Disc. 久石譲 『悪人 オリジナル・サウンドトラック』

2010年9月1日 CD発売

映画「フラガール」の李相日監督が手がける映画「悪人」
原作/吉田修一 出演/妻夫木聡 深津絵里 他

 

INTERVIEW

事前に手の内を明かさないように、
ニュートラルな位置から映画を推進していきたかった。

-久石さんの音楽が、映画を観る手助けをしてくれていると感じました。特に、祐一に対して。なぜか、やさしい気持ちで祐一を見つめていられる。でも、簡単に救いを与えているわけではなくて。負担を軽減してくれるというか、高度な音楽作用だと思いました。

久石:
祐一は殺人者だけど、誰もがなりえてしまう。若くて、思い通りに生きられない、大勢いる人たちのなかのひとりでもある、でも、それを音楽が肯定してもいけない。やっぱり罪を犯しているわけですから。距離はとる。けれども、彼が持っている孤独感や共感できる部分は、この映画のメインテーマになるだろうと思いました。あまり饒舌にもならず、たえず揺れる祐一の気持ちとシンクロしていくために、同じ音階を繰り返すミニマルな曲調を選びました。

-映画と音楽の距離感が絶妙です。

久石:
気持ちを煽ってしまうと、すごく安っぽくなってしまうから。あと、難しかったのが、この映画は後半、群像劇になる。房枝にしても、佳男にしても、それぞれがシチュエーションのなかで自分を乗り越えていく。一方、(祐一と光代の)ふたりの主人公は、逃避行がはじまってから、ドラマがなくなる。でも、最後には、祐一のテーマをメインにした、少しメロディアスなふたりの愛のほうに焦点を絞っていったほうが結果、観る側はこの映画にストレートに入れる。あの夕陽を見て終わっていく瞬間に、「これはふたりのラブストーリーだったんだ」ということが明確になってくれれば、観やすくなるんじゃないかと。そこに神経を使いました。

-だから、あのラストが効くのだと思います。

久石:
ラストの曲は、救い、じゃないんです。レクイエムでもない。ある種の救済的なぬくもりはある-でも、あったかいわけじゃない-それがあることで音楽的な構造は非常に明確になるんじゃないかと思いました。

-あのラストが、いわば「到着」の感慨をもたらすのは、序盤で流れる音楽が、それこそ山道の急カーブを祐一が駆る車の走りのように、どこに連れて行かれるかわからない、あらゆる「予感」だけが乱れ絡み合うドライブ、つまり多様なファクターの集積になっているからだと思います。

久石:
ある種のサスペンス。どうなっていくの? というニュアンスは絶対必要。でも、メロディアスに「これはラブロマンスですよ」と伝えるのもまったくの嘘。悲劇性が強すぎても駄目。つまり、事前に手の内を明かすような真似をしたらいけない。たえず、何かが繰り返されている。気持ちが増幅されていくかもしれないし、不安も増強されていくかもしれない。どちらにもいない、ニュートラルな位置から映画を推進していきたかったんです。

-あの雑多な「予感」は、全体に流れていますね。

久石:
李(相日)監督も(あの曲を)すごく気に入ってくれて。結果、今回は、ギリギリまで無駄をはぶいた構成になりました。

-徹底された?

久石:
そうですね。日本映画でここまで(曲のトーンを)抑えて作ったのは久しぶりですね。自分としても、「いつもだったら、こうしてしまうな」というところも全部、抑えて抑えて作った。結果的に、いままでやったことのないかたちにチャレンジができました。たいていの場合、音楽は、ある部分の感情だけを刺激するのはものすごく得意。でも、(それが何か)はっきりとは言わないで、押し上げていくようなことは難しい。音楽はどうしても、色を決めてしまうのが速い。でも今回はそこを極力避けるようにしましたね。あとは、音楽が映像と共存しつつも、映像から一歩退いたところで支えていく。たぶん、映像と音楽が(ドンピシャと)ハマってる箇所は一個もない。唯一の笑顔であるラストカットへのアプローチもやはりそうです。

-音楽そのものの可能性を追求された結果、日本映画というより世界映画と呼ぶべき作品が完成したと思います。

久石:
最も重要なのはクリエイティヴィティ。とにかく徹底的に「ほんもの」を作る。それだけです。我々はもっと危機感を持つべき。たえず挑戦するべき。この映画は間違いなく、世界に向かって放つことができるレベルの作品になったと思います。

-最後に。『悪人』というタイトルをどう捉えましたか。

久石:
人間。そう解釈しました。

(取材・文/相田冬二)

Blog. 映画『悪人』(2010) 久石譲インタビュー 劇場版パンフレットより

 

 

今までの映画音楽とは違った新しい印象を受ける。壮大ともメロディアスともミニマルとも違う佇まい。もちろんそれらの要素がないわけではないが、そのどれもが全面には出ておらず主張していない。

楽器にしても、オーケストラやピアノに加えて、アコースティックギターや、少しシンセサイザーも使わている。おそらく製作過程で通常では稀なほど監督と密にコミュニケーションを図り、シーンごとの音楽や楽器まで監督と意見交換しながら作り上げられたからゆえだろう。

物悲しい音楽が並ぶようだが、ある種人間の深い感情から祈りまで、アンビエントのような感情の揺れを巧みに表現している。(16)の主題歌は福原美穂が担当。英語歌詞。(13)では同曲のヴォカリーズ・ヴァージョンとなっているがこれが名曲。ボーカルとアンビエントなシンセサイザー伴奏のみの包み込むような音楽。まさに祈りの曲、一寸の光が射しこむような希望の曲。

(6)ではこの主題歌をモチーフにアコースティックギターやチェロがメロディーを静かに奏でている。またもうひとつの主要テーマ曲といえる(1) (4) (11) (15)などでは、ピアノの儚くも静かなメロディーが流れるように響いている。

奥深く切ない音楽、深い感動をおぼえる。自身の映画音楽としても新境地を開拓したとも言える秀逸な作品。

別のCD作品「The Best of Cinema Music」では、『(11)Villain (映画『悪人』より)』が、フルオーケストラでのライブ音源で、約11分に及ぶ組曲として映画のストーリー展開に沿って構成されている。

 

 

久石譲 『悪人 オリジナル・サウンドトラック』

1.深更
2.焦燥
3.哀切
4.黎明
5.夢幻
6.彷徨
7.悪見
8.昏沈
9.侮蔑
10.何故
11.彼方
12.追憶
13.Your Story ~Vocalise~ (久石譲 × 福原美穂)
14.再生
15.黄昏
16.Your Story (久石譲 × 福原美穂)

All Music and Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra
Performed by Shinozaki Strings (M-13,16)
A.Guitar:Masayoshi FUrukawa
Piano:Ichiro Ngata (M-13,16)

Recorded at Sound City, Bunkamura Studio
Mixed at azabu-O Studio, Bunkamura Studio

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