Disc. 久石譲 『Silent Love サイレントラブ オリジナル・サウンドトラック』

2024年1月24日 CD発売 UMCK-1760

 

2024年1月26日公開映画『サイレントラブ』
原案・脚本・監督:内田英治
共同脚本:まなべゆきこ
音楽:久石譲
出演:山田涼介、浜辺美波 ほか

 

 

ただ愛する。この複雑に濁った時代に、透明な純愛をそっとかざす、この冬いちばん切ないラブストーリー。

『ミッドナイトスワン』で世界中の人々の魂を、今も激しく揺さぶり続ける内田英治監督最新作。蒼には新作ごとに全く異なる顔を見せ、その実力をスクリーンに刻みつける山田涼介。今回がラブストーリー映画初主演となる。美夏には他に並ぶ者のない圧倒的な透明感で人々を魅了する浜辺美波。ピアノとガムランボールの音色に導かれ、声を捨てた青年と、光を失った音大生の密やかな情熱が交差する、世界でいちばん静かなラブストーリー。

内田監督が熱望し念願成就した久石譲が、本作のためにオリジナル楽曲を手掛けた。

(メーカー・インフォメーションより)

 

 

 

 

 

Track.16「サイレントラブ」は、映画本編には使用されていないメインテーマのオーケストラバージョン。使用プランがあったかは定かではないが結果ボーラストラック的に収録叶った一曲となっている。

 

 

01. オープニング
02. ふれる
03. 静かな二人
04. 救いの音
05. 神の手
06. 戸惑い
07. やさしい風の中
08. 歪み
09. 雨の中の激情
10. 怒り
11. 事件
12. よごれた手
13. アクリル越しの二人
14. 傷だらけの手
15. 蒼
16. サイレントラブ
17. ふれる(再会)
18. Silent

 

Silent Love (Original Motion Picture Soundtrack)

1. Opening
2. Touch
3. The Quiet Two
4. Sound of Salvation
5. Hand of God
6. Confusion
7. In the Gentle Wind
8. Distortion
9. Intense Passion in the Rain
10. Anger
11. Incident
12. Dirty Hands
13. Two People Through Acrylic
14. Scarred Hands
15. Blue
16. Silent Love
17. Touch – Again
18. Silent

 

 

作曲・編曲・プロデュース:久石譲

指揮:久石譲
演奏:Future Film Orchestra
ピアノ:角野隼斗 (Tr.18)

レコーディング・エンジニア:浜田純伸
アシスタント・エンジニア:川村優日、佐藤千恵
マスタリング・エンジニア:藤野成喜(ユニバーサル ミュージック)
オーケストラ・インスペクター:向井航
アーティスト・マネージメント:川本伸治、宮國力
音楽制作:前田泰弘、佐藤蓉子
マネージメント・オフィス:ワンダーシティ
スタジオ・サウンド・シティ、サウンドインスタジオ
A&R:大里和生、松田芳明、笠神摩由子(フジパシフィックミュージック)
Executive Producer:丹羽浩之(フジパシフィックミュージック)

 

 

Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』

2022年7月20日 CD発売 UMCK-1715

 

久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
交響組曲「もののけ姫」

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021
Joe Hisaishi & New Japan Philharmonic World Dream Orchestra

交響組曲もののけ姫
20年以上の時を経て蘇る

(CD帯より)

 

 

解説

久石譲が音楽監督を務める新日本フィルハーモニー交響楽団ワールド・ドリーム・オーケストラ(以下、W.D.O.)は、2004年の結成以来、これまで数多くの名演を繰り広げてきた。そのどれもが忘れがたく、観客に熱い感動を与えてきたが、こと2021年の活動に限って言えば、「不条理との戦い」の一言に尽きるかと思う。オーケストラが置かれた社会的な状況という意味においても、また、公演で披露した演奏曲という意味においても。

結成10周年を迎えた2014年以降、W.D.O.は毎年夏にコンサート・ツアーを開催してきたが、2020年は(当初予定されていた)東京オリンピックのために演奏会場の確保が困難になると予想され、かなり早い段階でツアー開催の見送りが決まっていた。結果的に、2020年は新型コロナウィルスのパンデミックが猛威を振るっていた1年だったので、たとえ会場が見つかったとしても開催は不可能だった。問題は翌年の2021年である。

日本国内の感染状況とワクチン接種状況にあまり詳しくない海外のリスナーのために少し説明しておくと、2021年2月の段階でワクチン接種(1回め)は医療従事者などごく一部に限られ、一般人の接種時期はそれから数カ月後になりそうな状況であった。クラシックの演奏会に関して言えば、すでに2020年半ばから開催可能となっていたが、観客数を大幅に減らしたり、あるいはオーケストラの演奏曲目も2管編成を越えない程度の規模に限定したりするなど、さまざまな制約を余儀なくされる状態が1年近く続いていた。しかも、感染拡大状況に応じて日本政府から緊急事態宣言が発令された場合、その時点で予定されていた該当地域の演奏会はほぼすべて中止になる。そんなリスクを抱えながらも、演奏活動の火を絶やさないため、関係者が日夜努力を惜しまぬ状況が続いた。

こうした中、2021年1月から東京都を含む地域で約2ヶ月半継続していた緊急事態宣言が同年3月に解除されたことを受け、久石とW.D.O.は2年ぶりとなるツアー開催を決断し、4月21日から京都、神戸、東京の3都市でコンサートを開催することになった。ところがツアー開始後、大都市圏における変異株急増が深刻化し(日本国内でのいわるゆ第4波)、4月25日から緊急事態宣言(日本国内では3回目)が発令されることになった。W.D.O.が予定していた3回の東京公演のうち、辛うじて4月24日の公演は開催に漕ぎ着けることが出来たが、25日と27日の公演は会場そのものが臨時休館という形で閉鎖されたため、有観客演奏はもちろんのこと、無観客演奏による収録・配信も不可能になった。W.D.O.始まって以来のツアー中断という異例の事態。久石も、オーケストラの団員も、公演を支える関係者も、そして言うまでもなく観客も、誰もが不条理を感じていたに違いない。とりわけ、不条理を描いた『もののけ姫』の音楽を含むプログラムを用意していた今回のツアーにおいては。

タタリ神との闘いによって死の呪いを受けることになったアシタカは、不条理な運命を背負うことになった存在である。山犬に育てられ、もののけ姫として生きることを余儀なくされたサンも、やはり不条理な存在である。パンデミックの不条理とは若干異なるかもしれないが、不可抗力の事態によって生き方を変えることを余儀なくされたという意味においては、少なくとも2021年当初の我々がごく自然に共感できたキャラクターである。戦いに明け暮れる『もののけ姫』の中世であれ、パンデミックに苦しむ2021年であれ、人間が置かれている状況は、実はそれほど違っていない。だからといって、不条理な運命を悲しんでいるだけでは何も変わらない。いや、変わらないどころか、消滅してしまうだろう。だから、不条理と向き合い、戦わなければならない。『もののけ姫』の有名なキャッチコピー「生きろ。」も、おそらくそういう意味ではないかと思う。

久石が『もののけ姫』の作曲(より正確にはイメージアルバムの制作)に着手してから、すでに四半世紀以上の時間が経過しているが、今回のツアーで初めて披露された《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》に到るまで、久石がしばしば『もののけ姫』の交響組曲に取り組んでいるのは、『もののけ姫』という映画とその音楽が、「不条理と戦いながら生きる」という人間の本質をきわめて直截に表現しているからではないだろうか? わかりやすく言うと、我々が不条理な世の中に生きている以上、『もののけ姫』を繰り返し演奏していかなければならない。単に宮﨑駿監督の映画のために書かれた音楽という次元を越え、我々自身のことを描いている音楽だからである。そうした意味において、《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》は四半世紀以上にわたって取り組んできた久石のライフワークの、現時点における到達点と言えるだろう。

『もののけ姫』の最後に演奏される〈アシタカとサン〉の晴れやかな音楽のように第4波の猛威がようやく落ち着き、2021年6月下旬に緊急事態宣言が解除されたことを受け、開催中止を余儀なくされたW.D.O.の4月25日と27日の振替公演が7月25日と26日にようやく実現した。本盤に聴かれる《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》《Asian Works 2021》《World Dreams 2021》は、その時の演奏を収録したものである。

言わずもがなだが、本盤は久石とW.D.O.が向き合わざるえを得なくなった、パンデミックの不条理の単なる記録ではない。2022年、別の不条理が世界を覆っている現在にこそ聴かれるべきアルバムだ。不条理と戦いながら、夢を追って生きていく人間たちへの讃歌ーーW.D.O.というプロジェクトに込めた久石の意図が、これほどまでにリアルに感じられる時代はないからである。

 

 

楽曲解説

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

タタリ神によって死の呪いをかけられた青年アシタカは、呪いを解くために西の地に向かい、タタラ場の村に辿り着く。そこでアシタカが見たものは、エボシ御前が率いる村人たちが鉄を鋳造するため、神々の森の自然を破壊している姿だった。さらにアシタカは、森を守るためにタタラ場を襲う”もののけ姫”サンの存在を知る。サンと心を通わせるうち、アシタカは人間と森が共生できる道が存在しないのか、苦悩し始める……。宮﨑駿監督が構想16年、製作日数3年を費やした『もののけ姫』(1997)は、作曲家としての久石にとっても大きなターニングポイントとなった最重要作のひとつである。映画公開の約2年前から作曲に着手した久石は、宮﨑監督の世界観を余すところなく表現すべく、大編成のシンフォニー・オーケストラ、シンセサイザー、邦楽器や南米の民俗楽器など、ありとあらゆる手段を投入してサウンドトラックを完成させ、当時の日本映画の制作現場では珍しかった5.1チャンネルの音楽ミックスにも初めて挑んだ。映画さながらの総力戦である。このような成り立ちゆえ、サウンドトラックはそのままの状態では演奏不可能なので、久石は常設の交響楽団で演奏可能な全8楽章の交響組曲を新たに作り上げ、1998年7月、すなわち『もののけ姫』公開1周年を記念する形でアルバム『交響組曲 もののけ姫』(1998年版)を発表した。それから18年後、宮﨑監督作品の音楽を交響組曲化していくプロジェクトの第2弾といて、1998年版の組曲を大幅にブラッシュアップしたヴァージョン(2016年版)が2016年W.D.O.公演で初披露された。1998年版と2016年版の大きな違いは、1998年版に含まれていなかった〈コダマ達〉が追加され、さらにオーケストラの響きを出来るだけサウンドトラックの印象に近づけるべく、オーケストレーションそのものが大幅に見直された点などを挙げることが出来る。この2016年版をさらに改訂したものが、本盤に聴かれるヴァージョン(2021年版)である。2016年版に含まれていなかった映画終盤のクライマックスの音楽、すなわち「世界の崩壊」を表現した楽曲群を追加することで、宮﨑監督がこの映画に込めた「破壊と再生」というテーマが音楽だけではっきり伝わるようにしたこと、歌詞を聴き取りやすくするために主題歌〈もののけ姫〉のキーを下げたこと、さらに久石が海外で指揮しているコンサート「Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki」のためのオーケストレーションが採り入れられたことなどが、今回の改訂の大きなポイントとなっている。以下に、組曲を構成する各楽曲を解説する。

まず「むかし、この国は深い森におおわれ、そこには太古からの神々がすんでいた。」というタイトルと共に始まるオープニングの音楽〈アシタカ𦻙記(せっき)〉。あたかも古代の詩人が雄大な叙事詩を語り始めるような荘重な面持ちで奏でられるこのテーマは、映画本編の中で主人公アシタカを象徴するテーマとして何度も登場することになる。

続いてタタリ神とアシタカが死闘を繰り広げるシーンで流れる〈タタリ神〉。無調音楽のように敢えてメロディアスな要素を排除することで、タタリ神の持つ凶暴性を見事に表現したテーマだが、日本の伝統文化になじみの薄い海外のリスナーが聴くと、日本古来の祭の音楽、すなわり”祭囃子”にインスパイアされたダイナミックなオーケストレーションに驚かれるかもしれない。この”祭囃子”は、タタリ神がかけられた呪い(その呪いは実は人間に対する憎しみに由来する)が何らかの形で鎮めなければならない超自然的存在、すなわち厄災をもたらす神であるということを暗示している。

次の〈旅立ち~西へ〉は、タタリ神を倒した代償として死の呪いを受けたアシタカが、大カモシカのヤックルに跨り、呪いを解くために西の地に向かうシーンの音楽。ここでメインテーマ〈もののけ姫〉のメロディーが初めて登場し、アシタカが出遭うことになるサンすなわちもののけ姫の存在をほのめかす。

続いて、負傷した村人を背負って森の中を進むアシタカが森の精霊コダマと遭遇するシーンで流れる〈コダマ達〉。コダマは英語に直訳すると「木の精霊」となるが、久石は木質の打楽器や弦楽器のピツィカートを巧みに用いて”木の響き”を強調しながら、森の雰囲気を見事に表現している。

本編の物語の流れと前後するが、次の〈呪われた力〉は、アシタカの放った矢が略奪を繰り返す地侍に惨たらしい死をもたらすシーンの音楽。タタリ神の呪いは、人間に死をもたらすだけでなく、人間に超人的な能力を与えてしまう。そうしたメタフォリカルな設定を表現した音楽として、短いながらも強烈なインパクトをリスナーにあたえる楽曲である。

続く〈シシ神の森〉は、傷ついた人間に癒やしをもたらすシシ神のテーマを、ほぼフル・ヴァージョンで演奏した楽曲。ストラヴィンスキー風のオーケストレーションが、シシ神の森を覆うアニミズム的な世界観を暗示している。

そして〈もののけ姫〉は、サンの介抱によって体力を回復したアシタカが人間と森の共生をめぐり、犬神のモロの君と諍うシーンで流れる主題歌。映画全体のメインテーマであり、もののけ姫のテーマでもあるが、サウンドトラックのヴォーカル・レコーディングに立ち会った宮﨑監督はこの主題歌を「アシタカのサンへの気持ちを歌っている」楽曲と位置づけている。

次の〈黄泉の世界〉から物語終盤の音楽となり、エボシ御前によって首を討ち取られたシシ神が液状化し、巨大なディダラボッチに変容する凄まじい光景が描かれる。途中、〈もののけ姫〉のテーマの断片と〈アシタカ𦻙記〉のテーマの断片が「森は死んだ…」「まだ終わらない」というサンとアシタカのやりとりを表現する。再び、シシ神すなわちディダラボッチの凶暴な音楽に戻った後、アシタカとサンがシシ神に首を返すシーンの〈生と死のアダージョ〉となり、凄まじいクライマックスを迎える。

朝日が差すように音楽が一転すると、シシ神の消えた森に緑がよみがえり、アシタカとサンが互いの世界で生きていくことを誓い合うラストの音楽〈アシタカとサン〉となる。宮﨑監督をして「すべて破壊されたものが最後に再生していく時、画だけで全部表現出来るか心配だったけど、この音楽が相乗的にシンクロしたおかげで、言いたいことが全部表現出来た」と言わしめた名曲である。今回の組曲では、ヴァイオリンとピアノの二重奏の形でメロディが導入された後、麻衣が作詞した歌詞をソプラノ(本盤での歌唱は安井陽子)が歌う編曲となっている。

 

Merry-Go-Round 2019

荒地の魔女の呪いにより、90歳の老婆に姿を変えさせられた帽子屋の少女ソフィーと、人間の心臓を食べると噂される魔法使いハウルのラブストーリーを描いた、宮﨑駿監督『ハウルの動く城』(2004)のメインテーマ《人生のメリーゴーランド》。本盤に聴かれる演奏は、2019年のW.D.O.公演で披露されたヴァージョンで、今回が初リリースとなる。楽曲の構成自体は本編のエンドクレジットで演奏されるメインテーマのフル・ヴァージョンとほぼ同じだが、序奏を演奏するハープやテーマ旋律を導入するチェレスタ、その旋律を優雅なワルツとして演奏するアコーディオンとマンドリンなど、新たなオーケストレーションを施すことによって、映画の世界観が見事に凝縮されたヴァージョンとなっている。

 

Asian Works 2020

パンデミックの真っ只中にあった2020年、久石が手掛けた商業音楽(エンタテインメント音楽)を3つの楽章から構成される組曲としてまとめたもの。アジア地域からの委嘱という共通点を除けば、3曲のあいだに直接的な関連はないが、こうして3曲続けて聴いてみると、ミニマリストとしての久石、メロディメイカーとしての久石、エンタテインメント音楽の第一人者としての久石と、彼の3つの側面が図らずもくっきり浮かび上がってくるのが、大変に興味深いところである。

 

I. Will be the wind

LEXUS CHINAの委嘱で作曲。2020年9月、中国市場向けのプロモーション映像のための音楽として初めて公開された。作曲にあたって久石が重視したという「疾走感」がミニマリズムの反復音形と鮮やかな転調の繰り返しによって表現されているが、同時にレクサスという車種にふさわしい重量感が巧みなオーケストレーションから伝わってくる。演奏時間がわずか4分ながら、きわめてコンセプチュアルに書かれた楽曲と言えるだろう。

II. Yinglian

2020年12月にワールドプレミアを迎えた中国・香港合作のファンタジー映画『Soul Snatcher』(原題は『赤狐書生』、日本では『レジェンド・オブ・フォックス 妖狐伝説』の邦題で2021年10月劇場公開)の愛のテーマが原曲。かつて久石がスコアを作曲した『海洋天堂』(2010)も手掛けた香港の名プロデューサー、ビル・コン(江志強)が製作を務めており、彼の強い希望で久石との10年ぶりの再タッグが実現したという。人間の姿をした狐妖・十三(リー・シエン)が伝説の狐仙となるべく旅立ち、狐仙への変容の鍵を握る書生・子進(チェン・リーノン)と友情を育みながら、妖怪や悪霊に立ち向かうというのが、物語の大筋である。曲名の《Yinglian》は、ふたりが旅の途中で立ち寄る妓楼の遊女・英蓮(ハニ・ケジー)に由来する。どこか哀愁を帯びたクラリネットの優しいメロディが、英蓮の妖艶な美しさと哀しい運命を見事に描いている。

III. Xpark

2020年8月、台湾・高鉄桃園駅前にグランドオープンした新都市型水族館『Xpark』のために久石が書き下ろした全7曲の館内音楽から、水族館の「観客の皆さんが楽しい気分で帰って欲しい」と意図して作曲したEXIT用の楽曲。最初にフルートが導入する、足取りが軽くなるような親しみやすいテーマを変奏していく形で構成されているが、途中には台湾を意識したペンタトニック風の変奏も登場する。

 

World Dreams 2021

2004年、久石が新日本フィルと共にW.D.O.を立ち上げた際に書き下ろしたテーマ曲。「作曲している時、僕の頭を過っていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。『何で……』そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国歌のような格調あるメロディーが頭を過った」。作曲から18年を経た2022年の今、この曲が以前にも増して力強いメッセージを伝えているように感じられるのは、おそらく筆者ひとりだけではないはずである。

 

前島秀国 / Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター
2022/6/10

(CDライナーノーツより)

 

*ライナーノーツ 日・英文解説(英文ライナーノーツ封入)

 

 

補足)
上の楽曲解説は4月公演とそのプログラムノートに基づいており、7月公演を収めた本盤のライヴパフォーマンスとは一部異なる箇所もある。納得のいくまで作品の完成度を追求する一面がみえる。

 

 

 

以下の楽曲レビューは「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポートで記したものから一部抜粋している。

 

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

<構成楽曲>
1.アシタカせっ記(交響組曲 第一章 アシタカせっ記)
2.タタリ神
3.旅立ち -西へ-
7.コダマ達
4.呪われた力
8.神の森(交響組曲 第五章 シシ神の森)
20.もののけ姫 ヴォーカル(交響組曲 第四章 もののけ姫)
28.黄泉の世界
29.黄泉の世界 II
30.死と生のアダージョ II
31.アシタカとサン(交響組曲 第八章 アシタカとサン)

Track.曲名『もののけ姫 サウンドトラック』(『交響組曲もののけ姫CD版』)

 

交響組曲作品『千と千尋の神隠し』や『魔女の宅急便』のあり方にならって、映画本編で使用した音楽を中心に、サウンドトラック盤ベースに楽曲構成するというコンセプトに大きく軌道修正したように思います。一方では、楽曲によって『交響組曲もののけ姫CD版』のオーケストレーションを活かしているところもあります。

『交響組曲もののけ姫CD版』にしかなかった独自のメロディやパートは極力除外したということになります。「神の森」は「交響組曲 第五章 シシ神の森」の楽曲構成に近いですが、イメージアルバム「シシ神の森」の楽曲構成と世界観から取り込んでいるとするのが、正しいに近いと思います。風の谷のナウシカの交響組曲もイメージアルバムから「谷への道」を導入したように。初期の構想からすでに生まれていたけれど映画本編には使われなかった曲。

「呪われた力」、2016年版「レクイエム」パート中にもありましたが、前半に単曲で新規追加されました。細かくいうとアレンジは交響組曲CD中のもの、およびサントラ盤「23.呪われた力 II」に近いです。物語にそった組曲を目指したこと、呪われた力の凶暴性を出すことで、のちのシシ神の森のシーンや終盤の黄泉の世界までしっかりとつながっていきます。

「黄泉の世界I,II~生と死のアダージョII」、久石譲楽曲解説に ”新たに世界の崩壊のクライマックスを入れた” とあたります。シシ神殺しのパートをダイレクトに入れ込むことで、破壊と再生、生と死、『もののけ姫』作品世界の内在する二極を表現しています。そして前半の「呪われた力」にあった、決して消えることのない痣、いつ濃くなり蝕むかわからない痣を思い起こさせます。それは、決して簡単に答えの出ない世界で生きていく私たちへと、しっかりと刻み込まれる思いがします。

「黄泉の世界I,II~生と死のアダージョII」、たしかにと納得してしまいます。これぞ入って『もののけ姫』の世界と強く膝を打ちたくなります。そうして、それでもしっかりと生きていかなければいけない私たちへと迫り浴びせられる地割れのする管弦楽の轟きの後、希望と再生へとつながっていきます。

「アシタカとサン」(vn/vo)、やっぱり導入は僕がエスコートしないと(幻の声)、1コーラス目は久石譲ピアノが迎え入れたソロ・ヴァイオリンが美しいメロディを奏でます。2コーラス目にソプラノによって丁寧に歌われることもあって、豊嶋泰嗣さんのフェイク(メロディラインの持つ雰囲気は残しつつも、ある程度装飾的な要素を加えつつ崩して演奏すること)が光っています。

「アシタカとサン」(vn/vo)、2コーラス目はソプラノによって歌われます。「信じて~」からの天からやさしく降りそそぐ光ようなストリングス(武道館verから)、チューブラーベルの希望の鐘が高らかに、やさしい余韻へと。(vo)についてはのちほど…。

 

2021年版を聴いて「歌は必要なんだ!」と強く思いました。『もののけ姫』という作品において、歌(言葉)による精神性の表現というのは大切なことなのかもしれません。世界ツアー版で「もののけ姫」はソプラノによる日本語歌唱、「アシタカとサン」はコーラスによる英語詞で歌われています。でも、だから2021年版もやっぱり歌で、と言っているわけじゃないんです。

それは、「日本語による歌唱」です。ここに強くこだわっているように思えてきました。世界ツアー版とは異なり、これから先《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》が海外公演されるときは、現地オーケストラと現地ソリストによる共演になります。そして、きっと2曲とも「日本語による歌唱」です。これはたぶん揺るがない。

《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》でめざしたのは、『もののけ姫』の世界を音楽で表現すること、日本的なメロディ・ハーモニー・リズムを余すことなく表現すること、そのなかに日本語の美しさを表現することも含まれる。そう強く思いました。オペラなどと同じように、純正の日本語でしっかりとした作品をのこす。「日本語っていいね、きれいな響きだね」と言われるものをつくる。

