデンツァをもとに久石譲が再構築したものだ。編曲者によって途中がカットされている版がほとんどだが、久石はそれをせずにベートーヴェンのオリジナルと同じ長さに仕上げた。まさに世界で唯一の完全版で、今回の演奏会が初のお披露目になる。

(プログラムより 一部抜粋)

 

 

 

アーカイブ動画は、《公演を1000円で、8月31日まで、たっぷり3時間、いつでも何度でも、ゆっくり視聴OK》となっています。

内容
久石譲インタビュー
室内楽コンサート
公演
首席ファゴット奏者 河村幹子インタビュー
テレワーク動画「さんぽ」

 

これからますますふえていく、コンサート動画配信、いち早く楽しんでみてください。

公式サイト:TIGET|新日本フィルハーモニー交響楽団 久石譲
https://tiget.net/tours/summermuza20200804

 

 

ここからは映像配信の内容をベースとしながら、ご紹介します。

 

指揮者 久石譲インタビュー (約7分)

外出が出来ない時期は何をされていましたか?

久石:
「この5ヶ月間、僕がやっていたのは、ほとんどほんとに家にいたんですけれども、週3回オンラインで英語のレッスンを受け、それから新しいシンフォニーを書く、それからちょっとエンターテインメントのお仕事とか、ほとんどもう作曲に集中して、できるだけ規則正しい生活を、ミニマルの生活と言いますか、それをずっと一生懸命やっていました。」

 

演奏曲目について
見どころ聴きどころ

久石:
「今回演奏するのは、1曲目に僕の「Encounter」というストリング・オーケストラの曲、これが約7分ちょっとでしょうかね、とてもリズム難しいんですけれども、その現代曲をやって。」

「それからベートーヴェンのヴァイオリン・コンチェルト(協奏曲)をやります。このコンチェルトに関しては、ソリストの豊嶋(泰嗣)さんから依頼があって、カデンツァを僕が全部作りました。ただこの場合、新しいフレーズを自分が書くにはちょっとおこがましいので。ベートーヴェン自身がヴァイオリン・コンチェルトをピアノ・コンチェルトに直しました。そのとき初めて本人がカデンツァを書いたんですね。ヴァイオリン・コンチェルトのときは書いてないんですが、ピアノコンチェルトに直したときにカデンツァを書いたんです、かなり長大なカデンツァ。これをベースに作った。それで、普通はピアノ・コンチェルトなので途中いろんなところをカットされるんですが、僕はもう今回はベートーヴェンが書いたとおりのものを、(ソリストと)もうひとりヴァイオリンとチェロとティンパニ、こういうかたちで、いわゆる完璧バージョンとして作り直しました。それから、豊嶋さん自体がですね、15万円ぐらいするのかなあ、なんかわからないけど、自筆のベートーヴェン譜を昔買って、それを徹底的に調べて、通常やってるフレーズとは随分違うフレーズでやってるんで、今回はとてもその、何度も聴いてるかもしれませんけれども、随分違ったベートーヴェンのヴァイオリン・コンチェルトになると思います。これはもうほんとに今回初めて聴ける、ほんとのオリジナル完全バージョンということになると思います。」

 

9月1日から新日本フィルハーモニー交響楽団のComposer in residence and Music Partnerに就任

久石:
「今までワールド・ドリーム・オーケストラという、僕と新日本フィルのプロジェクトとして音楽監督やってたんですけれども、今回のコンポーザー・イン・レジデンスになりますと、このオーケストラのために現代曲として作品としてきちんと作曲をし、それからミュージック・パートナーとしても、どちらかというと今度は演奏する側に自分もまわって、きちんと一緒に音楽を作っていく。なにかいろいろなことがあったら相談にのるし、できるだけ一緒にこういう方向に進もうよということを積極的にクラシックの分野でも一緒にやっていこうということになるわけですね。ですから、とても光栄ですし、逆に大変緊張もしています。」

「あと、わりと海外からも委嘱がすごく多いんです。ですから、やはりもともとミニマルをベースにした作曲家だったわけなので、それをこれからは真剣にやりたい。そして、いろいろこうやって新日本フィルさんともその新作を一緒に演っていきたい、そういうふうに思っています。」

 

久石譲さんにとって新日本フィルは○○なオーケストラ?

久石:
「オーケストラというものを一から教えてもらったのが新日本フィルなんですね。たとえば、リハーサルのやりかた、それからオーケストラの人たちが何を大切にしているか、というのをかれこれ30年一緒に仕事をしています。それで、折に触れそういうことを教わってきて、自分が今オーケストラの曲を書いたり、オーケストラを指揮する、それはすべて新日本フィルから教わったことなんですね。だから僕にとっては、ここはほんとにホームグラウンドなんですね。ホームグラウンドで、しかもとても品のある上品な心に訴えてくるサウンドといいますか音と、それからワールド・ドリーム・オーケストラなんかで、僕のミニマル・ミュージックとか随分演ってますので、とても現代性も持っている。そういう長所を、それともちろん、小澤(征爾)さんたちがずっと培ってきたクラシックの非常に伝統的な、その両方をこなせるすごくいいオーケストラなので、恩返しもふくめて、そういう長所を伸ばして一緒にやっていく、そういうオーケストラを目指したいと思っています。」

 

配信をご覧になっている皆さまへ
メッセージをお願いします

久石:
「こういう非常に厳しい状況ですが、我々音楽をやっている人間は、やっぱり音を出す、それがやっぱり命です。今回、新日本フィルハーモニー交響楽団の皆さんも、みんなほんとに燃えてます。ぜひその一生懸命やっているひたむきな演奏を楽しんでください。」

(動画より書き起こし)

 

 

室内楽コンサート

ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第8番

【出演】
ヴァイオリン:崔文洙、ビルマン聡平
ヴィオラ:篠﨑友美
チェロ:植木昭雄

 

本演前の室内楽コンサートといえば、ふつうはロビーコンサートやウェルカムコンサートなどのような、軽い装いのプログラムと雰囲気をイメージしますが、ステージでの演奏は張り詰めた緊張感がひしひし伝わる迫真の演奏でした。この作品は、”反ファシズムと第2次大戦で亡くなられた方々への哀歌として作曲されたもので、コロナ禍の犠牲になられた方々へ捧げられました。”と紹介されています。コンサートマスターが演奏に入っていることからも、その本気度・本格度が伝わってきます。

 

from ミューザ川崎シンフォニーホール 公式ツイッター
@summer_muza

 

 

プログラム
久石譲:Encounter for String Orchestra
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61 *
(カデンツァ:ベートーヴェン/久石譲)

—-intermission—-

ベートーヴェン:交響曲 第7番 イ長調 作品92

 

コンサート動画配信は、多数のカメラアングルと、臨場感のあるサウンドです。ライブ配信時の映像と音響をそのままアーカイブ配信していますが、編集や修正の必要のないくらい素晴らしいライブ・クオリティです。

「Backstage Special View」、舞台袖に設置されたカメラで、舞台袖から登場する指揮者や奏者、カーテンコールで出たり入ったりする指揮者やソリストの様子まで。普段のホール客席からは見ることのできない貴重な機会と、本企画ならではの楽しみ方に感謝です。

新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターが二人も同じステージに上がる公演、なかなかない贅沢さだと思います。弦編成は12~10~8~6~6の対向配置と、一般的な弦12型よりも低弦が厚くなっていて(これは久石譲の編成特徴)、ダイナミックなサウンドです。ティンパニは、「ヴァイオリン協奏曲」と「交響曲 第7番」とで使用している種類が違います。(久石譲FOCは本公演「交響曲 第7番」で使用している種類と同じで、また木の撥を使うのも同じじゃないかなと思います。乾いた跳ねるような音質が特徴的です。)オーボエはベテランの方でしょうか、オーケストラのチューニング時はオーボエのラ音に合わせるのですが、そのときに音叉を耳に当てていらっしゃるのが印象的です。また演奏中、オーボエのふとしたフレーズで指揮者久石譲やソリスト豊嶋泰嗣の表情が一瞬ゆるんだり、空気がそこでふわっと変わったり明るくなったり、ちょっとペースを整えたりと。そんな見えない安定感や信頼感といったものが伝わってきました。長年一緒にやっている大御所の方でしょうか。

このように、見れば見るほど、聴けば聴くほどに、新しい発見やおもしろさがありそうです。動画配信ならではの楽しみ方です。

 

お客さんの数は、いつもより少ないはずなのに。カーテンコール、鳴りやまない拍手喝采に、着替えかけのTシャツ姿の久石譲が再登場。豊嶋泰嗣さん、崔文洙さん、コンサートマスターお二人も現れ、客席へ応えている笑顔は、このコンサートの成功を映しているようでした。

 

公演風景の写真を2枚お借りしました。(計4枚中)

from ミューザ川崎シンフォニーホール 公式ツイッター
@summer_muza
https://twitter.com/summer_muza/status/1290596877428088832

 

 

また主催者オフィシャルブログでも公演の様子と観客感想が紹介されています。ぜひご覧ください。

公式サイト:ミューザ川崎シンフォニーホール|オフィシャルブログ|8/5日 第11号
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/blog/?p=13230

 

 

まだ間に合う!

