Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2018」 コンサート・レポート

Posted on 2018/09/02

8月9日から8月21日まで国内9都市で開催された「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2018」コンサートツアー。9月9日中国公演も控えています。昨年につづきABふたつのプログラムを引き下げ、宮崎駿監督作品の楽曲を交響組曲にするプロジェクトは第4弾「千と千尋の神隠し」。さらには「交響幻想曲 かぐや姫の物語」、久石譲ミニマル作品も披露するなど、今年のW.D.O.も熱い夏。

予定プログラムが変更されたりAB会場が変更されたりと、珍しい慌ただしさは直前まで続きましたが、すべてはベスト・パフォーマンスのために!オール・プログラム久石譲作品は圧巻、各会場スタンディングオベーションで熱気と感動に包まれました。

 

 

まずは演奏プログラム・アンコールのセットリストから。

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2018
JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2018

[公演期間]  
2018/8/9 ~ 2018/9/9

[公演回数]
10公演
8/9 岩手・岩手県民会館 A
8/10 東京・サントリーホール A
8/13 岡山・岡山シンフォニーホール B
8/14 香川・レクザムホール B
8/15 大阪・フェスティバルホール B
8/17 群馬・ベイシア文化ホール A
8/19 石川・石川県立音楽堂 A
8/20 東京・サントリーホール B
8/21 東京・すみだトリフォニーホール B
9/9 中国・深圳湾体育中心(Shenzhen Bay Sports Center) B

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ

[曲目] 
【PROGRAM A】 All Music by Joe Hisaishi
[Minima_Rhythm]
Links
Encounter
DA・MA・SHI・絵

DEAD for Strings, Perc.,Harpe and Piano
1. D.e.a.d / 2. The Abyss ~深淵を臨く者は‥‥~ / 3. 死の巡礼 / 4. 復活 ~愛の歌~

—-intermission—-

[Melodies]
Dream More
The Path of the Wind 2018 *改訂初演
Kiki’s Delivery Service 2018 *改訂初演

Spirited Away Suite /「千と千尋の神隠し」組曲 *世界初演
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-encore—-
Oriental Wind 2018
World Dreams

 

【PROGRAM B】 All Music by Joe Hisaishi
[Minima_Rhythm]
Links
Encounter
DA・MA・SHI・絵

Symphonic Fantasy “The Tale of the Princess Kaguya” /交響幻想曲「かぐや姫の物語」

—-intermission—-

[Melodies]
Dream More
The Path of the Wind 2018 *改訂初演
Kiki’s Delivery Service 2018 *改訂初演

Spirited Away Suite /「千と千尋の神隠し」組曲 *世界初演
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-encore—-
Le Petit Poucet
World Dreams

 

 

さて、個人的な感想はひとまず置いておいて、会場にて販売された公式パンフレットより紐解いていきます。

 

PROGRAM NOTE

今年も「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2018」の夏がやったきた。
久石譲がプログラムの魅力を語った。

-開幕を飾るのは「Links」。

祝祭性があってメロディアスな曲。『ミニマリズム』というアルバムでロンドン・シンフォニーとレコーディングしたこともある評判の良い曲なので、1曲目に持ってきました。

-続く「Encounter」はもともと弦楽のために書かれた曲ですね。

エッシャーのだまし絵からインスピレーションを得た「String Quartet No.1」という4楽章からなる弦楽四重奏曲の第1曲目です。それを後に、長野のチェンバー・オーケストラのために書き直しました。リズミックで、ちょっとブラックなユーモアのある曲。マーラーもシューベルトの弦楽四重奏曲を弦楽合奏用に直していますが、厚くなる部分と、ソロの部分をうまく活かしてよりダイナミックに作っている。僕もそこが一番大事だと思っています。

-続いてAプロは「DEAD」組曲。折々で演奏されてきた大事な曲だと思いますが、改めてタイトルの意味も含めて教えていただけますか。

「DEAD」はもちろん「死」を意味しますが、そのスペルはディー(D) イー(E) エー(A) ディー(D)。これを音階に置き換えるとレ・ミ・ラ・レとなります。そのレミラレの4つの音だけで作った曲なんです。ある部分は非常に現代音楽的で不協和音の官能的な世界。一方、そのレミラレを使ったメロディアスな部分も出てくる。音楽的にいうとミニマル的なやり方とある種映画音楽的なアプローチが両方あるんです。両側に振り幅を持っていて、まとまりがあるのかないのか、絶えず疑問に思ってしまう一方、最も自分らしい曲でもあると言えますね。

