日本テレビ「読響シンフォニックライブ」の10月29日公開収録に
久石譲の出演が決定いたしました。
世界初演となる自作「コントラバス協奏曲」と「カルミナ・ブラーナ」を
演奏いたします。
ぜひお楽しみに。
【日時】
2015年10月29日(木)19:00開演
“Info. 2015/10/29 久石譲 「読響シンフォニックライブ」 公開収録のお知らせ” の続きを読む
日本テレビ「読響シンフォニックライブ」の10月29日公開収録に
久石譲の出演が決定いたしました。
世界初演となる自作「コントラバス協奏曲」と「カルミナ・ブラーナ」を
演奏いたします。
ぜひお楽しみに。
【日時】
2015年10月29日(木)19:00開演
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Posted on 2015/8/14
8年ぶりの全国ツアー開催となった今年のW.D.O.2015。今年のテーマは戦後70年を迎え日本と世界が抱える「祈り」。さらには宮崎駿監督作品の壮大な交響組曲シリーズ化始動。第1弾は『風の谷のナウシカ』を約20分に及ぶ交響詩へ。
〈ワールド・ドリーム・オーケストラ〉W.D.O.
“ジャンルにとらわれず魅力ある作品を多くの人々に聴いてもらう!”と、2004年に久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団が始めたプロジェクト。2014年に3年ぶりに活動を復活させ東京公演、今年は国内5都市6公演にてツアー開催となった。
まずは演奏プログラム・アンコールのセットリストから。
久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015
[公演期間]
2015/08/05 – 2015/08/13
[公演回数]
6公演
8/5 大阪・ザ・シンフォニーホール
8/6 広島・上野学園ホール
8/8 東京・サントリーホール
8/9 東京・すみだトリフォニーホール
8/12 名古屋・愛知県芸術劇場コンサートホール
8/13 仙台・東京エレクトロンホール宮城
[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
カウンター・テノール:高橋淳
合唱:栗友会合唱団 (東京)
合唱:W.D.O.特別編成合唱団 (大阪)
[曲目]
久石譲:祈りのうた ~ Homage to Henryk Górecki~ *世界初演
久石譲:The End of The World for Vocalists and Orchestra *世界初演
I. Collapse
II. Grace of the St.Paul
III. D.e.a.d
IV. Beyond the World
久石譲編:The End of the World (Vocal Number) *世界初演
—-intermission—-
久石譲:紅の豚 il porco rosso ~ Madness
久石譲:Dream More *世界初演
久石譲:Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015 *世界初演
—-encore—-
久石譲:Your Story 2015
久石譲:World Dreams
※東京・大阪 (with mixed Chorus)
The End of the World
Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015
World Dreams
※会場によって第2部の曲順が異なるケースあり
合唱編成ありなしの会場とその構成によって、曲順が変更になっている会場もあり、演出上の都合、最も適するプログラム構成を練ったゆえだと思います。
さて、個人的な感想はひとまず置いておいて、会場にて販売されたコンサート・パンフレットより各楽曲を紐解いていきます。「祈り」をテーマに久石譲が表現したかったこと、伝えたかったこと、プログラムに選ばれた楽曲のことなど。
【楽曲解説】
祈りのうた ~ Homage to Henryk Górecki~
2015年1月、三鷹の森ジブリ美術館オリジナルBGM用のピアノソロ曲として作られた。久石の作家人生の中でも初のホーリー・ミニマリズム作品として書かれたこの曲は、極めてシンプルな3和音を基調とし、極限まで切りつめられた最小限の要素で構成されている。今回演奏される《祈りのうた》は、核をなすピアノに加え、チューブラベルズ、弦楽合奏が加えられた。厳かな鐘の鳴り響く中、静かに訥々と語りかけるように始まるピアノの旋律が印象的である。久石が敬愛するホーリー・ミニマリズムの作曲家ヘンリク・グレツキに捧げられている。
The End of The World for Vocalists and Orchestra
I. Collapse
II. Grace of the St.Paul
III. D.e.a.d
IV. Beyond the World
原曲の《The End of The World》は、2008年に「After 9.11」を題材に書き上げられた意欲作。オリジナル版は12人のチェロ、ハープ、パーカッション、コントラバスとピアノの特殊編成であった。「9.11 アメリカ同時多発テロ)」を契機に世界の秩序の崩壊と価値観の変容に危惧を抱いた久石が、混沌とした時代を生き抜く我々へ向けて力強いメッセージを音楽に託したエモーショナルな作品である。もともと構想段階ではコーラスの使用を考えていたが、2009年のソロアルバム「ミニマリズム」の制作で初めてコーラスを起用し、本格的なオーケストラ作品として大幅に加筆が行われた。そこからさらに6年を経た声楽と管弦楽のための《The End of the World》では、より作品としての深度が増し、全4楽章の長大な交響作品に仕上がっている。
第1楽章 《Collapse》
久石が実際に訪れたニューヨークの「グラウンド・ゼロ」に着想を得て作られた。冒頭から絶えず打ち鳴らされる鐘とピアノのリズムは、後の楽章にも通じる循環動機となり、強いメッセージを投げかけ続ける。リズムと複雑に絡み合う旋律は、焦点の定まらない危うさを醸し出す。
第2楽章 《Grace of the St.Paul》
グランド・ゼロに程近いセント・ポール教会の名を楽章名に用いた第2楽章は、人々の嘆きや祈り、悲哀を扱っている。冒頭、中東風のチェロのメロディーとティンパニによる対話から始まり、一転して中間部からはコントラバス、ドラムセットが加わり、ジャジーなメロディーが浮遊感を漂わせる。
第3楽章 《D.e.a.d》
2005年に発表した組曲《DEAD》第2楽章の《The Abyss ~深淵を臨む者は・・・・~》をもとに今回新たに声楽と弦楽合奏のために再構成、本作の第3楽章《D.e.a.d》としている。原曲の持つテーマ性が《The End of the World》の世界と融合し、カウンターテナーの歌声が静かで官能的な世界へと誘う。歌詞は久石のメモをもとに、本ツアーのために麻衣が書き下ろした。
第4楽章 《Beyond the World》
今回全曲を締めくくる楽章《Beyond the World》は、複雑かつ緻密に絡み合うパッセージによって絶えず緊張感を増長させ、大きな渦となる。「ミニマリズム」発表時に久石が付したラテン語の歌詞が、壮大なクライマックスを築き上げる。
The End of the World (Vocal Number)
前述の声楽と管弦楽のための《The End of the World》と対をなす形で演奏されるこの歌曲は、1962年に発表されたスタンダードナンバー。近しい者を失う悲しみを綴ったこの歌は、日本でも《この世の果てまで》というタイトルで発表され、多くの人々の心を打った。この歌に深い感銘を受けた久石が、「あなたがいなければ世界は終わる」という原詞の「you」を複数形の「あなたたち」と捉え、現代社会に強いメッセージを送る。カウンターテナーを歌う高橋淳が、従来スタンダードナンバーとして親しまれてきたこの曲に光を当てる。
Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015
1984年3月11日に公開された宮崎駿監督作『風の谷のナウシカ』より。巨大産業文明崩壊後の世界を舞台に、風に乗り、蟲と心を通わせ、自然とともに生きる少女ナウシカが、愛によって荒廃した世界に奇跡を起こす、宮崎監督と久石の記念すべきコラボレーション第1作。過去に幾度も演奏会用作品として演奏されたきた「ナウシカ」であるが、今回約20分の交響詩として久石が新たに再構成した。劇中の場面を彩る主要テーマのみならず、映画には使用されなかった曲も贅沢に組み込まれ、壮大な物語の世界観をより完全な形で堪能できる長大な交響作品として生まれ変わった。