アーカイブ動画は、《公演を1000円で、8月31日まで、たっぷり3時間、いつでも何度でも、ゆっくり視聴OK》となっています。

 

内容
久石譲インタビュー
室内楽コンサート
公演
首席ファゴット奏者 河村幹子インタビュー
テレワーク動画「さんぽ」

公式サイト:TIGET|新日本フィルハーモニー交響楽団 久石譲
https://tiget.net/tours/summermuza20200804

 

 

Blog. 「レコード芸術 2020年8月号」ブラームス:交響曲第1番 久石譲 FOC 最新盤レヴュー・評

Posted on 2020/07/27

クラシック音楽雑誌「レコード芸術 2020年8月号 Vol.69 No.839」、先取り!最新盤レヴュー コーナーに『ブラームス:交響曲第1番/久石譲指揮 フューチャー・オーケストラ・クラシックス』が掲載されました。

ここで紹介されるものは、次月号「新譜月報」に登場するディスクから要チェックアイテムを先行紹介するもの、来月号にも期待です。

 

 

先取り!最新盤レヴュー

一騎当千の手練たちがバンドのように燃焼する

久石譲とフューチャー・オーケストラ・クラシックスのブラームス:交響曲第1番が登場

 

ベートーヴェンをきっかけに風向きは変わり始めた

久石譲は、宮崎駿監督のアニメなど映画音楽の作曲家として名高いが、近年はクラシック音楽の指揮者としても活躍している。

国立音楽大学作曲科の学生時代に影響を受けたミニマル・ミュージックの紹介と、自作の新作初演にも力を入れているが、それと並行して、19世紀の交響曲の指揮でも着実に経験を重ねて、成果をあげつつある。

10年ほど前、東京フィルや新日本フィルを指揮した演奏会やそのライヴ録音のCDが出はじめたころは、博物館行きではない、生き生きとした音楽を聴かせたいという思い自体はよくわかったものの、楽員たちとの意思疎通にもどかしさが残り、十分な結果につながらないうらみがあった。

しかし、評価は変わりつつある。転機となったのは、2016年に開館した長野市芸術館の芸術監督として、新たに結成したナガノ・チェンバー・オーケストラ(CDではフューチャー・オーケストラ・クラシックスと改称)を18年まで毎年夏に指揮して、ライヴ録音によるベートーヴェンの交響曲全集を完成させたことだ。

本格派を自負するようなクラシック好きはどうしても、その活動を「アニメで儲けた作曲家の余技」と、よく聴きもしないうちに軽侮しがちだが、それだけで片づけてしまうにはもったいない演奏を、このベートーヴェンでは聴くことができた。

現在は、ベートーヴェンの交響曲はヨーロッパを中心に、第1ヴァイオリン12人以下の編成で演奏するものが主流となっている。久石もその傾向に則り、室内オーケストラのサイズで、快速で弾力に富んだ演奏を展開していた。

 

一気呵成に進行するダイナミックな音楽

今回のブラームスの交響曲第1番も、同様の方式によっている。弦楽器は10~10~8~6~5という編成で、ヴァイオリンは舞台の左右に分かれる対向配置。チェロとコントラバスは第1ヴァイオリンの後ろにいる。

ヴィブラートは少なめに、音の減衰を早めにして弾ませ、第1楽章の序奏から速いテンポで、音楽を一気呵成に進行させる。チェロとコントラバス、打楽器とハープ以外の全員が立奏しているのも、音楽のダイナミックな動きにつながっている。

現代のブラームス演奏は、前期と後期のロマン派様式の境目に位置して、どちらもさかんなだけでなく、双方に利点と説得力がある。久石の演奏はもちろん前者だ。

ナガノ・チェンバー・オーケストラから新たに東京を活動の中心に移し、フューチャー・オーケストラ・クラシックスと名を変えたアンサンブルには、国内の交響楽団の首席奏者など俊英がつどって、まことにイキがいい。久石の指揮のもと、思いきりやってやろうという意欲が伝わってくる。

顔の見えない巨大集団ではなく、個性を持った演奏家たちがバンドのように合奏する。近年のヨーロッパのありかたが、ようやく日本にも伝わってきているようで、嬉しい。コンサートマスターの近藤薫、ホルンの福川伸陽などのソロの鮮やかさも際だっている。

来年7月までにブラームスの残りの交響曲を演奏する計画は、コロナ禍のために中止となってしまったが、再起と実現を待ちたい。

山崎浩太郎

(レコード芸術 2020年8月号 Vol.69 No.839 より)

 

 

 

 

 

Blog. 「レコード芸術 2020年4月号」ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」 久石譲 東響 特選盤・評

Posted on 2020/03/23

クラシック音楽雑誌「レコード芸術 2020年4月号 Vol.69 No.835」、新譜月報コーナーに『ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」/久石譲指揮、東京交響楽団』が掲載されました。特選盤、おめでとうございます!「モーストリー・クラシック」「ぶらあぼ」の評もまとめてご紹介します。

 

 

新譜月評

THE RECORD GEIJUTSU 特選盤
ストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》
久石譲指揮 東京交響楽団

 

推薦 藤田由之
久石譲が、2019年6月3日と4日にサントリーホールにおいて、東京交響楽団を指揮してストラヴィンスキーのバレエ音楽の一つの頂点ともいえる《春の祭典》をライヴで収録した。古い話で恐縮だが、1950年代から日本のプロのオーケストラ界とも関わってきた私は時代が変わったように実感している。

作曲家としての久石のキャリアからみれば《春の祭典》にしても、スコアを細部まで見て、とくに管楽器のバランスなどについても熟知しているような音楽家の一人であると考えているので、それだけの要求もできるし、オーケストラのメンバーも、限られた時間の中でも、ほとんどすべての指示に対応できるような水準にあるはずなので、久石としては予期した成果が得られたといってもよかったにちがいない。

近年のオーケストラやアンサンブルは、日本でも弦楽器群のすべてが充実してきているのは事実であるが、管楽器奏者もかなり水準を高めている。木管楽器の奏者ばかりでなく近年は金管楽器についても人材が増えてきているのは、吹奏楽の世界の充実と無関係ではないし、オーケストラのレパートリーにも、数多くの金管奏者が求められることがある。

そういえば、《春の祭典》では5管ずつの木管と、8本のホルン、トランペット5、トロンボーン3、テューバ2が記されているし。それにティンパニ2、打楽器群も加わる。

 

推薦 増田良介
クラシック音楽の指揮者としての活動をますます充実させる久石譲だが、この《春の祭典》もすばらしい。昨年6月のライヴ録音とのことだが、どうやら関係者のみを対象とした演奏会だったようなので、こうして一般発売されたことはありがたい。近年、優れた録音が相次いで登場した《春の祭典》だが、当盤はそれらにまったく劣っていないし、それらとは異なる魅力もちゃんとある。とはいえ、これは決して奇抜な解釈ではない。久石の目指したのは、作曲家の書いたリズムを正確に打ち出したり、複雑なからみあいの中でも必要な音が聞こえるようにバランスを整えたりすることで、《春の祭典》という作品の内包するいろいろな力を、余すところなく解放するということだったように思える。言葉にすればあたりまえに聞こえるかもしれない。しかし、連打される和音の圧倒的な迫力や、多数の楽器が咆哮する場面の鮮烈な色彩感などが、東京交響楽団の演奏能力を得て高い水準で実現されることで、この演奏は、どの細部を取っても「こういう《ハルサイ》が聴きたかった!」と思わせる演奏となっている。王道の、しかし非凡な《春の祭典》だ。ひとつ不満を言うなら、1枚に《春の祭典》1曲だけというのはもったいない。せっかくなら、普段あまりクラシックを聴かない、しかし久石譲の名前に惹かれて手に取った人が、なにか別の新しい世界に出会えるような曲をもう1曲入れてくれていたらさらに良かっただろう。

 

[録音評] 山ノ内正
すべての楽器が鮮明に聴こえてくるが、なかでも木管楽器の力強さと勢いが際立ち、エネルギーに満ちている。密度の高い音で各パートがぶつかるわりには全体の見通しは良好で、ソロ楽器の動きが埋もれてしまうことはない。パーカッションのエネルギーも強靭で衝撃が強いが、余分な音を残さないので連打でもリズムが緩まず、強い推進力を発揮する。残響は極端に長くはないが、特にSACDで聴くと空気の密度の高さが伝わり、トゥッティで大量の空気が瞬時に動くダイナミックな空気感を体感できる。

(「レコード芸術 2020年4月号 Vol.69 No.835」より)

 

 

その他、いくつかの媒体からもまとめてご紹介します。

 