-Bプロは「交響幻想曲『かぐや姫の物語』」。

昨年(2017年)、この曲をチェコのプラハで演奏した際、すごく反応が良かったんです。いかにも日本的、ということをやっていないのに、結果的にモダンな日本の美みたいなものを感じて喜んでくれた。その時にこの組曲は世界に通用すると思ったんです。それでぜひ今回再演しようと決めた矢先に高畑さんがお亡くなりになってしまいました。追悼という意味を込めて、今年は大切に演奏したいと思っています。高畑さんの書いた「わらべ唄」のメロディーも入っていますし、全部が僕の曲ではなくて、高畑さんとの共作だと思っています。

-最後は宮崎駿監督の作品を交響組曲にするシリーズ最新作『千と千尋の神隠し』より「Spirited Away Suite」。

アメリカのアカデミー賞長編アニメーション賞を獲った作品で、海外からも一番これを演奏してほしいという要望が強いんですよね。すごく強いのですが、なぜかチャレンジをずっと避けていた曲なんです。今年本格的に取り組んでみて、思った以上に激しい曲が多くて驚きました。人間世界から異世界に迷い込んで、千尋という名前が千に変わり、両親が豚に変えられたりする中で、様々な危機が来る。当然、音楽も激しくなるわけです。一方でこの作品には「六番目の駅」に代表されるような、現実と黄泉の世界の狭間が色濃く表現されている。宮崎さんが辿り着いた死生観が漂っている気がします。でもだからこそ生きていることが大事なんだ、ということをちゃんと謳っている。その思いが伝わればいいなと思っています。

久石譲

(「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2018」コンサート・パンフレット より)

*変更プログラムの楽曲紹介は掲載していません。

 

パンフレットには「久石譲☓高畑勲 映画と音楽、その”到達点”へ。」対談も収載されています。原典は2013年11月25日 読売新聞に掲載、その後書籍にも収められています。パンフレットは読みやすく再編集されたものになります。

 

 

 

さて、久石譲本人による楽曲解説で充分にコンサートの雰囲気は伝わると思います。補足程度に感想や参考作品、アンコールもまじえてご紹介していきます。

 

 

[Minima_Rhythm]

Links 【AB】
久石譲 ”Minima_Rhythm”(ミニマル・ミュージックの「Minimal」とリズムの「Rhythm」を合わせた造語)の代名詞ともいえる楽曲。変拍子のもつ独特のグルーヴ感と華やかな祝典序曲のような品格で人気があります。後半の重厚感と高揚感の加速は、やもすると感情的にテンポをあげたり横揺れしそうな演奏になるところを、あくまでもエモーショナルをおさえたところで迎える最高潮。楽譜でいう縦のライン、リズムや音粒をきっちりそろえることで到達しうるミニマル小宇宙。そんな演奏にしびれました。

久石譲 『ミニマリズム』

Disc. 久石譲 『Minima_Rhythm ミニマリズム』

 

 

Encounter 【AB】
ひとつのモチーフをもとに展開する楽曲。弦楽器のみで奏されるなか、主旋律の楽器を変えたり、ピッチカートなど奏法を変えたり、ユニゾンや合奏で厚みをましたり。それと並行して進行するミニマルのズレ。コンサート会場ならではの、音の前後左右、高低差、厚みや濃淡。決して聴きやすい楽曲ではないかもしれないけれど、おもしろいがつまった曲。

シューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」も、最小限に削られ磨かれた四重奏版と、マーラーが編成を拡大し編曲した弦楽オーケストラ版。オリジナルを損なわない核は保ちつつ、作品の新しい持ち味や可能性を引き出しています。久石譲自身による「Encounter」のふたつの版も同じことが言えます。それは「厚くなる部分と、ソロの部分をうまく活かしてよりダイナミックに作っている。僕もそこが一番大事だと思っています」と語っているところにも、追求したかったこと、具現化された自信や納得のようなものを感じます。はやく音源化されたものが聴きたい作品です。

