Blog. 「海獣の子供 公式ビジュアルストーリーBook」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/12/11

2019年公開映画『海獣の子供』、関連書籍「海獣の子供 公式ビジュアルストーリーBook」に収載された久石譲インタビューです。なお、「海獣の子供 劇場用パンフレット」にも同内容が収められています。

 

 

音楽 久石譲 『海獣の子供』に纏わる第十一の証言

音色がカラフルに飛び込んでくるように

ぼくにとっては、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』以来6年ぶりのアニメーション映画となります。アニメーションというと、ぼくの中では宮崎駿さん、高畑勲さんの存在が大きくて、なかなか気持ちが動かなかったところもあり、極力、依頼をお断りしていたんです。でも、この作品に関しては、ずいぶん前からお誘いをいただいていて、その熱心な声に打たれましたし、映像を拝見したらとても絵が美しい。余計なこだわりに振り回されることもなく、作品に向きあうことができました。

本質的にはいい意味でのファンタジーなんじゃないかなと思います。ストーリーだけを追うと、抽象的なところが多くて、正直、よくわからない。逆に、理解できないからこそ引き受けた部分があるといいますか。先の展開が容易に見える作品ではないからおもしろく観えましたし、一方で考えさせられる部分もたくさんあって、こちらの入り込む余地が十分ありました。そのあたりも今回、作曲の大きなモチベーションになっていますね。

スタイルとしては、徹底的にミニマル・ミュージックで通しています。一昨年からのNHKのドキュメンタリー(『シリーズ ディープ・オーシャン』)や去年、プラネタリウム(コニカミノルタプラネタリア TOKYO)の音楽を書いた頃から「この作品はミニマルでいける」と思ったら、ミニマルでブレずに書くようにしているんです。映画音楽では、メロディがあって、ハーモニーがあって、リズムがあるという手法が通常なんですけど、そういうスタイルから離れてもっとミニマル作曲家として先をいきたかったんです。ミニマルは変化が乏しくなってしまう可能性がありますけれど、多少コミカルに、エモーショナルになってもスタイルを変えずに最後までできたという点で、個人的にはとても満足しています。

シンセサイザーも使っていますが、そんなに分厚くしていない室内楽の形をとりつつ、それでいてしっかり鳴る方法をとっています。ハープや鍵盤楽器の響きを大事にしているところを含めて、最近の自分のやり方を通している感じですね。音色がカラフルに飛び込んでいくようになっているといいなって思っています。

基本的に、映画音楽って音楽を状況につけるか心情につけるかのどちらかです。でも、今回はそのどちらもやっていません。主人公の気持ちを説明する気も全然なかったし、海で起こる状況にもつけなかった。すべてから距離をとる方法をとっているんです。やっぱり、音楽が映画と共存するためには、そういう考え方を持っていないと、劇の伴奏のようになってしまってつまらなくなります。走ったら速い音楽、泣いたら哀しい音楽なんて、効果音の延長のようじゃないですか。

 

イマジネーションを駆り立てる作品

実は、作曲期間はすごく短くて、仕上げまでに3週間ほどしかありませんでした。2月にヨーロッパ・ツアーがありましたから、実際に作曲をしたのは昨年末から1月にかけて。アニメーションは実写に比べて倍以上の時間がかかりますから、時間的に難しいかなと恐れていたんですが、想像以上に順調にいって、1月中に録音を、ツアーから戻った3月にトラックダウンを済ますことができました。

今回は映画として一個の独立したいい作品に仕上がっていると思います。ひと言では言い表せないおもしろさがありますよね。観る人のイマジネーションをきちんと駆り立てるし、そういうアンテナを立てている人ほどおもしろく観られます。観るたびに徐々に感情が開放されていって、出会えてよかったという気持ちになっていくのではないかな。そういう作品だからこそ、音楽的にもほかにはないような、かなりチャレンジングなことをやっています。自分がベーシックな部分でミニマリストであることはよくわかっていますし、その大事にしているものを今いちばんやりたいやり方でやりきりました。きちんと表現できる場でやりきることができたという実感があるので、いろんな方にご覧いただけるとうれしいです。

取材・文=賀来タクト

※このインタビュー文章は、東宝映像事業部発行の公式パンフレットと同一内容になります

(海獣の子供 公式ビジュアルストーリーBook より)

 

 

 

また、本誌から、久石譲音楽にまつわるエピソードもあわせてピックアップご紹介します。

 

 

監督 渡辺歩 『海獣の子供』に纏わる第五の証言

音楽と音響によって広がった作品世界

ー久石譲さんの音楽を最初に聴いたときは、どう思われましたか?

