Blog. 「新日本フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会 すみだクラシックの扉 #20」コンサート・レポート

Posted on 2024/02/24

2月16,17日開催「新日本フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会 すみだクラシックの扉 #20」です。同楽団のMusic Partnerにも就任している久石譲は、シーズンプログラムとして企画される定期演奏会にも指揮者として登場しています。年間スケジュールで発表されるから早々と楽しみを見つけておくことができる。〈2023/2024シーズン〉は2023年9月「定期演奏会 #651」開催で「久石譲:Adagio for 2 Harps and Strings(世界初演)」と「マーラー:交響曲 第5番」を。そして趣向を凝らしまた新しい一面を魅せてくれる本公演です。

 

 

新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 #20

[公演期間]  
2024/02/16,17

[公演回数]
2公演
東京・すみだトリフォニーホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
ヴァイオリン:崔文洙、ビルマン聡平 **
ヴィオラ:中恵菜 **
チェロ:向井航 **
コンサートマスター:崔文洙、伝田正秀

[曲目]
J.S.バッハ:管弦楽組曲第3番より第2曲アリア (小澤征爾氏への献奏として)

久石譲:I Want to Talk to You – for string quartet, percussion and strings – **
モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」

—-intermission—-

ストラヴィンスキー:バレエ音楽『春の祭典』

[参考作品]

久石譲指揮 東京交響楽団 『ストラヴィンスキー:「春の祭典」』

 

 

 

会場でも配られたプログラム・ノート(小冊子)は、コンサート数日前にウェブ閲覧できるこまやかさでした。ゆっくり読めて、ゆっくり聴けて、楽しみふくらんで。そんな心配りうれしいですね。対象期間中しか公開されていないと思います。早めにPDFはこちらへ。

 

 

第653回定期演奏会(2024年1月)とすみだクラシックへの扉第20回(2月)のプログラムノートを公開

公式サイト:新日本フィルメディア(PDF閲覧/ダウンロード)
https://www.njp.or.jp/magazine/?p=2038

 

 

Program Notes

あらゆる音楽においてリズムは、メロディと同じぐらい根源的な要素である。ダンスがあれば多くの場合、リズムを生み出す打楽器が欠かせないし、なんらかの言語を発した時点で、そこには韻律としてのメロディやリズムの芽吹きがあるからだ。

ミニマル・ミュージックにも影響を与えたインド音楽などのように、世界の伝統音楽には非常に複雑なリズムが存在している。だがクラシック音楽(西洋音楽)においてリズムの可能性が追求されるようになるのはメロディやハーモニーに比べると遅く、20世紀になってからなのだ。作曲家としてのみならず指揮者としてもリズムの秘められた可能性に着目し、古典的な名作からも新たなリズムを引き出す久石譲の手腕が、本公演の聴きどころとなるだろう。

■久石譲:I Want to Talk to You -for String quartet, percussion and strings-

2023年3月30日、音楽レーベルの名門ドイツ・グラモフォンは久石譲(1950~)との契約を発表。同年6月30日に英国のロイヤル・フィルを指揮した作品が世界にむけてリリースされたことで、改めて久石の世界的な人気に注目が集まっている。現在73歳だが、映画音楽のみならず長年追求してきたミニマル・ミュージックを通して、これから更に世界的な名声を高めてゆくに違いない。

そんな久石が、意外にも初めて書き下ろした合唱曲から派生して生まれたのが本作である。きっかけになったのは山形県合唱連盟から委嘱された創立70周年を記念する合唱曲であった。直訳すれば「あなたと話したい」という意味になるこのタイトルについて、久石は「街中を歩いていても、店の中でも人々は携帯電話しか見ていない。人と人とのコミュニケーションが希薄になっていくこの現状に警鐘を鳴らすつもりでこのテーマを選んだ」と語っている。

2020年3月にまず合唱曲(全2楽章)として完成。だがパンデミックの拡大により初演の見通しがたたなくなってしまう(久石自身も語っているように、こうなると携帯電話のお陰でコミュニケーションが出来るという、まるで逆の状況になってしまったのが興味深い)。そこで作曲中に考えていた、第1楽章を弦楽四重奏と弦楽オーケストラ(最終的には打楽器も加わった)に置き直すというアイデアを実行。こうして誕生した弦楽版は2021年3月に、オリジナルの合唱版は2022年4月に初演されている。

[楽器編成] 弦楽四重奏、ヴィブラフォン、マリンバ、大太鼓、弦楽5部。

小室敬幸(音楽ライター)

 

■モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」

■ストラヴィンスキー:バレエ音楽『春の祭典』ー2部によるロシアの異教徒の情景

(*解説あり 割愛)

(新日本フィルハーモニー交響楽団 2024年1月,2月 プログラムノート より)

 

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

久石譲:I Want to Talk to You -for String quartet, percussion and strings-

弦楽四重奏と弦楽合奏を融合させた作品です。グローバルに見渡して現代作品たちにも特徴的な編成です。アルヴォ・ペルトらの文脈をも飲み込んで久石譲色を強く滲ませた作品です。

久石譲といえばオーケストラは対向配置、そんななかフォーメーションも現代的に変化を続けています。直近コンサートや録音風景でも見られることがありました、本公演は低弦が下手側から上手側へ。シンプルに言うと、久石譲対向配置の特徴だったコントラバス(下手)とテューバ(上手)が左右で拮抗する低音部から、コントラバスとテューバどちらも上手側となり、そのコントラバスの前にチェロも移動しています。(細かく言うとチェロとヴィオラが従来配置から入れ替わっていることになります。)これは本公演で作品ごとにオーケストラが拡大していく全てのプログラムでそうなっています。

弦10型です。静謐に厳かに幕を開けます。2021年の初演から国内外のコンサートと楽団とで演奏を広げている作品です。詳しかったり詳しくなかったりする感想もぜひご覧ください。

 

 

モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」

弦12型です。前作品から見ると、管楽器も加わったフルオーケストラになったうえに弦楽器の人数も増えています。モーツァルトら古典時代の定番オーケストラサイズ感のようです。この作品だけの演奏特徴というと、時代のバロックティンパニが使用され、トランペットもコルネットに替えて演奏されています。さもありなん久石節。かくあるべし久石節。久石譲が振ったらこうなるというキビキビと小気味よい快速&快感です。よくわかったりよくわからなかったりする感想もぜひご覧ください。

 

 

ストラヴィンスキー:バレエ音楽『春の祭典』

弦16型です。ステージに収まりきれないくらいのラージ・オーケストラは一目で多い増えたとわかります。視覚的にも圧巻ですが、さらに上回るリズム重視の大迫力な響きがダイレクトに迫ってきます。こんなに大音響を味わえる機会も実はなかなかないかもです。

プログラム順に弦10型、弦12型、弦16型とオーケストラは拡大しています。なんとなく少し増えたのかな、みたいな数字の変化に感じますけれど、実際には弦10型と弦16型、ストリングスで2倍近く増えています。「I Want to Talk to You」で30人くらいだったのが「春の祭典」では60人くらいの弦楽奏者。ティンパニも二人いるなんてそうそうお目にかかれない。このあたりのことは下のレポートにも書いています。人間のもつ原始的で本能的なエネルギーの爆発をむき出しの指揮さばきで。伝わったり伝わらなかったりする感想もぜひご覧ください。

 

 

 

「すみだクラシックの扉」シリーズは、週末の金土開催が多いようです。どちらもお昼間、なのに、どちらも完売。海外からの観客もすでにおなじみ、終演カーテンコールまで湧いていた会場でした。

新しいファンの人とお会いできたり、それぞれありったけの情報や思い出を持ち寄って(つまり久石譲愛をたっぷり抱えて)語らいながら楽しいコンサートの一日を過ごしました。

 

 

 

故・小澤征爾氏を偲ぶコーナーをすみだトリフォニーホールに設置いたします

小澤征爾氏(新日本フィルハーモニー交響楽団 桂冠名誉指揮者)のご逝去に伴い、2024年2月15日(木)から2月18日(日)までの4日間、新日本フィルハーモニー交響楽団の本拠地であるすみだトリフォニーホール(東京都墨田区) 小ホール入口に、小澤征爾氏を偲ぶコーナーを設置いたします。

1997年10月26日のすみだトリフォニーホール開館以来、小澤征爾率いる新日本フィルハーモニー交響楽団を支えてくだった墨田区の皆様をはじめ、どなたでもご入場いただけます。
開場時間:10:00~17:00(4日とも)

思い出や感謝の言葉を書き残すことができるノートもご用意しておりますので、ぜひご自由にご記入ください。
写真や新日本フィル、すみだトリフォニーホールとの歩みの記録もご覧ください。

公式サイト:新日本フィルハーモニー交響楽団|News
https://www.njp.or.jp/news/8091/

 

same video

指揮・久石譲/J.S.バッハの管弦楽組曲第3番より第2曲アリア(小澤征爾氏への献奏として)

from 新日本フィルハーモニー交響楽団YouTube

 

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

from 新日本フィルハーモニー交響楽団公式X
https://twitter.com/newjapanphil

 

 

「第51回アニー賞 ウィンザー・マッケイ賞」を受賞した久石譲です。コンサートと同日になったアメリカでの授賞式は欠席となったため、ビデオメッセージで受賞あいさつが行われました。久石さん自身も世界各地を行ったり来たりで忙しい。賑わう周囲も世界各地で忙しい。久石さんが足りていません。このたびの受賞心よりおめでとうございます!

 

 

 

 

次回からの新しい〈2024/2025シーズン〉は、2024年9月に「ドヴォルジャーク:チェロ協奏曲」や「ブラームス:交響曲 第1番」を、2025年3月に「メシアン:トゥーランガリラ交響曲」とすでに決定しています。ぜひチケット発売までお見逃しなく。

 

 

 

 

 

 

Blog. 「GQ JAPAN 2024年1・2月合併号」(Web版同一)久石譲インタビュー内容

Posted on 2023/12/09

「GQ MEN OF THE YEAR 2023」レジェンダリー・ミュージシャン賞を久石譲が受賞しました。そのトピックからWEB・SNS・雑誌などメディアに登場しています。ここでは雑誌「GQ JAPAN 2024年1・2月合併号」(12月1日発売)とWEB(12月9日公開)に掲載された久石譲インタビュー(同一)内容をご紹介します。

 

 

LEGENDARY MUSICIAN
JOE HISAISHI

久石譲

世界を巡りながら、至高の音楽を追求する

久石譲は、クラシック音楽の最高峰レコードレーベル「ドイツ・グラモフォン」と2023年に契約。映画音楽を通じて人々を魅了してきた、作曲、指揮者、ピアニストとしてのこれまでの功績を讃える。

By 川上康介
2023年12月9日

 

10月末、久石譲は東京・紀尾井のホールでコンサートを行った。彼の真骨頂とも言えるミニマル・ミュージックのコンサート「MUSIC FUTURE」だ。指揮者の久石は、Tシャツに黒いジャケット、足元はスニーカーというスタイルで、満員の観客の前に小走りで登場。まるでダンスをするかのように全身を揺らし、実に楽しげにタクトを揮っていた。

「楽しいですよ、実際。舞台に出た時に指揮者に自分が楽しんでないと、演奏者は楽しめない。自分が音を楽しみ、演奏者が僕の姿を見て安心して演奏すると、観客も楽しめる。楽しくないコンサートなんてやる意味ないでしょ」

見た目も言葉も、そして音楽も実に若々しい。

「目の前にやらなきゃならないことが山積みになっているから、年を取っている暇がない(笑)。作曲をし、演奏をし、さらに世界トップのオーケストラを相手に指揮する。3人分働いているようなものですから、体力と技術をつけるために自分を鍛えている日々です」

JOE HISAISHIの名は、世界に轟いている。2023年だけでも、1月ヘルシンキ、3月ウィーン、7月ワシントン、8月ロサンゼルス、9月ロンドンと渡り歩き、各都市のトップオーケストラを指揮してきた。もちろん、その合間に日本国内でのコンサートにも多数出演している。

「ありがたいことに、どのコンサートもソールドアウト。楽しくやらせてもらいました。大変なこともあります。ウィーン交響楽団は王道すぎるくらいにクラシカルなオーケストラであり、僕みたいなミニマル・ミュージックの作曲家とは正反対の音楽性が特徴です。その証拠に、初日のリハーサルが終わった時には、あまりに合わないので『もう無理。日本に帰りたい』と思ったほどで(笑)。でも彼らは、自発的にうまくいかない理由を考えて、理解し、学習してくるんです。本番3日前にはびっくりするほど上達していました。一般的なオーケストラは僕の音楽に合わせ過ぎるのか、ミニマル・ミュージックがどこか機械的になりがちなのですが、ウィーン交響楽団はクラシックらしい歌うような演奏をするので、抜群にスケール感が出る。新しく、面白い演奏になったと思います」

2023年4月にはクラシック界最高峰のレーベル「ドイツ・グラモフォン」と契約し、6月には、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団とのCD『A Symphonic Celebration – Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki』が発売。米ビルボードのクラシック部門とクラシッククロスオーバー部門で1位になるなど、クラシックCDとしては異例の売り上げを記録した。音楽で世界を旅している彼には、思いがけない体験も訪れる。

「ウィーン楽友協会のコンダクタールームに入った時は感慨深いものがありました。『マーラーやブラームスもこの部屋にいたんだ』って。ロンドンのウェンブリー・アリーナにはザ・ビートルズやホイットニー・ヒューストンの写真が飾ってある。プラハのドヴォルザークホールでは、窓の外を見ながら、『ドヴォルザークも同じ景色を見たのかな』などと考えたり。自分がそういう歴史上の音楽家たちと同じ場所で音楽をやっていることをすごく幸せに感じます」

月に1度のペースで海外に行きながら、同時進行で作曲活動も行う。2023年は、宮崎駿の10年ぶりの新作映画『君たちはどう生きるか』が公開された。大きな話題となったこの作品の音楽は、もちろん久石が手掛けた。

「映像を観た瞬間、宮崎さんはチャレンジしているなと感じました。『君たちはどう生きるか』は、細かなストーリーを追いかけるのではなく、映像をそのまま受け止めて、観る人が想像力を働かせる映画であると解釈しました。それならば、自分も映像に負けないようなチャレンジをしなければならない。だから、これまでのようなメロディを聴かせる音楽ではなく、自分が一番いいと思うミニマル・ミュージックで全編やってみようと考えたんです。宮崎さんがどういう反応をするのか不安もありましたけど、聴いた瞬間に喜んでくれて。いくら僕がいいと思っていても監督が違うと言ったら意味がないですからね(笑)」

毎朝10時から12時までは自宅で作曲。午後は近所を散歩したり、夕方からまた3時間ほど作曲。夕食後に仮眠を取ると、朝4時頃まで「クラシックの勉強」をするのが基本的な1日の過ごし方だ。

「辞書より分厚いスコアを読んで覚えなきゃならない。1時間かかる曲を全部頭に叩き込むんです。さらに、ピアノを弾くプログラムがあるならその練習もしなければならない。睡眠は6時間確保したいから、本当に時間がない。昔はよく酒を飲みに行ったりしましたけど、最近はそんな機会もほとんどなくなりました」

コンサートの予定は2~3年先まで決まっている。2025年には日本センチュリー交響楽団の音楽監督に就任することも発表された。

「日本の経済力が落ちたと言われているけど、文化力も落ちているような気がします。例えば、少し難解な曲をやった時、ヨーロッパの観客は身を乗り出すようにして聴いてくれますが、日本の場合、明らかに反応が悪い。新しい音楽、新しい体験を面白がることができないようです。だから日本全国、北から南までオーケストラがみんな同じ曲をやっている。音楽監督を引き受けることにしたのは、そういうところに危機感を抱き、状況を変えていきたいという思いがあったから。みんなで音楽文化を豊かにしっていくことを考えていかないといけない。このままだとまずいと思っています」

これだけ音楽漬けの日々を送っていても満足することができずにいるという。

「作曲をやっても、指揮をやっても、映画音楽をやっても、100点満点ということはありません。やればやるほど、新しい課題が見つかる。それをひとつずつクリアして、自分がいいと思う音楽に少しでも近づけるようになりたい」

久石譲は、きっとこれからも走り続ける。舞台に登場したあの時のように。小走りで、そして楽しげに。

 

 

(「GQ JAPAN 2024年1・2月合併号/2024年1月号増刊 特別表紙版/2024年2月号増刊 特別表紙版」より)

 

 

WEB版掲載(同一内容)

出典:久石 譲 メン・オブ・ザ・イヤー・レジェンダリー・ミュージシャン賞──世界を巡りながら、至高の音楽を追求する
https://www.gqjapan.jp/article/20231209-moty2023-joe-hisaishi

 

 

 

 

GQ最新号の特集は「MEN OF THE YEAR 2023」! 役所広司や安藤サクラ、Mrs. GREEN APPLE、新しい学校のリーダーズ、ヌートバーなど11組の受賞者を発表! 表紙は3パターンあり

12月1日(金)発売の『GQ JAPAN』1月&2月合併号は、恒例の「GQ MEN OF THE YEAR 2023」! 今年もっとも輝いた受賞者たちを写真とインタビューで大特集した。栄えある受賞者は、新しい学校のリーダーズ、安藤サクラ、桑田悟史(SETCHU)、ヒコロヒー、久石譲、BRIGHT、Mrs. GREEN APPLE、役所広司、山田裕貴、吉田正尚、ラーズ・ヌートバーの11組。インタビュー記事と撮り下ろし写真は必読・必見だ! 表紙は、通常版と2種類の特別表紙版の3パターン。

 

今年もっとも活躍したヒーローたちを讃える、毎年恒例の大特集。11組の受賞者の撮り下ろし写真&ロングインタビューに注目だ!

【受賞者】

■新しい学校のリーダーズ(アーティスト)/ブレイクスルー・アーティスト賞
■安藤サクラ(女優)/ベスト・アクター賞
■桑田悟史(SETCHU)/ブレイクスルー・ファッションデザイナー賞
■ヒコロヒー(芸人)/ブレイクスルー・エンターテイナー賞
■久石譲(作曲家)/レジェンダリー・ミュージシャン賞
■BRIGHT(アーティスト/俳優)/ベスト・アジアン・エンターテイナー賞
■Mrs. GREEN APPLE(アーティスト)/ベスト・アーティスト賞
■役所広司(俳優)/レジェンダリー・アクター賞
■山田裕貴(俳優)/ブレイクスルー・アクター賞
■吉田正尚(野球選手)/ベスト・ベースボールプレイヤー賞
■ラーズ・ヌートバー(野球選手)/ブレイクスルー・ベースボールプレイヤー賞

*表紙は3種類(GQ JAPAN 1・2月合併号、GQ JAPAN 1月号 増刊特別表紙版、GQ JAPAN 2月号 増刊特別表紙版)あり、それぞれに1面に登場する受賞者が異なります。

 

発表! GQ MEN OF THE YEAR 2023

日本で18回目を迎えた「GQ MEN OF THE YEAR」に、2023年、圧倒的なパワーと存在感を放った受賞者たちが登場。新しい学校のリーダーズ、安藤サクラ、桑田悟史(SETCHU)、ヒコロヒー、久石譲、BRIGHT、Mrs. GREEN APPLE、役所広司、山田裕貴、吉田正尚、ラーズ・ヌートバー〈※五十音順〉の11組が、これまでの活動を振り返りながら、自身の仕事観や未来について語った貴重なインタビューは必読だ。さらに、今回『GQ JAPAN』が特別に撮り下ろした、スペシャルポートレイトもお見逃しなく。

 

GQ JAPAN 2024年1・2月合併号

 

GQ JAPAN 2024年1月号増刊 特別表紙版

 

GQ JAPAN 2024年2月号増刊 特別表紙版

 

Blog. 「君たちはどう生きるか 公式ガイドブック」久石譲インタビュー内容

Posted on 2023/11/29

映画『君たちはどう生きるか』の公式ガイドブック(発売日:2023年10月27日)です。オールカラー全76ページ、監督の企画書からキャストやスタッフのインタビューが掲載されています。久石譲インタビューは先に「熱風 2023年10月号」に収録された25ページのロングインタビューからの抜粋編集版として、見開き2ページにまとめられています。

 

 

宮﨑さんのすべてがつまった映画

音楽 久石譲

鈴木さんから「宮さんの新作をよろしく」と言って頂いたのは5年くらい前だったと思います。その後、風の噂で絵コンテが進んでいると聞いていたけれど、具体的なお話を頂くことはなかった。「本当に今回、僕がやるのかな?」と内心思っていたのです。

2021年の11月、二馬力(宮﨑駿監督のアトリエ)にお邪魔した時、初めて宮﨑さんから「次、頼みます」と言って頂いて、内心驚きました。でも、いつもと少し違った。来年(2022年)の夏ぐらいに映像ができあがるので、それを観て作ってほしい。絵コンテもそれまでは読まないほうがいい、と。また宮﨑さんの作品をやらせてもらえるといううれしさはあるのだけれど、半年後まで作品の内容を知ることができない。困ったなぁ、という気持ちもありました。

それから年が明け、(2022年)1月5日に宮﨑さんが、僕の仕事場に来られました。あの日は宮﨑さんの誕生日で、僕は毎年、曲を書いて二馬力に持って行くんですが、その時に作った曲が、眞人のテーマ曲ともいえる「Ask me why」だった。この段階では、僕は絵コンテも映像も観ていません。でも、宮﨑さんがその曲をすごく気に入られて、後日「宮﨑さんが『これってテーマ曲だよね』と言っていた」ということを伝え聞きました。それを聞いて、しまった、と(笑)。宮﨑さんって刷り込みの人だから、一度曲を聴いて「いい」というスイッチが入ってしまったら変更が利かない。僕自身は、映像を観てからテーマとなる曲を書くつもりだったけれど、こうなっちゃったらもう、戻れない。覚悟を決めました。

7月に仕上がった映像を観て、最初に2部構成だと感じました。前半は「風立ちぬ」のように、少し前の時代の現代が舞台。後半は「崖の上のポニョ」のようなファンタジーであると。前半はできるだけ小さな編成でゆき、後半はオーケストラになっても構わないという構成をイメージしました。絵のトーンも、全体的に今までとは違っていました。これまでだったら、仮の音声が入っていて、間に合っていないカットは線画や絵コンテでした。ところが今回、映像はほぼ仕上がった状態で、セリフも効果音も一切入っていなかった。そこで完成した映像を見てから作ってほしいという宮﨑さんの言葉を思い返し、僕なりに理解をしたのです。宮﨑さんは7年という歳月をかけて、映像としての完成度を徹底して求めてきた。その間に、よけいなことを考えたくなかった。恐らく役者のことすら考えたくなかったんじゃないでしょうか。効果音とか音楽も含めて、映画を総合的に捉えるより、まず自分が描きたい絵を連ねることのみで行けるところまで行く。その熱量に圧倒され、しばらく映画と距離を置きました。ドーッときた衝撃を受け止めるのに、数ヶ月はかかったと思います。