Disc. 久石譲 『Minima_Rhythm II ミニマリズム 2』
*弦楽四重奏版収録

 

 

DA・MA・SHI・絵 【AB】
2009年以来の国内披露となったこの曲は、とても印象深いものでした。音楽構成はほぼ同じはずなのにとても新鮮に聴こえてくる。そのキーワードは、久石譲が推し進める”現代的アプローチ”ということになるのですが、それは久石譲本人が語ったものから後述します。

すべての楽器においてフレーズにおいて、きちんとそろえられた音粒。一音一音の大きさも長さも均等に、約8分の楽曲を緊張感を持続して奏しきる。圧巻のパフォーマンスでした。なかでも印象的だったのが、金管楽器によるロングトーン。曲の展開や転調するタイミングで、トランペットやトロンボーンが一つの音を長く持続して吹いています。これがすごい。あれ、こんなにインパクトあったかなと指折り数えていたら、4小節間ノンビブラートにまっすぐ吹きっぱなし。5拍子の楽曲なので、拍数にして20拍分。いま手で数えてみてもその長さがわかります。久石譲が指揮をしている姿を見ても、ここにすごく神経を使っていたのがわかるほどでした。あれ、こんなにアクセントになってたかなとCDを聴き返したところ、音が消えていく印象もあるでしょう、ロングトーンがはっきりと聴こえるのはそれぞれ3小節くらい。ロンドン・シンフォニーとのCD盤は、まさに演奏が踊っているような躍動感があります。そして、今回W.D.O.で披露されたアプローチはポーカーフェイス。オーケストラが自ら躍ることのない一歩引いたところ、決して躍ることを強要していない俯瞰な響き。だからこそ聴く人は思い思いに覚醒させられてしまう。神の視点のような演奏に鳥肌ものでした。ミニマルの啓示のような……ちょっと!早く!また!聴きたい。

久石譲 『ミニマリズム』

Disc. 久石譲 『Minima_Rhythm ミニマリズム』

 

 

ここまでの [Minima_Rhythm] コーナー、久石譲が語る”現代的アプローチ”とは・・・

 

「それともう一個あったのは、必ず自分の曲なり現代の曲とクラシックを組み合わせてるんです。これは在京のオーケストラでもありますね、ジョン・アダムズの曲とチャイコフスキーとかってある。ところが、それはそれ、これはこれ、なんですよ、演奏が。だけど重要なのは、ミニマル系のリズムをはっきりした現代曲をアプローチした、そのリズムの姿勢のままクラシックをやるべきなんですよ。そうすると今までのとは違うんです。これやってるオケはひとつもないんですよ。それで僕はそれをやってるわけ。それをやることによって、今の時代のクラシックをもう一回リ・クリエイトすると。そういうふうに思いだしたら、すごく楽しくなっちゃって、やりがいを感じちゃったもんですから、一生懸命やってる(笑)。」

「ワールド・ドリーム・オーケストラは新日本フィルさんとやってるやつなんですけど、これはもうベージック・エンターテインメントなんですよ。ですから映画だったり、それからやっぱり前半にはいくつかこういう音楽もあるんだよというのをお客さまに見てほしいから、ちょっとミニマル的なものがある。」

