Blog. 「音楽の友 2022年12月号」久石譲×ニコ・ミューリー 対談内容

Posted on 2023/01/16

クラシック音楽誌「音楽の友 2022年12月号」(11/18発売)に久石譲×ニコ・ミューリーの対談が掲載されています。

 

 

対談
久石譲×ニコ・ミューリー

共鳴し合う二人が語る”作品が生まれるとき”

取材・文=片桐卓也

久石譲のナビゲートで”現代の音楽”を紹介するコンサート・シリーズ「ミュージック・フューチャー」の第9回公演が10月に東京の紀尾井ホールで開かれ、アメリカから作曲家のニコ・ミューリーと、彼の友人でヴィオラ奏者のナディア・シロタが招かれた。この公演のため来日中のミューリーと久石による対談をお届けする。

 

「ミュージック・フューチャー」ニコ&久石がともに新作を披露

2014年にスタートした〈久石譲プレゼンツ〉による「ミュージック・フューチャー」も2022年の秋、第9回目のコンサートを迎えた。これは「明日のために届けたい音楽」を作曲家・久石譲がナビゲートするコンサート・シリーズで、久石の最新作だけでなく、いま世界の最前線で活躍する作曲家の作品を集め、紹介するというユニークなコンサートである。そのために「Music Future Band」も創設され、気鋭の奏者を集めている。

第9回のコンサートだが、アメリカを中心に活躍するニコ・ミューリー(1981年生まれ)を招き、紀尾井ホールで2日間開催された。両日とも満員の聴衆を集めた。

第9回ではまず久石の「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」が、西江辰郎のエレクトリック・ヴァイオリン・ソロをフィーチャーして演奏された。これは「ミュージック・フューチャー」Vol.2で初演された作品である。その後、ニコ・ミューリー(p)とナディア・シロタ(va)による《Selection from the Drones and Viola》が演奏された。飛行機のエンジン音を聴いたときにそのアイディアを思いついたという作品は、それぞれの楽器が奏でるドローン(長く持続する音)をモティーフにした連作からの2曲を繋げて演奏したものだ。

後半には、今回のコンサートに合わせて久石が書いた《Viola Saga》と、これもニコ・ミューリーの新作《Roots, Pulse》が演奏された。前者は、もちろん今回のゲストであるシロタの演奏を前提に書かれた作品だが、協奏曲的な要素を持つ室内交響曲のようなイメージでもあった。ミューリーの新作はミュージック・フューチャーのアンサンブルのために書かれた作品で、作曲家自身によれば「快活vs抽象的」「前景vs背景」という二つの要素の葛藤のなかでの模索を表現しているという。実際に、一種シンプルなハーモニーの組み合わせが、次第に複雑化し、さらにアンサンブルの楽器それぞれの音色とリズムが溶け合い、さらには分解されて消えて行くというような、シンプルと複雑の間を縫うようなイメージの美しい作品だった。

その翌日、リハーサル前の時間に、久石&ニコの対談が実現したので、今回のコンサートに寄せる想いをうかがった。

 

ミューリー作品がきっかけに生まれた久石作品

ーお二人が知り合ったきっかけを、まず押してください。

久石:
第1回の「ミュージック・フューチャー」を開催するにあたり、現在の世界の音楽家がどんな音楽を書いているのか、膨大なリサーチを行いました。そのときにスコアを見て、とても印象に残ったのがニコ・ミューリーさんの作品《Seeing is Believing》で、それを第1回のコンサートで取り上げました。それは6弦のエレクトリック・ヴァイオリンを使った作品で、近藤薫(東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター)が初演してくれたのですが、実は日本にはその楽器がなかったので、アメリカから購入して使ったというエピソードがあります。それ以来、いつかは実際にニコさんと一緒にコンサートができたら嬉しいなという想いがあり、ようやく今回実現したのです。

ミューリー:
僕もほかの多くの音楽関係者と同じで、最初はフィルム・ミュージックの作曲家として久石さんの名前を知っていましたし、その音楽もよく聴いていました。そんなときに、久石さんから僕の作品を日本で演奏したいという連絡があったので、とてもびっくりして、かつ、嬉しかったのを覚えています。

久石:
彼の作品を演奏するためにエレクトリック・ヴァイオリンを購入したので、それを使って作品を書くことにもなりました。それが今回再演した「室内交響曲」ですが、そうした出会いがなかったら、この作品も書かれなかったかもしれないですね。

 

ヴィオラの個性をどう生かすか二人の考えは?