エンターテインメント性を発揮し、耳当たりのよい演奏を実現

現代音楽の作曲家として出発した後、数々の映画音楽で才能を遺憾なく発揮した久石譲だが、近年は指揮者として目覚ましい活躍を行い、「ベートーヴェン交響曲全集」はきわめて高い評価を得ている。この「春の祭典」も好調を強く印象付けるもの。精緻なアンサンブルは長年、指揮にかかわってきた人を超える印象がある。そして、よい意味でのエンターテインメント性を発揮し、きわめて耳当たりのよい演奏を実現。東京交響楽団の充実も光る。

(「モーストリー・クラシック 2020年5月号 vol.276」より)

 

 “ロックのような”ベートーヴェンの交響曲全集が好評を博している久石譲の東響との初録音。これもあらゆるフレーズが生命力を放ちながら躍動する快演だ。まずは既成概念に囚われずに構築された音のバランスが実に新鮮。ベートーヴェン同様にリズムの明確さも耳を奪い、中でも遅い場面における各リズムの明示が清新な感触をもたらしている。全体に速めのテンポでキビキビと運ばれ、特に快速部分はスピード感抜群だが、その中に流れるフレーズのしなやかさも見逃せない。東響もこまやかな好演。音楽的感興と生理的快感を併せ持つ新たな「春の祭典」の登場だ。

(「ぶらあぼ2020年4月号」より)

 

 

 

 

 

Blog. 読売新聞夕刊 3月5日付 「久石譲 未来形ブラームス」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2020/03/05

読売新聞夕刊(3月5日付)に掲載された久石譲インタビュー内容です。

 

 

久石譲 未来形ブラームス

リズム重視で新しい可能性

作曲家の久石譲が、クラシックの名曲を新たな解釈で指揮する演奏に力を入れている。明瞭なリズム表現とスピード感で、ロックのようにベートーヴェンの交響曲を聴かせたのに続き、ブラームスに取り組み始めた。手応えを聴いた。

(清岡央)

 

冒頭、ティンパニの渾身の打撃と超高速のテンポに度肝を抜かれた。先月13日、東京オペラシティコンサートホール。久石の呼びかけで国内の若手実力派が集まったフューチャー・オーケストラ・クラシックスが繰り出したブラームス「交響曲第1番」は、重厚な始まりに慣れた耳に、あまりに刺激的だった。

「奇をてらったわけではない。ブラームスは今、いかにもドイツ風に重々しく演奏されるが、楽譜には『ウン・ポーコ・ソステヌート』、つまり(音の長さを保つ)テヌート気味に演奏する、としか書いていない。しかも初演は40人で演奏したとか。重々しいブラームスをやったわけがない。書かれたことをきっちり表現し、まだクラシックにこんな可能性がある、と提示できれば」。作曲家の意図の再現と斬新な解釈は決して矛盾しない、というわけだ。

腕利きの奏者たちに歌心は解放させんがらも、ビブラートはリハーサル2日目に「なし」と決めた。「ビブラートはいかにも豊かには聞こえるが、雑音も増すし、音が遠くまで飛ばなくなる。古楽器の奏法をまねしたわけではなく、リズムにベースを置いて、スピード感を大事にするやり方に合わないからやめた」と説く。

リズム重視には理由がある。作曲家として力を入れてきた「ミニマル音楽」では、最小限の音型を繰り返す中、精緻にフレーズの拍をずらすのも重要な手法。リズムの正確さが不可欠だ。一方、オーケストラの楽器はそれぞれ音の出し方が異なり、全員が音の入りや動きを合わせるのは本来難しい。「合わせるところは世界で一番きっちり合わせ、歌うところは歌う。使い分けられるようになれば、オケの表現力はすごく広くなる」

前身のナガノ・チェンバー・オーケストラで取り組んできたベートーヴェンの交響曲全曲演奏は「ロックなベートーヴェン」と話題になった。新たな目標をブラームスの交響曲4曲に定め、来年7月までかけて演奏する。ブラームスの前には、自身の作品など現代曲をプログラムに入れる。「前半で現代曲を指揮した感覚が後半の古典に生かされた演奏会ってないんです。ないなら自分でやるしかない、と。聴いた人が『現代的な聴いたことないブラームスを聴いちゃった』と満足して帰ってくれるように」。曲作りも、指揮も、聴衆の満足が最優先のようだ。

  ◇

今後の演奏会は、7月11日(長野・軽井沢大賀ホール)と13日(東京・紀尾井ホール)で第2番、来年2月4、5日(同)で第3番、7月8日(東京オペラシティコンサートホール)、10日(軽井沢大賀ホール)で第4番を予定。

 

[掲載写真下コメント]
「ブラームスが迷いながら作った交響曲第1番の第1楽章は絶えず不安定。それを本番で振っていて、最も『今的』と思った。世界がこんなに混沌としているじゃないですか」

 

(読売新聞夕刊 3月5日付 より)

 

 

 

Blog. 「久石譲 フューチャー・オーケストラ・クラシックス Vol.2」 コンサート・レポート

Posted on 2020/02/18

久石譲のコンサート新シリーズ「久石譲 フューチャー・オーケストラ・クラシックス(FOC)」第2弾が開催されました。2016年からベートーヴェン全交響曲に3年がかりで取り組み、今回からはブラームス全交響曲に取り組んでいくシリーズ。

本公演は、久石譲コンサートとして初の試みになる生中継動画が配信されたり、先行CD販売(限定50名サイン会参加券付き)など、話題の多いコンサートとなりました。

 

 

 

久石譲 フューチャー・オーケストラ・クラシックス Vol.2

[公演期間]  
2020/02/13

[公演回数]
1公演
東京・東京オペラシティ コンサートホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:Future Orchestra Classics
コンサートマスター:近藤薫

[曲目] 
アルヴォ・ペルト:フェスティーナ・レンテ ~弦楽合奏とハープのための
久石譲:The Border 〜Concerto for 3 Horns and Orchestra〜 *世界初演
I. Crossing Lines
II. The Scaling
III. The Circles

—-intermission—-

ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調 作品68

—-encore—-
ブラームス:ハンガリー舞曲 第4番 嬰ハ短調

 

 

まずは会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

”Future Orchestra Classics(FOC)”の第2回目にあたる今回からブラームス・チクルスに取り組みます。前回にチャレンジしたベートーヴェン交響曲全集がレコード・アカデミーで賞をいただき、また多くの人たちから賛辞を得たことで次のステップに行きます。FOCは現代の音楽とクラシック音楽を現代の視点で演奏していくオーケストラです。未来に向けた新しい音楽のあり方が少しでも表現できたら、そしてそれを楽しんでいただけたら幸いです。

2020年2月13日 久石譲

 

 

曲目解説

アルヴォ・ペルト:フェスティーナ・レンテ ~弦楽合奏とハープのための
Arvo Pärt:Festina lente for string orchestra and harp

1986年作曲の「フェスティーナ・レンテ」は、ローマ帝国の創始者である初代皇帝アウグストゥスも使った矛盾語法の「ゆっくり急げ」から着想したものである。このタイトルは構成だけでなく形式についても暗示している。作品は第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリン、ヴィオラ、そしてチェロとコントラバスの3つのグループからなるカノン様式で構成され、メロディは全員同時にしかし3つの異なるテンポで演奏される。最も速いメロディは7回繰り返され、短いコーダを経て音楽は静寂の中へと消えていく。

1986年11月17日、パリでリチャード・バーナス指揮/ミュージック・プロジェクツ・ロンドン・オーケストラで初演。その後、数回の修正を経て、最終版はデニス・ラッセル・デイヴィス指揮/ボン・ベートーヴェン交響楽団でECMからリリースされたアルバム「Miserere」に収録された。

Arvo Pärt Center 作品紹介より(抜粋)

 

久石譲:The Border ~Concerto for 3 Horns and Orchestra~ *世界初演
Joe Hisaishi:The Border ~Concerto for 3 Horns and Orchestra~ *World Premiere
I. Crossing Lines
II. The Scaling
III. The Circles

3本のホルンと2管編成のオーケストラの協奏曲です。きっかけは4年前にホルン奏者の福川さんから依頼されたことです。去年の2月から構想を練っていたので1年がかりの作品になります。全3楽章、約24分かかる作品になりまいた。

”I. Crossing Lines”は16分音符の3、5、7、11、13音毎にアクセントがあるリズムをベースに構成しました。つまり支配しているのはすべてリズムです。その構造が見えやすいように音の構造はシンプルなScale(音階)にしています。

”II. The Scaling”はG#-A-B-C#-D-E-F#の7音からなる音階が基本モチーフです。ここではホルンの持つ表現力、可能性を引き出しつつ、論理的な構造を維持するよう努めました。

”III. The Circles”はロンド形式に近い構造でできています。Tuttiの部分とホルンとの掛け合いが変化しながら楽曲はクライマックスを迎えます。以前に書いた「エレクトリック・ヴァイオリンと室内オーケストラのための室内交響曲」の第3楽章をベースに今回再構成しました。ホルンとオーケストラによってまるで別の作品になりました。

