Blog. 「GQ JAPAN 2018年12月号 No.185」 久石譲 インタビュー内容

Posted on 2019/12/10

雑誌「GQ JAPAN 2018年12月号 No.185」に掲載された久石譲インタビューです。「MUSIC FUTURE」コンサート・シリーズの初ニューヨーク公演を控えたなかでの取材、またGQ JAPAN×ボーム&メルシエのタイアップ企画とも連動しています。

 

 

GQ PROFILE:Joe Hisaishi Talks about Life & Music
作曲家・久石譲に訊く
なぜ、NY・カーネギーホールに挑むのか?

最先端の“現代の音楽”を久石譲がセレクトするシリーズ「MUSIC FUTURE」。その5回目となる今年は11月11日にニューヨーク・カーネギーホールでの公演が決まった。ミニマル・ミュージックの本場に挑む久石譲に訊いた。

久石譲のライフワークは、ミニマル・ミュージックだ。端的に言葉で表現するならば、「同じ音型を反復する現代音楽」。アンディ・ウォーホルは、マリリン・モンローの顔やキャンベルのスープ缶を繰り返し並べることで、そのものが本来持つ意味合いを変え、新たなアートを構築した。これはミニマリズムと呼ばれるアートの手法であり、ミニマル・ミュージックも同じ思想に基づいている。

思想ばかりが先走った、変化に乏しい退屈な現代音楽。そう思う人もいるかもしれない。だが、久石譲のコンサートに行けば、それが偏見であり誤解だということがわかる。確かに繰り返されるのは同じような旋律だ。だが、久石はそこに少しずつ”変化”を加えることで、”景色”を変えていく。

たとえるなら、空に浮かぶ雲。一見、何も変わらぬように見えるが、久石がふるうタクトにあわせ、雲はゆっくり形を変えながら動き、その動きにあわせて、太陽の光の量も微妙に変わっていく。ただ変えるだけではない。久石が描くのは、間違いなく日本の空。やさしく美しい景色。はじめて見たはずなのに、懐かしい。いつの間にか意識は耳に集中し、音楽という雲の行方を追いかけてしまう。

「同じ音楽が繰り返されると、聴き手は時間の感覚が麻痺して、物理的な認識をずらされていく。ミニマル・ミュージックはそれを体感する音楽だと思っています。ただ僕がやっているのは、ミニマル・ミュージックそのものというより、ミニマル・ミュージックをベースとした音楽。現代音楽のなかには、聴き手を無視した単に退屈なものもたくさんありますが、僕はそんなものを作りたいとは思わない。

 音楽とは、譜面があって、演奏があって、観客がいて成立するもの。ミニマル・ミュージックでも人に届かなければ意味がない。だから僕がミニマルをやるときは、同じ時間を何度も繰り返しつつ、少しずつ変化を与えていく。その違い、見えてくる景色の変化を楽しむことがミニマル・ミュージックのおもしろさだと思っています」

コンサートでは、オーケストラを相手に指揮をふるい、ときには自らピアノを奏でる。大仰な指揮はしない。サービスのためのMCもない。それでも久石が音楽というものを全身で楽しんでいることが伝わってくるし、その楽しさと音楽の奥深さを観客は共有することができる。

「同じプログラムでも、毎回まったく同じということはありえない。誰も気づかないような少しの音の違いが発見につながることもあります。だからコンサートはやめられないんです」

 

(2017年10月24日、25日の2日間、東京・よみうり大手町ホールにて行われた「ミュージック・フューチャーVol.4」コンサートの模様。バンドネオン奏者の三浦一馬氏と共演した。)

 

(一定のフレーズを反復するミニマル・ミュージックの発展に大きく貢献した音楽家であり、日本公演では共演経験もある音楽家のフィリップ・グラス(写真左から2番目)さんとのオフショット。写真右は、久石譲の娘で歌手の「麻衣」。)

 

過去は振り返らない

久石譲が描く音の景色には、誰もが馴染みを感じているだろう。世界中で高く評価される数々のジブリ作品や北野武映画は、彼の音楽を抜きにして語ることはできない。だが、当の本人はそんな”過去”には無関心のようだ。

