Blog. 「キーボード・マガジン 1989年3月号」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2020/11/02

音楽雑誌「キーボード・マガジン Keyboard magazine 1989年3月号」に掲載された久石譲インタビューです。オリジナル・ソロアルバム『illusion』についてたっぷり語っています。

 

 

”鏡のような音楽”に秘められた超一流のサウンド・テクニック

優れた音楽は耳に優しく、それでいておどろくほどの技巧を内包している。虚飾をそぎ落とした無駄のない音の数々。それはまるで、多種多様の光線を含みながら特定の色を感じさせない陽の光のようなものだ。

ー全体の概要について教えて下さい。

「前作の『ピアノ・ストーリーズ』なんかは、聴く側が勝手に心象風景を自分たちで投影しやすかった。こちらから押し付けがましいメッセージがない分ね。今までそうやって作ってきたんですけど、長年やってくると、もっと直接的にメッセージを訴えかけたくなる。それには歌の表現がいちばん適切なんです。僕は井上陽水さんとか中島みゆきさんとか、非常に歌のうまい人の仕事をいっぱいさせてもらっていたんで、中途半端に歌はやりたくなかった。で、今回いろいろやってみて、何とかいけそうじゃないかということで。アレンジャーだとかいろんな人が、サウンドの一部として歌を歌うみたいなのがありますけど、あのてのものはやりたくなかったんですよ。どうせ歌うなら、徹底して歌をやる」

ー最初から完全なスコアがあったわけですか。

「いや。ラフなものをフェアライトで作ってるんで、スケッチみたいなものから始めて、ベーシックなものを作るわけです。スコアをおこすことは最近めったにやらないですね。譜面を書いてる時間がないし(笑)、ベーシックなものができた段階で頭に全部入っていますから」

ー作業としてはフェアライトでリズムを作って、それに生のストリングスを合わせるという形になるんですね。

「そうです。仮で入れておいてやるケースもありますしね。最初から、たとえば弦なんかを入れると決めておく場合と。いろいろなんですよ」

ー今回の弦アレンジの特徴は?

「このアルバムに入る直前までの、僕の弦のスタイルというのは確率されていたんですね。いろんな人の歌のときのバックのスタイルとか、あるいは、フル・オーケストラで8-6-4-4とか(注1)6-4-2-2とかいう編成で歌用、オーケストラ用、映画用とか、自分なりの癖が確立されていた。ですから、またゼロから、全く弦が書けない状態に戻して、普通ならこうくる、というのを極力排除してアレンジしました。もう1回クラウス・オガーマンとか、あのへんの弦アレンジを聴いたりとか。そういうのを徹底しましたね」

(注1)弦の編成。第1バイオリン、第2バイオリン、ビオラ、チェロの順に数を表す。

ー弦の編成は?

「全部6-4-2-2です。僕は絶対ダビングしませんから。弦はキーで配列が全部違いますけど、そのポイントさえ押さえれば、2倍にも3倍にも鳴らすことは可能なんですね」

ー弦アレンジのどこをどう変えたんですか。

「断片的なんですね。たとえばA-A’-B-C、そしてサビへ行くとするでしょ、するとだいたいA,A’は休んでてBくらいから入って、Cで盛り上げて、とかね。弦が駆け上がってサビに行くとか、パターンがあるでしょ。今回はAの後半に突然ちょこっと弦が出たりとか、そういう断片的な独立の動きをけっこうさせました。「ナイト・シティー」のCのサビなんかは、普通だと弦が駆け上がっていくんですが、フレーズはブラスにまかせて、逆にブラスっぽい動きを弦にさせている」

ー「ナイト・シティー」ではディビジ(注2)をつかってますね。(譜例1参照)

「今までなら、6-4-2-2しかいないときは、ああいう高いポジションでディビジは使わなかったんです。それをあえて今回は……」

(注2)ひとつのパートをいくつかの声部に分けて、人数を配分する手法。div.と表記する。

ーそれもパターン崩しの?