久石譲

 

ヨハネス・ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 Op.68
Johannes Brahms:Symphony No.1 C minor, Op.68
第1楽章 Un poco sostenuto-Allegro
第2楽章 Andante sostenuto
第3楽章 Un poco allegreto e grazioso
第4楽章 Adagio ー più Andante ー Allegro non troppon, ma con brio

19世紀後半のドイツで活動したヨハネス・ブラームス(1983-97)はロマン派時代における保守的な古典主義者と見なされることが多い。確かに彼は伝統を尊重した作曲家だった。それだけに伝統ジャンルの中でも特に高度な構築性を持つ交響曲という曲種を手掛けることは、彼にとって重い意味を持っていた。初めて交響曲の作曲を思い立ったのはまだ若き日の1855年頃、自分を世に紹介してくれたシューマンが自殺未遂を図った前後のことで、交響曲の構想を始めていることを精神病院に入院したシューマンに手紙で報告している。しかし交響曲という曲種がとりわけ重要だと思うだけに、筆は遅々として進まない。特に彼は尊敬する先人ベートーヴェンの交響曲史上における偉業に対して強い意識を持っていたので、生来の自己批判的な正確とも相俟って、交響曲の創作には慎重にならざるを得なかったのである。

もっとも、ブラームスは決して頑なな古典主義者だったわけではない。19世紀に生きていた芸術家らしく、内面的なロマン的感情表現をも重んじた作曲家だったのであり、特に恩人シューマンの妻クララに対する思慕の情は、彼の多くの作品のうちに影を落としている。そうしたロマン的な感情表現を、古典的な交響曲の論理といかに結びつけていくか──その点がブラームスにとって大きな課題となったと思われる。そうした課題の解決法を探るために長い時間を必要としたのであり、何度にもわかる創作の中断や、作曲した部分を結局やめて他の曲に転用するといった方向転換など、数々の試行錯誤と模索を繰り返しながら、彼は次第に独自の交響曲のスタイルと表現方法を見いだしていく。自信をもって完成へ向けての創作の本腰を入れるようになったのは最初の構想から実に19年もたった1974年になってからのことで、その2年後の1876年に全曲はついに完成された。初演は同年の11月4日にカールスルーエにおいてオットー・デッソフの指揮で行われたが、その後もブラームスはさらに第2楽章を大幅に書き直し、現在演奏されている決定稿がやっと仕上げられたのである。綿密な論理的書法──すなわち徹底した主題労作法(主題やその中の動機を様々に用いながら音楽を展開する方法)、暗→明という全体の構図、2管編成の無駄のない管弦楽法など──のうちに、豊かなロマン的な感情表現を湛えたその作風は、まさに長年の苦心の努力の見事な結実といえるだろう。

第1楽章 ウン・ポーコ・ソステヌート~アレグロ、ハ短調、8分の6拍子。緊迫感に満ちた序奏に始まる。その冒頭に現れる半音階的楽句は、この交響曲全体を統一するモチーフとして、以後暗い不安定な情調を生み出していくこととなる。主部は綿密なソナタ形式。闘争的な第1主題と叙情的な第2主題を持ち、半音階的な動きや錯綜した音の綾などが生み出すどこか鬱屈した雰囲気のうちにドラマティックな展開が繰り広げられる。

第2楽章 アンダンテ・ソステヌート、ホ長調、4分の3拍子。情感に満ちた3部形式の緩徐楽章。静かで穏やかな長調の主題に始まる主部に対して、中間部では感情が綾を織り成しながら高揚していく。やがて最初の主題が回帰し、独奏ヴァイオリンがホルンを伴いながら美しく主題を歌い上げる。

第3楽章 ウン・ポーコ・アレグレット・エ・グラツィオーソ、変イ長調、4分の2拍子。古典的な定石に従ったスケルツォでなく、優美な間奏曲風の楽章である。

第4楽章 アダージョ、ハ短調、4分の4拍子~アレグロ・ノン・トロッポ・マ・コン・ブリオ、ハ長調。不安な緊張の漂う序奏で開始される。その緊張がピークに達したところで、突如霧を晴らすかのようなハ長調の明るい旋律がホルンに現れる。このまさに暗から明へと転換する箇所に現れるこの旋律はブラームスがシューマン未亡人クララに贈った旋律を引用したもので、そこにはクララへの想いが秘められているのかもしれない。そして荘厳なコラールを経て、明朗な第1主題に始まる主部がダイナミックに発展、最後のコーダでは先のコラールも力強く再現され、圧倒的な高揚のうちに全曲が締めくくられる。

寺西基之(てらにし・もとゆき)

 

 

フューチャー・オーケストラ・クラシックス
Future Orchestra Classics(FOC)

2019年に久石譲の呼び掛けのもと新たな名称で再スタートを切ったオーケストラ。2016年から長野市芸術館を本拠地として活動していた元ナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)を母体とし、国内外で活躍する若手トップクラスの演奏家たちが集結。作曲家・久石譲ならではの視点で分析したリズムを重視した演奏は、推進力と活力に溢れ、革新的なアプローチでクラシック音楽を現代に蘇らせる。久石作品を含む「現代の音楽」を織り交ぜたプログラムが好評を博している。2016年から3年をかけ、ベートーヴェンの交響曲全曲演奏に取り組む。2019年7月に発売した『ベートーヴェン:交響曲全集』が第57回レコード・アカデミー賞特別部門特別賞を受賞。日本から世界へ発信するオーケストラとしての展開を目指している。

(「久石譲 フューチャー・オーケストラ・クラシック Vol.2」コンサート・パンフレット より)

 

 

リハーサル風景

from 久石譲コンサート@WDO/FOC/MF 公式ツイッター
@joehisaishi2019

 

久石譲作品「The Border」にちなんでおそろいのボーター・ホルン奏者たち

from 福川伸陽Nobuaki Fukukawa ツイッター
@Rhapsodyinhorn

 

終演後

from 久石譲 Future Orchestra Classics 公式Facebook

 

 

ここからはレビューになります。

 

ニコニコ生放送の独占生中継は、カメラ約5台からのアングル、ステージに配置された無数の集音マイクの効果もあって、とてもクオリティの高い映像配信になっていました。

FOCでは立奏スタイルによる演奏が試みられていますが、立奏について久石譲はこのように語っています。

「若い世代が中心ですけれど、いろいろな指揮者と演奏を重ねてきて経験も豊富ですし、楽器で音楽をたくさん語れる人ばかり。こちらが要求していることをキャッチして、すぐに演奏へと反映してくれます。この全集の発売を記念し、紀尾井ホールと軽井沢大賀ホールで交響曲第5番と第7番のコンサートを行いましたが、立奏による演奏を試してみました。身体が自由になるせいか開放的になって音も大きくなった反面、ピアニッシモは着席での演奏のほうがいいかもしれないと思い、ひとつの課題として残っています。しかしダイナミック・レンジが格段に広がり、演奏の可能性が広がることも事実ですから今後も模索したいですね。音だけではなく視覚的にも元気に見えますし、演奏家の表情も豊かな感じがしますから。クルレンツィスとムジカエテルナが立奏だと話題になりましたけれど、小編成のオーケストラが大きなホールで演奏する時には有効でしょう」

Blog. 「レコード芸術 2020年1月号 Vol.69 No.832」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

アルヴォ・ペルト:フェスティーナ・レンテ ~弦楽合奏とハープのための

静謐なこの作品は、曲目解説にもそのコンセプトが紹介されています。さらにわかりやすく言うと、ひとつのメロディがあって、例えば第1ヴァイオリン・第2ヴァイオリンは4分音符で演奏します。ヴィオラはその2倍の長さ2分音符で演奏します。チェロ・コントラバスはさらにその倍の全音符で演奏します。この3つのパートが同時に演奏されて進んでいきますが、例えば4部音符でメロディを奏でるのに2小節あったとして、2分音符であればその倍4小節かかります、全音符であれば8小節かかります。すごく簡単にいうと。異なる対旋律はなく、ひとつのメロディの音符長さのズレだけで、自然的にハーモニーや大きなリズムが生まれる、そんな作品だと解釈しています。こういったところにアルヴォ・ペルト作品のおもしろさ、そして久石譲が創作において共感しているところがあるのだろうと思います。チェロやコントラバス、ハープといった楽器を座って固定しないといけないものを除いて、この作品でも立奏です。

 

 

 