紅の豚 Il porco rosso ~ Madness
1992年に公開された宮崎駿監督作『紅の豚』より。世界大恐慌に揺れる1920年代のアドリア海を舞台に、空賊相手に賞金稼ぎを生業とする豚ポルコ・ロッソの物語。夢とロマンを追い求める飛行艇乗りの男達の小気味よい活劇でありながらも、より深く時代感を帯びた作品として人気を博した。
《il porco rosso》
大人の色香を漂わせる《il porco rosso》(「帰らざる日々」のテーマ)は、イメージアルバムでは《マルコとジーナ》として作られた。久石自身が奏でる優美なピアノの旋律が印象的な本バージョンでは、よりノスタルジックな大人のジャズへと変貌を遂げている。
《Madness》
劇中の工場から飛行艇が飛び立つシーンで流れるこの曲は、疾走感と迫力に満ち溢れている。映画と同時期に制作されたソロアルバム「My Lost City」に収録されていたこの曲に惚れ込んだ宮崎監督が、劇中曲への起用を熱望したという逸話を持つ。もともと米国の小説家スコット・フィッツジェラルドをテーマに書かれた楽曲だが、奇しくも『紅の豚』と同じ1920年代が舞台であり、退廃的でありながらもエネルギッシュな時代を感じさせる楽曲である。
Dream More
2015年3月から放送を開始した、サントリービール「ザ・プレミアム・モルツ マスターズ・ドリーム(Master’s Dream)」のための委嘱作品。小編成のソリッドなサウンドながらも、夢のビールにふさわしい華やかさと気品に溢れ、心に沁み入るオーケストラ作品として仕上げられた。フルバージョンは今回のコンサートで初披露となる。
(【楽曲解説】 ~「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」コンサート・パンフレットより)
全28ページにも及ぶ公式パンフレットです。各会場ロビーにおける特設販売コーナーでは開演前も休憩中も終演後も人だかり。公式パンフレットも公演オリジナルTシャツも完売の勢いだったのでは。CDを手にとる方も多く会場全体で熱気のすごさを感じました。

楽曲解説でも、十分に本コンサートの内容は伝わると思います。補足程度に、感想や参考作品、またアンコール曲もまじえてご紹介していきます。
祈りのうた ~ Homage to Henryk Górecki~
静寂とともに張りつめた緊張感。やはり「癒し」ではない「祈り」がそこにはあると感じられた楽曲。久石譲の作家性もついにここまできたか!と唸ってしまうほどの新境地。最新オリジナル・アルバム『ミニマリズム2』ではピアノソロを聴くことができます。本公演では楽曲解説とおりチューブラベルズ、弦楽合奏が加わっていますが、そこには不協和音も響きます。でもなぜか、とても厳かなある種心地よささえ感じる不協和音の響きに。シンプルゆえに尊い。大切なことには多くを語らない、同じように大切なことには多くの音を必要としない、そんな奥深い名曲誕生です。久石譲が次のステージに入った証、最も”今の久石譲”を象徴する作品になっていたと思います。
この鐘の音が次の《The End of the World》へと引き継がれていくのですが、「祈り」の鐘と、「警鐘」の鐘。シンプルなものからより複雑なところに世界は入っていくようにプログラムは続いていきます。
このティンティナブリ様式(小さな鐘、鐘の声 の意)は、久石譲も2014年にコンサートで取り上げたアルヴォ・ペルト(演目は「スンマ」)の作風の象徴でもあり、同作曲家による「フラトレス」(親族、兄弟、同志の意)という楽曲は、ティンティナブリ様式で書かれた人気作品です。余談です。
[参考作品]

久石譲『ミニマリズム 2 Minima_Rhythm II』
The End of The World for Vocalists and Orchestra
楽曲解説には触れられていませんが、実は第1楽章からスケールアップしています。そこには新たなパートと旋律が加えられ、大幅な加筆と修正による再構築。まさかあの《DEAD組曲》からこの作品へ組み込まれるとは!という驚きもあり、全楽章通じて鳥肌たつ衝撃をうけた作品です。とりわけ、第1楽章と第4楽章の「ミニマリズム」からの進化が鮮烈に印象に刻まれています。個人的には本公演で一番震えた作品です。
楽曲解説にもあるとおり『Anotoer Piano Stories』(2008)で誕生し、『ミニマリズム』(2009)でシンフォニーとして完成したと思っていた作品が、6年を経てさらに高い次元へ昇華。下記参考作品内では、当時のインタビュー記事やライナーノーツも網羅していますので、興味のある方は時系列を追って見てみてください。脈々と時代を超えて鼓動し続けているこの作品の巨大さを感じます。
[参考作品]

久石譲 『Another Piano Stories ~The End of the World~』

Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015
本公演大本命の「ナウシカ」です。新たな生命を吹きこみ交響曲シリーズ化、記念すべき第1作として選ばれたのはもちろん「ナウシカ」です。たしかにコンサートでも多く演奏され人気の高い作品ですが、演目としては「風の伝説 -オープニング-」もしくは「鳥の人 -エンディング-」。武道館コンサート(2008)やチャリティーコンサート(2011)では、組曲としても演奏されています。
その原型となっているのが「Symphonic Poem “NAUSICCÄ”」。『WORKS I』(1997)に収録された約17分の大作です。一番の関心はやはり、そのオリジナル版から18年の時を超えどのように進化したのか。
交響詩として組み込まれた楽曲たちをナウシカ組曲誕生からの軌跡にて。
『WORKS I』(1997)
・風の伝説
・遠い日々
・メーヴェとコルベットの戦い
・谷への道
・ナウシカ・レクイエム
・鳥の人
交響詩全3部として構成されたナウシカ組曲の原型誕生。
『久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ 』(2008)
『The Best of Cinema Music』(2011)
・風の伝説
・遠い日々
・メーヴェとコルベットの戦い
・ナウシカ・レクイエム
・鳥の人
映画本編では未使用楽曲の「谷への道」を除き、他楽曲も短縮しての約10分の組曲として再構成。さらには合唱パートが新たに起用されより壮大な世界観に発展。
『Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015』
・風の伝説
・遠い日々
・ナウシカ・レクイエム
・メーヴェとコルベットの戦い
・谷への道
・蘇る巨神兵
・遠い日々
・鳥の人
・風の伝説
『WORKS I』のオリジナル版を継承し、新たに巨神兵パートを追加。合唱編成も引き継がれ、交響詩ナウシカ2015ここに完結。
「蘇る巨神兵」が追加されただけか、と思うことなかれ!その壮大なスケールアップ感はすさまじい迫力。どの楽曲も修正が施され、今の久石譲の集大成といっても過言ではない進化をとげています。新作でもないのに集大成という表現は語弊があるかもしれませんが、”今久石譲が持ちうる術をすべて注ぎ込んだ”という意味ではまさに集大成と言って言い過ぎではありません。さらには耳に優しいナウシカ・サウンドに、不協和音と緊張感の「蘇る巨神兵」が加わったことにより、より本来の意味でのナウシカ世界観の完全版。静と動、裏と表、生と死、破壊と再生、両極面を備えもつ壮大な世界観。そして、久石譲の大衆性と芸術性の両面をもまた鋭く進化させた、第1弾にしてさすが記念碑的な作品へと生まれ変わりました。
「メーヴェとコルベットの戦い」も加筆され躍動感と高揚感がさらにパワーアップ。合唱パートは、「ナウシカ・レクイエム」、「蘇る巨神兵」、「遠い日々」、「鳥の人」。新たに加わった「蘇る巨神兵」でも合唱によるスリリングな不協和音グリッサンドを聴くことができます。
”今久石譲が持ちうる術をすべて注ぎ込んだ” と書きました。エンターテインメント(大衆性)とアート(芸術性)の両面を合わせ持つ久石譲音楽。
実は約1年前にこんな所感を書いています。
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おもしろいことに、『WORKS IV』に収録された「風立ちぬ」も「かぐや姫の物語」も決して耳あたりがいい音楽ばかりではない。そこには重厚な不協和音も響いているし、ルーツであるエスニック・サウンドやミニマル色も強く盛り込まれている。つまり、これまでの”WORKS”シリーズで取り上げられたジブリ作品に比べて、格段に前衛的で独創的なアート性が増しているのである。付け加えれば、「私は貝になりたい」でもヴァイオリンの重音奏法から激しいミニマルのパッションという、これまでには考えられないほど、大衆性と芸術性の境界線が崩れてきている。