映像を観終わったあと、宮﨑さんがふらりと顔を出されて「あとはよろしく」と一言(笑)。通常、映画の音楽を作るときは絵コンテや台本を読みながら、音楽打ち合わせを行います。今回は、それもなかった。「どこに音楽を入れるかもすべて任せますから、お願いします」と。通常、2023年の夏公開だとゴールデンウィークあたりが音楽制作のピークなのですが、突然、1月いっぱいで音楽を上げてほしいと連絡があって。海外の映画祭への出品を視野に急遽早まったのだと思いますが、そのために僕は日本中の音楽家から嫌われて仕事を失いかねない3つの大きい仕事を全部キャンセルしました。宮﨑さんには育てて頂いたという思いがありますから。「風の谷のナウシカ」からのスタッフで残っているのは僕と鈴木さんだけだと思います。ひとりの監督の作品の音楽をずっと手がけていれば、普通だいたいどこかで関係が難しくなるのですが、なぜか奇跡的に続いています。ざっと40年ぐらい。世界的にもスピルバーグとジョン・ウィリアムズぐらいじゃないでしょうか。

今回面白かったのは「じゃ、あとはよろしく」と言われたことで、一音楽家として曲を書くことより、ひとつの映画の音楽全体、あるいは音響全体までをまとめなきゃいけないという意識が強まったことです。新たに広がった視野で考えていった時、僕の掌の中にはすでに宮﨑さんに毎年贈ってきた曲が溜まりに溜まっていることに気づいたんです。4、5分以上の曲が14~15曲以上あって、すぐに「この素材を全部使えばいいじゃん」という発想に切り替わった。かなりタイトな制作期間だったにもかかわらず、制作に集中することができた。宮﨑さんが「これってテーマだよね」と言ってくれた曲があったことも心の支えでした。

作曲者ってやっぱりエゴがあって大概の場合、セリフと効果音って敵なんですよ。セリフも効果音も「うるさいから下げてください」って(音響演出の)笠松(広司)さんにしょっちゅう言っていたんですが、今回のように映画全体の音の設計を考えはじめると、「ここ、効果音くるよな」って想像がつくわけです。効果音がくるなら「ここはピアノ1本にしちゃうか」とか、トータルで設計ができるようになってくる。そういう意味では今回、セリフを録るのが一番遅かった。通常なら、あれだけの映像ができていたら即アフレコを開始しています。だからこそ宮﨑さんが今回の作品でどれだけ”絵の力”に意識を傾注していたのかがよくわかる、と僕は思ってしまう。その姿勢が最後までブレなかった。長編映画12作品目で、いまだに方法論まで一気に変えられるというのは心底すごいなと思いますね。

11月15日、映画の主要なシーンに10曲ほどの音楽を仮付けしたものを、宮﨑さんと鈴木さんに聴いてもらいました。映像を見ながらじっと音楽を聴いていて、眞人の部屋の机の上に積まれていたあの本(『君たちはどう生きるか』)が床に落ちて、表紙の内側に母の文字が見えたところに「Ask me why」が被さった時、宮﨑さんが涙を流されたということがありました。「これでいいです」と言って頂いて。修正やリテイクもなく、その段階で直しをお願いされたものは1曲もありませんでした。

宮﨑さんはある時期、僕にこう言っていたんですよ。「久石さん、そんなに頑張らないでいいですよ」って。僕は毎回、次の映画のために新しい音楽のスタイルを発見するように頑張るわけです。そうすると、「久石さん、そんな頑張らないで書いてください。僕なんか、見てごらんなさい。みんな同じ顔ですよ」って。真意は謎ですが僕なりの解釈では、変えようとする努力自体が空回りしちゃうケースが多くて、自分が知っている世界を認識したまま目の前の仕事としっかり向き合うだけで、僕が望むような変化は現れる、というようなことを伝えたかったんじゃないかなと思います。宮﨑さん自身、今回、何かを変えようと思って描いているわけではない。それでも同じシチュエーションの映画は1本も作っていない。宮﨑駿という作家は常に自分が本気になれるところを探して、全力でそこへ向かって行く。その意識自体が停滞しなければ、多少登場人物の顔が同じであろうがどうでもいいんですよね。

「君たちはどう生きるか」のような内容の作品だと、宮﨑さんにわかりやすいエンターテインメントを期待している観客は少し引いてしまう可能性がある。その時、僕の役割としては映画をわかりやすくするためにメロディで攻めるという方法もあるんです。できるだけエンターテインメントの雰囲気を音楽が醸して、より多くの観客にとってわかりやすい方向へ近づけることもできる。でも、今回はまったくその意識がなくて。宮﨑さんがそこに行こうと思っているんだったら、僕もそこに行く。一般の人にわかる、わからないよりも、こんなの見たことないよねということを一緒にやると決めたんです。

(「君たちはどう生きるか」公式ガイドブックより)

 

 

「君たちはどう生きるか」ガイドブック

CONTENTS

作品解説
あれから10年──宮﨑駿の自伝的ファンタジーの誕生

長編アニメーション 企画書
題名「君たちはどう生きるか」ー120分ー

インタビュー
山時聡真 眞人の冒険を、真に受けて欲しい
菅田将暉 映画を通してどう生きるか
木村拓哉 宮﨑さんはサンタクロース 鈴木さんはトナカイ
木村佳乃 母になるということ
柴咲コウ 宮﨑監督が描いた世界は存在する
あいみょん それぞれが生きる道

キャストコメント
滝沢カレン、阿川佐和子、風吹ジュン、竹下景子、大竹しのぶ、國村隼、小林薫、火野正平

2017年7月3日 宮﨑監督によるメインスタッフへの作品説明

イメージボード集

アニメーター座談会
本田雄×山下明彦×井上俊之×安藤雅司 宮﨑さんと仕事をするということ

インタビュー
美術監督 武重洋二 宮﨑さんの頭の中を覗きにいく旅
撮影監督 奥井敦 光があれば、闇がある

ポスプロ座談会
古城環×笠松広司×木村絵理子

インタビュー
主題歌 米津玄師 僕たちはどこに立っているのか
音楽 久石譲 宮﨑さんのすべてがつまった映画
プロデューサー 鈴木敏夫 映画の原点に帰りたかった

 

 

 

同取材ロングインタビュー版

 

 

同インタビューの要点箇条書き/サントラレビュー

 

 

 

Blog. スタジオジブリ小冊子「熱風 2023年10月号」特集『君たちはどう生きるか』久石譲ロング・インタビュー内容

Posted on 2023/11/29

スタジオジブリ小冊子「熱風 2023年10月号」に掲載されたものです。《特集 君たちはどう生きるか 第2弾》にて久石譲ロング・インタビューが25ページにわたって綴られています。久石譲自身による待望の語り下ろしはもちろんのこと、映画公開直後の取材としては当面これだけになるだろう、たっぷりと語り尽くしてくれた貴重な内容になっています。

 

 

特集 君たちはどう生きるか 第2弾

宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。
こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです

久石譲

 

ー今回はお時間をありがとうございます。久石さんは、しばらく日本におられるんですか。

久石:
今日、軽井沢から帰ってきました。今月はマーラーの5番と自分の曲の演奏会があって。これは新しくできた曲のスコアですよ。「アダージョ」。

ーマーラー5番4楽章にインスパイアされたということで、長さも編成も、マーラーの5番の前に演奏するのにふさわしい曲ですね。

久石:
日本でマーラーをやって、その後ロンドンのウェンブリーでコンサート。1万2500人で2日間、これは最初はコロナで2回延期になって、去年は僕がコロナにかかって延期と、もうずっと延期になっていたものですね。その後はウィーンでレコーディングです。

ーマーラーの5番を演奏されるのは10年ぶりぐらいですね。

久石:
そうです。当時は夢中でね。全然わけもわからなかったけど、今も難しいね。難しいというか、死にそう。毎晩それでこもっているんだけど、やっぱりやってもやってもヤバいですね、あの人は。

ー以前、久石さんが5番をやったときはメロディーを延々とつないでいく70分で、ずっと歌っている感じがありました。ああいう解釈って今まで聞いたことがなかった。

久石:
えっ、ほんと? じゃあ、一度自分でも聴いてみないと(笑)。ソナタ形式という形式は持っているんだけど、その間にとりあえずなんでも挟み込んでいいというスタイルをとっているから、構造がすごく見えづらいよね。でもその感じって、たぶんジューイッシュ特有の世界観があるからね。もう少し勉強しないとまずいね。

ーほんとに難しいと思います。だから高畑(勲)さんはあまりマーラーが好きじゃなかったんですよね。無駄が多いというか、挿入句が多いからと。

久石:
そうそう。だってミニマリストからするとマーラーは対極だからね。われわれは要素を削って削って構成するのに、彼は何でも次々と投入してくる。われわれとは本来合わないはずなんだけど、でも僕はマーラーが好きなんですよ。

あ、ごめんなさい、本題は「君たちはどう生きるか」でしたね(笑)。

ーはい。ようやく『熱風』でも「君たちはどう生きるか」の特集を組むことになったので、今回はぜひ久石さんに音楽のお話を伺いたくて。

久石:
たぶん「ナウシカ」からのスタッフで残っているのは僕だけだよね。

ーそうですね。「ナウシカ」からずっと関わっている方はもういないかもしれません。

久石:
一人の監督の作品の音楽をずっと手がけていれば、普通だいたいどこかで関係がぽしゃるんですけど、なぜか奇跡的に続いていますね。世界的にもスピルバーグとジョン・ウィリアムズぐらいしかいないんじゃないかな。

ー「ナウシカ」以降の宮﨑さんのすべての長編作品ですね。

久石:
うん。ざっと40年です。

ー今回はぜひそのあたりの歴史までを丸ごとお聞きしたと思って。

久石:
僕もね、忘れないうちにきちんと一度、今回の映画音楽の話をしておいたほうがいいかなと。取材をたくさん受けている暇もないから、ここで「君たちはどう生きるか」に関して自分が音楽でやったことを全部語っておきたいんです。

ーよろしくお願いします。

 

宮﨑さんの誕生日に贈った曲がテーマに

ーインタビューの前提として最初に確認させていただきたいのですが、鈴木プロデューサーは今回の音楽について「ミニマル音楽で映画音楽を全編通してやった人はいない。久石さんは今回それに挑戦して成功した」と発言しています。この解釈は久石さん的には正しいんですか。

久石:
正しいと思いますよ。やはり日本の映画で音楽を作っている限り、どうしても皆さんメロディーを要求してきます。宮﨑さんの映画をやっている副作用みたいなもので、愛と感動のようなものを要求されることが多い。初期の北野(武)さんの作品ではすでにミニマル的アプローチをやってはいましたが。で、この4、5年は中国の映画などでミニマル的アプローチで全編通すということをいくつか試みていたんです。で、今回「君たちはどう生きるか」の映像を初めて観たとき、ああ、これはもう愛と感動の方式をとらないでいいだろうと、はっきり思ったんですね。そのとき、メロディーではなくミニマルで行こうと腹を決めたのは事実なので、鈴木さんの解釈は正しいです。

ーでは、ここからは時系列でお話を聞かせてください。今回の作品の音楽の依頼を久石さんが受けたのはいつ頃どのような流れだったんでしょう。

久石:
今回はすごく特殊なんですね。鈴木さんからは5年くらい前に「次の新作よろしく」という言葉をいただいていたんだけれど、その後風の噂では絵コンテがどんどん上がっているらしいのに具体的な話がなかなか来ない。これまでだと、絵コンテのAパートぐらいが仕上がると、もうBパートの途中くらいで呼ばれて打ち合わせをしていたんですよ。ABくらい上がったら完全に打ち合わせできている。ところが今回は、かなり上がっているはずなんだけど、全然話がない。だから僕がやるというのもほんとなのかな、と思うくらい。

ーもしかしたら自分じゃないんじゃないのかと。

久石:
そう。ということもあるかなみたいな。なにせ、一つ前は高畑さんの作品「かぐや姫の物語」の音楽をやっていますから(笑)。

ー裏切り者ですね。

久石:
それはジブリの打ち上げのときに言っちゃいましたからね。もちろん冗談ですけどね(笑)。そういう意味で言うと、何か今回はいつもと違うなというのはすごくありました。

ー現実に仕事が動き始めたのは、いつくらいなんでしょうか。

久石:
現実的な依頼ということであれば、2021年の11月だと思います。ロンドンで行われていた舞台「My Neighbour Totoro(となりのトトロ)」の件でちょっと宮﨑さんに報告しなきゃいけないことがあったので二馬力(宮﨑駿監督のアトリエ)にお邪魔したんですね。そのときに初めて宮﨑さんから「次、頼みます」と言われて、オオッて内心ちょっと驚きました。ただ、そのときの依頼の仕方がまたいつもとは違っていて。来年の夏ぐらいにほぼ映像ができあがりますから、それを先入観なしで観てほしいと。従って絵コンテもそれまで渡さない、その後にしたいと。

ーそれは今までとやり方がかなり違うんですね。

久石:
全然違います。自分がやらせてもらえるといううれしさはもちろんあるんだけれど、そうすると事前勉強したくなるのが通例なんです。でも今回は、それから半年後まで待ってということですからね。手持ち無沙汰というか、困ったなという気分も少しありましたね。それでその年が明けた1月5日に宮﨑さんが僕のこの麻布の仕事場に来られたんです。たまたまこちらに来る他の用事があったので、ついでに寄られたんですね。1月5日は宮﨑さんの誕生日で、僕はこの日は毎年、曲を書いて二馬力に持って行くんですよ。

ー毎年久石さんの曲を宮﨑さんにプレゼントしているということですか。

久石:
ええ、1月1日、2日はお酒を飲みまくってますから3日か4日ぐらいに考えて、5日の朝に僕のピアノと少ないスタッフでスタジオに入って、そこからレコーディングをしてミックスして宮﨑さんに届ける、というのが毎年の大切なルーティン。でも昨年の5日は宮﨑さんが初めてこちらに見えられると聞いたので、いつもより前倒しして4日に録った、1日早く。そしてここで宮﨑さんに聴いてもらったんです。それで宮﨑さん、すごく喜んでくれて。そのとき作った曲が「Ask me why」なんです。

ー今回の映画の柱になっている曲ですね。あれ? でも、このときはまだ久石さんは絵コンテも映像も見ていない時期ですよね。

久石:
そう。この段階では、映像も絵コンテも見ていないし、映画について何も知りません。でも、宮﨑さんはその曲をすごく気に入られて、後日2、3日後かな、鈴木さんか他の方からだと思うんだけど、宮﨑さんが「これってテーマだよね」っておっしゃっていたというのを伝え聞いたんです。それを聞いて、しまった、と(笑)。

ーどうしてですか?

久石:
宮﨑さんって刷り込みの人だから、一度曲を聴いて「いい」というスイッチが入ってしまったら変更が利かないんですよ。僕自身は当然、宮﨑さんに言われた映像を観てからもう1回きちんとテーマとなる曲を書くつもりだったけれど、こうなると何を書いてもダメですからね。あっ、もう決められちゃったなみたいな気分があって。

ーホッとはしないんですか、単純にOKが出て良かった、と。

久石:
いや、だって1日ぐらいで作ったから(笑)、そうは思いませんよ。ただ、あの曲のアイデアは実は半年以上前から持っていたものなんです。歌のように、お経のようにつぶやいているものを書きたいとずっと思っていて。正直に話しますと、毎年1月5日に持って行っていた曲というのは、最初はジブリ美術館用のつもりだったんですね。こういう展示物があるから作るというのではなく、何か展示するときに自由に使ってもらえばいいぐらいの感じで。そうするとイメージの源泉は宮﨑さんしかないんです。だって用途を頼まれて書いているんじゃなくて自主的に作るんだから。宮﨑さんに聴いてもらいたい曲を書くというコンセプトの中で、自分がそのときに素直に書きたいと思ったものを作る。宮﨑さんが新作の制作に入ってからは、青サギが出てくるらしいということやインスピレーションを得た小説の話などは知っていましたが、具体的な内容なわからないけど、ちょっと心に引っかかりを持った少年の話になるみたいだと聞いてはいたんですね。頭にそれがあるから、5日に曲を書くとき、素直に宮﨑さんに聴いてもらいたいという気持ちと同時に、そのイメージが入ってくるんですよ、なんとなく。

ー映像は見ていないけれど、断片的な情報が自然と刷り込まれていたわけですね。

久石:
ええ。だからこの3年ぐらいはそういうものが僕の中に入っていたことは事実です。その結果として生まれた「Ask me why」を宮﨑さんが「テーマだよね」と感じられて、とてもうれしいと同時に「あ、じゃあもう努力しても無駄かな」みたいな気持ちにもなった(笑)。自分ではまだチャレンジするつもりではいるけれど、かなり厳しいな、と。

ー今までの経験から宮﨑さんの頭の中ではもうフィックスしてしまったとわかる。

久石:
だってね、今までもデモテープをお渡しするとき、これ、ピアノスケッチですからね。オーケストラに変わりますと何度も言って、宮﨑さんも「うん、うん」って応えているんだけど、オケになった本番の曲を渡すと、「全然違う曲だ」って必ず言いますから(笑)。

ーそこまで固まっちゃうんですね。

久石:
というかね、シャッターを押すように覚えられるんじゃないかな。ビジュアルもそうで、普通の人は写真を撮って記録するけど、宮﨑さんはそういうことをやらない。一瞬で全部を覚えちゃう。音楽でも同じように「あっ、これはフィットした」と思ったときの感覚をシャッターを押したように覚えていらっしゃる。そうすると、もう変えるのがなかなか難しいんんですよ(笑)。

 

宮﨑監督が何をしたかったのかよくわかった

ー時系列的には、そこから7月に仕上がった映像を観るところまで飛ぶわけですか。

久石:
はい、飛びます。

ーその間は映画音楽に関する作業は何もやっていない?

久石:
何もしていません。そもそも2022年までの2年間は新型コロナウィルスが最も厳しかった時期で、海外の公演も全部延期になっていましたから。スタジオにスタッフを呼ぶことすらできない。ただ、かわりに時間がたくさんできたから、その期間に作品をすごく書きました。仕事の量でいうと映画も含めて一番たくさんやったくらい。コンサートに時間を取られないで済んだぶん、一人でこもる時間ができたので創作に集中できた。だから世間的にはすごく苦しい期間だったけど、僕にとっては作家として充実した時間ではあったんです。ただ2022年からは延期されていた海外での公演やレコーディングが全部復活して、異常な仕事量でした。北米ツアー、フランスツアーなどなど、年の半分は海外にいたくらい。

ー揺り返しで時間を取られて。

久石:
もう行く先々の国でコロナ感染の危険を感じて。で、海外にいる間は不思議と無事なのに、なぜか日本でかかるんですよ。僕の場合、日本でのコンサートで感染したんです。そういう状況があったので、映画のことは頭に置いていましたが、具体的な作業はほとんどやってなかった。で、7月7日にようやく映像を観に行きました。

ー七夕ですか。

久石:
ええ。七夕だからよく覚えていますよ。

ー初めて新作の映像をご覧になっていかがでしたか?

久石:
最初にわかったことは、これは2部構成だと。前半と後半は映画自体がまったく違う。前半はどちらかというと一つ前の「風立ちぬ」のような、時代的には少し昔の非常にリアルな話であると。後半は、ある意味で「ポニョ」のようなファンタジー。それもけっこう強力な天国と地獄のようなイマジネーションの世界に入る。そうすると音楽のやり方としては、前半はできるだけ”ちいさな編成”で行く。後半はオーケストラになってもかまわないという構成を観たときにまず思いました。

もう一つは、宮﨑さんの作品に出てくる男の子は、いつも品行方正で個人的な感想を言うと、あまり面白い人物じゃなかった(笑)。アシタカにしても宗介にしても真面目で実直。やっぱり女の子の主人公のほうが個人的には好きかなと思っていて、でも、今回の主人公は男の子だという。どうなるかなと思っていたら、ちょっとトラウマを抱えた少年で、ああ、全然違うアプローチをされたんだと。

それから絵のトーンが全体に今までとは違っている。さらにいえば、通常だと声優の代わりにひとまずジブリの社員の方に各キャラクターのセリフを読んでもらった仮の音声が入っているんですよ。そして映像のほうは間に合っていないカットが線画だったり絵コンテを撮影したものを挟んだ状態であがってくる。ところが、今回はセリフも効果音も一切入ってないんです。にもかかわらず、映像だけは95%以上完成していた。

ーそこまで仕上がった状態で、音声の仮アテもしてなかったんですか。

久石:
してないんです。効果音も一切入っていない。普通は効果音もある程度入り、仮の声があてられていて、絵の完成度は60%から70%くらいというのがこの段階での映像です。ところが、今回はまったく逆なんです。そこに、半年前に依頼を受けたときの宮﨑さんの言葉、今回は絵コンテは見せずに最初に完成した映像を見てほしいという話を重ねあわせると、宮﨑さんが何をしたかったのかというのが僕なりによくわかった。

ーどういうことですか?

久石:
つまりね、映像としての完成度を徹底して求めていたと思います。その間によけいなことを考えたくなかったんですよ。恐らく役者のことすら考えたくなかったんじゃないかな。効果音とか音楽にしても、そういうことで作品を総合的に捉えるより、まず自分が描きたい絵を連ねることのみで行けるところまで行く。そういう決意かな。だから圧倒されちゃって。それからまたしばらく放っておきました。ダメだ、こりゃと思って(笑)。

ーそれほどの衝撃だったんですね。

久石:
だって、何も知らされていないんですよ。絵コンテその他も一切知らないで、いきなり観たわけです。ドーッと来たこの衝撃を受け止めるのに、やっぱり数カ月かかりました。確か効果音の笠松(広司)さんも同じ映像を一緒に観ていたはずなんだけど、お互いに一切言葉をかわさなかったし。

ー効果音と音楽の担当者が、お互い無言で。

久石:
うん。観終わった後に宮﨑さんがふらりと来て、少し言葉をかわしたんですけどね。「あとはよろしく」って言うんですよ。なんですか、それって(笑)。海外でも日本でも映画音楽を作るうえで一番大事なのは、監督と音楽の話をして、コンテや台本を挟んで、ここからここまで音楽を入れます。ここはこういう感じの音楽を書いてほしいっていうコミュニケーションが命なんですよ。そういうことをやるんですよ、普通。

ーでしょうね。

久石:
どんな映画だってやります。音楽の位置や方向性を決める「M打ち」。それを「いつやりますか」って訊いたら、ないんですよ。「あとはよろしく」と(笑)。どこに音楽を入れるかも含めて全部任せますから、お願いします。ロンドンの公演でも全部自分でプロデュースしてるんだから、大丈夫でしょう、やってくださいって。それで終わりです。

ーすごい(笑)。その後の打ち合わせは。

久石:
そのまんま放置です。

ーとりあえず次はこういうものを出してくださいとか、そういうのも何もなく。

久石:
一切ない。俺に任せる? 効果音は? 普通ないよね、これ(笑)。

ー音楽を入れる位置までお任せって、あまり聞いたことないですね。

久石:
さすがに何か言ってくれるかもしれないと思ってしばらく放っておいたんです。そしたら本当に何も言ってこない。10月はフランスツアーをやっていたのでアリーナツアーの最終あたりに笠松さんに初めて連絡をしました。「ちょっと危険だから、仮M、入れる箇所を相談して決めよう」って。で、10月の末にここで打ち合わせをしました。

笠松さんは真面目な方だから、ある程度音楽を入れる箇所を考えてくれていて、そこに僕の意見も加えてプランを作り、宮﨑さんに「こういう感じで入れますよ」と投げた。宮﨑さんは「あっ、いいですよ」って応えてくれたけど、実際に聴かないとわからないから。

通常2023年の夏公開だと、その年のゴールデンウィークあたりが音楽制作のピークなんですよ。僕自身もそのつもりでいました。ところが1月いっぱいに仕上げてくれって突然きた。

ーえっ、どうしてそんなことに?

