Disc. 久石譲 『世界の約束 / 人生のメリーゴーランド』

久石譲 『ハウルの動く城 主題歌 世界の約束』

2004年10月27日 CDS発売 TKCA-72774

 

2004年公開 スタジオジブリ作品 映画「ハウルの動く城」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲 主題歌:倍賞千恵子

 

 

本作品に収録されている「人生のメリーゴーランド」は、「ハウルの動く城 サウンドトラック」に収録のものと、尺(パート構成/繰り返し)などが異なる。サウンドトラック未収録versionとなる。

 

 

久石譲 『ハウルの動く城 主題歌 世界の約束』

1. 主題歌:世界の約束 歌:倍賞千恵子
2. テーマ:人生のメリーゴーランド (インストゥルメンタル)
3. 世界の約束 (オリジナルカラオケ)

「世界の約束」
作詞:谷川俊太郎 作曲:木村弓 編曲:久石譲

プロデュース:久石譲

ジャケット監修:宮崎駿

 

インタビュー:「ハウル」に通じる「Freedom」

連載 ハウルの動く城 久石譲

連載 久石譲が挑む「ハウル」の動く音 (読売新聞)
インタビュー:「ハウル」に通じる「Freedom」

作曲家でピアニストの久石譲によるコンサートツアー「Freedom」が、11月3日から29日まで全国各地で行われる。カナダの女性弦楽アンサンブル、アンジェル・デュボー&ラ・ピエタとの共演だ。コンサートへの意気込みを聞いた。(依田謙一)

—ツアータイトルを「Freedom」とした理由は。

久石 制作中のソロアルバム(10月発売予定だったが1月に延期)と共通のタイトルにしようと思っているところから話したい。今、自分自身が日常にがんじがらめになっていて、強い閉塞感を感じている。これは、この国に生きている皆が感じていることじゃないかと思う。夢は夢として実現しないものになっていて、最初から手の届く範囲で納得しないとやっていけなくなっている。

—前アルバム「ETUDE」は、収録曲「a Wish to the Moon」に代表されるように「夢はいつかかなう」というテーマでしたが。

久石 もちろんそれは今でも大切だと思っているが、まず自分自身が作ってしまっている束縛から解放されないと、何も始まらないんじゃないかという思いが強い。何かを捨てるということではなく、ありのままの自分を受け入れることで生まれる自由があるんじゃないかと。そういうことをアルバムとツアーで伝えたい。

—テーマを代表する曲は。

久石 新アルバムのために「Ikaros」という曲を書いた。アルバムを象徴する曲になると思う。ツアーでも演奏するよ。タイトルありきで、まさにギリシャ神話に登場するイカロスのこと。ろうで固めた羽で飛んで海に落ちてしまった彼に対して、身のほど知らずだと言う人もいれば、自分の好きなようにして納得しているんだからいいじゃないかと言う人もいるだろう。40歳以上の人は前者が多いかも知れない。しかし、若い子たちはきっと後者なんじゃないかと思う。ただ、僕はどちらがいいということを言いたいわけじゃない。客観的に語りたいだけ。

—曲を聴いて自分がどういう人間か知る。

久石 人によって明るいと感じる人もいれば、暗いと感じる人もいるだろうね。反応が楽しみ。

—アンジェル・デュポー&ラ・ピエタと共演することになったきっかけは。

久石 彼女たちを知ったのは、「ハウルの動く城」が一段落して気分転換したいとハワイに行った時、偶然テレビで演奏していたのを聴いたんだ。すぐに「これだ!」と思った。まず、彼女たちの演奏スタイルにひかれた。真っ黒な衣装で、立ちながら激しく体を揺らして演奏している姿は、とても魅力的だった。ちょうど、ライブならでは迫力ある演奏をやりたいと思っていたから、彼女たちとなら、相当激しいステージができるんじゃないかと直感した。弦楽の編成がツアーでやりたいと想定していたものとほぼ同じだったことも、大きなポイントだった。それで、日本に帰ってコンタクトを取ったんだ。

—彼女たちの反応は。

久石 CDを送ったら気に入ってくれて、すぐに共演が決まったよ。最初はアルバムを先行して発売する予定だったから、日程面で迷惑をかけたけど、とても好意的に対応してくれている。

—セッションはすでに行った?

