Overtone.第94回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023」コンサート・レポート by ふじかさん

Posted on 2023/07/31

7月21~24日開催「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023」です。今年は国内3都市3公演と少なめのスケジュールだったこともあり、チケットを取るのは例年以上に至難だったかもしれません。またコロナ禍以降の新定番となりつつあったライブ配信も今年は見送りとなりました。会場に集まれた人たちは期待と興奮の熱気をおび各会場とも大きな歓声とスタンディングオベーションで最高潮を迎えました。

今回ご紹介するのは、WDO2018/2019/2021/2022/2023と足かけ5回連続WDOレポのふじかさんです。とくれば読みごたえもお墨付き。正直に言っちゃうと、これはオーケストラやコーラスの皆さんが喜んでくれるだろうレポートです。ここまでしっかり聴いてくれてるんだ、と。スマホのカメラが3眼になったみたいに、豊かな解像度にびっくりします。それはもちろん久石譲ファンが見ても新しい発見や新しい面白さのアングルの玉手箱。どうぞお楽しみください!

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023

[公演期間]  
2023/07/21,22,24

[公演回数]
3公演
7/21 東京・サントリーホール
7/22 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール
7/24 大阪・フェスティバルホール

[編成]
指揮・ピアノ:久石 譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
ソロ・コンサートマスター:豊嶋泰嗣
合唱:栗友会合唱団(東京/名古屋)日本センチュリー合唱団(大阪)

[曲目]
クロード・ドビュッシー:「海」管弦楽のための3つの交響的素描
久石譲:Woman for Piano, Harp, Percussion and Strings
    1.Woman
    2.Ponyo
    3.Les Aventuriers

—-intermission—-

モーリス・ラヴェル:管弦楽のための舞踏詩「ラ・ヴァルス」
久石譲:交響組曲「崖の上のポニョ」 / Symphonic Suite “Ponyo”

—-encore—-
Ask me why
World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra

[参考作品]

久石譲 崖の上のポニョ サウンドトラック A Symphonic Celebration  The End of The World LP o

 

 

WDO2023東京公演の様子をレポートさせて頂きます。

2023年7月21日 サントリーホール 19:00開演

 

今年のWDOは『交響組曲 崖の上のポニョ』、ドビュッシーの『交響詩 海』の2曲を軸に構成し、~French Connection~という副題がつくコンサートになりました。

今回は例年より少なく3公演。チケット入手は困難を極めていたと思います。幸いにも4月の最速先行にて、東京公演を当選。サントリーホールに行くのは2011年のWDO以来となりました。

会場の18時前にカラヤン広場へ到着。広場自体も広いため、いつものような熱気の溢れる開場待ちという雰囲気ではなく、新日本フィルの定期演奏会のようなゆったりとした時間が流れていました。チケットもぎりを過ぎると、コロナ5類へ移行したこともあり、バーカウンターも営業再開中。本当にコロナ前のような雰囲気に戻っていました。

ホール内に入ると、ホールの美しさにうっとりしてしまいます。ステージを囲むような座席配置、美しい形状の照明器具。宝石箱のような雰囲気にわくわくします。徐々にステージに楽団メンバーが現れ、音出し練習。今回は木管の音色で『海』のフレーズが垣間見えました。

19:00ちょうどくらいに楽団メンバーが全員登壇。チューニングののちに、いよいよ久石さんの登場です。今回は久石さんと豊嶋さんがガッチリと握手ができるようになっていました。

 

 

Claude Debussy『La Mer,trois esquisses symphoniques pour orchestre』

第1楽章『De l’aube a midi sur la mer(海上の夜明けから真昼まで)』
コントラバスとティンパニの導入から、泡を感じさせる2台ハープの音色。チェロとヴィオラの1つ目の動機が顔出すとヴァイオリンのトレモロ、さらに木管により1つ目の動機が次々と顔を覗かせます。イングリッシュホルンとトランペットにより2つ目の動機が流れると、盛り上がり始め、主題が流れてきます。雄大で壮大な海の旅へ誘います。

ドビュッシーの曲は2022年4月の『牧神の午後への前奏曲』の時もそうでしたが、生で聴くと音源と全然印象が変わってきます。冒頭のストリングスのトレモロの美しさ、オーボエとソロヴァイオリンの掛け合いの繊細さ。旋律の裏で彩りを添えるフルートの美しさ。中間部でチェロが4パートに分かれるところは、男性テノールのような迫力がありました。後半は様々な楽器が絡み合い、まさしく海のようなうねりを聴かせてくれました。

