Disc. リトルキャロル 『The Christmas Album』

リトルキャロル

2006年11月8日 CD発売 WRCT-1011

 

久石譲の娘、麻衣が中心となり、元NHK東京放送児童合唱団のメンバーによって結成された女性コーラス・グループ、Little Carolの、色褪せることのないクリスマスの名曲の数々を洗練された芸術性と歌声で奏でる、クリスマス・アルバム。

 

久石譲作曲/リトルキャロル作詞「ホワイトナイト」収録。

 

 

曲目解説

1曲目の「Carol of the bells」は「鐘のキャロル」と表記されることもあります。クリスマス・キャロルとしては、特に有名な歌ではないですが、世界各国の合唱団のクリスマス・アルバムの中に、この曲を見付けるのは珍しい事ではありません。鐘の音を象徴する独特の、どこか哀愁漂う旋律が日本人には懐かしさを感じるのではないでしょうか?ウクライナの伝承曲とも言われますし、Mykola Leontovich(1877~1921年)がウクライナのメロディーに基いて作った、とも言われています。イエス様がお生まれになった時、世界中の鐘がいっせいに鳴った…という伝説と結びついているのでしょう。すべてア・カペラで歌われているこの曲は、2005年の久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラの「12月の恋人たち」というコンサートに「リトルキャロル」も参加した時、久石譲指揮により歌いました。今回も、この歌は久石譲が指揮をしています。

2曲目の「We wish  you a Merry Christmas」は、おそらくどなたもご存知の、イギリスの古くから伝えられたクリスマス・ソングです。「あなたにも、あなたにも、あなたにも、楽しいクリスマスを!そして新年おめでとう!」という歌を聴いたとたん、誰もがウキウキと嬉しくなってしまいますね。

3曲目の「クリスマス」は谷川俊太郎・作詞/林光・作曲の歌です。ずっとNHK東京児童合唱団が歌ってきましたが、音源化するのはこれが初めてだそうです。導入部の可愛らしい歌詞がほほ笑ましいのですが、聴いていると深い意味が込められていることに気が付きドキッとします。

4曲目の「The Christmas Song~Chestnuts roasting on an open fire」も、ナット・キング・コールをはじめ、たくさんの有名な歌手によりカヴァーされている歌です。作詞・作曲はMel TormeとRobert Wells。作曲年は1944年とも46年とも言われています。タイトルを日本語に訳すと「発砲で焼ける栗」となり歌詞(叙事詩…なのだそうです)も日本人にはシュールな内容です。でも美しい旋律は一度聴けば忘れられないほど印象的ですね。

5曲目の「White Christmas」も、定番中の定番と言っても過言ではないクリスマス・ソングです。同タイトルのビング・クロスビーのレコードでもお馴染みですが、そもそもは1954年の映画「ホワイト・クリスマス」の中の主題歌的な歌です。今見ても心温まる素敵な映画ですので、ぜひ一度ご覧下さいね。

6曲目の「Zither Carol」はチェコの民謡で、海外の合唱団にはよく歌われていますが、日本のアルバムでは珍しいですね。「ズ、ズィン、ズィン…」とリズムを刻む導入部からして楽しい曲ですが、歌う側からすると「早口のソロ」と「二人のソロの対比が面白かった」そうです。なるほど聴くよりも、歌ってみたくなる曲かもしれません。チェコやブルガリアの民謡には、拍子が変則的にクルクル変わる面白い歌が多いです。

7曲目の「Ave Maria」ですが、グスタフ・ホルスト(1874-1934)といえば、組曲「惑星」を思い出します。最近学会で「冥王星」を惑星から外すという大騒ぎがありましたが、ホルストの組曲「惑星」には「冥王星」は入っていません。そのホルスト作曲の「アヴェ・マリア」ですが、世の中には数えきれないほどたくさんの「アヴェ・マリア」があります。「リトルキャロル」が、何故あえてシューベルトやグノーといった有名な曲ではなくホルストの「アヴェ・マリア」を選んだのか、個人的にとても不思議でした。歌うのには複雑で大変難しい曲ですし。選択した理由を尋ねてみると、答えは頼もしいものでした。この曲のもつ難しさに、あえて挑戦したのだそうです。アルバムではかなりの人数で歌っているように聴こえますが、実際は僅か26人で歌ったときいて驚きました。「自分たちでどこまで表現できるか」大変悩んだり、苦労したとか。そんな裏話が信じられないほど美しく歌いあげています。八声部の構成による合唱という難しい曲なので、久石譲の指揮により歌っています。どんな大ベテランの合唱団でも、この曲を指揮者無しで演奏するのは難題でしょう。

8曲目の「God rest ye merry gentlemen」は、日本では賛美歌第二篇128番「世のひと忘るな」という題名のほうが分かりやすいかもしれません。イギリスの伝承曲とされていますが、古くからの歌詞や旋律を今日の形に編集したのは、1867年John Stainerによるものと言われています。イギリスの聖歌隊のクリスマス・アルバムには、よく取り入れられています。(「God rest you merry, gentlemen」という表記が正しい、とする説もあります)

9曲目の「Angels we have heard on high」は、日本では賛美歌106番「荒ら野の果てに」として知られていますが、同名の曲がふたつあります。もちろん「荒ら野の果てに」のほうが世界的に有名です。本来はフランスの古いキャロル「Les anges dans nos campagnes」ですが、表記の英題も知られています。歌の中で繰り返される印象的な「グローリア、イン・エクセルシス・デオ…」という言葉は「いと高きところに神の栄光あれ」という意味です。

10曲目の「Prayer of St.Francis」は、日本では「聖者フランシスコの祈り」と題されています。「アッシジの聖者フランシスコ」の話は有名ですね。この曲は彼自身の手によって書き下ろされたものではなく、彼の生き方とその精神を映した祈りの言葉と解釈しましょう。平和への祈りの歌としてキリスト教信者には知られている曲ですが、一般的にはさほど有名ではないが…と、また不思議に思い選曲理由を尋ねました。答えは「イギリスのダイアナ妃の葬儀の時に歌われていて印象に残った」のだそうです。ダイアナ妃の葬儀のときは、アビー聖歌隊によっていろいろな曲が歌われましたが、私は「I vow to thee my country」やパーセル作曲の「我らの心の秘密をご存知の主よ(メリア女王の葬送の音楽より)」くらいしか覚えていません。葬儀の時のダイアナ妃に贈った歌と考えると「Prayer of St.Francis」の優しく柔らかな旋律は、かえって哀しさが心に広がってきます。

