Disc. 久石譲 『WORKS III』

2005年7月27日 CD発売 UPCI-1027

 

世紀をまたいで終結を迎えたDEAD

今回のコンサートのために書いた組曲「DEAD Suite」は、僕がクラシック、現代音楽の世界から離れて19年ぶりに書き上げた楽曲だ。DEAD-英語音名で言う「レ・ミ・ラ・レ」をモティーフにして作曲された楽曲だ。いささかポップスのフィールドを逸脱したかもしれないが、20代後半にポップスの世界に転向して以来、初めての本格的な現代音楽作品になる。リズムが変わり、不協和音ぎりぎりのところで構成されたこの楽曲は、なぜ今まで自分が音楽をやってきたのか? を問い詰めながら、今世紀末のひとつの区切りとして僕にとって通らなくてはいけない道、なくてはならない楽曲となった。最終的には4曲から成り立つ組曲を考えているが、今回のコンサートで披露できるのはその内2曲までになる。後は、来年書き足そうと思っている。

久石譲 (PIANO STORIES ’99 ツアーパンフレットより)

 

 

夜中に、ふと思う。自分がなぜ今まで音楽をやってきたのか?
20世紀末にも確かにこの疑問にたどり着いた。
「DEAD」。あの未完成な組曲を完成させなくては・・・・
そんな思いに掻き立てられ、一気に書き上げた。
なぜ今DEADなのか・・・・
このツアー中に僕自身が「深淵」を臨くことになるのだろうか。

 

Deadのモティーフは「死」だ。
誰にも訪れる「死」を考えることは「生」を考えることでもある。
「生きる」ことの基本は「愛」だ。
幸福を求めるその先には「愛」がある。
だからこの作品は「愛」を唄った音楽でもある。

久石譲

 

 

「WORKS III」解説より

DEAD-英語音名で言う「レ・ミ・ラ・レ」をモティーフにして作曲された楽曲。初映画監督作品「カルテット」の前に撮る予定だった映画のために書いた曲でもある。第一楽章、第四楽章は、99年「PIANO STORIES ’99」ツアーで、弦楽四重奏Balanescu Quartetと共演し、アルバム「Shoot The Violist~ヴィオリストを撃て~」にも収録されている。今年7月に発売された「WORKS III」にて、第二楽章、第三楽章を書き足し弦楽オーケストラ組曲として完成した。

第一楽章 「D.e.a.d」
普遍的なテーマへの旅立ちに対する不安や恐怖、期待が入り混じった壮大なオーケストレーションによる刺激的な音楽。

第二楽章 「The Abyss~深淵を臨く者は・・・・~」
ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」に代表される哲学的なバックグラウンドを持つこの組曲にふさわしいタイトルで、官能的な響きが大きなキーワードになった。

第三楽章 「死の巡礼」
一貫してミニマル・ミュージックにこだわってきた久石譲ならではのミニマル色が強く打ち出されている。

第四楽章 「復活~愛の歌~」
ぎりぎりの不協和音と協和音の間で揺れるメロディに至っては、心地よい疲労感にも近い感動すら覚えるほどだ。

今回第二、第三楽章が加えられたことで、クリエイティヴなテーマがさらにディープに進化しているし、底知れぬイマジネーションの世界は映像的でもある。いつか映画が完成する可能性もあるはずで、この組曲の次のアプローチに注目したい。

村岡裕司

(「久石譲 Symphonic Special 2005」コンサート・パンフレット より)

 

 

CD解説

映画音楽家として活動する時の久石譲は、つねに映像と真剣勝負をするストイックなクリエーターとしての姿勢を崩さないが、一人の音楽家としてレコーディングやコンサートに臨む際の氏は、映画をきっかけにした曲にしてもオリジナル曲にしても、アーティストとしての底知れぬ可能性を謳歌するように新しい創造に立ち向かう。きっとその創造の裏側には、生みの苦しみがあるのだろうが、幸運にも彼の作品を聴く側にいる我々は、音楽を聴いて楽しみ笑い泣き、時には勇気付けられたりして、久石ミュージックと旅に出ることが出来る。これまで久石譲が発表してきた数々のソロ作品が支持されてきたのは、マルチなキャリアを積んでいる氏の音楽が、妥協を許さない創作姿勢を貫いているからだろう。