これこそが、今久石譲が語っている”アーティメント”(アート+エンタテインメント)のかたちではないだろうかと思う。作品ごとに映画なら大衆性、オリジナルなら芸術性ではなく、作品ひとつひとつに大衆性と芸術性を混在させてしまう、いやその領域まで昇華させると言ったほうが正しい。かつその方法論のなかには”クラシック”という大きな軸が存在する。
(Blog. 久石譲 新作『WORKS IV』ができてから -方向性-)
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持論のオンパレードですが、久石譲を独断的に読み解いた論文です。
興味のある方はぜひご覧ください。
[参考作品]

久石譲 『WORKS I』 JOE meets 3 DIRECTORS

久石譲 『The Best of Cinema Music』
紅の豚 Il porco rosso ~ Madness
「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(2008)を彷彿とさせます。今回は映画でも印象的な2曲をメドレー構成にて。「il porco rosso」(帰らざる日々)は、なかなか披露される機会の少ない名曲。武道館ではピアノと金管アンサンブルにドラムも加わった大人なセッションでした。今回は雰囲気はジャジーなままに弦楽も加わりよりエレガントな装いに。久石譲によるピアノもたっぷり堪能。「Madness」は、コンサート人気曲ながら実はここ直近のコンサートでは遠ざかっていた定番曲。久しぶりの登場で疾走感も最高潮、やはり盛り上がる作品です。『紅の豚』における代表的な2曲ですが、今回の「交響詩ナウシカ2015」から始まった交響組曲シリーズ。『紅の豚』はどんな楽曲が組み込まれて、いつ花開くのか。今から待ち遠しいかぎりです。
[参考作品]

久石譲 『久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ 』
Dream More
まさかの蔵出し初お披露目、曲名も本邦初公開だったのでは「Dream More」、しかもフルバージョン。一聴程度では語るにふさわしくありませんが、とにかくオシャレで上品という印象。CMでも聴くことのできるあの旋律が、多重奏、いろいろなオーケストラ楽器によって奏でられ、中間部も構成された作品に。しっとり聴かせるヴァイオリン・ソロまで、テンポも緩急ありの、キラキラと輝くような色彩豊かな夢見心地。軽やかなんだけれど、軽くはない、やはりメロディの力と構成の巧みさ。心踊るようで、ノスタルジックに酔いしれるような。いろいろな表情をもった楽曲になっていました。サントリー伊右衛門CM曲「Oriental Wind」につづいて、この楽曲も定着しさらにいろいろなCMバージョンも聴いてみたい逸品。もちろん本コンサート版はぜひCD作品化してほしい、華やかにシンフォニー・ドレスアップされた作品に。
—–アンコール—–
Your Story 2015
今年のW.D.O.を象徴する編成ともいえるカウンターテナーの歌声。そしてアンコールでも再登場しての映画『悪人』より本ナンバー。久石譲のピアノとカウンターテナーでしっとりと始まり、オーケストラが寄り添うように重なりあうまさに鎮魂歌。2011年、「東日本大震災チャリティー・コンサート」でも披露された楽曲であることを考えると、久石譲が本編だけでなくアンコールにおいても一貫して「祈り」をテーマにしていたことをうかがわせます。戦後70年というだけでなく、東日本大震災も念頭に、”忘れてはいけない「戦争」「震災」”、そんなことを伝えたかったストーリーだったのではないでしょうか。
[参考作品]
久石譲 『The Best of Cinema Music』
Word Dreams
W.D.O.名義のコンサートでこの楽曲をやらないわけにはいかないでしょう、ということで。また今年は合唱編成あり公演となった大阪・東京では、なんとこの楽曲も合唱版として披露!過去に歌詞をつけたバージョンとして初お披露目されたのは「西本願寺音舞台」(2011)だったと思うのですが、それ以来ではないでしょうか。この楽曲も当初はワールド・ドリーム・オーケストラのアンセムとして書き下ろされたものですが、その後久石譲の想いとともに位置づけが変化していっているのかなと思います。だからこそ2011年東日本大震災と同年に誕生した合唱版を本公演にてふたたび。WDOの序曲という位置づけから、”未来への希望・夢”を託した作品へと、変化の兆しがうかがえる楽曲です。冒頭のイントロが終わったあと、さりげなくオリジナル版とは異なる転調をしています。合唱編成のためのキー(音程)に合わせているものと思われます。歌詞は麻衣さんが担当していますが、歌詞そのものは公になっていない作品です。
2004年W.D.O.発足当時の久石譲インタビューを読み返しても、時代を超えて色褪せない言葉や想いがそこにはありました。
「今、世界のシステムが壊れかけている。それを目の当たりにしながら、いったい自分は何ができるのだろうかと思う。僕は作曲なのだから、音楽を通して「人間って何なんだ」ということを自分なりに考えていくしかないだろう。若いころはもっと違うことを考えていたと思うけれど、音楽は何ができるのかということを、作曲家として今は一番やらなければならないと思う。」
「長く僕のコンサートに来てくれている人達は、毎回、僕が変わっていくことで、活動の姿を確認しているのだと思う。だからこそ評価は厳しい。このワールド・ドリーム・オーケストラも、居心地のいい、ちょっとセレブな時間を過ごすところ、では決してない。それはプログラム自体がすでに表現している。演奏する側も必死でやるから、聴く側もしっかり味わってくれ、と、そういう関係を築きたい。そこに手応えを感じたお客さんは、きっとまた来年も来てくれるだろう。そして僕達は、またガラッと変わる。」
(Blog. 「World Dream Orchestra 2004」 コンサート・パンフレットより)
[参考作品]

久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『WORLD DREAMS』
2014年に3年ぶりの復活を果たしたW.D.O.。その勢いのまま迎えた今年、流れを継承しつつも、「鎮魂」から「祈り」へと一歩推し進めたW.D.O.2015。同時に昨年とは異なり久石譲作品だけでテーマを完結させた今年は、とりわけ並々ならぬ想いがあったのではないかと思っています。
久石譲の芸術性が深く刻まれた第1部から、大衆性をさらに進化させて解き放たれた第2部、そしてアンコールをふくめて一貫した大きなテーマと流れ。久石譲の”今”を色濃く反映するカタチとなってきた「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」。来年以降はどんな”旬な久石譲音楽”を聴かせてくれるのか。
まだまだ興奮冷めやらぬ感じですが、昨年のW.D.O.2014のようにCD化はあるのでしょうか!?(『WORKS IV』)ぜひより多くの人が聴くことができるように、CD作品化やNHKなどの地上波でのコンサート模様を観たいところですが、ひとまず9月23日放送決定のWOWOW LIVEを心待ちにしましょう。
下記、コンサート・パンフレットからの、久石譲インタビューもぜひご覧ください。
久石譲公式Facebookでは、早くも東京公演や、最終日の仙台公演の模様がアップされています。
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Posted on 2015/8/14
Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 コンサート・レポート にて公演詳細、演奏プログラム、アンコール、楽曲解説は公開しています。
ここでは同コンサート公式パンフレットより、久石譲のインタビュー内容をご紹介します。上述楽曲解説は前島秀国さんの筆によるものですが、このインタビューでは久石譲による各楽曲のことが語られており、あわせて読むとより深く味わうことができます。
INTERVEW
-久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)として8年ぶりの全国ツアーがいよいよスタートします。今回はプログラムの前半を中心に「祈り」をテーマにしていますがその理由は?