「一緒に考えるということですよね。たとえばミニマル系の現代曲をといっても、実は譜面どおりに弾くなら日本の人はうまいんですよ。すごくうまいんですよ、その通りに弾く。たぶん外国のオケよりもうまいかもしれない。だが、それを音楽にするのがね、もう一つハードル高いんですよね。たとえば、非常にアップテンポのリズムが主体でちょっとしたズレを聴かせていくってなると、リズムをきちんとキープしなければならない。ところが、このリズムをきちんとキープするっていうこと自体がすごく難しいんですよ。なおかつオーケストラになりますと、指揮者と一番後ろのパーカッションの人まで15メートル以上離れてますね。そうすると、瞬間的にザーンッ!だとかメロディ歌ってやるのは平気なんだが、ずっとリズムをお互いにキープしあわないと音楽にならないっていうものをやると、根底からオーケストラのリズムのあり方を変えなきゃいけなくなるんですね。もっとシンプルなことでいうと、ヴァイオリンを弾いた時の音の出る速度と、木管が吹くフルートならフルートが吹く音になる速度、ピアノはもう弾いたらすぐに出ますね、ポーンと出ますよね。みんな違うんですよ。これをどこまでそろえるかとかっていう。これフレーズによってもきちっとやっていかなきゃいけない。ところがこれって、そういうことを要求されてないから一流のオケでもアバウトなんですよ。だからミニマルは下手なんです。で、結局これって言われないと気がつけませんよね。0.0何秒でしょうね。こういうふうにもう全然違っちゃうんですよ。そういうことを要求されたことがない人たちに、いやそれ必要なんだよって話になると、自分たちもやり方変えなきゃいけなくなりますよね。で、その経験を積ませないと、この手の音楽はできない。ということを、誰かがやってかなきゃいけないんですよ。と思って、それでできるだけ、日本にもそういう人がいるっていうのを育てなきゃいけない、そういうふうに思ってます。」

Blog. TBSラジオ「辻井いつ子の今日の風、なに色?」久石譲ゲスト出演 内容紹介 より抜粋)

 

 

DEAD for Strings, Perc.,Harpe and Piano 【A】
1. D.e.a.d / 2. The Abyss ~深淵を臨く者は‥‥~ / 3. 死の巡礼 / 4. 復活 ~愛の歌~
13年ぶりにコンサート披露となった久石譲オリジナル作品。エンターテインメント業界で映画音楽やTVCM音楽の第一線を走りつづけた久石譲が「自分の作品を書きたい、自分の作品を残したい」と強い意志をもってうまれた2005年作品。昨年W.D.O.2017にて完全版として姿を現した「ASIAN SYMPHONY」よりも前に書かれた、現代作曲家・ミニマル作曲家という原点を強く追求しはじめたエポック的作品です。

今でこそクラシック音楽の指揮活動も活発で、近年オリジナル作品ではその語法や方法論も反映されている、と思います。と思っていましたが、今回改めてDEADを聴いて考えを改めました。レミラレの旋律やその音型は、第1楽章の冒頭で、ユニゾンつまりレミラレのフレーズを楽器を重ねて高低重厚感を増しながら堂々と4回くり返します。第2楽章では官能的に、第3楽章ではミニマル色を強く打ち出し、第4楽章ではレミラレが愛の歌旋律になります。同じモチーフ(主題)を楽章をまたいで登場展開させることを、クラシック音楽では循環主題といったりします。第1楽章では短調だった旋律が、第4楽章では長調に変化することで豊かにドラマティックになるチャイコフスキー作品などのように。

実はこのDEAD、初映画監督作品『Quartet/カルテット』の前に撮る予定だった映画のために書いた曲でもあります。つまり映画のように一貫したテーマ、映画音楽のようにイマジネーションをかきたてる、なんともくるおしい世界観。第3楽章でも途中に第4楽章愛の歌メロディが登場し、それを打ち消すかのようなミニマルの渦。

楽器編成も久石譲らしい前衛的なもので、この作品を表現するにはこれしかないと言えるほど。現代的な不協和音とミニマル・ミュージック、そして高々に謳いあげるメロディメーカー紡ぐ愛の歌。そう、久石譲のミニマルとメロディがもっともストレートに詰まった作品それがDEADです。「自分の作品を書きたい」分岐点となった第一作目で、現代作曲家としてすでに極まってるじゃないか!そう改めて見つめなおしながら聴き染みていました。もっと聴いてほしい、もっと演奏してほしい、久石譲オリジナル作品です。発表当時、これまでの久石譲イメージを覆すにたる衝撃を与えたCD盤は、本公演と同じ新日本フィルハーモニー交響楽団との共演でレコーディングされたものです。

 

久石譲 『WORKS3』

 

 

Symphonic Fantasy “The Tale of the Princess Kaguya” /交響幻想曲「かぐや姫の物語」 【B】
高畑勲監督追悼の想いもあるなか、実は当初から予定されていた、なにか運命的なものを感じるプログラムです。海外公演でも反応が良かったという久石譲コメントは、この作品が映像はもちろん音楽も世界に通用する、日本の誇れるものとして大きな手応えになったことがうかがえます。実際に、国内でも『千と千尋の神隠し』に勝るとも劣らない『かぐや姫の物語』への期待と喜びは、コンサート前から多くの声が飛び交い、コンサート後の感想でもそれは同じでした。