久石ワールドを伝える『WORKS』シリーズの第3弾となるこの新作は、現在の彼の音楽を満喫するには十分すぎるほどの魅力を凝縮させた豪華な内容となった。CMでおなじみの「Oriental Wind」にメガ・ヒット作『ハウルの動く城』から生まれた名曲「人生のメリーゴーランド/Merry-go-round」、久石譲の大きなテーマを包含した組曲「DEAD」、バスター・キートンのハリウッド・クラシックに新たに音楽を加えるというユニークな手法による「THE GENERAL」という、4つの異なるアプローチから生まれた音楽で構成されている。現在の久石譲の多面的な創作を知る上でも非常に興味深いコンセプトだ。

アルバムのハイライトとなるのは、組曲として全貌を明らかにした「DEAD」である。

元々は『Quartet』(2001)に先駆けて氏の監督第一作に予定されていた映画のために、第1楽章と第4楽章は書かれたもので、5年前にバラネスクカルテットと共に弦楽四重奏&ピアノの編成で全国ツアーをまわった。『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』(2000)にも収録されたが、組曲としては未完だった。それが2005年に入って、新たに第1楽章「D.e.a.d」第2楽章「The Abyss 〜深淵を臨く者は・・・・〜」と第3楽章「死の巡礼」第4楽章「復活~愛の歌~」という形で組曲として完成したものである。タイトルの「DEAD」は英語の階名”レ、ミ、ラ、レ”を示していて、このユニゾンのフレーズの提示に従って音楽も構成されている。後期ロマン派から近代にかけてのスタイルを取り入れ、ミニマル・ミュージック的な表現を行うなど、久石譲の幅広い音楽的なバックグラウンドが投影された。もちろん、モチーフは”人間の死”であるが、”人間はどこから来てどこにいくのか、いつか死ぬことは決まっているが、生きている間に感ずる人間に対する愛”についても重要なモチーフになっている。

既に発表されている「D.e.a.d」と「復活~愛の歌~」は、今回初の試みとしてストリングス・オーケストラ用にアレンジが行われ、組曲としての一貫性が強調された。「D.e.a.d」は普遍的なテーマへの旅立ちに対する不安や恐怖、期待が入り混じった壮大なオーケストレーションによる刺激的な音楽。続く「The Abyss 〜深淵を臨く者は・・・・〜」は、ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」に代表される哲学的なバックグラウンドを持つこの組曲にふさわしいタイトルで、官能的な響きが大きなキーワードになった。「死の巡礼」は一貫してミニマル・ミュージックにこだわってきた久石譲ならではのミニマル色が強く打ち出されている。ぎりぎりの不協和音と協和音の間で揺れるメロディによる第4楽章の「復活~愛の歌~」に至っては、心地よい疲労感にも近い感動すら覚えるほどだ。今回第2と第3楽章が加えられたことで、クリエイティヴなテーマがさらにディープに進化しているし、底知れぬイマジネーションの世界は映像的でもある。いつか映画が完成する可能性もあるはずで、この組曲の次のアプローチに注目したい。

他の曲もこのアルバムのコンセプトに欠かせない重要な作品ばかり。オープニングの「Oriental Wind」は記録的なセールスになったサントリー緑茶「伊右衛門」のCMソングとして親しまれているナンバーである。メロディメーカーとしての氏の才能が発揮された。CFの映像やタイトルが示しているように、日本人のテイストを触発するエモーショナルなメロディラインが強烈な印象を与えた。先に発表された『FREEDOM PIANO STORIES 4』では、ピアノによるアコースティック・ヴァージョンが収録されていたが、ここではオーケストラによる重厚なシンフォニーになっている。瑞々しいメロディを基調とした演奏は、何度聴いても感情移入出来る。続く「人生のメリーゴーランド」は宮崎駿監督の『ハウルの動く城』の核をなす名曲である。これも『FREEDOM PIANO STORIES 4』に収録されているが、ここでは、おなじみのメロディを様々なアレンジでリフレインさせて、曲の魅力を堪能させてくれる。様々なプロセスを持つ人生のようでもあるし、四季折々の変化でもあるように、これまたイマジネーションを触発させる作品だ。カーニヴァルやサーカスの世界を彷彿させる音楽は、一連のフェリーニ作品でおなじみのニーノ・ロータや、アカデミー賞の音楽賞に輝いた『リリー』(1953)のプロニスロウ・ケイパーが有名だが、久石譲は彼らとはひと味ちがうカーニヴァルやサーカスの世界を創り上げている。