久石:
今年で終戦から70周年を迎えますが、僕は今の時代を”戦前”だと感じているところがあります。言い換えれば今は日本人として足元を見つめなきゃいけない時。そういう状況を踏まえたとき、祈りをテーマにしたいと思いました。21世紀に入ってからも世界中でいろんなことが起こっていますが、その根源として、互いの違いを際立たせている状況がすごく気になっています。違いを見出すことでお互いをより認め合うのではなく、距離を置き、時には憎しみ合ってしまっている。
-その思いを反映するかのように1曲目は《祈りのうた》。
久石:
毎年正月、三鷹の森ジブリ美術館で使うために宮崎(駿)さんに曲を贈っているのですが、今年出来たのがこれだったんです。昨年、ヘンリク・グレツキやアルヴォ・ペルトに代表されるような教会旋法を使ったホーリー・ミニマリズムを演奏してきた影響もあり、シンプルでありながらエモーショナルであることを追求したくなっていたんです。人間は前進しようとするとより複雑なものを求めがちですが、あえてシンプルにいきたかった。そうして出来上がったら自然と《祈りのうた》というタイトルが浮かびました。
-次に演奏する《The End of the World》は2008年に初めて発表したものを進化させ、楽章を増やしていますね。
久石:
この曲を作った直接的なきっかけは2001年に起こったアメリカ同時多発テロです。ニューヨークの世界貿易センタービルに飛行機が突っ込んだ映像をずっと自分の中で引きずっていて、グラウンド・ゼロを訪れたりする中で確実に世界の有り様が変わったのを感じていました。それが今に通じているところがあると思い、今回のツアーで演奏しようと思ったわけですが、もともとの3楽章に加え、さらに深いところに入っていけるような《D.e.a.d》という楽章を加えました。以前書いた《DEAD for Strings , Perc. , Harp and Piano》という組曲が《The End of the World》と通じる部分があったので、《DEAD》の第2楽章の弦楽曲をもとに新たに楽章を加え、全体を再構築しました。
-《The End of the World》は冒頭から鳴る鐘の音が印象的です。
久石:
鐘の音はまさに警鐘を意味しています。全楽章であのフレーズを通奏していますが、象徴しているのはいわば”地上の音”。それに対して入ってくる声は、人間を俯瞰で見るような目線です。地上にいる人間の業に対し、遠くから「どうなっていくんだろう」という問いかけをしているんです。
-前半の最後にはスキータ・デイヴィスのヒット曲でもある同名曲《The End of the World》も登場します。
久石:
この曲が最後にくることによって《The End of the World》を全部で5楽章と捉えられるような構成にしたいと思いました。”あなたがいなければ世界が終わる”というラブソングですが、”あなた”を”あなたたち”と解釈することもできて、そう考えるとこれは人類に対するラブソングでもある。だからといってそこにあるのは救いじゃないかもしれない。冒頭で示した鐘の音による旋律も入ってくるし、不協和音も漂っている。それをどう感じてもらえるかがポイントになってくると思います。
-後半は20分にわたる《Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015》から始まります。
久石:
オーケストラでのコンサートをずいぶんやってきましたが、映画音楽を演奏しようとすると一部分になってしまうことが多かったので、大きな作品として聴いてもらえるものを作りたいという思いがずっとありました。「風の谷のナウシカ」の組曲は以前に「WORKS I」というアルバムを作った時に、ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団の演奏で録音したバージョンがあったのですが、それをベースに映画で使われているものを継承しながらさらにスケールアップさせようと思って取り組みました。ただ、いざやり始めてみると大変。映画自体が破壊と再生というテーマを持っていて、前半のプログラムと通じているところが多く、精神的に苦労しました。
これを機会に宮崎さんの作品を交響組曲として表現していくプロジェクトを始められたらと思っています。世界中のオーケストラから演奏したいという要望もありますし、今後続けられれば嬉しい。ただ、僕は毎回のコンサートを「これが最後」という気持ちで臨んでいるので、今回きちんと成功してやっと次が見えてくるんだと思います。
-その後プログラムは《il porco rosso》~《Madness》から《Dream More》と続きます。
久石:
《il porco rosso》~《Madness》も含めて、前半と後半で別のアプローチのように見えますが、コンサートとして聴いたときに一つの流れがあって、そのテーマの中で楽しんでもらうということをすごく大切に考えています。重いテーマであっても、音楽を聴きに来た満足感というのはとても大事にしたいと思っています。《Dream More》はもともとCM曲ですが、最近の僕の傾向を反映してソリッドな作りのオーケストラ曲になりました。演奏が難しい曲ですが、今からどうなるか楽しみですね。
-いつもこのコンサートでやる《World Dreams》がプログラムに見当たらないですね。
久石:
そうなんです。もしかしたら、とだけ言っておきます(笑)
-今回は8月6日「原爆の日」に広島での公演もあります。
久石:
広島は日本にとっても世界にとっても平和の原点(中心)になる場所。そして平和になるために我々は哲学が必要です。昨年のW.D.O.で鎮魂をテーマにペンデレツキの《広島の犠牲者に捧げる哀歌》を演奏しましたが、空襲を想起させるような激しい曲でした。今回はもっと心の問題として捉えたいと思い、祈りをテーマにしています。戦後70年、広島は少なくとも経済的な面では飛躍的に復興したかもしれません。ビルもたくさん建った。しかし、人の気持ちはそれについていっているのだろうかという思いがあります。人間を取り巻く”形”をいくら進化させても、その精神は昔から良くも悪くも人類は進化していないはずです。最終日は東日本大震災から復興の途にある仙台でもコンサートをやります。中途半端に「大変ですね」と投げかけるのではなく、特別な思いを抱えながらもっと普通に接するような気持ちで臨みたい。今年ツアーを始めるにあたって、メモを記したんです。それは《The End of the World》の第3楽章の元になっていますが、内容は「私の幸せはあなたの幸せ あなたの幸せは私の幸せ 私の悲しみはあなたの悲しみ あなたの悲しみは私の悲しみ」というフレーズ。そういうコンサートになれば嬉しいですね。
2015.7.25 ワンダーシティにて 聞き手:依田謙一
(「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 コンサート・パンフレットより)
2014年に3年ぶりの復活を果たしたW.D.O.。その流れを継承しつつも、「鎮魂」から「祈り」へと一歩推し進めたW.D.O.2015。同時に昨年とは異なり久石譲作品だけでテーマを完結させた今回は、とりわけ並々ならぬ想いがあったのではないかと思っています。
久石譲の芸術性が深く刻まれた第1部から、大衆性をさらに進化させて解き放たれた第2部、そしてアンコールをふくめて一貫した大きなテーマと流れ。
来年以降の久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラは開催されるのか?現時点では未知数ですが、期待が膨らまずにはいられない、そんな「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」でした。
下記、コンサート・レポートもぜひご参照ください。
9月23日 WOWOWでのコンサート放送は必見!必聴です!
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スタジオジブリ作品や北野武監督作品などの映画音楽をはじめとして、数々の名曲を世に送り出す作曲家、久石譲。久石が初めてベートーヴェンの“第九”を指揮したのが2013年の冬。当時大きな話題となった『第九スペシャル』が、この冬、2年ぶりに開催される。作曲家の視点で第九を分析、再構築し、読売日本交響楽団と共演する本公演。 “Info. 2015/12/11,12 「久石譲 第九スペシャル 2015」コンサート開催決定!! 【8/11UPDATE】” の続きを読む
2015年夏8年ぶりの全国ツアーがはじまった「久石譲&WORLD DREAM ORCHESTRA 2015」。昨年のW.D.O.2014同様、早くもWOWOW放送決定!!
久石譲 × 新日本フィルハーモニー交響楽団 WORLD DREAM ORCHESTRA 2015
2015年9月23日(水・祝) 15:00- WOWOWライブ
番組紹介/解説
久石譲×宮崎駿の原点である「風の谷のナウシカ」が交響詩となって登場。終戦70周年の2015年、日本と世界が抱える「祈り」をテーマにしたプログラムも披露する。
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久石譲の新刊楽譜《弦楽四重奏曲第1番》が、8月5日にショット・ミュージックから発売となりました。
《弦楽四重奏曲第1番》(2014)は、久石が2012年に作曲した室内楽曲集《フェルメール & エッシャー》の中から、マウリッツ・エッシャーのだまし絵にインスピレーションを受けて作られた4曲:〈I. Encounter〉〈II. Phosphorescent Sea〉〈III. Metamorphosis〉〈IV. Other World〉を、作曲者自身が弦楽四重奏曲として新たに構成・作曲したものです。各曲は久石の得意とするミニマル・ミュージックを基としながらも、テンポや拍子、カノンやホケトゥスといった技法によってそれぞれが特徴付けられています。演奏時間は約29分。