11曲目の「Deck the Hall」は賛美歌第二篇129番「ひいらぎ飾ろう」という題名で、「荒ら野の果てに」や「もろびとこぞりて」などと同様に親しまれている賛美歌ですね。楽しい旋律どおりに、歌詞も「ひいらぎを飾ろうファララ…晴れ着を着てファララ…聖歌を歌おうファララ…」という子供たちの可愛いキャロルです。

12曲目の「ジングル・ベル」は、解説の必要はないほど世界中に知れ渡っているクリスマスを代表する1曲です。アメリカのボストンの教会の牧師J・ピアポイントが作詞した曲で当時の題名は「One horse open sleigh」だったとか。その後この歌が評判を呼び、題名も「ジングル・ベル」と変わったそうです。…といった背景よりも「リトルキャロル」の歌を聴くと分かるとおり、よく耳にするリズミカルな「ジングル・ベル」ではなく、導入部は聖歌のように優しく始まり、中間部には元気いっぱい「雪やこんこ」の旋律を背後に入れて楽しく歌っています。編曲(南安雄)の面白さを楽しみましょう。

13曲目の「すばらしいなクリスマス」は原題を「The wonderful world of Christmas」といい、1971年に制作されたエルビス・プレスリーのアルバムに入っていることが有名です。もちろんルイ・アームストロングほか様々な歌手も歌っていますが、何故かこの歌というと「エルビスが歌った」ことで知れ渡っています。今回は歌詞を日本語で歌っていますので、あらためて内容を説明する必要もないでしょう。

14曲目の「When Christmas come to town」は、映画「ポーラー・エクスプレス」のサウンドトラック曲の中のひとつです。映画は「パフォーマンス・キャプチャー」という独特のCGを使ったアニメーション作品で、原作は有名な絵本です。クリスマスをテーマにしたファンタジックな物語で、音楽もオリジナル曲とポピュラーなクリスマス・ソングが、合わせて効果的に使われています。「When Christmas come to town」はオリジナル曲ですが、映画を見た方は「この曲が一番好き!」とよく言います。「リトルキャロル」の洗練されたソロ+合唱による歌と、映画の子供たちの歌はイメージは違いますが、物語性のある美しい旋律から受ける感動は同じものでしょう。

15曲目の「ホワイトナイト(久石譲作曲/Sayaka&Mitsuko作詞)」はオリジナルのクリスマス曲です。久石譲の有名なアルバム「PIANO STORIES II」の中の8番目の曲「White Night」にリトルキャロルのメンバーが歌詞をつけたものですね。終始静かで優しく、もともとキャロルか賛美歌か…?と思うほどの透明感は、旋律に良く合った日本語歌詞から受ける印象かもしれません。

(文中敬称略)

増山法恵【児童合唱評論家/作家】

(曲目解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

Profile

「天使の声楽隊」、「究極の癒し」。
リトルキャロルは、1996年、元東京放送児童合唱団(現NHK東京児童合唱団)のメンバーによって結成された女性コーラスグループ。現在30名のメンバーで構成され、児童合唱でも女声合唱でもなく、またゴスペルでもない、ポップスとクラシックが融合した独自の世界観を築きあげている。2005年の久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラのコンサート「12月の恋人たち」や、1998年から2005年までの間、毎年12月23日に行われる日本ユニセフ協会主催のチャリティーイベント「ハンド・イン・ハンド」に出演。その他でも、2006年10月4日に発売の久石譲のニューアルバム「Asian X.T.C.」収録曲「Venuses」(カネボウホームプロダクツ「いち髪」CM曲)に参加、子どもでも大人でもない神秘的な歌声で表現している。そして、2006年12月20日には、東京オペラシティ コンサートホールにてクリスマスコンサートを開催予定。

(プロフィール ~CDライナーノーツより)

 

 

 

リトルキャロル

1.Carol of the bells
2.We wish you a Merry Christmas
3.クリスマス
4.The Christmas Song~Chestnuts roasting on an open fire
5.White Christmas
6.Zither Carol
7.Ave Maria
8.God rest ye merry gentlemen
9.Angels we have heard on high~Hark! The herald angels sing
10.Prayer of St.Francis
11.Deck the Hall
12.ジングル・ベル
13.すばらしいなクリスマス
14.When Christmas comes to town
15.ホワイトナイト

All Performed & Produced by Little Carol

Conducted by Joe Hisaishi (M-1,7)

Recorded at Wonder Station

「ホワイトナイト」
Words:Sayaka & Mitsuko (Little Carol) Music:Joe Hisaishi
Arranged by Chieko Matsunami

 

Info. 2006/10/20 メディア情報 雑誌・CM・TV

[雑誌]
・キネマ旬報  10月5日&10月20日発売号
 「サントラ ハウス」コーナー内にて、前編、後編と2号に渡り久石譲のインタビューを掲載。

・シネコンウォーカー 10月7日発刊号
全国40箇所のシネコン(シネプレックス、ユナイテッド・シネマ、チネチッタ、イクスピアリ、シネマサンシャイン、シネマシティ)にて配布中のフリーペーパーに久石が登場します! “Info. 2006/10/20 メディア情報 雑誌・CM・TV” の続きを読む

Disc. 久石譲 『トンマッコルへようこそ オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『トンマッコルへようこそ オリジナル・サウンドトラック』

2006年10月4日 CD発売 UPCI-1052

 

2005年公開 映画「トンマッコルへようこそ」
(原題:Welcome to Dongmakgol)
監督:PARK Kwang-hyun パク・クァンヒョン 音楽:久石譲

日本公開日:2006年10月28日

 

久石にとって初めて手がけた韓国映画となる本作で日本人として初となる第四回大韓民国映画大賞最優秀音楽賞を受賞。もちろん日本人としては史上初の快挙。さらに、韓国のアカデミー賞ともいわれている権威ある映画賞である大鐘賞でも最優秀音楽賞にノミネートされた。

 

 

対談:パク・クァンヒョン監督 × 久石譲

2005年の韓国映画界で最大の収穫になった『トンマッコルへようこそ』。神に祝福されたような成功ぶりだが、実は製作時点では問題が山積し、公開されるまでは”呪われたプロジェクト”とさえ陰で呼ばれていたという。監督自身、3年におよぶ製作のどの段階でも苦労が絶えず、何度も「もうあきらめたい」と思った、と語る。だが、それほどの難産だったデビュー作で、音楽監督を久石譲が引き受けてくれたことは、何よりの奇跡だった。2人のコラボレーションの成果は、完成作品が何よりも証明している。久しぶりに再会する2人の嬉しそうな笑顔、つきない話に、周囲の空気まで温かで穏やかなオーラに満たされた。