日本的な旋律を奏でながら、日本人が聴いても古めかしさを感じない、日本昔ばなしにならないのは、現代的で複雑な響きを散りばめた久石譲だからこそ。日本人が思い描く原風景、今でもたしかにある原風景のように、懐古だけではない受け継がれ生きつづける日本の象徴のようなもの、それを音楽にしているようです。「天人の音楽」も、日本人がイメージするあっちの世界を180度変えてしまうほどのインパクト、価値観の転換点となっていくのかもしれない。多くの日本人にとっても海外からみた日本においても。とんでもない大きなものを提起し遺した高畑勲☓久石譲。高畑勲監督の「わらべ唄」と久石譲の「なよたけのテーマ」が紡ぎ合う冒頭と終部は何度聴いても感慨深いものがあります。「超ドメスティックはインターナショナルになる」(久石譲)ことをまたひとつかたちにした記念碑的作品です。

 

 

 

 

[Melodies]

Dream More 【AB】
サントリー「ザ・プレミアム・モルツ・マスターズドリーム」CM曲。ノスタルジックなメロディと味わいのある多重奏をコンセプトに作られた楽曲は、コンサートでオーケストラ版が幾多披露される新しい定番曲となっています。久石譲の旬が詰まった楽曲は、華やかでリズミカルでありながら中間部には優美なヴァイオリンソロも堪能できる、聴かせどころの多いところも魅力。切れ味のいいオーケストレーションはソリッドで、リズムを担うパートはとても緻密で複雑。たとえばメロディの後ろで刻むリズム的フレーズも、フレーズとしてはひとかたまりなんだけれど、細かく見聴きすると高中弦楽器から中低弦楽器へスムーズに受け渡すようになっていたり。しかも細かい休符をはさんだリズミックなフレーズを軽やかに。メロディは優雅に歌うように流れていくなか、バックではかなり難易度の高いことを要求されている楽曲なのかもしれません。久石譲がこの作品で追求していることは、メロディアスをまといながら、音楽構成におけるリズム・演奏におけるリズム、とことんリズムを追求しているような気がしてきます。エンターテイメントの顔を装いながら、音楽的にやりたいことが実現できている。ゆえに近年の定番曲なのかもしれませんね。LiveCD盤として収録された2015年の演奏よりも、テンポをあげたものが定着しオーケストレーションも精巧に修正されている。ぜひCDとW.D.O.2017スカパー!TV放送版を聴き比べてみてください。このふたつ、30~40秒間くらい違います。

 

 

The Path of the Wind 2018 【AB】
ピアノとヴァイオリンを基調に弦楽オーケストラが包みこむ「風のとおり道」。久石譲の弾き振り(ピアノを弾きながら指揮もする)も奏者たち音たちに緊張感と楽しさをリードしているようでした。映画『となりのトトロ』のもうひとつのテーマとして人気高いこの曲、こんなにも新しく生まれ変わるんだ!というほどの衝撃と新鮮さでした。とりわけストリングスのオーケストレーションがすばらしい。とても現代的でここまでくるともうそれは芸術の域。大きいくすの木が風に吹かれて揺れている音、そんなイメージが浮かびます。

 

「久石さんの音楽で僕が感心したことがあるんです。それは『となりのトトロ』で「風のとおり道」という曲を作られたのですが、あの曲によって、現代人が“日本的”だと感じられる新しい旋律表現が登場したと思いました。音楽において“日本的”と呼べる表現の範囲は非常に狭いのですが、そこに新しい感覚を盛られた功績は大きいと思います。」(高畑勲)

高畑勲監督が絶賛していたこの曲を、W.D.O.2018でプログラムすることも、なにか想いがあったのかもしれません。ツアー期間中8月9日にTV NHK「ジブリのうた」でも五嶋龍さんとのピアノ&ヴァイオリン版をうっとりするくらいの極上デュオで聴かせてくれました。2018版は同じ構成をベースにしながらも、コンサートマスター豊嶋泰嗣さんとのかけあいに、新しいストリングスの調べ。決してデュオ版が物足りなくなるとかではないんですね。こんなにもとびきりプレゼントをふたつももらっていいんですか!そんな気持ちです。