物語にそった音楽構成と日本語の美しさで『交響組曲 もののけ姫』完全版ここに極まる。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

Merry-Go-Round 2019

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」アンコールで披露されたもの。

映画『ハウルの動く城』から「人生のメリーゴーランド」です。2018年NCO公演で初演されたヴァージョンで、それ以降海外公演でも披露されています。オリジナル版は言えばすぐ浮かぶ、ピアノの切ないイントロに始まり、ピアノの美しいメロディがつづきます。タイトル「Merry-Go-Round」となっているこのヴァージョンは、ピアノがありません。イントロをハープで、出だしのメロディをグロッケンシュピールとチェレスタで、というようにピアノパートがオーケストラ楽器に置き替わっています。楽曲構成は同じですが印象は変わります。よりヨーロッパになったかなあ、というか、これなら久石譲以外のコンサートでもっと爆発的に演奏されるんじゃないかな、そんな新しい魅力も。アメリカやヨーロッパをはじめ海外指揮者・海外オケによる純粋な管弦楽作品として披露できる。

おっと、これは言っておかないといけない。本公演は「交響組曲 魔女の宅急便」でマンドリンとアコーディオンが編成されていたこともあって、この曲にも特別に参加しているスペシャルヴァージョンです。よりサントラ版に近い印象で、すごくよかったです。いや、すごく得した気分です。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

Asian Works 2020

I. Will be the wind
叙情的でミニマルなピアノの旋律と室内オーケストラ編成で構成されている。ミニマルなモチーフのくり返しを基調とし、奏でる楽器を置き換えたり、モチーフを変形(変奏)させたり、転調を行き来しながら、めまぐるしく映り変わるカットシーンのように進んでいく。

後半はミニマルなピアノモチーフの上に、弦楽の大きな旋律が弧を描き、エモーショナルを増幅しながら展開していく。かたちをもたない風、安定して吹きつづける風、一瞬襲う強い風、淡い風、遠くにのびる風。決して止むことのない風、それは常に変化している、それは常にひとつの場所にとどまらない。ミニマルとメロディアスをかけあわせた、スマートでハイブリットな楽曲。

 

II. Yinglian
愛のテーマ。主要キャラクターの一人、女性が登場するシーンで多く聴かれる楽曲。お香のような、ゆらゆらと、ふわっとした、無軌道な和音ですすむ。ゆるやかな独奏、メロディとアドリブのあいだのような、動きまわりすぎない加減の無軌道な旋律がのる。魅惑的で妖艶な曲想は、これまでの久石譲には珍しい。クラリネット、ピアノ、フリューゲルホルン、フルート、ストリングス。登場するたびにメロディを奏でる楽器たちを変え、まるで衣装替えに見惚れるように、つややかに彩る(Track.17,20,25,27)。この曲はTrack.17「英蓮 / Yinglian」をフィーチャーしたもの。

 

III. Xpark
明るく軽やかな曲です。音符の粒の細かいメロディがつながってラインになって、楽しそうに転げているようです。そして広がりのある曲です。ありそうでなかった!そんな久石譲曲です。番組音楽に使わせてください!そんな久石譲曲です。後半のソロ・ヴァイオリンの旋律も耳奪われる演出です。ホンキートンク・ピアノのように、ちょっとチューニングの狂った調子っぱずれのニュアンスで、小躍りするほど浮足立った弾みを表現しているようにも聴こえてきます。してやったりなコンマスと指揮者の目配せに笑みこぼれます。こんな音楽でおでかけの楽しい一日が締めくくれたらなんて素敵だろう。

映画『海獣の子供』公開時、コラボレーション企画として国内いくつかの水族館で、この映画音楽を使ったショータイムが開催されました。撮影OK!拡散Welcome!ということもあって、よくSNSで動画見かけました。それを目にしてのオファーだったのかはわかりません。でも、久石譲のミニマル・オーケストレーションは、ほんと海や宇宙のミクロマクロな世界観と抜群Good!なことはわかります。

 

World Dreams 2021

「9.11」から20年の今年。このことだけでも重みのある一曲です。そして「Covid-19」の渦中にある今。どんな時でも必ず演奏される曲。こんな一面も、4月24日無念さを残しながら、それでも今できることをかみしめるように演奏したWDOオーケストラメンバーのSNSの声も印象的でした。観客だけじゃなく、楽団員にとっても大きな一曲は、中断を経て新しい完走地点の7月25,26日いろいろな想い駆け巡りながら、会場に響きわたりました。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021
1. The Legend Of Ashitaka アシタカ𦻙記
2. TA TA RI GAMI タタリ神
3. The Journey Of The West ~ Kodamas 旅立ち―西へ― ~ コダマ達
4. The Demon Power ~ The Forest Of The Dear God 呪われた力 ~ シシ神の森
5. Mononoke Hime もののけ姫
6. The World Of The Dead ~ Adagio Of Life & Death 黄泉の世界 ~ 生と死のアダージョ
7. Ashitaka And San アシタカとサン

8. Merry-Go-Round 2019

Asian Works 2020
9. Ⅰ Will be the wind
10. Ⅱ Yinglian
11. Ⅲ Xpark

12. World Dreams 2021

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by New Japan Philharmonic World Dream Orchestra, Yasushi Toyoshima (solo concertmaster)

Recorded at
Tokyo Metropolitan Theatre Concert Hall (July 25th, 2021)
Sumida Triphony Hall (July 26th, 2021)

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021
Soprano: Yoko Yasui

Merry-Go-Round 2019
Accordion: Tomomi Ota
Mandolin: Tadashi Aoyama

Recording & Mixing Engineer: Takeshi Muramatsu (Octavia Records Inc.)
Mixed at EXTON Studio Yokohama
Mastering Engineer: Shigeki Fujino (UNIVERSAL MUSIC STUDIOS TOKYO)

Art Direction & Design: Daisaku Takahama
Artwork Coordination: Maiko Mori (UNIVERSAL MUSIC)

and more…

 

Disc. 久石譲 『Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2』(Domestic / International)

2021年8月20日 CD発売 UMCK-1683/4

 

NYに拠点を置くクラシック・レーベル DECCA GOLD世界同日リリースのベストアルバム第二弾!
映画・CM音楽、そしてライフワークのミニマル・ミュージックから構成された久石譲の多彩な世界に触れる一枚。

(CD帯より)

 

 

日本の巨匠・久石譲が本格的に世界リリース!

Deccaリリース第2弾となるベスト作品。

海外での認知度も高い映画音楽を中心に、彼の音楽人生を代表する名曲ばかり。北野武映画曲 “Kids Return” “HANA-BI” の新規録音を含む、全28曲。2枚組みアルバム。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

ミニマルミュージックから広告音楽まで、現代日本を代表する世界的作曲家、久石譲の多面的な才能と豊かな音楽性を凝縮した、DECCA GOLDからのベストアルバム第2弾。東アフリカの伝統音楽にインスパイアされた「MKWAJU 1981-2009」は、久石の音楽の中核を成すミニマルミュイルージックのスタイルによる重要曲で、ここでは2009年にロンドン交響楽団の演奏で録音されたバージョンで聴くことができる。また、映画音楽の巨匠としての魅力も満載で、宮崎駿、北野武、大林宣彦、山田洋次、澤井信一郎、滝田洋二郎といった名監督の作品に寄せた楽曲も多く収録されている。北野監督の映画のためのテーマ曲「Kids Return」と「HANA-BI」の新たに録音されたライブ音源も聴きどころだ。さらに、自ら奏でるソロピアノ曲やコマーシャルフィルムのための楽曲などもセレクトされており、Vol.1に当たる『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』と併せて入門編としても最適で、長年のファンも楽しめる充実のコンピレーションとなっている。

(iTunes レビューより)

 

 

 

The Essence of the Music of Joe Hisaishi

 『Dream Song: The Essential Joe Hisaishi』に続き、この『Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol.2』を手にしておられるリスナーならば、おそらく久石譲というアーティストについて、すでにさまざまなイメージをお持ちではないかと思う。世界的な映画音楽作曲家、現代屈指のメロディメーカー、叙情的なピアノの詩人……などなど。それらの形容はすべて正しいが、これまで40年にわたり作曲家として活動してきた彼の足跡を、このアルバムに即して注意深くたどってみると、久石という人がつねにふたつの主軸に沿って音楽を生み出し続けてきたことがわかる。芸術音楽、すなわちミニマル・ミュージックの作曲と、久石がエンターテインメントと定義するところの商業音楽の作曲だ。どちらの作曲領域も、彼にとって欠くことが出来ない本質的な活動であるばかりか、ふたつの領域は時に重なり、影響し合うことで、彼独自のユニークな音楽を生み出してきた。本盤の収録楽曲は、これらミニマル・ミュージックとエンターテインメントというふたつの作曲領域が俯瞰できるように、バランスよく選曲されている。まさに、久石譲の音楽のエッセンス(the essence of the music of Joe Hisaishi)が収められていると言っても過言ではない。

 国立音楽大学で作曲を学んでいた久石は、アメリカン・ミニマル・ミュージック(作曲家にラ・モンテ・ヤング、テリー・ライリー、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスなど)やドイツのテクノバンド、クラフトワークの音楽に出会って衝撃を受け、理論偏重のアカデミックな現代音楽の作曲に見切りをつけると、自らもミニマル・ミュージックの作曲家を志すようになった。スワヒリ語でタマリンドの木を意味する《MKWAJU》(1981/2009)は、曲名が示唆するように東アフリカの伝統音楽にインスパイアされた、久石最初期のミニマル・ミュージックのひとつとみなすべき重要作(本盤には2009年にロンドン交響楽団の演奏で録音された管弦楽版が収録されている)。シンプルなリズムパターンを繰り返しながら、拍をずらしていくことによってパルス(=拍動、脈動)の存在を聴き手に強く意識させていく手法は、現在に至るまでの彼の音楽の原点となっていると言っても過言ではない。その4年後に作曲された《DA-MA-SHI-E》(1985/1996)の曲名は、オランダの抽象画家マウリッツ・エッシャーの錯視画(だまし絵)に由来する。現実の世界に存在し得ない図形や模様があたかも存在しているように見る者を「だます」トリック的な効果を、久石はミニマル・ミュージックの作曲の方法論に応用し、同じフレーズや音型を繰り返すうちに音楽が新たな側面を見せていく面白さを生み出している。2007年作曲の《Links》はそうした方法論をさらに深化させ、ミニマル・ミュージック特有の力強い推進力は維持しながらも、変拍子のリズムの使用とシンフォニックな展開によって、シンプルにして複雑という二律背反を克服することに成功している。これら3曲に共通するのは、久石のミニマル・ミュージックが非常に知的かつ論理的な作曲に基づきながらも、つねにユーモアを忘れていないという点だ。決して、現代音楽の限られたリスナーに向けて書かれた、抽象的で深刻な音楽ではない。とてもヒューマンで、愉楽に満ちあふれた音楽なのである。しかしながら、久石はミニマル・ミュージック以外の現代音楽をすべて否定しているわけではなく、一例を挙げれば、新ウィーン楽派をはじめとする無調音楽を敬愛し、その影響も少なからず受けている。1999年に作曲された《D.e.a.d》(曲名が示す通り、D=レ、E=ミ、A=ラ、D=1オクターヴ高いレの4音をモティーフに用いている。弦楽合奏、打楽器、ハープ、ピアノのための4楽章からなる組曲「DEAD」として2000年に完成)は、そうした彼の側面が色濃く表れた作品のひとつである。

 次に、久石のもうひとつの重要なエッセンスである、エンターテインメントのための音楽について。

 久石の名を世界的に高めたきっかけのひとつが、宮崎駿監督のために作曲したフィルム・スコアであることは、改めて説明の必要もあるまい(そのテーマ曲のほとんどは『Dream Song: The Essential Joe Hisaishi』で聴くことが出来る)。その中から、本盤には『もののけ姫』(1997)のラストで流れる《Ashitaka and San》と、『紅の豚』(1992)のテーマ曲《il porco rosso》が収録されている。

 宮崎監督のための音楽と並んで世界的に有名なのは、北野武監督のために書いたフィルム・スコアであろう。ふたりがこれまでにタッグを組んだ計7本の長編映画は、初期北野作品の演出を特徴づけるミニマリズムと、久石自身の音楽のミニマリズムの美学が見事に合致した成功例として広く知られている。青春の躍動感と強靭な生命力を、ミニマル的なリズムに託した『キッズ・リターン』(1996)のメインテーマ《Kids Return》。言葉では表現できない夫婦愛を、表情豊かなストリングスで表現した『HANA-BI』(1998)のメインテーマ《HANA-BI》。シンプルで明快なピアノのテーマが、夏の日射しのように輝く『菊次郎の夏』(1999)のメインテーマ《Summer》。さらに久石は、単に映画の物語にふさわしいテーマ曲を作曲するだけでなく、映画音楽作曲の常識にとらわれないユニークな実験をも試みている。哀愁漂う《The Rain》が流れる『菊次郎の夏』のコミカルなシーンは、北野と久石が共に敬愛する黒澤明監督の『音と画の対位法』──コミカルなシーンに悲しい音楽を流したり、あるいはその逆となるような音楽の付け方をすることで、映像の奥に隠れた潜在的意味を強調する──を、彼らなりに応用した実験と言えるだろう。

 昨2020年に82歳で亡くなった大林宣彦監督のために久石が作曲したフィルム・スコアの数々は、宮崎作品や北野作品とは違った意味で、映画監督と作曲家が優れたコラボレーションを展開した例である。『ふたり』(1991)の物語の中で妹と死んだ姉が主題歌《草の想い》すなわち《TWO OF US》を口ずさむシーン、あるいは『はるか、ノスタルジィ』(1993)で過去の記憶を呼び覚ますように流れてくるメインテーマ《Tango X.T.C.》など、大林作品における久石の音楽は、物語の展開上、なくてはならない重要な仕掛けのひとつとなっている。また、『水の旅人 侍KIDS』(1993)の本編をたとえリスナーがご覧になっていなくても、主題歌《あなたになら…》すなわち《FOR YOU》の美しいメロディを聴けば、この作品が夢と希望にあふれたファンタジー映画だということがたちどころに伝わってくるであろう。

 これら宮崎、北野、大林監督のための音楽に加え、本盤には久石の映画音楽を語る上で欠かせない、3人の重要な日本人監督の映画のために書いたテーマ曲が収録されている。

 今年2021年に90歳を迎える日本映画界の巨匠・山田洋次監督と久石がタッグを組んだ第2作『小さいおうち』(2014)の《The Little House》は、主人公が生きる激動の昭和の時代への憧れを表現したノスタルジックなワルツ。久石に初めて長編実写映画の作曲を依頼し、これまでに計6本の作品で久石を起用している澤井信一郎監督の『時雨の記』(1998)の《la pioggia》は、定年を控える妻子持ちの重役と未亡人の純愛をマーラー風の後期ロマン派スタイルで表現したテーマ曲。そして、滝田洋二郎監督と久石が組んだ2本目の作品にして、アカデミー外国語映画賞を受賞した『おくりびと』(2008)の《Departures -memory-》は、物語の中で主人公がチェロを演奏する設定を踏まえ、久石が撮影前に書き下ろした美しいメインテーマである。

 前述の映画音楽に加え、本盤にはエンターテインメントの音楽として、コマーシャル・フィルムに使われた《Friends》(TOYOTA「クラウン マジェスタ」)と《Silence》(住友ゴム工業「デジタイヤ プレミアム VEURO」)も収録されている(後者は久石のピアノ演奏映像がCMで使用された)。いっさいの予備知識がなく、これらの楽曲に耳を傾けてみれば、短いCMで流れた作品とはとても思えないだろう。もちろん、久石は商品コンセプトを充分踏まえた上で作曲しているのであるが、楽曲に聴かれる格調高いメロディは、紛れもなく彼自身の音楽そのものだ。つまり久石は、商業音楽だからと言って、決して安易な作曲姿勢に臨んでいない。ミニマル・ミュージックの作曲と同じく、真剣勝負で取り組んでいるのである。

 この他、本盤には久石がソロ・アルバム(主として『ピアノ・ストーリーズ』を銘打たれたソロ・アルバム・シリーズ)などで発表してきた、珠玉の小品の数々が含まれている。《Lost Sheep on the bed》《Rain Garden》、あるいは《Nocturne》などのように、彼が敬愛するサティやショパンのような大作曲家たちにオマージュを捧げた作品もあれば、久石流のクリスマス・ソングというべき《White Night》のような作品もあるし、《WAVE》(ジブリ美術館の館内音楽として発表された)や《VIEW OF SILENCE》のように、ミニマリストとメロディメーカーのふたつの側面を併せ持つ作品もあれば、《Silencio de Parc Güell》のように、音数を極力絞り込むことで”久石メロディ”を純化させた作品、あるいは《Les Aventuriers》のように、アクロバティックな5拍子でリスナーを興奮させる作品もある。これらの楽曲だけでなく、本盤一曲目の『キッズ・リターン』~《ANGEL DOLL》から、最終曲《World Dreams》(久石が音楽監督を務めるワールド・ドリーム・オーケストラW.D.O.のテーマ曲)まで、すべての収録曲について言えるのは、久石が人間という存在を信じ、肯定しながら、希望の歌を奏でているという点だ。つまるところ、それがミニマル・ミュージックとエンターテインメントの作曲における、久石の音楽の本質なのである。

 つい2ヶ月ほど前、幸いにも僕は、久石自身の指揮によるW.D.O.のコンサートで《Ashitaka and San》と《World Dreams》を聴くことが出来た。『もののけ姫』の物語さながらに世界が不条理な状況に陥り、破壊的な悲劇を体験したいま、ピアノが確固たる信念を奏でる《Ashitaka and San》を耳にした時、『もののけ姫』のラストシーンで「破壊の後の再生」を描いたこの楽曲が、実は我々自身が生きるいまの世界をも表現しているのだと気付かずにはいられなかった。人間は、夢を捨てず、希望を持って前に進まなければいけない。それこそが久石譲の音楽のエッセンス、すなわち「Songs of Hope」なのだと。

前島秀国 Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター
2021年6月

(CDライナーノーツより)

 

 

CDライナーノーツは英文で構成されている。日本国内盤には日本語ブックレット付き(同内容)封入されるかたちとなっている。おそらくはアジア・欧米諸国ふくめ、各国語対応ライナーノーツも同じかたちで封入されていると思われる。

 

ベストアルバム収録曲のオリジナル音源は下記にまとめている。ライナーノーツには、各楽曲の演奏者(編成)とリリース年はクレジットされているが収録アルバムは記載されていない。

また本盤は、いかなるリリース形態(CD・デジタル・ストリーミング)においても音質は向上している。もし、これまでにいくつかのオリジナル収録アルバムを愛聴していたファンであっても、本盤は一聴の価値はある。そして、これから新しく聴き継がれる愛聴盤になる。

 

 

 

 

NYに拠点を置くクラシック・レーベル DECCA GOLD世界同日リリースのベストアルバム第一弾!久石作品の中でも映画のために作られた珠玉のメロディが際立つ代表曲を中心に構成された愛蔵版。

 

 

 

 

 

 

オリジナルリリース

【Disc 1】
01. ANGEL DOLL
久石譲 『Kids Return』(1996)
02. la pioggia
03. il porco rosso
久石譲 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』(1998)
04. Lost Sheep on the bed
久石譲 『FREEDOM PIANO STORIES 4』(2005)
05. FOR YOU
久石譲 『WORKS・I』(1997)
06. White Night
10. Rain Garden
久石譲 『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』(1996)
07. DA-MA-SHI-E
久石譲 『Minima_Rhythm ミニマリズム』(2009)
08. Departures -memory-
久石譲 『おくりびと オリジナル・サウンドトラック』(2008)
09. TWO OF US
12. Summer
久石譲 『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』(2000)
11. Friends
久石譲 『WORKS II Orchestra Nights』(1999)
13. Les Aventuriers
久石譲 『Another Piano Stories ~The End of the World~』(2009)
14. Kids Return
※初収録  (Live recorded at Tokyo International Forum, August 16, 2017)

 

【Disc 2】
01.Links
05. MKWAJU 1981-2009
久石譲 『Minima_Rhythm ミニマリズム』(2009)
02. VIEW OF SILENCE
久石譲 『PRETENDER』(1989)
03. Nocturne
久石譲 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』(1998)
04. Silence
久石譲 『ETUDE ~a Wish to the Moon~』(2003)
06. Ashitaka and San
09. Tango X.T.C.
久石譲 『WORKS II Orchestra Nights』(1999)
07. The Rain
久石譲 『菊次郎の夏 サウンドトラック』(1999)
08. DEAD for Strings, Perc., Harpe and Piano: 1. D.e.a.d
久石譲 『WORKS III』(2005)
10. The Little House
久石譲 『WORKS IV -Dream of W.D.O.-』(2014)
11. HANA-BI
※初収録  (Live recorded at Tokyo International Forum, August 16, 2017)
12. Silencio de Parc Güell
久石譲 『ENCORE』(2002)
13. WAVE
久石譲 『Minima_Rhythm II ミニマリズム 2』(2015)
14. World Dreams
久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『WORLD DREAMS』(2004)

 

 

 

 

【mládí】for Piano and Strings 【A】
Summer / HANA-BI / Kids Return
久石譲弾き振り(ピアノを弾きながら指揮もする)コーナーです。Aプログラムでは北野武監督作品からおなじみのメインテーマをセレクトし久石譲ピアノと弦楽オーケストラによる演奏です。おなじみでありながらここ数年のコンサートでは聴く機会のなかった「HANA-BI」「Kids Return」というプログラムには多くのファンが歓喜したはずです。

「Summer」はピアノとヴァイオリン・ソロの掛け合いがみずみずしく爽やかで、弦楽もピチカートではじけています。きゅっと胸をしめつけられるような思い出の夏、日本の夏の代名詞といえる名曲です。この曲が生演奏で聴けただけで、今年の夏はいいことあった!と夏休みの絵日記に大きなはなまるひとつもらえた、観客へのインパクトと感動は超特大花火級です。

「HANA-BI」は一転して哀愁たっぷりでしっとりななかに内なるパッションを感じる演奏。特に後半はピアノで旋律を弾きながら、低音(左手)で重厚に力強くかけおりる箇所があるのですが、今回それを弦楽低音に委ねることでより一層の奥深さが際立っていたように思います。ピアノも同フレーズ弾いていましたけれど、従来のようなメロディを覆ってしまうほどの激しい低音パッションというよりも、ぐっとこらえたところにある大人の情熱・大人の覚悟のようなものを感じるヴァージョンでした。渋い、貫禄の極み、やられちゃいます。

「Kids Return」は疾走感で一気に駆け抜けます。弦のリズムの刻み方が変わってる、と気づきかっこいいと思っているあっという間に終わってしまいました。そして今回注目したのが中音楽器ヴィオラです。相当がんばってる!このヴァージョンの要だな、なんて思った次第です。ヴァイオリンが高音でリズムを刻んでいるときの重厚で力強い旋律、一転ヴァイオリンが歌っているときの躍動感ある動き、かなり前面に出ていたような印象をうけます。管弦楽版にひけをとらない弦楽版、フルオーケストラ版では主に金管楽器の担っている重厚で高揚感あるパートをストリングス版ではヴィオラが芯を支える柱として君臨していたような、そんな気がします。これはスカパー!放送でじっくり確認してみたいところです。

ピアノとストリングスで3曲コーナーか、なんて安直なこと思ったらいけません。こんなにも楽曲ごとに色彩豊かに表情豊かにそれぞれ異なる世界観を演出してくれる久石譲音楽。メロディは違っても楽器編成が同じだからみんな同じように聴こえる、そんなことの決してない三者三様の巧みな弦楽構成。清く爽やかで、憂い愛のかたち、ひたむき疾走感。それは誰もが歩んできた「mládí」(青春)のフラッシュバックであり、少年期・円熟期・青年期いつまでも青春そのもののようです。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