久石 実はまだ彼女たちの演奏を生で聴いていないんだ。でも、なぜか不安より楽しみが勝る。きっと音量は大きくて勢いがあるだろうという確信さえある。不思議だよね。彼女たちは全員女性だけど、女性だから音に迫力がないということはないんだ。去年、チェロ奏者たちとツアーを回ったけど、一番大きな音を出していたのは女性だった。音楽の世界は、「男だから」「女だから」ということがないのがいいところ。

—プログラムの構成は。

久石 今までなら後半に演奏しているような密度の高い曲を、前半に集中させようと思っている。精神的にはもちろん、体力的にも大変なものになるだろうね。

—「ハウル」の曲も演奏される?

久石 メインテーマ曲「人生のメリーゴーランド」は、新アレンジで演奏するよ。実は「Freedom」の考え方は「ハウル」に通じるところが多い。僕は何もこのツアーやアルバムで、自分や聴いてくれた人の心が自由になるなんて思わないし、相変わらず「人生のメリーゴーランド」なんだ。下がる時もあれば上がる時もある。でも大切なのは、自分を受け入れながら自由になりたいと思って生き続けるプロセスなんじゃないかな。「人生のメリーゴーランド」というタイトルは、宮崎駿監督が付けたものなんだけど、「ハウル」はまさにそういう映画だよね。

(2004年10月18日  読売新聞)

 

連載 ハウルの動く城 久石譲

 

Disc. 久石譲 『七子と七生 ~姉と弟になれる日~』 *Unreleased

2004年10月4日 TV放送

 

NHS BSハイビジョンドラマ 『七子と七生~姉と弟になれる日~』
原作:瀬尾まいこ 音楽:久石譲 出演:蒼井優 / 知念侑李 他

 

第59回芸術祭優秀賞受賞作品。上海テレビ祭審査員特別賞受賞作品。

人と交わることを拒み続けている多感な高校生の少女・七子が、父の違う弟との出会いと葛藤、そして母親との永遠の別れを通して、大人へと成長していく姿を詩情豊に描く。

 

2005年5月25日 DVD発売

2005年8月11日 NHK総合にて地上波初放送

 

 

本作品のサウンドトラックは未発売である。

全編をとおして印象的に流れるピアノによるメインテーマ。一度聴くと忘れられないとても印象的な切ないメロディである。他にもBGMとしていくつかメロディのある楽曲がピアノや弦楽器によって奏でられるものもあるが、多くはメロディをもたない楽曲が多い。ピアノ、ギター、シンセサイザーといった、アコースティックでシンプルな音楽構成となっている。

メインテーマはオープニングから流れ、物語の印象的なシーン、重要なシーンで繰り返される。またピッツィカートによる変奏など、メインテーマをモチーフとした楽曲も登場する。ピアノによるメインテーマが4-5回、ピッツィカートによるメインテーマ変奏が3-4回、これだけをとっても、いかにこの作品がメインテーマ1本おしなのかがわかる。それだけ繰り返させる旋律だけあって、観終わったあとに強烈に印象に残るのだ。

物語エンディング~エンドロールでは、ピアノによるメインテーマに、アコスティックギターが加わったバージョンが流れる。シンセサイザーも隠し味として使われているがリズム系はなくしっとりと聴かせている。

 

ピアノによるベスト・アルバム『ENCORE』に収録されていてもおかしくないそれほどの隠れた名曲である。※「ENCORE」(2002)なので、時系列上これは無理である

余談だが、雰囲気が近い楽曲といえば、「ENCORE」に収録された「はつ恋」メインテーマだろうか。もちろんメロディーも曲想も違うのだけれど、個人的には「はつ恋」よりもインパクトと切ない余韻が強い。

サウンドトラックも発売されていない、かつメインテーマ1曲としてもどのアルバムにも収録されていない、よって要望も多いピアノ譜なども発売されていない、そんな知る人ぞ知る名曲である。

いつかなにかのかたちで作品化されることを祈るばかりである。

 

 

七子と七生~姉と弟になれる日~

 

Disc. 久石譲 『THE GENERAL Original Motion Picture Soundtrack』

the general import

2004年9月23日 CD発売 8345106302 ※輸入盤

 