 

パク・クァンヒョン:
大学時代から久石先生の音楽の大ファンでした。『菊次郎の夏』の美しい旋律も、『ソナチネ』のエネルギーに満ちた音楽も、もちろん宮崎駿作品の音楽も、本当に心酔しています。最初にお会いしたときはファン丸出しで、持っているCDすべてにサインしてもらいました(笑)。すごく緊張して行ったのですが、とても優しい笑顔で迎えてくださって、そのことにまた感動しました。一瞬、目の前にいる人が本当の巨匠であることを忘れてしまうほど、心優しい笑顔だったんです。

久石譲:
僕がまず思ったのは、「俳優になってもいいぐらいかっこよくて若い人だ」でした(笑)。でも、いざこの作品のビジョンを話し出すと、止まらない。細部にいたるまで明快なアイディアを持っている。これぐらい強い思いを持っている作品なら絶対にいい映画になると確信しました。それに、監督も新人だし、スタッフもみんな若いと聞いて、それなら予定調和な作業ではなく、エネルギーに溢れた現場になるだろうというワクワクする期待感も持ちました。

パク・クァンヒョン:
今回一緒に作業してわかったんですが、どうやら私たちはどちらもビジネス感覚に欠けていて(笑)、確か事前の打ち合わせでは、「だいたい17曲ぐらいでしょう」ということだったはずですが、やっていくうちに曲数がどんどん増えていきました。久石先生が「ここにも曲をつけようか」とおっしゃって、私も「いいですね」と答える、そんなやりとりをしていくうち、結果的に34曲になりました。最初はオーケストラも小規模なものを考えていましたが、先生が70人編成にしたいと提案してくださったんです。以前に宮崎作品のDVDの特典映像で、久石先生がオーケストラを指揮していて、それを宮崎監督が後ろに座って見ている場面がありました。それを見て以来、「宮崎監督みたいに後ろに座って久石先生が僕の映画のために指揮するところを見る」というのが夢の一つになったんです。目の前で久石先生が汗をかかれて何度もTシャツを着替えながら指揮しているところを眺めていたら、「ああ自分の夢が今かなっているんだ」と思って、鳥肌が立つほど感激しました。

久石譲:
映画は、どこに音楽を入れて、どこには入れないか、それを判断することも大事な作業です。この作品の場合、戦争の話ではありながらファンタジーの要素があるわけで、場面場面を引き立てたり雰囲気を伝えるために音楽を入れる場所を考えていったら、結果的に34曲になりました。オーケストラの規模にしても、作品の内容が要求したからですよ。これだけの話になるとスケール感も必要だし、より深い感情を表現するために二管編成は必然でした。重厚さ、弦の優しさがほしかったし、特殊な楽器を使うことで不思議感を出すことも狙いました。この作品の曲は、沖縄のスタジオに10日間ぐらいこもって集中してつくりました。毎日、海を眺めながら、真冬の戦闘シーンに曲をつけていたわけです(笑)。例えばチョウチョのシーンの旋律は、実は沖縄の音階を取り入れているんです。不思議な感じが出せて、いい効果になったと思います。

パク・クァンヒョン:
一方で、例えばイノシシのシーンは、原始的なリズムで力強いエネルギーを感じるとともに、胸が高鳴るような喜びの気持ちも表現されています。どの曲も大好きですが、どしゃ降りの雨の中ヨイルが自分の汚い靴下を脱いで少年兵の顔を拭う場面がひときわ好きです。胸に響くと同時に、気持ちがよくなります。本当に、音楽のおかげで作品全体に神秘性と深みが増しました。

久石譲:
イノシシのシーンは、実をいうとね、送られてきた映像を見たとき、てっきり未編集バージョンだろうって思ってたんですよ(笑)。スローモーションがずっと続く長いシーンだったから、きっと途中でノーマルスピードに変えて編集するんだろう、と。だけど、待てども待てども送られてこない。「送ったものが最終バージョンです」って言われて、正直なところぞっとしましたよ。これは大変だって。あそこが一番苦労しましたね。ところが、完成作品を見ると、監督の狙いがぴったり当たって、ものすごく力強いシーンになっていた。おかしかったのは、韓国での完成披露試写会で質問がイノシシのシーンに集中してしまって、俳優さんが「俺のことも聞いてくれよ」って(笑)。

パク・クァンヒョン:
チョン・ジェヨンさんですね。「自分は主役だと聞いていたのに、出来上がってみたら自分の場面は少なくて、イノシシやチョウチョのほうが目立ってるじゃないか」って、最初はちょっとスネてました(笑)。私が最後まで編集の判断に迷ったシーンが3つあって、イントロの部分とイノシシのシーン、それからラストの戦闘シーンでした。ずっと悩みつづけて、久石先生にもスケジュール的にずいぶんご迷惑をおかけしてしまいました。

久石譲:
確かに時間的にはきつかったけど、逆にいうと今回はそれ以外の部分での葛藤や摩擦がまったくなくて、心から気持ちよくできました。僕自身、韓国映画という初めての場にチャレンジして、自分の可能性を広げられたと思っています。監督やスタッフから、作る情熱がものすごく伝わってきて、気持ちが燃えました。

(取材・文 片岡真由美)

Blog. 映画『トンマッコルへようこそ』(2005) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

 

 

 

 

 

久石譲 『トンマッコルへようこそ オリジナル・サウンドトラック』

1. Welcome to Dongmakgol
2.Opening
3.Butterfly
4.トンマッコルの村
5.村への行進
6.N. Korea vs S. Korea
7.おばあちゃん
8.Love and Grande
9.対立
10.イノシシ
11.友情
12.ソリのワルツ
13.悲しい過去
14.バタフライの逆襲
15.アメリカ軍
16.Invasion
17.ヨイルの死
18.村人との別れと戦いへ
19.戦闘
20.男たちは…
21.Paradise

演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
Vocal:麻衣 / Mitsuko

 

Disc. 久石譲 『Asian X.T.C.』

久石譲 『 Asian X.T.C.』

2006年10月4日 CD発売 UPCI-1051

 

近年アジアでの活躍めざましい久石譲による”美しく官能的でポップなASIA”をテーマにした壮大なコンセプトのソロ・アルバム。

近年韓国・中国・香港に活動の幅を広げ特に韓国では日本人で初めて大韓民国映画大賞にて、最優秀音楽賞を受賞するなど活躍が目覚しい。演奏はイギリスのバラネスク・カルテットとの共演、ゲストで二胡奏者のジャン・ジェンホアが参加。

 

 

Asian X.T.C.