 

 

『Melodies for Piano and Strings』(仮・夢盤)、昨年のW.D.O.2017でも披露されたピアノ&ストリングス・コーナー、【mládí】「Summer」「HANA-BI」「Kids Return」、【Hope】「View of Silence」「Two of Us」「Asian Dream Song」、そして今年の「The Path of the Wind 2018」。こんな名曲たちが一枚のアルバムに集ったら……『Melodyphony』に匹敵するんじゃないか! ベストアルバム的な選曲はもちろんですが、久石さんの熟成された今のピアノ演奏、久石さんの現在進行系が色濃いストリングス。シンフォニーをコンセプトにした『メロディフォニー』とはまたひと味もふた味もちがう『Melodies for Piano and Strings』夢盤です!

 

 

Kiki’s Delivery Service 2018 【AB】
映画『魔女の宅急便』から「海の見える街」フルオーケストラ版。『WORKS IV』(2014)に収録されたヴァージョンはクラシカルにヨーロッパに、2018版は管楽器やパーカッションがより活躍するゴージャスなものに。中間部のスウィングするパートはジャジーさが増し、ホーンセクションやドラムスのシンバルが印象的でした。少し大人になったキキがパーティーを楽しんでいるような新しい魅力です。カスタネットやタンバリンも前面に押し出したスパニッシュさに、『ロシュフォールの恋人たち』や『ラ・ラ・ランド』『美女と野獣』のようなミュージカル・タッチの雰囲気も。そうミュージカル映画のワンシーンのよう。華やかで大人の魅力つまった魔女の宅急便でした。アメリカを向いているというのかな、久石譲音楽とミュージカルがつながったことは新鮮な驚きで、、ちょっとこれはこの先これがこうなってああなったら、、おもしろいなあ、いやそんな可能性もあながち、、(うまく言葉にできない)。ミュージカル音楽だけが持ち得る歌心・華やかさ・優美さ・ドラマティックさ・リズム感ってあると思うんです。セリフ歌のかけあいとかもそう。そういったものがこの楽曲から感じとれるとは!どこまで新しい魅力を秘めているんだろう。現代の室内交響曲にも通じるような、斬新で遊び心ある活き活きした音づくり、あっという間のひとときでした。

 

 

”2018” 楽曲について・・・

”2018”と銘打って演奏された「The Path of the Wind」「Kiki’s Delivery Service」「Oriental Wind」。キーワードは ”ソリッド” ”現代的なリズミック” 。近年の音楽活動をみたときに、ミュージック・フューチャー・コンサート、ナガノ・チェンバー・オーケストラ、これらの創作活動や指揮活動がなければ生まれなかったヴァージョンだったんじゃないかなと思っています。モダンなストリングス・オーケストレーションは、これまでのエンターテインメント音楽で施してきたものとは一線を画する「The Path of the Wind」、現代の室内交響曲のように固定概念にとわられない遊び心つまった「Kiki’s Delivery Service」、メロディや伴奏をリズミックに配置して新鮮味をあたえた「Oriental Wind」。この3つの作品で表現された音楽は注目です。2018版での実験や進化は、きっと次の作品につながってくるはず。そうワクワクしています。

 

 

Spirited Away Suite /「千と千尋の神隠し」組曲 【AB】
今年のW.D.O.は“あの夏へ”がやってくる。──このキャッチコピーのとおり、目玉となるジブリ交響作品化シリーズ第4弾。2001年映画公開年に組曲化した「Super Orchestra Night 2001」収録版を遥かに超える完全版が巨大な姿を現しました。多種多彩な音楽を盛り込んだオリジナル・サウンドトラック盤から、ストーリーにそって展開される組曲。「あの夏へ」「夜来る」「神さま達」「湯屋の朝」「底なし穴」「竜の少年」「カオナシ」「6番目の駅」「ふたたび」「帰る家」映画のシーンを象徴する10楽曲です。今、このサントラ楽曲たちをプレイリストで一気に流してみても圧巻ですが、フルオーケストラ版でヴァージョンアップした組曲は、まさにオーケストラのフルスペック。映像化・音源化されるその日まで多くを語ることができません。海外からも一番要望の強い作品、きっとこれを聴いたら度肝を抜かれでしょう。