2021.10 追記

第2弾ベストアルバムでは、一口コメント大募集企画として、全28曲から好きな1曲1ツイート「この曲好き!」その魅力・思い出を140文字で。よせがきのように集まったらいいなとTwitterで募集しました。

 

 

 

 

【Disc1】
01. ANGEL DOLL  (映画『キッズ・リターン』より)
02. la pioggia  (映画『時雨の記』より)
03. il porco rosso  (映画『紅の豚』より)
04. Lost Sheep on the bed
05. FOR YOU  (映画『水の旅人 侍KIDS』より)
06. White Night
07. DA-MA-SHI-E
08. Departures -memory-  (映画『おくりびと』より)
09. TWO OF US  (映画『ふたり』より)
10. Rain Garden
11. Friends  (TOYOTA「クラウン マジェスタ」CMソング)
12. Summer  (映画『菊次郎の夏』より)
13. Les Aventuriers
14. Kids Return  (映画『キッズ・リターン』より)  ※初収録

【Disc2】
01. Links
02. VIEW OF SILENCE
03. Nocturne
04. Silence  (住友ゴム工業「デジタイヤ プレミアム VEURO」CMソング)
05. MKWAJU 1981-2009
06. Ashitaka and San  (映画『もののけ姫』より)
07. The Rain  (映画『菊次郎の夏』より)
08. DEAD for Strings, Perc., Harpe and Piano: 1. D.e.a.d
09. Tango X.T.C.  (映画『はるか、ノスタルジィ』より)
10. The Little House  (映画『小さいおうち』より)
11. HANA-BI  (映画『HANA-BI』より)  ※初収録
12. Silencio de Parc Güell
13. WAVE
14. World Dreams

 

All music composed by Joe Hisaishi

All music arranged by Joe Hisaishi
except
“For You” arranged by Nick lngman

All music produced by Joe Hisaishi
except
“la pioggia”,”il porco rosso”,”White Night”,”Rain Garden”,”Friends”,”Nocturne”,”Ashitaka and San”,”Tango X.T.C.” produced by Joe Hisaishi and Eiichiro Fujimoto
“Silence”,”Silencio de Parc Güell” produced by Joe Hisaishi and Masayoshi Okawa

Mastering Engineer: Christian Wright (Abbey Road Studios)

Mastered at Abbye Road Studios, UK

Art Direction & Design: Kristen Sorace

Photography: Omar Cruz

and more

 

Disc. 久石譲 『赤狐書生 (Soul Snatcher) オリジナル・サウンドトラック』

2021年2月19日 デジタルリリース

 

映画『赤狐書生 (Soul Snatcher)』
公開日:2020年12月4日 *中国
監督:宋灝霖(ソン・ハオリン)伊力奇(イー・リーチー)
主演:陳立農(チェン・リーノン)李現(リー・シェン)哈妮克孜(ハニ・ケジー)裴魁山 (ペイ・クイシャン)姜超(ジアン・チャオ)張晨光(ジャン・チェングアン)

 

日本公開日:2021年10月22日

中国・香港/2020年/125分
原題:赤狐書生
英題:SOUL SNATCHER
邦題:レジェンド・オブ・フォックス 妖狐伝説

 

 

■メイキング動画について

映画予告映像、久石譲インタビュー、レコーディング風景で構成されたもの。

 

久石譲インタビュー 書き起こし

「今回の映画はとても素晴らしく出来ていると思います。ファンタジー・アクションといいますか、でもしっかりと二人の若者の友情みたいなものが、とてもしっかりと描かれていていたので。音楽的にも、通常よりもたくさん音楽を書いて。本当にエンターテインメントとして楽しめる、ダイナミックでありながら、やっぱりある程度こうきちんと知性もあるような。音楽が映像とマッチするように作ったと思っているので、音楽のあり方と映像のダイナミックさ。そういう音楽を目指したんですけれども、自分ではすごくよくできたと思って満足しています」

 

 

全体をとおして。

約2時間の上映時間に対して、約1時間半以上は音楽が配置されている。ファンタジー映画ということもあって、その世界観をつくりあげるための音楽配分は多めとなっている。39人編成オーケストラながら、乾いた重低感のあるパーカッションなどを巧みに盛りこむことで、土台のしっかりした足腰のつよい楽曲も存分にある。

音楽収録は2020年11月7日、ビクタースタジオにて、招集型オーケストラで行われている。新型コロナウィルスの影響によって、この規模のオーケストラへと予定変更を余儀なくされたのか、そもそもこの規模を予定していたのか。どちらかはわからない。いずれにしても、この39人編成オーケストラでありながら、ダイナミックに躍動感ある音楽には、打楽器群が大きく貢献している。

 

本作は、メインテーマやそのバリエーションといったメロディを展開する手法ではなく、ミニマルな手法をとっている。メインテーマに変わる、この映画のための第1主題・第2主題のような短いモチーフがあったとして、その短いモチーフたちを料理(交錯・分解・伸縮など)しながら、映像に対して一種の通奏低音のようにうまくなじませている。

映画鑑賞後に鼻歌で歌えるほどの、印象的なメロディはあまりないかもしれない。近年、久石譲の映画音楽に対する立ち位置の変化を現したような、かつ、クラシックの手法に重きを置いた音楽づくりになっている。映像と距離をとるための主張しすぎない音楽と、ファンタジー映画のために必要な音楽量とのバランス。

あえてイメージとして挙げるとするなら、映画『千と千尋の神隠し』のサウンドトラック「16.千の勇気」、千尋が油屋の階段を駆け下りるシーンなんかで使われていたと思う曲、こういったスリリングで緊迫感を演出する音楽テイストが多い。また、「3.誰もいない料理店」では、後半に「メインテーマ あの夏へ」の変奏旋律が登場するけれど、本作ではとにかくメロディにいかない。同曲前半のように、映像を補完する背景音楽のあり方で曲は流れていく。

ピッツィカートなどで奏される軽やかでコミカルな楽曲も、宴で艶やかに踊るような楽曲も、アジアン・ファンタジーらしく五音音階からなるものも多い。こういったことからも、無意識に『千と千尋の神隠し』を想起したのかもしれない。もちろん、似た曲があるかと言われたら、それはない。ハラハラドキドキ、緊迫シーン、戦う場面など、冒険ファンタジーなストーリー展開のなかで、ミニマル手法を駆使した楽曲が特徴といえる。

 

オーケストラサウンドに、エッセンスとしてシンセサイザー音もブレンドされている。シンセサイザーらしい音色の使い方や選び方をしている。生音のストリングスにシンセサイザーのストリングスを混ぜる手法(それもあるかもしれない、素人耳にはわからない)というよりも、『Deep Ocean』音楽のようにシンセサイザーにしか出せない音色をうまく組み合わせた楽曲たちが目立つ。

また、これまでにない久石譲音楽の特徴として、楽曲に使われている音楽的効果音(シンセサイザー音)と、本編に使われている映像的効果音(SE)が、くっきり区別することが難しいほど近い。これにより、SEから楽曲に自然と移っていったりその逆もあったりと、どこまでが曲でどこからがSEかの境界線が引きにくいという、音響全体(楽曲と効果音)の見事な通奏効果を生み出している。どこまで久石譲と音響効果の話し合いや調整による意図が働いているかはわからないが、今回の達成は、これからにつながる大きな成果ともいえるし、映画における音響芸術のクオリティをワンステップおしあげたともいえると思う。

 

 

少し個別に。

3つの主要テーマ。

運命のテーマ。プロローグから、ダイナミックな物語の展開を予感させる、緩急あるミニマル・モチーフが展開する。静謐な弦楽合奏によるミニマル旋律にはじまり、幾重にも交錯し、強弱と重厚の増減でうねりをともなっていく。パーカッションの鼓動やホイッスルの遠くへ伸びる旋律を織りまぜながら、ファンタジー感と神秘感を演出している物語のはじまり。プロローグからタイトルバックまでの約15分にわたってつづく音楽は、タイトルバックでピークを迎える弦楽器の精巧な音型もまた、ミニマルな旋律になっている。(Track.1-3,29)(Track.3ラストでタイトルバック)

友情のテーマ。こちらは大きな弧を描くようなメロディで、優しく温かい曲想。シンプルな旋律線と、エモーショナルになりすぎないハーモニー。主人公二人の友情の交流を描いたシーンに、たびたびバリエーションで登場する。状況にあわせて短調な旋律で奏されることもある。(Track.7,14,21,28,34)

愛のテーマ。主要キャラクターの一人、女性が登場するシーンで多く聴かれる楽曲。お香のような、ゆらゆらと、ふわっとした、無軌道な和音ですすむ。ゆるやかな独奏、メロディとアドリブのあいだのような、動きまわりすぎない加減の無軌道な旋律がのる。魅惑的で妖艶な曲想は、これまでの久石譲には珍しい。クラリネット、ピアノ、フリューゲルホルン、フルート、ストリングス。登場するたびにメロディを奏でる楽器たちを変え、まるで衣装替えに見惚れるように、つややかに彩る。(Track.17,20,25,27)

 

公式公開されていた映画ワンシーン動画(約1-2分)、そこでも聴くことができたホイッスルをメインとした楽曲は、ホイッスルが細かく精巧な節まわしを披露していて、伸びやかに広がっていく。(Track.15)

 

総じて、主要楽曲は、登場の多い順に、友情のテーマ、愛のテーマ、運命のテーマが、本作において印象的で重要な柱になっていると思われる。また、それらを合算したとしても30分前後としたときに、ほかの多くをミニマル手法の音楽によって、映像にうまくなじませている。ファンタジー世界に立体感をあたえている。メイキング動画からも、音楽割のMナンバー「M36」と、少なくとも36曲は書き下ろしていることもわかる。

 

 

映画エンドロールに流れる主題歌は、作曲・編曲ふくめて久石譲楽曲ではない。主演俳優が歌唱している。

 

 

2021.02 追記

「赤狐書生 オリジナル・サウンドトラック」デジタル・リリース。映画は中国公開の後、アメリカではVOD配信のかたちで公開されている。日本公開も待たれる。デジタルリリースのメリットも顕著で、CD収録時間を気にすることなく1時間20分の音楽が完全音源化されたこと、世界同時的に各国一斉に配信リリースされたこと。大きな可能性を示したリリースパターンといえ、映画音楽の認知や愛聴が広がる未来へのポテンシャルも感じる。サントラ・レビューも本文末にトラックナンバーを追記するかたちで補足した。

 

 

2021.07 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサートにて「英蓮 / Yinglian」が初演された。

 

 

2022.07追記

アルバム『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』に収録された。

 

 

 

 

1.狐と書生
2.月夜の集い
3.旅の始まり
4.蚌人探し
5.逃げるロバ
6.密談
7.静かな街
8.苦海書院
9.蛙の罠
10.妖怪蛙
11.傀儡書生
12.妖怪蛙との対決
13.作戦失敗
14.兄を探して
15.川下り
16.建康城の誘惑
17.英蓮
18.牡丹桜
19.悪霊の呪い
20.告白
21.奮起の雷
22.試験開始
23.悪霊の誘い
24.中陰界
25.誓い
26.真実
27.英蓮の死
28.決裂の時
29.天命
30.最後の願い
31.怒りの決戦
32.子進のために
33.本物の狐仙
34.小白と子進

音楽:久石譲

 

Soul Snatcher (Original Motion Picture Soundtrack)

1. A Fox and a Scholar
2. The Moonlight Gathering
3. The Beginning of the Journey
4. Finding My Clamen
5. Donkey Running Away
6. Secret Talk
7. A Quiet Town
8. The Academy of Miserable Sea
9. Frog’s Trap
10. The Frog Monster
11. Puppet Scholars
12. Battle with the Frog Monster
13. Mission Failed
14. Looking for Brother Daoran
15. Boat Ride
16. Temptation of Jiankang City
17. Yinglian
18. The Peony Brothel
19. Curse of the Evil Spirits
20. Proposal
21. Rousing of Thunderbolts
22. Starting the Imperial Examination
23. Lure of the Evil Spirits
24. The Bardo World
25. Promise
26. Truth
27. Death of Yinglian
28. Rupture of a Friendship
29. Providence
30. Last Wish
31. The Furious Showdown
32. For Zijin
33. A Real Immortal Fox
34. Xiao Bai and Zijin

Music by Joe Hisaishi

 

Disc. 久石譲 『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』(Domestic / International)

2020年2月21日 CD発売 UMCK-1638/9

 

世界同日リリース&ストリーミングリリース

 

NYに拠点を置くクラシック・レーベル DECCA GOLD世界同日リリースのベストアルバム!

久石作品の中でも映画のために作られた珠玉のメロディが際立つ代表曲を中心に構成された愛蔵版。

(CD帯より)

 

 

iTunes紹介

宮崎駿監督作品や北野武監督作品の音楽を数多く手掛け、世界中の音楽ファンを魅了する作曲家/ピアニスト、久石譲。NYに拠点を置くクラシックレーベルDECCA GOLDからリリースされた、全28曲収録のベストアルバム。作曲家として注目を集めるきっかけとなった、二人の監督の代表作を含めた映画のサウンドトラックを中心に、CMソング、オリジナル曲など、幅広いジャンルから選曲。映画に使用されたオリジナルトラックのほか、2004年に新日本フィルハーモニー管弦楽団と共に立ち上げたWORLD DREAM ORCHESTRAによるライブ演奏”il porco rosso”と”Madness”、管弦楽曲用にまとめた”My Neighbour TOTORO (from “My Neighbor Totoro”)”、ピアノソロで演奏された”Ballade (from “BROTHER”)”、”HANA-BI (from “HANA-BI”)”、斬新な楽器編成に編曲し直された”Ponyo on the Cliff by the Sea (from “Ponyo on the Cliff by the Sea”)”など、さまざまなアレンジも楽しめる。代表曲と共に、久石譲という音楽家のキャリアを一望できる構成になっており、入門盤としてはもちろん、長年のファンも満足のできる充実の一作。現代音楽の実験性と美しいメロディを融合させた珠玉の名曲たちを堪能しよう。

このアルバムはApple Digital Masterに対応しています。アーティストやレコーディングエンジニアの思いを忠実に再現した、臨場感あふれる繊細なサウンドをお楽しみください。「Apple Digital Master is good! 高音域が聴こえるね。とても良い音だと思います」(久石譲)

 

およびApple Music関連インタビュー

 

 

 

An Introduction to the Music of Joe Hisaishi

 日本映画とその音楽を支えてきた作曲家、と聞いて、日本以外に暮らす映画ファンや音楽ファンのみなさんは誰を連想するだろうか? 黒澤明監督の名作のスコアを作曲した早坂文雄、『ゴジラ』をはじめとるす東宝怪獣映画の音楽を手がけた伊福部昭、あるいは勅使河原宏や大島渚などの監督たちとコラボレーションした武満徹くらいはご存知かもしれない。大変興味深いことに、これらの作曲家たちは映画音楽作曲家として活動しながら、クラシックの現代音楽作曲家としても多くの作品を書き残した。そして久石譲も、基本的には彼らと同じ伝統に属する作曲家、つまり映画音楽と現代音楽のふたつのフィールドで活躍する作曲家である。

 映画音楽(テレビ、CMなどの商業音楽を含む)作曲家としての久石は、宮崎駿監督や高畑勲監督のスタジオジブリ作品のための音楽、それから北野武監督のための音楽などを通じて、世界的な名声を確立してきた。一方、現代音楽作曲家としての久石は、日本で最初にミニマル・ミュージックを書き始めたパイオニアのひとりであり、現在は欧米のミニマリズム/ポスト・ミニマリズムの作曲家たちとコラボレーションを展開している。幅広い聴衆を前提にしたエンターテインメントのための作曲と、実験的な要素の強いミニマル・ミュージックの作曲は、一見すると互いに相反する活動のようにも思えるが、実のところ、このふたつは彼自身の中で分かちがたく結びついている。そこが久石という作曲家の最大の特徴であり、また美点だと言えるだろう。

 日本列島の中腹部、長野県の中野市に生まれた久石は、4歳からヴァイオリンを学び始める一方、父親の仕事の関係から、多い時で年間300本近い映画を観るという環境に恵まれて育った。そうした幼少期の体験が、現在の彼の活動の土台になっているのは言うまでもないが、久石は当初から映画音楽の作曲家を志していたわけではない。国立音楽大学在学時、彼が関心を寄せ、あるいは強く影響を受けたのは、シェーンベルク、ベルク、ウェーベルンの新ウィーン楽派の作曲家たちであり、シュトックハウゼン、クセナキス、ペンデレツキといった前衛作曲家たちであり、あるいは彼がジャズ喫茶で初めて知ったジョン・コルトレーン、マイルス・デイヴィス、マル・ウォルドロン、そして友人宅で初めて聞いたテリー・ライリー、ラ・モンテ・ヤング、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスのアメリカン・ミニマル・ミュージックの作曲家たちであった。大学卒業後、スタジオ・ミュージシャンとして活動しながら、現代作曲家としてミニマル・ミュージックの新作を書き続けていた久石は、1982年にテクノ・ポップ色の強いアルバム『INFORMATION』をリリースし、ソロ・アーティスト・デビューを飾る。このアルバムをいち早く聴いたのが、当時、宮崎駿監督『風の谷のナウシカ』の製作に携わっていた高畑勲と鈴木敏夫だった。

 映画のプロモーションを盛り上げるため、音楽による予告編というべきアルバム『風の谷のナウシカ イメージアルバム』のリリースを計画していた高畑と鈴木は、『INFORMATION』のユニークな音楽性に注目し、久石をイメージアルバムの作曲担当に起用した。宮崎監督の説明を受けながら『風の谷のナウシカ』の絵コンテ(ストーリーボード)を見た久石は、(まだ完成していなかった)映画本編の映像に対して作曲するのではなく、宮崎監督が映画で描こうとしている”世界観”に対して直接作曲することになった(そこから生まれた曲のひとつが、本盤に収録されている《Fantasia》の原曲《風の伝説》である)。イメージアルバムの仕上がりに満足した宮崎監督、高畑、鈴木の3人は、久石に『風の谷のナウシカ』映画本編の作曲を正式に依頼。かくして、久石は『風の谷のナウシカ』で本格的な長編映画音楽作曲家デビューを果たすことになった。

 この『風の谷のナウシカ』の経験を通じて、久石は「監督の作りたい世界を根底に置いて、そこからイメージを組み立てていく」という映画音楽作曲の方法論、すなわち監督の”世界観”に対して音楽を付けていくという方法論を初めて確立した。つまり、単に映画の物語の内容を強調したり補完したりする伴奏音楽を書くのではなく、あるコンセプトに基づいた音楽──例えば絵画や文学を題材にした音楽──を作曲するのと基本的には同じ姿勢で、映画音楽を作曲するのである(もちろん映画音楽だから、映像のシーンの長さに合わせた細かい作曲や微調整は必要であるけれど)。そうした彼の方法論、言い換えれば音楽による”世界観”の表現が最もわかりやすい形で現れたものが、日本では”久石メロディ”と呼ばれ親しまれている、数々の有名テーマのメロディにほかならない。久石がメロディメーカーとして天賦の才に恵まれているのは事実だが、それだけでなく、映画やテレビやCMなどの作品の核となる”世界観”をどのように音楽で伝えるべきか、彼がギリギリのところまで悩み苦しんだ末に生まれてきたものが、いわゆる”久石メロディ”なのだということにも留意しておく必要があるだろう。

 『風の谷のナウシカ』以降、久石は現在までに80本以上の長編映画音楽のスコアをはじめ、テレビやCMなど膨大な数の商業音楽を作曲しているが、その中でも、彼自身が得意とするミニマル・ミュージックの音楽言語を商業音楽の作曲に応用し、大きな成功を収めた例として有名なのが、『あの夏、いちばん静かな海。』に始まる一連の北野武監督作品の音楽である。セリフを極力排除し、いわゆる”キタノブルー”で映像の色調を統一した北野監督のミニマリスティックな演出と、シンセサイザーとシーケンサー、あるいはピアノと弦だけといった限られた楽器編成でシンプルなフレーズを繰り返していく久石のミニマル・ミュージックは、それまでの映画表現には見られなかった映像と音楽の奇跡的なマリアージュを実現させた。

 ”久石メロディ”が映画の”世界観”を凝縮して表現する場合でも、あるいは彼自身のミニマル・ミュージックの語法が映画音楽の作曲に応用される場合でも、久石は一貫して「映像と音楽は対等であるべき」というスタンスで作曲に臨んでいる。そうした彼の作曲姿勢、言い換えれば彼の映画音楽作曲の美学は、彼が敬愛するスタンリー・キューブリック監督の全作品──とりわけキューブリックが自ら既製曲を選曲してサウンドトラックに使用した『2001年宇宙の旅』以降の作品──から学んだものが大きく影響していると、久石は筆者に語っている。映像と音楽が同じものを表現しても意味がない、映像と音楽が対等に渡り合い、時には互いに補いながら、ひとつの物語なり”世界観”なりを表現したものがキューブリックの映画であり、ひいては久石にとっての映画音楽の理想なのである。同時に、「映像と音楽は対等であるべき」とは、作曲家が映画監督とは異なる視点で物語を知覚し、それを表現していくということでもある。そうした作曲上の美学を、久石はミニマル・ミュージックの作曲、特にオランダの抽象画家マウリッツ・エッシャーをモチーフにした作品の作曲を通じて自然と体得していったのではないか、というのが筆者の考えである。若い頃からエッシャーのだまし絵(錯視画)に強い関心を寄せてきた久石は、エッシャーのだまし絵が生み出す視覚的な錯覚と、ミニマル・ミュージックのズレが生み出す聴覚上の錯覚との類似性に注目し、それを実際のミニマル・ミュージックの作曲に生かしていった(例えば1985年作曲の《DA・MA・SHI・絵》や2014年作曲の弦楽四重奏曲第1番など)。そうした音楽を書き続けてきた久石が、映画音楽の作曲において、映像作家が視覚だけでは認識しきれない物語の”世界観”を、作曲家という別の視点で認識し、それ(=世界観)を表現するようになったとしても、べつだん不思議なことではない。つまり久石の映画音楽は──エッシャーのだまし絵がそうであるように──物語から音楽というイリュージョン(錯覚)を作り出し、それによって物語の”世界観”を豊かにしているのである。そこに、長年ミニマル・ミュージックの作曲を手がけてきた久石が、映画音楽の作曲において発揮する最大の強みが存在すると、筆者は考える。だからこそ彼の映画音楽は──本盤の収録曲に聴かれるように──映画から切り離された形で演奏されても、きわめて雄弁に語りかけてくるのだ。

 本盤『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』には、映画やテレビのために書かれた音楽を独立した作品として書き直したり再構成し直したりしたバージョンが数多く収められている。最初に触れたように、久石は映画やテレビの単なる伴奏音楽を書くのではなく、その”世界観”に対して音楽を付けるというスタンスで作曲に臨んでいる作曲家である。その”世界観”の表現は、必ずしもオリジナル・サウンドトラックの録音とリリースで完結するわけではなく、まだまだ発展の余地が残されていることが多い。その発展を彼のソロ・アルバムの中で実現したものが、すなわち本盤に収録された有名テーマの演奏に他ならない。その演奏において、久石自身のピアノ・ソロが大きな比重を占めているのは言うまでもないが、ここでひとつだけ指摘しておきたいのは、彼がピアノのテーマを作曲する時は日本人の掌の大きさを考慮し、4度の音程を意識的に多用しながら作曲しているという点だ。もし、海外のリスナーが久石の音楽を日本的、アジア的、東洋的だと感じるならば、それは彼が音楽を付けた日本映画や日本文化の中で描かれている、日本特有の”世界観”を表現しているだけでなく、日本人(を含むアジア人)にとって肉体的に無理のない形で音楽が自然に流れているからだ、というこをここで是非とも強調しておきたい。