見事なまでの傑作!まずはこう断言してしまった方が久石譲のピアノをフィーチャーしたアルバムとしては『FREEDOM PIANO STORIES 4』以来1年9ヶ月ぶりになる最新作『Asian X.T.C.』の素晴しさを伝えるにはてっとり早い。

2005年に韓国でNo.1ヒットを記録し、久石譲が日本人初の最優秀音楽賞を受賞した韓国映画『トンマッコルへようこそ』をはじめとして、香港映画や中国映画の音楽を担当したことがきっかけで、アジアの中の日本を意識するようになった久石譲が「自分もアジアの人間として生きている現実を見つめ、自分の血の中にあるアジアとアジアへの気持ちを表現することから始めてみよう」と考えて作り上げた『Asian X.T.C.』。エレクトリック・シタールの音色が印象的なタイトル曲から、久石譲の作曲家・編曲家としての力量が遺憾なく発揮されている「Dawn of Asia」までの10曲は”アジアの官能”というアルバムのコンセプトを完璧に構築しているのである。

その全曲を作曲し、編曲し、ピアノを弾き、プロデュースしている久石譲という音楽家の恐るべき才能。ソロ・アルバムから映画音楽にCM音楽の制作、はたまた新日本フィルハーモニー交響楽団が結成した”新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ”の音楽監督としても仕事をし、自らのユニットでコンサート・ツアーも行うという旺盛な活動を続けている久石譲は、12年ぶりの著作『感動をつくれますか?』(角川書店 角川oneテーマ21)のはじめに、「僕は作曲家である。作曲家を、海外では”composer”と称する。音楽を構成する者という意味あいだ。この英語表現のほうが、僕のやっていることがわかりやすいと思う」と書いているが、まさに言い得て妙といった感じで『Asian X.T.C.』では見事に構成された音楽というものが何物にも勝る魅力があることを理屈抜きで実感できる。

と同時に、僕はプロフェッショナルな仕事の凄さというものをこのアルバムから多くの人に感じとって欲しいと思う。先の著作の中で「僕の根本的な考えは、より完成度の高い”良い音楽”を書くことだ」と言い切った久石譲は「優れたプロとは、継続して自分の表現をしていける人」とも書いているが、自分のスタンスをより明確にし、”様々な経験と知識を高度なテクニックを使って形にしたこのアルバムで久石譲は確実に新しい地平に達している。僕はそれを心から称賛した。

あとは、東京と横浜、そしてロンドンで国籍も様々な優れたミュージシャンがスタジオ入してレコーディングし、ミックスされたアルバムを聴いて自由にイマジネーションを飛翔させればいい。『Asian X.T.C.』には、このアルバムのために書き下ろされたオリジナル作品と、映画の主題曲やCM曲などが混在しているが、天賦の才を持った”composer”久石譲は、それらの作品を1本の映画のように完璧に構成している。

それは10のストーリーを持った、スクリーンのない映画とでも形容したらいいだろうか。その著作の中で「音楽も文学も映画なども、時間の経過のうえで成り立っているものは論理的構造を持っている」と書いている久石譲は、時空をも超えた、そんな音楽を作ることができる世界レベルの音楽家なのである。

 

陽side [Pop side]
001. Asian X.T.C.
アルバムのタイトル曲であり、オープニングを飾るにふさわしい曲。「僕は、この時代に生きている作曲家としての意味ある表現をしたい。ポップスもクラシックも、ジャズも民族音楽も、さまざまな音楽を踏まえ、ジャンルに捉われない中で、できるだけ今日性を表現していきたい」と著作の中で書いている久石譲ならではのメロディーと構造を持っており、心は確実にアジアのどこかに連れていかれる。その深さは美しい闇に続いている。

002. Welcome to Dongmakgol
敵対する兵士たちがトンマッコルの村人との交流を通して、戦うことをやめ、人種・国籍に関係なく笑顔になっていく様子を涙と笑い、そしてファンタジーの香りを豊かに描き、2005年の韓国映画界で最大のヒットになった『トンマッコルへようこそ』の主題曲が、DEPAPEPEをゲストに迎え、アコースティック・ギター2本とピアノの編成で編曲し直された。「舞台は韓国で、しかも冬のシーンにもかかわらず、あえて沖縄の音階を使ってみた」という久石譲の試みは見事に結実している。

003. Venuses
カネボウのシャンプー「いち髪」のCM曲。CMの15~30秒バージョンからこのバージョンに編曲し直される際にリトル・キャロルの民族風で無邪気な味のあるコーラスが加えられた。エレクトリック・シタールと中国楽器の古箏、それにピアノのフレーズがとても魅力のある不思議な綾を成している。分析不可能なアジアの美しい混沌…。

004. The Post Modern Life
世界的にその名を知られるアン・ホイ監督による今年公開予定の中国映画『叔母さんのポストモダン生活』の主題曲。久石譲は「老年期に差し掛かった女声の日常を描く、非常に現実的な話」が故に、「情緒を排除するために、わざと音域を広げたメロディーを書いた」と、その著作で明かしているが、メイン・テーマの最初で民族楽器を使い、それを後半でストリングスやピアノを絡めて融合させる方法論で、聴く者は夢の中にひきこまれていく。

005. A Chinese Tall Story
2005年の映画『A Chinese Tall Story』の主題曲で、基本的に人物に沿って音楽をつけるやり方をしない久石譲が「僕も必要に応じて人物につけることもある。例えば、香港映画『A Chinese Tall Story』のときは、西遊記をベースにしたCG満載の娯楽もので、ハリウッド映画のアジア版みたいなものだったから、あえてそうした。同時に”愛”というテーマがはっきりしていたので、全体をラブストーリーになるように音楽も構成した」と著作の中で書いているが、ピアノとジャン・ジェンホアの二胡、そしてストリングスが織り成すアンサンブルは涙が出そうになるほど美しく切ない。アジアの官能の闇につかまってしまいそうな感じになる。