第2楽章『Jeux de vagues(波の戯れ)』
タイトル通り、どのパートも波を表すような上下へ細かく動く旋律が随所に散りばめられています。冒頭のヴァイオリンのトレモロを伴うメロディも美しく、そのメロディはフルートへと受け継がれます。時折出てくるハープのグリッサンドも目を惹きます。楽曲が激しく動くところでは、久石さんも大きな身振りで全体に指示を出していきます。コーダ部に出てくるハープの音色は深海のような雰囲気も感じさせ、静かに終わります。

第3楽章『Dialogue du vent et de la mer(風と海の対話)』
怪しげな低弦の序章とともに1楽章でのモチーフが次々と聴こえてきます。テンポが上がってくるところは、久石さんも重心を右に傾けて全体を引っ張ていくような指揮をしていました。弦楽のうねりに2つのモチーフが次々と折り重なると、本当に大海原のような壮大な風景が浮かんできます。中盤ではホルンによるコーラルのような美しいハーモニーも聴こえてきます。2つのハープが再び聴こえてくるシーンは後半に流れるであろう『深海牧場』のような雰囲気も感じさせます。最後は再び2つのモチーフが次々となだれ込み、大きなうねりになって壮大なフィナーレとなりました。

FOCでは主に古典を、新日本フィルや日本センチュリーでの定期演奏会では近現代の曲を演奏したりとクラシックでも様々な曲の指揮をしている久石さん。今回のこの曲の選曲は2022年の「すみだクラシックへの扉」の延長線にあるような気がしました。古典曲よりも抽象的な表現が増えた印象派の曲たちを作曲家の目線での解釈と演奏は毎回楽曲の雰囲気をガラッと変えてくる感じがします。2024年2月の新日本フィルとの『春の祭典』も楽しみになりました。

 

 

Joe Hisaishi『Woman for Piano, Harp, Percussion and Strings』

国内では2019年WDO以来の演奏となりました。公演直前に急遽演奏が発表されたこの小品。確かにFrench Connectionにふさわしい楽曲となりました。

『Woman』
複雑な伴奏のリズムに乗る優雅で可憐な雰囲気のメロディ。ですが、疾走感もあり短めの曲ですが、いろんな表情を魅せてくれます。途中ピアノが若干遅れるように聴こえる部分がありましたが、久石さんが指揮にて操縦してもとに戻るシーンもあったような気がします。演奏後のハープとピアノへの拍手が若干小さく、客席に拍手を煽るように指示する久石さんの姿も。

『Ponyo』
昨年のWDOでは『Madness』が2度ほど演奏されましたが、今回は『Woman』が入ったため、2曲目の『Ponyo』が前半でも後半でも演奏する形に。演奏が始まって2ndヴァイオリンがピチカートでメロディを奏でる部分では、久石さんがにこやかに微笑みながら指揮していたのが印象に残りました。後半、コントラバスソロとピアノのみになるところ、お互いの距離は10メートルくらいは離れているのでしょうか? かなりの距離があるように感じましたが、ピタリと息の合う演奏には感激しました。最後はピチカートでポンッとフィニッシュです。

『Les Aventuriers』
久石さんは5拍子をわかりやすく指揮をしていました。テンポの速い5拍子のリズムは聴いていてわくわくします。サビの部分では久石さんも楽しそうにステップを踏むように指揮をしていました。2回目、3回目のサビではこのアレンジから追加になったヴィオラの副旋律をしっかり堪能。最後はズチャッ!とカッコよくフィニッシュでした。

 

休憩

 

休憩中にピアノが指揮台の手前に設置されました。4月、コンサート発表時には「指揮・ピアノ 久石譲」と記載がありましたが、しばらくすると、いつの間にか「指揮 久石譲」のみの記載に変更になっていました。今回は久石さんのピアノはお預けかな?と思っていましたが、プログラムにもしっかりと「Conductor,Piano : Joe Hisaishi」と書いてありましたので、うれしく思いました。再び休憩中にも木管の音色が聴こえてきました。『La Valse』や『ポニョ』のメロディが会場に響いていました。

 

 