 そして、急いで付け加えておきたいのは、CD2枚組という収録時間の関係上、本盤『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』に収まりきらなかった久石の重要作、人気作がまだまだ山のように存在しているという事実である。特に、近年彼が手がけた映画音楽──今年2019年に日本公開された『海獣の子供』や『二ノ国』など──は、ミニマル・ミュージックの作曲家・久石の特徴と、映画音楽作曲家・久石の実力が何ら矛盾なく共存する形で作曲されており、これまでにない彼の新たな魅力が生まれ始めている。さらに、ミニマリストとしての久石の活動も、フィリップ・グラスやデヴィッド・ラングといった作曲家との共演やコラボレーション、あるいはマックス・リヒター、ブライス・デスナー、ニコ・ミューリー、ガブリエル・プロコフィエフといった作曲家の作品を彼が日本で演奏・紹介する活動を通じて、新たな側面を見せ始めている。本盤『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』は、そうした音楽家・久石譲の全貌からなる壮大な物語”ヒサイシ・ストーリーズ”のほんの序曲に過ぎない。これまで久石がリリースしてきたアルバムに倣い、仮に本盤のアルバム・タイトルを「HISAISHI STORIES 1」と呼び直してみるならば、いち早く「HISAISHI STORIES 2」を聴いてみたいと思うのは、筆者だけではないはずである。

 

 

DISC 1

One Summer’s Day
Kiki’s Delivery Service
米国アカデミー長編アニメ映画賞を受賞した宮崎監督『千と千尋の神隠し』(2001)のメインテーマ《One Summer’s Day》(あの夏へ)と、宮崎監督が角野栄子の同名児童文学を映画化した『魔女の宅急便』(1989)のメインテーマ《Kiki’s Delivery Service》(海の見える街)は、それぞれのヒロインがそれまで親しんだ日常と異なる”異界”──『千と千尋の神隠し』の場合は千尋が迷い込む湯屋の町、『魔女の宅急便』の場合はキキが新たな生活を始める大都会コリコ──に足を踏み入れていく時に感じる、そこはかとない期待と不安を表現しているという点で、対をなす2曲ということが出来るかもしれない。ピアノがニュアンスに富んだ響きを奏でる《One Summer’s Day》と、ピアノがメロディをくっきりと演奏する《Kiki’s Delivery Service》。少女の自立と成長という共通したテーマを扱い、しかもピアノという同じ楽器を用いながらも、作品の世界観に見合った音楽を書き分け、弾き分けている久石の音楽の多様性に注目したい。

 

Summer
夏休み、どこか遠くで暮らしているという母親に会うため、お小遣いを握りしめて家を飛び出した小学3年生の正男と、彼の旅に同行することになったチンピラ・菊次郎の心の交流を描いた、北野武監督作品『菊次郎の夏』(1999)のメインテーマ。弦楽器のピツィカートがテーマのメロディを導入した後、久石のピアノ・ソロが軽やかにテーマを演奏する。当初、久石はエリック・サティ風の楽曲をメインテーマ用に作曲し、《Summer》をサブテーマとして使う作曲プランを抱いていたが、両者を聴き比べた北野監督の判断により、サティ風の楽曲に比べてより軽くて爽やかな《Summer》がメインテーマに決まったという。

 

il Porco rosso ー Madness
世界大恐慌後のイタリアを舞台に、豚の姿に変わった伝説のパイロット、ポルコ・ロッソの活躍を描いた宮崎監督『紅の豚』(1992)より。物語の時代が1920年代後半に設定されているため、久石の音楽も1920年代のジャズ・エイジを強く意識したスコアとなった。本盤で演奏されている2曲のうち、前半の《il porco rosso》は、イメージアルバムの段階で《マルコとジーナ》と名付けられていた、《帰らざる日々》のテーマ。ジャジーなピアノが、マルコ(ポルコの本名)と美女ジーナのロマンスをノスタルジックに演出する。後半の《Madness》は、ポルコがファシストたちの追手を逃れ、飛行艇を飛び立たせるアクション・シーンの音楽。もともとこの楽曲は、小説家F・スコット・フィッツジェラルドをテーマにした久石のソロ・アルバム『My Lost City』(1992、アルバム名はフィッツジェラルドのエッセイ集のタイトルに由来)用に書き下ろした楽曲だが、宮崎監督の強い要望で『紅の豚』本編への使用が決まったという逸話がある。大恐慌直前のジャズ・エイジの”狂騒”と、1980年代後半の日本のバブル経済の”狂騒”を重ね合わせて久石が表現した《Madness》。その警鐘に耳を傾けることもなく、日本のバブル経済は『My Lost City』リリースと『紅の豚』公開の直後、崩壊した。

 

Water Traveller
一寸法師を思わせる水の精・墨江少名彦(すみのえの・すくなひこ)と小学生・悟(さとる)の友情と冒険を描いた、大林宣彦監督の冒険ファンタジー映画『水の旅人 侍KIDS』(1993)のメインテーマ。日本映画としては破格の制作費を投じたこの作品は、きわめて異例なことに、サウンドトラックの演奏をロンドン交響楽団(LSO)が担当した。そのため、久石はLSOのダイナミックかつ豊かなサウンドを意識しながら、自身初となる大編成のフル・オーケストラによる勇壮なフィルム・スコアを書き上げた。本盤には、映画公開から17年後の2010年、久石自身がLSOを指揮して再録音した演奏が収録されている。

 

Oriental Wind
原曲は、サントリーが2004年から発売している緑茶飲料「伊右衛門」のCM曲として、久石が”和”のテイストを基調としながら2004年に作曲。通常、日本のCM音楽では、作曲家は実際のオンエアで使用される15秒もしくは30秒ぶんの音楽しか作曲しない。そのため、新たな音楽素材を追加し、演奏会用音楽としてまとめ直したものが、ここに聴かれるバージョンである。追加された部分では、久石自身のルーツであるミニマル・ミュージック的な要素や、新ウィーン楽派風のストリングス・アレンジも顔を覗かせる。

 

Silent Love
サーフィンに熱中する聾唖の青年・茂と、同様に聾唖の障害を持つ恋人・貴子のラブストーリーを静謐なスタイルで描いた、北野監督『あの夏、いちばん静かな海。』(1991)のメインテーマ。久石が北野作品のスコアを初めて担当した記念すべき第1作であり、北野監督のミニマルな演出法と久石のミニマル・ミュージックが奇跡的に合致した映画芸術としても忘れがたい作品である。セリフが極端に少ない本作において、久石のスコアはサイレント映画の伴奏音楽のような役割を果たし、シンセサイザーとシーケンサーによる幻想的なサウンドを用いることで、言葉では表現できない豊かな情感と詩情を見事に表現していた。嬉しいことに、本盤にはオリジナル・サウンドトラックの録音がそのまま収録されている。

 

Departures
米国アカデミー外国語映画賞を獲得した滝田洋二郎監督『おくりびと』(2008)の音楽より。オーケストラ解散のため職を失ったチェロ奏者が、家族を養うためにやむなく就いた葬儀屋、すなわち納棺師の仕事を通じて、人間の死生観を問い直すという物語だが、本編の中でチェロの演奏シーンが登場することもあり、久石は撮影に先立ってチェロのテーマを書き上げた。本盤に聴かれる演奏は、生の喜びに満ち溢れたメインテーマ《Departures》と、チェロの相応しい哀悼の感情を表現したサブテーマ《Prayer》から構成されている。

 

”PRINCESS MONONOKE” Suite
(The Legend of Ashitaka ~ The Demon God ~ Princess Mononoke)
公開当時、日本映画の興行記録を塗り替えた宮崎監督作『もののけ姫』(1997)より。タタリ神によって死の呪いをかけられた青年アシタカは、呪いを解くために西の地に向かい、タタラ場の村に辿り着く。そこでアシタカが見たものは、村人たちが鉄を鋳造するため、神々の森の自然を破壊している姿だった。アシタカは、森を守るためにタタラ場を襲う”もののけ姫”サンと心を通わせていくうちに、人間と森が共生できる道が存在しないのか、苦悩し始める。本盤に収録された組曲では、最初にアシタカが登場するオープニングの音楽《アシタカせっ記》が、壮大な叙事詩に相応しい風格で演奏される。続いて、アシタカがタタリ神と死闘を繰り広げる部分の音楽《TA・TA・RI・GAMI》。この部分は、”祭囃子”にインスパイアされた音楽で、演奏には和太鼓や鉦など、伝統的な邦楽器が使用されている(祭囃子は、タタリ神が何らかの形で鎮めなければならない超自然的な存在だということを暗示している)。そして、人間と森の共生をめぐり、アシタカが犬神のモロの君と諍うシーンで流れる《もののけ姫》の音楽へと続く。

 

The Procession of Celestial Beings
子供のいない竹取とその妻が、竹の中から見つけた女の赤子を育てるが、絶世の美女・かぐや姫として成人した彼女は生まれ故郷の尽きに戻ってしまう、という話が書かれた日本最古の文学「竹取物語」を、高畑勲監督が独自の解釈で映画化した遺作『かぐや姫の物語』(2013、米国アカデミー賞長編アニメ賞候補)の音楽より。『風の谷のナウシカ』をはじめ、いくつかの宮崎作品でプロデューサーや音楽監督(ハリウッドのミュージック・スーパーバイザーに相当する)を務めた高畑は、久石の映画音楽作曲に大きな影響を与えた人物のひとりだが、監督と作曲家という関係でふたりがコラボレーションを実現させたのは、この『かぐや姫の物語』が最初にして最後である。この作品で、久石はチェレスタやグロッケンシュピールといったメタリカルでチャーミングな音色を持つ楽器を多用し、「かぐや姫」の名の由来でもある彼女の光り輝く姿を表現した。仏に導かれ、月からかぐや姫を迎えに来た天人たちが雲に乗って現れるクライマックスシーンの音楽《天人の音楽》では、久石は「サンバ風に」という高畑監督のアイディアを踏まえ、さまざまなワールド・ミュージックの音楽語法を掛け合わせることで”彼岸の音楽”を表現している。

 

My Neighbour TOTORO
母親の療養のため、田舎に引っ越してきた姉妹サツキとメイが、森の中で遭遇する不思議な生き物トトロとの交流を描いた宮崎監督『となりのトトロ』(1988)の主題歌が原曲。宮崎監督は本作の企画書段階から、子供たちが「せいいっぱい口を開き、声を張り上げて唄える歌」と「唱歌のように歌える歌」が本編の中で流れることを希望していた。そのため、久石は本編のスコア作曲に先駆け、宮崎監督と童話作家・中川李枝子が歌詞を書き下ろしたイメージ・ソングを10曲作曲し、実質的には新作童謡集の形をとった『となりのトトロ イメージ・ソング集』を録音・リリースした。その中の1曲、宮崎監督が作詞を手がけた主題歌《となりのトトロ》のメロディは、久石が風呂場で「ト・ト・ロ」という言葉を口ずさんでいるうちに、自然と生まれてきたという驚くべきエピソードが残っている。ここに聴かれるバージョンは、ブリテン作曲《青少年のための管弦楽入門》やプロコフィエフ作曲《ピーターと狼》と同じく、ナレーションつきの管弦楽曲としてまとめられた《オーケストラ・ストーリーズ「となりのトトロ」》の終曲。演奏は、ブリテンの曲と縁の深いロンドン交響楽団が担当している。

 

 

DISC 2

Ballade
アメリカに逃亡したヤクザが、兄弟仁義に拘りながら、現地のギャングとの抗争の果てに自滅する姿を描いた、北野監督『BROTHER』(2000)のメインテーマ。サウンドトラックではフリューゲル・ホルンがソロ・パートを演奏していたが、本盤にはソロ・ピアノ・バージョンが収められている。北野監督が初めて海外ロケを敢行した作品であり、久石も作曲に先駆け、実際にロサンゼルスの撮影現場を訪れた。その時に北野監督と久石が交わしたキーワード”孤独と叙情”が、作曲の大きなヒントになったという。

 

KIDS RETURN
高校時代、共にボクシングに熱中しながらも、ヤクザに転落していくマサルと、プロボクサーへの道を歩み始めるシンジの友情と挫折を描いた、北野監督の青春映画『Kids Return』(1996)のメインテーマ。「俺たち、もう終わっちゃったのかな」と弱音を吐くシンジに対し、「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」と吐き捨てるように答えるマサルのセリフと共に、「淡々としているのに衝撃的な」ミニマル・ミュージックの匂いを漂わせたメインテーマが流れ始めるラストシーンは、北野映画屈指の名シーンとして知られている。ここに聴かれる演奏は、イギリスの弦楽四重奏団バラネスク・カルテットと久石のピアノが共演する形で書き直されたバージョン。

 

Asian Dream Song
原曲は、1998年長野パラリンピック大会のテーマソング《旅立ちの時~Asian Dream Song~》。久石は長野県出身ということもあり、この大会で開会式総合プロデューサーも担当。開会式のフィナーレで聖火が灯る中、少女が天に向かって上っていく情景において、この曲が演奏された本盤に聴かれる演奏では、アジアの悠久の歴史を感じさせる、東洋的な音階を用いた中間部が挿入されている。

 

Birthday
2005年にリリースされたアルバム『FREEDOM PIANO STORIES IV』のために書き下ろした作品。いわゆる”久石メロディ”の代表作のひとつとして、日本では多くのピアノ愛好家によって愛奏されている。ピアノの単音がよちよちと紡ぎ出すメロディを、弦楽合奏が温かい眼差しで見守るような音楽が、小さな生命の誕生と成長を表現しているようでもある。なお、現在に至るまで、久石は誰の誕生日のためにこの曲を作曲したのか明らかにしていない。

 

Innocent
宮崎監督『天空の城ラピュタ』(1986)のメインテーマ《空から降ってきた少女》のソロ・ピアノ・バージョン。この曲に宮崎監督が作詞した歌詞を付けたものが、本編のエンドロールで流れる主題歌《君をのせて》である。『天空の城ラピュタ』は子供から大人まで楽しめる明快な冒険活劇を意図して作られたが、久石は宮崎監督やプロデューサーの高畑と相談の末、ハリウッド映画音楽の真逆をいくように、敢えてマイナーコードを用いたメロディをメインテーマに用いることにした。その音楽が、映画全体に深みを与えたことは改めて指摘するまでもないだろう。余談だが、2019年に来日した作曲家マックス・リヒターが、リハーサルの合間に突然この曲を弾き始め、その場に居合わせた筆者をはじめ、関係者一同が驚くという出来事があった(久石は指揮者/演奏家としてリヒターの作品を日本で紹介している)。

 

Fantasia (for Nausicaä)
宮崎監督のスコアを久石が初めて担当した記念すべき第1作『風の谷のナウシカ』(1984)のメインテーマ《風の伝説》を、ピアノ・ソロの幻想曲(ファンタジア)として書き直されたもの。同作のプロデューサーを務めた高畑(および鈴木敏夫)から作曲依頼を受けた久石は当時、実験的なミニマル・ミュージックの現代音楽作曲家として活動していたにもかかわらず、商業用の映画音楽を書かなくてはならないというジレンマに立たされた。しかしながら、久石は自己のアイデンティティを殺すことなく、当時の日本のポップスの流行に真っ向から対抗するように、メロディの冒頭部分を(ミニマル・ミュージックのスタイルに従って)コード進行をほとんど変えず、ストイックなメインテーマを書き上げてみせた。そうした彼のストイックな音楽的姿勢が、ナウシカというヒロインの壮絶な生きざまに重なって聴こえたのは、筆者ひとりだけではあるまい。なお、久石が筆者に語ったところによれば、この時期の彼のピアノのタッチは、高校時代から敬愛するジャズ・ピアニスト、マル・ウォルドロンの影響を強く受けているという。

 

HANA-BI
余命いくばくもない愛妻と最期の時を過ごすため、犯罪に手を染めることになる元刑事の生き様を描いた、北野監督作『HANA-BI』(1998)メインテーマのソロ・ピアノ・バージョン。この作品で北野監督はヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞したが、現地での公式上映には久石もわざわざ駆けつけた。陰惨なシーンと関係なくアコースティックできれいな音楽が欲しいという北野監督の要望を踏まえ、久石はそれまでの北野作品で用いなかったクラシカルなスタイルに基づくスコアを作曲し、北野監督の演出意図に応えている。

 

The Wind Forest
宮崎監督『となりのトトロ』の《風のとおり道》が原曲。この楽曲も主題歌《となりのトトロ》と同様、本編のスコアの作曲に先駆け、イメージ・ソングの形で作曲された。ミニマル・ミュージック風の音型が小さき生命の存在をユーモラスに表現し、日本音階を用いた東洋的なメロディが森の中に棲む大らかな生命を謳い上げる。久石自身は、この《風のとおり道》を「映画全体の隠しテーマとなっている重要な曲」と位置づけている。

 

Angel Springs
Nostalgia
2曲ともサントリーのシングルモルトウィスキー「山崎」(サントリー山崎蒸溜所に由来する)のCMのために書かれた楽曲で、「なにも足さない。なにも引かない」という「山崎」の商品コンセプトに基づき作曲された。1995年作曲の《Angel Springs》では、冒頭のチェロの音色が琥珀色の「山崎」の深みを表現。1998年の《Nostalgia》では、久石のピアノがジャジーなメロディを奏でることで、「山崎」を味わうに相応しいノスタルジックな”大人の時間”を演出している。なお、「山崎」に限らないが、アルコール飲料などのCM曲において、久石は一定期間その飲料を実際に味わいながら作曲の構想を練るという。

 

Spring
ベネッセ進研ゼミ「中学講座」CMのために2003年に作曲。曲名が示唆しているように、『菊次郎の夏』のメインテーマ《Summer》と兄弟関係にある楽曲である。そこに共通しているのは、健やかに成長していく子供に向けた期待と喜びの表現と言えるだろう。本盤の演奏で弦楽パートを担当しているのは、カナダを拠点に活動している女性弦楽アンサンブル、アンジェル・デュボー&ラ・ピエタ。

 

The Wind of Life
1996年にリリースされたアルバム『PIANO STORIES II The Wind of Life』収録曲。久石は、作曲メモを次のように著している。「生命の風、人の一生を一塵の風に託す。/陽は昇り、やがて沈む。花は咲き、そして散る。/風のように生きたいと思った」。ポップス・メロディの作曲家としても、久石が第一級の才能を有していることを示した好例と言えるだろう。

 

Ashitaka and San
宮崎監督『もののけ姫』のラスト、”破壊された世界の再生”が描かれる最も重要なシーンにおいて、久石はそれまで凶暴に鳴り続けていたオーケストラの演奏を止め、シンプルなピアノだけで希望のメロディを奏でてみせた。その音楽を聴いた宮崎監督は、「すべて破壊されたものが最後に再生していく時、画だけで全部表現できるか心配だったけど、この音楽が相乗的にシンクロしたおかげで、言いたいことが全部表現できた」と語ったという。

 

Ponyo on the Cliff by the Sea
アンデルセンの「人魚姫」に想を得た宮崎監督が、さかなの子・ポニョと人間の子・宗介の出会いと冒険を描いた『崖の上のポニョ』(2008)のメインテーマ。絵コンテを見た久石は、「ポニョ」という日本語の響きから発想を得たメロディを即座に作曲。そのメロディに基づくメインテーマのヴォーカル・バージョンが、映画公開の半年以上前にリリースされた。ここに聴かれるのは、チェロ12本、コントラバス、マリンバ、打楽器、ハープ、ピアノという珍しい編成でリアレンジされたバージョン。伝統的な管弦楽法からは絶対に思いつかない発想だが、チェロのピツィカートとマリンバの倍音が生み出すユーモラスな響きが、不思議にもポニョのイメージと一致する。

 

Cinema Nostalgia
国内外の話題作・ヒット作の映画をプライムタイムにテレビ放映する日本テレビ系「金曜ロードショー」オープニングテーマとして、1997年に作曲。久石の敬愛する作曲家ニーノ・ロータにオマージュを捧げたような、クラシカルな佇まいが美しい。実際の放映では、初老の紳士が手回し撮影機のクランクを回すアニメーション(製作は宮崎監督)がバックに用いられた。

 

Merry-Go-Round
荒地の魔女の呪いにより、90歳の老婆に姿を変えさせられた帽子屋の少女ソフィーと、人間の心臓を食べると噂される魔法使いハウルのラブストーリーを描いた、宮崎監督『ハウルの動く城』(2004)のメインテーマ《人生のメリーゴーランド》(曲名は、宮崎監督の命名による)のリアレンジ。「ソフィーという女性は18歳から90歳まで変化する。そうすると顔がどんどん変わっていくから、観客が戸惑わないように音楽はひとつのメインテーマにこだわりたい」という宮崎監督の演出方針を踏まえ、久石は「ワルツ主題《人生のメリーゴーランド》に基づく変奏曲」というコンセプトで映画全体に音楽を設計した。ここに聴かれるバージョンも、演奏時間こそ短いが、変奏曲形式に基づいている。

 

2019年12月6日、久石譲 69歳の誕生日に。
前島秀国 / Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター

(CDライナーノーツ より)

 

 

 

CDライナーノーツは英文で構成されている。日本国内盤には日本語ブックレット付き(同内容)封入されるかたちとなっている。おそらくはアジア・欧米諸国ふくめ、各国語対応ライナーノーツも同じかたちで封入されていると思われる。

 

ベストアルバム発売におけるプロモーション、Music Video公開、および収録曲のオリジナル収録アルバムは下記にまとめている。ライナーノーツには、各楽曲の演奏者(編成)とリリース年はクレジットされているが、オリジナル・リリースCDは記載されていない。

また本盤は、いかなるリリース形態(CD・ストリーミング各種)においても音質は向上している。もし、これまでにいくつかのオリジナル収録アルバムを愛聴していたファンであっても、本盤は一聴の価値はある。そして、これから新しく聴き継がれる愛聴盤になる。

 

 

 

 

公式特設ページ(English)
https://umusic.digital/bestofjoehisaishi/

 

 

 

 

 

オリジナルリリース

DISC 1
Track.1,2,3,6,7,9,12
Disc. 久石譲 『Melodyphony メロディフォニー ~Best of JOE HISAISHI〜』

Track.4,5
Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『The End of the World』

Track.8
Disc. 久石譲 『THE BEST COLLECTION presented by Wonderland Records』

Track.10
Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『真夏の夜の悪夢』

Track.11
Disc. 久石譲 『WORKS IV -Dream of W.D.O.-』 *抜粋

DISC2
Track.1,7,13
Disc. 久石譲 『ENCORE』

Track.2
Disc. 久石譲 『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』

Track.3,9,12
Disc. 久石譲 『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』

Track.4,11,16
Disc. 久石譲 『FREEDOM PIANO STORIES 4』

Track.5,6,8
Disc. 久石譲 『Piano Stories』

Track.10,15
Disc. 久石譲 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』

Track.14
Disc. 久石譲 『Another Piano Stories ~The End of the World~』

 

Also included in
DISC2 Track.5,6,8,9,12,15
Disc. 久石譲 『Piano Stories Best ’88-’08』

DISC1 Track.1,2,12 & DISC2 Track. 6,8,13,14
Disc. 久石譲 『Ghibli Best Stories ジブリ・ベスト ストーリーズ』

 

 

 

DISC 1
1. One Summer’s Day 映画『千と千尋の神隠し』より
2. Kiki’s Delivery Service 映画『魔女の宅急便』より
3. Summer 映画『菊次郎の夏』より
4. il porco rosso 映画『紅の豚』より
5. Madness 映画『紅の豚』より
6. Water Traveller 映画『水の旅人 侍KIDS』より
7. Oriental Wind サントリー緑茶『伊右衛門』CMソング
8. Silent Love 映画『あの夏、いちばん静かな海。』より
9. Departures 映画『おくりびと』より
10. “PRINCESS MONONOKE” Suite 映画『もののけ姫』より
11. The Procession of Celestial Beings 映画『かぐや姫の物語』より
12. My Neighbour TOTORO 映画『となりのトトロ』より