久石:
たぶん、海外の映画祭への出品を視野に入れて急遽早まったんんじゃないかな。それで僕、日本中の音楽家から嫌われて仕事を失いかねない三つの大きい仕事を全部キャンセルしたんです。あ、これ、しっかり書いておいてね(笑)。

ー「君たちはどう生きるか」で久石譲が犠牲にした三つの仕事ですね。

久石:
そうです。日本の全オーケストラが演奏するという曲、日本オーケストラ連盟のスポンサーで委嘱を受けていた仕事も断って。日本中のオケから睨まれるぐらいのえらいことをして。あと日本の重鎮中の重鎮が集まった作曲家の個展に曲を書くことになっていたのも断って、日本の作曲界からもう大バッシングで……。

ーそれは向こう側からするとドタキャンに近いんですか。

久石:
完全にドタキャンです(笑)。

ーそれじゃまずいですね。

久石:
映画のせいとは言えないから、いや、もういろいろ重なっていて、コロナになったせいもあり、とかいろいろ言って断ったんだけど、いずれにしろドタキャンですからね。

ーそうまでして宮﨑さんの仕事を優先されたのはなぜですか?

久石:
自分の気持ちとしては、宮﨑さんがそこまでに書いてほしいと言うなら、40年のつき合いですからね。宮﨑さんの機嫌を取る気はゼロです。そういう気持ちは全然ないんだけど、この映画は世界中の人が待っているわけだし、日本のクラシック、ごめんなさい、みたいな感じです。

ー決め手は、お客さんの数ですか?

久石:
というか、やっぱりそこで育ててもらったという気持ちがありますから。それに依頼の順番ということでいえば、鈴木さんから「次の作品よろしく」と言われたのは5年以上前なわけだし、それはしょうがないというのがあって。なんやかんや言っていろいろお断りをし、1月に間に合わせるためにそこからこもって11月の後半から作り出しました。

ー制作期間2カ月ですか。

久石:
レコーディングを開始したのが1月20日前後ですから正味2カ月もない。

ーそれは今までの作品と比べてスケジュール的には短いんですか。

久石:
短いです。ただ、今回面白かったのは「じゃ、あとはよろしく」と言われたせいで、一音楽家として自分が曲を書くことより、一つの映画の音楽全体、あるいは音響全体までをまとめなきゃいけないという意識が強まった。そうやって新たに広がった視野で考えていったとき、僕の掌の中にはすでに宮﨑さんに向けて毎年贈ってきた曲が溜まりに溜まっていることに気づいたんですよ。いつかCDにまとめようと思っていたくらいに。

ーそれは、その時点で何曲ぐらいあったんですか。

久石:
4、5分以上の曲が14、5曲以上あったと思います。それと、実は2022年にアメリカのテレビドラマの音楽の話があって、これも実はトラウマを受けた青年の話だったんですよ。いわゆる配信系の大作で、まだ台本はなく、ただトラウマを受けた青年の話ということくらいしかわかっていなかった。

ー不思議なめぐり合わせですね。

久石:
それでね、とりあえず海外に行ったらホテルにコンピュータをセッティングして、まず曲を書いていたわけ。リハーサルが始まったら作曲はできないから、その前にとにかく書いて曲を溜める。だからこの時期に作った曲は全部「デモ・ストラスブール」「デモ・ブルノ」「デモ・パリ」「デモ・ロンドン」って作った町の地名がタイトルについていて、そんなものが20曲ぐらい溜まっていたんです。そうやって進めていたけれども、さすがにこのスケジュールでテレビドラマは僕にはできないことがわかってくる。ああいうドラマって、ある週に3話、4話まとめて作らなきゃいけなかったりするんですよ。物理的に無理で、途中でこれはダメになった。ただ、そうしたら曲が残っちゃったんですよ。

ーなるほど。誕生日プレゼントのストックと米国ドラマ用に作った曲が。

久石:
ドラマ用というか、この時期は「君たちはどう生きるか」とテレビドラマの垣根はなく、どちらにも使えるであろう曲をずっと溜めている状態で、だから何の用途もなく作ったデモが膨大にあったわけです。そして、ドラマの仕事は消えた。ここで、それまでの僕だったら、頭を抱えるか立ちすくんでいたかもしれないけれど、今回は一音楽家というより、映画の音楽全体をまとめなきゃいけないという意識が強くて、すぐに「あっ、この素材を全部使えばいいじゃん」という発想に切り替わった。

ーある種、音楽監督的な立ち位置になったとき、新たに見えてきたものがあったという感覚なんでしょうか。

久石:
作品と関わる視野が広がったおかげで、音楽家としての選択肢も広がったというのかな。そこから、笠松さんと決めた音楽を入れる箇所に、自分が溜めた曲をはめたり、その流れを見ながら新たに浮かんできたところは曲を書き足したりしていったわけです。

ー今回の音楽ではとくに物語の前半部で緊張と静寂と孤独感が漂うピアノの音が印象的でした。そういう方向性もこの時期に考えられていったということですか。

久石:
7月7日に初めて映像を観たとき、前半はできるだけ”ちいさな編成”でいくと決めたとさっき言ったけれど、そのときにもう疎開先での少年の孤独の世界はピアノ1本でほぼ行くと決めていて、骨折していた手もだいぶ治っていたから自分で弾くことも決めていた。僕のピアノにバイオリンとチェロが入ったぐらいの”ちいさな編成”で前半は乗り切る。そこから、今ある材料、新たに作らなきゃいけないものを区分けしながら整理していった。それがあったので、かなりタイトな制作期間だったにもかかわらず、作業的には比較的楽だったんですよね。

ー「ナウシカ」からの40年の歴史の積み重ねがなせる技ですね。

久石:
プラス、その段階で宮﨑さんが「これってテーマだよね」と言っちゃったメインの曲がある。これが結局は大きな心の支えになった。

ー今回このメインの曲は自己主張せず、すごく抑制の効いた使われ方をしていますよね。でも、印象に残らないというわけでは決してない。

久石:
七夕に初めて映像を観たとき、この映画の音楽は主人公のテーマとしてメインの曲を作って、それを中心に組み立てていくようなものではないとはっきりわかったんです。ようするにメインのメロディーをアレンジを変えて各所に押していくようなものではない。それをやると従来の古い形の映画音楽になってしまう。そのうえで一番重要なシーンにだけ厳選して使う。実際、主人公が疎開してくるオープニングと、本(君たちはどう生きるか)が机から落ちて母の字が見えたところ、あとラストの一つ前。この3カ所にしか使ってないんですよ。

ーそこまで厳選されていたんですね。

普通だとこのメインのメロディーを弦でやったり、フルートでやったり、ヴァリエーションを増やしていくんだけど、これも一切やらない。これは完全にピアノだけでいく。どんな場合でもピアノでいくと決めちゃうとシーンができる。それをまず決めたら、そこに対してまたアイデアを考えていくということで組み立てていった。その結果として、実は鈴木さんが言ってくれた「ミニマル音楽で全編を」ということとは別に、ある意味でそれ以上に、映画音楽としてすごく特異な試みができたんです。

 

「風立ちぬ」から引き継がれた宿題

久石:
おそらく映画音楽家がこんなことを話すことはほとんどないと思うんだけど、今日はすごく重要な映画音楽の話をしようと思っていたんですよ。それは何かと言うと、映画に対して”選曲スタイル”でやったほうがいいケースの音楽もあるんです。それをうまくやった人間が(スタンリー・)キューブリック監督です。キューブリックは映画「2001年宇宙の旅」の宇宙航行のシーンで「美しく青きドナウ」というワルツを流す。無重力空間で。普通だったら派手なホルスト系の「惑星」みたいな曲になりそうなのにならない。見た瞬間からもうあれ以外考えられなくなりますよね。それが選曲の良さです。想像もつかない音楽をつけることができる。これはわれわれ作曲家にはできないんですよ。なぜなら映像を見て曲を書くから。

ー映像とのズレがないということですね。

久石:
うん。テレビ番組などで選曲家が悲しいシーンに明るい曲をつけて楽しんでいるケースはあります。でも作曲家はまずやらない。計算して悲しいけど明るい曲を書こうとしたって、わざとやったらその意図はどうしても曲にあらわれてしまい、あざとさが透けて見えてしまう。だから本来、作曲家がキューブリックの「2001年宇宙の旅」のような選曲の妙を表現することはできないわけです。ところが今回、ある種の偶然も手伝って、僕は作曲家でありながら”選曲”の表現を試みることができた。

ー作曲家でありながら選曲を試みることができたという部分をもう少し教えてください。

久石:
ようするに、今回は映像を見る以前に宮﨑駿という人間に寄りそった15曲のストックがすでにあったんですね。しかも誰か別の人間が作った曲じゃない。自分で作った曲で他で使っていない有り物がある。それは映画の映像を見て、それに合わせて作られたものではない。けれど、より深い部分、宮﨑駿という人間に向けて作られたという部分では通底するものがある。僕はその自分の曲を自由に選曲することができたわけです。

ーなるほど。40年という長い時間のつき合いの中で醸成された”映像に対する意図がない材料”があったからこそできた”選曲”なわけですね。

久石:
今回それでいくつか成功しているところが、たとえば前半約1時間の現実世界からお屋敷に入って地下へ下り、床に飲み込まれて「下の世界」へ行くシーン。あそこで流れるターラーラ・ターラーラって曲、あれは狙って書けないですよ。

ーああ、あそこは選曲だからこそ生み出せたシーンとのズレなわけですね。

久石:
あれは2016年か17年ぐらいに書いた「祈りのうた2」という曲で、宮﨑さんに贈った曲なんです。当時はヨーロッパのミニマリストの影響をけっこう受けていて、それこそアルヴォ・ペルトだとかグレツキを自分なりに消化しようと書いていた曲なんですよ。そうすると、癒やしのような曲が地獄に呑まれるシーンに流れちゃうわけです。これ、狙って書けないです。セルフ選曲スタイルだからこそできたことになる。

ー宮﨑さんに贈られた曲は、同時に久石さんの作曲家としての歴史でもあるわけですね。

久石:
うん、他にも物語終盤の産屋で夏子が子供を産むシーンに使用した曲は、2015年に書いた最初の「祈りのうた」です。これは東日本大震災の影響も受けて、祈りとしての分散和音だけで作った曲です。

ー赤い部屋で天井から下がった紙垂(しで)が回転して燃え盛るところに流れる曲ですね。

久石:
そう、一番激しいシーン。あのシーンに音楽を書けと言われたらサスペンスと恐怖が混じってくるし、あれだけの紙がワサワサ回っているとオーケストラで激しくいきたくなりますよね。でも、実際に使用した曲は、基本はピアノ1本です。後半に弦が入るだけ。あれができたのも、やはり、あらかじめ曲があったからなんです。

ー自分の曲を選曲できた強みということですね。

久石:
そう。あの曲は「ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド」というシンフォニーを書いたときのCDの1曲目に入れた曲で、妙に評判が良くて、アメリカのテレビドラマの人間からもこれと同じやつを書いてくれとしきりにお願いされて、うるせえな、みたいなこともあった(笑)。とにかく、そんなふうに今回は重要なシーンで”セルフ選曲”のスタイルをとりました。

ーセルフ選曲ではないシーンの曲は、逆にどんなことを考えて作られたんですか。

久石:
眞人がキリコとともに屋敷の中でソロソロと入っていって、青サギとやりとりして地下へ向かう流れなどはシーンに合う曲をミニマルで書いている。こちらはやっぱりサスペンス調になるんですよ。すると、さっき言った夏子が子供を産むところや眞人がキリコと「下の世界」に行くシーンより、音楽の印象は薄いんです。

ーそのシーンにマッチしているから?

久石:
そう、劇と一本化した曲って印象薄いんですよ。劇とちょっとずれている、距離をとった音楽は印象に残る。これ、映画音楽の最大の鍵なんです。映像と距離をとる。それが一番重要なんです。だから今回のサントラCDに付属した冊子に鈴木さんが「今回の映画音楽はかつて宮﨑さんに贈った曲が多かった」と書いているけれど、実はそこまで多くはないんです。多くはないんだけど、印象に残る。だからそういう曲が多く感じるということなんです。

ー面白いですね。

久石:
ええ。でもこんな体験は僕自身ももう二度とできない。

ー40年の歴史の中での蓄積があって初めて成立したスタイルですからね。

久石:
実はね、今回のような音楽スタイルになったのは反省という意味もあるんです。

ー反省? どういう意味ですか?

久石:
映画の前半で今回試したようなピアノ1本にバイオリンとチェロが入った”ちいさな編成”というのは、実は宮﨑さんは「風立ちぬ」のときにも求めていたんです。でも、あの当時の僕はそれまでずっとオケでやってきた宮﨑作品の流れがあって、弦だけは減らしたけど、”音楽の画角”をそういうふうにしていないんですね。

ーその「風立ちぬ」で宮﨑さんの要望に応えきれていないということは、いつ気づかれたんですか。

久石:
いや、もうやっている最中に気づいていましたよ。ただ自分の技術力が追いついていないので、そこまで行けなかった。「風立ちぬ」は音楽的にはあまりうまくいっている作品とは僕は思っていないんです。宮﨑さんの要望にちゃんと応えきれていないという想いがすごくある。だから、今回の映画の前半部の”ちいさな編成”は次に新しい映画の音楽を任せてもらえることになったとき、自分の中で絶対クリアすると決めていた宿題でもあったんです。

ーじゃ、「風立ちぬ」からの引き継がれた宿題もありつつ、40年間のつき合いの歴史と誕生日プレゼントの曲もあり、さまざまな準備が整っていたんですね。

久石:
4年にいっぺんくらいの割合で宮﨑さんの映画の音楽をずっと作ってきて、映画界の人たちにはそれなりに評価されたけど、毎回、次は絶対にここはクリアしなきゃという宿題が残されていて、それと向き合うということを繰り返しながら40年を過ごしてきました。今回みたいに10年ぶりであろうと、その基本は同じですね。

ー今回のように音楽監督、あるいは音響監督的な意識を持つことで、ご自身の映画音楽制作に対して何か根本的な変化はありましたか。

久石:
作曲家ってやっぱりエゴがあって、自分の書いた曲というのがありますから、大概の場合セリフと効果音って敵なんですよ。セリフも効果音も「うるさいから下げてください」って笠松さんにしょっちゅう言っていたんですが、今回のように映画全体の音の設計を考え始めると、「あ、ここ、効果音来るよな」って想像がつくわけです。笠松さんも時間がないから効果音をつけたものをどんどん送ってくる。それを聴きながら「じゃあ、この音の前で音楽を終えちゃうか」とか、ここで効果音が来るから「ここはピアノ1本にしちゃうか」とかトータルで設計ができるようになってくる。そういう意味では、今回セリフを録るのが一番遅かったですよね。

ーあの声優のメンツですから、スケジュールを押さえるのも大変だったんでしょうか。

久石:
普通は7月7日にあれだけの映像ができていたら即アフレコ開始しています。ところが、していないんですよ。面白いでしょ。だから繰り返しになるけど、宮﨑さんが今回の作品で、どれだけ”絵の力”に意識を傾注していたのかがよくわかる、と僕は思ってしまう。

ー絵だけでも成立させようと思って作っていたわけですね。

久石:
というか、他はいらなかったんじゃないですか。当然最終的には音楽も効果音もセリフも入ってくるけど、まず絵だけでそこまで行き切って作った。それは素晴らしいことですよね。絵に自信がないときは全体像を見せようとする。でも、今回はその姿勢が最後までブレなかった。長編映画12作品目で、いまだに変われる。方法論まで一気に変えられるというのは心底すごいなと思いますね。

ーそこに対応できた久石さんもすごいですよね。

久石:
いやいや(笑)。

 

直しがあったのは青サギの一箇所だけ

ー宮﨑さんの「あとはよろしく」から音楽制作はどのように進んでいったんですか。

久石:
10月のフランスツアーが終わったあと、映画の主要なシーンに10曲ほどの音楽を仮づけしたものを作成して、ラップトップに入れて二馬力に持っていって、宮﨑さんと鈴木さんに聴いてもらいました。それが11月15日ですね。

ー二人はどんな反応でしたか?

久石:
鈴木さんも宮﨑さんも僕が机の上に広げたラップトップに寄ってきて、映像を見ながらじっと音楽を聴いていて。眞人の部屋の机の上に積まれていたあの本(君たちはどう生きるか)が床に落ちて開いた表紙の内側に母の文字が見えたところに「Ask me why」が被さったとき、宮﨑さんが涙を流されたということがありました。

ー3カ所に使った真ん中「Ask me why(母の思い)」ですね。

久石:
そうです。それで「これでいいです」と言っていただいて。「もうこのまま行ってください」ということで修正やリテイクもなく、その段階で直しをお願いされたものは1曲もありませんでした。

ーでは主要なシーンの音楽は11月の段階ですべてOKが出て、その後は宮﨑さんと打ち合わせをする機会はなかったという感じですか。

久石:
一つだけあったのは、物語序盤に青サギが出てくるシーンの音楽です。宮﨑さんは青サギの存在をさりげなくしたかったんですね。僕はそこに少し派手目の音楽をつけちゃっていた。青サギのテーマのベースの曲は、最初はもっと激しかったんです。宮﨑さんはこれだと大げさになっちゃうから、ここは音楽はなくていいんじゃないかとおっしゃって。だけど、青サギの存在はそれ自体が現実ではない存在感を持っているので、完全に音を外してしまったら、今度は逆に悪目立ちしてしまう。僕は何かあったほうがいいと思うと伝えたんです。それで、最終的にピアノ1本のポーン・タランだけのスタートに変えて、それが3回目に出てくるあたりでちょっと厚くなるぐらいに切り替えた。そしたら、これは音があったほうがいい、と喜んでくれました。

ー「トトロ」のバス停のシーンで久石さんが宮﨑さんに音楽を入れることを提案された話を思い出します。

久石:
記憶に残っている宮﨑さんからの直しは、そこぐらいですね。

ー今回それほどまでに直しが少なかった理由は、ご自身ではなぜだと思われますか?

久石:
途中で自分が客観的になれたせいか、周りの人はこれでいいんじゃないかなとおっしゃることがあっても、これ、絶対違うからって確信的に変えていましたね。

ー自主的に。

久石:
うん。というか、宮﨑さんだったらこれ、違うからって。

ーわかっちゃうわけですね。

久石:
そのときはね。

ーその感覚をもう少し説明していただけますか。

久石:
たぶん鈴木さんもそう考えるだろうなとか、いろいろなことが、やっぱり長いつき合いだからわかるんです。デモテープはこれでOKで、その後いろいろなことがあった今の段階で考えると、この方法で行くならば、ここをそれほど過剰にしないほうがいいとか。だから後半はかなり音を抜く作業をやっていましたね。加えるというよりは。

ーよりシンプルに。

久石:
うん、加えない。派手にしない。抜いていく作業。

ーでは、自己補正を自律的に加えつつ、作業が進行していったわけですね。

久石:
ええ、そこからはスタジオにこもって各シーンの音楽を一気に作り始めて。それから編成に合わせたオーケストレーションもやり、1月20日からレコーディング。20日のレコーディングからは僕のピアノを録り始めています。

ー11月半ばに制作を開始して、すごい勢いで仕上がっていますね。

久石:
そうですね。やはり材料があった良さがありましたね。

ー単なる材料ではなく、40年の歴史がしみ込んだ材料ですからね。

久石:
ほんとですね。

ー世界各地で作っていたデモ素材というのもいいですね。

久石:
そう。ロンドンで作ったデモが一番活躍した。あと「デモ・ブルノ」と「デモ・バンクーバー」に「デモ・シアトル」が良かったかな(笑)。

 

「ハウル」を書いたときと同じ人間だけど同じ作家じゃない

ー少し話を広げて映画音楽全体についても訊かせてください。久石さんは以前別のインタビューで「映画音楽は状況につけるか心情につけるかのどちらか。自分はその両方をやっていない」と発言されていました。これは先ほど映像と音楽の距離こそが映画音楽の最大の鍵ととおっしゃっていた話にもつながることだと思います。

久石:
僕が2010年にやった「悪人」という映画の音楽を高畑さんがすごく気に入られていたんですね。その理由というのは、音楽が登場人物についていない。距離を持っているということなんです。映画音楽というのは、どうしても感情につけるか、状況につけるかになる。大概はその二つなんです。悲しいところをもっと盛り上げるとか、あるいは今は戦時下ですというような状況の音楽とかね。それが基本といわれていたんだけど、僕はまったく違う方法をとっていて、主人公のテーマというのも考えたことがないんですよ。

ーでは久石さんは何を頼りに映画音楽を考えるんですか。

久石:
あくあで監督目線でつける。監督がこれで何を表現したいのかということに対して音楽をつける。今回の映画もそうだけど、宮﨑さんの視点と観客との真ん中くらいの位置関係。悲しがっているシーンを強調したりせず、心情的なものを説明しないということに徹したのが良かったんじゃないかという気がしています。

ーいわゆる泣かせのドーピングみたいなことにならないようにする?

久石:
ハリウッドスタイルで2時間の映画の音楽の打ち合わせは簡単ですよ。ほとんど全編に音楽が敷かれていて、明確にいらない場所だけ指定してくる。その音楽もたとえば男と女が好き合っていると思ったら甘い音楽。なおかつ被せるように「好きよ」というセリフ。そのぐらいくどいんです。音楽が「効果音」と変わらない役割になっている。

ーそれは映画音楽としての進化なんですか、退化なんですか。

久石:
進化なのか退化なのかはわからないけれど、デジタル機材が発達して以降のハリウッドの映画音楽は最悪になりました。それまでは言葉で作曲家に発注して何が上がってくるかわからない。何かイメージ違うんだよなと思っても、一定の範囲内で許容するしかない。そのズレって実は大切なモノだったと思うんです。ところがデジタルが発達しちゃうと誰もが簡単に切り貼りしたりシミュレーションできる。しかもその音楽を監督本人が選ぶわけではなく、分業化された「音楽ディレクター」とか「選曲屋」みたいな連中があたかも監督の代弁者のように振る舞って選びだす。これがほんとうに迷惑なんです。

ーCGが過剰になったときの、映像の退屈さに近いものを感じますね。

久石:
そう。シミュレーションを繰り返して間違いないくらいに劇にぴったりと寄りそわせた音楽は、誰の心にも残らないし、音楽の存在感がないから飽きるんですよね。そうすると、やっぱり誰かちゃんとした作曲家が全体を見たものが必要だよね、という揺り戻しが必ず来る。だからそれまで待てばいい。待てばいいんだけど、その待つ段階で、自分が前と同じポジションにとどまっていてはいけないんです。「トトロ」や「ハウル」の音楽を書いてきた久石譲がそのままの状態でただ待っているだけだったら、それは単に昭和にいろよという話です。

ーなるほど。進化しつつ待つということですね。

久石:
「ハウル」を書いたときの久石は間違いなく一生懸命書いていたんです。それと今の自分は同じ人間なんだけど、同じ作家じゃないんですよ。今あれと同じ曲を書こうとしても書けませんし、あれ風に書いてくれと言われても碌なものは書けないです。

ー最近の久石さんが手がけられた映画音楽が年々メロディーから離れてミニマル音楽主体になっていっているのも、そういう変化の一つなんですね。

久石:
今、自分はミニマルの作家でクラシックも指揮している。海外でツアーをするし、映画音楽も作る。その自分が考える正しい音楽、いいと思う音楽をしっかり書くしかない。それがたぶん一番誠実な作家の道だと思うんですよ。映画であろうと何であろうとそれを忘れちゃうと、注文をこなすだけの作家になっちゃう。

ー今ご自身でおっしゃったクラシックの指揮をしている自分、ミニマルの現代音楽作家の自分、映画音楽を書いている自分のバランスはどのようにとっているんですか?