2004年 第57回カンヌ国際映画祭 上映
サイレント映画「THE GENERAL」(邦題:キートンの大列車追跡)
監督:バスター・キートン 音楽:久石譲

 

 

the general import

1.The two loves of Johnnie Gray
2.Enlisting
3.Abandoned
4.A Train as a Target
5.Love Kidnapped
6.Facing the Moving Cannon
7.Chase and Traps
8.A Smoking Train
9.Manoeuvres around Chattanooga
10.The Forest
11.Getting Together
12.A Fragile Load
13.The Mighty General
14.Train Chase I
15.Train Chase II
16.A Train Without a Master
17.The Trapped Bridge
18.Back to the South
19.River Side Fight
20.Finals Cannons Shoots
21.Heroes of the Day
22.The Ballade of Annabelle and Johnnie

Bonus Tracks:(compatible PC/MAC)
23.Trailers 《The General》

All Compositions by Joe Hisaishi

except title 22:
music by Joe Hisaishi, lyrics by Georges Moustaki, Sung by Anna Mouglalis

Performed by The Tokyo City Philharmonic Orchestra

Piano solo:Joe Hisaishi

Recording Studio:
Wonder Station
Avaco Criative Studio
Les Studios de la Seine (vocals)

 

Le Mecano de la General

1.Les deux amours de Johnnie Gray
2.Mobilisation
3.Abandonné
4.Un train pour cible
5.L’amour kidnappé
6.Face Au Cannon Mobile
7.Poursuite et obstacles
8.Train enfumé
9.Manoeuvres Autour De Chattanooga
10.La forêt
11.Les retrouvailles de Johnnie et Annabelle
12.Une marchandise délicate
13.La redoutable Général
14.Cavale Ferroviaire I
15.Cavale Ferroviaire II
16.Un train sans maître
17.Le pont piégé
18.Retour Au Sud
19.La Bataille de la Rivière
20.Derniers coups de Canon
21.Héros du jour
22.La ballade d’Annabelle et Johnnie

 

 

Info. 2004/08/29 [TV] BS朝日「ザ・スーパーシート」「久石譲&新日本フィルWorld Dream Orchestra」放映

すみだトリフォニーホールで行われたコンサートの模様がBS朝日で放映されることが決定しました。
久石さんの指揮やワールド・ドリーム・オーケストラの白熱の演奏を美しい画像でお楽しみ下さい。
コンサートに来られた方もまた新たな角度からお楽しみ頂けるはずです。

8月29日(日)
BS朝日
21:00~22:55
「ザ・スーパーシート」

 

Disc. 『宮崎駿プロデュースの1枚のCDは、こうして生まれた。』

2004年8月6日 DVD発売 VWDZ-8066

 

ジブリがいっぱいCOLLECTIONスペシャル
『宮崎駿プロデュースの1枚のCDは、こうして生まれた。』

 

「大人が聴く歌、大人が唄える歌が欲しい」

宮崎駿監督のそんな想いから、このCDアルバム 「お母さんの写真」 製作プロジェクトは動き始めました。友人、上條恒彦の魂を揺さぶる歌声に感動し、この人に唄ってほしいという宮崎監督の強い願いは、糸井重里や久石譲など多くの人々を動かし、やがて、みんなの想いが1つの形になりました。CDの企画から出来上がるまでを収めたドキュメンタリー映像の第1部と、その完成を記念して三鷹の森ジブリ美術館で行われた上條恒彦のコンサートを収録した第2部との2部構成になっています。これは、大人が唄える歌探しに夢中になった大人たちの心温まる記録です。

 

【第1部】
大人が唄える歌をさがして。 構成・演出/浦谷年良
製作委員会のミーティングやレコーディング風景、宮崎監督や仲間達の熱い思いが伝わります。(約98分)

【第2部】
上條恒彦コンサート in 三鷹の森ジブリ美術館 構成・演出/関根聖一郎
アルバムからの6曲のほかに、「大きな古時計」、「だれかが風の中で」、「さんぽ」も唄われます。(約40分)

【映像特典】
宮崎駿監督作品
2003年夏 ハウス食品「おうちで食べよう。」シリーズ TV-CM
・ままごと篇 ・おつかい篇 ・路地裏篇 ・宣伝力一篇

 

 