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2015年8月5日 CD発売 UMCK-1518
2018年4月25日 LP発売 UMJK-9081/2
久石譲の真骨頂、ソリッドなサウンドで贈るミニマリズム・シリーズ第2弾。
”現代”(いま)を感じさせるアルバム、ついに登場。
ロンドン・シンフォニー・オーケストラとの『ミニマリズム』から6年ぶりのとなる本作は、よりソリッドで現代的なサウンドに生まれ変わった室内楽作品集。エッシャーのだまし絵からインスピレーションを得た「String Quartet No.1」や、マリンバ2台のための「Shaking Anxiety and Dreamy Globe」、すべて単音だけで構成された「Single Track Music 1」、そして戦後70周年を迎えたこの日本のために書かれた「祈りのうた for Piano」などを収録。
(メーカーインフォメーションより)
久石譲 『Minima_Rhythm II』 に寄せて
”ミニマリズム” から ”アニマリズム” へ
「不協和音ばかりに偏重してしまった現代音楽の中でも、ミニマル・ミュージックには調性もリズムもあった。現代音楽が忘れてしまったのがリズムだったとするならば、それをミニマル・ミュージックは持っていた。(中略)もう一回、作品を書きたいという気持ちが強くなったとき、自分の原点であるミニマル・ミュージックから出発すること、同時に新しいリズムの構造を作ること、それが自分が辿るべき道であると確信した」。このように久石譲が宣言し、アルバム『Minima_Rhythm』(ミニマル・ミュージックのMinimalとリズムRhythmの造語)を発表したのは2009年のことであった。本盤『Minima_Rhythm II』は、前作から実に6年ぶりとなる続編だが、当然のことながら6年の間に久石の音楽はさらなる深化を遂げ、新しい方向を目指して現在進行形で深化を続けている。それがいったい何なのか、具体例を挙げてみたい。
本盤冒頭、ピアノソロによって収録された《祈りのうた》の最初のセクションを、久石はわずか6つの単音のモティーフで始める。天上からの呼びかけを思わせる「ド、ラー」という2音と、それに対する地上の応答のような「ミラドミー」の4音(音楽を少し勉強したリスナーなら、使われている「ラ・ド・ミ」が三和音だとすぐにわかるはずだ)。呼びかけと応答は、何度か繰り返されるうちに音程が変わったり、あるいは音符の数が足されていったりと、少しずつ変化を遂げていく。さらに、同じくピアノソロで演奏されている《WAVE》においては、「ラ・ド♯・ミ」という三和音から生まれた分散和音の波が、繰り返しを重ねながら少しずつ変化を遂げていく。この「少しずつ」という要素が、実はミニマル(最小限)ということに他ならない。
もしもリスナーが、同じ音形を機械的に繰り返していく音楽(いわゆるパターン・ミュージック)だけを「ミニマル・ミュージック」と考えておられるとしたら、《祈りのうた》や《WAVE》はそういう意味での「ミニマル・ミュージック」ではない。これら2曲で久石が重きを置いているのは、音の素材を最小限に限定し、その素材をあるシステムによって「少しずつ」発展させていく、そういう意味での「ミニマル」だ。筆者の知る限り、久石がここまで音の要素を禁欲的に限定して音楽を書いたことは、ほとんどなかったのはないかと思う。
急いで付け加えたいのは、この《祈りのうた》や《WAVE》のような作品は、あくまでも生身の人間が演奏してはじめて意味が生まれてくる音楽という点だ。つまり、漠然と流れる時間の中から《祈りのうた》という曲名に相応しいテンポ感を──広い意味での「リズム」と言っていいだろう──見つけ出し、もしくは《WAVE》という曲名に相応しい潮の満ち引きの「リズム」を見つけ出し、その結果、これ以上ありえないほどシンプルな音の動きに相応しい繊細な音色がピアノから紡ぎ出されることで、ようやく作曲意図が感じられるようになる。別の言い方をすれば、これは躍動感あふれる生命のリズムを持った人間でないと、演奏できない音楽なのだ。それは、本盤に収録された他の3曲についても共通して言える点である。筆者はそれを、ミニマリズムMinima_Rhythmから生まれたアニマリズムAnima_Rhythm──アニマはラテン語で「生命」「魂」の意味──の音楽と呼びたいのだ。
ミニマル・ミュージックからポストクラシカルへ
本盤は作曲家として、また演奏家としてミニマル・ミュージック(必ずしも自作に限らない)と積極的に関わり続けてきた久石の、現時点での最新活動報告的な意味合いも込められている。その意義を理解するためには、ミニマル・ミュージックの歴史についてある程度予備知識があったほうがよいと思うので、要点を掻い摘んで書いておこう。
広い意味でもミニマル・ミュージックは「曲の素材を最小限に限定した音楽」と説明されることが多いが、一般的には、1960年代に登場した4人のアメリカ人作曲家ラ・モンテ・ヤング、テリー・ライリー、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラス(2015年現在、4人とも音楽活動を継続中)が、反復とズレを基に作り上げた音楽を指すことが多い(これら4人の音楽を、特に「アメリカン・ミニマル・ミュージック」と呼んで区別することがある)。一方、1970年代に入ると、旧ソ連政権下のエストニアやポーランドからも、やはり曲の素材を最小限に限定した音楽を書くアルヴォ・ペルトやヘンリク・グレツキのような作曲家が登場し始めた。この2人にイギリス人のジョン・タヴナーを加えた3人は、教会音楽と関係の深い音楽を多く書いていることから、現在では「ホーリー・ミニマリズム(聖なるミニマリズム)」と呼ばれている。これら7人をミニマル・ミュージックの第1世代の作曲家だとすると、それに続くジョン・アダムズ、マイケル・ナイマン、ルイ・アンドリーセンといった作曲家が第2世代ということになる(一時期、これらの作曲家の音楽は一括してポスト・ミニマリズムと呼ばれていた)。
第2世代よりやや若い世代に位置する久石は、学生時代に出会ったアメリカン・ミニマル・ミュージック(特にテリー・ライリー)に衝撃を受け、1981年作曲の《MKWAJU》や1985年作曲の《DA・MA・SHI・絵》(両曲の改訂版が『Minima_Rhythm』に収録されている)あたりまで、現代音楽作曲家としてミニマル・ミュージックを書いていた。ところが『風の谷のナウシカ』(84)以降、映画音楽を中心とするエンターテインメント側に活動の主軸が移ったため、たとえ本人が書きたくてもミニマルの新作を書く時間的・物理的余裕がまったくなくなってしまったのである。
この間、欧米ミニマル・ミュージックは先に述べたような作曲家を除くと、20世紀末まで後続の傑出した作曲家がなかなか芽を出さない状態が続いていた。この状況を、かつてフィリップ・グラスは「自分たちの名前があまりに大きくなり過ぎて、新人の出る余地がなくなってしまった」と筆者に説明していたが、そうした状況に大きな変化が見られるようになったのは、21世紀に入ってからである。具体的にはニコ・ミューリー、ガブリエル・プロコフィエフ、ブライス・デスナーといった若手作曲家がミニマルを基本としたクラシック作品を発表し、iTunes/You Tube世代のリスナーから大きな支持を獲得するようになったのだが、彼ら若手の音楽を総称して「ポストクラシカル」と呼ぶことが多い。
ポストクラシカルの作曲家たちに共通しているのは、ほぼ全員がミニマルの洗礼を例外なく受けていること、音楽大学などできちんとクラシックの教育を受けていること(つまりアレンジャーに頼らず自分でオーケストレーションが出来ること)、はじめはロックなりテクノなりのポップスフィールドで叩き上げられて才能を開花させていること、その後、改めてクラシックに戻って(ポップス的な感性を活かしながら)演奏会用作品を書いていること、という特徴である。察しのいいリスナーなら、そうした特徴が実は久石についてもそのまま当てはまることに気づくだろう。『風の谷のナウシカ』以降、四半世紀近くも現代音楽から遠ざかり、回り道をしてきたように思える久石だが、実際のところは誰よりも早くポストクラシカル的な道を歩み始めていたのだ。そうした意味において、2014年から久石が始めた『Music Future』というコンサートシリーズ──その第1回公演では本盤に収録された《String Quartet No.1》と《Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas》に加え、ペルト、グレツキ、ミューリーの作品も併せて演奏された──は、アメリカン・ミニマル・ミュージックからホーリー・ミニマリズムを経てポストクラシカルへと進化を続けている久石の軌跡そのものなのである。本盤に収録された5曲を注意深く聴いていくと、その軌跡──ミニマルからポストクラシカルに到る”単線の軌跡”と言い換えてもいい──から見えてくる、さまざまな風景が走馬灯のように流れていくのを確認できるはずだ。
躍動する生命(アニマ)のリズム
アルバム『ジブリ・ベスト・ストーリーズ』所収の拙稿にも少し書いたが、久石の音楽において、ミニマル的な表現は「根源的な生命(力)の存在」と結びつくことが多い。それはミニマル的な表現が、音楽の最も基本的な要素のひとつである「リズム」をどう捉えるか、という問題と深く結びついているからだ。音楽を時間芸術として見た場合、「リズム」「メロディ」「ハーモニー」「音色」という音楽の4大基本要素の中で最も重要なのは、言うまでもなく「リズム」である。リズムのない音楽、時間を感じさせない音楽は死に等しい。つまり「リズムが命」ということである。ミニマルは、そうした音楽の本質を書き手・聴き手の双方に意識化させる、文字通りの最小限の表現手段なのだ。そういうところから久石が音楽を始めている以上、彼の音楽にある種の強度──生命力の強さ、生命力の多様さ──がもたらされるのは、当然の結果と言えるだろう。