久石:
クラシックの世界ってちいさいんです。だからそこでばかり作品を作っていると人が喜ぶという実感が遠のいていく。だけどエンターテインメントばかりやっていたら、今度はいかに売れるかしか考えなくなる。作家としては両方が必要なんです。売れるためには今日的なニュアンスを勉強してでも入れなきゃいけない。年取ったら取ったほど意識的に入れなきゃいけない。エンタテインメントはそれを試す場所でもあるし、そこで身についたものを現代音楽やクラシックの作品の中でより深めてもいける。両側があるおかげで両方が上がっていく。たとえば今度マーラーを振ります。マーラーと今の僕の音楽なんてまったくスタイルも違う。こんな大曲と自分の作品を並列で演奏するって恥ずかしい。似合わない、釣り合わないだろうって自問する。でも、そうするとね、釣り合わせるように自分を変えていかなきゃいけないわけです。自分は何なんだって絶えず問われる。

ーかなり本格的に指揮をするようになったのも、そういう理由から?

久石:
自分が指揮しなければいけないと、細部まで読み込まなければならない。そうすると否が応でも影響を受けるんです。そこまでいってようやくインプットしていると言える。インプットしないとアウトプットできない。だから指揮することが自分にとってすごくいい刺激になっているんです。そこは遊びでやらないほうがいいなと思って。

 

「久石さん、そんなに頑張らないでいいですよ」

ー最後に一つ、ぜひ伺いたかったんですが、音楽を担当した人間としてではなく、宮﨑監督と付き合いの古い仕事仲間として、今回の作品「君たちはどう生きるか」をご覧になって、どう思われましたか。今までの宮﨑監督の作品とそこに携わる宮﨑監督の姿を間近で見られてきた久石さんならではの感じることがあるんじゃないかと。今回の作品はやはり特異ですよね。

久石:
特異なんだけど、今までのすべてのシーンが入っているよね。

ー入っていますね。

久石:
宮﨑さんはある時期、僕にこう言ったんですよ。久石さん、そんなに頑張らないでいいですよって。なぜかというと、僕は毎回次の映画のために新しい音楽のスタイルを発見するように頑張るわけ。そうすると、久石さん、そんなに頑張らないで書いてください。僕なんか、見てごらんなさい。みんな同じ顔ですよって。

ーそれは(笑)。

久石:
えっ? みたいな感じで。

ー宮﨑監督はどういうつもりで久石さんにそう言ったんでしょう。

久石:
真意は謎ですが、僕なりの解釈では、変えようとする努力自体が空回りしちゃうケースが多いんですよね。だから宮﨑さんは、自分が知っている世界を認識したまま今の僕が目の前の仕事としっかり向き合うだけで、僕が望むような変化は現れるというようなことを伝えたかったんじゃないかなと思います。宮﨑さん自身は今回、何かをめちゃくちゃ変えようと思って描いているわけではない。それでも宮﨑さんって、同じシチュエーションの映画は一つも作っていないんですよ。そういう意味で言うと、宮﨑駿という作家は常に自分が本気になれるところを次に探して、全力でそこへ向かって行く。その意識自体が停滞しなければ、多少登場人物の顔が同じであろうがどうでもいいんですよね。

ーなるほど。

久石:
……とか、今こうやってもっともらしいことをグダグダ言っているのは、実は答えるのが難しいから(笑)。どう思われますかって訊かれるのが一番きつい。いいに決まっているとしか言いようがないんだけど、僕は僕で作り手の側にいる人間なので客観的な評価というのは今の段階では難しい。ただ、今まで自分が関わった宮﨑作品の中で3本の指に入るぐらい好きかも。同時にこんなに次に作るという可能性を感じさせる映画もない。これは断言できるけど、宮﨑さん、もう1本作る! と僕は思う。

ーこの十数年は毎回これが最後と言い続けていましたけど、今回は言っていませんね。

久石:
言ってないでしょ。だってこの映画を作ってしまったら、今度はこれの反動が来るから、すごくみんなが待ち望んでいるものを作るかもしれない。

ーサービス満点のエンタテインメントみたいな感じの。

久石:
元々サービス満点な人なんだもん。それがわかっている人だから。

ーそういう意味で、今回の作品だけは外に向けたサービスのリズムを捨てたのかなという気がしていたんです。自分がほんとうに気持ちのいい物語のリズムで作ったらこうなりましたというのが今回の作品のような気がしているんです。

久石:
でもね、宮﨑さんがすごいなと思うのは、黒澤明の晩年って「夢」とか「まあだだよ」とか「八月の狂詩曲」でしょ。ほんとにご自身に戻られたときの黒澤さんの作品って、つまらないのね。「八月の狂詩曲」は嵐の中を傘をさして歩いて行くおばあちゃんの傘がバッと風に翻るシーンは素晴らしいけど、あとはね、やっぱり現役感の乏しさを覚えてしまう。今回の宮﨑さんにはむしろより強さを増した現役感がある。リアルに変革する力がある。だから僕は期待感のほうが強くなっちゃっているんですよね。

ー盟友の久石さんのお墨付きはうれしいですね。

久石:
だってあの映画が言ってるもん。これ、俺の最後、なんて全然思っていない。

ーとなると、久石さんもまた選曲できる曲を溜めておかないといけないですね。

久石:
だといいですね。

ー次はまたひとまず来年の1月5日の宮﨑さんの誕生日ですね。

久石:
いやいや、実は来年のNHK Eテレの「ニューイヤーコンサート」に出演依頼を頂いているんですよ。そうするとウィーンへ行かなきゃいけない。1日が終わって、2日に帰ってくると3日でしょう。5日に宮﨑さんに会いにいけるのかどうか? ここはそろそろ毎年1月5日の参拝は一度お休みしてもいいんじゃないかという言い訳じみた心の声も聞こえてきて。

ー大晦日は大阪で。

久石:
27日までコンサートやってる。

ーそれからウィーンに行って。

久石:
東京に帰ってくるのが28日で、29日だけは休みだけど、30日にウィーンに行けと言うんだよ。

ーいつ帰ってこられるんですか。

久石:
3日に帰ってきて、8日からずっとシアトル。2週間ぐらい。

ーじゃあ、5日は行けますね。

久石:
そう(笑)。3日に帰ってきてから曲を書けと言われているようにそこだけ空いている。さっき話をしながらそれを考えていたの。なんでここだけ空いてるんだろうって(笑)。

ー来年5日の誕生日プレゼントはつまり「デモ・ウィーン」ですね。

久石:
でもね、正月に宮﨑さんの誕生日に行くのは、ほんとに個人的な楽しみなんですよ。やっぱり元気な顔を見るのは、すごくうれしいし。ここまで話したから、逆に僕からも訊かせてください。今回の映画の音楽、どう感じましたか。

ー久石さんが弾かれているピアノが最初から最後まで”俺が寄りそう”という感じで、宮﨑さんに寄りそっている雰囲気が好きです。旋律を封印しているから、映画が終わった後に、あれ? どんな曲があったっけというのが思い出せなくなるんです。ところが、びっくりしたのは、サントラを聴くとシーンが鮮明に浮かんでくるんです。シーンと音楽がほんとうに一体化しているので刷り込まれる場所がいつもより深いというのかな。ほんとに今回、すばらしいなと思いました。

久石:
今の、必ず書いてくださいね(笑)。

ーサントラを聴いたときに全部のシーンが浮かんでくるんです。なぜだか戻ってくるんですよ。それこそ青サギだってポーンと一音で。それはハリウッド映画の音楽が効果音化して存在が消えてしまっているというお話とは、対極のものだと思うんです。

久石:
今までの中で一番いい具合でシンクロしたのかな。

ージョン・ウィリアムズだって1曲目は素晴らしくいいんだけど、サントラを聴いていても途中のシーンは全然浮かんでこない。ところが今回のサントラを眠るときに聴いていたら忘れていた映画のシーンまでがすべて蘇ってきた。すごく行間のある小説を聴いているような感じです。

久石:
いや、それすごくうれしいな。今回はほんとうに一番そうなってほしいと思って選んだ方法だったから。一歩間違えると、今までのファンの人たちがみんな「エッ?」となる可能性もあったという自覚はあるし、不安もありました。

ーメロディアスな久石節が好きな人は、もしかしたらそうかもしれませんね。

久石:
こういう内容の作品だと宮﨑さんにわかりやすいエンタテインメントを期待している観客は少し引いてしまう可能性がある。そのとき、僕の役割としては映画をわかりやすくするためにメロディーで攻めるという方法もあるんです。できるだけエンタテインメントの雰囲気を音楽で醸し出して、より多くの観客にとってわかりやすい方向へ近づけることもできる。でも、今回はまったくその意識がなくて。宮﨑さんがそこに行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。一般の人にわかる、わからないよりも、こんなの見たことないよねということを一緒にやると決めたんです。

ー音楽から感じたとおり、まさに宮﨑さんに寄りそっていたんですね。

久石:
そういう意味ではね、徹底したほうがいいです。

ーさっきもそれ、おっしゃってましたね。スタンスを決めたらブレてはいけない。

久石:
なんでこんなに強調するかというと、しょっちゅうブレるから(笑)。

ーブレやすいんですか。

久石:
ブレやすいですよ。影響を受けやすいし、すごく心配するし、もう大変(笑)。

ー9月7日はトロント国際映画祭でオープニング上映が始まります。

久石:
今はトロントが一番重要な映画祭の一つだと鈴木さんが言っていましたね。

ーオープニング上映に邦画が選ばれるのは初でアニメーションが選ばれるのも初らしいです。現地でどんな反応がかえってくるかドキドキします。

久石:
それは強気でいけばいいんじゃないんですか。ジャン・ウェン(姜文)という中国の監督の「陽もまた昇る」という作品で音楽の仕事をしたとき、彼の作っているものは出てきた登場人物が突然自殺したり、列車の中で子供を産んだり、わけがわからないんだけど、すごく強烈な印象を受けて、まったく類似点もないのに、どこか宮﨑さんと通底するものを感じたんですよ。

ー「太陽の少年」や「鬼が来た!」でヴェネチアやカンヌで高い評価を受けている監督ですね。彼の作品と宮﨑さんのどういう部分が?

久石:
言葉にするのはすごく難しいんだけど、簡単に言うと誕生と死の円環の重なる場所で作品を編んでいるところというのかな。たとえば「ポニョ」でも4歳や5歳の子供の世界とその対極の死の間際にいるおばあちゃんたちの世界を描いているけど、その円環の真ん中にあるリアルな現実の部分は薄い。思い返すと「千と千尋の神隠し」もそうですよね。真ん中が空白の、あっち側とこっち側の物語。その図式でいうと、今回の「君たちはどう生きるか」はその傾向がさらに深化している。それはジャン・ウェン監督の「陽もまた昇る」のわけのわからなさに感じた魅力とも同質のもので、理解しにかかって頭で辻褄合わせようとしなかったら、こんないい映画はないんですよ。

ーなるほど、死の淵にいる老人と無垢な子どもの世界が重なる場所から生まれる物語といえばまさに「千と千尋」以降の宮﨑さんの作品はその傾向が強いですね。そして、頭で理解しようとするべき作品ではないというのはまさにそのとおりだと思います。

久石:
だから今回の映画で描かれているものって、外国のお客さんが望んでいる風景という気がするんですよ。それともう一つ、精神的世界でいうと、もはや生と死と世界を取り巻く哲学ですからね。ここまで行き着いた日本の映画って、溝口健二の「雨月物語」くらいしかないんじゃないかなって思います。大傑作ですよ。だから、トロントも強気で行けってことです(笑)。

 

P.S.
今思えば宮﨑さんはこのような全てを予測したようにも思える。まるでシャッターを押すように見えていたのかもしれない。

 

(このインタビューは9月2日に行われました)
◇構成/山下卓
◇取材協力/西岡純一

 

(「熱風 2023年10月号」より)

 

 

本号目次について

 

 

同インタビューからの抜粋編集版

 

 

同インタビューの要点箇条書き/サントラレビュー

 

 

 

 

 

 

Blog. 「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.10」コンサート・レポート

Posted on 2023/11/08

10月30日,11月1日開催「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.10」コンサートです。近年は慣例となっている春発表、そこにテリー・ライリーさんのお名前を見たときには驚きました。いよいよその時がきました。予感はありました。でも実現するかはまた別、久石譲×テリー・ライリー、世紀のミニマル・コラボが遂に!です。今年10回目を迎えるアニバーサリーにふさわしい夢の共演!11月1日公演はライブ配信(アーカイブ配信なし)も叶えられました。

 

 

久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.10

[公演期間]  
2023/10/31,11/01

[公演回数]
2公演
東京・紀尾井ホール

[編成]
久石譲
テリー・ライリー
サラ
Music Future Band

[曲目]
テリー・ライリー:Dr. Feelgood ~The last gasp of my dying classical career~ *World Premiere
久石譲:Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Cellos

—-intermission—-

テリー・ライリー:Aquatic Parc Mix ~Lago Passacaglia & Danse to the End~ *World Premiere
久石譲:MKWAJU for MFB *World Premiere
    I. MKWAJU
    II. SHAK SHAK
    III. LEMORE
    IV. TIRA-RIN

[参考作品]

ムクワジュ・アンサンブル 『MKWAJU』 久石譲 『Shot The Violist〜ヴィオリストを撃て〜』

 

 

まずは会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

MUSIC FUTUREはミニマルミュージックをベースにした現代の音楽を聴くことのできる唯一のコンサートです。今年で10回目を迎えますが、皆様に支持されてここまでくることができました。心より感謝いたします。

その記念すべき10回目にミニマル・ミュージックの創始者の一人であるTerry Rielyさんをゲストに迎えられたことは望外の喜びです。彼の音楽と彼から触発されてミニマリストになった僕の音楽を楽しんでいただきたいと思います。

2023年10月
久石譲

 

 

久石譲:Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Cellos
    揺れ動く不安と夢の球体 ー2台のチェロのための(2022)

原曲は2012年、Hakujjuギター・フェスティバルの委嘱作品として2台ギターのために作曲し、荘村清志氏と福田進一氏により初演された。ギターの開放弦を使ったリズミックな楽曲に仕上がったが、その後2014年にMUSIC FUTURE Vol.1においてマリンバ2台のためにRe-Composeした。そして2022年知り合いの西村朗氏が参加していた作曲家グループ「4人組」のコンサートで「2 Cellos」として再びRe-Composeした。ただスケジュールが厳しかったこともあり、最も信頼する作曲家長生淳氏に編曲を依頼した。チェロの開放弦を利用することなどを打ち合わせした上で彼に全て任せた。そして仕上がった楽曲は別の楽曲に生まれ変わった。躍動感あふれるミニマルの反復と複雑な変拍子を用いた原曲の構成はさらに立体的に、そして人間的になったと僕は考えている。

その機会を作っていただいた西村朗氏は突然他界された。今後10年以上論争をしていくはずだった良きライバルを失い言葉もない。今回MUSIC FUTUREで演奏するのは西村朗氏への追悼の意味もある。ご冥福を心からお祈りしたい。

曲名は、アメリカの詩人ラッセル・エドソン(1935-2014)が生命の宿る瞬間を表現した一節による。「揺れ動く不安と夢の球体」という日本語表現が気に入り、敢えて原文の文脈にとらわれず”shaking anxiety(揺れ動く不安)and dreamy globe(夢の球体)”という英語に逆変換し、新たなタイトルとした。

久石譲

 

 

Terry Riely:Aquatic Parc Mix ~Lago Passacaglia & Danse to the End~(2023) *World Premiere

『アクアティック・パーク(AQUATIC PARC)』は、私が日本に居を構えるようになった2020年から描き始めた楽譜とドローイングの数々を編纂した物の一つです。

この作品を構成する複数の「頁」は、各々が独自のタイトル・音楽の断片そしてドローイングを持つ部分集合(サブセット)として存在しており、それ故に非常にユニークな記譜法と相成りました。演奏者一人一人は、各素材を基に、各々が独自のバージョンを編纂していくことを推奨され、つまり、都度同じ演奏には成り得ません。各頁の演奏時間・オーケストレーション・順序・音の強弱・そして音楽の全体的な形式や流れは、明確に規定されていません。言わば、演奏される度に独自に組み立てられる「音楽素材建設キット」のようなもので、即興的な相互の働きかけを強く促すものです。

今回の公演のために取り上げる頁の各題名は、以下の通りです。(註:全部で14の頁が書かれた中の2頁)

I. ラーゴ・パサカヤ(Lago Passacaglia)
II. ダンス・トゥ・ジ・エンド(Dance to the End)

『ラーゴ・パサカヤ』は、2台のシンセサイザーとあらゆる種類の楽器の混成アンンサンブルとのために作曲しました。楽曲の基礎となる2つのシンセサイザー・パートは、8分の6拍子で書かれた4つのベース反復パターンで構成されています。1台は、一貫してセル’a’,’b’,’c’もしくは”d”のいずれかのセルを反復して演奏。その上に、もう1台は即興で素材を加えていきます。そのセクションと対応して、8分の6拍子で書かれた6小節ずつの6つのラインが楽器アンサンブルによって交互に演奏されていくのですが、各楽器の演奏者は「自分がいつ、どこに入るか」或いは「演奏するか・しないか」等を自由に選択することができます。指揮者は、音楽の流れを整理する、言わば「交通整理をする警察官」のような役割を果たすのですが、「素材に最も効果的な形を与え得る」と判断した際は、指揮者は個々の演奏家の決定を覆しても構いません。

『ダンス・トゥ・ジ・エンド』は、我が弟子である宮本沙羅の協力を得て、今回の公演のために編曲しました。私ライリーが『ジゲル・ターラ(Shigeru Tala)』と命名したリズム構造(5と4に分割した9拍のパターン)に基づき、「水族館」に散在する音楽の断片を使い、ひとつの完全な作曲作品を作り上げてみた、という次第です。

今回私は、主にこれら「水族館」の各頁にある素材から、この生き生きとしたフォルムを編纂していった訳ですが、その過程でも折に触れて新しい素材が浮かんでくるなどして、それらが最終的な構成を形づくる大きな助けとなりました。

創作に於いて、私にはこのような事が屡々起きるのです。

 

註:通常、音楽用語としての「Passacaglia」は「パッサカリア」とカナ表記されるが、ライリー氏曰く「それは勿論認知しつつ、それとは違う自分ならではの形態」ということ。本人による発音、並びに、明確に区別する意味も込めて「パサカヤ」と表記する。

※「Dr. Feelgood ~The last gasp of my dying classical career~」は作曲家の意図により、解説を掲載していません。

テリー・ライリー
北杜市にて 2023年10月21日

 

 

久石譲:MKWAJU for MFB(2023) *World Premiere
    I. MKWAJU
    II. SHAK SHAK
    III. LEMORE
    IV. TIRA-RIN

MKWAJUはスワヒリ語のタマリンドの樹の意味である。作曲当時の1980年前後に東アフリカの民族音楽を集めたLPレコードを聴いてヒントを得たと記憶している。

ムクワジュ・アンサンブルによって1981年レコーディングし、その後英国のバラネスク・カルテットを招聘した国内ツアーなどで演奏した。またロンドン・シンフォニーとのアルバム「Minima_Rhythm」でもオーケストラ用にアレンジしている。

今回Terryさんを迎えたMUSIC FUTURE Vol.10のための新曲も試みたがしっくり来ず、レジェンドである彼へのオマージュの意味を含めて4曲からなるMKWAJU組曲として完成させた。

Re-Composeにあたって、繰り返しを意味するリピートマークが多用されていることに懐かしさと多少の違和感を覚えたが(現在の僕はそれを使うことはない)ミニマル音楽の基本であることを重視し、原作を尊重しながら作業を進めた。Marimba、Vibraphone等をフィーチャーしたMusic Future Bandの演奏を楽しみにしている。

久石譲

(「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.10」コンサート・パンフレットより)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

 

テリー・ライリー×久石譲、コンサート・コラボレーションの予感はありました。2022年3月リモート対談、2022年10月「MUSIC FUTURE Vol.9」コンサートでのバックステージ・ショット、同時期「テリー・ライリー with special guest 久石譲 @Billboard Live YOKOHAMA」は久石譲さんの体調不良のため公演中止になってしまいました。2023年9月「NHK スイッチインタビュー」放送(8月収録)、そうして本公演と一歩一歩着実に距離を縮め親交を深めていった二人のミニマル巨匠です。

 

「A Rainbow in the Curved Air」を聴いて
ミニマル・ミュージックを知った
あまりのショックに数日寝込んだ
そして僕はミニマリストになる決心をした

そのテリー・ライリーが日本に滞在していてコンサートを開く
日本で何を感じ、何を見つめていたのか?
聴き逃すことはできない!

