1990年10月17日 CD発売
”ニュー・サウンズ・イン・ブラス”シリーズの中から特別によりすぐった名演奏の数々…。ダイナミックで一味違ったポップな演奏をお楽しみください。
指揮:岩井直溥
演奏:東京佼成ウィンドオーケストラ
ゲスト・ミュージシャン:
Drums 猪俣猛
Bass 荒川康男
Trumpet 数原晋 他
久石譲が編曲を手がけた「四季より 春」「アダージョ」の2楽曲が収録されている。
曲目解説
1.シボネー
「マラゲーニア」の作曲者でもあるキューバ生まれのエルネスト・レクオーナの作品。キューバの原住民で、既に絶滅してしまったインディオ、シボネー族の恋を歌った曲で、ラテン音楽「ルンバ」のスタンダード・ナンバーとして古くから演奏されている名曲です。
吹奏楽の特性を見事に活かした編曲で、迫力もあり、ワイドなサウンド、それと対照的なルンバの遊びも楽しめます。
2.幻想即興曲
ピアノの詩人ショパンが24歳の時作った華麗なピアノ即興曲「幻想」の中間部、ゆるやかな美しい旋律をテーマにしています。ポピュラー曲としても、「虹を追って」などの別名も付けられ、しばしば演奏され親しまれて来ました。
演奏はピアノ・ソロが中心となり、中間部軽快なディスコ・テンポとなりますが、コンサートに変化を与える好ナンバーです。
3.飾りのついた四輪馬車
”1943年3月31日の夜、8時30分すこし過ぎ、セント・ジェイムズ劇場の館内照明が消えていき、興奮した観客のざわめきは、恐ろしいまでに静まり返った。指揮者のジェイ・ブロックトンが、さっと振り上げた指揮棒とともに、オーケストラは、力強くオーヴァチュアを響かせはじめた……”。ミュージカル「オクラホマ」の歴史的なオープニングである。それ以来、続演を重ねる事、実に2,248回、この数字を見てもこのミュージカルがいかに好評で、いかに好意を持って迎えられたかが解るであろう。毎日休みなしの上演でも、6年以上はかかる数字である。
原作~リン・リッグス「リラの花緑に育つ」、脚本・作詞~オスカー・ハマースティン二世、音楽~リチャード・ロジャース、振付~アグネス・デ・ミル。
この作品は、リチャード・ロジャースとオスカー・ハマースティン二世のコンビの最初のミュージカルである。このコンビは以後、「回転木馬」「南太平洋」「王様と私」「サウンド・オブ・ミュージック」と次々とすばらしいヒットを続けるのである。
この「飾りのついた四輪馬車」は、「オクラホマ」の冒頭近くに歌われる、楽しいナンバー。好青年のカーリーが、今夜のパーティーに村一番の美しい娘、ローリーを誘い出そうとしています。乗り物はもちろん、きれいに飾りのつけられた四輪馬車。……ストーリーは進み、やがて2人はめでたく結ばれる訳ですが、ミュージカルの終りの方”The wedding”の部分にもこのメロディーは顔を出します。ほんとうに楽しく、ほんとにハッピーなこの曲、この雰囲気をいやが上にも盛り上げているのは、ブラスの響きをよく活かした、絶妙なアレンジがあるからとも言えましょう。正に吹奏楽の醍醐味ここにあり、といった所です。
4.さらばジャマイカ
ジャマイカという言葉の持つ響きに、我々は何を感じているだろうか。ジャマイカの熱い風、強い日差し、吸い込まれそうなどこまでも青い空、そして水平線の向こうでは雲と空とに溶け込んでしまいそうな海、憧憬(あこがれ)と勇気。この言葉からはそんなパワーが、何となく伝わって来そうな気はしないだろうか。
5.シエリト・リンド
最近、ラテン楽器の普及については目覚ましいものがあり、どこのバンドでも必ず何種類かの楽器が導入されている。もともと日本人のラテン音楽好きは今に始まったことではないのだが、それにしても、ラテン系の音楽は我々に何か郷愁のようなものさえ感じさせてくれるのです。日本人の起源は……などと考えを拡げ、日本人のルーツを音楽から追求してみたくなるほど、それ等は私達に何かを語りかけてきます。
この曲「シエリト・リンド」は、第2のメキシコ国家ともいわれるほどポピュラーなメキシコ民謡ですが、もとはスペイン民謡から変化したと言われています。曲名のシエリト・リンド(きれいな空、美しい空の意)という言葉は、恋人などへの呼びかけなどに使われる、はやしコトバです。
もともと3拍子で演奏される事が多いようですが、今回は、ラテン・パーカッションをふんだんに取り入れ、サンバのイメージでアレンジしております。イントロや、途中でもパーカッションだけのアンサンブル(バッカーダ)の部分に、いろいろなサウンドの楽器や、リズムソロ等のアイディアが存分に盛り込め、コンサートをより楽しいものにしてくれると思います。
6.四季より「春」