久石譲:The Border ~Concerto for 3 Horns and Orchestra~ *世界初演

ホルンのために書かれた協奏曲です。3人のホルン奏者がフィーチャーされ、ステージ前面中央で主役を演じます。その音から悠々とした旋律を奏でるイメージのあるホルンですが、この作品では、とても細かい音符をあくまでもリズムを主体とした音型を刻む手法になっていました。ずっと吹きっぱなしで、ミュートを出し入れ駆使しながら、さらにそれなしでも、おそらくは口と管に入れた手だけを調節して。ホルンという楽器にはこんなにもバリエーション豊かな音色があるんだと、感嘆しました。第2楽章では、ホルンのマウスピースだけで音とも声ともつかない音色を奏でたり。第3楽章は「エレクトリック・ヴァイオリンと室内オーケストラのための室内交響曲 第3楽章」をベースにしているとあるとおり、エレクトリック・ヴァイオリンの独奏パートがホルンに置き換えられ、1管編成の室内楽だったものが、オーケストラへと拡大されています。

生演奏で体感し、ホルンを味わい、オーケストラの重みも伝わり。この作品は、レコーディングされて、ホルンをはじめ個々のパートがそれぞれ浮き立って配置されたものをしっかりと聴けたときに、またいろいろな発見がおもしろみが感じられる。そう思っています。ホルン3奏者の役割分担や絡み合うグルーヴ、ホルンとオーケストラとのコントラスト。エレクトリック・ヴァイオリンが担っていたディストーションや重奏を、ホルン(単音楽器)×3へ分散させた術などなど。そんな日を願っています。

 

 

 

ヨハネス・ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 Op.68

こんな演奏は聴いたことがない。このひと言に尽きます。直近では2019年にも久石譲指揮、仙台フィルハーモニー管弦楽団で共演していますが(そのときもすこぶる感動しました)、でもまるで別モノ。編成でいっても通常のオーケストラよりグッとコンパクト、弦10型(第1ヴァイオリン10人、第2ヴァイオリン・ヴィオラと少しずつ小さくなってチェロ6人、コントラバス5人)。通常オーケストラが弦14型くらいだとして、弦楽器だけで合計10人近い差があります。それでも堂々たる存在感と爆発的な臨場感で迫ってくるのは、立奏スタイルの強みでもあるといえます。

往年の名演たちが約45分はとっているこの作品、本公演では40分切るか切らないかというスピード。全体で約5分くらいかと思うかもしれませんが、体感するテンポ差は直感的にすぐわかるほどです。第1楽章冒頭から、倍速?!と思うほどで、これはどこまでいっちゃうんだろう!?と一気に手に力が入り身を乗り出してしまう感覚でした。

第1楽章から、久石譲編成においてリズムの要となっているティンパニ(木の撥 使用)の轟音は、随所で作品を引き締め、前へ進め、ソリッドなオーケストラの奏法も健在です。8分の6拍子ですが、久石譲は1拍子のようにタクトを振っていきます。この効果は絶大!

やってみよう。

タン・タン・タン・タン・タン・タンと手拍子を6回打ちます。それをしながら、口で1・2・3・1・2・3と手拍子に合わせて数えます。次に、口の1・2・3・1・2・3はそのままに、手拍子を1のところだけ2回打ちます。するとどうでしょう。同じテンポでも、まったくリズム感が変わって感じるはずです。前者は均一なリズムを保っているともいえるし、一拍ごとに微妙なズレも出てくることあります。後者は手拍子と1のところに強調や躍動感が生まれると同時に、口の3を言ったあと1に向かうわずかな瞬間グッと引き寄せられるようなうねりを自分に感じることができると思います。まるで軽いステップを踊っているように。

第1楽章の冒頭、多くの指揮者はティンパニの連打に合わせてダン・ダン・ダン・ダン・ダン・ダンと6回重くテンポ遅くタクトを振り下ろします。久石譲は、タンタンタン・タンタンタンと太字の2回しか振り下ろしていません。1拍子で大きくリズムをとることで、うねりを生み出している証です。

久石譲がアプローチしている1拍子の手法や、それによるリズムの強調やシンコペーションの表現というのは、やってみてもらった簡単な例の、さらに高度な積み重ねと分析からだと思います。もちろん試みられているアプローチのなかのひとつの小さな部分です。

第1楽章では「タタタ・ターン」のリズム、第2楽章では「ンタータ・ンタータ」、第3楽章では「ンタタター・ンタタター」というように、楽章ごとに特徴的なリズムが散りばめられています。これはパーカッションが叩くリズムという意味ではなく、旋律によって発生するリズム動機のことで、随所に浮き立って表現されていたように思います。ベートーヴェン交響曲 第5番「運命」に共通項をもつ作品とも言われていますが、今回はじめてその一端が少しわかったような気がします。ベートーヴェンの「ダダダダーン」というあの有名な旋律=リズム動機です。これは、おそらく久石譲アプローチがベートーヴェンからの継続性があること、久石譲指揮によって体感できた発見だと感謝とも感激ともつかない想いあふれます。

第3楽章・第4楽章は、一般的なリズム設定に近く、やや落ちつきを取り戻した感もありましたが、そのぶん第4楽章のホルン、フルート、トロンボーン、弦楽など、歌させるところはたっぷりと歌わせ、緩急豊かだからこその緊張感と臨場感がありました。もっと言えば、このメリハリの効いた第4楽章こそ、もっともエネルギーを使う指揮と演奏だったのではないか、とすら思ってしまうほど緊張感を保持したままの至極な開放感です。

 

今は繰り返し聴けないので残念ですが、もし本公演がCD化されたときには、第1楽章だけでも「タタタ・ターン」となっている旋律がどれほどたくさんあるか、かなり楽しく発見できると思います。

そして、ベートーヴェンからブラームスへと、久石譲が指揮するからこその表現が必ずある。作曲家ならではの視点と綿密な分析、そして指揮者として確固たる自信をもって臨む手法。そこには、固定概念をひっくり返すほどのエグ味すらあります。でも、それは決して奇をてらうことを目的としたものではない、アプローチを貫くことでのエグ味=新しい快感です。

 

 

 

本公演当日、これからのコンサート予定も発表されました。Vol.3からVol.5(2020-2021年)にてブラームス全交響曲を演奏していきます。またこのシリーズでは久石譲新作書き下ろしの世界初演も予定されています。新作はもちろん、研ぎ澄まされた久石譲&FOCのパフォーマンスで、「Sinfonia」「Winter Garden」「Untitled Music」ほか幾多ある久石譲オリジナル作品も聴いてみたくなります。

 

 

 

ぜひ公式サイトからも最新情報をチェックしてください。

https://joehisaishi-concert.com/

 

 

Blog. 「レコード芸術 2020年1月号 Vol.69 No.832」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2020/02/07

クラシックス音楽誌「レコード芸術 2020年1月号 Vol.69 No.832」(2019年12月20日発売)に掲載された久石譲インタビューです。『ベートーヴェン:交響曲全集/久石譲指揮、フューチャー・オーケストラ・クラシックス』についてたっぷり語っています。

また本号は「2019年度 第57回 レコード・アカデミー賞」の特集になっています。その特別部門「特別賞」も受賞しています。このページ後半で、選定会の様子や久石譲受賞コメントもご紹介します。

 

 

作曲家の視点でスコアを立体的に捉えた衝撃のベートーヴェン交響曲全集
久石譲【作曲、指揮】

ききて・文=オヤマダアツシ

衝撃的だった。2016年7月に開館した長野市芸術館で久石譲とナガノ・チェンバー・オーケストラ(現「フューチャー・オーケストラ・クラシックス」)の演奏によるベートーヴェンの交響曲第1番を聴き、約40名で構成されるオーケストラから繰り出されたその演奏に「まだ、こういったアプローチが可能だったか」と唸ってしまったのである。基本的にテンポは快速、アタックが厳然と強めで”好奇心”という名の心の扉を叩くようなリズム等々、予測を超えてくるその演奏に驚きを隠せなかった。本誌読者の皆様はおそらく、これまでにいくつものベートーヴェン演奏を体験し、複数の交響曲全集を所有している方も多いだろう。古楽演奏の洗礼を通過した方もいらっしゃるはずだ。久石譲が作曲家としての視点で洗い直したという交響曲全集は、2年間(全7回)にわたって行われたナガノ・チェンバー・オーケストラ定期演奏会のライヴ録音であり、さらに新しい表現のベートーヴェンを希求する聴き手に問題提起をする演奏である。2019年度の「レコード・アカデミー賞」で特別賞の栄誉に輝いたこの全集について話をうかがった。

 