006. Zai-Jian
アナログ・レコードの時代だとここでA面が終わることになる。久石譲はメロディアスな曲を並べて”陽side [Pop side]”とし、ミニマル色を強く打ち出した4曲を”陰side [Minimal side]”として、全体を構成しているが、このアルバム唯一のピアノ・ソロは”陽side”をしめくくるには実にふさわしい。タイトルは中国語で別れの時に使われる「さよなら、また」という意味。いつの間にか書かれて、タイトルも決まっていたというが、それも天才たる所以か。

陰side [Minimal side]
007. Asian Crisis
NHKの世界遺産コンサートに合わせ、フルオーケストラ楽曲として書き下ろされたものを、このアルバムのために再編曲した曲。久石譲は著作の中でフィリップ・グラスとマイケル・ナイマンをひきあいに出し「日本でミニマル・ミュージックのスタンスを取っていた僕もまた、映画音楽をつくっている。にもかかわらず、僕は現代クラシックでの作品を作ってきていない。もちろん僕の作ってきた音楽に、ミニマル的テイストはあちこちに入っている。だが、作品といえるものはない。今、作曲家として僕がやらなければならないテーマは何だろうかと思ったとき、そこが気になりだした。これは、今の僕のそうした心境を反映させた新しいスタイルの曲だ」と書いているが、その思いはまぎれもなくひとつの形になっている。

008. Hurly-Burly
4歳の頃からヴァイオリンを学び、国立音楽大学作曲科に入学した久石譲が最初に感化されたのが”ミニマル・ミュージック”で、出発点が現代音楽の作曲家だったということは、久石譲というアーティストの本質を理解する上では非常に重要なポイントだが、ミニマルをこれだけポップに表現できるアーティストはそう多くないだろう。6月7日に久石譲自身が主宰するレーベル、ワンダーランドレコードのベスト・セレクション『THE BEST COLLECTION』のライナーノーツにも書いたが、アメリカのフィリップ・グラス、イギリスのマイケル・ナイマンと久石譲は確実に横位置に並んでいる。

009. Monkey Forest
バリ島のウブドにあるストリートの名前をタイトルにした曲で、芸術家村としても知られるウブドがガムランの発祥地であることを考えると、様々なアイデアが練り込まれていることがよくわかる。バラネスク・カルテットとレコーディングすることを念頭に作られた曲で、このアルバムの中で、ボーナス・トラックとして収録された「Woman ~Next Stage~」を除いて一番最後にできたものだという。

010. Dawn of Asia
アルバム『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』や久石譲自らが監督した映画『Quartet』のサウンドトラックにも参加していたバラネスク・カルテットのヴァイオリンと二胡が同じメロディーを繰り返す曲で、官能的でスピード感のある仕上がりは、このアルバムのラストを見事にしめくくっている。わかりやすいメロディーと複雑なアンサンブルの融合のさせ方は久石譲の最も得意とするところであり、それは「僕の作曲家としての原点はミニマルであり、一方で僕を有名にしてくれた映画音楽では叙情的なメロディー作家であることを基本にした。ただそのいずれも決して新しい方法論ではない。全く別物の両者を融合することで、本当の意味でも久石独自の音楽を確立できると思う。ミニマル的な、わずか数小節の短いフレーズの中で、人の心を捉える旋律を表現できないか…」という言葉がフラッシュバックしてきた。

2006年8月 立川直樹

(解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

 

Asian X.T.C.
亜細亜は矛盾する2つのものを受け入れる。それは僕たち一人一人の中にある2面性を肯定しているようだ。例えば善と悪、両方あるからこそ世界は成立する。そんな考え方が僕は好きだ。

●陽side (Pop side)

001. Asian X.T.C.
Piano:Joe Hisaishi / E.Stiar, Guzheng, Dizi, Pecussion, Bass, Strings
ヘルマン・ヘッセの「シッダールタ」を読んだ。西洋人のフィルターを通したとしてもそこに描かれている東洋思想の世界は官能的ですらある。悟りはエクスタシーかもしれない。それを探しに?僕は亜細亜に旅立った。

002. Welcome to Dongmakgol
Piano:Joe Hisaishi / A.Guitar:DEPAPEPE / Percussion
ハングル文字の看板が立ち並ぶ路地裏の小さな店で50歳酒を飲んだ。焼酎の眞露と薬草酒の100歳酒を割ったものだが、これがいい。酩酊しながらふと考えた、ソウル(Seoul)というスペルはSoul(魂)ではないかと。

003. Venuses
Piano:Joe Hisaishi / E.Sitar, Guzheng, Percussion, Dizi, Bass, Chorus, Strings
バリ島の海岸を歩いていたとき乳房も露に波と戯れている若い女性たちを見た。夕日に照らされたそのシルエットは僕の脳裏に焼き付いた。

004. The Post Modern Life
Piano:Joe Hisaishi / Violin, Cello, A.Guitar, Guzheng, Erhu, Dizi, Percussion, Bass
紫禁城は大きすぎる。こんなところで暮らしたら寂しくて人恋しくなって死んでしまうと思いながら外の広場に出たら人、人、人で溢れていた。孤独なんて黄砂の中で霞んでしまった。

005. A Chinese Tall Story
Piano:Joe Hisaishi / Erhu, Strings
香港の渡し船(フェリー)から見る夕日は美しい。九龍の島影が波間に揺れる。哀しい昨日と希望の明日が一瞬交差した。でもそんな想いは強い海風がビールの泡とともにデッキから吹き飛ばしてしまった。

006. Zai-Jian
Piano:Joe Hisaishi
上海は亜細亜そのものだ。運河を挟んでモダンな高層ビルと混沌の旧市街が対峙する。でもその両方があるからこそ街は活きている。運河を渡る風に乗せて僕はピアノを弾いた。

●陰side (Minimal side)

007. Asian Crisis
Piano:Joe Hisaishi / Strings:The Balanescu Quartet / Sax, Marimba & Vibraphone, Percussion, Guzheng, Erhu, Oboe & Zurna, Bass
長い間封印していたことがある。青春の蹉跌の中で措いて来たものに立ち向かうほど僕は強くなれたのだろうか?