強く思ったこと。ファンタジー音楽の金字塔。たとえば『ハリーポッター』が西洋ファンタジーをうまく表現していたときに、『千と千尋の神隠し』は東洋ファンタジーとして誇れるものです。映像と音楽を切り離しても『ハリーポッター』は西洋ファンタジー音楽の魅力がつまっています。同じように『千と千尋の神隠し』は東洋ファンタジー音楽の象徴のようです。これってすごいことだな、と改めて思ったわけです。ファンタジーならではの夢・異世界・冒険・活劇・希望。ここに日本やアジアのエッセンスを見事に盛り込んでファンタジー音楽にしている。日本のアニメーションはすごいと言われます。でも、あえて言うなら、もっと大きな枠でファンタジーと言ってもいいんじゃないか。海外からも一番要望の強い作品、それは宮崎駿作品だから、日本アニメーションだから、それだけかな、ファンタジーとして評価されているんじゃないかな。そして久石譲が築きあげた音楽は、東洋ファンタジー音楽の象徴として熱望されているんじゃないかな。実写やアニメーションという枠をとっぱらって。そんなことを強く思いました。だから僕は、『千と千尋の神隠し』音楽はファンタジー音楽の金字塔、と言いたい。

”あの夏へ”にはじまり”あの夏へ”におわる。久石譲ピアノにはじまり久石譲ピアノにおわる。”One Summer’s day”のメロディは世界中のファンをうっとり魅了します。ピアノの音がゆっくり空気に包まれていく余韻まで、久石譲が鍵盤から指をはなして静止した数秒間まで。日本の”間”をたっぷりと感じとってほしいエンディングです。

久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

 

 

—-encore—-

Oriental Wind 2018 【A】
「サントリー緑茶 伊右衛門」CM曲としておなじみの楽曲。久石譲代名詞のひとつ。余談ですが、「伊右衛門も久石譲だったのか」という声を耳にすることも少しだけ増えたように思います。時間の流れを感じると同時に、それは今でも現役バリバリに多くの曲を送り出しているからでもあります。ということでここらで一発!この楽曲も映像化・音源化してほしかった(過去形ではないんですが…)。2004年発表当時から一貫したそのメロディは、2018年CM版では旋律配置や変拍子を巧みに交錯させ、安心する懐かしさにみずみずしい新鮮味を与えてくれます。爽やかなCMヴァージョンが2コーラス奏され(1コーラス目ピアノメロディ~2コーラス目フルートメロディ)、「WORKS III」オーケストラ版イントロへ。中間部のサクソフォンパートはカットし、転調してクライマックスへ。現代的なアプローチで進化した2018版。そのCMヴァージョンが聴けたのもうれしいですが、中間部をカットしたこともあり「タリラリラ~ン」のメロディが始まりから終わりまで怒涛のようにたたみかけてきます。美味しいヴァージョンです。

久石譲 『WORKS3』

 

 

Le Petit Poucet 【B】
2001年フランス映画『Le Petit Poucet』(邦題:プセの冒険 真紅の魔法靴)からメインテーマ。日本未公開DVD化されている映画ですが、まさかこの曲が!と往年ファンの心をくすぐる隠れた名曲です。いくつかのCDにそれぞれのヴァージョンが収録されています(「Super Orchestra Night 2001」「パリのアメリカ人」他)。本演アンコールで演奏されたのはオリジナル・サウンドトラック盤に近かったかなと思います。Track-2. Le Petit Poucet (Main theme) の前半 ~ Track-17. “La lune brille pour toi” (Générique de fin) の後半で構成されたようなフル・オーケストラ版。ザ・久石メロディともいえる美しい曲ですが、ハーモニーが独特でどこか異国情緒を漂わせています。『千と千尋の神隠し』も2001年作品、同時期の作品としてなにか共鳴するものがあったのか、驚きと喜びのサプライズ選曲でした。