作曲家史上最高のリズムへの感覚の鋭さ

「自分も体験してきた時代ですが、戦後の日本におけるベートーヴェンの演奏はドイツ的な重い表現が主流でした。オーケストラも大編成でしたから必然的にそうした音になりますが、数え切れないほど繰り返し演奏されてきたベートーヴェンの交響曲に取り組むにあたって、すでにある表現やアプローチをしても意味がありません。そうしたことから作曲家としての視点でもう一度スコアを見直し、楽譜が何を要求しているのか、それをどう表現するのかということを考えました。ベートーヴェンのスコアではメロディ/ハーモニー/リズムという音楽の三要素が一体化していますけれど、なかでもリズムの重要性に注目したわけです。メロディを美しく歌わせるところでも、リズムがたんなる伴奏のパートに止まらず、3つの要素が切り離せないくらいの関係性を保っていますから、リズムを前面に出すことで音楽が立体的に表現できるなと思ったのです。作曲家というのは、たとえば何かの拍子にとてつもなくすばらしいメロディが浮かんでしまうと、もちろんそれを書き留めるわけですが、同時にどういったハーモニーや対旋律、リズムを合わせるとそのメロディが生きるかを考えて悩むわけです。そうなると、メロディと伴奏の音型は決して”主と従”の関係ではありませんし、すべてのラインやパートが同等だと考えれば必然的にそれは立体的になりますよね。そう考えることで、ベートーヴェンがその曲を作った時に近づき、どこに工夫をしているのかと考えることがおもしろくなるのです」

一例を挙げるなら、筆者がもっとも耳を奪われたのは交響曲第8番の第3楽章、トリオでホルンとクラリネットが主旋律を演奏するのと並行して、バス声部がリズムを強調するような音型を演奏する部分だ。実演も含めていろいろ聴いてきたつもりだが、これほどこのバス声部が明快な主張をもって聞こえてきたのは初めてだった。このようなちょっとした発見と驚きは、全9曲のあちらこちらにちりばめられていて飽きることがない。

「第6番《田園》の第2楽章は8分の12拍子で細かな音の伴奏が続く中、第1ヴァイオリンや木管が緩やかなフレーズを乗せていきますが、伴奏の音型がとても雄弁でその間をうまくメロディが流れています。これも、”主と従”ではなく、しかも一体化していて無駄がない。ここだけでもベートーヴェンはすごいなと思います。第2番の第4楽章や第8番の第4楽章も、どうしてこんなリズムが思い浮かぶのかと驚きますし、第3番《英雄》の第1楽章でも、4分の3拍子なのに2拍子のタイミングで激しい和音が繰り返されるところがあり、リズムに対する感覚があまりに鋭く、作曲家史上最高だなと感じてしまうほどですね。ですから、ベートーヴェンがどういうつもりでこれを書いているのかを読み取りたくなるのです」

ナガノ・チェンバー・オーケストラのコンサートでは『ベートーヴェンはロックだ!』というキャッチーなスローガンが聴き手の目を引いたが、それも「決してベートーヴェンはロックと同じだというつもりはなく、リズムがベースになっているロックと通じるものがあるということです」といった考え方が根底にあっての言葉だという。

 

ミニマル音楽の演奏と並行して楽員たちと音楽を作り上げる

そのリズムといえば、多数ある久石の作品がミニマル・ミュージックのスタイルをルーツにもち、久石自身がリズムを追求してきた作曲家だったということを無視するわけにはいかない。一般的にはスタジオジブリ作品をはじめとする多くの映画音楽などで知られる久石だが、本誌2018年3月~4月号の「青春18ディスク」で披露されたように、作品の背景にはフィリップ・グラスをはじめとするミニマル・ミュージックや20世紀の諸作品がある。ナガノ・チェンバー・オーケストラの定期演奏会でもベートーヴェンの交響曲と自身の作品、さらにはペルトやグレツキ、マックス・リヒターの作品などを組み合わせていたが、今にして思えばそれがオーケストラの楽員たちを鍛え上げ、久石の理想とするリズムに焦点を当てたベートーヴェンの実現につながったと思うほどだ。

「ミニマル系の音楽を演奏する際には、リズムをきちんと再現しないと音楽全体が崩れてしまいますし、そもそも曲として成立しません。しかも縦の線が揃えばいいという単純なことではなく、オーケストラのメンバー全員が音価をきちんとそろえて演奏し、可能であれば各楽器の発音のタイミングも考慮して演奏するという、かなり高度な能力を必要とします。正直なところ、日本の奏者でそうしたことができる人はまだ少ないです。今回は、そうしたことも踏まえて自分たちなりのベートーヴェン演奏を実現するべく、コンサートマスターの近藤薫さんが中心となって人選をしました。コンサートを重ねるごとに核となる奏者が固まっていって、フューチャー・オーケストラ・クラシックスとしての基本的なサウンドが決まっていったと思います」

メンバーには東京の各オーケストラに在籍している首席クラスの奏者も多く、ソリストや長野県出身者なども加わった。

「若い世代が中心ですけれど、いろいろな指揮者と演奏を重ねてきて経験も豊富ですし、楽器で音楽をたくさん語れる人ばかり。こちらが要求していることをキャッチして、すぐに演奏へと反映してくれます。この全集の発売を記念し、紀尾井ホールと軽井沢大賀ホールで交響曲第5番と第7番のコンサートを行いましたが、立奏による演奏を試してみました。身体が自由になるせいか開放的になって音も大きくなった反面、ピアニッシモは着席での演奏のほうがいいかもしれないと思い、ひとつの課題として残っています。しかしダイナミック・レンジが格段に広がり、演奏の可能性が広がることも事実ですから今後も模索したいですね。音だけではなく視覚的にも元気に見えますし、演奏家の表情も豊かな感じがしますから。クルレンツィスとムジカエテルナが立奏だと話題になりましたけれど、小編成のオーケストラが大きなホールで演奏する時には有効でしょう」

さまざまな可能性を追求する中、若い世代の指揮者にも関心の目を向けており、自分たちも新しい時代を作る担い手として最先端の音楽を提示していきたいという気持ちは強い。

「クルレンツィスやミルガ・グラジニーテ=ティーラのような指揮者はリズムに対するアプローチがとても新鮮で、最先端の音楽だなと感じています。繰り返し演奏されてきた曲でも新しい表現にアップデートしないと、クラシック音楽はたんなる伝統芸能になってしまうという危機感がありますし、つねに新しいアプローチを試していくことで、さらに次の世代が進化をつなげてほしいという気持ちも強いですね。自分たちもベートーヴェン、そして2020~21年はブラームスの4つの交響曲、さらにはメンデルスゾーンやシューマンなども先に見据えて新しい演奏を追求していきたいと考えているのです。作曲家ですから、これまで聴いたことのない新鮮な音楽を送り出したいという思いが基本的にあり、それはベートーヴェンやブラームスを演奏する時も変わりません」

 

迷いの残る《第9》のスコアに人間的な魅力を感じる

今回の全曲演奏にあたり、学生時代からスコア・リーディングの勉強にも使用していたというブライトコプフのスコアからベーレンライターのスコアに買い換え、もう一度すべての曲を勉強し直した。そうしたなかで気がついたことのひとつは、ベートーヴェンの年齢や人生と曲の関係だったという。

「どの曲もそれぞれに特徴があって凄いのですが、第5番《運命》くらいから作曲家としてのピークへと向かっていて、彼が理想とする完成度へ達したのは第8番なんじゃないかと思います。この曲はどこをとっても斬新で、驚くべき作品ですね。では第9番《合唱》はどうかというと、第8番からのブランクがあったからか、演奏者に対して明確にこうだと指示できていないところがたくさんある。おそらく写譜の段階でおきたミスが大半だと思いますが、本人の迷いを入れて約140か所以上不明部分があります。ベーレンライターのスコアでは、それについていろいろ可能性を提示してくれていて、演奏者に任されるところも多い。第9番を書いた年齢を考えると、精神的・体力的なことが影響を与えているのかもしれませんね。自分としては共感できてちょっと心が痛くなります。もっと若い頃の作品、たとえば第3番《英雄》などは才気煥発で、浮かんじゃったものを惜しげもなく使っているけれど、そのせいで長い曲になってしまい形式的にはやや無駄な部分もあると感じます。でも、その無駄だと思えるところが魅力的なのですよね。第9番はそういった勢いがない代わりに年齢に即した、論理的で破綻のない書き方をしています。今回、全曲を番号順に演奏してみて、年齢とキャリアに応じて対応しているベートーヴェンの姿を見ているような思いがしました。でも(第9番では)論理的に完璧な書き方をしているのに140か所も『どうしようかな』と迷っている部分が残されているというのは、なんだか人間的でいいなとも思えるのです」

このほかにも、第9番の第4楽章は「オーケストラに声楽という音色を加えた変奏曲」として考え、やはり最終楽章にパッサカリアという変奏形式を使ったブラームスの交響曲第4番を想起させるなど、次のプロジェクト(2020年から2021年にかけ、4回の演奏会でブラームスの交響曲4曲を演奏)を示唆する考察も。

「じつはこの前、この全集に収録されている第7番を少しだけ聴いてみたのですが、『ここ、もっと弾けるはずだな』と思ってしまうなど、リハーサルをしているような気分になってしまいました。それだけ自分もまだベートーヴェンに関しては進化し続けているということでしょうし、機会ができればさらにアップデートした演奏をお聴かせできるでしょう」

今回の交響曲全集がひとつの成果であることは間違いないものの、これからさらなる進化を遂げるであろう久石譲とフューチャー・オーケストラ・クラシックスには、まだまだ驚かせてもらいたい。