DISC 2
1. Ballade 映画『BROTHER』より
2. KIDS RETURN 映画『KIDS RETURN』より
3. Asian Dream Song 1998年「長野冬季パラリンピック」テーマソング
4. Birthday
5. Innocent 映画『天空の城ラピュタ』より
6. Fantasia (for Nausicaä)  映画『風の谷のナウシカ』より
7. HANA-BI 映画『HANA-BI』より
8. The Wind Forest  映画『となりのトトロ』より
9. Angel Springs サントリー「山崎」CMソング
10. Nostalgia サントリー「山崎」CMソング
11. Spring ベネッセコーポレーション「進研ゼミ」CMソング
12. The Wind of Life
13. Ashitaka and San 映画『もののけ姫』より
14. Ponyo on the Cliff by the Sea 映画『崖の上のポニョ』より
15. Cinema Nostalgia 日本テレビ系「金曜ロードショー」オープニング・テーマ曲
16. Merry-Go-Round 映画『ハウルの動く城』より

 

DISC 1
1. One Summer’s Day (from Spirited Away)
2. Kiki’s Delivery Service (from Kiki’s Delivery Service)
3. Summer (from Kikujiro)
4. il porco rosso (from Porco Rosso)
5. Madness (from Porco Rosso)
6. Water Traveller (from Water Traveler – Samurai Kids)
7. Oriental Wind
8. Silent Love (from A Scene at the Sea)
9. Departures (from Departures)
10. “PRINCESS MONONOKE” Suite (from Princess Mononoke)
11. The Procession of Celestial Beings (from The Tale of Princess Kaguya)
12. My Neighbour TOTORO (from My Neighbor Totoro)

DISC 2
1. Ballade (from BROTHER)
2. KIDS RETURN (from Kids Return)
3. Asian Dream Song
4. Birthday
5. Innocent (from Castle in the Sky)
6. Fantasia (for Nausicaä) (from Nausicaä of the Valley of the Wind)
7. HANA-BI (from HANA-BI)
8. The Wind Forest (from My Neighbor Totoro)
9. Angel Springs
10. Nostalgia
11. Spring
12. The Wind of Life
13. Ashitaka and San (from Princess Mononoke)
14. Ponyo on the Cliff by the Sea (from Ponyo on the Cliff by the Sea)
15. Cinema Nostalgia
16. Merry-Go-Round (from Howl’s Moving Castle)

 

All Music Composed & Arranged by Joe Hisaishi

Produced by Joe Hisaishi

except
“Ballade” “HANA-BI” “Ashitaka and San”
produced by Joe Hisaishi & Masayoshi Okawa

“Asian Dream Song” “Angel Springs” “Nostalgia” “The Wind of Life” “Cinema Nostalgia”
produced by Joe Hisaishi & Eichi Fujimoto

Design: Kristen Sorace
Photography: Omar Cruz

and more

 

 

DISC 1

M1
Joe Hisaishi – Piano
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M2
Joe Hisaishi – Piano
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M3
Joe Hisaishi – Piano
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M4
Joe Hisaishi – Piano
New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Solo Concertmaster: Yasushi Toyoshima
Conductor: Joe Hisaishi
® 2016 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M5
Joe Hisaishi – Piano
New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Solo Concertmaster: Yasushi Toyoshima
Conductor: Joe Hisaishi
® 2016 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M6
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M7
Joe Hisaishi – Piano
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M8
Joe Hisaishi – Piano
Hiroki Miyano – Guitar
Makoto Saito – Bass
Masatsugu Shinozaki – Violin
Masami Horisawa – Cello
Junko Hirotani – Vocal
Joe Hisaishi – Fairlight Programming
® 1991 Wonder City Inc.

M9
Joe Hisaishi – Piano
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M10
Joe Hisaishi – Piano
New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Solo Concertmaster: Yasushi Toyoshima
Conductor: Joe Hisaishi
® 2006 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M11
Joe Hisaishi – Piano
New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Solo Concertmaster: Yasushi Toyoshima
Conductor: Joe Hisaishi
® 2014 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M12
Joe Hisaishi – Piano
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

DISC 2

M1
Joe Hisaishi – Piano
® 2002 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M2 Joe Hisaishi – Piano
Balanescu Quartet:
Alexander Balanescu – Violin 1
Thomas Pilz – Violin 2
Chris Pitsillides – Viola
Nick Holland – Violoncello
Jun Saito – Bass
Hirofumi Kinjo – Woodwind
Masamiki Takano – Woodwind
Momoko Kamiya – Marimba
Marie Ohishi – Marimba & Percussion
® 2000 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M3
Joe Hisaishi – Piano
Pan Strings – Strings
Conductor: Joe Hisaishi
® 1996 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M4
Joe Hisaishi – Piano
Koike Hiroyuki Strings – Strings
® 2005 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M5
Joe Hisaishi – Piano
® 1986 Wonder City Inc.

M6
Joe Hisaishi – Piano
® 1988 Wonder City Inc.

M7
Joe Hisaishi – Piano
® 2002 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M8
Joe Hisaishi – Piano
® 1988 Wonder City Inc.

M9
Joe Hisaishi – Piano
Pan Strings – Strings
Conductor: Joe Hisaishi
® 1996 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M10
Joe Hisaishi – Piano
Orchestra Città di Ferrara
Nobuo Yagi – Harmonica
Conductor: Renato Serio
® 1998 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M11
Joe Hisaishi – Piano
® 2005 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M12
Joe Hisaishi – Piano
® 1996 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M13
Joe Hisaishi – Piano
® 2002 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M14
Joe Hisaishi – Piano
12 Special Violoncello:
Ludovit Kanta, Nobuo Furukawa, Yumiko Morooka, Akina Karasawa, Mikio Unno, Eiichiro Nakada, Robin Dupuy, Mikiko Mimori, Shigeo Horiuchi, Eiko Onuki, Takayoshi Sakurai, Keiko Daito
Igor Spallati – Contrabass
Momoko Kamiya – Marimba
Reiko Komatsu – Marimba, Percussion
Yuko Taguchi – Harp
Micol Picchioni – Harp
® 2009 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M15
Joe Hisaishi – Piano
Orchestra Città di Ferrara
Conductor: Renato Serio
® 1998 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M16
Joe Hisaishi – Piano
Angèle Dubeau & La Pietà:
Angèle Dubeau – Solo Violin
La Pietà: Émilie Paré, Natalia Kononova, Natacha Gauthier, Myriam Pelletier, Marilou Robitaille, Gwendolyn Smith, Anne-Marie Leblanc, Mariane Charlebois-Deschamps
Sawako Yasue – Percussion
® 2005 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

 

Disc. 久石譲 『映画 二ノ国 オリジナル・サウンドトラック』

2019年8月21日 CD発売 UMCK-1637

 

2019年公開映画『二ノ国』
製作総指揮/原案・脚本:日野晃博
監督:百瀬義行
音楽:久石譲
主演:山﨑賢人
主題歌:須田景凪「MOIL」

 

人気RPG『二ノ国』シリーズを長編アニメーション映画化!製作総指揮/原案・脚本:日野晃博(『レイトン』シリーズ )×監督:百瀬義行(『おもひでぽろぽろ』原画 )×音楽:久石譲という日本を代表するドリームメーカーが集結!オリジナルストーリーで描かれる劇場版の本作では、主人公“ユウ”の声を演じる山﨑賢人をはじめ、宮野真守、津田健次郎、坂本真綾、梶裕貴、山寺宏一といった声優ドリームチームの参加も決定!全世界が待望するアニメーション映画『二ノ国』が誕生する。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

 

ー久石さんはゲーム『二ノ国』から楽曲を担当されていますが、今回映画『二ノ国』の音楽をつくるにあたって、最初にどんなことを考えましたか。

久石:
多くの映画音楽は基本的には状況か、あるいは登場人物の心情に音楽をつけるのですが、僕はあまりそういう方法は取っていないんですよ。それよりも、観客側から客観的に見て、観客の心情を表現する音楽を作っている。だけど映画『二ノ国』はエンターテインメントな映画。こういう映画は、やはり物語の状況や心情に寄り添わないといけない。僕としては久しぶりに、物語に沿った音楽を書きましたね。

ー一ノ国で流れる曲と、二ノ国で流れる曲。具体的にはどのような違いがありますか。

久石:
一ノ国というのは私たちが暮らすのと同じような、現実世界。そこで流れる音楽は、室内楽のような小編成での演奏にしています。一方、二ノ国はファンタジーな異世界。ベーシックに、フルオーケストラでの演奏です。一ノ国と二ノ国で流れる音楽をきっぱりと分けるというのが基本。一ノ国と二ノ国で同じメロディを使っている場合もありますが、その場合も違うアレンジをしています。

ー映画だからこそできたこと、チャレンジされたことはありますか。

久石:
見ている方がワクワクするようにできたらいいなと思って、全体的にはパーカッションを使ってリズミックにしています。そこは僕にとってのチャレンジでしたね。ゲーム版のテーマ曲もさりげなく出していますから、ゲームファンの方にも楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。

ーレコーディングはいかがでしたか。

久石:
僕のレコーディングに参加する人たちは、オーケストラでは首席奏者クラスの人たちばかり。ミニマル・ミュージックに慣れている人たちもいて、非常に助かりました。日本のミュージシャンは本当にすばらしいですよ。ちゃんと音楽上でコミュニケーションを取れる人たちと取り組んだので、その場で生み出されたものもあった。楽しくレコーディングができました。

ー久石さんにとって映画音楽をつくるお仕事は、どういう意味合いがありますか。

久石:
エンターテインメントな作品に関わるとたくさんの人とコミュニケーションを取るので、新しい表現が生まれてくる。自分だけではやらないようなこともできたりする。そういう新しい発見があるから楽しいし、やめられないんですよね。映画音楽もコンサートもそれは一緒。僕にとって生きることと同じなんです。

ー久石さんの音楽を楽しみにしている方々にメッセージを音楽します。

久石:
今年の2月にパリでコンサートを行った時、フランスメディアのインタビューを受けましたが、みんな『二ノ国』のことを知っていました。「今度映画化されるんですよね。音楽を担当するんでしょう」と質問された。日本国内のみではなく、海外でも認知されているタイトルが、『二ノ国』。それが映画化されるということで、みんな期待を持っているんだなと感じています。

日本のみならず海外にも、この音楽が映画とともにみんなに聞いてもらえたら、僕にとっては何よりの喜びです。

Blog. 「映画「二ノ国」公式アートブック」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「今の自分のやり方ってどちらかと言うと非常にミニマル・ミュージック的なアプローチがすごく多いんです。ミニマル・ミュージックというのは、同じ音型を繰り返す。そういうやり方をしているから、今の自分のやり方だと、エンターテインメントの映画にはあまり合わないんですよね。普通ではお断りしちゃう仕事のひとつなんです。ですが、過去にゲームでいっぱい作ってきた音楽があったので、それとうまくバランスを取れれば、今までとは全く違う切り口・やり方の映画音楽になるかなと思って。その辺はちょっと意識しましたね」

本作の題材となったゲーム「二ノ国」シリーズの音楽も担当していた。その時々の楽曲制作に精一杯で過去のことはあまり考えないという久石は、10年前のゲーム音楽について聞くと「あの頃はこうやったんだなというのがわかります。今は同じやり方は全くしていないからね。頑張ってよく書いたなと思ったぐらいの感じですかね」とコメント。「(ゲーム版の)テーマはさりげなく出したりしています。そういうところは楽しんでもらえるのかなと思います」とゲームファンに向けて明かした。

Info. 2019/07/26 久石譲、音楽は「生きること」 映画『二ノ国』収録現場で語る (Webニュース2種より)より抜粋)

 

 

「まずゲームと映画はまったく違うものなので、やり方は変えています。ただ今回の映画はエンターテインメントな映画だったので、音楽のあり方も変えました。通常、映画音楽は映像を説明するような音楽、状況や登場人物の心情に音楽をつけるんですけど、僕は普段そういう方法を取ってないんです。観客側から客観的に見る方法を取ってるんですが、エンターテインメントな映画になればなるほど、状況や心情に寄り添わなければならないので、その意味で久しぶりに、そういう音楽を書きました。ただ、映画の製作側から、ゲームとはまったく違う音楽をつくってほしいと言われたんですが、それは根本的に間違っていると思ったのでそう答えました。ゲームであれ映画であれ『二ノ国』という世界観がひとたび出来上がると、ストーリーがどうであろうと、ベーシックな部分は一緒なんですよ。ある意味では、同じ曲を使ったほうがいいということもあります。だからこそ、そこは客観的に分析して、どこをどういう手法でやるか、それを考えました」

Blog. 「Men’s PREPPY 2019年9月号」映画『二ノ国』久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

【百瀬監督、製作総指揮/原案・脚本の日野氏からのコメント】

■監督 百瀬義行
壮大なオーケストレーションの中に、登場人物が揺れ動く繊細な心を汲み取った久石さんの音楽は、映画に新しい彩りを添えてくださいました。

■製作総指揮/原案・脚本 日野晃博
久石譲さんの音楽は、二ノ国の世界観を形成する最重要の要素です。
今回の音楽も、原作のゲームからさらに飛躍し、映画独自の世界観をカタチづくることに成功しています。二ノ国にいるときと一ノ国にいるときの、音楽性の違いなどにも注目ポイントです。
今回の映画二ノ国でもそうですが、久石さんのつくられる、感情に寄り添った音楽の流れは、映画音楽の神髄と言えると思います。

出典:映画『二ノ国』オフィシャルサイト|ニュース

 

 

 

予告編・特報・PV動画などに使用されていた楽曲は、「2. おだやかな日常」「4. 二ノ国へ」「13. 空のランデブー」「15. 姫の心」「16. 仕組まれた入場」「24. 命をかけた戦闘」「25. 届かぬ思い」「33. 決着の時」「34. 別れ」 *特報のみゲーム版サウンドトラックから使用

 

録音は2019年5月23、24日アバコスタジオにて。おそらくフルオーケストラ編成楽曲を中心に行われいると推測する。Bunkamuraスタジオでは、小編成楽曲が録音されたのか、部分録り(楽器ごと)に使われたのか、日付ふくめて不明。

CDライナーノーツ・クレジットより、フルオーケストラ編成と室内楽の編成表がはっきりとわかることもうれしい。既存のオーケストラ楽団ではなく招集型であり、久石譲の音楽活動の線でいうと、FOC(フューチャー・オーケストラ・クラシックス)の流れをくむ方法になっている。FOCメンバーとの重複割合は細かく照合していないけれど、もちろん周知のメンバーも参加している。

フルオーケストラ編成と室内楽の奏者は一致していない(ピアノ除く)。室内楽ヴァイオリンは、FOCコンサートマスターの近藤薫さん。このあたりは、奏者が違うことで演奏の質をも分離したかったというよりも、どのリーダーを起点として招集をかけたかではないかと推測している。

 

 

2019.8.27 update

映画観てサントラ聴いてレビュー。

全体をとおして。

「全体的にパーカッションを使ってリズミックにしている」(久石)とある、それは生楽器だけではなく打ち込みも含めた多彩なもの。新曲はもちろん、ゲーム版から使用された曲たちもパーカッションが強調・足されたもの多く、全体のトーンとしてうなずける。

CDクレジットでは室内楽のほうにシンセサイザーが明記されているけれど、フルオーケストラ楽曲でも使用されている。生楽器を基調としたなかで電子音のアクセントというつくり方になっている。また小編成は薄い、フルオーケストラは厚い、という凹凸感をあまり感じないことも特筆できる。小編成のカラフルな音色と、フルオーケストラの引き締まったソリッドな響きが、ふたつの対照的な編成をうまく均衡にしている。

映画本編106分、サウンドトラック盤52分とあるなか、実際には上映時間の2/3以上音楽が流れる印象がある。これは《収録曲のいくつかが複数回使用されている》《サントラ未収録の楽曲がある(新曲/既発ゲームサントラ)》がその理由。

「久しぶりに状況や心情に寄り添った音楽を書いた」(久石)とある、それは曲はもちろん音楽の当て込み方としても顕著で、この場面では・この状況では・この登場人物では・この組み合わせでは、というように、明快な音楽配置になっている。そのため、複数回登場する曲も多くなってくる。それが曲の一部を切り取った部分的なものであっても。

ゲーム版からの使用曲は、一曲のなかで2つ以上の原曲がつながったトラックも多い。映画の終わりエンドロールでメインテーマや主要テーマをメドレーのように組み立てて構成することは、久石譲の映画音楽にもあるけれど、本編のなかでここまで多用することは極めて珍しい。それゆえ『二ノ国』音楽にゲームから親しんできたファンにとっては、この曲もこの曲もとてんこ盛りなうれしさある、サービス旺盛な音楽構成になっている。

まとめると、エンターテインメント映画のためのエンターテインメント音楽、そんなアプローチに集約されている。

 

 

楽曲ごとに。

全35曲を細かくレビューはできないので、ピックアップして紹介していく。ゲーム版音楽から本作映画に使用されたものもあわせて紹介していく。理由はふたつ。映画版音楽を聴いて興味をもった人がゲーム版音楽にもふれて『二ノ国』音楽の世界を広げてほしいこと。もうひとつは、どのサウンドトラックから持ち出した曲が多いかを整理したかったこと。結果的には、『二ノ国 II レヴァナントキングダム オリジナル・サウンドトラック』が最も多く、それは映画とゲームの共通性というよりも、久石譲の作曲手法やスタンスが近しいため(2018年作品)違和感なく並べやすかったのかもしれない。

ゲーム版から使用された曲は、すべて新アレンジ・新録音になっている。下記【○○と同曲/○○と○○をつなげた曲】としか書いていないものもある。もちろん既出音源をそのまま使用したのではなく、この映画のために新アレンジ・新録音されたもの。また、同じメロディをもった曲でもサウンドトラックにはタイトル違いアレンジ違いで複数収録されていることがある。気に入った曲があったら、もっとほかのバージョンもあるのかもしれないと、ゲームサントラにも手をのばしてみてほしい。

ゲームをしていない人が書いているので、ゲーム版から持ち出された音楽が、映画で使用されたシーンと関連性があるのか、もしくは裏設定があるのか、などはわからない。そんななかでも曲名や使用場所からうっすら推察できるものもある。ゲーム版から『二ノ国』を楽しんでいる人には、おっ!という新しい発見もあるのかもしれない。

 

 

[ゲーム版]

 

 

1. 不思議なお爺さん
19. 異世界への旅立ち
31. 受け継がれるもの
ガラス玉のような神秘的な音色と、3つの音符をつなげた短いモチーフが、楽器を替えながらゆっくりと交錯する曲。19. 31.も同じモチーフを使って展開していて、その上にたゆたうストリングスの調べが誘ってくれる。本作のなかでは客観的・俯瞰的な一歩引いた曲想、しっかりと今のスタンスも顔を出す。漂うようにずっと聴いていたい、主張しない音楽の好例といえる。映画では、数回使われていたり(どのトラックかの選別は難しい)、ループして長めに流れてもいたり。一ノ国と二ノ国の両方で使われていることからも、世界観を有機的につなぐ主要テーマ曲のひとつになっている。

 

2. おだやかな日常
ギターの弦をおさえて音程の出ないようにかき鳴らす、パーカッションのような使い方が風通しよい。後半は乾いた音色で小気味よく。この曲に限らず、ギターは一ノ国のコントラストや空気感を表現する大切な役割を果たしている。(この曲はこのあともう一度ふれている)

 

4. 二ノ国へ
26. 襲撃
4. 後半に聴くことができるのが、おなじみ『二ノ国』メインテーマ。(漆)(白)(レ) また26.でも聴かれる弦楽器とクラリネットのソリッドなかけ合いが、一種サクソフォーンの音色のようにも聴こえて新鮮。こういった組み合わせは、これまであまりなかったように思う。映画では、4.の前にサントラにはないバージョンが3-5分流れていた。かっこいいバージョンだったので収録されていないのがもったいない。

 

6. 酒場
アイルランドやケルトを思わせる賑わう街や人の光景。ティンホイッスル、ヴァイオリン、ギターにパーカッションと、まるで即興セッションのような躍動感と陽気さとちょっぴりの哀愁。とりわけベースがないことが素晴らしい。ベースがあることで曲としてきちっとした型ができあがる、土台のしっかりとした一曲ができあがる。だからここは、酒場の世界観につけたとも言えるし、酒場でたまたま演奏されていた状況内音楽、即興演奏のようなものをかたちにしたともとれる。もちろんそういった演奏シーンはない。音楽の位置づけ意味づけをふくらませることができる。ベースがないことがポイント。映画では、もっと長くループしていた。また、酒場のシーンではこの曲が流れるという設定、数回聴くことができる。

もうひとつ、「9. ネコ王国の城下町」(漆)でもティンホイッスルやパーカッションをベースにした曲があり、「25. ネズミ王国の城下町」(レ)はその変奏になっている。そして、「酒場」もまた同じメロディから派生、大きく変奏したバリエーションとみるととてもおもしろい。

”『二ノ国 レヴァナントキングダム』の主人公・エバンがエスタバニアをつくり、二ノ国にあった様々な国を統一する。それから数百年経過したのが映画『二ノ国』の世界、という裏設定がある”(公式情報より)…らしい。

 

7. 侵食する呪い
「5. The Horror of Manna」(白)と同曲。ゲーム版のほうが重厚にドラマティックに展開している。”昔とはやり方も違う”という久石譲の言葉を、音楽というかたちでしっかり体感できるかもしれない。使用される楽器、奏法やアクセントなど聴きくらべると、たとえそれが微細な違いであったとしても、言葉では抽象的になってしまうものをたしかに感じとれる。数回使われている。また、サントラ未収録ではあるが、「5. The Horror of Manna」(白)中盤の展開部を新アレンジしたものも映画には使われている。

 

8. エスタバニア城
16. 仕組まれた入場
今回、映画のために書き下ろされた新曲たちは、意外にもミニマル手法の曲がとても多い。そして、このような勇壮なミニマルを久石譲オリジナル作品として、1分や30秒ではなくたっぷりと聴いてみたい。これがもっと変化していったら、転調していったら、展開していったら、と想像するだけで高揚感が湧いてくる。

 

9. 疑惑
27. 悲しき過去
29. ガバラスとの戦い
33. 決着の時
同じモチーフで展開している。ここに記すのは33. 、冒頭に「7. 強大な魔法」(漆)が使われ、このモチーフが流れ、後半は『二ノ国』メインテーマ(漆)(白)(レ)をほぼ1コーラス聴くことができる。アレンジは(レ)をベースにしているけれど、合唱編成はないフルオーケストラ版、オーケストレーションも細かく異なる。数あるメインテーマのバリエーションがゲーム版からあるなか、新たなひとつ。

実は映画では、33. の『二ノ国』メインテーマはイントロ部分までしか流れない!映画には登場しないメインテーマ1コーラス。音楽収録ではフルサイズではないけれどメインテーマ単曲で録音されているはず。完成した映画の前後シーンからみたとき、当初通して使われる予定だったものがカットされたとは考えにくい。もしくは別の箇所で使う予定だったのか。いろいろ推察はできる…けれどここは! 『二ノ国』音楽ファンへ、しっかりメインテーマも収録してますよ、うれしいボーナストラック的ギフトとして楽しもう。(映画予告編で使用されたメインテーマは、この映画サントラバージョン)

 