ラストを飾る組曲「THE GENERAL」は、喜劇王バスター・キートンのサイレント映画の傑作『大列車強盗(キートン将軍)/The General』(1927)に、久石譲が新たに付けたスコアを組曲にしたものだ。昨年カンヌ映画祭で日本人としては初となる氏本人の指揮によって初演された。

サイレント映画に音楽を加える試みは、フランシス・フォード・コッポラの父親のカーマイン・コッポラによる『ナポレオン』(1927)や、ジョルジオ・モロダーによる元祖SF映画『メトロポリス』(1927)など、これまでにもしばしば行われているが、久石譲と「大列車強盗(キートン将軍)」の出会いは、フランスの映画会社のオファーによって実現した。すなわち、アメリカの歴史的な名画が、フランスの会社を介して、日本の音楽家によって音楽を加えられるという、国際的な連係で可能になったプロダクツから生まれた音楽なのだ。

サイレント・エラの喜劇王というと、どうしても警官やビーチの水着美人たちが登場する一連のキーストン社のドタバタ・コメディをイメージしてしまうが、キートンの映画は単純なお笑いではなく、彼の人生観や世界観が投影されたドラマとしても素晴らしく、アーティストや表現者としての彼は、本国よりもフランスで再評価されたという経緯もある。その流れが今回の試みにも継承されているのは言うまでもない。実際作品を観てみると、久石譲のスコアが古典的な名作が包含する永遠のテーマを浮き彫りにしているし、ステレオ・タイプになりがちなサイレント映画のスコアに世界を、久石流に表現することにも成功している。ここでも映像に向き合う氏の姿勢が色濃く投影された組曲に仕上がっている。

なお、このアルバム・リリースと時を同じくして行われるコンサートでは、『ハウルの動く城』や『THE GENERAL』がメイン・プログラムで演奏される他、注目の「DEAD」も演奏される予定だ。それだけにこの作品の発表の意義は大きいと思う。

2005年6月16日 村岡裕司/YUJI MURAOKA

(CD解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

ーやはり『WORKS III』で特筆すべきは、組曲「DEAD」だと思うのですが。これは数年前にご自分がメガホンを取る予定だった映画のために書いた曲だそうですね。

久石:
「そう。4、5年前ですね。でもその映画の内容が、人が死んだりとか、ちょっときついものだったので、時期をみようということになって、先に『カルテット』を撮ったんです。でもテーマ曲はできていて、そのときは2曲だけだったけど、僕の頭の中では4楽章の組曲にしようと思っていまして。今年こそは完成させたくてね。やっと発表できました。今回のアルバムはこの曲のために作った、といっても過言じゃないくらい(笑)」

ーDEADのスペルD,E,A,Dを音名に置き換えた、レ、ミ、ラ、レを主に使った作りになってるんですね、どの楽章も。おもしろい。

久石:
「映画の内容を考えながら、最初に思いついたアイデアだったんだけど、明快でしょう。明快だから音のインパクトも強い。だからどうしても弦楽オーケストラでやりたかったんです。フルだといろんな音色がありすぎちゃって派手になっちゃうから。弦だけの方がきっと深い世界が表現できるなあと思ってね」

