Info. 2005/11/29 メロディーが強かった往年の映画音楽 久石譲に聞く(読売新聞より)

メロディーが強かった往年の映画音楽 久石譲に聞く

作曲家でピアニストの久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団によるポップス・オーケストラ「ワールド・ドリーム・オーケストラ」が、新アルバム「パリのアメリカ人」を30日に出す。「シェルブールの雨傘」(1963年)など往年の映画音楽を、久石が意欲的に再アレンジした。収録曲を演奏するツアーを控えた久石に聞いた。(依田謙一)

──「パリのアメリカ人」をタイトルにした理由は。

久石 ある街を外からやってきた者の目を通した時に見えるもの──つまり「異邦人」をテーマにしたかった。そう考えた時、即座に思いついたのが、ミュージカル映画「巴里のアメリカ人」(51年)。パリに住む画家志望のアメリカ人とパリジェンヌの恋を描いた物語も、作曲したのがニューヨーク生まれのジョージ・ガーシュインだということも、ぴったりだった。

──パリへの思い入れは。

久石 今は「いつかはパリ」という芸術家はあまりいないと思うけど、やっぱり素晴らしい街。マレ地区なんて、いつまでも歩いていたくなる小さな路地がいっぱいある。音楽家として仕事するには大変な街だけどね。日本と違って、段取りが大雑把だから(笑)。でも、「こういう表現をしたいんだ」という思いにはいつも圧倒されてしまう。

──選曲の基準は。

久石 自分が思い入れのある映画が多いかな。当初は新しい作品も入れようと思ったけど、いざ聴いてみたらぴんとこなかった。最近の映画音楽はメロディーが弱くなっている気がする。「アメリ」(2001年)みたいに面白い曲もあったけど、オーケストラの楽曲として耐えられるメロディーだと感じられなかった。結果的に強いメロディーを持つ昔の曲が残った。

──原因は何だと思いますか。

久石 映画の作り方全般に言えることだけど、「ハリウッド流」が浸透して、ヒットのために作品とは関係のない楽曲が持ち込まれることが多くなった。そのため、映画を象徴するようなメロディーが減ってしまい、サウンドトラックというよりコンピレーションアルバムになってしまっている。昔はもっとあの映画と言えばこのメロディーということがあったのにね。

──名曲のスコアを見て感じたことは。

久石 ガーシュインに代表されるように、クラシックとかポップスとか、ジャンルの垣根を感じさせない曲が多かった。ただ、実際にアレンジし始めたら、編曲というより作曲になってしまった。やっぱり自分は作曲家。素直に編曲すればよかったのに、余計に時間がかかってしまった。

──手ごわかった曲は。

久石 ミシェル・ルグランはどれも大変だった。和音にわざと異音が入っていて、不協和音的に聴かせる構造が多く、こっちがこうしたいのにと思ってもぶつかってしまう。「ルグランは鬼門だ!」ってずっと言っていたよ(笑)。

──編曲しているうちにミュージカル映画に挑戦したいと思いませんでしたか。

久石 実は以前から話はあるけど、日本語で歌う違和感を拭えなくて実現していない。それが解決できたら挑戦してみたい。興味はあるんだ。大学時代、最初に書いた曲が歌劇だったくらいだから。

──2日から「12月の恋人たち」と題したツアーがスタートしますね。

久石 アルバムでコール・ポーターの曲を歌ってもらったジャズ歌手のレディ・キムや、リトルキャロルという女性コーラスグループを招き、過去最大の人数でステージに上がる。アルバム収録曲の他、ラベルの「ボレロ」や、映画「コーラス」(04年)の曲も演奏したいと思っている。クラシックと呼ばれる音楽にもポップス的な要素もあるし、その逆もあるんだということを感じてもらえたら嬉しい。スペシャル・シークレット・アンコールも用意しているよ。

──「ワールド・ドリーム・オーケストラ」の今後は。

久石 昨年から活動を始め、まだまだ始まったばかり。ポップス・オーケストラと言いつつ、単に口当たりのいいオーケストラにはしたくないと思い続けている。アフリカや南米をはじめ、世界には素晴らしい音楽がたくさんあることを皆に知ってほしい。積み重ねを大切にしながら、他にないオーケストラにしていきたいね。

(2005年11月29日 読売新聞)

 

久石譲 『パリのアメリカ人』

 

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