いつか僕の主催するMusic Futureに曲を書いてもらう
そんな夢を実現したい

久石譲

 

 

 

 

 

 

 

 

”いつか僕の主催するMusic Futureに曲を書いてもらう そんな夢を実現したい”(2022年3月)、まさかそしてこんなにも早く実現!テリー・ライリーさんのプログラムはどちらも世界初演になる新作です。

 

 

久石譲あいさつ

久石譲が登壇してあいさつが5分程ありました。MUSIC FUTUREについて、シリーズ振り返り、テリー・ライリーさん紹介、プログラム紹介など。また特記事項としてプログラム順についても。通常はゲストは後ろに組むことにしているけれど、テリーさんの作品はシンセサイザー、電子楽器なのでセッティングなどデリケートになる。音のトラブルを減らしたいという配慮から、前半後半ともにテリー・ライリー作品を先行にプログラムしている。といったお話でした。なるほど。

 

 

Terry Riley:Dr. Feelgood ~The last gasp of my dying classical career~(2023) *World Premiere

楽器編成:キーボード2 (楽器編成はコンサートの目視による、以下同)

約20分の作品。テリー・ライリーさんのコンサートを聴ける日が来るなんて。すぐ近く目の前にテリーさんがいて演奏している。ミニマル好きを育ててもらったファンにはたまらない瞬間です。久石さんを通してミニマル・ミュージックに親しんできた、その源流にふれることができる。よくここまでミニマルについてきたねとご褒美をもらってる気持ち、一生忘れない。

瞑想的で幻想的で、すっと力をほどくことのできる心地よさです。テリー・ライリーさんのスタイルは即興性にあります。どんな感じなんだろうと想像していたんですけれど、とても魅力的でした。たとえば即興性というとジャズのようにエキサイティングあるいは楽器ごとのアドリブバトルのような競演あたりをイメージします。それとは真逆と言っていいほどでした。風や雲のように常に移り変わるもの、ひとつとして同じ瞬間はない、再現できない。録音芸術とはまた異なるライブらしい時間芸術なのかもしれません。

心地よかった理由はほかにもあります。素材やモチーフは用意されている。ジャズほど何が飛び出すかわからないとか奏者の個性的な演奏が如実に現れるとかもない。素材があってその使い方に自由がある、なのでリズムやハーモニーを失うこともない。とても優しい自然的な即興に安心して身を委ねていました。

久石譲ファンからすると、いろいろな国を連想させてくれる異国感、現実と空想の境界がないような世界観、エスニックで神秘的な音色、まるでナウシカやラピュタの世界が蘇ってきそうになります。当然、あの時代に久石譲が受けていたであろうミニマル・ミュージックの影響度からみてもです。後半には「A Rainbow in Curved Air」も出現してきて感涙です。ファンになってから聴いてきた1980年代の久石譲音楽の歩みも走馬灯のように駆け巡ってきて、ずっと聴いていたかったです。フラッシュバックする幸せでした。

 

 

久石譲:Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Cellos
    揺れ動く不安と夢の球体 ー2台のチェロのための(2022)

楽器編成:チェロ2

約9分の作品。この作品のためだけの登場となったチェリスト古川展生さんと富岡廉太郎さんは、「現代室内楽の夕べ 四人組とその仲間たちコンサート2022」での初演奏者でもあります。

もう少しテンポを落としたらどんな感じだろう?と思い、「久石譲:The Black Fireworks 2018 for Violoncello and Chamber Orchestra/1」(『久石譲 presents MUSIC FUTURE IV』収録・2019)を聴いてみたら、こっちのほうが速いんですね。そうなんだ。チェロの音って点(・)じゃなくて棒(ー)による発音になるから、チェロ2台のフレーズの交錯がちょっと密集して聴こえてしまう。ギターやマリンバは点(・)だから粒がはっきりしてる。だからもう少しテンポを落としたほうが2台それぞれ一音一音の輪郭が出ておもしろいかもと想像していました。エネルギッシュな疾走感は失うことになるかもしれませんが、どっしりとしたチェロらしい重層感は出るみたいなイメージです。ここまできたら、同じテンポ感でいくなら、全く作曲意図を踏み外してしまいますが、「The Black Fireworks」のようにチェロ1台と室内オーケストラのアンサンブルで聴いてみたい、きっといい感じ。

前説明を全て飛ばしてしまいました。作品誕生とその変遷、音源とスコアになっている2台ギター版と2台マリンバ版、2022年の2台チェロ版初演とその経緯を話した西村朗さんとの対談など。ゆっくり紐解いてみてください。

 

 

 

Terry Riely:Aquatic Parc Mix ~Lago Passacaglia & Danse to the End~(2023) *World Premiere

楽器編成:ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ピッコロ、フルート、バス・クラリネット、ファゴット、サクソフォン、トランペット、トロンボーン、バス・トロンボーン、マリンバ、ビブラフォン、(キーボード2 *Lago Passacaglia)、(コンガ、ボンゴ、シンバル *Danse to the End)

約20分の作品。こちらも本公演のための新作です。約15-17名のMUSIC FUTURE BANDメンバーによる編成で、久石譲作品「MKWAJU」とほぼ同じ編成になっているところはポイントです。テリーさんがこの編成で作品をお書きになるかはわかりませんが、MUSIC FUTUREのために用意されたバージョンと言っていいほどです。そしてこれは、いくつかの素材でアンサンブルするというテリーさんの創作手法が可能にした編成コラボレーションでもあります。

2楽章形式になっていて「Lago Passacaglia」はテリーさんとサラさんがキーボードで参加、合図を送るなど先導者はテリーさんが担っていました。演奏後、テリーさんらはキーボードから離れ、久石譲が指揮者として登場です。コンサートプログラムとしてだけではなく、ひとつの作品のなかでお二人が密接に関わっている。当たり前のようなスムーズさで進行していましたが、よくよく思うとすごいことです。

「Danse to the End」を聴きながら「久石譲:Single Track Music」(『Minima_Rhythm II ミニマリズム 2』収録・2015)を思い浮かべる箇所もありました。それは手法ではなく雰囲気で、サックスを編成しているなど音色パレットからくる印象だと思います。「Lago Passacaglia」のほうでも「フィリップ・グラス/久石譲編:2 Pages」(『久石譲 presents MUSIC FUTURE IV』収録・2019)っぽいと思うところも。ドレミ♭ドレミ♭とCmコードの音型を反復していて、かつMUSIC FUTURE BANDの楽器編成で色彩感が共通しているからです。ミニマリストたちのいろいろな作品に親近性を感じながら浸っていました。

ふだん即興性のパフォーマンスに慣れないメンバー、1楽章はテリーさんらの即興を軸とし、2楽章は久石譲が指揮したところからもきっちり曲として形を固めていたのかもしれません。今回テリー・ライリーさんの音楽を聴きながら、民族音楽の原点のようなものを感じました。その土地や集落にある音楽、その時集まった人たちで奏でる、その自由度はゲームやレクレーションに近い。音楽を通した楽しいコミュニケーションのようなもの。だから、技術や創造を磨いてほしい即興性ではなくて、ゲームのルールブックのような素材やモチーフがあって、あとは自由に遊びましょうと。難解な現代音楽と違うのは、聴いてもらう音楽になっていること、プレーしている奏者とオーディエンスがいつしか一体となったコミュニティが生まれ一緒に楽しめるようになっていること。

 

 

久石譲:MKWAJU for MFB(2023) *World Premiere
    I. MKWAJU/II. SHAK SHAK/III. LEMORE/IV. TIRA-RIN

楽器編成:ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、フルート2、クラリネット、ファゴット、サクソフォン、トランペット、トロンボーン、バス・トロンボーン、マリンバ2、ビブラフォン、グランカッサ、ドラムセット、ウッド・パーカッション、コンガ、シンバル、ドラ、トライアングル、タンバリン、ピアノ

約20-22分の作品。良すぎてあまり書きたくない。最高すぎた!で終わらせたい。あとは特別配信?再演?音源化を心待ちにしましょう!で締めたい。(ところですが、、)

1981年作品「MKWAJU」の4曲が聴けるとは夢のようでした。約15-17名のMUSIC FUTURE BAND(MFB)フルメンバーによる編成で、大幅に加筆・改訂されていてかっこよすぎる。2001年のアンサンブル版もあるなかその再演だったとしても涙モノ、さらに進化した輝かしいニュー・バージョンでした。

「MKWAJU」ミニマルのモチーフが増えていたり、基本音型の掛け合い方が変わっていたり、本当に新しいMKWAJUでした。「SHAK SHAK」ウッド・パーカッションの奏法が「Deep Ocean」音楽のそれを思わせたり。全体的に捉えても1981年から長い時間を経過して近年の「Deep Ocean」らミニマル・アプローチを通過したうえでの新しいMKWAJUだとひしひし感じます。(だから「Deep Ocean」も並べて聴けるようになることが本当に望ましい!)。「LEMORE」この曲はマリンバ2台からマリンバ1台・ビブラフォン1台になります。オリジナルからそうですが雰囲気を変える曲です。「TIRA-RIN」終曲にふさわしい高揚感かき立てるバージョンアップにもだえる喜びを抑えきれない。すごい。

 

「MKWAJU」の変遷

久石譲バイオグラフィに《1981年「MKWAJU」を発表、翌1982年にファーストアルバム「INFORMATION」を発表し~》と必ず先頭に書かれるように、名義こそ久石譲はありませんが全作曲・プロデュースと実質のデビューアルバムに値する大切な作品です。

 

その位置づけは、

「テリー・ライリーの『A Rainbow in Curved Air』という曲を聴いた時、衝撃を受けましたね。それからは、ミニマル・ミュージックの作曲にシフトしました。でも、曲が全然書けないんですよ。もちろん、その当時なんて曲をちゃんと仕上げる技術力もないし。30歳くらいになって、本当の意味で初めて書けたという感じかな」

Blog. GS9 Club「MASTER OF JAPAN 世界が注目する日本人」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

そうなんです。1981年「MKWAJU」は31歳の時です。この頃に演奏会で披露していた自作品は数多いですが、その中から初めてリリースされるに選ばれたのが「MKWAJU」です。MUSIC FUTURE Vol.10でテリー・ライリー×久石譲の共演とプログラムは本当に互いのリスペクトとオマージュの結晶です。

「TIRA-RIN」だけ触れたい。このアルバムでは4曲ともにリズム・プログラミンングも絡ませています。「TIRA-RIN」のおもしろいところは、この曲のフレーズ歌い出しをTIRA-RINと4音に当てると、RINが小節の頭です。ティラは前の小節にかかっていて次のリンが1拍目です。ミニマルに拍子が変容してもずっとそれは変わりません。曲を通してリンが1拍目です。(曲名もここからきてると勝手に思っているほど。)オリジナル版だとシンセリズムのおかけでよくわかります。『Shoot the Violist』版や今回の『for MFB』版は、前半特にそれはわかりづらい。そこに拍子感覚を錯覚させる面白さがあります。だから『for MFB』版ほんとよかった!

 

 

久石譲 『Shot The Violist〜ヴィオリストを撃て〜』

久石譲アンサンブル名義でリリースされています。ムクワジュ・アンサンブル(1981)からの強いリベンジやリ・チャレンジといった作品へのこだわりを感じます。ポイントのひとつにサクソフォンが編成されていること。今回の『for MFB』版でもサックスは大活躍でした。エスニック感が増すというかやっぱりエキゾチックになります。作品をつくっている雰囲気にとても印象的な楽器です。「MKWAJU組曲」となっていたオリジナル版4曲のうち「SHAK SHAK」は除外されています。だから4曲フルで蘇った『for MFB』版ほんとよかった!

 

 

久石譲 『ミニマリズム』

久石譲ミニマル・ミュージックの真骨頂、シリーズ第1作です。「I. MKWAJU」「DA・MA・SHI・絵」など初期作品を華麗にフルオーケストラに魅せてくれます。このときのMKWAJUは単曲です。今回の『for MLB』版は、「MKWAJU組曲」4曲のフルオーケストラもいけるんじゃないか、そう思わせてくれるバージョンアップでした。楽しみが増えた、期待せざるをえない。久石譲×ミニマル×シンフォニーには、アジアな「ASIAN SYMPHONY」、日本な「交響曲第2番」などがあります。そこにエスニックな「MKWAJU SYMPHONY」が加わったら。世界をまわる壮大で躍動する久石譲交響作品、ほんと聴いてみたいです。だから予感させてくれる『for MFB』版ほんとよかった!

 

 

“JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2022” Special Online Distribution

from Joe Hisaishi Official YouTube

約10年ぶりに日本コンサートで披露されました。『Minima_Rhythm』版からの単曲ですが、サクソフォンが外れるなど一般的なオーケストラ編成に改訂されています。もしNEW交響組曲になるときには、やっぱり世界各地のオーケストラでたくさん演奏してほしいから、シンフォニーらしい響きもいいなと思います。そのぶんアンサンブル版でサックスを加えた響きを存分に楽しめる、楽しみたい。どちらも躍動的で魅惑的です。ムクワジュ・アドレナリン再熱です!!

 

 

テリー・ライリーさん、そしてMKWAJU。往年の久石譲ファンとも味わえたコンサート、忘れないコンサートになりそうです。今回MKWAJUにライトが当たったように、久石作品にはまだまだ初演・再演してほしい作品がたくさんあります。MUSIC FUTUREなら『フェルメール&エッシャー』なんてどうでしょう。映画『君たちはどう生きるか』音楽が好きになった人、そこからミニマル音楽に興味をもった人にもこの作品は刺さります、きっと。

『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』つながりから「794BDH」「DA・MA・SHI・絵」for MFB版のニュー・アンサンブルで聴いてみたい。そして、【mládí】for MFBで「Summer/HANA-BI/Kids Return」なんてどうでしょう。ついつい調子に乗ってしまいます。コンサートの感動と興奮でついつい浮かれてしまいます。

アニバーサリーにふさわしい本公演でした。作品的にもMUSIC FUTUREコンサートの歴史的にもアルバム!どうぞよろしくお願いします。今年リリースなかった昨年Vol.9の「Viola Saga」も!どうぞよろしくお願いします。

 

 

海外オーディエンスらしい熱狂的な歓声もあがる長い長い終演カーテンコールとなりました。テリー・ライリー×久石譲、まさに人気をかけ算した国際色豊かな観客層でした。まるで国際映画祭のよう、放っておいたらあと5分7分といつまでも拍手喝采がつづきそうな至福の空間でした。素敵な時間でした。

 

 

 

コンサート・レポート plus

コンサートの細かい様子がたくさん伝わってくるレポートです。ファン歴もかなり長いのでMKWAJUにかけてだんだん熱くなってくるのは同じですね(笑)会場でもお会いして「聴けてよかった!聴けてよかった!」とお互いくり返していました。

JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE VOL.10(2023.11.1)

from Sho’s PROJECT OMOHASE BLOG 改 seconda

 

 

 

とっておきエピソード

 

 

リハーサル風景

from 久石譲コンサート@WDO/FOC/MF
https://twitter.com/joehisaishi2019

 

 

ほか

リハーサル風景動画もあります

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

from 西江辰郎インスタグラム
https://www.instagram.com/tatsuo_music/

 

 

 

公演風景

from 久石譲本人公式インスタグラム

 

ほか

from テリー・ライリー公式インスタグラム
https://www.instagram.com/tadashi.for.terry.riley/

 

 

打ち上げ

from 久石譲本人公式インスタグラム

 

 

from テリー・ライリー公式インスタグラム

 

 

ほか

from 西江辰郎インスタグラム

 

 

 

 

Music Future Series

 

 

Blog. 「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第276回 定期演奏会」コンサート・レポート

Posted on 2023/10/15

2023年10月13日、「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第276回 定期演奏会」が開催されました。久石譲は2021年に日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者に就任して以来数多くの定期演奏会・特別演奏会を精力的に行っています。本公演では世界的活躍で脚光を浴びているヴィオリストのアントワン・タメスティを迎えての華やかな公演となりました。

 

 

日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #276

[公演期間]  
2023/10/13

[公演回数]
1公演
大阪・ザ・シンフォニーホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:日本センチュリー交響楽団
ヴィオラ:アントワン・タメスティ

[曲目]
シューマン:交響曲 第4番 ニ短調 作品120
久石譲:Viola Saga -for Orchestra-

—-Soloist Encore—-
バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007より プレリュード (ヴィオラバージョン)
ヒンデミット:無伴奏ヴィオラソナタ 第1番 Op.25より 第4楽章

—-intermission—-

ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」

—-Orchestra Encore—-
Kiki’s Delivery Service

[参考作品]

 

 

まずは会場で配られたプログラム冊子からご紹介します。

 

 

Program Notes

首席客演指揮者の久石譲が2023-24シーズンでは初登場となる定期演奏会です。自身の作品を軸に交響曲2曲の名作が組み合わされました。久石指揮の日本センチュリー交響楽団は、この定期演奏会の直後に第35回マカオ国際音楽祭に参加し、2公演に出演します。本日の定期のプログラムは『久石譲360 非凡傳奇』と題され、10月21日にマカオ文化センターでの開催が予定されています。

 

シューマン:交響曲 第4番 ニ短調 作品120

(*割愛)

 

久石譲:Viola Saga -for Orchestra-

久石譲(1950-)の《Viola Saga》は下記の作曲者自身の言葉にあるように、2022年10月に紀尾井ホールで開かれた『Music Future vol.9』で初演された作品を、2023年7月に東京オペラシティコンサートホールと長野市芸術館メインホールで開催された『Future Orchestra Classics vol.6』でオーケストラ作品に書き換えて再演したもの。前者の独奏者がナディア・シロタで、後者の独奏者が本日演奏することになったアントワン・タメスティでした。

Viola Sagaは2022年のMusic Future vol.9で初演した作品だが、今回Violaとオーケストラの協奏曲として再構成した。タイトルのSagaは日本語の「性ーさが」をローマ字書きしたもので意味は生まれつきの性質、もって生まれた性分、あるいはならわし、習慣などである。同時に英語読みのSagaは北欧中世の散文による英雄伝説とも言われている。あるいは長編冒険談などの意味もある。仮につけていた名前なのだが、今はこの言葉が良かったと思っている。曲は2つの楽曲でできていて、I.は軽快なリズムによるディベルティメント、II.は分散和音によるややエモーショナルな曲になっている。特にII.はアンコールで演奏できるようなわかりやすい曲を目指して作曲した。が、リズムはかなり複雑で演奏は容易ではない。(久石譲)

 

ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」

(*割愛)

 

(「日本センチュリー交響楽団 第276回定期演奏会 2023年9,10月プログラム冊子」より)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

早々にSOLD OUTしていた人気公演です。当日は臨時席も設けられるほどの盛況ぶりで、いつもに増して多国籍な観客層でした。普段なら会場全体からやんわり感じるところですけれど、この日は座った席、前後左右を多国籍で囲まれた、それほどでした。いやほんとに半径3mをぐるっと切り取ってそのなかの日本人比率はよくて50-60%くらいだったかもしれません。たまたまもあるでしょうが、おそらく会場全体でも20%くらいは海外や国内から集った多国籍層だったのではと思わせるくらいの雰囲気を感じました。久石譲人気、さらにはタメスティ人気も加わって。

 

シューマン:交響曲 第4番 ニ短調 作品120

久石譲×日本センチュリー交響楽団でシューマン交響曲ツィクルスです。今シーズンは第2番とこの第4番です。来シーズンに第1番と第3番で完遂予定になっています。

第4番は全楽章が切れ目なく演奏されるうえに、共通の主題が各楽章で登場するので、いま何楽章が進んでいるんだろうと現在地がわからなくなりがちですが、おおむね約35分くらいで一気に駆け抜けます。シューマンの交響曲は込み入ったところがないので、とてもパワフルにエネルギッシュに進んでいく印象です。そして日本センチュリー交響楽団らしい演奏との相乗効果もあってとてもみずみずしい、フレッシュです。キメるところはキメて、リズム効果もわかりやすい勢いがありますね。SNSの書きこみには「第4楽章のくり返しもあって」とあったので、くり返す演奏は珍しい&久石譲は基本すべてスコアに忠実にくり返す、そういうことなんだろうと理解しているところです。

第4番は、シューマンの2番目に書かれた交響曲です。大きく改訂したときに3つの交響曲があったので、出版時に第4番となりました。例えば、久石譲でいうと「Orbis」は2番目に書かれたけれど、大きく改訂したときに4つの交響曲があったので、第5番とナンバリングされることになった、、例えばそんな感じでしょうか。そんな感じでしょうか。

 

 

久石譲:Viola Saga -for Orchestra-

今世界で最も活躍しているヴィオラ奏者、クラシック界で注目を浴びている人、アントワン・タメスティを迎えての作品です。さらっと書いていますが、クラシックに疎い人ですが、えっ、タメスティさん迎えられるの?!と思ったほどでした。ヴィオラ・フリークとしては、この作品を演奏してくれるなんて望外の喜びです。

楽曲構成の基盤はそのままにオーケストラ編成に拡大したものです。同様のアプローチは過去に「Variation 57」や「2 Dances」といった作品があります。室内アンサンブル版とオーケストラ版、テンポ感もほぼ同じです。部分的に遅めな箇所もありますが、アンサンブルから大所帯になっているのに機動力とスピード感を失っていない。

室内アンサンブル版はシックでしなやかな印象、オーケストラ版は色彩感あってダイナミックな印象です。I.冒頭やII.後半のカデンツァなど、ヴィオラ独奏で聴かせるところは抑揚たっぷりに歌っていました。表現のニュアンスも異なるので印象も変わって聴こえるかもしれません。楽器が増え広がった高低の重厚感やパーカッションのアタックも効いたオーケストラ版です。より力強くよりリズミックに感じました。そしてオーケストラと対峙するソロ・ヴィオラ、全く埋もれることのない存在感とパフォーマンスは圧巻です。

あまりにも精緻すぎて、意図的にズレているのか、超難易度でそうなってしまっているのか、答えがわからない聴こえかたもします。この曲は聴く場所や位置によってはシビアに聴こえてしまうかもしれません。ちょっと入り込みすぎてて音の絡まりかたが正解なのかリスナーは判断しづらい、そのくらい難しい作品でもあります。そこに疑問符がついてしまうのがもったいないなとは思いました。とはいえ、風の噂でウィーンで録音したらしい、久石譲×タメスティで実現したらしい。セッション録音の正解を聴ける日を楽しみにしています。

ヴィオラがここまで主役で大活躍する作品ってそんなにないと思います。しかも、リズム主体でわくわくできてエモーショナルも感じる現代的な作品って、世界中にどのくらいあるんでしょうか。久石譲「コントラバス協奏曲」も、コントラバスってこんなに魅力的なんだと感じさせてくれる作品です。近い将来届けられるだろう「Viola Saga」の録音は、頻繁に聴くだろう自信があります。あわせて室内アンサンブル版も音源化してほしいですね。そうですね、室内アンサンブル版が銀のViola Sagaだとしたら、オーケストラ版は金のViola Saga、そのくらい印象も変わるし、それぞれにらしい輝きを放っている作品です。

 

 

ーソリスト・アンコールー

バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007より プレリュード (ヴィオラバージョン)

流麗で美しいひとときでした。バッハのこの作品はいろいろな楽器で演奏されていますが、ヴィオラの生演奏で聴けるなんて。タメスティさんは体全体で表現するので、おそらく体のバネが柔らかい印象、それが音にも現れている。

2012年に第1,3,5番を録音したアルバムが輸入盤やストリーミングであります。本公演ではこのときよりも熟成感のあるたっぷりな演奏でした。ヴィオラの音色だけに耳をすませる、ぜひ聴いてみてください。

 

Cello Suite No. 1 in G Major, BWV 1007: I. Prelude

from Official Audio

 

ヒンデミット:無伴奏ヴィオラソナタ 第1番 Op.25より 第4楽章

バッハの大きな拍手に迎えられ、その喝采にたたみかけるようにアンコール2曲目です。一転して超絶な演奏でした。まるでエレキギターをかき鳴らしているような息つく暇もない約2分間です。人間は空いた口が塞がらない状態を約2分間キープできるでしょうか。

こちらは約5年前(2018年)のパフォーマンスです。百聞は一見に如かずです。

 

Hindemith: Sonate für Bratsche solo op. 25 Nr. 1 (4. Satz) ∙ Antoine Tamestit

from hr-Sinfonieorchester – Frankfurt Radio Symphony Official YouTube

 

本公演のハイライトを全部持っていっちゃったな、というくらいの圧巻のソリスト・アンコールでした。久石譲を目当てに行ったコンサートでもこんなギフトあるんですね。ヴィオラの生演奏をたっぷり聴ける機会もなかなかないですし、ほんとコンサートってどこに新しい出会いや感動ポイントがあるかわかりません。プログラムの予定と予想を超えたところにある、コンサートでしか味わえないおもしろいところです。