10. 険悪なムード
この曲と「3. 忍び寄る危機」は同じ曲を基調としているのではないかと思っている。10.に聴かれるメロディを3. 頭のなかで当てはめるとぴたっとはまる。もちろん同じ一ノ国の世界につけられた曲ということもある。映画では、部分的ふくめて数回聴くことができる。

 

11. 募る思い
12. 思いがけない出会い
15. 姫の心
34. 別れ
今もってしてなお、こんなメロディを生みだしてしまうのか感嘆、と新旧すべての久石譲ファンうれしい一曲。メロディを奏でる楽器たち 11. ピアノ/12. フルート/15. 34. ヴァイオリン がスポットライトを浴びている。15. 34. サビのメロディと対旋律の流れも美しい。34.の終部には、「心のかけら」(漆)(白)のメロディが登場しゲームファンくすぐる演出になっている。映画では、11. 15. の1コーラスなども数回聴くことができる。

またこの曲の出だしメロディ2小節は、「2.おだやかな日常」のモチーフとしても使われている…と思っている。つまり、映画『二ノ国』にとっての主要テーマ曲であり、かつ、それは一ノ国(2.)と二ノ国(11. 12. 15. 34.)を有機的に結びつけている、かたちを変えてどちらの世界にも登場する曲。

 

13. 空のランデブー
「24. 果てしない空」(レ)と同曲。木管楽器の戯れが追加されただけでも気分はさらに飛躍する。テンポも違う、ピアノや打楽器の配置加減も違う。

 

14. 清めの舞
とりわけドビュッシーのような印象派的音楽を、ここまで大胆に自曲で表現したことはなかったかもしれない。映画というフィールドだからこそできた曲だと思うと、ついつい舞いのつづきを想像してしまう希少な一曲。

 

17. コロシアムの戦い
「8. 苦闘」(レ)「20. 命運をかけた戦い」(レ)をつなげた曲。

 

18. 決死の賭け
「2. クーデター」(レ)と同曲。重低感のあるパーカッションは映画版のほうがパンチ効いて、曲全体にあたえる重心も深い。

 

20. ふたつの道
25. 届かぬ思い
緊迫感や緊張感といったものを、オーケストラで表現するとこうなる、パーカッションを主体にするとこうなる、短いながらとても綿密に計算されている。間違ってもただパーカッションを追加したということにはなっていない。

 

21. 命のゆくえ
「21. 切ない思い出」(レ)と同曲。 映画終盤にも部分的に使われている。

 

22. 黒の侵攻
「11. ボスバトル」(レ)と「5. 別れ」(レ)をつなげた曲。 

 

23. 激しい攻防
「20. 命運をかけた戦い」(レ)と「9. The Zodiarchs」(白)をつなげた曲。

 

24. 命をかけた戦闘
「11. 帝国行進曲」(漆)と同曲。

 

28. マリオネット
作品から飛び出すけれど、「2 Pieces for Strange Ensemble 1. Fast Moving Opposition」(『久石譲 presents MUSIC FUTURE II』2017・CD収録)を思い出してしまったほど、久石譲の旬がつまったスタイル。あと5分でも7分でも、ズレながら変化しながらどっぷりと堪能したい、そんな一曲。映画では、フレーズが鋭く飛び交う部分と、リズム刻みだけになる部分が、シーンの切り替わりとリンクしていて、そのあまりにおさまりいいスムーズさに、ただただ脱帽。あっ、映像とのこういうシンクロの仕方、マッチングの仕方もあるんだな、と新たな一面を目撃した瞬間だった。

 

30. 守る覚悟
「5. アリー ~追憶~」(漆)「20. 奇跡 ~再会~」(漆)と同曲。映画版は曲の途中で終わっている。優麗にドラマティックに展開し、きれいに着地しているゲーム版もぜひ。

 

32. 伝説の勇者
「26. 守護神」(レ)と「19. 最後の戦い」(漆)をつなげた曲。

 

35. 似た者同士
旋律が追っかけてくるような手法、歌い出しが小節頭か裏拍かという変化。幹があって枝葉が豊かなように、源流とたくさんの小川があるように、大きな時間と小さな時間があるように。すべてのもののつながり。近年の久石譲にみられる新しいたしかな手法。『NHKスペシャル シリーズ ディープ オーシャン』や『プラネタリアTOKYO To the Grand Universe 大宇宙へ』(未音源・2019年8月現在)、そして2019年映画『海獣の子供』サウンドトラックでも、いろいろ趣向を凝らし存分に楽しむことができる。映画では、部分的に使わている箇所がもうひとつある。

 

 

映画使用曲
「10. 砂漠の王国の町」(漆)の一部、既発音源をもとにしながらも一風変わったかたちで使われている。ゲームを楽しんだ人なら、あの曲!とわかるほどのアラビア風な曲。映画サントラ未収録。

「15. 漆黒の魔導士ジャボー」(漆)の新アレンジ版が使われている。映画サントラ未収録。

ほかにもあるが、上の各楽曲説明と重複するので割愛する。

 

 

このように、映画版音楽はゲーム版からも多くの音楽が使用され、『二ノ国』ファンにとってはてんこ盛りのうれしい充実となっている。一曲ごとの分数が短く、もっと先を聴きたい、このまま続いてほしい、と思ってしまうのは映画サウンドトラックのジレンマ。

ゲーム版は映像や時間の尺に左右されない音楽作品として構成されているものも多い。とりわけ、『二ノ国 漆黒の魔導士 オリジナル・サウンドトラック』『Ni No Kuni: Wrath of the White Witch - Original Soundtrack』は、曲ごとにしっかり起承転結で展開する作曲方法をとっている。映画サウンドトラックからゲームサウンドトラックへ好奇心を広げると、お気に入り曲との楽しい出会いもきっとある。

また、楽曲をフラットに並べてみたことで、映画のための新曲が決してエンターテインメントに寄りすぎていない、今の久石譲のスタイルを貫いたものも多い、そんなこともわかった。音楽制作にあたりすべてのゲーム版音楽を聴きなおし、映画への可能性を吟味し、10年前に書いたものと今書くものが並列する。『二ノ国』の世界観を継承し、新たな一面もみせる。

『二ノ国』という作品、2010年ゲームから2019年映画まで、それぞれに新しい世界観で音楽をつけている、あわせて4枚のCDリリースは、久石譲の音楽活動のなかでも稀なほど長期的に携わっている作品。いつかコンサートでも壮大な組曲を聴いてみたい。第2組曲、第3組曲、、夢は果てしない。

 

 

 

 

2020.1.8 追記

『二ノ国』ブルーレイ プレミアム・エディション、映像特典に「Making of Soundtrack by 久石譲」インタビューとレコーディング風景をまじえた約11分の映像が収録されている。

 

 

 

 

1. 不思議なお爺さん
2. おだやかな日常
3. 忍び寄る危機
4. 二ノ国へ
5. 未知なる異世界
6. 酒場
7. 侵食する呪い
8. エスタバニア城
9. 疑惑
10. 険悪なムード
11. 募る思い
12. 思いがけない出会い
13. 空のランデブー
14. 清めの舞
15. 姫の心
16. 仕組まれた入場
17. コロシアムの戦い
18. 決死の賭け
19. 異世界への旅立ち
20. ふたつの道
21. 命のゆくえ
22. 黒の侵攻
23. 激しい攻防
24. 命をかけた戦闘
25. 届かぬ思い
26. 襲撃
27. 悲しき過去
28. マリオネット
29. ガバラスとの戦い
30. 守る覚悟
31. 受け継がれるもの
32. 伝説の勇者
33. 決着の時
34. 別れ
35. 似た者同士

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi

Orchestration by Chad Cannon, Joe Hisaishi

Performed by
Except Track-1, 2, 3, 6, 9, 10, 11, 19, 26
Flute:Hirioshi Arakawa
    Misao Shimomura
Oboe:Ami Kaneko
    Masato Satake
Clarinet:Soushi Nakadate
      Kei Kusunoki
Bassoon:Mariko Fukushi
       Masashi Maeda
Horn:Yoshiyuki Uema
    Hirofumi Wada
    Kazune Fukae
Trumpet:Takaya Hattori
       Homare Onuki
Trombone:Shinsuke Torizuka
Bass Trombone:Koichi Nonoshita
Tuba:Nana Ishimaru
Timpani:Tadayuki Hisaichi
Percussion:Mitsuyo Wada
      Keiko Nishikawa
      Nanae Uehara
Harp:Yuko Taguchi
Piano/Celesta:Febian Reza Pane
Strings:Manabe Strings

Track-1, 2, 3, 6, 9, 10, 11, 19, 26
Clarinet:Hidehito Naka
Percussion:Akihiro Oba
Piano:Febian Reza Pane
Synthesizer:Naoko Imamura
Guitar:Go Tsukada
Violin:Kaoru Kondo
Cello:Sin-ichi Eguchi
Tin Whistle:Akio Noguchi (Track-6)

Recorded at Avaco Studio, Bunkamura Studio
Mixed at Bunkamura Studio
Recording & Mixing Enginner:Suminobu Hamada
Derector & Manipulator:Yasuhiro Maeda

and more…

 

 

Ni No Kuni The Movie (Original Motion Picture Soundtrack)

1.The Mysterious Old Man
2.Carefree Days
3.A Darkness Draws Near
4.The Other World
5.An Unknown Land
6.At the Tavern
7.The Curse
8.Evermore Castle
9.Shadows of Doubt
10.A Somber Mood
11.Falling Deeper
12.An Unexpected Encounter
13.The Boundless Skies
14.Purification
15.From the Heart
16.No Turning Back
17.To Arms!
18.A Leap of Faith
19.Memories of Youth
20.Separate Ways
21.A Solemn Vow
22.The Invasion Begins
23.All Out War
24.To the Death
25.On Deaf Ears
26.In Danger
27.A Painful Past
28.Marionette
29.Facing Galeroth
30.Always by Your Side
31.Passing on the Torch
32.Hero of Legend
33.End of the Line
34.Farewell
35.Soul Mates

 

Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『Spirited Away Suite』

2019年7月31日 CD発売 UMCK-1636

 

久石自身の手により生まれ変わった「千と千尋の神隠し」組曲ほか、数々の名演。あの夏の感動、再び。

(CD帯より)

 

 

9.11以後の”異界”を”だまし絵”で生き抜くオーケストラの音楽──
久石譲『Spirited Away Suite』について

本盤のタイトル曲でもある「Spirited Away Suite」(「千と千尋の神隠し」組曲)の冒頭は、ピアノのメインテーマ「あの夏へ」──主人公・千尋のテーマとも言い替えてもいい──から始まる。その演奏を収録した本盤の音源を初めて聴いたとき、今から18年前の2001年7月の記憶が頭にパッと思い浮かんだ。まさに”あの夏”とも言えるような思い出だが、当時、発刊されて間もない映画雑誌『PREMIERE』のインタビュー取材のため、とても暑い日の午後、久石の下を訪れたのである。

このとき、すなわち2001年7月、久石は宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』の音楽を書き上げ、そしてフランス人のオリヴィエ・ダアン監督の映画『Pe Petit Poucet』の音楽を完成させたばかりの頃だった。当然、インタビューの中では、その2本にも話が及んだ。

映画本編の詳しい紹介はここでは割愛するが、まず『千と千尋の神隠し』は、親元から切り離された千尋という名の少女が異世界つまり”異界”に足を踏み入れ、自分の力で生き抜いていこうとする姿を描いた成長譚である。

この取材の中で久石は、宮崎監督の独特の世界観で作られた現実の風景とまったく違う世界=”異界”をどう音楽で表現すべきか、非常に苦労したと述べていた。通常の音楽のつけ方や作曲アプローチでは表現しきれないので、例えば今回の組曲内の「神さま達」では琉球音楽、「カオナシ」ではインドネシアのガムラン風の音楽、というように、アジアの民族音楽のさまざまな要素をオーケストラの中に足す方法で作っていったのだと。しかも、日本が属する東アジアやインドネシアが属する東南アジアだけでなく、シルクロードの向こう側、遥か西のユーラシア大陸全般に至るまでアジアというものを拡大解釈し、それを西欧音楽の象徴たるオーケストラの中に放り込んでいく。わかりやすく言えば、台湾の夜市のように、ありとあらゆる要素を投入していく方法だ。そのように雑多なものをオーケストラの中に取り込むことで、なんとか宮崎監督の世界観を表現できるかもしれないというのが、取材の中で久石が語っていた作曲アプローチであった(それが、メインテーマ「あの夏へ」以外の曲がいままでコンサートで演奏されにくかった理由のひとつでもある)。18年経った現在から振り返ってみても、これは日本人でありアジア人である作曲家・久石譲だからこそなし得た、非常にユニークなアプローチであると思う。

 

「Le Petit Poucet」は、『千と千尋の神隠し』と同じ2001年に久石が手掛けたフランス映画『Le Petit Poucet』のメインテーマである。フランスの童話作家シャルル・ペローの『親指小僧』に基づく実写映画だが、実はこの作品も、『千と千尋の神隠し』と同じく親元を離れた主人公プセたちが不思議な世界、つまりは”異界”に放り込まれてさまざまな冒険を体験し、生き抜いていく物語を扱っている。

本盤には本編オープニングで流れるメインテーマのオーケストラ版が収録されているが、映画のエンドロールでは、ヴァネッサ・パラディが歌ったヴォーカル版が使用されている。そういった事情もあり、久石はこのテーマを”シャンソン”として書いたと取材の中で語っていたが、いま、このメインテーマを改めて聴き直してみると、フランス映画にふさわしい気品に満ちた”シャンソン”であると同時に、久石でなければ絶対に書けない、いかにも彼らしいメロディで作られた音楽だと思わずにはいられない。日本人であり、アジア人である作曲家・久石譲から出てきた”久石メロディ”が、ヨーロッパの昔話の真髄とも言える童話を映画化した『Le Petit Poucet』のメインテーマになっているところが、実に興味深いのである。

本盤を手に取られたリスナーは、ぜひこの機会に『Le Petit Poucet』の全編を見て頂きたいのだが(現在はDVDで容易に視聴可能)、映画本編に流れるサウンドトラックでは、尺八や和太鼓などの邦楽器がオーケストラの中にふんだんに取り入れていることに気づくだろう。

取材当時、久石は「西欧のオーケストラだけで音楽をまとめてしまうよりも、日本的なものにこだわりながら作っていった方が、自分としてはリアリティのある音楽が作れる。ペローの童話の世界は、確かにヨーロッパの世界観に属しているけれど、逆に音楽では、日本的な要素をどんどん出した方が説得力が増してくる」と述べていた。

この発言を音楽用語の”ユニゾン”という言葉を用いて言い換えてみると、ヨーロッパの童話や題材をヨーロッパ的な音楽スタイルで”なぞる”つまり”ユニゾン”で音楽を付けるのではなく、すこし違った視点で物語を捉えながら敢えて”ズラした”音楽を付けていく。そうしたアプローチを用いながら日本人の作曲家が作曲することで、童話が本来持つ怖さや残酷さ──ヨーロッパ人は子供の頃からその童話に慣れ親しんでいるので、かえって意識に上りにくくなっている──が、より際立って見えてくるということなのだ。これが『Le Petit Poucet』の音楽の素晴らしさであり、同時に作曲家としての久石の特質が遺憾なく発揮された好例というべきであろう。

 

久石が同時期に手掛けたこれら2つの映画は、全く無関係な作品であるにもかかわらず、たまたま2001年に作られ、それぞれの本国で公開された。そして偶然にも、”異界”に放り込まれた人間がどう生きるのかという題材を扱ったファンタジー作品でもあった。その当時、久石を含む映画の作り手たちは、ファンタジーの物語にリアリティを持たせるべく全力を注ぎ込み、彼らが生み出した数々のファンタジーを我々観客はエンタテインメントとして素直に受け入れ、喜び、熱中することができた時代だった──2001年の夏の段階までは。

ところがこの取材から約2ヶ月後の2001年9月11日、アメリカ同時多発テロ事件が発生した。たった一晩で、それ以前と以後の世界がまったく変わってしまった。

旅客機が高層ビルに突っ込み炎上する──どんな映画でも描けなかった光景を、当時を生きていた久石を含む我々は、テレビを通じてリアルタイムで見てしまった。つまり、現実のほうがファンタジーよりも先をいってしまったのである。

人間がいくらファンタジーの世界を想像し、その物語にリアリティを持たせようとしたところで、あの9.11の映像を見せつけられたとき、現実のほうが遥かに凄まじいのだということを、我々はいやが上にも思い知らさせた。我々は一体何だったのだろう……と。特に、映画やテレビなど映像に携わる人間は(久石も例外なく)、これまで追い求めてきた世界とは、ファンタジーとはいったい何なのだろう、大きな疑問符を突きつけられることになった。

別に言い方をすれば、9.11をリアルタイムで体験してしまった人間は、まさに千尋やプセたちと同様、宮崎監督やダアン監督が描いた”異界”、つまりいままで自分たちが生きてきた世界とは違った世界(そして自ら望まない世界)に放り出され、その世界を現実として生きろと、無理難題な要求を突きつけられてしまったのである。その過酷な事実を新たな現実として受け入れ、生きていかねばならないにしても、我々が”異界”に適応するのは容易なことではなく、当然のことながら多くの時間を要した。誰もが皆、同じように苦しみ、考え、自分なりに答えを見つけ出していくことを余儀なくされた。

では、アーティストとしての久石は、9.11から受けた衝撃や思いをどう表現したのか? 音楽家として、今までと違う現実、9.11以後の世界という”異界”とどのように向き合うべきなのか? その回答のひとつが、2001年から3年後の2004年に立ち上げた、新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)の創設と、本盤ラストに収録されているW.D.O.のテーマ曲「World Dreams」の作曲である。その答えにおいて、久石は伝統的な西洋のオーケストラの中で、力強いメロディを”ユニゾン”で鳴らすという驚くべき結論を見出した。もちろん、久石はその結論にやすやすと達したわけではない。9.11のはるか以前から、ミニマル・ミュージックを通じて”異界”を意識化させてきたアーティスト・久石なくして、その結論に達することは出来なかっただろう。

 

改めて説明するまでもないが、久石はミニマル・ミュージックの作曲家としてキャリアをスタートさせた。話をわかりやすくするため、ミニマル・ミュージックとは「繰り返しや反復などを用いながら微細なズレを生み出し、そのズレから豊かなテクスチュアを紡ぎ出していく音楽」と仮に定義しておくが、ミニマリストとしての久石が他のミニマルの作曲家と異なるユニークな特徴のひとつは、彼がエッシャー的な視点を備えた作曲家だという点である。

久石はミニマル・ミュージックを書き始めた頃から、オランダの抽象画家マウリッツ・エッシャーの作品に非常に強い関心を抱いていた。エッシャーはだまし絵(錯視画)で有名な画家だが、久石はそのエッシャーの作品から影響を受けながら、だまし絵がもたらす錯視効果とミニマル・ミュージックがもたらす錯視効果(より正確に言えば錯聴効果)の類似性に注目し、実際のミニマル・ミュージックの作曲に生かしていった。

エッシャーは、現実の世界に存在していない図形や模様があたかも存在しているように描くことによって、人間のものの見方、もっと大きく言えば、世界の捉え方そのものに対して、問題提起を行った画家である。特に晩年の作品では、あるパターンを幾重にも繰り返し、積み重ねていくことで、そこからまったく違うものが生まれていく変容(メタモルフォーゼ)を追求していくようになった。

そうしたエッシャーの特徴に久石は注目し、自身の作品においても、同じ音形やフレーズを繰り返し、少しずつズラしていきながら、全く異なるものを生み出し、音楽を変容させていくという実験を重ねていった。その方法論は、作曲家として初期の活動を始めた40年前から現在に至るまで、本質的には変わることなく受け継がれているといっても過言ではない。そうした彼のミニマル・ミュージックに対する向き合い方、言い換えればエッシャー的な方法論に基づくミニマル作品が、本盤には2曲収録されている。

まず、1985年のアルバム『α-BET-CITY』の中に収録されていた曲がオリジナルとなる、タイトルもそのままずばりの「DA・MA・SHI・絵」。そして1944年にエッシャーが描いた原画「Encounter(遭遇)」にインスパイアされて生まれた、弦楽合奏のための「Encounter」。ユーモラスな響きを持ち、同じフレーズや音型を繰り返すうちに音楽がすっかり別のものに変容してしまう、まさにエッシャーのだまし絵を見ているような感覚に非常に近い驚きや喜びを、リスナーはこの2曲から感じていただけるのではないだろうか。

作曲年代が約30年離れた、これら2曲が端的に示しているように、久石がエッシャー的なミニマル・ミュージックを書くということは、すなわち、人間の見方やものの捉え方が実のところは錯視的であり、あるいは変容していくものだということを音楽を通じて表現し、問題提起していることにほかならない。わかりやすく言えば、「いま現実に見えているものだって、突然”異界”に変容するとも限らないよ」ということである(ちなみに1992年に久石のアルバム『My Lost City』は、まさにそうした問題意識から生まれた作品である)。

40年前から、そうした問題意識を片時も忘れることなく、作曲というフィールドにその意識を生かしながら音楽を表現してきたところに、実は久石のミニマリストとしての最大の強みが存在する(ミニマルの繰り返しや反復はあくまでも技法であり、それ自体が目的ではない)。だからこそ、彼のミニマル・ミュージックが我々に強く訴えかけてくるのではあるまいか。

そういう作曲家・久石が9.11という”異界”に遭遇(encounter)したとき、単にその事件に寄り添った音楽を書いたり活動をしたりするだけではなく、今までと違った現実を生き抜くために、それに応じた音楽的姿勢を持って活動し、生きねばならないと決断したのは想像に難くない。

 

先に触れたように、久石は9.11以後の世界という”異界”への回答として、W.D.O.を創設した。なぜ、オーケストラなのか? ”異界”が現れる前の馴染み深い音世界を懐かしむとか、西洋音楽の伝統に回帰するとか、そういう話ではない。『千と千尋の神隠し』や『Le Petit Poucet』のように、敢えてオーケストラに”異界”を取り込むことで、”異界”そのものを生き抜いていこうとする、ひとつの決意表明として、オーケストラを選んだのである。そのオーケストラの中に、これまで久石が抱えてきた問題意識、つまりエッシャー的な問題意識に基づくミニマル・ミュージック的な方法論を持ち込むことで、今までとは違った現実、すなわち”異界”を生きていくことはどういうことなのか、それを追求していくためにオーケストラを選んだのである。だからこそ、オーケストラの中で「World Dreams」のような”ユニゾン”のメロディを歌う意味が生まれてくる。もし、オーケストラが”異界”の響きを表現するだけだったら、多様性に満ち溢れた音楽的にも比喩的な意味でも”不協和音”の衝突のまま終わってしまうから。

 

奇しくも9.11以後、この18年のあいだに音楽を世の中に届けていく方法そのものも大きく変わってしまった。それ以前は、アルバムやレコードといったパッケージで音楽を届けることがアーティストにとってのひとつの目標であり、またゴールでもあった。ところが18年経った現在、インターネットなどのデジタルの普及によって音楽のあり方自体が大きく変容し、ストリーミングで音楽を聴き、あるいは1曲だけダウンロードして楽しむといった聴き方が日常のものとなった。好むと好まざるとに関わらず、そういう音楽の”異界”に我々は生きているのである。

だが、”異界”は必ずしも悪いことだけではない。この現行を書いている2019年7月現在、中国で初めて劇場公開された『千と千尋の神隠し』は新作映画を上回る大ヒットを記録し、新たなファン層を生み出している。そしてこの9月には、アメリカの名指揮者デニス・ラッセル・デイヴィスがチェコ・ブルノで「DA・MA・SHI・絵」のヨーロッパ初演を振ることが決まっている。18年前、このように世界が変わることになるとは、実は久石本人ですら想像もつかなかったはずだ。