渡辺:
作品の色合いがグッと増したな、と思いましたね。もちろん映像にも色がついているんですが、音楽の作用によって、作品全体の色が非常に鮮やかになった。それは開口一番、久石先生にもお伝えしました。加えて、作品内のカットやシーン、それまでバラバラだったものが音楽によって縫い合わされていく感覚もありました。シーン全体の雰囲気やキャラクターの心情を表しながら、決してそこにどっぷり浸かっていかない。客観的に捉えた音作りになっていて、その距離感が心地よかったです。久石先生にお願いして本当によかった!と思いましたね。もともとファンだったものですから、感激もひとしおでした。

ー監督から久石さんに音楽について注文はされたんですか?

渡辺:
いえいえ、お願いできるだけでありがたかったので、注文なんて滅相もない!……なんて言うと、何も考えてなかったみたいですね(笑)。実は最初の打ち合わせのとき、久石先生からうかがった音楽のイメージが、こちらの想像していた感じとかなり合致していたんです。久石先生も原作を取り寄せられて、最後まで読み込んでから打ち合わせに臨んでくださったので、その時点でハッキリとしたイメージを持たれていて。心情心理やストーリーを煽るようなものではない、ミニマルな方向性がいいのではないかと。それはまさに僕としても狙いの通りだったので、久石先生ご自身のイメージのままに作曲をお願いしました。完成した曲も素晴らしくて、ワクワクしましたね。仕事を忘れる瞬間でした(笑)。

ー映画全体の音響設計においても、音楽を含めた音のバランスが絶妙でしたね。

渡辺:
音響監督の笠松広司さんにお願いして、全体の音に関しては早めに青写真ができていたんです。「ここはSEのみで」「ここのセリフは強調して」「ここに音楽のピークが来るように」といった設計図は久石先生と打ち合わせをした段階で詳細に決めてありました。久石先生はセリフの位置まで計算して音楽を作られる方ですから、そのときすでに総合的な音楽の設計図もできあがっているんです。

ーダビング作業中、音響面で重点を置いたポイントなどはありますか?

渡辺:
僕から注文したのは、本当に微妙な部分です。SEの位置や音の絞り方とか、それぐらいですね。笠松さんも名だたる作品の音響デザインをやってこられた方ですからね。僕も音に関するイメージは一応あったつもりですが、こちらの想像のはるか上を行っていました。非常に深く作品を読み込んできてくださって、緻密なプランニングで全体の音を構築してくださいました。音数はそこまで多くはないんですが、じつに要領を得ているというか。音によってシーンの持つ意味が増幅したり、作品がどんどん立体的になっていくのを目の当たりにしました。すごい方でしたね。どことは言いませんが、最終的にセリフを取ってしまったところもあります。「音がここまで雄弁であるなら、セリフで説明するまでもないか」と。

(海獣の子供 公式ビジュアルストーリーBook より 一部抜粋)

 

 

プロデューサー 田中栄子 『海獣の子供』に纏わる第十三の証言

ーこの作品において、田中さんを衝き動かしていた最大の原動力はなんなのでしょうか?

田中:
私は今この時代に、『海獣の子供』という作品を作ったこと自体に、すごく大きな価値があると思っているんです。プロデューサーとしてこの作品を世に届けることで、みんなに勇気を与えられるんじゃないかと。つまり、これほど生産性や経済性を度外視して、メッセージ性やアート性をとことん追求し、人間の表現力の可能性に懸けた作品づくりを会社として実現させるのは、きっと一般的にはありえないことなんです。でも、それは可能なんだ!と。

~中略~

ーでも、莫大なお金がかかるだけですよね。

田中:
もちろん!5年間にわたって大勢のスタッフに創作の場を提供し、その創造力を存分に発揮してもらうために、プロデューサーとして尽力しましたし、そこを評価してほしいという思いはあります。私個人の手柄ということではなく、こういう発想や思想、表現をプロデュースするという行為自体の社会的意義や価値を認めてもらわなくちゃいけない。そうじゃないと、『海獣の子供』みたいな作品は二度と作れなくなるから。

~中略~

ー音周りでも、田中さんのこだわりが発揮されているとか。

田中:
今回のキャスティングは、本当に自信作なんです! 芦田愛菜ちゃんは監督が指名して、石橋陽彩くんと浦上晟周くんはみんなの意見で決めましたが、それ以外の方はほとんど私が独断で決めました。オファーも直接させていただいて、我ながら珠玉の人選だと思います(笑)。今回のアフレコは、ブースのなかの声優に監督が付きそうという異例の収録方法で行われたので、私が収録卓を預かることになり、本当に緊張の連続でした。音楽の久石譲さんには、実は4年前からオファーをし続けていたんですよ。ことあるごとに状況をレポートして、4年越しにやっとお返事をいただけて、諦めないで本当に良かったと思いました。自らタクトを振り、何テイクもこだわって収録する姿がじつにタフでエネルギッシュで、まさに天才の仕事でしたね。曲を録り終わって「あとは笠松に任せた」と言って見せる笑顔がまたチャーミングなんですよね(笑)。音響監督の笠松広司さんは、久石さんが全幅の信頼を寄せる方であり、ウチの作品のほとんどを担当してくれている方です。今回はしっかりと音楽のメニューも作り、音響全体の舵取りをしてくださいました。最初は「この繊細な映像と音楽を凌駕するSEが果たして作れるのだろうか?」と、要らぬ懸念も抱いていました。でも、こちらの想像をはるかに超えるイマジネーションを駆使して、感覚に鋭く響く音作りをしていただいて、圧倒されましたね。そして、エンディングをかざる米津玄師さんの主題歌の素晴らしさ! こんな奇跡のコラボレーションが実現できて、本当に幸せな作品だと思います。