ー元々久石さんがやってらっしゃった、現代音楽的なアプローチの作品ですよね。特に3楽章なんか、バリバリ、ミニマルですね。

久石:
「やっぱりそれは僕の本籍地みたいなものだから。すごく真剣になるとスタンスがそこに戻っちゃうんだよね、どうしても。でもね、もう一歩踏み込んじゃうと、ほんとうに現代音楽の作品になっちゃうんだけど、僕がいまやってるフィールドで考えると、それをポップスという世界の中に留める、ということが大事になってくるんです。僕は特別な人たち相手に音楽を作る芸術家じゃないからね。宮崎映画とか北野映画から僕の音楽を知ってくれたような多くの人たちと、コミュニケーションできる音楽でなくちゃいけないんです。今回はそのギリギリ(笑)。だいぶ挑戦的なことはしたなと思いますけどね」

Blog. 「月刊ピアノ 2005年9月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「そうですね。作られた目的が映画でもCMでも構わないんですけど、それを独立した楽曲として成立させるということは音楽家としてやらなきゃいけないことなんです。どうしても映像と対になってしか存在しないという映画音楽やCM音楽が、実はしっかり作られているというのを確認してもらうには、こういうシリーズが必要なんですね。」

「全体的にサウンドを少し厚くゴージャスにしています。映画の場合、音楽にいろいろな要素を入れ過ぎてしまうとセリフとぶつかってしまうんです。オリジナルでは主旋律だけしかない曲に、オブリガートのメロディを足すなどの作業はしていますね。」

「「人生のメリーゴーランド」のメロディなど、ソロの部分はだいたい僕が弾いてますね。それ以外はオーケストラのピアニストに弾いてもらっています。」

「すみだトリフォニーホールのスタインウェイです。響きを大事にしたかったので、スタジオではなくホールで録音しました。」

「指揮しながらピアノを弾いていると、そこが難しいんですよね。まず、オーケストラを録って、リズムがちゃんと感じられる部分はあとでピアノをかぶせようと思うんですが、なかなかニュアンスが一緒にならない。相手が出す音に対してこっちが反応し、こっちが出した音に相手が反応するのが音楽なのに、ダビングするとその双方向のコミュニケーションがなくなってしまう。「DEAD」の第4楽章は最初にオーケストラと録ったときにうまくいかなかったので、”すみません”って言って、翌日もう1回オケと一緒に録り直しました。自分で指揮をしているから分かってるつもりなんですけど、実際に自分が弾いた音にオケが反応するのと、別々で録音するのでは全然違いますね。クリックを使っていないので、オーバーダビングするにしても簡単じゃないですし。本当は同時録音がいいんですが、指揮とピアノを両方やっているとどちらも中途半端になりがちなんです。その辺をいつもレコーディングの直前までどうするか悩んでいるんですよ。」

Blog. 「キーボード・マガジン 2005年10月号 No.329」 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

久石譲 『WORKS3』

1. Oriental Wind 〜for Orchestra〜
2. Symphonic Variation 「Merry-go-round」 (映画「ハウルの動く城」より)

DEAD for Strings,Perc.,Harpe and Piano
3. 01. D.e.a.d
4. 02. The Abyss 〜深淵を臨く者は・・・・〜
5. 03. 死の巡礼
6. 04. 復活 〜愛の歌〜

Keaton’s 「THE GENERAL」
7. Movement 1
8. Movement 2
9. Movement 3
10. Movement 4
11. Movement 5

初回限定:「Oriental Wind」
(サントリー緑茶 伊右衛門CM曲)ピアノ譜封入

All Composed , Arranged , Conducted and Produced by Joe Hisaishi
Piano:Joe Hisaishi (excep Keaton’s “THE GENERAL”)

演奏:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
録音:すみだトリフォニーホール

 

Co-produced by Eiichi Fujimoto
Directed by Akira Watanabe (FujiPacific Music Inc.)
Recorded by Suminobu Hamada, Hiroyuki Akita (Wonder Station)
Mixed by Suminobu Hamada (Wonder Station)
Mastered by Hiroyuki Hosaka (Hitokuchizaka Studios)
Piano Technician: Masanori Hanaoka (YAMAHA Corporation)
Music Sheet Preparation: Kenji Ashimoto
Technical Support: Ken Muramatsu (Octavia Records)

Recorded at Sumida Triphony Hall
Edited & Mixed at Wonder Station

 

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