Mrurice Ravel『La Valse,Poeme choregraphique pour orchestre』

後半の最初はラヴェルの『La Valse』からスタート。怪しげな音型の低弦からはじまり、木管もそれに続き怪しいメロディを紡ぎます。徐々にワルツが顔を出してきます。優雅なワルツの雰囲気になると、久石さんもゆったりと指揮をしていたのが印象的。激しい部分では強めに指揮棒を振り下ろしたりするような仕草も。

ワルツといえば、2022年3月指揮の『ベルリオーズ:幻想交響曲』の2楽章でも優雅な雰囲気のワルツを披露していました。楽曲が進むにつれて、転調を繰り返し、ワルツの形を保ちながらも徐々に崩れていき、テンポも速くなったり遅くなったり、2拍目3拍目が強調されたりなど、だんだん踊るのが難しくなってくるような展開が聴いていてとても面白かったです。激しさがピークを迎えたとき、ダン!ダダダダ、ダン!!と爆音で突如曲が終わりました。

 

 

Joe Hisaishi『Symphonic Suite“Ponyo”』

そして、本編最後の曲は、ジブリ作品交響組曲化の最後になった『ポニョ組曲』です。こちらは聴きながら、わかる範囲でサントラの曲目を交えながら感想を綴っていきます。途中、サントラとは構成が異なっている部分もあるので、不確かな部分もかなりあります。参考程度にどうぞ。

1.『深海牧場』
雄大な弦の調べに、ハープの水流のような音、コーラスのハーモニーが一気に『崖の上のポニョ』の世界へと誘います。中間部のピチカートにグロッケンの音で『ポニョ』のテーマが見え隠れするところも加わっていました。最後の豊嶋さんのヴァイオリンソロが美しく曲を閉めます。

2.『海のおかあさん』
今回はソプラノのゲストはいませんでしたので、この楽曲は混成合唱曲へとアレンジされていました。女性パートから入り、「きょうだいたち~」のパートから男声も加わります。中盤ではコーラス、オーケストラの伴奏に加わるヴァイオリンソロパートもありました。

3.『出会い』
ピチカートの導入で始まる、ポニョと宗介の出会いも組曲へ

4.『浦の町』
ポニョを乗せて、宗介とリサがドライブするシーンにかかるこの曲。途中、トライアングルの音色がよく響ていました。中盤はフジモトのテーマが勇ましく入ってくるところは壮観でした。

5.『クミコちゃん』
ポニョに水をかけられて泣いてしまうクミコちゃんのシーンも音楽で完全再現です。

6.『ポニョと宗介』
海からポニョを連れ戻すために波が襲ってくる不気味な低音が印象に残ります。

7.『からっぽのバケツ』
ポニョが海へ連れ去れた後の宗介の心情を現した曲。冒頭のメロディを2nd Vnがゆったりと奏でて、途中から1st Vnへバトンタッチ。ライブならではと対向配置による音の臨場感でとても琴線に響きます。

8.『波の魚のポニョ』
ポニョが再び宗介の元へ向かう力強い楽曲。この組曲では一部『トキさん』のパートが混ざっていた気がします。

9.『ポニョと宗介Ⅱ』
このあたりが曲が色々混ざっていた箇所で、結構記憶があやふやです。進むにつれて『ポンポン船』や『赤ちゃんとポニョ』、『船団マーチ』の一部も入っていたような… 収録も入っていたので、TV放送や配信時には要チェックが必要かと思います。

10.『宗介のなみだ』
お母さんに会いたくなって、思わず涙してしまう宗介にそっと寄り添うこの曲。久石さんも指揮をやめ、ピアノへ。オケが鳴りやみ、静まり返った空間に、久石さんの優しいピアノソロが会場に温かく広がります。サントラより少し長く、コーダでは転調をして、次の曲への橋渡しも。

11.『母の愛』
久石さんのピアノから受け継いで、続くのは美しいコーラスの響き。

12.『いもうと達の活躍』
そして、組曲も終盤へ。明るく快活なメロディに、宗介のテーマも彩を添えます。『深海牧場』のテーマが顔を出すと、物語のフィナーレへ。

13.『崖の上のポニョ』
最後はメインテーマで。12~13の流れは世界ツアーバージョンと同じ流れでした。シンプルで誰でも口ずさめるメロディを壮大なオーケストラで。コーラスによる歌詞は、今回は英詞。久石さんも楽しそうにリズムを取りながら指揮をしていました。2回目のBメロのピアノソロは、2011年くらいまでは久石さんが弾いていましたが、今回は指揮のみに変更。最後は大きく盛り上がりながらフィナーレへ向かいました。