 

 

ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」

久石譲ファンのあいだでは、久石譲が振るベートーヴェンは演奏会や録音もふくめておなじみかもしれません。でも、初めてジブリ交響組曲をコンサートで聴けた人が感動するように、初めてこんなベートーヴェンを聴いたと新鮮感を味わう人も新定番となりそうなほどです。それほど久石譲版は個性がはっきりしています。SNSの書きこみに「センチュリーでは今まで聴いたことないようなベートーヴェンだった」というのを見ました。まさにすべてを表しているように思います。久石譲に染まるベートーヴェン。

本公演はプログラムそのままに10月21日マカオ公演が予定されています。すでにものすごい熱気とチケット争奪戦を繰り広げているようですが、きっとマカオでも久石譲&JCSOのベートーヴェン交響曲は度肝を抜くほどの注目を集めることでしょう。公演前からの熱気はさらに高まり膨れあがりフィーバーすることでしょう。大盛況をお祈りしています!久石譲指揮で録音されたベートーヴェン交響曲全集は賞を受賞し評価も高く人気を集めています。ぜひアルバムも聴いてみてください。ぜひコンサートで体感してください。マカオ会場で販売予定ならCD-BOXたくさんご用意したほうがいいかもしれませんね。『久石譲指揮 フューチャー・オーケストラ・クラシックス  ベートーヴェン:交響曲全集』です。

 

 

ーアンコールー

久石譲:Kiki’s Delivery Service

映画『魔女の宅急便』から「海の見える街」です。近年のコンサート・アンコールの定番のひとつになっています。そう言ってしまうと元も子もないんですが。でも、本公演のように多国籍な客層からしたらうれしいプレゼントです。やっぱり久石譲の曲をひとつでも多く聴きたいと思っている。本公演のように「Viola Saga」「ベートーヴェン交響曲」の全楽章間で拍手が入るほど初々しい客層からしたらうれしいプレゼントです。やっぱり久石譲の曲をひとつでも多く聴きたいと思っている。

もうどんなクラシック演奏会だったとしても、久石さんが振る演奏会で自身の作品をアンコールに演奏しないといけないのは、しょうがない、宿命です、天性の運命です。だから、このクラシック大曲のあとに、ジブリやるの?自分の曲やるの?とどうぞお気になさらずに、思いっきり響かせてください。気に悩む必要なんてないほど観客は強く大きく切望しています。

この曲は、『A Symphonic Celebration』で聴けるバージョンです。マニアックにいうと「Kiki’s Delivery Service 2018」としてWDOで演奏されたバージョンを継承したものです。『Symphonic Suite “Kiki’s Delivery Service”』とは少し違うので、どちらも聴き楽しんでください。

定期演奏会じゃなければもう1曲アンコールありそうなほどの大喝采でした。ベートーヴェンからアンコールへ、ピークに達したボルテージの行き場に困った観客たち。そんな興奮やまぬざわざわ感で幕をとじました。

 

 

リハーサル風景

ほか

リハーサル風景動画もみれます

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

リハーサル風景

1days

2days

3days

ゲネプロ

ほか

from 日本センチュリー交響楽団公式X(ツイッター)
https://twitter.com/Japan_Century

 

 

公演風景

from 日本センチュリー交響楽団公式X(ツイッター)/日本センチュリー交響楽団公式Facebook

 

 

 

久石譲×日本センチュリー交響楽団は、2023年2月にオーケストラ団体の垣根を超えた九州交響楽団とのジョイントツアーも大盛況で迎えられたことも記憶に新しいです。

 

 

さらに、2025年4月には音楽監督就任も決定しています。プログラムの充実や海外戦略などますます目が離せません。が、その前に来シーズンのラインナップも発表されたばかりです。

 

 

世界中が久石譲の曲を聴きたい、その現象はさらに大きくなってくる。コンサートでもやってほしい、その期待はさらに大きくなってくる。

 

 

 

Blog. 「音楽の友 2023年8月号」久石譲インタビュー内容

Posted on 2023/08/14

クラシック音楽誌「音楽の友 2023年8月号」(7月18日発売)に掲載された久石譲インタビューです。巻頭カラーページにて。本号では表紙も飾っています。

 

 

[Interview] Starring Artist 久石譲(作曲、指揮)
「未来」を見据え続ける創造性(山崎浩太郎)

作曲家がお客さんを意識して、きちんと聴いてもらえる曲を書く環境、文化を定着させていきたいと思います

久石譲

 

最新作と古典を対比し、つなぐ「未来」を見据え続ける創造性

取材・文=山崎浩太郎

映画音楽の作曲家として圧倒的な人気を誇る久石譲は、クラシック音楽の作曲と指揮により、新たな聴衆層の開拓にも力を注いでいる。ドイツ・グラモフォンと録音契約を結び、さらなる世界的な活動も期待されるなか、日本では「Music Parter」をつとめる新日本フィルハーモニー交響楽団と早くから信頼関係に結ばれ、共演を重ねてきた。今年9月と来年2月に予定されるコンサートなどについて、お話をうかがった。

 

作曲家として、演奏家として
新日本フィルとの歩み

ー2004年に新日本フィルハーモニー交響楽団と結成された「新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」の音楽監督に就任されてから、20年近く指揮をされているのですね。

久石:
新日本フィルさんとは指揮をするよりもっと以前から、自分がピアノを弾くツアーなどで共演を重ねていたのです。その延長線上で、指揮者として共演するようになった。最初にクラシックのコンサートを指揮したのも新日本フィルです。チャイコフスキー「交響曲第5番」とベートーヴェン「交響曲第5番《運命》」の2曲でした。

 

ー新日本フィルというオーケストラには、どのような印象をお持ちですか?

久石:
長い付き合いだから言いづらいところもありますが(笑)、最初からわかっていたのは、上品さですね。育ちのよさというか。その質感、体質が合っていた。指揮者としての自分の原点でもありますね。

 

ーいまは「Music Parter」として、定期演奏会なども指揮されるようになりました。クラシックの名曲と、ご自身の作品を組み合わせるスタイルですね。

久石:
名称が長いので現在は「Music Parter」だけにしてもらいましたが、当初は「Composer in Residence and Music Partner」としていました。欧米では、3つとか4つのオーケストラがお金を出しあって、作曲家に新作を委嘱する文化がある。お客さんも新曲があることを楽しみにされている。だけど、日本にはその文化がないのです。作曲家がお客さんのほうを向いて、きちんと聴いてもらえる曲を書く環境を作りたい。自分は作曲家、指揮もちょっとさせていただいている作曲家だと思うから、できるだけそういう文化を定着させていきたいと思います。

なぜかというと、東京のオーケストラがお客さんの喜ぶ曲を演奏しようとすると、曲目が似てしまうのですよ。あまり変わらないと、結局はクラシック離れが起こる。前半だけでも現代曲、それもきちんとお客さんを意識した曲があって、後半にチャイコフスキーがある、というような形なら、プログラムに変化がつくじゃないですか。それを自分が率先して実行するということですね。

そういう形をより広げていく。自分の作品だけではなくて、いまあの作曲家がいいから、オーケストラが共同で委嘱しようという形になっていくのがいちばんです。そのなかで自分が選ばれるのだとしたらもっといい、そうしたスタンスなのです。

 

ー新日本フィルがそういうことを得意とする、特長をもつオーケストラになっていったら素敵ですね。

久石:
長い間「ワールド・ドリーム・オーケストラ」の公演を開催してきて、そこでは前半にミニマル・ミュージックの作品をたくさん演奏しているのです。そういう系統の、リズムを中心にした現代の音楽を新日本フィルは得意としているはずなので、それを長所にして前面に出したいと思っています。

 

 

マーラー、ストラヴィンスキー
その論理的構造にメスを入れる

ーさて、9月の定期演奏会ではマーラー「交響曲第5番」の前に新作を予定されています。どのような曲になりそうですか。

久石:
一緒に演奏するマーラー「第5番」は、やはり〈アダージェット〉(第4楽章)なのですよね。その〈アダージェット〉と一緒に演奏しておかしくない、弦楽オーケストラのための曲を書きたいと思っています。マーラーが長大ですから、その前の曲はあまり長いものをやる必要はない。導入のように静かな曲にするつもりです。

 

ーマーラー「第5番」については、どのような印象をお持ちですか。

久石:
マーラーはユダヤ人でした。ユダヤ人の音楽家は大勢います。おもしろいことに、ミニマル・ミュージックの作曲家にもユダヤ人が圧倒的に多いのです。スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラス、僕が尊敬しているデイヴィッド・ラングなど。彼らはとても論理的な思考をします。ベースに民族的な感情はあったとしても、優れた論理構造をしっかり持っているのです。

その観点から、客観的にマーラーを見たい。論理的構造、同時にそのベースにある悲しみの世界。そういう意味で、「第5番」は最も好きな曲の一つなのです。

 

ーさらに来年2月には、「すみだクラシックへの扉」で、ご自身の作《I Want to Talk to You》、モーツァルト「交響曲第41番《ジュピター》」、ストラヴィンスキー「バレエ《春の祭典》」を演奏されます。

久石:
前々から、《春の祭典》と《ジュピター》を組み合わせてみたかったのです。神が宿ったっとしか思えないような第4楽章をもつ《ジュピター》の世界観と、20世紀に音楽を大きく変えた《春の祭典》。

ロシア民謡のメロディがあることから、後期ロマン派的に《春の祭典》を演奏する指揮者もいるけれど、リズム構造に注目して、20世紀音楽の始まりという捉えかたでアプローチする指揮者もいる。ピエール・ブーレーズに始まる方法ですね。僕も作曲家ですからね、未来への可能性のあるものにしか興味がない。

ブーレーズの分析は、あのリズムを細分化して、もう一度組み立てていく、という方法でした。リズムの構造分析は、いまの自分が取っているスタイルでもあります。

 

ー2曲がどのように対比されるのかが楽しみです。新日本フィルとは今後どのような作品を取り上げていくのでしょうか。

久石:
曲目はまだ発表できませんが、どんどんクリエイティヴに展開して、新日本フィルのレパートリーの幅をもっと広げたいと思っています。

ー若い聴衆が増える効果も期待できそうですね。お忙しいなかありがとうございました。

(「音楽の友 2023年8月号」より)

 

 

オフショット from SNS

 

 

本誌に使われている写真は、もっともっとクオリティの高いアーティスティックなショットが収められています。

 

 

 

音楽の友 2023年8月号

内容紹介
【特集】
●ジョン・ウィリアムズ考 ―ハリウッド音楽からひもとく「音の匠」
(山崎浩太郎/東端哲也/小室敬幸/中村伸子/片桐卓也/ダニエル・フロシャウアー/渋谷ゆう子/水谷 晃)
今年91歳となった作曲家で指揮者のジョン・ウィリアムズ。これまで『スター・ウォーズ』、『ハリー・ポッター』、『インディ・ジョーンズ』など、アメリカの世界的大ヒット映画の音楽を手がけ、映画音楽をジャンルとして見事に復活させたのみならず、1980年から93年までボストン・ポップス・オーケストラの常任指揮者を務め、みずから指揮して世界中に伝導した「音の匠」だ。今年9月に30年ぶりに来日するJ・ウィリアムズの生涯や音楽をここでふりかえってご紹介しよう。

【カラー】
●[Interview]Starring Artist 久石 譲(作曲、指揮)「未来」を見据え続ける創造性(山崎浩太郎)
●[Interview]庄司紗矢香(vn)×平田オリザ(演出)(岡部真一郎)
●[Report]ウィーン・フィルのサマーナイトコンサート2023(平野玲音)
●[連載]和音の本音(36) ―ラフマニノフという巨人Ⅳ(清水和音/青澤隆明)
●[連載]宮田 大 Dai-alogue~音楽を語ろう(15) ゲスト:山中惇史(p)(山崎浩太郎)
●[連載]マリアージュなこの1本~お酒と音楽の美味しいおはなし(36)/口福レシピ(15) ―〈ゲスト〉平野 和(伊熊よし子)
●[連載]山田和樹「指揮者のココロ得」(15)(山田和樹)
●[特別対談]日野皓正(tp)×古澤 巖(vn)(編集部)

【対談】
●キース・ロックハート(指揮)×角野隼斗(p) ボストン・ポップス・オーケストラ来日公演で共演!(堀江昭朗)
●藤木大地(C-T)×反田恭平(p)~横浜みなとみらいホールのプロデューサーとして、それぞれの挑戦(山崎浩太郎)

【特別記事】
●[Interview]ローム・ミュージックファンデーション「スカラシップコンサート」
―石井希衣(fl)、東 亮汰(vn)、石原悠企(vn・va)、佐山裕樹(vc)(桒田 萌)
●[Report]《子どものためのオペラ『アトランティス・コード』》に注目!(木名瀬高嗣)
●[Report]いまを描く/聴く―サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ(白石美雪)
●[Interview]傘寿記念 作曲家・池辺晋一郎の「現在地」Part1(松平 敬)
●[Report]CMGエリアス弦楽四重奏団のベートーヴェン・サイクル(萩谷由喜子)
●[Interview]川崎洋介(vn)&ヘンリック・ホッホシルト(vn) ―アフィニス夏の音楽祭(後藤菜穂子)

【連載】
●[隔月連載]耳鼻科医から見たアーティストと演奏 (18) ゲスト:堀ちえみ(歌手)(竹田数章/道下京子)
●オペラ MenuとRecipe(3)(山田治生)
●河原忠之 歌好きのためのピアノ手帖 (20)(河野典子)
●猪居亜美のGuitar’s CROSS ROAD(5)MIYAVI(猪居亜美)
●池辺晋一郎エッセイ先人の影を踏みなおす(41)太地喜和子(池辺晋一郎)
●ClaTech―クラシック×テクノロジー(4)映画音楽×シネオケ®(片桐卓也)
●いまどきのクラシックの聴きかた (11)~もっとステキにいい音で(生形三郎/飯田有抄)
●クラシックを撃て! 第28回 一条ゆかり『プライド』(長井進之介)
●音楽家の本棚(5)特別篇 小町 碧(vn)

【Artists Lounge】
●フレッシュ・アーティスト・ファイル Vol.50 矢部優典(vc)
●ミケーレ・マリオッティ(指揮)(石戸谷結子)
●ロベルト・フロンターリ(Br)(河野典子)
●舘野 泉(p)(伊熊よし子)
●石上真由子(vn)(桒田 萌)
●TOKI弦楽四重奏団 平山真紀子(vn) &鈴木康浩(va)(渡辺 和)
●エルモネラ・ヤオ(S)(岸純信)
●桐山建志(vn)(片桐卓也)
●パノス・カラン(指揮)/澤田まゆみ(p)(小倉多美子/道下京子)

【Reviews & Reports】
●巻末Concert Reviews 演奏会批評
●〈海外レポート〉今月の注目公演 ブダペスト・ワーグナー・デイズ(新野見卓也)
イギリス(秋島百合子)/フランス(三光 洋)/イタリア(野田和哉)/オーストリア(平野玲音)/ドイツ①(中村真人)/ドイツ②(来住千保美)/スイス(中 東生)/ロシア(浅松啓介)/アメリカ(小林伸太郎)
●〈イヴェント・レポート〉New Classic by 4 Conductors(山田治生)

【Rondo】
●ヒラリー・ハーン(vn)、待望の来日公演/エマーソン弦楽四重奏団、最後の世界ツアー(渡辺和)/江口 玲(p)、ラフマニノフ&ホロヴィッツのピアノを弾く(上田弘子)

【News & Information】
●スクランブル・ショット・エクストラ 2023年度 武満徹作曲賞(伊藤制子)/ 外山雄三&PPT公演(池田卓夫)/ ショパン国際ピリオド楽器コンクール記者会見/第九のきせき/ワルター・バリリ追悼イヴェント(長谷川京介)
●スクランブル・ショット+音楽の友ホールだより
●ディスク・スペース(真嶋雄大/満津岡信育)
●アート・スペース(映画:中村千晶/舞台:横溝幸子/展覧会:花田志織/書籍:小沼純一、布施砂丘彦)
●クラシック音楽番組表
●読者のページ
●編集部だより(次号予告/編集後記/広告案内)

【表紙の人】
久石 譲(作曲家・指揮者) (c)ヒダキトモコ
国立音楽大学在学中からミニマル・ミュージックに興味を持ち、現代音楽の作曲家として出発。1984年の映画『風の谷のナウシカ』以降、宮崎駿監督全作品の音楽を担当するほか、数多くの映画音楽を手がけ、日本アカデミー賞最優秀音楽賞や紫綬褒章受章など国内外の賞を多数受賞。演奏活動においては、2004年「新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」の音楽監督に就任。また、2014年から自身のプロデュースによるコンサート・シリーズ「MUSIC FUTURE」を始動。さらに2019年、「Future Orchestra Classics」をスタートし、昨年ブラームス・ツィクルスを成功させた。

【別冊付録】
●コンサート・ガイド&チケット・インフォメーション
観どころ聴きどころ(戸部 亮&室田尚子)

 

 

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023」コンサート・レポート

Posted on 2023/07/26

7月21~24日開催「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023」です。今年は国内3都市3公演と少なめのスケジュールだったこともあり、チケットを取るのは例年以上に至難だったかもしれません。またコロナ禍以降の新定番となりつつあったライブ配信も今年は見送りとなりました。会場に集まれた人たちは期待と興奮の熱気をおび各会場とも大きな歓声とスタンディングオベーションで最高潮を迎えました。

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023

[公演期間]  
2023/07/21,22,24

[公演回数]
3公演
7/21 東京・サントリーホール
7/22 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール
7/24 大阪・フェスティバルホール

[編成]
指揮・ピアノ:久石 譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
ソロ・コンサートマスター:豊嶋泰嗣
合唱:栗友会合唱団(東京/名古屋)日本センチュリー合唱団(大阪)

[曲目]
クロード・ドビュッシー:「海」管弦楽のための3つの交響的素描
久石譲:Woman for Piano, Harp, Percussion and Strings
    1.Woman
    2.Ponyo
    3.Les Aventuriers

—-intermission—-

モーリス・ラヴェル:管弦楽のための舞踏詩「ラ・ヴァルス」
久石譲:交響組曲「崖の上のポニョ」 / Symphonic Suite “Ponyo”

—-encore—-
Ask me why
World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra

[参考作品]

久石譲 崖の上のポニョ サウンドトラック A Symphonic Celebration  The End of The World LP o

 

 

さて、個人的な感想はひとまず置いておいて、会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

今年のWORLD DREAM ORCHESTRA(WDO)は”French”がテーマです。

クラシックではドビュッシーの交響詩「海」とラヴェルの「ラ・ヴァルス」、エンターテインメントとしては「Woman」と最新の交響組曲「崖の上のポニョ」を演奏します。また、今回は合唱も入ります。東京と名古屋では栗友会の皆さん、大阪では日本センチュリー合唱団の皆さんと共演します。

WDOは優れた楽曲をオーケストラ作品にするというコンセプトで2004年に始まり、2011年まで続きました。いわゆるファースト・シーズンです。その後数年、休止しましたが、2014年にセカンド・シーズンとして自作のミニマル音楽と宮崎駿さんの映画に提供した音楽を再構成した「Symphonic Suite(交響組曲)」を発表してきました。

今年で8作目になりますが、「シンフォニック・ヴァリエーション・メリーゴランド」(「ハウルの動く城」)、「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」がすでにあるので、新作を除く全作完了です。つまりセカンド・シーズンも終了です。

しばらく休止して、新たなアイデアが浮かび次第、また再開します。

応援していただいた皆様に感謝するとともに、今夜のコンサートを楽しんでいただけたら幸いです。

2023年7月
久石譲

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

今年のWDOはテーマに「フレンチ・コネクション」を掲げ、昨年までのオール久石譲プログラムとは異なりクラシック作品からも並んだことが大きな特徴です。それでもいつものクラシック演奏会とはやっぱり雰囲気がちがう、若い客層や初めてのコンサートの人も多く、オーケストラ・コンサートに触れるきっかけとしてもWDOはその裾野を広げていると感じます。全公演SOLD OUT&スタンディングオベーションの大盛り上がり、すでにあらかじめ約束されたことのようです。

 

クロード・ドビュッシー:「海」管弦楽のための3つの交響的素描
La Mer, trois esquisses symphoniques pour orchestre

第1楽章 海上の夜明けから真昼まで De L’aube a midi sur la mer
第2楽章 波の戯れ Jeux de vagues
第3楽章 風と海との対話 Dialogue du vent er de la mer

久石譲のコメントから振り返ります。

”「ポニョ」では、クラシックの純正なスタイルをそのまま採りました。宮崎さんは、どちらかというと印象派のドビュッシーやラヴェルのような音楽で情景を描き出すのはお好きではないと思うので、僕も印象派的なアプローチをずっと避けてきたんです。しかし今回は”海”を舞台にしたファンタジーですし、これだけイマジネーション豊かな世界が展開しますから、音楽を書くための方法論として、印象派的なテイストが少し入ってもいいかな、と。”

Blog. 久石譲 「ナウシカ」から「ポニョ」までを語る 『久石譲 in 武道館』より 抜粋)

 

2008年当時こう語っていたとおり、すべてはここを起点としています。WDO2023でフランス印象派といわれるドビュッシーやラヴェルの作品をプログラムした理由が見えてきます。宮崎駿監督もまた映画『崖の上のポニョ』製作前に「オフィーリア」という一枚の絵を見て絵の描き方に強く影響を受けたというエピソードもあります。印象派より少し前ラファエル前派の時代です。今回はコンサート・パンフレットも上述の簡潔な久石譲メッセージのみでした。もう少し過去の久石譲コメントから振り返ってみます。

 

”この曲は小節数にするとそんなに長いものではないんですが、この中に今後の音楽の歴史が発展するであろう要素が全部入っていますね。音楽というのは基本的に、メロディー・ハーモニー・リズムの3つです。メロディーというのはだんだん複雑になってきますから、新しく開発しようとしてもそんなに出来やしないです。そうすると「音色」になるわけです。この音色というのは現代音楽で不協和音をいっぱい重ねて特殊楽器を使ってもやっぱり和音、響きなんですね。そうするとそっちの方向に音楽が発達するであろう出だしがこの曲なんだと思います。20世紀の音楽の道を開いたのはこのドビュッシーの「牧神」なんじゃないかなと個人的にすごく思いますね。

Blog. 「読響シンフォニックライブ 2012年8月15日」 放送内容 より抜粋)

 

”ラヴェルはピアノ曲でも精密なハーモニー。要するに、ざっくり言うとフランス人の作曲家は響きが重要。その響きを重要視する音楽のあり方というのがドイツとは全く違う。その違う流れってけっこうそのまま来てて。例えば、ドイツ流のやり方がそのまま現代音楽に来るかというと意外に違う。ウェーベルンとか新古典主義でつくってきてるものと、それから同じウェーベルンの影響を受けたとはいえブーレーズやなんかのフランス流のやり方って全然ちがう。音色がちがう。その起点になるのはたぶんドビュッシー。現代にまで通じる音楽になっている気がする。”

Info. 2022/04/04 久石譲が語る組曲「展覧会の絵」そしてドビュッシー 動画公開 より抜粋)

 