久石譲も「油屋」「お母さんの写真」のレコーディング風景で登場する。宮崎駿監督や上條恒彦とのスタジオ内での録音のやりとりを収めた貴重な記録。(第1部、チャプター4,5)

 

 

【第1部】
大人が唄える歌をさがして。 構成・演出/浦谷年良
1.アルバムの発端
2.#見果てぬ夢
3.アルバムの企画会議
4.最初の録音日
5.#油屋&#お母さんの写真
6.#鞦韆(ぶらんこ)
7.#秋
8.#豚の丸焼き背中にかついで&#ひとつやくそく
9.#椅子
10.#牧場の朝&#冬の星座
11.アルバム製作委員会
12.#花あかり
13.#オルガンの丘#真夏の振り子
14.#祝祭
15.#何もいらない&#中央線

【第2部】
上條恒彦コンサート in 三鷹の森ジブリ美術館 構成・演出/関根聖一郎
1.油屋
2.お母さんの写真
3.真夏の振り子
4.中央線
5.冬の星座
6.牧場の朝
7.大きな古時計
8.だれかが風の中で
9.さんぽ

 

報告編:「ワールド・ドリーム・オーケストラ」全国ツアー終了

連載 ハウルの動く城 久石譲

連載 久石譲が挑む「ハウル」の動く音 (読売新聞)
報告編:「ワールド・ドリーム・オーケストラ」全国ツアー終了

作曲家でピアニストの久石譲が、新日本フィルハーモニー交響楽団と組んだポップス・オーケストラ「ワールド・ドリーム・オーケストラ」が8月1日、大阪・中央区の大阪城西の丸庭園で野外コンサートを開き、全国ツアーが終了した。ツアーは、7月19日の宮城・仙台市での公演を皮切りに、全国8か所で行われた。

久石は指揮とピアノで登場。最終日ということで特別メニューを組み、「HANA−BI」「スター・ウォーズ」「007ラプソディー」といった映画音楽を約100人のオーケストラで聴かせた。

一昨年ごろから互いに「何か一緒に続けてやろう」と盛り上がり、ジャンルを超えて楽しめる新しいオーケストラ「ワールド・ドリーム・オーケストラ」の活動を始め、初代音楽監督に久石が就任した。

トラッンペットソロを吹くティム・モリソン

6月には初アルバム「WORLD DREAMS」を発売。欧米の著名な映画音楽と、「天空の城ラピュタ」など自身の作品を編曲し直した。

「あまり経験がない」という他人の曲に挑んだのは「世界中にいい曲がたくさんあるのに、オーケストラ用のものが少ないため、クラシックコンサートではなかなか演奏されない」ともどかしさを抱えていたからだという。編曲は「原曲の作曲家を尊敬しつつ、自分のやりたいことを盛り込んだ」と語る。

コンサートでは「E.T.」などで知られる作曲家ジョン・ウィリアムスと自身の映画音楽を対比させたほか、久石が「真夏のラーメン」と例える管楽器隊の音を前面に出した編成で、「ミッション・インポッシブル」などを激しく演奏、聴衆を魅了した。

台風10号の影響で天候が心配され、リハーサル中も強い風と小雨に悩まされたが、本番は雨風もなく晴れ間も見え、夕暮れに染まる大阪城を眺めながらのコンサートとなった。

途中、ツアーゲストで元ボストン交響楽団主席トランペット奏者のティム・モリソンが、阪神タイガースのTシャツに早着替えすると、観客は大きな声援で「ハプニング」を喜んだ。

野外のためオーケストラもTシャツで演奏 中央は久石

アンコール後、鳴り止まない拍手に久石が三度登場。歓声に押され、プログラム予定になかった映画「菊次郎の夏」のテーマ曲「Summer」をピアノソロで演奏すると、聴衆とオーケストラメンバーは割れんばかりの手拍子で応えた。

終演後、汗をびっしょりかいて控え室に戻った久石は、「驚いたよ。リハーサルで練習用に『Summer』を弾いたのをメンバーが覚えていて、『昼間やっていたからできるでしょ』って。みんなにうまく乗せられちゃったね」と笑った。

「ワールド・ドリーム・オーケストラ」の公演は、どの会場も子どもから大人まで様々な客層が混在していた。最近はなかなか見られなくなった光景だ。地道な活動を今後も続け、「ポップスオーケストラの」という枕詞が必要なくなった頃には、音楽を聴く底辺はずいぶんと広がっていることだろう。

