Blog. 久石譲 「風立ちぬ」 インタビュー ロマンアルバムより

Posted on 2014/12/1

2013年公開 スタジオジブリ作品 映画『風立ちぬ』
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

映画公開と同年に発売された「ロマンアルバム」です。インタビュー集イメージスケッチなど、映画をより深く読み解くためのジブリ公式ガイドブックです。

宮崎駿監督最新作であり、最後の長編映画となる作品です。音楽制作における久石譲の貴重なインタビューも収録されています。

 

「『風の谷のナウシカ』以来、宮崎監督作品の音楽を手掛けてきた久石譲だが、ファンタジーではない今作は世界観を掴むのに苦心したという。『風立ちぬ』の音楽、その核心とは?」

ロシアの民族楽器を使ったオープニング曲「旅路」

-『風立ちぬ』の音楽には、いつ頃から着手されたのでしょうか?

久石 「2年以上前ですね。『風立ちぬ』は今までの宮崎監督にはないリアルな時代設定、ある意味実写に近い作品だったので、その中で音楽がどうあったら良いのか、感覚を掴むのに時間が掛かってしまったんです。まず絵コンテを見ながら音楽の世界観を考えるのですが、すぐに核心が掴める時とそうでない時があるんですよ。例えば『崖の上のポニョ』はその場でモチーフが浮かびましたが、『風立ちぬ』は結局1年と2か月くらい掛かりました。その間、宮崎さんとも何度も会って、曲を聴いてもらっては話し合いを重ねました。」

-『風立ちぬ』の音楽の特徴を挙げるとすれば、何がありますか?

久石 「まずは、オーケストラを小さな編成にしたことです。宮崎さんも「大きくない編成が良い」と一貫して言っていました。それから鈴木プロデューサーから出たアイデアで、ロシアのバラライカやバヤンなどの民族楽器や、アコーディオンやギターといった、いわゆるオーケストラ的ではない音をフィーチャーしたことです。それによっても、今までとは違う世界観を作り出せたんじゃないかと思います。」

-民族楽器は、オープニング曲の「旅路」から使われていますね。

久石 「オープニング曲は、飛行機が飛び立つまでは、ピアノがちょっと入るくらいで、あとは民族楽器だけです。大作映画では、頭からオーケストラでドンと行きたくなりますけど、それを抑えたのが凄く良かったですね。二郎の夢の中なので、空を飛んだとしても派手なものになるわけではないと、宮崎さんは言っていましたし、僕としても、観る人の心を掴むオープニングに出来たと思っています。この曲があったから、映画全体の音楽が「行ける!」と感じました。」

-宮崎監督が、オーケストラを小さな編成にしたがった理由はなんだと思いますか?

久石 「一番大きかったのは、モノラルレコーディングをしたということです。台詞も効果音も音楽も、一つのスピーカーから全部聴こえることになるので、音楽はあまり主張し過ぎないものになるのだろうなと思っていました。音の情報量を出来るだけそぎ落としたものを作りたいんだろうなと。それは成功したと思いますが、作業的にはモノラルは大変でしたね。」

-モノラル録音の大変さとは、どういうところなのですか?

久石 「モノラルは一カ所から音が出るから、それぞれの楽器の微妙なバランス調整が必要になるんです。通常よりも細かい作業が必要で、不眠不休の状態が続きました。でも左右が無く、遠近だけというところに面白さがあって、上手く行くとパァッと音の空間が広がるんです。やっぱりレコーディングの基本はモノラルにあると思いました。良い経験をすることが出来ました。」

-効果音が人の声を加工した物だということは、音楽に何か影響を及ぼしましたか?

久石 「効果音というのは、普通は人間の生理とは無関係の音なんです。でも、それを人間が口で作ると生理的な音になって、音楽に割り込んで来る。そこは宮崎さんとも話をして、色々調整しました。最終的には効果音も加工が入ってシンプルになり、音楽、セリフと調和して良い感じになったと思います。ここでも、モノラルで音の出どころを一点に集中したことが良かったですね。」

宮崎さんは僕にとって兄のような存在です。

-完成した映画を観て、いかがでしたか?

久石 「トータルとして、間違いなく良い作品になったと思います。宮崎さんの新たな第一歩と言いたいですね。タイトルに「の」も入っていないし(笑)。あの年齢になって、新しいことを今でもやろうとしていることには、心から尊敬します。実は最初、主人公の設計技師があまり行動的なタイプでは無いから、大丈夫かなと思ったんです。例えばナウシカは積極的に動いたじゃないですか。そうすると主人公の行動力に導かれて、観客もすぐに映画に入り込めるんだけど、今回のような設定はもの凄く難しいなと。でもそういったハードルを越え、高いクオリティで新しい地平線を切り開いた宮崎さんは凄いと思います。ただ音楽主体で観ると、個人的にはもっと出来たんじゃないかなと思うところもあるんです。中途半端にやっていないからこそ、心の中には何かがくすぶっていますね。」

-宮崎監督とは30年にわたるお付き合いになりましたね。

久石 「気付いたら、ここまで続いていたという感覚です。同じ音楽は一つとして無かったし、毎回毎回、これが最後だと思ってやって来たし。クリエイティブな仕事に真剣に向き合ってきた積み重ねがこの30年なんですね。一つ言えるのは、僕は宮崎さんが好きなんです。少年の気持ちをそのまま持ち続けている人ですし、僕にとっては人生のお兄さんみたいな存在です。」

-久石さんの映画音楽に向かう姿勢には、何か変化がありましたか?

久石 「以前は音楽家としての野心みたいなものが強かったですが、今は映像と音楽が一体となった時に、どう観客に訴え掛けられるかを中心に考えられるようになりました。映画音楽として、より徹底して作れるようになって来たなと思っています。」

(風立ちぬ ロマンアルバム より)

 

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