(海獣の子供 公式ビジュアルストーリーBook より 一部抜粋)

 

 

原作・五十嵐大介描き下ろし 制作現場ルポでは、レコーディング風景が紹介されています。そこから「音楽収録は2019年2月に行われたこと」「楽器ごとに個別で音を拾うために、いくつかの部屋に分かれて中継しながら同時録音という手法がとられたこと」「久石譲指揮で映画シーンをモニターに流しながら行われたこと」「事前録音のシンセサイザーと合わせ、映像を観ながら確認作業が行われたこと」などがわかります。《映像に音が重なった瞬間、世界が立ち上がったような、まさに映画が誕生した瞬間に立ち会った気がしました》とコメントあります。

 

小学館HPにて本書ためし読み(パソコン閲覧13ページ/スマホ閲覧25ページ)できます。先にWeb公開された〈五十嵐大介×米津玄師スペシャル対談〉や、久石譲の音楽収録現場など模様を描いた「五十嵐大介描き下ろし 制作現場ルポ 」も見ることができます。

公式サイト:小学館|海獣の子供 公式ビジュアルストーリー BOOK
https://www.shogakukan.co.jp/books/09179299

 

 

レコーディング風景は久石譲メイキングインタビューでも見ることができます。

 

 

 

「海獣の子供 公式ビジュアルストーリーBook」久石譲インタビューは、「海獣の子供 劇場用パンフレット」にも収められています。ここでは最後に、パンフレットのほうから久石譲音楽にまつわるエピソードもあわせてピックアップご紹介します。

 

笠松広司 音響監督

音楽を軸において全体の音を構築したシーンも多い
ある種、音楽映画といっても過言ではない作品

久石さんの音楽もわりと早いタイミングで上がっていたので、音楽を軸において全体を構築したようなシーンもたくさんあります。つまり、音の構造の中心として音楽があって、そのまわりにいろんなものが追従していく。モノローグの位置とか、SEの鳴らし方とか。普段はそういう組み立てをやる時間がないままに終わってしまう場合も多いんですが、今回は音楽の美味しいところを極力スポイルしないように音を構築できました。誕生祭の場面はまさにそうですね。ある種、音楽映画といっても過言ではないくらいだと思います。

(海獣の子供 劇場用パンフレットより 一部抜粋)

 

 

 

 

 

海獣の子供 公式ビジュアルストーリー Book

アニメーション映画『海獣の子供』の真髄に触れる、数々の証言と、その軌跡。

【CONTENTS】

INTRODUCTION
VISUAL STORY ”序”

『海獣の子供』に纏わる第一の証言
原作/五十嵐大介 × 主題歌/米津玄師

COMICS / MAIN THEME
原作・五十嵐大介描き下ろし 制作現場ルポ
CHARACTER / PROP

『海獣の子供』に纏わる第二の証言
安海琉花役/芦田愛菜

『海獣の子供』に纏わる第三の証言
海役/石橋陽彩

『海獣の子供』に纏わる第四の証言
空役/浦上晟周

VISUAL STORY ”破”

『海獣の子供』に纏わる第五の証言
監督/渡辺歩

STORYBOARD

『海獣の子供』に纏わる第六の証言
キャラクターデザイン・総作画監督・演出/小西賢一

ROUGH SKETCH
KEY FRAME&LAYOUT

『海獣の子供』に纏わる第七の証言
CGI監督/秋本賢一郎

『海獣の子供』に纏わる第八の証言
CGI/平野浩太郎

CG WORK / COLOR DESIGN

『海獣の子供』に纏わる第九の証言
色指定・仕上検査・特殊効果/伊藤美由樹

『海獣の子供』に纏わる第十の証言
美術監督/木村真二

IMAGE BOARD / LOCATION HUNTING
VISUAL STORY ”急”

『海獣の子供』に纏わる第十一の証言
音楽/久石譲

ORIGINAL SOUND TRACK

『海獣の子供』に纏わる第十二の証言
アニメーションプロデューサー/青木正貴

『海獣の子供』に纏わる第十三の証言
プロデューサー/田中栄子

LULLABY
CREDIT

原作・五十嵐大介描き下ろし短編
星のうた -南洋探遊-

 

 

 

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