「昔の作品を褒められても、『あ、そう』としか思えない。うれしくないというより、どうでもいいって感じかな(笑)。だってそれを作ったころの自分と今の自分は違う。『トトロが大好きです!』って言われてもさ、30年前の作品だから。あのころの僕は、ベストを尽くして作った。でも今はまた違う場所にいる。聴けば聴くだけ反省が浮かんでしまうんです。

 ベートーヴェンの『第九』ですら、指揮するために譜面を仔細に見ていくと『あ、ここミスしたんだな』と思うポイントがあるんです。そのミスを補うために、他を調整した痕跡もある。音楽に完璧なんてないんですよ。いわゆる”前向き”というのとも違う気がするけど、過去は振り返らない。というか、いまやるべきことに集中しているから、振り返っている時間はないって感じかな」

話しているとまったく年齢を感じさせない。見た目も、口調も、話す内容も実に若々しいのだ。過去の栄光にまったく興味を持たず、ただひたすら未来に向かって音楽を作り続けているからかもしれない。

「クリエイティブに年齢は関係ありませんよ。もちろん年齢を重ねることで失ってしまうものはあるでしょう。でも失うことを嘆くのではなく、それを補って、さらに”上”を目指して走り続けるしかない」

 

 

次の時代にも生き残る音楽

「いい音楽とは、長く聴かれる音楽。僕は、時代を超えて愛される音楽を作りたいと思っています。でもいまという時代からまったく離れた音楽を作るのは無理。作り手が意識しなくても、音楽と時代はシンクロしていくものです。ただ、流行りを追いかけ、ウケそうな音楽を作ったとしても、それは長くて2年で消費されてしまう。大切なのは、流行や時代の本質を見つめ、つかまえること。それができれば次の時代にも生き残る音楽になると思っています。

 音楽とは何か? その正解にたどり着けるとも思っていません。一生かけてもその一端を理解できるかどうか。自分が作る音楽が100年後、200年後も聴かれているかどうか。それもわからない。でもだからこそ、自分の100%を捧げて真摯に音楽と向きあうしかないと思っています」

映画音楽は、注文にあわせて監督の意図に沿う音を作り上げる職人の仕事。一方、オーケストラを率いる作曲家はアーティスト。職人とアーティスト、久石はそのふたつの顔をどのように使い分けているのか。そう質問すると、意外な答えが返ってきた。

「もしかしたら、僕は一生アマチュアなのかもしれません。映画音楽でも交響曲でも作るときは毎回どうすればいいかわからないというところからスタートする。悩んで、途方に暮れて。簡単に作れた曲なんて、ひとつもありません。職人のような磨き上げた技術もアーティストのような天才的なひらめきもなく、苦しみあがきながら音楽を作っている。もしかすると、そのおかげで少しずつでも進化できているのかもしれません」

 

音楽の殿堂に挑む

この秋には、ニューヨークの音楽の殿堂、カーネギーホールで初のコンサートを開催し、東京で凱旋公演をすることも決定している。

「ニューヨークはミニマル・ミュージックの故郷であり、本場。これまで海外でのコンサートは何度もやってきましたが、ニューヨークはやったことがなかった。一度やってみようかという話になって、最初は小さなライブハウスでと思っていたんです。それが気がついたら話がどんどん大きくなってカーネギーホール(笑)。どうなふうに受け止められるんでしょうか。楽しみというより、プレッシャーのほうが大きいですね」

そう言いながら、久石は笑顔を見せる。それは、プレッシャーと裏腹の自信というよりも、新しいことに挑戦する高揚感のあらわれのように思えた。

旅先で空を見上げると、雲も色も異なっていることに気づく。アメリカにはアメリカの空と雲があり、ヨーロッパにはヨーロッパの、アフリカにはアフリカの空と雲がある。ニューヨークで久石のミニマル・ミュージックに接した人は、日本の空と雲を感じることができるはずだ。アメリカで生まれ、日本で、久石譲という稀代のメロディメーカーが磨きあげたミニマル・ミュージックがどんな景色を描くのか。その反響がいまから楽しみだ。

(GQ JAPAN 2018年12月号 No.185 より)

 

 

なお、雑誌掲載と同内容のものがWeb版として11月5日に公開されました。

公式サイト:GQ JAPAN | CULTURE | 久石譲
https://gqjapan.jp/culture/bma/20181105/joe-hisaishi

 

 

その他、Webインタビュー/Web動画

 

 

[内容紹介]

COVER STORY
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ナチュラル美女 大坂なおみ

FEATURE
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