ー今回は、とくにヴィオラのソリストえあるナディア・シロタさんを招き、彼女のための作品を久石さんも書かれたわけですが、彼女とはどんなつながりがあったのですか?

ミューリー:
それは僕が説明しますが、彼女とはジュリアード音楽院時代からの古い、しかもとても親しい友人で、彼女のために数多くの作品を書いています。

久石:
そう、ニコさんの「ヴィオラ協奏曲」は彼女のために書かれた作品ですが、とてもすばらしい作品で、もちろん演奏もすばらしい。ニコさんを呼ぶなら、一緒に彼女も呼びたいとオファーしたのが今回のプロジェクトのスタートでした。

ーヴィオラという楽器はやはり地味な内声楽器という印象がありますが。

久石:
確かにそういうイメージはあるのかもしれませんが、オーケストレーションに気をつければ、ヴァイオリンにもチェロにもない個性を引き出せると思っていました。

ミューリー:
やはりヴィオラの音域が人間の声のそれに近いということは大きな要素だと思います。今回のコンサートでは、久石さんが彼女のために《Viola Saga》という新作を書いたのですが、この作品もそういうヴィオラの特性をよく理解して、非常に繊細に書かれた作品でした。それに久石さんの作品にはよく登場する和声感、それもいろいろな所に感じることができて、とても印象的でした。

久石:
いわゆるヴィオラ協奏曲というよりは、やはり室内アンサンブルとヴィオラのための管弦楽曲というイメージの作品になったと思います。

ミューリー:
久石さんがこのコンサート・シリーズのために組織した「ミュージック・フューチャー・バンド」の演奏もすばらしかったですよね。

ーニコさんの新作《Roots, Pulse》もとても興味深い作品でした。

ミューリー:
タイトルにもいろいろな意味を持たせているのですが、いわゆる基音となる低音=ルーツ、その上に展開されるリズムと色彩の変化というインスピレーションのもとで書かれた作品です。バンドのメンバーが見事に表現してくれました。実は今朝、ホテルのジムで過ごしていたときに、テレビで「芋」についての番組が流れていました。土の中で成長する芋もさまざまな形に曲りくねりますが、この音楽もまた同じように、さまざまに変型するルーツの上に音楽が展開されます。

久石:
おもしろいアイディアに満ちた作品でしたよね。一緒に作品を発表できて、本当によかったと思います。

(音楽の友 2022年12月号より)

 

 

目次

【特集】
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【カラー】
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●[連載]和音の本音(28)― ラヴェルとみる夢I(清水和音/青澤隆明)
●[連載]マリアージュなこの1本~お酒と音楽の美味しいおはなし

【対談】
●久石 譲×ニコ・ミューリー~共鳴し合う二人が語る”作品が生まれるとき”(片桐卓也)

【News】
●ヨーヨー・マ(vc)「ビルギット・ニルソン賞2022」受賞(後藤菜穂子)

【特別記事】
●[Report]東京フィル《ファルスタッフ》
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●[Report]辻井伸行(p)×三浦文彰(vn)による「ARKクラシックス2022」
●[Report]百花繚乱の響き―弦楽四重奏団コンサートレポート(渡辺和彦)
●追悼 一柳 慧(柿沼敏江/成田達輝/池田卓夫)
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●[Interview]千住真理子(vn)
●[Report]第91回日本音楽コンクール~全国から新進演奏家が集結(梅津時比古)
●[Interview]野平一郎(p・作曲)
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●池辺晋一郎エッセイ 先人の影を踏みなおす(33)水上 勉(1)(池辺晋一郎)
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