 

曲が終わるやいなや、爆発するような大きな拍手。ここからは恒例の奏者への紹介&拍手のシーンへ。楽団メンバーも笑顔満点でこちらも笑顔がこぼれます。そして、何度かのカーテンコールののちにアンコールへ。

 

 

Encore

Joe Hisaishi『Ask me why』

アンコール1曲目はピアノソロとは予想はしていましたが、演奏された曲はまさかの公開されたばかりの映画『君たちはどう生きるか』からでした。コンサートの直前に丸の内にてこの映画を見たばかりで、まさかすぐのコンサートでスクリーンから流れていた曲を、作曲者本人の演奏で聴けるなんて!本当にびっくりしました。美しい和音からはじまり、連打音が続くシンプルなメロディ、どこか懐かしさのあるサビ。2コーラスくらい繰り返した構成になっていたと思います。

 

Joe Hisaishi『World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra』

最後の楽曲は恒例になったこの曲に、豪華合唱付き。大好きな大好きなこの曲ですが、今回はアンコール1曲目の衝撃が強すぎてあんまりじっくり聴けてなかったのが心残りです笑

WDO2ndシーズンは今回で終わりで、数年休むとの記載がプログラムにありました。幸運なことにこの2ndシーズンは2014年から欠かさずにコンサートへ行くことができました。およそ10年の間にも世界は目まぐるしく変わりました。そしてコンサートで毎回演奏されるこの曲も、その年その年で大きく意味合いが変わり、本当に大事な1曲となりました。

当初は戦後の鎮魂の意味合いも含まれていましたが、2020年以降はコロナ禍での人々の願い、そして近年では大きな戦争の終結と平和への願いを込めて。いまではWDOのテーマ曲でありながら、久石さんの海外公演でも積極的に演奏するようになりました。「世界の夢」を希望の鐘の音色に乗せてこれからも世界中に響き続けますように。

 

 

演奏が終わると再び会場は割れんばかりの大きな拍手の渦へ。次々とお客さんが立ち上がり、総立ちで拍手喝采となりました。久石さんは何度かお辞儀をしたあと、弦楽の主要メンバーと握手を交わしていました。その後、楽団メンバー、合唱団のメンバーも退場した後も拍手は鳴りやまず、久石さんが再びステージへ。歓声と拍手で大盛り上がり、東京公演は無事に幕を閉じました。

 

WDOは数年の休止に入るようですが、久石さんの活動はまだまだ続いていきます。国内での次回公演は同じく新日本フィルとの定期演奏会。久石さんも新曲を書き下ろし、マーラーの『交響曲5番』を振ります。次回はどんな素晴らしい演奏になるか今から楽しみにしています。

 

2023年7月28日 ふじか

 

コンサートが近づいてくると音源で予習するふじかさんです。そこからコンサートの楽しみは始まっているんですね。さらに上をいくのがクラシック作品のスコアにまで目を通して、その作品の機微をつかもうとしている。なかなかここまではできません。だから超広角から望遠まで3眼レンズなレビューになるんですね!ほんとすごいっ!

レビューにもありました、ドビュッシー作品は生で聴くと音源とは全く印象が変わってくる、ほんとそうだと思います。指揮者とオーケストラの表現、そして聴いている客席の場所、いろいろなものが合わさってその時だけの響きのグラデーションに包まれるような気がします。

『交響組曲 崖の上のポニョ』のサントラ曲目について、僕のメモしていたものとほぼ同じです。「ポンポン船」や「赤ちゃんとポニョ」もパートが入れ替わったりしていたような気もしますけれど、そのほか含めリストアップするならこの曲目たちになるのかなと思います。ちょっと不確かなところもあるので僕のレビューには記しませんでしたけれど、、同じです。間違ってたら、、同じです。配信や放送が待たれるところです。

 

 

東京公演

リハーサル風景

from 久石譲コンサート公式ツイッター
https://twitter.com/joehisaishi2019

 

 

公演風景

 

 

 

こちらは、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

 

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みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

reverb.
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*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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