Le Petit Poucet (プセの冒険 真紅の魔法靴) オリジナル・サウンドトラック

 

 

World Dreams 【AB】
2004年「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ」発足に合わせて書き下ろされた曲。まさにW.D.O.コンサートのテーマ曲ともいえる大切な一曲です。毎年演奏されながら全公演で演奏されながら、CDの焼きましにはならない一期一会の音楽。キメにいくところで長くたっぷりとタメたり、悠々と高々に謳いあげたり、その会場だけのとっておきの演奏。ツイッターなどを見ても「毎年、4年ぶり、十数年ぶり」、コンサートに足を運ぶ頻度は違えどこの曲には必ず出会える。「音楽と記憶は直結する」と言ったのは久石譲。まさにW.D.O.コンサートの思い出づくりには欠かせないギフトです。

当初予定されていた「World Dreams I,II」は見送りとなりました。とても残念です。でも、そういう構想があるんだ!そんな進化する可能性を秘めているんだ!、それがわかっただけでもファンとしては胸躍るうれしさです。いつの日か、満を持して世界初演される日を夢みて、未来への楽しみがまたひとつふえました。

久石譲 『WORLD DREAMS』

 

 

 

今年も昨年につづきコンサート・パンフレット&CDのセット販売。CDは慣例化しつつある前年W.D.O.コンサートの音源化。今終わったばかりのコンサート余韻にひたりながら、一年前のコンサート感動が甦ってくる。もちろんコンサートには行ってなくても、久石譲音楽を日常に持って帰れる。各会場販売コーナーは長蛇の列で大盛況、SNSでパンフレットと一緒に感動を投稿している人も年々増加傾向にあるようです!

 

お礼が最後になってしまいました。

ツアーコンサートだからこその膨大ツイートをランダムに集めさせてもらいました。期待と感動の勢いそのままに封じこめられた久石譲音楽への溢れる想い。圧巻のツイート・スタンディングオベーション!

 

ファンサイトではコンサート・レポートも募集、とても具体的な楽曲解説と臨場感あふれる感想を届けてくれました。コンサートでもらった感動を!コンサートのありがとう!を。久石さんや新日本フィルのみなさんへめぐりめぐって届きますように。こんな輪がもっと広がって感動や感想が刻まれていきますように。

 

 

新日本フィルハーモニー交響楽団公式ツイッターでは、ツアー期間中会場ごとのコンサート風景やリハーサル風景がリアルタイムに写真付き公開されていました。毎日楽しみにしていた人も多いと思います。コンサート日を待ち遠しく指折り数える人、コンサートの感動に包まれる人。速報性のあるSNSならではのうれしい演出です。

リンク先:新日本フィルハーモニー交響楽団 公式ツイッター

 

 

またオーケストラ楽団員からみたコンサート、これもまたツアー期間中発信されていました。普段は知ることのできない貴重な準備過程や、コンサートで感じたことなど。いくつかチョイスさせてもらいました。好きな楽器や奏者の方から、音楽の楽しみを広げるのもいいですね。

 

荒川洋(フルート)
https://twitter.com/nekoranpa2/status/1027915015880245248

https://twitter.com/nekoranpa2/status/1028979562783301633

https://twitter.com/nekoranpa2/status/1029377001520414720

https://twitter.com/nekoranpa2/status/1029644144455471106

https://twitter.com/nekoranpa2/status/1030018847024144386

https://twitter.com/nekoranpa2/status/1030425857582452736

https://twitter.com/nekoranpa2/status/1031105246531969024

https://twitter.com/nekoranpa2/status/1031527662668283904

https://twitter.com/nekoranpa2/status/1031531513853009921

https://twitter.com/nekoranpa2/status/1031914804791762945

 

高橋ドレミ(ピアノ/チェレスタ)
https://twitter.com/si_doremi21/status/1026818020826443776

https://twitter.com/si_doremi21/status/1031935562813329415

 

石川晃(ファゴット)
https://twitter.com/fg_akira/status/1031097266793107456

https://twitter.com/fg_akira/status/1031525319289626624

 

 

映像収録も音源収録もしっかりとされていたコンサート。次の朗報が待ち遠しいですね!

 

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