008. Hurly-Burly
Piano:Joe Hisaishi / Strings:The Balanescu Quartet / Sax, Percussion, Marimba, Bass
台北の雑踏はエナジーに満ち溢れている。富と貧、老若、病と健康、喜びや悲しみ、笑い泣き、怒鳴り合う人々の顔は生命そのものだ。目の前を50ccのバイクが通り過ぎた。そこにはX’masツリーのように6人の子供を乗せたお父さんの逞しい姿があった。

009. Monkey Forest
Piano:Joe Hisaishi / Strings:The Balanescue Quartet
モンキーフォレスト通りを歩いていたとき天が裂けたとしか思えないほどの雨が降り注いだ。軒先の濡れたみやげ品を何事もなかったかのように片付けている少女を見て僕は意味のない傘を捨てた。

010. Dawn of Asia
Piano:Joe Hisaishi / Strings:The Balanescu Quartet / Sax, Percussion, Marimba, Guzheng, Erhu, Bass
亜細亜の夜明けは神秘的だ。まるで山水画のようなモノトーンから赤や黄色や緑の剥き出しの陽中に変貌していく。その力の前に人間なんて小さいものだと気づく。いい日もあれば落ち込む日もある。善と悪もミジンコも宇宙もすべては僕の中にあり、外にある。また新しい夜明け(Dawn)が始まる。

注)アルバムでは昔のLPのようにA(陽)面、B(陰)面に分けてその2面性を表現した。

文・久石譲

(楽曲解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

 

アジア趣向の中にきらめく新たな「久石譲」のかたち
~New Album「Asian X.T.C.」をめぐって~

アジアをテーマに制作した最新アルバム「Asian X.T.C.」は、単にアジア風味が効いたポップス作品集に終わらず、そのままズバリ、久石譲という作曲家の現在を映す鏡となった。その一つの証左となるのがミニマル技法への回帰である。毅然と「今の僕は過渡期だ」と言い切るその表情には、作曲家として完成すること=巨匠への道を避け、新たな可能性を追い求める最前線の戦士としてのさわやかな野心がみなぎる。

「リセットしたというのかな。原点に戻るというよりも、らせんのように描いていって、その先でもう一回遭遇したような感じだね。ミニマルをベースにやってきた経験とポップスをやって培ったリズム感、単純にいうならノリ、グルーヴ感。それが両方きちんと息づいたところでの自分にしかできない曲。それを書いていこうと決心がついた最初のアルバムが『Asian X.T.C.』なんです」

アジアというテーマも伊達ではない。「美しく官能的でポップなアジア」と銘打たれたそこには、同時に深遠な東洋思想への共鳴があった。

「アジアって善と悪が共存していて、悪はダメっていう発想がない。人間が持っている二面性も決めなくていい、両方持っているのが自分なんだと。この考えにたどり着いたとき、やっとアルバムの方向が見えたんだね」

その「決心」はアルバム構成に具体的に集約された。映画やCM曲の楽曲群(陽サイド)と、ミニマル・ベースの楽曲群(陰サイド)がそれぞれ別個に固められて前後に並んでいる。まるでLPレコードの表裏を連想させる「二面性」をあえて1枚のディスクの中で訴えているのだ。統合性や平衡感覚に囚われず、はっきり違ったものがザクっと並んでいてもいいではないか。そんな力強い作曲者の声が、手に取るように伝わる。

「曲を書き終えたあとに初めて構成が決められたんです。とりあえず今、自分がやれることはこれなんだと。その決断ですね」

アルバムの詳細に今少し踏み込むなら、全11曲を収めたアルバムには、韓国映画「トンマッコルへようこそ」、中国映画「叔母さんのポストモダン生活」、香港映画「A Chinese Tall Story」の主題曲が盛り込まれており、最近目覚ましいアジア圏での作曲者の活動が簡潔に伝えられている。ピアノは久石自身が担当し、ゲストにバラネスク・カルテット、ギター・デュオのDEPAPEPEが連なり、二胡、古箏などの中国楽器も加わる。テーマに掲げられた「ポップ」とは要は「かっこいいこと」に通じ、「官能的」とはバリ島で刺激を受けたという闇、その体験談に顕著な「神秘性=ゾクゾク感」という表現に換言することができるだろう。音色といい、発想といい、整然とした世界がそこに広がる。

「僕は論理性を重んじて曲を書いています。でも、音楽ってそれだけでは通じない。直接脳に行っちゃう良さが歴然とあるわけだし、それは大事にしないといけない。そこまで行かないと作品にはならないね」

これまた今回のテーマを地でいく声として注目してよく、要するに感性と論理性の拮抗こそが作曲家・久石譲の本質であり、この二面性を正面から引き受けなければいけないという意識において、実のところ従来と変わらぬ野心と探究心の表れでもあろう。

アジアへの展望を通して、久石譲は新たな出発ちのときを迎えた。

取材・文=賀来タクト

「Piano Stories 2006 Joe Hisaishi Asian X.T.C.」コンサート・パンフレット より)

 

 

 

「一つは、最近、韓国、中国、香港から映画音楽の依頼が続いていて、自然とアジアを感じる機会が増えたこと。もう一つは、作曲家として今後、何を書いていこうかと考えているなかで、原点に戻ろうという気持ちが高まってきたことにある。僕にとっての原点は、現代音楽の一つであるミニマル・ミュージック。フィリップ・グラスやマイケル・ナイマンといったミニマル音楽家は、映画音楽も手がけながら、自分の作品を作り続けているが、僕は彼らと違って、ミニマルの作品をほとんど作ってこなかった。だけど、そろそろ原点に戻って、ミニマルの作品を書きたいという思いが強くなってきた。そこで、グラスともナイマンとも違う僕の世界は何かと考えているうちに、自分がアジア人だということに行き着いた。」

「30歳の時、もはやクラシックとなってしまった現代音楽に限界を感じて、ポップスの分野でやっていこうと決意した時から、ずっと距離を置いてきた。もちろん、自分の中に脈々とあるものだから、これまでも映画音楽などにはミニマル的な要素は入ってきたけど、作品として取り組もうとは思わなかった。それが昨年、「WORKSIII」というアルバムで、ミニマル色の強い「DEAD」という組曲を作ったあたりから、押さえきれないものが沸いてきていることに気がついた。」

Info. 2006/09/12 ヨミウリオンライン「ミニマルとアジアで原点回帰 久石譲に聞く」掲載 より抜粋)

 

 