(「レコード芸術 2020年1月号 Vol.69 No.832」より)

 

 

 

特集 2019年度 第57回 レコード・アカデミー賞

音楽之友社主催による第57回(2019年度)「レコード・アカデミー賞」が今年も決定しました。本賞は、各年度(1年間)に、日本のレコード会社から発売されたクラシック・レコード(本年度は2019年1月号~12月号本誌月評掲載分)の中から、全16の部門において、まず「部門賞」が、各部門の担当選定委員による第一次選定会において合議によって決定されます。

その上で、4つの「特別部門」を除いた9部門の「部門賞」のディスクを、全選定委員が1ヶ月の試聴期間を設けて試聴した後、第二次選定会を行い、投票により、年間最優秀レコードである「レコード・アカデミー賞 大賞」、「レコード・アカデミー賞 大賞銀賞」、「レコード・アカデミー賞 大賞銅賞」が選定されます。

今年度の部門賞は10月27日に、そして3賞および「特別部門/企画・制作」「特別部門/特別賞」「特別部門/歴史的録音(録音の新旧を問わず、歴史的に意義のある録音等を表彰するものです)」の選定は11月24日に行われ、各賞が決定しました。

 

*各賞 受賞作品 (本誌にて)

 

 

ここでは、特別部門の選定座談会について紹介します。本誌で5ページにわたって選定と賞決定までの話し合いが掲載されています。そのなかなら、【特別部門/特別賞】を受賞した『ベートーヴェン:交響曲全集/久石譲指揮、フューチャー・オーケストラ・クラシックス』について話題にあがった箇所のみをいくつかピックアップしてご紹介します。全内容はぜひ本誌をご覧ください。

 

 

特別部門 選定座談会

選定=浅里公三、満津岡信育、中村孝義

浅里:
「久石/ベートーヴェン」は、日本のオーケストラの精鋭が集まって、いわば久石さんのセンスにのって、大変速いテンポで──ロック調のということなのでしょうが──これまでのベートーヴェン演奏に一石を投じるような演奏になっていたと思います。

~中略~

中村:
他には私も「久石譲/ベートーヴェン」です。~略~ とにかく「強烈な個性」という意味では、クレンペラーやカラヤンは、まさに圧倒的だと思ったのですが、久石譲さんのベートーヴェンも本当に強烈。金子建志先生が選定会の後のお話で、昔のフルトヴェングラーやワルターが、今録音したらこういう演奏になるかもしれない、とお話になられていましたが、私も同じようなことを思いました。正直に言えば、久石さんは、映画音楽などの、どちらかと言えば耳当たりのいい音楽を作っている人と思っていたので、今回は聴いてびっくりしました。決してクラシックから外れたところにある人ではなく、音楽をもっと大きくとらえている人なんですね。

~中略~

満津岡:
~略~ それから「久石/ベートーヴェン」も、これは際立って個性的な演奏でした。決して借り物ではない音楽で、自分自身でスコアを読んで、突き詰めてこういう演奏に達したということがわかるような演奏で、私も素晴らしいと思いました。

~中略~

満津岡:
ただ「久石/ベートーヴェン」も、私は彼の演奏とこのボックスがクラシック音楽界になげかけた意義と価値は、大いに顕彰すべき価値があると思います。ただし、久石さんの場合、今年の新譜は第4番と第6番ですから、本当の意味での新録音となると、この中では「アファナシエフ」でしょうか。

~中略~

満津岡:
そうなりますと、私は「特別賞」が、久石さんのディスクにふさわしいように思うのですがいかがでしょうか。本来「企画・制作」でもおかしくない内容ですし、このボックスは、本当に楽しんで聴いてもらえるものだと思います。

中村:
私も「特別賞」は「久石/ベートーヴェン」がいいと思います。彼のようなスタンスの人が、ベートーヴェンの交響曲を、自らが組織したオーケストラを指揮して、しかも全集で録音するなんて、レコード会社にとっても本当に英断だったと思い舞うs。でも虚心に聴けば、この面白さは必ず伝わるはず。

浅里:
私も異議なしです。「特別賞」はぜひ「久石/ベートーヴェン」で。

 

(以上、抜粋紹介)

 

受賞アーティストからのメッセージ

久石譲

FOCのベートーヴェン交響曲全集が特別部門特別賞に選ばれたことはとても光栄です。クラシック音楽の演奏も時代と共に進化していきます。いや、進化していくべきだと考えます。僕の場合は現代の音楽の作曲家としての立場から、リズムをベースにして(そのためRock The Beethovenというコピーまでつきましたが)スコアを組み立てました。現代のクラシック音楽のあり方に一石を投じることができたら幸いです。フューチャー・オーケストラのメンバーや関係者の皆さんに感謝します。

 

(「レコード芸術 2020年1月号 Vol.69 No.832」より)

 

 

from オクタヴィア・レコード公式ツイッター

 

 

 

Blog. 「家庭画報 2020年1月号」〈ベートーヴェンの力の源を求めて〉久石譲 インタビュー内容

Posted on 2020/02/06

雑誌「家庭画報 2020年1月号」(2019年11月30日発売)、「<生誕250周年特別企画>6人の識者が愛とともに語るベートーヴェンの力の源を求めて」コーナーに久石が登場しました。「ベートーヴェン:交響曲全集」の話題も含めて、久石譲が語るベートーヴェンの魅力つまったインタビューになっています。 “Blog. 「家庭画報 2020年1月号」〈ベートーヴェンの力の源を求めて〉久石譲 インタビュー内容” の続きを読む

Blog. 「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年12月号 No.143」久石譲インタビュー内容

Posted on 2020/01/22

音楽雑誌「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年12月号 No.143」に掲載された久石譲インタビュー内容です。

オリジナル・ソロアルバム『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』について、たっぷり語られた貴重な内容になっています。

 

 

久石譲
New Album 『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』 Interview

オリジナル・アルバムとしては『Piano Stories』から8年ぶり。久石さんの新作は『Piano Stories II』と題されている。ピアノとストリングスという、久石ミュージックのいちばんの魅力がたっぷりと味わえる、注目の1枚だ。コンサートやレコーディングで大忙しの久石さんに、今後の活動予定も含めてお話をうかがった。

 

自分にとって原点になるべきところ、それが「ピアノとストリングス」。

 

●”生もどき”の音 (?!)

ーオリジナル作品としては『Piano Stories』から8年ぶりのアルバムですが、この時期に II を出された理由は?

久石:
8年前に出した時は、打ち込みを多用して音楽を作っていた時期だった。その時に、あえて「今自分ひとりで何ができるか」と立ち返ったのがピアノだったんです。つまり、いちばんピュアな音楽をやろうと思って作ったのが『Piano Stories』だった。

そしてもう1度今、自分にとっていちばん原点になるべきものはなんだろうと考えたら、「ピアノとストリングスをメインにしたアルバム」だろう、ということになった。この1~2年ずっと考えていたことです。タイトルを『Piano Stories II』にしたのは、これが精神的に前作とつながるからです。

 

ー生楽器のみを使っていらっしゃる?

久石:
生ですね。あと”生もどき”(笑)。基本的に言うと、耳につくところは全部生だと思いますよ。

ただ4リズムという形態、つまりギター、ドラム、ベース、ピアノなんかは、音の存在感やアタック感も、すごく表現しやすいんです。それが弦とピアノとなると、「キックドラム」に相当する低域のパワー感を、弦だけでは出し切れなくなったりするわけです。けっして「きれいきれい」な世界を表現したいわけじゃなくて、そういうパワーも含めた「弦とピアノでここまで行ける」ということをちゃんと出したかった。

そのために、弦は「8-6-6-6-2(第1ヴァイオリン-第2ヴァイオリン-ビオラ-チェロ-コントラバス)」という特殊な編成で、低域をすごく厚い編成にしました。なおかつ、たとえばMIDIミニのようなシンセサイザーのベース音を隠し味で薄く入れたり。そういう意味では、限りなく生に近いんだけどそれをリッチに聞かせるための味付けを、他の楽器でもやっていますね。

 

ー個人的には3曲め「Asian Dream Song」が特に好きなんですが…。

久石:
これは、今年アトランタで行われたパラリンピックのテーマ曲とした書いた曲です。

 

ー「Angel Springs」では、ピアノだけの部分でハミングが入っているような…。

久石:
1枚のアルバムの中で必ず1個所出るんだよね(笑)。バイエルを習っている人でも弾けるようなシンプルなメロディなんですが、そういうところって逆にすごくツライ。簡単なフレーズは誰でも弾けるから、「もっと歌わなきゃ」なんていろいろ思うと、気づくとなんかノイズが入っているんです(笑)。

 

ーノイズですか?