初日の仙台公演のリハーサルで、久石はこんな話をしていた。「音楽にはクラシックもポップスもない。あるのはいい音楽と悪い音楽だけなんだ」(依田謙一)

(2004年8月3日 読売新聞)

 

連載 ハウルの動く城 久石譲

 

第23回:「ふたりが残った」

連載 ハウルの動く城 久石譲

連載 久石譲が挑む「ハウル」の動く音 (読売新聞)
第23回:「ふたりが残った」

クライマックス曲の変更という最大の難関を乗り越えた久石譲は、あらためて2日目の録音に取り組んだ。1日目で大編成のオーケストラ曲がほぼ終了していたことから、この日は主に小編成の曲を録音した。

映画音楽は交響曲と違い、あくまで場面に合わせて作曲するため、編成や長さが多岐に渡る。なかには、10秒ほどで終わってしまう曲もある。

しかし、どれも場面を支える重要な曲だ。一つ一つが満足いく演奏をするには、映画音楽ならではの苦労も生まれる。

終盤、トランペットと大太鼓の2人だけとなった録音で、こんなことがあった。

カットナンバー500。夕暮れの街を、戦意高揚のためにビラまき隊が行進する場面の曲。絵コンテに、トランペットと太鼓を使って、「プップクプップップー、ドンドン」と記されていたことから、久石はそのニュアンスを生かした曲を用意していた(サウンドトラック盤には未収録)。

演奏前、久石が奏者たちに説明した。「できるだけ下手に弾いて下さい」

奏者たちには慣れない要請だったが、わずか数秒の曲でもあり、あっさり終わるだろうと演奏が始まった。

ところが、これがなかなかうまくいかなかった。

小さい頃から、誰よりも上手に弾くことを求められてきた「エリート」の彼らが、いくら「下手」に弾いても、どうしてもなめらかさが残ってしまうのだ。

それでも何度か繰り返すうちに、少しずつ様になってきた。久石が「このくらいでどうでしょう?」と客席中央を振り返ると、監督は「プロの演奏家でない役所の用務員が、仕方なく演奏しているという設定なので、もっと下手にお願いします」と要求してきた。

音楽家である久石にとっての「下手」も、まだまだ上手すぎたようだ。

監督がこだわったのには理由がある。短いが、戦時下の暗い街を象徴する大切なカット。用務員が嫌々演奏していることで、その雰囲気を出したいという演出意図があったのだ。

この言葉で火がついた奏者たちは、微妙に音程を外すなど、持ち前の技術で「素人らしさ」を表現。何とか「下手な演奏」を実現した。監督と久石は、あたたかい拍手を送った。

こうして、オーケストラの演奏はすべて終了。最後に久石のピアノ録音が残された。

久石は、「さぁ、演奏家に戻らなくちゃ」と腕を回す。

ピアノのセッティングが完了した頃には、オーケストラのメンバーはすべて引き上げ、監督の姿も見えなくなっていた。静まり返ったホール内で、1人、鍵盤に向かった。

映像をバックに、静かにテーマ曲「人生のメリーゴーランド」のピアノバージョンの演奏が始まる。

何度も繰り返し登場した旋律が、やっと久石本人の手で奏でられた。数々の宮崎作品で鳴っていたのと同じ、あの音色が、場内を包み込んだ。

演奏が終わり、顔を上げた久石は、思わず「あっ」と声をあげた。いつの間にか監督が客席に戻っていたのだ。久石が「帰っちゃったのかと思っていましたよ」と言うと、監督は「聴いていきます」とにこやかに笑った。

監督が録音に最後まで付き合うのは、2人の長いコンビのなかでも、初めてのことだった。

ホールの中には、いつの間にか誰もいなくなっていた。残ったのは、2人だけだった。

監督はシートに深く体を沈めながら、じっと久石のピアノを聴いた。舞台裏のコントロール・ルームのテレビモニターに映し出されたその光景は、いつまでも、いつまでも続くように見えた。

回り続けるメリーゴーランドのように。(依田謙一)

(2004年7月23日 読売新聞)

 

連載 ハウルの動く城 久石譲