Blog. 久石譲 「となりのトトロ」 インタビュー ロマンアルバムより

Posted on 2014/11/2

1988年公開 スタジオジブリ作品 宮崎駿監督
映画『となりのトトロ』

映画公開と同年に発売された「ロマンアルバム」です。インタビュー集イメージスケッチなど、映画をより深く読み解くためのジブリ公式ガイドブックです。最近ではさらに新しい解説も織り交ぜた「ジブリの教科書」シリーズとしても再編集され刊行されています。

今回はその原本ともいえる「ロマンアルバム」より、もちろん1988年制作当時の音楽:久石譲の貴重なインタビューです。

 

「日本が舞台でもあえてそれを意識しなかった」

「風の谷のナウシカ」で砂漠と中央ヨーロッパ風の世界を、続く「天空の城ラピュタ」ではイギリス南部の炭鉱町のような渓谷のたたずまいと天空の城というSF的な世界を見事に音楽で描き出してくれた久石さん。

そのルーツはありながらどこか無国籍的な宮崎アニメーションに、素敵な彩りを与えてきた久石さんだが、今回は舞台が日本で、しかも昭和30年代初頭という設定。これまでとはいささか勝手がちがう。そこにどう挑んだのか、そのあたりを中心にインタビューを試みた。

土着的ではない作品

-今回は録音前にご病気をなさるなどいろいろ大変だったようですが・・・・・。。

久石 「病気のことはおいておくとして、今回の作品は物語性がドラマチックじゃないでしょう。大きなストーリーの流れはあるんだけれども、日常的なシークエンスが並列につながってゆくような形になっている。だから、音楽も強い音楽を書いちゃいけないという気持ちが最初にあったんです。強い音楽だと、画面から遊離しちゃうような気がして。

それと、イメージアルバムを今回も作ったんですけど、普段なら”何々のテーマ”という形で基本的なイメージが出るんだけれども、今回は歌のイメージアルバムを作ったでしょう。それも、日常的なシークエンスが多いから、インストゥルメンタルの曲よりも歌のほうがそのシーンのイメージがはっきりすると思っていたからです。

それがサントラのほうにもそのまま反映していて、ストーリー性が弱いぶんだけ、どこをどう補強していくか、そこがいちばん悩んだところでしたね。自分としてはドラマ性の強いもののほうがやりやすいし、『トトロ』は対象年齢も少し下がっていたので、1歩まちがえば童謡の世界になりかねない。ちょっとシンドイなあという気持ちがあったことはたしかでした」

-なるほど。映画のオープニングは、「さんぽ」という曲なんですが、そのはじまりの音が一種バグパイプのような音ですよね。今回の作品は以前の「ナウシカ」「ラピュタ」の無国籍的なイメージとちがって、ちゃんと日本が舞台ということになっていますよね。”日本”ということは意識されましたか?

久石 「ただ、日本の風土に根ざしたドラマではないでしょう。宮崎さんの作品にはそういう風土感がないと思うんですよ。『トトロ』も日本が舞台ということがわかっているんだけれども、土着的な日本でしか生まれない雰囲気というものは感じなかったんです。そういう点でのこだわりはなかった。バグパイプを出したのも、音楽打ちあわせのときに『バグパイプなんかイントロにあったらどうですか』って聞いたら、宮崎さんが『おもしろいですね』とおっしゃって、それで入れたら、とっても喜んでもらえたんですよ。そうしたら『全部に入れてほしい』と宮崎さんがいいだして(笑)」

-宮崎さんが好きな音色ですよね。

久石 「まさにそういう感じなんです。だから、宮崎さんの作品の場合、独特のローカリティに根ざしているわけじゃない。そういうものから出てくる雰囲気はありませんね」

-映像と音楽に違和感はなかったと思いますが、とくに意識したことは?

久石 「それはこういう物語のあり方とも関わってくるんだけれど、この作品は中編でしょう?ちょっといい方が難しいけれど、普通のオーケストラだけの曲を書くと、ごくあたりまえの幼児映画になってしまうんです。だから『トトロのテーマ』はミニマル・ミュージック的な、ちょっとエスニックな雰囲気を持たせています。子どもたちが家のなかを駆けまわるシーンでは、メロディー自体がリズミックな感じの曲にして、リズム感を出したり。そういうことはかなり意識的にやったし、BGMの曲数もかなり多く作りましたしね、あとで抜いてもいいようにと思って。

エスニックなものと普通のオーケストラの曲を両方使うということでは『ナウシカ』以来一貫しているんですよ。ただ今回は、『さんぽ』 『となりのトトロ』という歌をメインテーマにして、ぼくらが”裏テーマ”と呼んでいた『風のとおり道』を木の出てくるシーンに使った。そのへんの構造がうまくいったのでよかったんじゃないかな」

宮崎さんの鋭い感覚

-今回のシンセサイザーとオーケストラの曲の割合はどのくらいですか?

久石 「途中で病気をしちゃったんで、シンセの部分が少なくなったんです。だからオケが6でシンセが4ぐらいかな。本来なら、その割合が逆になったと思いますが、結果として、オケが多くて聞きやすくなったかもしれませんね」

-そのシンセの音がおもしろかったんですが、ススワタリの声も・・・・・。

久石 「あれはアフリカのピグミー族という部族の声で、本来はかなり長いものなんだけど、その最初の”ア”という声だけをサンプリングしたんです」

-それをシンセで加工した?