そういう”異界”を現実のものとして生きている現在の我々にとって、何を拠りどころとしながら生き、どのように世界を見つめていかなければならないのか? 本盤『Spirited Away Suite』には、その難問に対してアーティスト・久石譲が誠実に出した回答──9.11以後の”異界”を”だまし絵”で生き抜くオーケストラの音楽──が凝縮して表現されている。

前島秀国/Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター
2019/07/01

(CDライナーノーツより)

 

 

Spirited Away Suite
2018年の「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2018」にて初演。2001年7月20日公開の宮崎駿監督の映画『千と千尋の神隠し』から。構成楽曲は次のとおり。
あの夏へ One Summer’s Day/夜来る Nighttime Coming/神さま達 The Gods/湯屋の朝~底なし穴 View of the Morning ~ The Bottomless Pit/竜の少年 The Dragon Boy/カオナシ No Face/6番目の駅 The Six Station/ふたたび Reprise/帰る日 The Return

Le Petit Poucet
2001年、オリヴィエ・ダアン監督のフランス映画『Le Petit Poucet』(邦題:プセの大冒険 真紅の魔法靴)メインテーマより。シャルル・ペローの童話『親指小僧』をもとに実写化された映画。ヴォーカル版はヴァネッサ・パラディの歌う「La Lune Brille Pour Toi」。2001年の東北ツアーで演奏されたメインテーマを、2018年「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2018」において書き直して披露された。

DA・MA・SHI・絵
エッシャーのだまし絵にインスパイアされた1985年の作品、『α-BET-CITY』で発表された。1996年の「PIANO STORIES II ~The Wind of Life~ Part 1 Orchestra Night」の際にオーケストラ版に書き直された後、2010年『ミニマリズム』収録時にLSO(ロンドン交響楽団)の演奏による初収録された。

Encounter for String Orchestra
オリジナルは、2012年、「フェルメール光の王国展」のために書き下ろした「Vermeer & Escher」の室内楽曲。その中から4曲を選び、弦楽四重奏曲として再構成・作曲し直した「String Quartet No.1」(初演:2014年9月29日「Music Future Vol.1」)の第1曲「Encounter」を、更に弦楽合奏用に書き直した作品。2017年2月12日、久石譲指揮、ナガノ・チェンバー・オーケストラにて初演。本盤が初収録となる。

World Dreams
2004年、久石譲と新日本フィルによるW.D.O.結成時に、テーマ曲として作曲された作品。「作曲している時、僕の頭を過っていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。『何で……』そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国歌のような格調あるメロディが頭を過った」

(楽曲解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

久石譲コメント

Spirited Away Suite /「千と千尋の神隠し」組曲

アメリカのアカデミー賞長編アニメーション賞を獲った作品で、海外からも一番これを演奏してほしいという要望が強いんですよね。すごく強いのですが、なぜかチャレンジをずっと避けていた曲なんです。今年本格的に取り組んでみて、思った以上に激しい曲が多くて驚きました。人間世界から異世界に迷い込んで、千尋という名前が千に変わり、両親が豚に変えられたりする中で、様々な危機が来る。当然、音楽も激しくなるわけです。一方でこの作品には「六番目の駅」に代表されるような、現実と黄泉の世界の狭間が色濃く表現されている。宮崎さんが辿り着いた死生観が漂っている気がします。でもだからこそ生きていることが大事なんだ、ということをちゃんと謳っている。その思いが伝わればいいなと思っています。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2018」 コンサート・レポート より)

 

 

[参考]

2019年6月21日 中国劇場公開にて大ヒット「千与千寻」

 

 

久石譲コメント

Encounter for String Orchestra

数年前にフェルメール展が催され、その作曲を依頼されたのですが、僕の強い要望でエッシャーも展示されました。ミニマリストとしてはフェルメールよりも(もちろん好きですけど)だまし絵のエッシャーのほうに興味があったからです。その楽曲を中心に後に「弦楽四重奏曲第1番(String Quartet No.1)」を作曲しました。その第1曲がこの「Encounter」です。それをストリング・オーケストラとして独立した楽曲にしました。マーラーがシューベルト等の弦楽四重奏曲をオーケストラ用に書き直していますが、厚くなる部分と、ソロの部分をうまく活かしてよりダイナミックに作っている。僕もそのことを大切にしました。

レの音を中心としてモードによるリズミカルなフレーズが繰り返されます。ややブラックなユーモアもありますが、変拍子と相まって曲の展開の予想はつきにくい、したがって演奏もかなり難しいです。

曲のタイトルはエッシャーの「Encounter」という絵画(版画)からきています。もちろんインスピレーションも受けています。決して重い曲ではないので、楽しんでいただけたら幸いです。

(「久石譲 フューチャー・オーケストラ・クラシックス Vol.1」コンサート・パンフレット より)

 

[参考]

Encounter /エッシャー (1944)

 

memo

エッシャーのこの絵のウィキ的解説が少なすぎてわからない。奥の方では白い人と黒い人がタイルを埋めるように平面的に当てこまれてる。そして円を描くように前の方では立体的に描かれ中央で「出会う」。ヴィオラから始まるこの曲は楽器配置も関係してるんだろうか…。白と黒に旋律的モチーフをもたせてるのだろうか…。円中央の反転や立体的人の影は、旋律の反転やなんらかしてるのだろうか…。エッシャーの「出会う」とは、音楽に置きかえたときに、ひとつの旋律を全楽器が奏でるユニゾンになる瞬間のことだろうか(数回ある)…。久石さんの言う〈ブラックなユーモア〉も音楽的にどういうことなのか、さっぱりわからない。いつか解説してくれますように。繰り返し模様とミニマルの反復、いろんな見え方と音のズレによる変化。パターンと秩序、二次元と三次元、数学的と論理的。ハーモニーを極力排除した単旋律的要素。絵を見ながら「Encounter」を聴くとなんかおもしろい気がしてくるからおもしろい。そして、「DA・MA・SHI・絵」と「Encounter」が新作CDにあわせて収録されるのはエッシャーつながりとしてもなるほどと思う。

 

 

 

本作に収録された作品のレビューは、コンサート・レポートに瞬間を封じ込め記した。

 

 

 

 

また2019年1月にTV放送された際に、映像で確認できた楽器のこと、繰り返し観れることで気づいたことなどを記した。

 

 

 

 

 

 

 

久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
「千と千尋の神隠し」組曲

Joe Hisaishi & New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Spirited Away Suite

Spirited Away Suite 
1. One Summer’s Day
2. Nighttime Coming
3. The Gods
4. View of the Morning ~ The Bottomless Pit
5. The Dragon Boy
6. No Face
7. The Sixth Station
8. Reprise
9. The Return

10. Le Petit Poucet
11. DA・MA・SHI・絵
12. Encounter for String Orchestra
13. World Dreams

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi

Performed by
New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Yasushi Toyoshima (Solo Concertmaster)
Solo Piano by Joe Hisaishi (Spirited Away Suite)

Recorded at
Suntory Hall, Tokyo (August 20, 2018)
Sumida Triphony Hall, Tokyo (August 21, 2018)

Spirited Away Suite, Le petit Poucet
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

Recording & Mixing Engineer:Suminobu Hamada
Assistant Engineer:Takeshi Muramatsu (Octavia Records), Hiyoyuki Akita
Mixed at Bunkamura Studio
Mastering Engineer:Shigeki Fujino (UNIVERSAL MUSIC)

and more…

 

Disc. 久石譲 『海獣の子供 オリジナル・サウンドトラック』

2019年6月5日 CD発売 UMCK-1626

 

2019年公開映画『海獣の子供』
原作:五十嵐大介「海獣の子供」
監督:渡辺歩 
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師「海の幽霊」

 

五十嵐大介によるマンガ「海獣の子供」が長編アニメーションとして映画化。2019年6月7日公開。約150館規模。「マインド・ゲーム」「鉄コン筋クリート」などで知られるSTUDIO4℃が制作を担当。本作は他人とうまく接することができない中学生の少女・琉花が、ジュゴンに育てられた不思議な2人の少年、“海”“空”と出会う海洋ファンタジーだ。第38回日本漫画家協会賞優秀賞、第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を獲得している。

音楽は日本国内外を問わずグローバルに活躍する久石譲が担当。この映画を鮮やかに、そして深海の様に神秘な音で彩る。

<CAST>芦田愛菜(安海琉花)、石橋陽彩(海)、浦上晟周(空)

(UNIVERSAL MUSIC JAPAN メーカーインフォメーションより)

 

 

■ 久石譲コメント

この映画の面白さは、ストーリーとして予測できないところにあります。哲学的であるともいえます。全編を通してミニマルミュージックのスタイルを貫いたので、映画音楽としてはかなりチャレンジをしたと思います。
宇宙の記憶の息遣い、生命の躍動感など見る人のイマジネーションを駆り立てる作品です。音楽と映像によって見る人の感覚が開放されて楽しめることを期待します。

出典:「海獣の子供」公式サイト|NEWSより

 

■スタッフ メディアインタビューより

渡辺監督は「久石さんは最初の話し合いの時点で原作を読み込まれて、イメージを掴んでいらっしゃっていて、『シーンや心情に寄り添って、ストーリーを煽るような音楽よりは、ちょっと客観的なもの。それだったらできる』とおっしゃっていたんです。僕も久石さんが初期に作られていたような、ミニマル・ミュージックな路線でいけたらと思っていたから、それがうまく合致した」とやり取りを明かし、「久石さんとしても挑戦的な、久しぶりというより新しい扉をもう一度開きなおすような意気込みで臨まれた」とコメント。また最初に久石から音楽のスケッチを受け取ったときのことを「フィルムに一気に色が増すような感動を覚えました」と話し、「その感動が皆さんにも伝わっているとうれしい」と客席に笑顔を見せる。

出典:「海獣の子供」ワールドプレミア、総作画監督&CGI監督は“作画とCGとの境目”に自信|コミックナタリー より抜粋
https://natalie.mu/comic/news/332061

 

 

-そうしてできあがった映像をごらんになった、五十嵐先生の感想をお聞きしたいです。

五十嵐 完成に近い映像を見せていただいたのは、音楽収録の時ですね。映像を流しながら演奏するということで、見学にお邪魔したのですが……久石譲さん指揮の生演奏と合わせて観たということもあって、震えるような衝撃を受けました。もちろん、絵の密度や色彩も素晴らしかったのですが、細かい演出にも感心させられました。とにかく全てがすばらしかったです。

-久石譲さんのお名前が出てきたところで、音楽についてもお聞きしたいです。久石さんの参加は、どういったきっかけで実現したんでしょうか。

渡辺 いやあ、ダメ元ですよ(笑)。元よりファンだったこともあって、「もしできるのであれば」と相談したところ、さまざまな方のご協力もあって、奇跡的に実現することができました。

五十嵐 いや、震えましたね。素晴らしい音楽でした。

渡辺 実は久石さん、顔合わせの段階で、原作を深く読み込んできてくださったんですよ。それで「この作品には完全に感情に寄り添うような音楽ではなく、客観的な音楽の方が情感が引き立つのではないか」とご提案くださって……。私も同様のイメージを持っていたので、とても感激いたしました。『海獣の子供』は、そうした劇伴、効果音や声も含め“音の映画”としても魅力的だと考えています。

出典:【es】エンタメステーション|海獣の子供インタビュー より抜粋
https://entertainmentstation.jp/446925

 

 

久石譲音楽についてのスタッフコメントや、主題歌「海の幽霊」/米津玄師についてなどはこちらをご参照ください。

 

久石譲インタビューは「劇場用パンフレット」に1ページ収載されています。

 

 

「今なんか、もうこういう電気機材がすごい発達してるから、もういくらでも細かくやってほとんど音楽がハリウッドでもそうですけど効果音楽になっちゃってるからね、効果音の延長になっちゃってるからね。そのてのつまんないものはね、やっても仕方がないんで。自分が想像してる以上に、世界はソーシャルメディアで変革されてきすぎっちゃってるんですね。そういうなかで結局、映画という表現媒体のなかで、アニメーションというものが持ってるものと、例えばゲームとかね、そういうものが持ってる力を、もう過小評価してはやっていけないだろうと。表現媒体に対する制作陣が昔のイメージで凝り固まって、作品とはこんなもんだっていうことで作っていくやり方が、もう時代に合わない。やはりアニメーションというのはある種の可能性があるわけだから、それをもっと若い世代の人とやっていく、あるいはその時に自分も今までの音楽のスタイルではないスタイルで臨む、今回みたいにミニマルで徹するとかね。そういう方法で新しい出会いがあるならば、これは続けていったほうがいいなあ、そういうふうに思います。」

「観る人のイマジネーションをきちんと駆り立てる。だからそれをアンテナを張ってればこれほどおもしろい作品はない。だからこれでたぶん1回観た2回観た、なんかそうするとちょっと別の景色が見えてきて。変に感情的に訴えかけてくるんではないんだけども、なんかそのなかで自分の感覚みたいなものが開放されたときに、ああこの映画に出会ってよかったって思える、そういう作品だと思います。」

Info. 2019/06/14 映画『海獣の子供』久石譲メイキングインタビュー 動画公開 より抜粋)

 

 

「スタイルとしては、徹底的にミニマル・ミュージックで通しています。一昨年からのNHKのドキュメンタリー(『シリーズ ディープ・オーシャン』)や去年、プラネタリウム(コニカミノルタプラネタリア TOKYO)の音楽を書いた頃から「この作品はミニマルでいける」と思ったら、ミニマルでブレずに書くようにしているんです。映画音楽では、メロディがあって、ハーモニーがあって、リズムがあるという手法が通常なんですけど、そういうスタイルから離れてもっとミニマル作曲家として先をいきたかったんです。ミニマルは変化が乏しくなってしまう可能性がありますけれど、多少コミカルに、エモーショナルになってもスタイルを変えずに最後までできたという点で、個人的にはとても満足しています。」

「シンセサイザーも使っていますが、そんなに分厚くしていない室内楽の形をとりつつ、それでいてしっかり鳴る方法をとっています。ハープや鍵盤楽器の響きを大事にしているところを含めて、最近の自分のやり方を通している感じですね。音色がカラフルに飛び込んでいくようになっているといいなって思っています。」

Blog. 「海獣の子供 公式ビジュアルストーリーBook」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

ここからレビュー。(2019.6.11 記)

 

久石譲の今の音がつまった、ミクロマクロの音楽設計図

こんなにも新鮮な感動につつまれた幸せ。思い返せば、この新鮮さは”点”ではない。『NHKスペシャル シリーズ ディープ オーシャン』や『プラネタリアTOKYO To the Grand Universe 大宇宙へ』でミニマル・ミュージックを軸に貫いた音楽。その流れの先にあるのが本作『海獣の子供』音楽になっている。しかし、挙げたふたつの作品はいずれも今現在未CD化、ようやく久石譲の今の音がつまったエンターテインメント作品が手元に届けられた感動はひとしお。

2013年公開スタジオジブリ作品『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』以来6年ぶりの長編アニメーションの音楽を手がけた本作。定着したジブリ音楽カラーがあるならば、同じアニメーション映画でも振りきりよく裏切ってくれている。一方で、小西賢一(キャラクターデザイン・総作画監督・演出)は『かぐや姫の物語』作画監督など、笠松広司(音響監督)は『崖の上のポニョ』『風立ちぬ』音響監督など、ジブリとゆかりのあるスタッフも多い。久石譲音楽をわかっている、音楽の見せ場や聴かせどころを尊重してくれるスタッフが多く関わった作品とも言えるかもしれない。

空間と時間を飛び越えるようなスケールの大きい音楽世界。無限の広がりとループ。ミニマル・ミュージックでありながら、淡白で無機質なくり返しではない、エモーショナルで有機的な結びつきによる音楽。実写やアニメーションというジャンルを超えたところにある、新しい映画音楽のかたち。久石譲の新しい到達点であり、いまなお進化しつづけているその瞬間を見せつけられた高揚感と清々しい気分でいっぱい。

 

予告1・特報1・特報2で使用された楽曲は「星の歌」「孤独な世界」「海」、そのまま使用しているものもあれば、加工編集しているものもある。

 

全体をとおして。

神秘的で色彩豊かな音楽世界。小編成オーケストラにシンセサイザーの混ぜ合わせ。おそらく生のオーケストラにほぼシンセサイザーの音も重ねていると思う。弦楽+シンセストリングスというように。これは生オーケストラのみのソリッドさよりも、広がりをもたせる効果を狙っていると思われ、シンセサイザー特有の音もあるなか、ひょっとしたら5:5くらいの混ぜ具合かもしれない。そのくらいの新しい感覚をおぼえる。

本編111分、音楽43分。映像の3分の1に音楽を配置したことになる。収録曲のいくつかは、別シーンでも使用されていたり(Track2.3.など複数登場する)、楽曲の一部パートを巧みに配置しているシーンもある。メロディー重視ではないミニマル・モチーフで構成された楽曲群だからこそ、切り取り感のない音楽をすっと映像や時間になじみこませる。

CGと手描き、生楽器とシンセサイザー、映像も音楽もアナログとデジタルの混合で、浮いてしまうことなく密着し融合している。効果音やセリフとの折り合いもよく、音響SEから音楽へのスムーズな流れ、クライマックスは映像×音楽のダイナミックなコラボレーション。サウンドトラック時間以上に、音楽がのこすインパクトは圧倒的な映像美と堂々と対峙している。さながら音楽映画の要素をおびた印象をも与えてくれる。

 

以下は、収録曲をフラットに並べて、久石譲の音楽設計図を紐解いてみたい。

音楽を中心に置いているけれど、どうしても必要な箇所は、原作からの引用(【 】)をしています。あくまでも個人の見解です。これを見てくれた人から新しい発見や声があるとうれしいです。

 

1. ソング
7. 宇宙の記憶
15. 空との別れ
18. 宇宙の誕生
19. 生命の理由
23. 海との別れ
一番多く登場するモチーフで作品の世界観につけたメインテーマといえる。「1.ソング」幻想的で一気に引き込まれる。「7.宇宙の記憶」しっかりとモチーフは鳴っていて、このメインテーマを構成している旋律のいくつかが引き算で奏でられる。また弦のこするような音を効果音のように使っている。「15.空との別れ」「23.海との別れ」は近い曲想になっているけれど、音符の数が違っていたり(ミニマル・モチーフを4分音符/8分音符/16分音符で刻むか)、編成パート数も違っていたり(23.は楽器数も多くバックで流れる旋律数も多い)と、聴き比べるとおもしろい。7.冒頭のハープ分散和音も23.に引き継がれ、後半部もふくめてモチーフが響きあう集合体になる。

「18.宇宙の誕生」「19.生命の理由」は映画本編で切れめなく流れるクライマックス。まるでビックバンのようなエネルギーの爆発を浴びせらせる。さも自分が体験しているような感覚、美しさと恐さに呑み込まれる。18.こそほぼ生オーケストラのみで構成されたソリッドな音響になっているので、他の楽曲とのコントラストがわかりやすい。18.のみ現れるミニマルの下降音型と、19.ほかで聴かれるミニマルの上昇音型。高い音から低い音へうつる下降音型は宇宙から降りてくるようでもあり、低い音から高い音へうつる上昇音型は海から湧きあがってくるようでもある。こういう見方もおもしろい。

このように、メインテーマの楽曲を紐解いてみると、「ミニマル・ミュージックで貫かれた映画音楽」というもののなかに整理ができてくる。”くり返しやズレ”を基調とした一般的なミニマル音楽をベースとしながらも、久石譲のそれは、一辺倒な方法論だけではない。”最小限の音型を足し算・引き算しながら変化させること”、”音(楽器)を豊かに変化させること”、これが久石譲の言うところのミニマル・ミュージック・ベースだと思っている。

 

原作では「ソング」とはザトウクジラの発する音・うたう歌とされている。【世界が生まれたときからの時間や記憶】【同じ旋律のくり返し……「ソング」だ】【聞いたことのない…「ソング」?】といったセリフが登場し、【そこら中あちこちに潜んでいるうたを、鯨が傍受して形を与える。それを海がマネする。そうやってあのうたがいつか世界を満たす……】(第4巻)ともある。

全巻において出現する「ソング」は、原作の柱であり有機的に交錯している。象徴的でありながら抽象的というとても難しいかたち。音階やメロディをもっているとは表現されていない。映画では音響SEとしての「ソング」も響く。久石譲は、「ソング」を音楽化した。【同じ旋律のくり返し】というミニマル音型をベースにしながらも、【聞いたことのない「ソング」】かたちの定まらない音型の足し算・引き算の変化。そうやって、旋律になりそうでなりきらない【あちこちに潜んでいるうた】を、【鯨が形を与える】ように音たちが集まり導かれ楽曲後半に悠々と重厚な旋律が奏でられる。冒頭に戻る、一番多く登場するモチーフで作品の世界観につけたメインテーマといえる。

 

2. 孤独な世界
少ない音符の数、メロディのない旋律のなかにおいても、たしかな情感をあたえてくれる。ピアノの残響に添うようにシンセサイザー音をしのばせる。ピアノ高音はハンマー強く、低音は丸みのある音像。ハープも同じく高音は弦のはじく音が強く発せられ、低音はこもりがちなやわらかい音。少ない音符と楽器、ニュアンス豊かに表情をつけている。

 

3. ひとりぼっちの夏休み
ベーシックなミニマル・ミュージックのズレをゆっくり聴くことができる曲。ピッツィカートも生音でここまでふくよかな表情は出せない、シンセサイザーと巧みにブレンドされていると思う。またハープの特徴は「2.孤独な世界」に同じ。もし生音だけでピッツィカートを鳴らしたら、ハープの音に近くなり溶け合ってしまうだろう。ピアノ、ハープ、ピッツィカート、グロッケンシュピールのたゆたう調べ。

 

4. 海と琉花
6. 海に連れられて
9. 出航
13. 海と琉花 ~出会い~
3人の主人公〈琉花〉〈海〉〈空〉の交流を描いたシーンで使われている。出だしから聴かれるモチーフたちを楽曲ごと楽器を置き換えることでカラフルにしている。軽快なミニマル音型のズレ、楽器の出し入れによるくっきりとした多重奏。同じモチーフでもピッツィカートの均一な音幅で奏でられるのと、管楽器ののびやかなフレージング。映画シーンごとに主人公の心情や場面の変化にあわせているというよりも、決して同じものはない・同じところにとどまることのない人や場所や時間の変化という俯瞰と客観性かもしれない。バリエーションを意味づけするよりも、変化することが自然とでもいうように。

 

5. 海
14. 光る夜の海へ
短い音型が小さな上昇・下降をくり返しながら渦を巻くように上がっていく。ピュアな螺旋を描いて昇りつめ、今度は少しの不協音をおびて一気に下降する。「14.光る夜の海へ」ここでもハープが効果的に使われ、また呼吸をするように音型のテンポが一定でないのも印象深い。映画と照らしあわせると、海の世界観・海のもつ生命力のような、大切なシーンで使われている。出番は少なくても象徴的な位置におかれた主要テーマ曲のひとつといえる。

 

8. 星の歌 ~ケーナ version~
12. 星の歌 ~シンセサイザー version~
17. 星の歌 ~ケーナ&ムックリ version~
22. 星の歌
聴いた瞬間にとりこになってしまう曲。あまに言葉にしないほうがいい。

原作を読んだとき「星のうた」にどんなメロディをつけるのか、大きな期待と楽しみで膨らんでいた。この歌には言葉がある。【星の。星々の。海は産みの親。人は乳房。天は遊び場。】。映画のなかで「星の歌」メロディ全貌が登場するのは「12.星の歌 ~シンセサイザー version~」から。「8.星の歌 ~ケーナ version~」のときには【星の。星々の。海は産みの親。】というところまでの言葉が登場する。12.のときにはじめてそのつづき【人は乳房。天は遊び場。】がセリフとして出てくる。そう、しっかりメロディにこの言葉たちが歌詞としてのっかる。節まわしできれいに言葉がハマる旋律になっている。頭のなかで歌ってみると鳥肌が立つ。メロディの出し方と言葉の出し方(前半部分・全貌)が暗黙のようにリンクしている。