先に触れた《祈りのうた》や《WAVE》とは逆に、《String Quartet No.1》 《Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas》それに《Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion》には複雑な変拍子が用いられているが、久石の目的は何も作曲上・演奏上の超絶技巧的な凄さを開陳することではない。シンプルなフレーズがズレを見せ、変容を見せ、時にはまったく異なった相貌を見せることで、いかに多様な生命力を獲得し得るか。つまり「リズムの躍動=生命の躍動」を表現したいがために、そうした手法を用いているのである。必ずしも正確な喩えではないかもしれないが、たったひとつの細胞が増殖し、それが重なり集まることで組織が生まれ、器官が生まれ、総体としてひとつの生命が生まれていくダイナミックな過程を「生命の躍動」とするならば、久石の音楽はまさにそうした意味での「生命の躍動」を表現していると言えるだろう。
幸運なことに、筆者は《Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion》の録音リハーサルに居合わせることが出来たが、そこで間近に見たものは、久石の音楽が持つ「生命の躍動」に4人のサクソフォニストとパーカッショニストが文字通り「息を吹き込む」、崇高な誕生の瞬間だった。単音から24音まで増殖していくフレーズ(音列)がユニゾンで提示された後、そこから特定の音が残り、引っ掛かり、強調されていくことで、得も言われぬグルーヴ感が生まれてくる。それは時にはジャズ的であったり、琉球音楽的であったり、あるいはロック的であったりするのだが、演奏者たちはそうしたさまざまなリズムの風景──曲名を踏まえて言えば、単線の軌道を走る列車の車窓から見えてくるさまざまな音風景──を目ざとく見つけ、それを楽しみながら生き生きと表現すべく、あらん限りのテクニックとエネルギーを演奏に投入していく。これをPlay(演奏=遊戯)の醍醐味と呼ばずして、何と呼ぼうか。
それは、ミニマリズムMinima_Rhythmという原点を持つ久石の音楽が、高度な技量を備えた本盤の演奏家たちという理解者を得て、躍動する生命(アニマ)のリズムを讃えるアニマリズムAnima_Rhythmの高みに到達した瞬間でもあった。
文:前島秀国
(以上、CDライナーノーツ 寄稿文より)
【楽曲解説】
1. 祈りのうた for Piano (2015)
初演(予定):2015年8月5日、ザ・シンフォニーホール
「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.) 2015」
2015年1月作曲。三鷹の森ジブリ美術館の展示室用音楽として、一足先に聴かれたリスナーも多いかもしれない。世俗の日常を超越した崇高な時間感覚を紡ぎ出す、拍節感の希薄なテンポ。”祈り”の余韻をいっそう純化する、息の長いペダルの使用。久石自身が「僕が初めて書いたホーリー・ミニマリズムの曲」と述べているこの楽曲は、機能和声や調性システムからいったん脱却し、シンプルな三和音という最小限(ミニマル)の構成要素に回帰したアルヴォ・ペルトのティンティナブリ様式(鈴鳴り様式)との親近性を強く感じさせる。本盤に収録されたピアノ版の構成は、ごく大まかに(1)透明感あふれる三和音のモティーフを右手が導入する最初のセクション、(2)悲しみに満ちた和音からなる中間部のセクション、(3)左手の伴奏を伴った最初のセクションの再現、という三部形式と見ることが可能である。
《祈りのうた》という曲名に関して、久石は具体的に誰のための「祈り」か明言していない。ただし2014年暮、すなわち本作作曲直前の時期にW.D.O.2015公演のプログラミングを練っていた久石は、東日本大震災の悲劇について何らかの音楽的ステートメントを盛り込みたいと構想していたので、それが作曲の間接的なきかけになった可能性はある。
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2015年1月、三鷹の森ジブリ美術館オリジナルBGM用のピアノソロ曲として作られた。久石の作家人生の中でも初のホーリー・ミニマリズム作品として書かれたこの曲は、極めてシンプルな3和音を基調とし、極限まで切りつめられた最小限の要素で構成されている。今回演奏される《祈りのうた》は、核をなすピアノに加え、チューブラベルズ、弦楽合奏が加えられた。厳かな鐘の鳴り響く中、静かに訥々と語りかけるように始まるピアノの旋律が印象的である。久石が敬愛するホーリー・ミニマリズムの作曲家ヘンリク・グレツキに捧げられている。
(Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 コンサート・レポート)
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毎年正月、三鷹の森ジブリ美術館で使うために宮崎(駿)さんに曲を贈っているのですが、今年出来たのがこれだったんです。昨年、ヘンリク・グレツキやアルヴォ・ペルトに代表されるような教会旋法を使ったホーリー・ミニマリズムを演奏してきた影響もあり、シンプルでありながらエモーショナルであることを追求したくなっていたんです。人間は前進しようとするとより複雑なものを求めがちですが、あえてシンプルにいきたかった。そうして出来上がったら自然と《祈りのうた》というタイトルが浮かびました。
(Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 コンサート・パンフレットより)
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2. Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas (2012-2014)
初演:2014年9月29日、よみうり大手町ホール 「Music Future Vol.1」
原曲は、2台のギターのために書かれたHakujuギター・フェスタ委嘱作 《Shaking Anxiety and Dreamy Globe》(2012年8月19日Hakuju Hallにて初演)。曲名は、ダグラス・ホフスタッターの古典的名著『ゲーデル、エッシャー、バッハ』20周年記念版の序文に出てくる「揺れ動く不安と夢の球体」というフレーズに由来する。このフレーズは、著者のホフスタッターがアメリカの詩人ラッセル・エドソンの詩「The Floor」の一節を引用した部分「teetering bulb of dread and dream」を訳したものだが、「揺れ動く不安と夢の球体」という日本語表現を気に入った久石は、敢えて原文の文脈にとらわれず「shaking anxiety(揺れ動く不安)and dreamy globe(夢の球体)」という英語に逆変換し、新たな造語を作り上げた。久石自身はこの造語の意味するところを「生命が生まれる瞬間」と説明している。躍動感あふれるミニマル音形の反復と複雑な変拍子を用いた原曲の構成を踏襲しつつ、本盤に収録されたマリンバ版では第1奏者がグロッケンシュピールを、第2奏者がヴィブラフォンを兼ね、より多彩な音色を獲得。特に「dolente(悲しみを込めて)」と記されたセクションでは、繊細かつ精麗な響きを奏でるグロッケンとヴィブラフォンが印象に残る。
3. Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion (2014-2015)
初演(予定):2015年9月24日・25日、よみうり大手町ホール「Music Future Vol.2」
原曲は、毎年ウィンド・アンサンブルの新作を委嘱初演する浜松市の音楽イベント「バンド維新」のために書かれた吹奏楽曲(2015年2月22日アクトシティ浜松にて初演)。久石自身の解説によれば、単音から24音まで増殖するフレーズがユニゾンで演奏され、その中のある音が高音や低音に配置されることで別のフレーズが浮かび上がってくるという、シンプルな構造で作られている。
アメリカン・ミニマル・ミュージックの作曲家たち、特にスティーヴ・ライヒはミニマル特有のズレ(とそこから生まれる変化のプロセス)を生み出すため、バッハ以来おなじみのポリフォニック(多声音楽的)な書法、具体的にはカノンのような手法で声部を重ね合わせる実験を試みたが、本作において久石は、そうしたポリフォニックな手法に頼らず、あくまでも単旋律のユニゾンにこだわりながらズレを生み出す試みにチャレンジしている。つまり多声という”複線”を走るのではなく、あくまでもユニゾンという”単線”を走り続けるわけだ。鉄道の”単線”を意味する《Single Track》という曲名はそこに由来しているが、その際、フレーズ内の音が高音や低音に配置されることで生まれる別のフレーズは、車窓から見えるビルの窓ガラスや川の水面に映る自分の反射した姿(の変形)と考えると、分かりやすいかもしれない。
本盤に収録された演奏において、パーカッショニストがヴィブラフォンを演奏するセクションから中間部となるが、そこに聴かれる和音らしき響きは、あくまでもフレーズの持続音(サステイン)が伸びた結果生まれたものであって、決して意図したものではないという。喩えて言うならば山間部を走る列車の走行音や警笛がこだまし、それが偶発的なハーモニーを生み出すようなものである。