ヴィヴァルディの有名な弦楽合奏曲「四季」の中の「春」をポップス化したもの。もともと弦楽系の素材を管だけで演奏することは難しいことだが、この編曲ではエレキ・ベースの効果と高音木管群のからみでヴィヴァルディのサウンドを上手に再現していて面白い。最初のテーマが第1楽章、強弱を3小節ずつ対比させ古典曲らしさの中、低音部はそれにおかまいなく正確なリズムをきざむ処理がポップス的。中間部のソプラノ・サックスのソロ(第2楽章)が美しい。繰り返してブレークして行く方法は、アドリブ入門のお手本となる。第3楽章は8分の12拍子、乾いた太鼓の音が民族舞踏を思わせ、軽快なエンディングとなる。鑑賞教材曲でもある古典を、この様な演奏で聴かせるのもバンドを身近なものにさせてくれる。
7.マイ・フェア・レディ・メドレー
ブロードウェイ・ミュージカルとして大ヒットを飛ばし、ニューヨークのセント・ジェームズ劇場でロングラン興行となった。日本でも上演されたり、劇中曲がしばしば歌われて来ている。この編曲では「運がよければ」、「踊りあかそう」、「忘れられぬ君」、「何んて素晴らしい」それに「君住む街角」の順でメドレーとなっているが、それぞれにマーチ、スイング、ビギン、ボサノヴァなどのリズムでひと捻りしてあり誠に多彩。勿論聴きなれたメロディーの連結だが、それを抜群のアイディアで構成してある優れた編曲。それぞれのリズムにより、奏法上の約束ごとを良く理解した上で演奏する必要がある。譜面上も易しいので、少し練習を繰り返せば中学校バンドえも楽しめるアレンジです。
8.パリのあやつり人形
ヨーロッパのユーロビジョン・コンテストの’67年度の入賞曲。何んでもない曲のようですが、全般に「おや!!」と思わせるユーモアとイタズラがかくされていて誠にブラス的、愉快な曲です。もともとポール・モーリアの楽団の演奏でヒットした曲ですが、コンサートの息抜きになる軽い編曲で、素材がブラス向きなだけに効果が期待できるよい作品です。
9.フィーリング
すっかりおなじみのフィーリング。バンド用の編曲もかなり出版されてはいますが、この編曲は原曲の感じを忠実に生かし、全般がフリューゲルホルンのソロを中心としています。演奏に際しては最初のギターの分散和音が重要なので、無ければピアノなどに置きかえても音をていねいに拾って欲しいですね。やはり中・低音を厚目にブラスのハーモニーを生かしたいものです。
10.ベンジーのテーマ
先頃かわいいお客さんを沢山集めてヒットした映画「ベンジー」のテーマ音楽。このシリーズ中最もイージーでしかも上品にまとめた良い作品のひとつ。何んでもないテーマながら各セクションのバランスがよく、スローロックとビギンのリズムで愛情を歌いあげます。中学校バンドのレパートリーのひとつとしても歓迎される作品です。
11.アダージョ
アルビノーニはヴィヴァルディと同時代のイタリアの作曲家です。このアダージョはその一部を映画「審判」のテーマ音楽に使ったことから、ポピュラー界に入り込んだものです。クラシックの持つ奥深い神秘性を感じさせる名曲で、オーボエのソロが美しく歌います。後半はジャズ・ワルツに哀愁のメロディーが乗りますが、演奏の素材としても勉強になる点の多い良い編曲です。
12.サウス・ランパート・ストリート・パレード
古い古いデキシーランド・ジャズのスタンダード・ナンバーだけど、実に楽しいスイングに編曲されている。ピッコロ2重奏、クラリネット、トランペットのソロが楽しい。このソロの部分を、チューバなど、他の楽器にも繰り返し吹かして見たら、面白い演奏効果が得られることだろう。
解説:石上禮男
※解説はそれぞれレコード発売当初のものをそのまま転用しました。
(曲目解説 ~CDライナーノーツより)
1.シボネー Siboney
2.幻想即興曲 Fantaisie-Impromptu, Op.66
3.飾りのついた四輪馬車 The Surry with the Fringe on Top
4.さらばジャマイカ Jamaica Farewell
5.シエリト・リンド Cielito Lindo
6.四季より「春」 “Spring” from Four Seasons
7.マイ・フェア・レディ・メドレー My Fair Lady (Medley)
8.パリのあやつり人形 Puppet on a String
9.フィーリング Feelings
10.ベンジーのテーマ Benji’s Theme “I Feel Love”
11.アダージョ Adagio en Sol Mineur
12.サウス・ランパート・ストリート・パレード South Rampart Street Parade
編曲:
岩井直溥 1,3,5,7,8,10,12
藤田玄播 2
真島俊夫 4
久石譲 6,11
小野崎孝輔 9