Info. 2006/09/12 ヨミウリオンライン「ミニマルとアジアで原点回帰 久石譲に聞く」掲載

ミニマルとアジアで原点回帰 久石譲に聞く

久石 譲(ひさいし じょう)

1950年、長野県生まれ。国立音楽大学在学中から、現代音楽の作曲家として活動を開始。84年に「風の谷のナウシカ」で宮崎駿監督と初タッグ。以降、宮崎作品を中心に、数々の映画音楽を手がける

音楽家の久石譲が新アルバム「Asian X.T.C.」を10月4日に出す。カネボウ「いち髪」のCM曲としてオンエア中の「Venuses」をはじめ、アジアをテーマに11曲を収録した。アルバム制作にかけた思いを聞いた。(依田謙一)

――アジアをテーマにした理由は。

久石:
一つは、最近、韓国、中国、香港から映画音楽の依頼が続いていて、自然とアジアを感じる機会が増えたこと。もう一つは、作曲家として今後、何を書いていこうかと考えているなかで、原点に戻ろうという気持ちが高まってきたことにある。僕にとっての原点は、現代音楽の一つであるミニマル・ミュージック。フィリップ・グラスやマイケル・ナイマンといったミニマル音楽家は、映画音楽も手がけながら、自分の作品を作り続けているが、僕は彼らと違って、ミニマルの作品をほとんど作ってこなかった。だけど、そろそろ原点に戻って、ミニマルの作品を書きたいという思いが強くなってきた。そこで、グラスともナイマンとも違う僕の世界は何かと考えているうちに、自分がアジア人だということに行き着いた。

――アジアの音楽とミニマルは相性がよいのでしょうか。

久石:
例えば、アジアの民族音楽に多く見られる5音階(ペンタトニック)は、もともとすごくミニマル的な要素を持っていると思う。5音階で一つのフレーズを繰り返して和声を展開すると、音楽的にぶつかる要素が少なく、可能性も広がる。こういう試みは20代の頃にひたすらやったから得意なんだけど、作品として書くことはずっと封印してきたんだよね。

――なぜですか。

久石:
30歳の時、もはやクラシックとなってしまった現代音楽に限界を感じて、ポップスの分野でやっていこうと決意した時から、ずっと距離を置いてきた。もちろん、自分の中に脈々とあるものだから、これまでも映画音楽などにはミニマル的な要素は入ってきたけど、作品として取り組もうとは思わなかった。それが昨年、「WORKSIII」というアルバムで、ミニマル色の強い「DEAD」という組曲を作ったあたりから、押さえきれないものが沸いてきていることに気がついた。

――映画音楽やテレビCMを通じて久石譲の音楽を好きになった人がどう思うかという不安はなかったですか?

久石:
エンターテイメント産業の中でこういう方向を打ち出すことに対しては、正直、不安はあった。メジャーレーベルから出る作品である以上、数字で実績を残していかなければならないからね。曲順にも気を使って、聴きやすいようにミニマル色が強いものとCMや映画の曲を交互に並べたりもしてみた。でも、それだとかえってお互いに薄め合ってしまうんだ。むしろ、入り口を広く広げておいて、最後には深いところにいくような流れを作った方が潔いと思って、後半にミニマル曲を集中させた。

――ピアノと弦楽にサックスやマリンバ、さらにアジアの民族楽器を合わせた独特の編成ですね。

久石:
アジアとミニマルを組み合わせるのに、これが一番効果的な編成だと思った。二胡などの民族楽器奏者はリズム感も違い、理解してもらうために苦労もしたけど、アジアの楽器を香辛料のようにちりばめたような作品にはしたくなかったから、根気強く説明した。目指したのは、西洋と東洋の融合。それぞれの楽器が必然性を持った曲を作りたかった。

――弦楽のバラネスク・カルテットは、映画「カルテット」以来の参加ですね。

久石:
彼らの演奏はとてもエキサイティング。以前、一緒にツアーを回った時には、状況に合わせて次々に演奏を変化させるスタイルに、ピアニストとしてずいぶん鍛えられた。クラシックの教育をきちんと受けながら、ポップスやロックのセンスも持っているので、西洋と東洋の楽器をぶつけ合うには、彼らの情熱的な音がぴったりだった。ミニマルには冷たい印象を持つ人もいるけど、実はとてもエモーショナルなんだ。彼らが参加することでそれを感じてもらいたかった。

――韓国映画「トンマッコルへようこそ」(10月28日公開)のテーマ曲は、サウンドトラック盤と違い、ギターデュオのDEPAPEPEとの共演。

久石:
僕の通っているジムのスタッフに彼らのファンの方がいて、iPodで僕の曲と交互に聴いていると聞き、興味を持った。実際に聴いたらとても爽やかな印象で、一緒にやったら面白いかもしれないと直感した。とてもひたむきに演奏してくれたよ。

――アルバム発売と合わせて全国ツアーもスタートしますね。

久石:
最近は指揮に力を入れてきたけど、今回はピアニストに専念して、全曲に参加したい。編成はアルバムとほぼ同じで、バラネスク・カルテットにも参加してもらうよ。「Kids Return」や「もののけ姫」など、「あれをやってくれたらいいのに」という定番の曲を、思い切りやりたい。西洋の楽器とアジアの楽器が、舞台の上でどう絡んでいくのか、今はまだ見えないけど、逆にそれが楽しみなんだ。

「Asian X.T.C.」のジャケットヨリモで久石譲のプレミアムイベント ツアーチケット発売も
アルバム発売を記念し、25日に東京の恵比寿ガーデンルームで、読売新聞のインターネットサイト「ヨリモ」の会員向けに無料ミニコンサートを行い、150組300名を招待する。コンサート後には、映画「トンマッコルへようこそ」(10月28日公開)の試写会も行われる。 ヨリモでは、全国ツアーのリザーブチケットも発売している。詳しくはこちら。

 

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