コンサート歴をみても

ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
2012年 読響シンフォニックライブ 「深夜の音楽会」
2018年 Joe Hisaishi Symphonic Concert(台北)
2022年 新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 #6

ドビュッシー:交響詩「海」
2023年 久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023
2023年 Joe Hisaishi and La mer(ハリウッド)(予定)
2024年 日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #279(予定)

ラヴェル:ラ・ヴァルス
2023年 Joe Hisaishi in Concert(シンガポール)
2023年 久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023

そのほか「ドビュッシー:小組曲」「ラヴェル:ピアノ協奏曲」「ラヴェル:ボレロ」「ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ」など、たびたび作品を取り上げています。

 

 

これはレビューから。

思いめぐらせると、フランスや印象派といった音楽からの影響は、初期の久石譲から、いや初期の久石譲曲ほど如実に香りたちこめています。『PIANO STORIES』(1988)からは「A Summer’s Day」「Lady of Spring」「Green Requiem」など。『My Lost City』(1992)「Cape Hotel」など。『PIANO STORIES II』(1997)「Rain Garden」など。

オリジナル作品から『WORKS III』(2005)「DEAD for Strings,Perc.,Harpe and Pianoより II.The Abyss 〜深淵を臨く者は・・・・〜」、『Minima_Rhythm III』(2015)「THE EAST LAND SYMPHONYより II.Air」、そして2022年2月待望のFOC披露「Winter Gardenより 2nd movement」。

Blog. 「新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 #6」コンサート・レポート より抜粋)

 

2022年のコンサート・レポートに書いていました。もしドビュッシーやラヴェルの作風を気に入ったなら、『崖の上のポニョ』の音楽はもちろんこういった久石譲音楽の聴こえ方もまた変わってくるかもしれませんね。折しも、2023年3月に逝去した坂本龍一さん、その音楽ルーツのなかでも色濃くあるのはドビュッシーやラヴェルです。久石譲と同じように、ピアノソロ曲や映画音楽オーケストラで、印象派のスタイルや響きを聴くことができます。この「La Mer」でも戦メリやラストエンペラーのそれを思い浮かべる人ももしかしたらいるかもしれません。日本を代表する二人の現代作曲家/商業作曲家が強く影響を受けている、音楽が時代を越えて受け継がれていることに楽しくなってきます。表立って交わることのなかった現代の作曲家が、深いところでは同じルーツを持って交わっていることに何か尊いものを感じてきます。

 

 

久石譲:Woman for Piano, Harp, Percussion and Strings
    1.Woman
    2.Ponyo
    3.Les Aventuriers

WDO2019で初演されたコーナーです。のちにアルバムとして音源化もされています。パンフレットになかったのでCDライナーノーツから楽曲解説をご紹介します。

 

2009年にリリースされたアルバム『Another Piano Stories ~The End of the World~』に収録されていた3つの楽曲をピアノ、ハープ、パーカッション、弦楽合奏で演奏可能なように再構成した作品。曲名通り、いずれの楽曲もすべて女性に因んでいる。

Woman
原曲は、2006年にオンエアされた婦人服ブランド「レリアン」CMのために書かれた楽曲。アルゼンチン・タンゴ、より正確には久石が敬愛するアストル・ピアソラのタンゴを意識したスタイルで作曲されている。

Ponyo on the Cliff by the Sea
さかなの子・ポニョと人間の子・宗介の出会いと冒険を描いた宮崎駿監督『崖の上のポニョ』のメインテーマ。弦楽器やハープのピツィカートとマリンバのトレモロが生み出すユーモラスな響きが、不思議にもポニョのイメージと一致する。

Les Aventuriers
久石のお気に入りの映画のひとつで、ジョアンナ・シムカス演じるヒロインを軸にしながらアラン・ドロンとリノ・ヴァンチュラの2人が冒険を繰り広げる『冒険者たち』から自由にイメージを羽ばたかせ、演奏者たちに5拍子という”冒険”を要求する作品。『冒険者たち』をご覧になったことがあるリスナーなら、ドロン扮するパイロットが複葉機で凱旋門をくぐり抜けようとするシーンを想起されるかもしれない。映画の中で曲芸飛行は失敗に終わるが、本楽曲においては演奏者たちが鮮やかな”曲芸飛行”を決める。

(CDライナーノーツより)

 

 

 

一口メモです。

Woman
全3曲ともこのコーナーのピアノはオーケストラ奏者によるものです。同じようなピアノ&ストリングス版で構成される《Hope》や《mládí》は久石譲によるピアニズムが必須の涙腺解放コーナーですが、《Woman》はわりとパキパキとしたピアノのニュアンスもあってかそうなっているようにも思います。

フランスをはじめヨーロッパで流行したアルゼンチン・タンゴは、のちのコンチネンタル・タンゴ(フランス)へと広がっていきます。またアルゼンチンで生まれたピアソラは、フランスで作曲を学び活動と人気を広めていきました。

Ponyo
2008年映画公開です。2009年全米公開時は「Ponyo on a Cliff by the Sea」となっていましたが、現在は最終的に「Ponyo」が英語タイトルとして採用されています。2019年版から曲名が変わっているのはこれに合わせたかたちかもしれません。同じように本公演でお披露目された交響組曲「崖の上のポニョ」もSymphonic Suite “Ponyo”となっています。

すべて音を弾(はじ)いて出す楽器および奏法で始めから終わりまで。コロンと。まるで泡のように。グランマンマーレの台詞に「私たちは泡から生まれたのよ」とあります。音と泡と、その世界観はつながっていると思っています。エンターテインメントの表向きにはポニョのかわいらしさを表現しながら、隠されたテーマは泡=生命=音の粒であるかのように。

Les Aventuriers
レザヴァンテュリエ(読み)です。一日一回唱えて覚えましょう。フランス映画『冒険者たち』(1967)同名タイトルからインスピレーションを得て作られた曲です。

この版は、サビの駆け上げるカウンタメロディが印象的です。2019年時はヴィオラだと勘違いしていましたが、チェロのようです。2022年パリ公演の配信や今回WDO2023の会場で最終確認いたしました。チェロパート全員ではなく数名で奏でているようでした。やっとここに修正いたします。

 

 

モーリス・ラヴェル:管弦楽のための舞踏詩「ラ・ヴァルス」
La Valse, Poeme choregraphique pour orchestre

とても人気の高かった、SNS感想もたくさん見ました。久石譲らしい緩急自在に操る指揮にぐっと引き込まれます。ブラームスのハンガリー舞曲もそう、ハチャトゥリアンの仮面舞踏会もそう、久石譲のMerry-go-roundもそう。久石譲さんは舞曲やワルツをまるで魔術師のように観客の心をときめかせ射抜いてしまいます。得意を超えています。

「ドビュッシー:海」も「ラヴェル:ラ・ヴァルス」もハープ2台を基本編成としています。「久石譲:交響組曲「崖の上のポニョ」」もハープ2台でした。久石譲の創りだすハープ・パートはミニマルに欠かせません。同じように久石譲作品の《海》を表現するときに欠かせない楽器がハープです。

いろいろな資料・動画を一気に振り返りました。ハープ2台が確実に使われているのはレコーディング風景動画やコメントみてNHK「深海」と「ディープオーシャンII」です。

 

久石譲のコメントから振り返ります。

”ただ、宇宙と深海の大きな違いは「水」ですから、今回ハープを2台起用して、フランス印象派的な、ドビュッシーやラヴェルのような世界観を持ち込もうというのが最初の狙いでもありましたね。

このハープがさまざまなパッセージを奏でているところに、和音感などの凝った形を取ることで、深海の不思議な感じを出せるのではないかなと考えました。”

Disc. 久石譲 『NHKスペシャル 深海の巨大生物 オリジナル・サウンドトラック』 より抜粋)

 

ハープ1台ながら大活躍している《海》は、映画『海獣の子供』『海洋天堂』、TV『ディープオーシャンI』、水族館『Xpark』、コンサートプログラム『Deep Ocean』などがあります。さて、Womanコーナーはハープ1台です。さて、交響組曲「崖の上のポニョ」はプログラム上あったからハープ2台置いたのか、はたまたハープ2台は必要条件なのか。これから映像や音源で細かくチェックできる機会がきたときに、ハープ2台それぞれの役割にフォーカスしてみたいと楽しみにしています。

 

 

久石譲:交響組曲「崖の上のポニョ」
Symphonic Suite “Ponyo”

スタジオジブリ作品交響組曲化シリーズ、『崖の上のポニョ』もストーリーの流れに沿って組曲化されていました。サントラからこの曲この曲とさすがにセレクトできないのですが、おそらく曲順にも沿っていると思います。ポイントは、ポニョと宗介の二人に軸を置いた組曲化がされていることだと思います。だから、ポニョのメロディがたくさん、シンフォニック・ヴァリエーション「ハウルの動く城」のように、随所に登場してきます。変奏のように変化もするし、宗介のモチーフと掛け合ったりもしています。

印象に残った曲からいうと、オープニングの「深海牧場」はそのままたっぷりと、「海のおかあさん」はコーラスバージョンで、快活な「浦の町」も聴けてうれしい、「宗介のなみだ」は久石譲ピアノで、「崖の上のポニョ」は英詞で大合唱!このあたり強く残っています。今回はコンサートマスター豊嶋泰嗣さんのヴァイオリン・ソロをフィーチャーした楽曲はなかったですが、「海のおかあさん」でコーラスと繊細に絡み合った旋律を奏でていました。「崖の上のポニョ」は世界ツアー版がおなじみです。グラモフォン新譜『A Symphonic Celebration』にも待望の収録となりました。そうきたところ今回さらに上をいった交響組曲版は、曲尺も長めで転調もあって高く高く昇っていくコーラスとオーケストラの謳歌は圧巻でした。特にラストのキーがものすごく高くなる合唱は、まるでポニョからいもうと達への受け継ぎや広がりのように感じたほどです。

そういったわけで、サウンドトラック/イメージアルバムでも印象の強いほかの曲「いもうと達」「フジモトのテーマ」「ひまわりの家の輪舞曲」あたりは選ばれず、一貫してポニョと宗介の出会いから交流や成長といった二人の物語に集約されているようでした。そう思ってサントラを聴き返してみると、この曲やこの曲かなと絞れてくるところもあるかもしれません。早くまた聴きたい!

コーラスとてもよかったです。とてもきれいでした。オーケストラとのバランスも絶妙すぎました。会場でご一緒できたファンみんな口をそろえて「コーラスよかった」をこだましていました。思えば、明るい印象に終始したことも大きいかなとも思いました。久石譲作品の合唱付きというと「風の谷のナウシカ」「The End of the World」「Orbis」などがすぐに浮かびますが、どの作品も短調的だったり陰影のある合唱の響きをもっています。そこへきて「崖の上のポニョ」は深海牧場も主題歌もどちらかというと光を帯びた明るさを維持しています。「崖の上のポニョ」は、まるでベートーヴェン《第九》の大合唱のように、聴く人に力強いエネルギーと明るい希望を照らしてくれるような、そんな作品に育っていきそうな気がしてきました。育つ、そうですね、公式スコアが世の中に出てきたとき、この作品をプログラムしたいオーケストラ+合唱団はきっと多いと思います。「となりのトトロ」と同じように、演奏して聴いて広く大きく育っていきそうな作品です。子供の歌を超えたハイブリッド・スタンダードな曲になったなあと言いたいくらい。これはもう生命の讃歌です。

 

 

—-encore—-

Ask me why

映画『君たちはどう生きるか』から久石譲本人が奏でる珠玉のピアノ曲、スペシャル・サプライズでした。7月14日映画公開からちょうど一週間後という奇跡の選曲にもびっくりしますが、この曲が何たるかをちゃんとわかっている観客も多かったことにもまたびっくりです。みんな公開が待ち遠しかった、すぐに映画館に足を運んだ証ですね。サウンドトラックは8月9日発売です。

一切の宣伝をしない、情報もいまだ少ない映画です。WDO2023はライブ配信は叶いませんでしたが、しっかり収録用のカメラもマイクもありました。時期をずらして年末あたりにでも配信や放送があるといいなと切望しています。そのときには映画の情報もだいぶん広まっているでしょうし、「アンコールでこの曲やったんだ!!」というのがもっともっと奇跡的なうらやましいトピックとして広まっていることでしょう。映画ロングランを盛り上げる相乗効果ともなることでしょう。祈っています!

 

ウェブレポートにはこんな舞台裏な情報も。

”アンコールの1曲目、久石がピアノで弾いたのは公開中の映画『君たちはどう生きるか』(宮﨑駿監督)の楽曲。コンサートでの演奏は初めてで、なんと初日の東京公演では出演者、スタッフが誰も知らされてなかったサプライズ。映画を観たであろう観客が感激のあまり涙をぬぐう姿もあった。”

 

 

World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra

WDOのテーマ、その歌版が披露されたのはWDO2015以来でしょうか。そのときのプログラムは合唱付きの「風の谷のナウシカ」や「The End of the World」でした。歌詞は麻衣さんによるもの。音符ひとつひとつに丁寧に歌われる言葉ひとつひとつが胸に響いてきます。2011年「西本願寺音舞台」で初演されたときには、へぇー歌になったんだ!という驚きと新鮮さだったかもしれません。そして今、世界や社会、自分の身近な日常までも見渡してみたときに、より切実に迫ってくるもの、より切実に願いたい何かを感じたように思います。オーケストラと合唱が拮抗する重厚さと広がりはホールでしか味わえません。あらためて、人の声のもつ力を感じたコンサートの締めくくりでした。

 

 

 

忘れてはいけない。

僭越ながらしっかり物申させていただきます。

WDOファースト・シーズン、セカンド・シーズン、本当にありがとうございました!「毎年開催」という冠はなんだかレールを敷かれたような窮屈さとすぐに次の構想を練らないといけない切迫感と、常に休まるところのない状況下にあるようで…。久石さんのハイクオリティ精神とサービス精神はさらに拍車をかけるようで…。ほかにもFOC、MF、所属指揮者としての定期演奏会や特別演奏会、そして海外公演。引っ張りだこの中いつもWDOの夏を届けてくれてありがとうございます。

ファンにとっては、毎年夏のWDOはとてもスペシャルな一大イベントになっています。ない年がつづくととても寂しい。いつでもサードシーズン始められるようにファンは心待ち待機中に入ります。

”今年で8作目になりますが、「シンフォニック・ヴァリエーション・メリーゴランド」(「ハウルの動く城」)、「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」がすでにあるので、新作を除く全作完了です。つまりセカンド・シーズンも終了です。”

ここははっきり言わせてください。そんなことはないです!「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」もアルバム発表の2002年版とWDO2017などはオーケストレーションが進化しています。「かぐや姫の物語」もWORKSIVとWDO2018はオーケストレーションがより精緻になっていたと譲れません。「風立ちぬ」も久石譲inパリから『A Symphonic Celebration』版に至るまで改訂を続けているように追いかけています。「ハウルの動く城」もストーリーに沿った組曲化をするなら新たに組み込まれる楽曲があるのかもうれしい。「紅の豚」は?そして「君たちはどう生きるか」はどんな組曲になるのか予想もつきません!

”今年で8作目になる”その8作品をみても、これからますますの再演を希望します。その年のWDOに行けなかったファン、そして新しいファンもたくさんいます。スタジオジブリ作品交響組曲シリーズは、作品によって、独奏楽器・ソリスト・合唱など、なかなかふつうのコンサートではプログラムできないフルスペックなフルオーケストラです。WDOでやらなくてどこできる?! やるならツアーでやるくらいじゃないと!! そんな大所帯の結集です。

WDOの来ない夏なんて!ひとつとして同じ夏はないように、どんなコンサートもファンにとっては喜びと楽しみの一期一会です。必ずまたきっと戻ってきてください。WDOコンサートに行くことは、ファンにとってファンの証にまでなっています。

 

 

むすび。

会場でお会いできた皆さん、ご一緒できた皆さん、ありがとうございました。とても楽しい時間でした。SNSでの匿名性のつながりが心地よいときもあります。でも、実際にお会いするだけで親近感やつぶやきの人間味すら増して感じるようになってくるから僕は好きです。自己紹介すらほぼすっ飛ばしてファン同士の安心感とうれしさだけで盛り上っています。自分の好きを語ることが自己紹介になるくらいほんと楽しいひとときです。

これからも少しずついろんな人にお会いできたらと思っています。コンサート前に行くことを事前にSNSで言うこともあるかもしれません。もしお近づきになれるチャンスがあったらよろしくお願いします。バッジプレゼントしています。

 

 

 

 

みんなのコンサートレポート!

正直に言っちゃうと、これはオーケストラやコーラスの皆さんが喜んでくれるだろうレポートです。ここまでしっかり聴いてくれてるんだ、と。スマホのカメラが3眼になったみたいに、豊かな解像度にびっくりします。

 

コンサートの時間をそのままエスコートしてくれるようなわかりやすさは定評あり。追体験できるおもしろさをぜひ。けっこう大切な記録です。

JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2023 愛知・名古屋公演(2023.7.22)
from Sho’s PROJECT OMOHASE BLOG 改 seconda

 

 

 

リハーサル風景

東京公演

名古屋公演

大阪公演

from 久石譲コンサート公式ツイッター
https://twitter.com/joehisaishi2019

 

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

名古屋公演(リハーサル/本演)

 

大阪公演(リハーサル/本演)

from 新日本フィルハーモニー交響楽団公式ツイッター
https://twitter.com/newjapanphil

 

大阪公演(合唱)

from 日本センチュリー交響楽団公式ツイッター
https://twitter.com/Japan_Century

 

 

公演風景/バックステージ

東京公演

名古屋公演

大阪公演

 

from 新日本フィルハーモニー交響楽団公式ツイッター
https://twitter.com/newjapanphil

 

 

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

Blog. 「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団×九州交響楽団 ジョイントツアー」コンサート・レポート【2/27 update!!】

Posted on 2023/02/22

2月16,17,18日、久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団×九州交響楽団によるジョイントツアーが福岡・大阪・一宮で開催されました。両楽団のシーズンプログラムから定期演奏会や特別演奏会のスケジュールにあたる3公演です。久石譲は2021年に日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者に就任して以来数多くの公演を行っていますが、このたび関西を越えて九州のオーケストラとの合同演奏会が実現!100名以上のラージオーケストラは大迫力と歓喜です。

 

 

2023.02.27 update
九州交響公式Facebookにアップされた写真7枚を追加しました。

 

 

特別演奏会 九響×日本センチュリー響

[公演期間]  
2023/02/16

[公演回数]
1公演
福岡・アクロス福岡 シンフォニーホール

 

日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #270

[公演期間]  
2023/02/17

[公演回数]
1公演
大阪・ザ・シンフォニーホール

 

久石譲、日本センチュリー交響楽団×九州交響楽団が奏でる 春の祭典 愛知特別公演 in 一宮

[公演期間]  
2023/02/18

[公演回数]
1公演
愛知・一宮市民会館

 

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:九州交響楽団/日本センチュリー交響楽団(合同演奏)
コンサートマスター:西本幸弘

[曲目] 
久石譲:Metaphysica(交響曲 第3番)

—-intermission—-

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」
マルケス:Danzón 第2番

—-encore—-
となりのトトロ

[参考作品]

久石譲指揮 東京交響楽団 『ストラヴィンスキー:「春の祭典」』

 

 

まずは会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

久石譲/Metaphysica(交響曲 第3番)

Metaphysica(交響曲第3番)は新日本フィル創立50周年を記念して委嘱された作品。新作は2021年4月末から6月にかけて大方のスケッチを終え、8月中旬にはオーケストレーションも終了し完成した。前作の交響曲第2番が2020年4月から2021年4月と1年かかったのに比べると約4ヶ月での完成は楽曲の規模からしても僕自身にとっても異例の速さだった。楽曲は4管編成(約100名)で全3楽章からなる約35分の長さで、この編成はマーラーの交響曲第1番とほぼ同じであり、それと一緒に演奏することを想定して書いた楽曲でもある。

Metaphysicaはラテン語で形而上学という意味だが、ケンブリッジ大学が出している形而上学の解説を訳すと「存在と知識を理解することについての哲学の一つ」ということになる。要は感覚や経験を超えた論理性を重視するということで、僕の場合は音の運動性のみで構成されている楽曲を目指した。

I. existence は休符を含む16分音符3つ分のリズムが全てを支配し、その上にメロディー的な動きが変容していく。

II. where are we going? は26小節のフレーズが構成要素の全て。それが圧縮されたり伸びたりしながらリズムと共に大きく変奏していく。

III. substance は ド,ソ,レ,ファ,シ♭,ミ♭の6つの音が時間と空間軸の両方に配置され、そこから派生する音のみで構成されている。ちなみにこれはナンバープレースという数字のクイズのようなゲームからヒントを得た。

久石譲

作曲/2021年 初演/2021年9月11日、東京

編成/フルート4(ピッコロ2持替)、オーボエ4(イングリッシュ・ホルン持替)、クラリネット4(E♭管クラリネット、バスクラリネット2持替)、ファゴット2、コントラ・ファゴット、ホルン6、トランペット4、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、ドラムセット、大太鼓、合わせシンバル、吊るしシンバル、小太鼓、トライアングル、タンバリン、クラベス、ウッドブロック、シェイカー、鈴、ボンゴ、タムタム、グロッケンシュピール、ヴィブラフォン、鐘、ハープ、ピアノ(チェレスタ)、弦楽5部

使用楽譜/未出版

(「月刊九響 2023年1・2・3月号」プログラムノートより)

 

*「春の祭典」「ダンソン第2番」の解説は割愛

*「春の祭典」「ダンソン第2番」の解説は九州交響楽団/日本センチュリー交響楽団がそれぞれ発行している冊子よりプログラムノートの音楽評論家・筆者は異なる

*「Metaphysica(交響曲第3番)」の編成は福岡公演で配布された九州交響楽団「月刊九響 2023年1・2・3月号」プログラムノートには明記

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

 

久石譲:Metaphysica(交響曲 第3番)

約35分の作品。2021年新日本フィルハーモニー交響楽団と世界初演して以来2度目の登場となります。「マーラー:交響曲 第1番」とプログラムを並べたこの作品は、楽器編成も同じように4管編成16型(約100名)を想定して書かれています。

「ストラヴィンスキー:春の祭典」はさらに上をいって5管編成16型です。わかりやすいところで言うと、テューバもティンパニも2奏者を必要としています。これらの楽器はふつう各オーケストラとも1奏者、なかなか楽団単体の演奏会にはあがらなさそうです。

 

~おさらい~ 16型は弦16型のことです。第1ヴァイオリン16人、第2ヴァイオリン14人、ヴィオラ12人、チェロ10人、コントラバス7-8人などと少しずつ減っていきます。単純に弦楽5部で約60人になりますね。

~おさらい~ 10型は弦10型のことです。第1ヴァイオリン10人、第2ヴァイオリン8人、ヴィオラ6人、チェロ4人、コントラバス2-3人などと少しずつ減っていきます。単純に弦楽5部で約30人になりますね。

弦16型と弦10型でなんとストリングス2倍近く違うんです。このポイントをおさえると数字も体感も変わってきます。

 