久石 「ええ。キーを高くしたりとかね。そういう手法はけっこう使ってますよ。ターンブラの音も自分でたたいた音だし・・・・・。ああいうものって変に耳に残るでしょう?」

-そうですね。

久石 「しまった。ほかで使えなくなってしまったな(笑)」

-生(ナマ)のオーケストラを使ったのは、そうすると割とメロディアスな部分ですか。

久石 「そうですね。それと、1ヵ所ね、3分50秒ぐらいの曲をオケでやった部分があります。それは、メイがオタマジャクシをみつけて、それから小トトロを発見して、不思議な森の迷路をぬけて、トトロに出会うというシーンなんだけど、この間、50何ヵ所か、絵とタイミングをピッタリ合わせるという離れ技をやったんです。ゼロコンマ何秒かというタイミングでキッカケ出して。単純になっちゃいけないからというので、倍速にしてリズムをきざんだりとか、いままでのなかでいちばん時間かかったんじゃないですかね。ただ、ダビングの音量レベルが低かったみたい。だからスクリーンで見てもバシッと決まる音が小さいから、いまひとつしまらないというか・・・・・。」

-劇場のせいもあるかもしれませんね。

久石 「そうかもしれないですね。ただ、これはアニメ全般にいえることなんだけど、どうしても音楽のほうが小さくなってしまいますね。セリフを聞かせて、効果音も出しているから、音楽の音量をおさえる、というのはどうにもローカルな発想にしか思えないんですよね。

外国映画なんかを観ていると、逆ですものね。音楽が10ならセリフの音量が8ぐらい。それでも充分にセリフは聞こえるんですよね。そのへんの発想を改めないと、世界の映画のレベルに追いついていかないんじゃないかな。やっぱり、テレビで30分ものをやっている影響じゃないかという気がしますね。」

-なるほど。

久石 「単純に考えてもわかるけれど、どんなにセリフや効果音がうまくいっても、芸術的だといわないんですよ。やっぱり音楽がよかったから、レコードがほしいというふうに、みんな思うわけでね。外国なんかの場合、ここは音楽で雰囲気を伝えるんだと考えたら、リアルな効果音なんかとってしまって、音楽だけで聞かせるようなこともやりますでしょ。そういう発想の転換をしてくれないかなあと思うんですよね。そういう点で、宮崎さんなんかはかなりいいほうだと思いますけど、音楽家の立場からいったら、もっと要求したくなりますね」

-宮崎作品なら、それが出来そうですよね。

久石 「と思います。今回の作品ではね、いままで高畑さんがプロデューサーで音楽を担当してきて、宮崎さんが自分で前面に立たなきゃいけなくなったでしょう。そうしたら音楽打ちあわせで『こんなおもしろいものを高畑さんはいままでやっていたのか。ズルイ』といいながら、やってました。でも、これまではどんな音楽があがってくるかわからないから、ダビングに入るまで不安だったけど、今回は頭に入ってたんで『ラクだった』っておっしゃってましたよ。宮崎さんは音楽わからないとかいいながら、けっこうスルドイ」

-たとえば?

久石 「さっきの『トトロのテーマ』。あれは7拍子なんだけど、少し音が多いかなと思ったら、宮崎さんが『もう少し音減りませんかね』っておっしゃる。そういうのが何ヵ所かあったんですよね。高畑さんは理論的だし、よく知ってらっしゃるけれど、宮崎さんは感覚的に鋭いなという感じ、それでぼくの思ってることと、ほとんど同じことを指摘してくるんです。それが、すごくおもしろかったですね」

(となりのトトロ ロマンアルバムより)

 

 

スタジオジブリとしてもロゴやキャラクターとして代名詞となっているトトロ。DVD作品のサウンドロゴも『となりのトトロ サウンドトラック』より「さんぽ」のメロディーが使われています。

そして教科書にも掲載され、子供から大人まで、誰もが一度は大きな声で歌ったことのある、「さんぽ」「となりのトトロ」というオープニング曲/主題歌。さらには”裏テーマ”と呼ばれ、まさにもうひとつのメインテーマといっても過言ではない、「風のとおり道」。

『となりのトトロ』の音楽には、誰もが心踊る、そして安心する、そんな日本人の心を満たしてくれる、音楽がつまっています。インタビューにもあるように、「でも土着的な日本的音楽」ではない。ここがやはりすごいところだなと思います。

 

最後に、映画『かぐや姫の物語』(2013年)公開時の、高畑勲☓久石譲 対談より、高畑勲監督の印象的な言葉を。

「久石さんの音楽で僕が感心したことがあるんです。それは「となりのトトロ」で「風のとおり道」という曲を作られたのですが、あの曲によって、現代人が“日本的”だと感じられる新しい旋律表現が登場したと思いました。音楽において“日本的”と呼べる表現の範囲は非常に狭いのですが、そこに新しい感覚を盛られた功績は大きいと思います。」

まさにこの言葉と解説がすべてを象徴しているように思います。

詳しくは下記関連記事より詳細がご覧いただけます。

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