原作には「星のうた」についていろいろなエピソードが散りばめられているので、中途半端に持ち出すのはよくない。それでも曲につながるのではと思う(最低限の)いくつかを紹介させてもらう。

【むかしこのうたを聞いた人間が、自分たちの言葉に置きかえた……形をかえたから力を失ったけど、これは特別なうた。】(第4巻)。【”語ってはならない神話”や”うたってはならないうた”を冒涜しようとしているから。】(第4巻)。原作で「星のうた」は「ソング」を聴いた人間たちが置きかえたものだと語られている。久石譲が書き下ろした「ソング」と「星の歌」のモチーフに音楽的つながりを見つけることはできなかったけれど、もしかしたら発見もあるかもしれない。もちろん、人間が置きかえてしまったもの、とするならば、つながっている必要もない。

本作はミニマルモチーフの楽曲群が多いなか、「星の歌」はえもいわれぬ旋律美で深く染みわたる。そして、歌詞をのせて歌われることはしなかった。メロディの力で映画と原作を補間し大きく包みこむ。心ふるわせ涙腺ゆるむのは、初めて聴いた感動というよりも、もともと体のなかに持っていた、昔から受け継いできたものが反応しているよう。「22.星の歌」メロディが枝分かれし、時間軸で交錯している。「ソング」を人間たちが置きかえたものは「星のうた」だけではないのかもしれない。いくつもの言葉と旋律がこれまで形をかえて生まれては消え、伝え遺り。メロディの紡ぎあいは、そんなことにまで想い馳せさせてくれる。原作では「星のうた」について【旅の道標】【誕生の物語り】などとも出てくる。

楽器についても考察したかったが、なぜケーナが選ばれたのか? ムックリについては映画とリンクしているのでぜひご鑑賞を。

 

10. ジンベエザメ
低弦を基調とした太いラインと、まわりに散らばり飛び交う音たち。群れが集まり互いに交信しているような情景が浮かぶ。変な言い方にはなるけれど、要素が同じミニマルでも久石譲オリジナル作品ではこうはならない、エンターテインメント音楽だからこそ、という曲の展開をしてくれている。しっかり求められているものに応えているというか。

 

11. 嵐の中のふたり
24. 私の夏の物語
往年の久石譲ミニマル・スタイルがつまっている。音もハーモニーも。音数・楽器・旋律が増殖したり浸食したり、ずっと眺めていられる雲の流れや海の満ち引きのよう。この楽曲を聴いて楽しいとも悲しいとも押しつけることはない。独特の和音感でありながら長調とも短調ともはっきりしない。映画を観る聴く人または体感するタイミングによって何色にでも染まることができる。「11.嵐の中のふたり」映画ではいくつかの場面が切り替わっていたと思うが、音楽は約3分半通奏で流れていた。結構大胆な使い方をしているな、という印象を受ける。登場人物や状況に合わせない、映像に合わせて音楽を展開させたり切り替えたりしない、突き放したその一例といえる。

 

16. 星の消滅
20. 生命の繋がり
「16.星の消滅」ピアノのみで奏でられた楽曲は、「20.生命の繋がり」前半部ではシンセサイザー+弦楽合奏が重なり引き継がれる。映画ストーリーでは「ソング」をモチーフにもつ「19.生命の理由」からの流れで躍動感あふれるクライマックスの一端を担っている。また後半部に力強く鳴りおろされる”ラミー””シファー”という音型(1:17~)は、「2.孤独な世界」に出てくる”ラミー”(0:03~)”シファー”(0:44~)と共鳴しているのかもしれない。この4度の動きが交錯している「2.孤独な世界」がある種〈琉花〉のモチーフだとしたときに、ここで力強く鳴らされているものは、しっかりと繋がってくるように思えるから。

 

21. 生命の源
異色を放つシンセサイザーとそのヴォイスによるもの。楽曲のなか常にどこかに”ファ”の音が聴こえてくるような気がする。遠くまでの伸びるシンセサイザーの一線や、吐くヴォイスの音程に。

原作で「ソング」や「星のうた」と同じく注目していた3つめの音楽的ポイント。【698.45ヘルツの音波のような】【「ファ」の音】【生まれる場所からの声】【星が死ぬときの音】と出てくる音。映画のなかでは超音波のような凄まじい音圧の音響効果で圧倒されるシーンがある(この楽曲箇所ではなかったような)。それがファの音を帯びていたか記憶が薄いけれど、原作にあるこの音を表現した効果音は必ずどこかに登場している。同じように、久石譲がこれらのキーワードから音楽化したものが、この楽曲だと思っている。

 

25. エピローグ
(1. ソング/2. 孤独な世界)
「ソング」のモチーフをハープで〈琉花〉のモチーフをピアノで織りかさなっている。終曲において、久石譲は物語をとおして《たしかに何かが起こった》ことを暗示した。だからふたつの異なる旋律が同時進行する対位法のように絡みあう。それは同時に、映画を観る前と観た後に起こる《観客の変化(感じたこと・行動すること・ものの見え方)》にもつながる。壮大で哲学的な『海獣の子供』世界は難解でひとつの正解はない。だからこそ最後はシンプルに帰する、神話を経てリアルな今に返る、そしてまたひとりひとりからはじまる。ひとりぼっちだった〈琉花〉のモチーフがひとりではなくなったように、あるいは、ひとりではなかったことに気づいたように。

またこの曲は、映画本編に使用されたバージョンと少し異なる。

 

 

 

1. ソング
2. 孤独な世界
3. ひとりぼっちの夏休み
4. 海と琉花
5. 海
6. 海に連れられて
7. 宇宙の記憶
8. 星の歌 ~ケーナ version~
9. 出航
10. ジンベエザメ
11. 嵐の中のふたり
12. 星の歌 ~シンセサイザー version~
13. 海と琉花 ~出会い~
14. 光る夜の海へ
15. 空との別れ
16. 星の消滅
17. 星の歌 ~ケーナ&ムックリ version~
18. 宇宙の誕生
19. 生命の理由
20. 生命の繋がり
21. 生命の源
22. 星の歌
23. 海との別れ
24. 私の夏の物語
25. エピローグ

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi

Performed by
Flute & Piccolo:Yusuke Yanagihara
Oboe:Hokuto Oka
Clarinet:Emmanuel Neveu
Bassoon:Mariko Fukushi
Horn:Akane Tani, Misaki Haginoya, Sachiko Furuya
Trumpet:Cheonho Yoon, Tomoki Ando
Trombone:Yuri Iguchi
Bass Trombone:Koichi Nonoshita
Timpani:Akihiro Oba
Percussion:Hitomi Aikawa, Shoko Saito
Harp:Kazuko Shinozaki
Piano & Celesta:Febian Reza Pane
Strings:Manabe Strings
Quena:Hideyo Takakuwa
Mukkuri (Jew’s Harp):Leo Tadakawa

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio
Recording & Mixing Engineer:Suminobu Hamada (Sound Inn)
Director & Manipulator:Yasuhiro Maeda

and more…

 

Children of the Sea (Original Motion Picture Soundtrack)

1.The Song
2.Isolated World
3.Loneliness Summer Break
4.Umi and Ruka
5.Umi
6.Be Brought By Umi
7.Memories of The Universe
8.The Song of Stars (Quena Version)
9.Setting Sail
10.Whale Sharks
11.Two In the Typhoon
12.The Song of Stars (Synthesizer Version)
13.Umi and Ruka (Encounter)
14.To The Glowing Sea
15.The Time Has Come
16.A Star Extinct
17.The Song ff Stars (Quena & Mukkuri Version)
18.Big Bang
19.The Reason of Life
20.Connection of The Lives
21.The Origin of Life
22.The Song of Stars
23.Goodbye Umi
24.My Own Summer Story
25.Epilogue

 

Disc. 『羊と鋼の森』豪華版

2018年12月19日 DVD/Blu-ray発売
DVD TDV28360D
Blu-ray TBR28359D

 

2018年公開映画『羊と鋼の森』
原作:宮下奈都『羊と鋼の森』(文春文庫刊)
監督:橋本光二郎
脚本:金子ありさ
音楽:世武裕子
エンディング・テーマ:「The Dream of the Lambs」久石 譲×辻井伸行
出演:山崎賢人、鈴木亮平、三浦友和 他

 

 

2018年、最も優しく、最も美しい映画。

「羊」の毛で作られたハンマーが、
「鋼」の弦をたたく。
ピアノの音が生まれる。
生み出された音は、
「森」の匂いがした────

《本屋大賞 受賞》ピアノの調律に魅せられた青年の、優しくて力強い成長物語

 

 

特典ディスクについて

DVD/Blu-ray 豪華版(各2枚組)に収録

□Making of『羊と鋼の森』 約40分
□調律~音の向こう側の世界へ~ 約10分
 山﨑賢人、鈴木亮平が調律という特殊な世界といかに向き合ったかを追う
□エンディング・テーマ「The Dream of the Lambs」ができるまで 約12分
 久石譲、辻井伸行のインタビュー映像と貴重なレコーディング風景
□スペシャル座談会(山﨑賢人、鈴木亮平、上白石萌音、上白石萌歌、司会:天野ひろゆき) 約18分
□イベント映像集 約47分
 (旭川市立春光台中学校卒業式サプライズイベント/完成披露試写会/森を感じる試写会/初日舞台挨拶)
□TVスポット集 約2分

 

 

□エンディング・テーマ「The Dream of the Lambs」ができるまで 約12分
 久石譲、辻井伸行のインタビュー映像と貴重なレコーディング風景

久石譲と辻井伸行によるインタビュー映像は、TV特番やニュースで取り上げられたもの(抜粋)、語られた内容は同じくWebニュースやCDライナーノーツなどに寄せたコメントとして記録されている。

レコーディング映像も一部はTV特番でピックアップされていたが、それよりも充実した内容になっている。最初に二人だけでピアノ演奏を合わせるシーン、コンサートホールでのピアノ+オーケストラ録音など。またオーケストラだけによる演奏風景もあり、久石譲指揮による細かい指示出しを見ることができる。「セカンド、ヴィオラ、チェロ、もうちょっと下げてクレッシェンドして」「リズムキープでいきましょう」「ヴィオラ、73から少し出し加減のほうがクロスするリズムがおもしろい」「ちょっとファースト(ヴァイオリン)がエモーショナルすぎるかもしれない」など、作曲家自らだからこその指示と修正が確認できる。ひとつの楽曲ができるまでのとても貴重な映像記録になっている。一曲まるまる録音演奏風景を収めたものではない。

推測ではあるけれど、おそらく録音はピアノとオーケストラが一緒に演奏する方法をとっていて、映像にあったオーケストラのみの音合わせは、ピアノと合わせる前か、レコーディング中の途中で調整のために行われたか、ではないかと思う。

 

 

 

 

□イベント映像集
 完成披露試写会

辻井伸行による「The Dream of the Lams」ピアノソロ版が披露された模様がほぼフルサイズで収録されている(冒頭イントロのみカットされメロディー箇所からはじまる映像編集)。またこのピアノソロ版は、2018年6月15日TV音楽番組「ミュージック・ステーション」に出演した際に演奏されたバージョンと同じもので、約2分間にまとめられたピアノソロ版。

 

 

 

 

 

Blu-ray 豪華版(2枚組)

■DISC1(本編Blu-ray)
分数:本編134分+映像特典
画面サイズ:16:9 スコープサイズ
層数:2層(BD50G)
字幕:バリアフリー日本語字幕
音声: 1)日本語 5.1chドルビーTrueHD アドバンスド96kアップサンプリング
   2)日本語 2.0chドルビーTrueHD アドバンスド96kアップサンプリング
   3)バリアフリー日本語音声ガイド 2.0chドルビーデジタル
【収録内容】
・本編 ・予告編集

■DISC2(特典Blu-ray)
分数:128分
画面サイズ:16:9 ワイドスクリーン
層数:2層(BD50G)
音声:日本語 2.0ch ドルビーTrueHD
【収録内容】
□Making of『羊と鋼の森』 約40分
□調律~音の向こう側の世界へ~ 約10分
 山﨑賢人、鈴木亮平が調律という特殊な世界といかに向き合ったかを追う
□エンディング・テーマ「The Dream of the Lambs」ができるまで 約12分
 久石譲、辻井伸行のインタビュー映像と貴重なレコーディング風景
□スペシャル座談会(山﨑賢人、鈴木亮平、上白石萌音、上白石萌歌、司会:天野ひろゆき) 約18分
□イベント映像集 約47分
 (旭川市立春光台中学校卒業式サプライズイベント/完成披露試写会/森を感じる試写会/初日舞台挨拶)
□TVスポット集 約2分

<封入特典> 特製フォトブック 36ページ

 

DVD 豪華版(2枚組)

■DISC1(本編DVD)
分数:本編134分+映像特典
画面サイズ:16:9 LBスコープサイズ
層数:片面2層
字幕:バリアフリー日本語字幕
音声: 1)日本語5.1chドルビーデジタル
   2)日本語2.0chドルビーデジタル
   3)バリアフリー日本語音声ガイド 2.0ch ドルビーデジタル
【収録内容】
・本編 ・予告編集

■DISC2(特典DVD) *Blu-ray同一内容

 

DVD 通常版(1枚組)

■DISC1(本編DVD)
分数:本編134分+映像特典
画面サイズ:16:9 LBスコープサイズ
層数:片面2層
字幕:バリアフリー日本語字幕
音声: 1)日本語5.1chドルビーデジタル
   2)日本語2.0chドルビーデジタル
   3)バリアフリー日本語音声ガイド 2.0ch ドルビーデジタル
【収録内容】
・本編 ・予告編集

 

 

Disc. 久石譲×辻井伸行 | 世武裕子 | 辻井伸行『羊と鋼の森 オリジナル・サウンドトラック SPECIAL』

2018年6月6日 CD発売 AVCL-25966/7

 

2018公開映画『羊と鋼の森』
監督:橋本光二郎
脚本:金子ありさ
音楽:世武裕子
出演:山崎賢人、鈴木亮平、三浦友和 他

 

映画『羊と鋼の森』久石譲×辻井伸行によるエンディングテーマ「The Dream of the Lambs」を含むサウンドトラック+音楽集というCD2枚組。DISC1には久石譲×辻井伸行によるエンディング・テーマ「The Dream of the Lambs」、世武裕子による本編音楽を、DISC2には映画の中で主役の一部を務めるピアノ作品を、辻井伸行の演奏で完全収録した超豪華なスペシャル盤。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

世界的作曲家で、映画音楽界の巨匠でもある久石譲がエンディング・テーマを書き下ろし、世界的ピアニストである辻井伸行がソロピアノを演奏!

映画『羊と鋼の森』(2018年6月公開)の世武裕子によるサウンドトラックに加え、映画に登場する主要なピアノ曲を辻井伸行の演奏で収録した超豪華オフィシャル・アルバム!

(CD帯より)

 

 

映画『羊と鋼の森』エンディング・テーマ
久石譲 × 辻井伸行 The Dream of the Lambs

久石譲 | 作曲

ピアニストはいろいろなピアノに出会わなければならない。ピアノによってタッチがそれぞれすごく違います。調律師は求める音を表現してくれる、本当に大事な存在で、音は出さないけど立派な音楽家だと思います。そんな調律師を描いた原作を、オファーをいただく前に読ませていただきました。成長譚の美しくてとても良い話。だからこそ、綺麗なだけで終わらないように、映画の奥行を出せるように、シビアなミニマル的な部分とメロディアスな部分の交差する曲を作るように意識しました。

その曲を辻井くんと一緒に作ることができて嬉しく思います。古典的なスタイルをとりつつ、現代的な曲を作ったのですが、見事に弾いてくれました。辻井くんは本当に素晴らしいピアニストで、特にリズム感が凄いです。無駄なものが無いきちんとしたリズム。これを活かしたいと思って指揮をしました。演奏をしていて、とても楽しかったです。辻井くんとはまたぜひ一緒に演奏させていただきたいですね。

 

辻井伸行 | ピアノ

オファーをいただく前に原作を点字の本にしてもらって読んでいましたが、ピアノをやっている人なら皆さん興味のある話だと思います。曲にもたくさんのイメージがあったり、ピアノには壮大でカッコいいところがあったり、いろいろな面白いことが分かる素晴らしい物語です。そんな映画の演奏を、久石さんとご一緒させていただけたのは本当に光栄でした。久石さんの大ファンで、素晴らしい曲をずっと聴いていたので、本当に嬉しかったです。

久石さんに楽譜をいただいた時に、どのような気持ちで作曲されたのか想像し、また映画のイメージを自分の中で膨らませて、できる限りのことをしようと思って練習し、本番に挑みました。お会いするまでは緊張しましたが、本当にお優しい方で、合わせやすく、またいろいろと勉強させていただきました。この曲は感動的で、美しく、弾いていて本当に楽しかったですし、収録があっという間でした。また是非ご一緒させていただきたいです。

ピアノの調律師さんは僕にとってなくてはならない存在です。ピアニストは演奏するときは一人ですが、調律師さん、観客の皆さんと一緒にコンサートを作り上げていると思っています。

国内外のさまざまな場所で調律師さんと出会うのですが、いろいろなタイプの調律師さん、そして会場のピアノと出会えるのは楽しいですね。

(久石譲・辻井伸行コメント ~CDライナーノーツより)

 

 

DISC 2 ピアノ作品 曲目解説:
ラヴェル、モーツァルト:道下京子
ベートーヴェン:柴田克彦
ショパン:伊熊よし子

(CDライナーノーツ収載)

 

 

from
Info. 2018/06/08 映画『羊と鋼の森』エンディング曲「The Dream of the Lambs」 久石譲&辻井伸行 初タッグ

 

 

「The Dream of the Lambs」、久石譲曰く「綺麗なだけで終わらないように、映画の奥行を出せるように、シビアなミニマル的な部分とメロディアスな部分の交差する曲を作るように意識しました」とあるとおり、とても作り込まれた楽曲であり強く印象に残る楽曲である。エンターテインメントならがここまで音楽的にも表現した楽曲は稀有。古典クラシックにも通じるオーケストラ編成ながら、モチーフやリズムは現代的で、ソリッドなオーケストレーションもまた現代的な響き。辻井伸行が弾くことを想定して書かれたピアノパートはとても難易度が高く、見事に表現した演奏は何度聴いても聴き惚れてしまう。コンチェルト風ともとれる構成は、ピアノとオーケストラが対等に呼応する。

映画公開に先がけて5月に行われた映画完成披露試写会や、6月放送TV番組「ミュージック・ステーション」では、ピアノソロ・ヴァージョン(約2分)もお披露目されている。

 

 

またこの豪華コラボレーションは、映画公開記念コンサートとして、一夜限りの共演も実現している。そのコンサートの模様とコンサートレポートは記した。

 

聴き手の意識で無理にミニマルとメロディを融合させようとしたり溶け合わせようとしなくていいのかな、と。はじめから二面性として顕在化されている。そう思えたのは生演奏を聴いたからで、CD盤だと整然と行儀よく音が配置されバランスがきれいに取られていることからの裏返しかもしれません。CD盤の完璧なパフォーマンスはすでにすり減るくらい愛聴しています。それとは別のところ、生演奏ではじめて感じとれる何か、きっかけがあるとしたら。

音楽はすばらしい、音楽はきびしい。──「音楽」という言葉を「夢」におきかえても同じ。相反する二面性を堂々を据えおくことで、耳なじみよく聴きやすいだけの曲にはしたくなかったのかもしれない。

子羊たちの夢。──悩みもがき輝く成長の過程、決してまだ成熟することのないその瞬間、あえて不完全で不安定なリアリティを楽曲にとじ込めたのかもしれない。痛々しいほど鋭利に、もろいほど繊細に、踏み歩くほど力強く、拓けるほど輝かしく。

音楽はすばらしい。音楽はきびしい。ゆえに音楽は追い求める価値がある。

僕にはそういう聴こえかたがしてきた。まだまだこの曲に対して深い森の中。わからないし理解できていないことのほうが多いけれど、新しい感じ方ができたこと、ミニマルとメロディはそこにそのままいていいんだ、しっかりとふたつがそれぞれに存在していれば、そのバランスや濃淡は聴く人に聴く心境にそれぞれ委ねられていいものだ。今は、そう思っています。

Blog. 映画『羊と鋼の森』公開記念「辻井伸行 特別コンサート」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

サウンドトラックも、シンプルであり映像を邪魔することのない主張しすぎない音楽になっている。またクラシック曲を映画用に編曲した数曲も、原曲を尊重した上品なものになっている。

DISC2に収録されたピアノ作品集は、映画で登場するピアノ曲を、辻井伸行の演奏でコンパイルしたもの。収録曲はすべて既出CD作品からのものではあるけれど、ピアノ入門・クラシック入門としても、聴き馴染みのものから本格的な作品まで最適である。辻井伸行という日本が誇る世界的ピアニストを知る機会、聴くきっかけとしても、ここからまた新しいピアノの世界が広がる一枚。

 

 

2020.09 Update

 

 

 

DISC 1
映画『羊と鋼の森』 エンディング・テーマ
久石譲×辻井伸行
1. The Dream of the lambs
久石譲(指揮) 東京交響楽団 ピアノ:辻井伸行

映画『羊と鋼の森』のための音楽 (オリジナル・サウンドトラック) 
2. 『羊と鋼の森』メインテーマ
3. ピアノスケッチ
4. たまご
5. モーツァルト:きらきら星(連弾) 『羊と鋼の森』サウンドトラック Version
6. 明るく静かに澄んで懐かしい
7. 思い出
8. ショパン:小犬のワルツ 『羊と鋼の森』サウンドトラック Version
9. 移りゆく季節
10. 家族の肖像
11. 外村の戸惑い
12. 森のお葬式
13. いつも、そうやって
14. 森の音がする
15. みたことのない世界
16. 好きって気持ち
17. ピアノを弾くひと
18. メンデルスゾーン:結婚行進曲 『羊と鋼の森』サウンドトラック Version
19. シューベルト:楽に寄す 『羊と鋼の森』サウンドトラック Version
20. 夢のように美しい

世武裕子 作曲:2-4, 6, 7, 9-17, 20 編曲:5, 8, 18, 19

 

DISC 2
辻井伸行 『羊と鋼の森』のためのピアノ作品集
1. ラヴェル:水の戯れ
2. ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
3. モーツァルト:きらきら星変奏曲
4. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57《熱情》 第1楽章
5. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57《熱情》 第2楽章
6. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57《熱情》 第3楽章
7. ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 作品58  第1楽章
8. ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 作品58  第2楽章
9. ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 作品58  第3楽章
10. ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 作品58  第4楽章

ピアノ:辻井伸行

 

DISC 1
エンディング・テーマ「The Dream of the Lambs」
Music:久石譲
Conductor:久石譲
Piano:辻井伸行
Orchestra:東京交響楽団

Engineers:浜田純伸 (Sound Inn) 村松健 (Octavia Records)
Recorded at 武蔵野市民文化会館
Mixed at Bunkamura Studio

サウンドトラック
Music:世武裕子
Producer:北原京子 (東宝ミュージック)
Engineer:田中信一
Recorded & Mixed at Onkyo Studio, sound inn
Piano recorded at Sound City Setagaya (Tr.5,8,18,19)
Piano:世武裕子 (Tr.8 & other) 石橋愛 (Tr.5,18,19) 内田野乃夏 (Tr.5) 松村優吾 (Tr.8)

DISC 2
Recorded at Teldex Studio Berlin (Tr.1, 3-10)
Recording producer & editing:Friedemann Engelbrecht (Teldex Studio Berlin)
Recorded at Salamanca Hall (Tr.2)
Recording producer & editing:Tak Sakurai (Pau)

and more…