ユニゾンのフレーズの音が時間軸上でズラされることで生まれるさまざまな音風景は──久石は本作を鉄道の標題音楽として書いているわけではないが──車窓から見える多種多様な光景が自分の中のさまざまな記憶を呼び起こしていく、そんな自由連想的な聴き方をリスナーに許容している。最初のユニゾンのフレーズが、民謡のようにもジャズのようにも、あるいはわらべ唄のようにも聴こえてくる面白さ。そういう面白さを実現するためには、最初のフレーズが思わず口ずさみたくなるような親しみやすさを持ちながら、同時に高度な可塑性に耐えうる可能性を潜在的に秘めていなけれなならない。こういうフレーズは、ポップスフィールドで感性を徹底的に鍛え上げられた、久石のような作曲家でなければ絶対に書けないフレーズだと思う。そういう意味で本作は、久石のポストクラシカル的な在り方をこれまでになく明瞭に示した楽曲と言えるだろう。
4. WAVE (2009)
初演:2009年8月15日、ミューザ川崎シンフォニーホール
「久石譲 オーケストラ コンサート 2009 ~ミニマリズム ツアー~」
アメリカン・ミニマル・ミュージック(特にフィリップ・グラス)の功績のひとつは、西洋音楽において単なる伴奏音形とみなされていた分散和音(アルペッジョやアルベルティ・バス)に音楽表現の主体を置くことで「旋律=主、分散和音=従」の関係を逆転させ、分散和音から旋律が発展してく手法を確立・普及させた点である。本作の場合、イ長調の主和音から始まる分散和音は、《WAVE》という曲名が示す通り、寄せては返す波のように何度も繰り返されていくが、渚を洗うひとつひとつの波が決して同じではないように、ひたひたと寄せる分散和音は繰り返しごとに色あいを微妙に変えていく。そして、その色あいの変化の中から、ちょうど波間に浮かぶ小舟のように、1本の旋律がくっきりと上声部に浮かび上がってくるのである。ミニマル作家としての久石譲と旋律作家としての久石譲が、高度な次元で融合した名曲というべきであろう。2009年1月に作曲後、三鷹の森ジブリ美術館展示室用音楽の形で初めて公にされたが、この作品に格別な思い入れを抱く久石は、これまでアンコールなど特別な機会のみに演奏を限定してきた。リリースは本盤が初となる。
5-8. String Quartet No.1 (2014)
初演:2014年9月29日、よみうり大手町ホール「Music Future Vol.1」
2012年に東京で開催された「フェルメール光の王国展」のために久石が書き下ろした室内楽曲《Vermeer & Escher》から4曲を選び、弦楽四重奏曲として新たに構成・作曲し直した作品。作曲活動の初期から、オランダの画家マウリッツ・エッシャーのだまし絵(錯視絵)がもたらす錯視効果と、ミニマル・ミュージック特有のズレがもたらす錯聴効果の類似性に強い関心をいだいていた久石は、1985年に《DA・MA・SHI・絵》という作品を発表しているが、それから約30年、弦楽四重奏だけで構成された本作では、エッシャー特有の線的構成がいっそう強調されることになった(ただし久石は、エッシャーの作品を標題音楽的に表現しているわけではない)。参考までに、作曲にあたって久石がインスパイアされたエッシャーの原画のデータを以下に挙げておく。※割愛
第1楽章:Encounter
冒頭のユニゾンで提示される主題を基にした、ユーモアにあふれるズレの遊戯。
第2楽章:Phosphorescent Sea
グリッサンドの弦の波、それに夜のミステリアスな音楽で表現された「燐光を発する海」の情景。
第3楽章:Metamorphosis
厳格かつ対位法的な音楽で表現される、ズレの「変容」の過程。
第4楽章:Other World
13/8拍子という珍しい拍子を持ち、オクターヴを特徴とする反復音形が中心となる終楽章。オリジナル版では全音階の希望に満ちたモティーフが静かに登場した後、コーダを迎える形をとっていたが、本盤に収録された弦楽四重奏版ではそのモティーフを中心とする新たなクライマックスが築き上げられ、その後、反復音形が再現して余韻を残したコーダを迎える形に改訂されている。
2015/06/18
前島秀国 サウンド&ヴィジュアル・ライター
(【楽曲解説】 ~CDライナーノーツより 抜粋)
補足)
近年の久石譲オリジナル・アルバム(ベストアルバム含む)のほとんどのライナーノーツを手掛けている前島氏。本作品でも「久石譲 『Minim_Rhythm II』に寄せて」と題し、楽曲解説以外にも4ページにわたって、久石譲を紐解いている。本盤に至る経緯、久石譲の現在地を独自の視点で捉えていてより一層引き込まれる。楽曲解説項から溢れた収録曲の解説もそこで述べられており、本作品を聴くための手引きとなるにふさわしい。そして聴覚から得る印象と視覚から得る言語、まさに感覚性と論理性によって本作品の真髄を受け止めることができる。
耳でも、そして言葉でも、久石譲を、久石譲の現在(いま)を、『Minima_Rhythm II』を深く味わいたい方は、ぜひ本作品CDを手にとってほしいと願いを込めて。
「2曲とも宮崎駿監督の誕生祝いとして書いた作品です。〈WAVE〉(2009年作曲)は”メロディ”と”ミニマル”という2つの要素をシンプルな形で結びつけた曲ですが、当初収録を予定していたピアノ・ソロアルバムがなかなか完成せず、リリースの機会を逸してしまいました。一方の〈祈りのうた〉(2015年作曲)は、戦後70年の節目を意識して書いた曲。以前から音数(おとかず)の少ない、内省的な作品を書きたいと思っていたのですが、これもなかなか機会に恵まれなくて。ところがここ数年、ペルトやグレツキの作品を(指揮者/ピアニストとして)演奏したことで、ホーリー・ミニマリズムと呼ばれる彼らのスタイルから刺激を受けました。”なるほど、できるだけ切り詰めた要素で作曲していくには、こういう方法もあるのか”と」
(Blog. 雑誌「CDジャーナル 2015年11月号」久石譲 インタビュー内容 より抜粋)
「宮崎駿監督とはもう長い付き合いですからね。年に一回、宮崎さんのために正月に曲を書いて持って行くんです。持って行かない年は1年を通して調子が悪くて(笑)。ゲン担ぎみたいなものですね。「祈りの歌 for Piano」は今年の正月に持って行った曲です。正月の3日に作って、4日にレコーディングしてその日に持って行って。なんだか出前みたいですけど(笑)。この年頭の習慣が、意外と大事なんですよ。お正月だから、暗い曲を持って行くことはしないし(笑)、新年最初に心休まる曲を一曲作る、というのは、すごくいいなと思っていて。ジブリ美術館では、僕の曲を今でも使ってくれているみたいですね。」
(Blog. 「月刊ぴあの 2015年12月号」 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)
「結局、音楽って僕が考えるところ、やはり小学校で習ったメロディ・ハーモニー・リズム、これやっぱりベーシックに絶対必要だといつも思うんですね。ところが、あるものをきっちりと人に伝えるためには、できるだけ要素を削ってやっていくことで構成なり構造なりそれがちゃんと見える方法はないのかっていうのをずっと考えていたときに、単旋律の音楽、僕はシングル・トラック・ミュージックって呼んでるんですけれども、シングル・トラックというのは鉄道用語で単線という意味ですね。ですから、ひとつのメロディラインだけで作る音楽ができないかと、それをずっと考えてまして。ひとつのメロディラインなんですが、そのタタタタタタ、8分音符、16分音符でもいいんですけど、それがつながってるところに、ある音がいくつか低音にいきます。でそれとはまた違った音でいくつかをものすごく高いほうにいきますっていう。これを同時にやると、タタタタとひとつの線しかないんだけど、同じ音のいくつかが低音と高音にいると三声の音楽に聴こえてくる。そういうことで、もともと単旋律っていうのは一個を追っかけていけばいいわけだから、耳がどうしても単純になりますね。ところが三声部を追っかけてる錯覚が出てくると、その段階である種の重奏的な構造というのがちょっと可能になります。プラス、エコーというか残像感ですよね、それを強調する意味で発音時は同じ音なんですが、例えばドレミファだったらレの音だけがパーンと伸びる、またどっか違う箇所でソが伸びる。そうすると、その残像が自然に、元音型の音のなかの音でしかないはずなんだが、なんらかのハーモニー感を補充する。それから、もともとの音型にリズムが必ず要素としては重要なんですが、今度はその伸びた音がもとのフレーズのリズムに合わせる、あるいはそれに準じて伸びた音が刻まれる。そのことによって、よりハーモニー的なリズム感を補強すると。やってる要素はこの三つしかないんですよね。だから、どちらかというと音色重視になってきたもののやり方は逆に継承することになりますね。つまり、単旋律だから楽器の音色が変わるとか、実はシングル・トラックでは一番重要な要素になってしまうところもありますね。あの、おそらく最も重要だと僕が思っているのは、やっぱり実はバッハというのはバロックとかいろいろ言われてます、フーガとか対位法だって言われてるんですが、あの時代にハーモニーはやっぱり確立してますよね、確実に。そうすると、その後の後期ロマン派までつづく間に、最も作曲家が注力してきたことはハーモニーだったと思うんです。そのハーモニーが何が表現できたかというと人間の感情ですよね。長調・短調・明るい暗い気持ち。その感情が今度は文学に結びついてロマン派そうなってきますね。それがもう「なんじゃ、ここまで転調するんかい」みたいに行ききって行ききって、シェーンベルクの「浄夜」とか「室内交響曲」とかね、あの辺いっちゃうと「もうこれ元キーをどう特定するんだ」ぐらいなふうになってくると。そうすると、そういうものに対してアンチになったときに、もう一回対位法のようなものに戻る、ある種十二音技法もそのひとつだったのかもしれないですよね。その流れのなかでまた新たなものが出てきた。だから、長く歴史で見てると大きいうねりがあるんだなっていつも思います。」
(Single Track Music 1について)