「それはね、一つ正しい。そのとおりだと思う。たぶん、いちばんつらかった時期は、4、5年前くらいから一昨年くらいの間かな。あのまま行ったら巨匠の道を歩んでいたと思うし、実際歩みつつあった。特に『FREEDOM PIANO STORIES 4』というアルバムの頃はそっちに行きそうな悪い予感がしてた。それが『WORKS III』っていうアルバムを作ったときに組曲の『DEAD』を完成させたでしょう。あのときに自分が何をやりたいのか、非常に明快に思ったことが一個あって、それは要するに”作品を書きたい”ってこと。もうすごく単純に。アメリカのフィリップ・グラス、イギリスのマイケル・ナイマン、どちらもミニマルの作家で、映画の音楽も書いているでしょう。そんな彼らと僕の大きな違いって何かというと”作品”を書いていないことなんですね。作家としていい曲を書いて売れることはもちろん大事。でも、それだけでは生きていたくない自分というのも確かにいる。やっぱり”作品”を書くことなんだね。それを考えたときに、いわゆる巨匠の道はやめたんです」

Blog. 「キネマ旬報 2006年10月下旬号 No.1469」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「アジア人のミニマリストっていないとマズイんですよ。いるべきだと僕は思う。それを誰がこの時代で担うのかといったら、僕しかいないだろうと。グラスって東洋思想に刺激を受けてやっていたけれど、それって形式からの脱却を考えてあがいた結果、東洋に目を向けたわけだよね。でも、そういうふうに目を向けられている肝心のアジアから誰も育たないというのは変ですよ。で、考えてみたら、僕のベースはアジアで、端からそういうものが血の中にある。ミニマルが原点だった自分がやっぱりきちんとやらないといけないだろうと。アジアをテーマにするというのも、その意味で必然性があったわけ。ミニマルに戻るってことと、アジアに目を向けることは同じ延長線上にあるんです」

Blog. 「キネマ旬報 2006年11月上旬号 No.1470」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「例えばフィリップ・グラスは東洋思想に刺激を受けて作品を作っていましたが、その対象となったアジアから誰も育たないというのは変でしょ。アジア人のミニマリストが、ちゃんといるべきじゃないか。じゃ、それを誰が担うのかといえば、アジアがベースにあって、そのうえミニマルを原点に持っている僕しかいないだろうと」

「ミニマルをベースにやってきた経験と、ポップスで培ったリズム感、単純に言えばノリ、グルーヴ。それが両方きちんと息づいたところでの、自分にしかできない曲。それを書いていこうと決心がついた最初のアルバムです」

Blog. 「Invitation インビテーション 2006年11月号 No.45」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「ガムラン、ケチャの発祥の地、バリ島のウブドゥは世界で最も好きな場所の一つである。だから《モンキー・フォレスト》という曲まで作っている(ケチャのことをモンキーダンスともいうことがある)。突然降りだす激しい雨は文字通りバケツをひっくり返したようであり、夜の闇は本当に漆黒なのである。食べ物はおいしく、人々の笑みには謎があり……まさにストレンジャー・ザン・ウブドゥなのだ。」

Blog. 「クラシック プレミアム 15 ~ベートーヴェン3~」(CDマガジン) レビュー より抜粋)

 

 

「(笑)最後に入っている「Dawn of Asia」ができた時に、「このアルバムがつくれるぞ」という確信がもてたんですね。で、結果的にこのアルバムのなかでいちばん実験して、最も大切にしているのが「Monkey Forest」という曲かな。」

「「Dawn of Asia」が最初にできて、「Monkey Forest」が…最後のほうかな。」

Blog. 「LUCi ルーシィ 2007年4月号」久石譲×SHIHO 対談内容 より抜粋)

 

 

 

 

「Venuses」(カネボウ「いち髪」CMソング)は、CM Original versionはすべてシンセサイザーによる音色となっている。本作品に収録版はバラネスク・カルテットによる弦楽合奏となっており、大きくアレンジが異なるわけではないが、CM版と響きは異なる。その他リズムパーカッションもCM版のほうが前面に出ており、CMという短い時間でのインパクトに一役かっている。

 

 

 

久石譲 『 Asina X.T.C.』

●陽side (Pop side)
1. Asian X.T.C.
2. Welcome to Dongmakgol (韓国映画「トンマッコルへようこそ」主題曲)
3. Venuses (カネボウ「いち髪」CMソング)
4. The Post Modern Life (中国映画「おばさんのポストモダン生活」主題曲)
5. A Chinese Tall Story (香港映画「A Chinese Tall Story」主題曲)
6. Zai-Jian
●陽side (Pop side)
7. Asian Crisis (NHK「名曲の旅・世界遺産コンサート」書き下ろし曲)
8. Hurly-Burly
9. Monkey Forest
10. Dawn of Asia
Bonus Track
11. Woman 〜Next Stage〜 (レリアンCMソング)

All Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Performed by The Balanescu Quartet , Jiang Jianhua , DEPAPEPE

M-11 Piano:Takehiko Yamada / Bandoneon:Koji Kyotani / Strings:Supeciosa Strings

Recorded at
Wonder Station (Tokyo)
Angel Studios (UK)
Landmark Studio (Yokohama)
Victor Studio (Tokyo)
Sony Music Studios Tokyo

Mixed at Lansdowne Studios (UK)

in BEIJIN アジアを探しに… 3.24~3.27
in LONDON レコーディング&TD 7.28~7.31 & 8.18~8.23

 

Score. 久石譲 「Asian X.T.C. -オリジナル・エディション-」 [ピアノ譜]

2006年10月4日 発行

久石譲による完全オリジナル版です。

美しく官能的でポップなASIAをテーマにしたソロ・アルバム「Asian X.T.C.」のオリジナルピアノ楽譜。カネボウシャンプー”いち髪”CM曲の「Venuses」、韓国映画『トンマッコルへようこそ』主題歌「Welcome to Dongmakgol」、中国映画『叔母さんのポストモダン生活』主題歌、NHK「世界遺産コンサート」テーマソングなど、全10曲を所収。

(メーカー・インフォメーションより)

 

 

昨年から「Welcome to Dongmakgol」(韓国映画)、「A Chinese Tall Story」(香港映画)、「The Post Modern Life of My Aunt」(中国映画)と、近隣諸国との仕事が立て続いたことから、『アジア』の中の日本を次第に意識するようになり、また自然な流れとして『アジア』が今回の新しいソロ・アルバム「Asian X.T.C.」のコンセプトになった。東洋と西洋の楽器が交じり合い、『アジア』のかっこよさ(官能的な部分)を表現したいという気持ちでこのアルバムを作った。

この楽譜は、楽曲のメロディーを引き立たせるようなアレンジを意識し、出来る限り多くの皆さんに弾いていただけるようにした。演奏することを通してアルバム「Asian X.T.C.」の世界観をより堪能していただけたら幸せだ。

2006年10月 久石譲

(「Asian X.T.C. -オリジナル・エディション-」 寄稿より)