久石:
あはは…そうかな。『Piano Stories』の方にもあるよ、何個所かね。

 

●弦の魅力と難しさ

ー「Kids Return」では、ストリングスがかなりギュンとうなっている感じですね。

久石:
たとえば、クロノス・カルテットでジミ・ヘンドリックスの「パープル・ヘイズ」をやってますよね。僕もいろいろとリズムを作ってレコーディングをするからよくわかるんだけど、(リズムを)キープする楽器がない時って、実はすごく大変なわけ。

でも、ドラムを入れてしまえばリズムがまとまるというものでもなくて、(そのドラムに)寄りかかってしまうわけだから、逆にそこからは細かいニュアンスって出てこない。

弦楽カルテットとか今回のような編成の時は、そうとうしっかりしないとリズム・キープもまともにできない。だからみんな避けてしまうけど、あえて大変なところに今回は挑みました。

ポップスの人がよく思い浮かべる弦楽カルテットは、ビートルズの「Yesterday」のバックとか(笑)そういう清らかなイメージかもしれない。でも、実は「Kids Return」のようにゴリゴリしていてすごく大変なリズムもある。中途半端にリズムが入っているものよりずっとワイルドな感じが出るんです。そういう方向でやってみたんですよ。

 

ー4分の5拍子の曲もありますね。

久石:
「Les Aventuriers」ですね。先日のリサイタルではやりませんでしたが、11月の赤坂Blitzではやりますよ。そうとう(演奏が)厳しいから(笑)。

ソロ・アルバムの弦の音はずっとロンドンで録ってきていたので、日本で作ったのは本当に久しぶりなんです。それで、ちょっと”浦島太郎状態”になっちゃった曲です(笑)。つまり言い方はへんなんだけど、日本の(弦の)人たちはうまいけど、リズムが違うんですよ。僕が弦に託しているのは、打楽器扱いの弦みたいなリズミックな部分が大きいんです。そういうニュアンスが当たり前と思っていたんですが、それなりの訓練をしないと無理なわけで…。そのあたり、思いのままにはできなかったのでちょっと残念でしたけどね。

 

●到達点でもあり、出発点でもある作品

ー6曲めはまったくピアノだけですが。

久石:
「Rain Gaeden」ですね。クラシックですよね。意外なんだけど、フランス印象派みたいなピアノ、ドビュッシーとかラベルとか、あのへんのラインを今まであまり自分の作品に取り入れていなかったんです。好きなんだけど、なぜかなかった。

ただこのところ個人的に、練習のためにラベルとかクラシックをよく弾いているんです。ラベルのソナチネなんか弾いていると、自分がすごく好きだということがよくわかる。その中で出てきたアイディアで、たまたまこういう曲ができたんです。

次のアルバムでは、こういった響きの曲も少しずつ増えてくるんじゃないかな…という予感はしていますね。すごく大事な曲です。12月のコンサートは、この曲をしっかりとピアノ・ソロでやる予定です。

 

ーアルバムを作り終えた、感想をひとことで言うなら?

久石:
このアルバムは、今までやってきたことの到達点でもあり、同時に出発点みたいな感じです。たとえば、作曲家として書いた弦のスコアはおそらく今までの中で最高だと思う。本当に3段階ぐらいレベルアップした感じがします。もちろん全部過渡期だけどね。安全を狙うというよりは攻撃的な弦を書けたから、それがすごくうれしかったですね。

細かいところまで考えれば、自分が狙っていたところが100%うまくいったとは言い切れない部分もあるけど、アルバムとしては100%うまくいったと思う。その中で課題はいくつか残ったので、それは次の時にチャレンジしますよ。

 

●スコアの上にメロディが”見えて”くる

ーコンサートのアレンジも、ご自身でなさっているんですか?

久石:
1曲残らず全部やるよ。だから、大変なんです。筆圧が強いから、(楽譜を書いた後は)ピアノなんて弾けない状況の手になる。コンサート直前まで書いてたから、死にそうになったよ(笑)。

ホントは大嫌いなんだけどね、スコアを書くのは。学校で放課後に残されて宿題をやっているような感じで、悲しくなりますよね。できるだけ逃げているんだけど、スコアに没頭して入り込んじゃった時には、本当にメロディが絵みたいに見えてくるんですよ。だから、書いている瞬間には「世界でいちばん俺がうまいな」と思いながら書いてますよね(笑)。また1時間後に「ダメだオレ、才能ないかもしれない」となったりしながら。

 

ーBunkamuraオーチャードホールのリサイタルも拝見したのですが、フル・オーケストラの音に感動しました。

久石:
オーケストラって想像以上におもしろいと思います。

 

ーコンサートって、いい音がしている時は演奏している人もすごくカッコよく見えますよね。

久石:
そうだと思う。アレンジがよくない場合、メロディが全部第1バイオリンにいってしまって、演奏者は大勢いるのにひとりしか動いていない…みたいな光景もあるじゃない(笑)。だけど、メロディがいろんなところにきちんとあって、必然性さえあればオケってすごく美しく見えるんですよ。

それにコンサートって、その時の編成や雰囲気で同じ曲でもまったく違う演奏になりますよね。次の11月のコンサートでも、「今回の演奏を聴いておかないとヤバイよ」という部分を、ちゃんと出すつもりです。

(KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年12月号 No.143 より)

 

 

Blog. 「千と千尋の神隠し 徹底攻略ガイド 千尋と不思議の町」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2020/01/20

映画『千と千尋の神隠し』公開にあわせて出版された特集本です。映画の見どころ解説から、宮崎駿監督・鈴木敏夫プロデューサーのインタビューはもちろん、声を担当したキャストインタビューも収められています。またスタッフインタビューでは、音楽を担当した久石譲はじめ、作画・美術・音響スタッフなどのインタビューもたっぷり収録されています。

 

 

「毎回、挑戦の連続です」

音楽 久石譲

『風の谷のナウシカ』以来、宮崎作品の音楽を一貫して担当。北野武監督らの映画にも音楽監督として参加する。

 

ートラックダウン作業中だそうですが、今、作業されていたのは、どんな場面ですか?

久石:
映画の冒頭に近い、人気のない街を千尋がさまようシーンで流れる曲です。

ーずっと同じフレーズが流れているようんですが。どういう作業なんでしょう。

久石:
その一つ一つが微妙に違うんですが、わかりますか?

ー実はあまりよくわからなかったんですが(笑)。

久石:
木管楽器の音をほんのわずかだけ出し入れしていたんです。今回はコンサート用のホールで、管楽器も弦楽器もそれぞれにマイクを立てて、同時に演奏して収録したんですが、管楽器のマイクにも弦楽器の音がわずかに漏れて入っている。そのために、例えば木管楽器の音を大きくすると、別の楽器の音も若干大きくなってしまう。だから、微妙な調整でベストのバランスを探していたんです。

ー全部の楽器を別々に録音しておけば、そうならないわけですね。

久石:
でもそうすると、ホールの音の響きの良さが失われてしまう。今回は響きの良さを選択したわけです。なんとなく聞いているだけでは、気が付かないことですが、こうしたことの積み重ねが、最終的な音楽の仕上がりを決定するんです。

ー宮崎監督とのコンビはこれで7作目。

久石:
毎回、挑戦の連続です。今回は、ガムランやエスニックな打楽器など、とてもオーケストラといっしょに奏でるようには思えない楽器を大胆に使っています。それに6.1チャンネルのドルビーサラウンドという、従来の5.1チャンネルよりもさらに進歩した、アニメ映画では初めての試みにも挑戦しているんです。

ー昨年、音楽映画『Quartet/カルテット』で、監督を経験されましたね。

久石:
実は何年も前から映画制作のオファーはあったんですが、中途半端なものを作ることはできないと思い、ずっと躊躇していたんです。でも、音楽だけでは表現しきれないものを自分の中に抱えていた。それが’98年に長野パラリンピック開会式を演出したことなどで、演出という仕事に手ごたえを感じるようになり、監督をやることになりました。

ー監督という仕事を経験したことは、その後の映画音楽作りに影響しましたか?

久石:
何よりも、監督という立場の気持ちがすごくよくわかるようになった。『千と千尋』でも、このシーンからこのシーンまで音楽が入るという指示があるとしますね。これまではその中で、いかに映像と音楽がカッコよく結びついているかという見方だった。それがこのカメラアングルが意味するものは、とは、なぜ人物がこの方向から入ってくるのかといった意図が、とても良くわかるようになったんです。そうなると、このシーンでは監督の意図を妨げないように、曲想を押さえ気味にしようとか、ここはさらに盛り上げようとか、そういう、より繊細な映画のための曲作りができる。監督を経験したことは、音楽家としてとてもプラスになったと思います。

ー『千と千尋』の作業の後は何を?

久石:
福島で7月20日から開催される「うつくしま未来博」で、大スクリーンを使って上映される、日本初フルデジタル撮影の実写映画『4 MOVEMENT』の公開準備に入ります。

(千と千尋の神隠し 徹底攻略ガイド 千尋と不思議の町 より)