「この時、シングル・トラックをやろうって、そんなひとつの自分の方法をまだ全然考えてなかったんですよね。なんでかっていうと、ミニマルって必ず二つ以上ないと出来なかったんですよ。ズレるってことは元があってズレるものがないといけない。そうすると必ず二声部以上必要になりますね。大元のパターンがある、一緒にやってるが一個ずつズレていく、それがだんだん一回りして戻ると。そうするとね必ず二ついるんですよ。僕もそれが一拍ズレ、半拍ズレた、二拍ズレたとかってよくやるんですが、必ず元に対してズレがあるっていう方法をなんとか打破できないかと。単純に。ミニマルっていうのはこうやってもう何かがズレるんだと、いやこんなことやってたら永久に初期のスティーヴ・ライヒさんとかフィリップ・グラスさんとかがやってた方法と変わんだろうと。なんか違う方法ないかっていうときに、自分でズレるっていうか、二つがあって相対的にズレるじゃなくて、自分自身がズレていくような効果を単旋律で出来ないかって作った実験的なのがこれが最初でしたね。」
(Shaking Anxiety and Dreamy Globeについて)
「地球ですね。これね、自分で付けたタイトルなんだけど、今でも言えないんですよ。シュールなタイトルなんですけどね。音が一個一個こう生まれていって、それが一つの有機的な作品になるっていうことは、ちょうどこう細胞が分裂していって一つの生命が宿る、それと同じということでちょっとシュールにこういうタイトルを付けてみました。」
「はい、もともとはギター2本で書いた曲なんですね。それをこう、非常にアップテンポで構造が見えるようにやりたいなと思ってマリンバに直したんですね。」
(Blog. NHK FM「現代の音楽 21世紀の様相 ▽作曲家・久石譲を迎えて」 番組内容 より抜粋)
同日、ショット・ミュージックより「弦楽四重奏曲第1番 – String Quartet No.1」 オフィシャル・フルスコアおよびパート譜も発売されている。
2018年4月25日 LP発売 UMJK-9081/2
完全生産限定盤/重量盤レコード/初LP化

1. 祈りのうた for Piano (2015)
2. Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas (2012-2014)
3. Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion (2014-2015)
4. WAVE (2009)
String Quartet No.1 (2014)
5. I. Encounter
6. II. Phosphorescent Sea
7. III. Metamorphosis
8. IV. Other World
All Music Composed & Produced by Joe Hisaishi
Piano:Joe Hisaishi 1. 4.
<<M1>>
Piano: Joe Hisaishi
<<M2>>
Marimba / Glockenspiel: Momoko Kamiya
Marimba / Vibraphone: Mitsuyo Wada
<<M3>>
Soprano Saxophone: Kazuyuki Hayashida
Alto Saxophone: Wataru Sato
Tenor Saxophone: Yui Asami
Baritone Saxophone: Ryota Ogishima
Percussion: Mitsuyo Wada
<<M4>>
Piano: Joe Hisaishi
<<M5~8>>
Violin 1: Kaoru Kondo
Violin 2: Satoshi Morioka
Viola: Hironori Nakamura
Violoncello: Wataru Mukai
Recorded at
Bunkamura Studio [Track-1]
Victor Studio [Track-2,3,5-8]
Wonder Station [Track-4]
Minima_Rhythm II
1.Song for Prayer for Piano
2.Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas
3.Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion
4.WAVE
5.String Quartet No.1 – I. Encounter
6.String Quartet No.1 – II. Phosphorescent Sea
7.String Quartet No.1 – III. Metamorphosis
8.String Quartet No.1 – IV. Other World
2015年8月5日 発行
《弦楽四重奏曲第1番》(2014)は、久石譲が2012年に作曲した室内楽曲集《フェルメール & エッシャー》の中から、マウリッツ・エッシャーのだまし絵にインスピレーションを受けて作られた4曲:〈I. Encounter〉〈II. Phosphorescent Sea〉〈III. Metamorphosis〉〈IV. Other World〉を、作曲者自身が弦楽四重奏曲として新たに構成・作曲したもの。各曲は久石譲の得意とするミニマル・ミュージックを基としながらも、テンポや拍子、カノンやホケトゥスといった技法によってそれぞれが特徴付けられている。演奏時間約29分。
初演は2014年9月29日、よみうり大手町ホールで催された久石譲プレゼンツ「ミュージック・フューチャー vol.1」において、近藤薫・森岡聡・中村洋乃理・向井航の演奏によって行われた。
(メーカー・インフォメーションより)
弦楽四重奏曲第1番 – String Quartet No.1
2012年に東京で開催された「フェルメール 光の王国展」のために久石が書き下ろした室内楽曲《Vermeer & Escher》から4曲を選び、弦楽四重奏曲として新たに構成・再作曲した作品。久石は作曲活動の初期から、画家マウリッツ・エッシャーのだまし絵〈錯視絵〉がもたらす錯視効果と、ミニマル特有のズレがもたらす錯聴効果の類似性に強い感心をいだき、「だまし絵」をタイトルとする楽曲を発表している。エッシャーの版画さながらに線的なラインで構成された弦楽四重奏が、久石ミニマルのエッセンスを凝縮して表現した作品。
第1楽章「Encounter」
冒頭のユニゾンで提示される主題を基にした、ユーモアにあふれるズレの遊戯。
第2楽章「Phosphorescent Sea」
グリッサンドの弦の波、それに夜のミステリアスな音楽で表現された「燐光を発する海」の情景。
第3楽章「Metamorphosis」
厳格かつ対位法的な音楽で表現される、ズレの「変容」の過程。
第4楽章「Other World」
13/8拍子という珍しい拍子を持ち、オクターヴを特徴とする反復音形が中心となる終楽章。オリジナル版では、全音階の人懐こいモティーフが静かに登場した後に、コーダを迎えるが、今回の弦楽四重奏版ではそのモティーフを中心とする新たなクライマックスが築き上げられるなど、大幅な改訂が加えられている。
(初演コンサートパンフレット 楽曲解説より)
WORLD PREMIÈRE:
September 29, 2014 -Yomiuri Otemachi Hall, Tokyo, JAPAN
Kaoru Kondo(violin), Satoshi Morioka(violin), Hironori Nakamura(viola) & Wataru Mukai(violincello)
JOE HISAISHI
STRING QUARTET No.1
久石譲 弦楽四重奏曲第1番

フルスコア(68ページ)
【収録曲】
I. Encounter
II. Phosphorescent Sea
III. Metamorphosis
IV. Other World
SJH 007
菊倍判(227×303mm)
定価:2,500円(税別)
注文番号: SJH 007
ISBN: 978-4-89066-176-3
ISMN: M-65001-254-6
JAN: 1923073025000
出版社: Schott Music Tokyo
PARTS
パート譜

パート譜(4パート)
【収録曲】
I. Encounter
II. Phosphorescent Sea
III. Metamorphosis
IV. Other World
SJH 007-01
A4判
定価:1,500円(税別)
24+24+26+22ページ
A4判 中綴じ製本
注文番号: SJH 007-01
ISBN: 978-4-89066-177-0
ISMN: M-65001-255-3
JAN: 1923073015001
出版社: Schott Music Tokyo
公式サイト:ショット・ミュージック 久石譲 弦楽四重奏曲第1番
◎音源は久石譲『Minima_Rhythm II ミニマリズム 2』に収録されています。

当サイトでは、8年ぶりの全国ツアーである「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」コンサートレポートおよび感想などは、全公演終了後8月14日以降に掲載予定です。
8月5日からはじまるコンサート、行かれる方には事前に余計な情報を提供することなく純粋に楽しんでいただけるように、そして全公演終了後に、総括した演奏曲目(セットリスト)やアンコール情報などを網羅できたらと思っています。
予めご了承ください。
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2015年8月4日 CDマガジン 「クラシック プレミアム 42 ~マーラー~」(小学館)
隔週火曜日発売 本体1,200円+税
「久石譲の音楽的日乗」エッセイ連載付き。クラシックの名曲とともにお届けするCDマガジン。久石による連載エッセイのほか、音楽評論家や研究者による解説など、クラシック音楽の奥深く魅力的な世界を紹介。
“Info. 2015/08/04 [CDマガジン] 「クラシック プレミアム 42 ~マーラー~」 久石譲エッセイ連載 発売” の続きを読む