 

 

Asian X.T.C.
亜細亜は矛盾する2つのものを受け入れる。それは僕たち一人一人の中にある2面性を肯定しているようだ。例えば善と悪、両方あるからこそ世界は成立する。そんな考え方が僕は好きだ。

●陽side (Pop side)

001. Asian X.T.C.
ヘルマン・ヘッセの「シッダールタ」を読んだ。西洋人のフィルターを通したとしてもそこに描かれている東洋思想の世界は官能的ですらある。悟りはエクスタシーかもしれない。それを探しに?僕は亜細亜に旅立った。

002. Welcome to Dongmakgol
ハングル文字の看板が立ち並ぶ路地裏の小さな店で50歳酒を飲んだ。焼酎の眞露と薬草酒の100歳酒を割ったものだが、これがいい。酩酊しながらふと考えた、ソウル(Seoul)というスペルはSoul(魂)ではないかと。

003. Venuses
バリ島の海岸を歩いていたとき乳房も露に波と戯れている若い女性たちを見た。夕日に照らされたそのシルエットは僕の脳裏に焼き付いた。

004. The Post Modern Life
紫禁城は大きすぎる。こんなところで暮らしたら寂しくて人恋しくなって死んでしまうと思いながら外の広場に出たら人、人、人で溢れていた。孤独なんて黄砂の中で霞んでしまった。

005. A Chinese Tall Story
香港の渡し船(フェリー)から見る夕日は美しい。九龍の島影が波間に揺れる。哀しい昨日と希望の明日が一瞬交差した。でもそんな想いは強い海風がビールの泡とともにデッキから吹き飛ばしてしまった。

006. Zai-Jian
上海は亜細亜そのものだ。運河を挟んでモダンな高層ビルと混沌の旧市街が対峙する。でもその両方があるからこそ街は活きている。運河を渡る風に乗せて僕はピアノを弾いた。

●陰side (Minimal side)

007. Asian Crisis
長い間封印していたことがある。青春の蹉跌の中で措いて来たものに立ち向かうほど僕は強くなれたのだろうか?

008. Hurly-Burly
台北の雑踏はエナジーに満ち溢れている。富と貧、老若、病と健康、喜びや悲しみ、笑い泣き、怒鳴り合う人々の顔は生命そのものだ。目の前を50ccのバイクが通り過ぎた。そこにはX’masツリーのように6人の子供を乗せたお父さんの逞しい姿があった。

009. Monkey Forest
モンキーフォレスト通りを歩いていたとき天が裂けたとしか思えないほどの雨が降り注いだ。軒先の濡れたみやげ品を何事もなかったかのように片付けている少女を見て僕は意味のない傘を捨てた。

010. Dawn of Asia
亜細亜の夜明けは神秘的だ。まるで山水画のようなモノトーンから赤や黄色や緑の剥き出しの陽中に変貌していく。その力の前に人間なんて小さいものだと気づく。いい日もあれば落ち込む日もある。善と悪もミジンコも宇宙もすべては僕の中にあり、外にある。また新しい夜明け(Dawn)が始まる。

注)アルバムでは昔のLPのようにA(陽)面、B(陰)面に分けてその2面性を表現した。

文・久石譲

(「Asian X.T.C. -オリジナル・エディション-」楽譜 より)

 

 

Joe Hisaishi ”Asian X.T.C.”
ORIGINAL EDITION

[収録曲]
Asian X.T.C.
Welcome to Dongmakgol (韓国映画「トンマッコルへようこそ」主題曲)
Venuses (カネボウ「いち髪」CMソング)
The Post Modern Life (中国映画「おばさんのポストモダン生活」主題曲)
A Chinese Tall Story (香港映画「A Chinese Tall Story」主題曲)
Zai-Jian
Asian Crisis (NHK「名曲の旅・世界遺産コンサート」書き下ろし曲)
Hurly-Burly
Monkey Forest
Dawn of Asia

監修:株式会社ワンダーシティ
菊倍判/96頁
定価:1,800円+税
発行:株式会社全音楽譜出版社

 

 

◎音源は久石譲『Asian X.T.C.』に収録されています。

久石譲 『 Asian X.T.C.』

 

Disc. 久石譲 『HISAISHI meets MIYAZAKI Films』

2006年9月25日 CD発売 399 055-2 (FR) ※輸入盤  (2006年7月21日)
2008年4月8日 CD発売 M2-36354 (US)
2014年12月8日 CD発売 399 613-2 (FR)

 

スタジオジブリ宮崎駿監督作品からのコンパイル。日本国内盤で既出の複数のCDアルバムからセレクトされたもの。

なお、LP盤もリリースされているが、SIDE-A「もののけ姫」より、SIDE-B「千と千尋の神隠し」より「紅の豚」よりが収録されている。(「風の谷のナウシカ」よりは未収録)

 

 

 

NAUSICAA OF THE VALLEY OF THE WINDS
Nausicaä Symphonic Poem
1. First Movement
2. Second Movement
3. Third Movement

PORCO ROSSO
4. Madness

PRINCESS MONONOKE
5. The Legend of Ashitaka
6. Princess Mononoke Theme Song
7. TA.TA.RI.GAMI
8. Ashitaka and San

SPIRITED AWAY
9. One Summer’s Day
10. The Dragon Boy / The Bottomless Pit
11. The Sixth Station
12. Reprise

All Composed, arranged and produced by Joe Hisaishi

Track 1,2,3 and 4
from WORKS I

Track 5,6,7,8
from WORKS II

Track 9,10,11,12
from SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001

 

Info. 2006/09/12 ヨミウリオンライン「ミニマルとアジアで原点回帰 久石譲に聞く」掲載

ミニマルとアジアで原点回帰 久石譲に聞く

久石 譲(ひさいし じょう)

1950年、長野県生まれ。国立音楽大学在学中から、現代音楽の作曲家として活動を開始。84年に「風の谷のナウシカ」で宮崎駿監督と初タッグ。以降、宮崎作品を中心に、数々の映画音楽を手がける

音楽家の久石譲が新アルバム「Asian X.T.C.」を10月4日に出す。カネボウ「いち髪」のCM曲としてオンエア中の「Venuses」をはじめ、アジアをテーマに11曲を収録した。アルバム制作にかけた思いを聞いた。(依田謙一) “Info. 2006/09/12 ヨミウリオンライン「ミニマルとアジアで原点回帰 久石譲に聞く」掲載” の続きを読む