COLUMN
久石譲『海獣の子供 オリジナル・サウンドトラック 』 ミニマルの手法を貫き通した、6年ぶりの長編アニメ仕事
text:賀来タクト
2019.6.16
ミニマルの手法を貫き通して完成させた、6年ぶりの長編アニメーションの仕事
まず、これが久石譲にとって『かぐや姫の物語』以来の長編アニメーションの音楽担当という事実である。宮崎駿、高畑勲との仕事に必要十分な充実を覚えていた作曲者は、なかなか新規の依頼に首を縦に振らなかった。モチベーションの問題だろう。四つに組むに足る作品なのか。作曲家としての自分の才能が本当に必要とされる場なのか。プライドの問題でもある。それだけのハードルを設けるには十分な格闘をスタジオジブリの作品でやってきた。だから、至極当然な要求でもあった。
果たして『海獣の子供』の製作陣は久石譲を口説き落とした。その熱意を作曲者は依頼受諾の理由のひとつに挙げている。同時に、この作品の魅力について 「ストーリーが抽象的でよくわからないこと」と加えた。理解できないからこそ、思考の余地が生まれる。固定された答えがないからこそ、音楽の自由も獲得できる。つまり、手垢のついた方法で登場人物の感情や状況説明をする必要がない。結果、作曲者はこれまでになくミニマル・ミュージックの手法に重きを置くに至った次第である。
若き日から今日まで、ミニマルの手法ほど久石の中で永遠の原石といえる音楽手法はない。いつまでも磨ききることができない。まさに、常に初心に返って取り組むことができる手法。これまでにも、隙あらばミニマルを映像音楽の仕事に持ち込んできた作曲者だったが、近年、これほどまでにそれを徹底させた作例はあったろうか。ここにあるのは劇の伴奏曲=劇伴などではない。独立した意志すら持った音楽語法の極み。それが映像と伴走ならぬ併走を実現している。全く情緒に溺れず、それでいて映像の繊細なひだも臨場感も崩していない。室内楽規模の編成ながらダイナミズムも十分。至芸であろう。ミニマルにこだわり続けた作家だけができる奥義であり、それを正面から受容できる稀な映像作品であった。音色の見事な粒立ちも含め、作家と作品の幸福な出合いがかなった好機として長く記憶していい。
出典:Mikiki
http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/22189
CINEMA INFORMATION
アニメーション映画『海獣の子供』
監督:渡辺歩
原作:五十嵐大介
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師「海の幽霊」
声の出演:芦田愛菜 石橋陽彩 浦上晟周 森崎ウィン 稲垣吾郎 蒼井優 渡辺徹 /田中泯 富司純子 他
配給:東宝映像事業部
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