日本センチュリー交響楽団は現在2管編成10型のオーケストラを基本としています。まず「久石譲:Metaphysica(交響曲第3番)」をプログラムしたかったら客演を呼びたい。そして「ストラヴィンスキー:春の祭典」、そこへ九州交響楽団との合同演奏会が実現することにより単純2倍(違うけど)!テューバやティンパニも解決できる!そう、ジョイントコンサートだからこそのプログラムになっています。クラシックファンのあいだでも「春の祭典聴くの2回目」なんて声もレア感があることがよくよくわかります。「久石譲:Metaphysica(交響曲第3番)」でいうと、WDOや新日本フィルなど(同じじゃないか)大所帯なオーケストラでできる、貴重なプログラムだということはぜひ覚えておこう(だから行こう)。

会場ごとに聴いただけでも、ホールの反響・座席の場所などもあって、聴こえてくる音・強調される音が違ったりします。こんなところでこんな楽器鳴ってたっけ?と変わって聴こえてくることもたくさんあります。2度目となったこの作品は全体構成は同じだったと思います。もしかしたら改訂とはいわない範囲の細かい修正はあるのかもしれません。上のプログラムノートを見たときに、初演の編成にはなくて今回の編成にある楽器に「ボンゴ」が明記されていました。ただボンゴってラージオーケストラでその音を掴み取るのはなかなか難しい、舞台奥で視認も難しい。「ボンゴ」が記載ミスとかでなければ(失礼しました)、このたびその楽器は追加されている可能性はあります。それにともなうパーカッション群の微調整もあるのかもしれません。とにもかくにも複雑に構築された交響曲です。2回聴いたくらいでわかるわけないじゃないかわかられてたまるか。レコーディング版を届けられるまで、スコアが出るまで、答え合わせは楽しみに待ちたいと思います。

初演時の前回感想にはメモ程度のことを書いていました。興味あったら下にあります、そこに編成も明記しています。今回もさほど変わらず、むらなくこの作品について語ることはできず、印象に残った点だけ記します。だからこれを見ても作品の全体像はわかりません、いつか聴くチャンスをつかんでください。

 

I. existence
ライブ演奏では大太鼓のパンチがとても効いていてティンパニと合わせてすごかったです。パーカッション炸裂する第1楽章、リズムも旋律も入り乱れてカオスです。前回はマーラー交響曲とのプログラムもあってホルンのベルアップ(楽器を高く掲げて演奏する)もありましたけれど、今回はなかったかも気づけませんでした。舞台スペースもぎっしりですし。ちょっとしたフレーズやハーモニー感に「TRI-AD for Large Orchestra」を連想できたりもして、いつかその序曲と交響曲第3番を並べて聴いてみたいです。

II. where are we going?
きびしく美しい楽章です。急緩急をとる第3番で緩徐楽章ともいえるこの第2楽章の印象もまた変わりました。ストリングスの重厚さがすごい。第1楽章と第3楽章の激しさに挟まれて少し落ち着きそうな印象だったのに、後半の迫りくるエモーショナルパートも一層分厚く感じて、全3楽章ともに肩を並べるほどの力強さを感じました。これはうれしい。

中間部に弦楽四重奏(+パーカッション)になるパートは、「I Want to Talk to You」などにも見られる近年の久石譲特徴のひとつです。新しく取り入れたアプローチが、室内楽と交響曲をまたいでどちらにも採用されている。単旋律の手法が室内楽作品にはじまり交響曲第2番にまで取り入れられたように。作品を線で追える楽しさです。

III. substance
久石譲楽曲解説にもある基本モチーフが幾重にも炸裂する楽章です。強烈な印象を残します。個人的なヴィオラ贔屓を差し引いても、ヴァイオリンたちよりも一番休みなくそして起点となってずっと動いている勇姿を見ることができました。これが音源だけだときっとわからない。ぜひお気に入り楽器の勇姿をしかと見届けてほしいところです。

視覚的にもおもしろい発見があったので、ここではそこにフォーカスします。久石譲のオーケストラ・フォーメーションは対向配置をとっています。このおさらいは下リンクをご参照ください。

 

対向配置(左)、一般配置(右)

 

 

交響曲第3番の第3楽章でとくに目立ったのは、対向配置の上をいくオーケストレーションです。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが両翼に分かれている配置です(図1)。この作品に限ったことではないですが、第1ヴァイオリンの全員が同じ旋律を弾く以外にも、第1ヴァイオリンのなかで何パートかに分かれて違う旋律を演奏(例えばハモリ)したり、必要な人数分だけ演奏することもあります。

今回、扇のようにステージ奥から前方にかけて、各セクションが分かれて演奏するさまがありました(図2)。チェロまでやってたか自信はない。第1・第2ヴァイオリンとヴィオラは、各2パートくらいに分かれて速いパッセージの旋律をディレイするようにリレーしています。

同じように、ヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリンの順番だったと思う(図3)。今度は前方・中方・後方の分け方で速いパッセージをこだまさせるようにつないでいく。各3-4パートくらいだったと思います。そう、野球やコンサートで客席ウェイブが起こるような動きを弦楽で見ることができるんです。この動きに気づいたり魅了されたファンはきっといたはず。これから音源になって聴いたときには、なんとでも加工技術のある昨今驚かないかもしれませんが、生演奏の時点からこのステレオ感や立体的な音響をつくっているということは、ぜひおさえておきたいポイントです。

最後にもうひとつ気づくことがあります。(図3)をみると第1ヴァイオリンで4パートに分かれています。実際は4-5だったかもしれません。もしこれが弦10型だったら、、2人ずつくらいになって、たぶんフレーズが浮き立ってきません。弦16型だったら、4人ずつで演奏することができてバチッと鋭く鳴らせる聴こえる(16人=4パートx4人)。第2ヴァイオリンやヴィオラはさらに人数が減っていくから切実以下同文。ああ、弦16型を想定して書くということは、こういうことができる如何にも関わってくるのか、と震えた次第です。

 

対向配置 図1

出典:Daxter Music

対向配置 図2

対向配置 図3

 

 

「久石譲:Metaphysica(交響曲 第3番)」2021年新日本フィルハーモニー交響楽団との世界初演のライブ映像から第2楽章などが公開されています。次のチャンスを楽しみにしながら聴いてみてください。

 

 

世界初演レポート(2021)

 

 

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

めったにプログラムにあがらないことは上の編成規模で書きました。久石譲作品ではティンパニやテューバは1奏者でしたがここからは2奏者です。九州交響楽団・日本センチュリー交響楽団のファンや定期会員も多く集まるコンサート、反響もすごかったです。僕だったら、大迫力ですごかったです!くらいしか言えないところ、コンサート後のSNS感想もおのおの想い想いに賑わっていました。

今まで聴いたハルサイのなかで一番よかったとか、具体的なパートや楽器のところをさして感想があったり、とても楽しく眺めていました。なかには、久石譲交響曲とハルサイで同じアプローチをしているとか、クラシックファンからみた久石譲交響曲の解釈もあったりして、とても興味深かったです。自分にはない見方や聴こえ方を知れるっておもしろいです。

もし僕から何か追加で言えるとしたら、、『YAMATO組曲(男たちの大和)』や『坂の上の雲』もこのくらい派手にバーン!とやってほしいな、聴いてみたいな、以上です。

 

マルケス:Danzón 第2番

けっこう人気のある作品で楽しみにしていた観客も多かったみたいです。僕はこの公演のプログラム発表で知ったくらい、周りを見渡せば「やっぱりこの曲いいよね!」ホットな空気を感じました。序盤では第2ヴァイオリンらがまるでマンドリンやウクレレのような楽器の抱え方でピッツィカートを奏でていたり、視覚的にもラテンのおもしろさが伝わってきます。リズム音楽でありながら一本調子じゃない、めまぐるしく変わるテンポや転調そして展開に惹き込まれます。艶のある上品なラテン・クラシックは、聴かせどころのツボもいっぱい、構成もしっかりしていてクラシックファン納得なのもうなずける。シンフォニックなダンスでいうと「ウエストサイドストーリー」が有名ですが、ダンソンのほうがクラシカルな印象です。ヨーロッパの伝統ならハンガリー舞曲とかになるし、ラテンの伝統ならダンソンとかになる感じ。

久石譲指揮のリズムコントロールもいつもながら絶妙です。メロディ以外のパートを歌わせたり緩急自在。ラテンならではの軽快さのなかに、久石譲らしい重心の効いた弾力感のあるリズムはたまりません。バン!バン!じゃなくてバン!ぶぁん!

 

 

-アンコール-

久石譲:となりのトトロ

大編成だし「World Dreams」かクラシック音楽からかなと予想していたところ、なんととなりのトトロでした。演奏が始まった瞬間、そうか!「舞台 となりのトトロ 5冠」の祝福なのかもしれない、そんなふうにも思いました。ちょうどタイムリーにロンドンから飛び込んできていたニュース、久石譲もきっと喜んでいることでしょう。そうであってもそうでなくても、みんなが明るく笑顔になるお祭りのフィナーレにふさわしい一曲です。

ダブルティンパニだし『久石譲 in 武道館』を連想してしまうほどの大迫力、この演奏を聴けた観客はとても得した気分だと思います。今回のティンパニは左右対称に演奏していたのもおもしろかったです。下の写真の最後のほうを見たらわかるかもしれませんが、太鼓の配置が鏡のように反転しているんですね。だから左奏者が一番左を鳴らしているとき、お隣の右奏者は一番右を鳴らしています。おそらく太鼓の数が多いし振動や反響なんかの影響もあるのかもしれません。そういう動きが見れるだけでも楽しいです。

本公演は大掛かりな舞台配置もあって中央にピアノを置けるスペースはありません。中間部のピアノパートはオケ奏者です。いつもならピアノを弾いているその時に、久石譲指揮は第1ヴァイオリンの流れるような対旋律を「もっと聴かせて」と誘導するようにタクトを振っている姿も、なんだか貴重でうれしい。

 

 

2時間ぎっしりです。定期演奏会ベースの雰囲気と観客なのでなかなかスタオベまではいきませんが、それでもカーテンコールの拍手は演奏に負けないくらい大きいものでした。ハルサイやダンソンでブラボー言えないなんて、そんな観客も多かったかもしれません。その想いを拍手に力いっぱい込めていました。

久石譲コンサートは、ほかの公演に比べて若者層・女子層・カップル層・海外層が高いのは周知のことですね。大阪公演では、客席中央の通路なんかに補助席がずらっと並ぶほどの満員御礼でした。こういった客層をみながら、若い人が初めて聴けるジブリ音楽、海外観光客が来日期間の幸運で聴けるジブリ音楽、ああたしかに「となりのトトロ」はあってよかったと思います。

そして、それ以上に感じたこと。アンコールに違和感のないというリスナー空気感です。クラシックファンのSNS感想をみても「となりのトトロ」がそぐわないとか浮いてるみたいな感想を一切見なかった。ほら、クラシック通ならハルサイやダンソンの余韻のまま終わりたいみたいな、なんかありそうでしょ。ハルサイもダンソンも聴けてとなりのトトロまでこの振り幅がすごい、むしろそんな印象でした。これは久石譲指揮コンサートでしかできない最大の魅力です。選ぶクラシック・プログラムもいいし本家本元の自作も聴ける、そんな空気感に変化していると感じました。大切だからもう一回言いますね。プログラムの振り幅こそ久石譲指揮演奏会の魅力!バラエティに富む古典・現代・自作・映画を同じクオリティに高めて観客を大満足させてしまう!どうぞお見知りおきを。

久石譲交響曲第3番で堂々の幕開け!そしてハルサイ!ラテンも満載!大喝采!九州交響楽団×日本センチュリー交響楽団のジョイントだからこそできたプログラムはホント祭典。またやってほしい企画です。これからも久石譲指揮だからこそ振り幅いっぱいのコンサートを楽しみにしています。

 

 

ふたつの楽団が並ぶだけあってSNSも活発に発信してくれていました。ここでご紹介するリハーサル風景や公演風景のほか、楽団員リレーインタビュー動画や公演休憩時間の舞台早替え動画などもあります。盛りだくさんです。ぜひ好きなオーケストラのSNSをフォローチェックしてみてください。

 

リハーサル風景(福岡)

ほか

リハーサル風景(大阪)

公演風景(大阪)

ほか

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

リハーサル風景(福岡)1日目

2日目

3日目

当日 ゲネプロ

 

公演風景(福岡)

from 九州交響楽団 Kyushu Symphony Orchestra 公式ツイッター
https://twitter.com/KyushuSymphony

 

ほか 全10枚

from 九州交響楽団/Kyushu Symphony Orchestra 公式Facebook
https://www.facebook.com/TheKyushuSymphonyOrchestra

 

 

リハーサル風景(福岡)

 

公演風景(福岡)

 

リハーサル風景(大阪)

 

公演風景(大阪)

 

公演風景(一宮)

from 日本センチュリー交響楽団 公式ツイッター
https://twitter.com/Japan_Century

plus 日本センチュリー交響楽団 公式Facebook
https://www.facebook.com/JapanCentury

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

 

 

 

Blog. 「音楽の友 2022年12月号」久石譲×ニコ・ミューリー 対談内容

Posted on 2023/01/16

クラシック音楽誌「音楽の友 2022年12月号」(11/18発売)に久石譲×ニコ・ミューリーの対談が掲載されています。

 

 

対談
久石譲×ニコ・ミューリー

共鳴し合う二人が語る”作品が生まれるとき”

取材・文=片桐卓也

久石譲のナビゲートで”現代の音楽”を紹介するコンサート・シリーズ「ミュージック・フューチャー」の第9回公演が10月に東京の紀尾井ホールで開かれ、アメリカから作曲家のニコ・ミューリーと、彼の友人でヴィオラ奏者のナディア・シロタが招かれた。この公演のため来日中のミューリーと久石による対談をお届けする。

 

「ミュージック・フューチャー」ニコ&久石がともに新作を披露

2014年にスタートした〈久石譲プレゼンツ〉による「ミュージック・フューチャー」も2022年の秋、第9回目のコンサートを迎えた。これは「明日のために届けたい音楽」を作曲家・久石譲がナビゲートするコンサート・シリーズで、久石の最新作だけでなく、いま世界の最前線で活躍する作曲家の作品を集め、紹介するというユニークなコンサートである。そのために「Music Future Band」も創設され、気鋭の奏者を集めている。

第9回のコンサートだが、アメリカを中心に活躍するニコ・ミューリー(1981年生まれ)を招き、紀尾井ホールで2日間開催された。両日とも満員の聴衆を集めた。

第9回ではまず久石の「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」が、西江辰郎のエレクトリック・ヴァイオリン・ソロをフィーチャーして演奏された。これは「ミュージック・フューチャー」Vol.2で初演された作品である。その後、ニコ・ミューリー(p)とナディア・シロタ(va)による《Selection from the Drones and Viola》が演奏された。飛行機のエンジン音を聴いたときにそのアイディアを思いついたという作品は、それぞれの楽器が奏でるドローン(長く持続する音)をモティーフにした連作からの2曲を繋げて演奏したものだ。

後半には、今回のコンサートに合わせて久石が書いた《Viola Saga》と、これもニコ・ミューリーの新作《Roots, Pulse》が演奏された。前者は、もちろん今回のゲストであるシロタの演奏を前提に書かれた作品だが、協奏曲的な要素を持つ室内交響曲のようなイメージでもあった。ミューリーの新作はミュージック・フューチャーのアンサンブルのために書かれた作品で、作曲家自身によれば「快活vs抽象的」「前景vs背景」という二つの要素の葛藤のなかでの模索を表現しているという。実際に、一種シンプルなハーモニーの組み合わせが、次第に複雑化し、さらにアンサンブルの楽器それぞれの音色とリズムが溶け合い、さらには分解されて消えて行くというような、シンプルと複雑の間を縫うようなイメージの美しい作品だった。

その翌日、リハーサル前の時間に、久石&ニコの対談が実現したので、今回のコンサートに寄せる想いをうかがった。

 

ミューリー作品がきっかけに生まれた久石作品

ーお二人が知り合ったきっかけを、まず押してください。

久石:
第1回の「ミュージック・フューチャー」を開催するにあたり、現在の世界の音楽家がどんな音楽を書いているのか、膨大なリサーチを行いました。そのときにスコアを見て、とても印象に残ったのがニコ・ミューリーさんの作品《Seeing is Believing》で、それを第1回のコンサートで取り上げました。それは6弦のエレクトリック・ヴァイオリンを使った作品で、近藤薫(東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター)が初演してくれたのですが、実は日本にはその楽器がなかったので、アメリカから購入して使ったというエピソードがあります。それ以来、いつかは実際にニコさんと一緒にコンサートができたら嬉しいなという想いがあり、ようやく今回実現したのです。

ミューリー:
僕もほかの多くの音楽関係者と同じで、最初はフィルム・ミュージックの作曲家として久石さんの名前を知っていましたし、その音楽もよく聴いていました。そんなときに、久石さんから僕の作品を日本で演奏したいという連絡があったので、とてもびっくりして、かつ、嬉しかったのを覚えています。

久石:
彼の作品を演奏するためにエレクトリック・ヴァイオリンを購入したので、それを使って作品を書くことにもなりました。それが今回再演した「室内交響曲」ですが、そうした出会いがなかったら、この作品も書かれなかったかもしれないですね。

 

ヴィオラの個性をどう生かすか二人の考えは?

ー今回は、とくにヴィオラのソリストえあるナディア・シロタさんを招き、彼女のための作品を久石さんも書かれたわけですが、彼女とはどんなつながりがあったのですか?

ミューリー:
それは僕が説明しますが、彼女とはジュリアード音楽院時代からの古い、しかもとても親しい友人で、彼女のために数多くの作品を書いています。

久石:
そう、ニコさんの「ヴィオラ協奏曲」は彼女のために書かれた作品ですが、とてもすばらしい作品で、もちろん演奏もすばらしい。ニコさんを呼ぶなら、一緒に彼女も呼びたいとオファーしたのが今回のプロジェクトのスタートでした。

ーヴィオラという楽器はやはり地味な内声楽器という印象がありますが。

久石:
確かにそういうイメージはあるのかもしれませんが、オーケストレーションに気をつければ、ヴァイオリンにもチェロにもない個性を引き出せると思っていました。

ミューリー:
やはりヴィオラの音域が人間の声のそれに近いということは大きな要素だと思います。今回のコンサートでは、久石さんが彼女のために《Viola Saga》という新作を書いたのですが、この作品もそういうヴィオラの特性をよく理解して、非常に繊細に書かれた作品でした。それに久石さんの作品にはよく登場する和声感、それもいろいろな所に感じることができて、とても印象的でした。

久石:
いわゆるヴィオラ協奏曲というよりは、やはり室内アンサンブルとヴィオラのための管弦楽曲というイメージの作品になったと思います。

ミューリー:
久石さんがこのコンサート・シリーズのために組織した「ミュージック・フューチャー・バンド」の演奏もすばらしかったですよね。

ーニコさんの新作《Roots, Pulse》もとても興味深い作品でした。

ミューリー:
タイトルにもいろいろな意味を持たせているのですが、いわゆる基音となる低音=ルーツ、その上に展開されるリズムと色彩の変化というインスピレーションのもとで書かれた作品です。バンドのメンバーが見事に表現してくれました。実は今朝、ホテルのジムで過ごしていたときに、テレビで「芋」についての番組が流れていました。土の中で成長する芋もさまざまな形に曲りくねりますが、この音楽もまた同じように、さまざまに変型するルーツの上に音楽が展開されます。

久石:
おもしろいアイディアに満ちた作品でしたよね。一緒に作品を発表できて、本当によかったと思います。

(音楽の友 2022年12月号より)

 

 

目次

【特集】
●ショパン―その全魅力に迫る 演奏・作品・生涯・食
読者アンケート結果発表!!

【カラー】
●[News]パーヴォ・ヤルヴィ&ドイツ・カンマ―フィル コロナ禍を経て、来日決定!
●[連載]小林愛実ストーリー(5) 巻頭特別編(小林愛実/高坂はる香)
●[Report]トリトン晴れた海のオーケストラ&小林愛実(p)(越懸澤麻衣)
●[Interview]マリア・ジョアン・ピリス(p)― ふたたび日本のステージへ!(伊熊よし子)
●[Interview]アンネ=ゾフィー・ムター(vn)&パブロ・フェランデス(vc)― 愉悦の共演(中村真人)
●[Report]ロンドン交響楽団― サイモン・ラトルが音楽監督任期中、最後の来日(奥田佳道/池田卓夫/萩谷由喜子/山田治生)
●[Report]クラウス・マケラ&パリ管弦楽団― 世界を席巻する色彩の宝玉(那須田 務/長谷川京介)
●[Report]リセット・オロペサ(S)&ルカ・サルシ(Br) 世界屈指の絶唱に酔う(岸 純信)
●[Report]クリストフ・プレガルディエン(T) シューベルト「三大歌曲」を歌う(岸 純信/伊藤制子/那須田 務)
●[Report]新国立劇場《ジュリオ・チェーザレ》― 欧州で好評のプロダクションをもとに新制作(萩谷由喜子)
●[Report]神奈川県民ホール《浜辺のアインシュタイン》― 国内初の新制作上演(渡辺 和)
●[連載]わが友ブラームス(12)(最終回) ゲスト:坂入健司郎(指揮)(越懸澤麻衣)
●[連載]山田和樹「指揮者のココロ得」(7)(山田和樹)
●[連載]楽団長フロシャウアーかく語りき
●[連載]ショパンの窓から(19) ― ポーリーヌ・ガルシア=ヴィアルド(川口成彦)
●[連載]宮田 大 Dai-alogue~音楽を語ろう(7) ゲスト:植松伸夫(作曲家)(山崎浩太郎)
●[連載]和音の本音(28)― ラヴェルとみる夢I(清水和音/青澤隆明)
●[連載]マリアージュなこの1本~お酒と音楽の美味しいおはなし

【対談】
●久石 譲×ニコ・ミューリー~共鳴し合う二人が語る”作品が生まれるとき”(片桐卓也)

【News】
●ヨーヨー・マ(vc)「ビルギット・ニルソン賞2022」受賞(後藤菜穂子)

【特別記事】
●[Report]東京フィル《ファルスタッフ》
●[Interview & Report] アンサンブル・ウィーン=ベルリン―伝統ある木管五重奏団が来日(高山直也)
●[Report]辻井伸行(p)×三浦文彰(vn)による「ARKクラシックス2022」
●[Report]百花繚乱の響き―弦楽四重奏団コンサートレポート(渡辺和彦)
●追悼 一柳 慧(柿沼敏江/成田達輝/池田卓夫)
●[座談会] 明日の巨匠は誰だ」プレ座談会(小倉多美子)
●[Interview]千住真理子(vn)
●[Report]第91回日本音楽コンクール~全国から新進演奏家が集結(梅津時比古)
●[Interview]野平一郎(p・作曲)
【連載】
●池辺晋一郎エッセイ 先人の影を踏みなおす(33)水上 勉(1)(池辺晋一郎)
…ほか

【People】

【Reviews & Reports】

【Rondo】

【News & Information】

【表紙の人】
小林愛実(ピアニスト)(c)ヒダキトモコ

【別冊付録】
●コンサート・ガイド&チケット・インフォメーション
観どころ聴きどころ
(戸部 亮&室田尚子)

【特別付録】
Music Calendar 2023「はばたく日本の若手アーティスト」