「そうですね」

ーディビジは3-3ですか。

「だいたいそういう形になります」

ー中間部のバイブ・ソロのところは凝った展開をしてますね。

「今度のアルバムって全部そうなんですよ。ただ、そんなこと譜面を見なかったらなかなか気づかないでしょうね。表面はポピュラー・ミュージックなんだけど、再現してみようとすると思っても簡単には絶対できない」

ーソロ前の2小節なんかも面白い展開をしているし……。

「そのへんが大変なんですよ。そのたびにベーシックでコードを何度も取り替えましたから。この曲だけでベーシックを3回か4回録り直しています。結局、ドラムだけ生かして、コードを差し換え、差し換えで」

ーサビに行くところは非常に転調感が強いですね。劇的というか。

「今回はだいたいそうなんだけど、間奏部分が原調のキーと同じやつがほとんどないんです。全部いろんなキーに跳んでいっちゃってる。日本の曲ってあまりにも単純すぎるんです。外国の曲って、ヒット・ポップスにしたってサビからキーが変わるなんて当たり前でしょ。それが日本では最初からDmの曲だったら、ずっと全部Dmでしょ。その単純さはやめなきゃいけない。転調感を持たなかったら絶対、外国では通用しない。たとえばこれC#mなんですよね。それで間奏がEmなんですよ。そうすると、これは短3度上だから非常に遠い。普通だと、平行調だとか、シャープやフラットが1個多くなったり少なくなったりするくらいでしょ。で、とんでもなく遠いキーに跳ぶわけ。もっとすごいのは、A durの曲が間奏でE♭mになって、Fmに行っちゃう。長3度低いマイナーのキーになるわけです。ですから、どう見ても近隣調の範囲には入らない」

ー「風のハイウェイ」のサビに行くところも調感が大きく変わりますね。

「パーッと世界が変わるでしょ。こういう感じが大事なんですよ」

ーいちど崩してしまうと、テーマに戻すのが大変という気がしますが。

「難しいですね。外国の一流のアレンジャーはそれがうまいんですよ。アレンジャーというか、外国の曲のうまさというのは、サビに行くときに、日本のアレンジャーだとA-A’は同じとしてもBで少し変わって、サビになるとまたリズムが変わるでしょ、ドラムのパターンとか。ところが、マドンナでも何でも、リズムはほとんど変わらない。せいぜいスネアを1個抜くか抜かないくらいなのに、ちゃんとサビで世界が全部変わってるでしょ。あれがすごい。日本の曲は変えてるつもりなんだけど、歌が変わってないし何も変わってないから、色が変わらないんです。色彩感がとぼしい。いろんな音をいっぱい入れたら色彩感があると思われてるけど、逆に、極力抑えているからこそ変わった瞬間のインパクトがあるんですよ。映像なんかの仕事でも、このへんは一流とそうでない人の差なんです」

ー「冬の旅人」の中間部がピアノ・ソロになってますね。

「ここはピアノを聴かせるために弦を入れてないんですよ。リズムをうんとスカスカにしちゃって、そうするとピアノが浮き立ってきますよね。弦にしても1コーラス目と2コーラス目で必ず変えています(譜例2)。後半はピアノがだんだん小さくなって、弦を出しているんです。フェード・アウトしながら弦がだんだん大きくなってくる。これはね、全体を普通の曲に仕上げたかったんですよ。いわゆる昼の恋愛ドラマですから。すると、サビに戻るときの部分にいつものアバンギャルドな部分を集約させておいて、あとはいかに歌をちゃんとさせるかという」

ー弦の駆け上がりなんかは……。

「ヘンなところでしかやらない(笑)」

ー弦のフレーズにしても、クラシカルですね。

「頭の中ではブラームスを意識してるんですよ。歌のメロディ自体、ピアノで弾くととてもブラームス的なんです。すると、どこかでクラシカルな格調をのこした弦やピアノのアレンジをしたい。そこから考えてこういう感じになったんです。「ナイト・シティー」とは全然譜づらが違うでしょ(譜例2)。このへんがやっぱり大事なところで。これも徹底しないとおかしくなる。日本のアレンジってだいたい中途半端なんだよね。それをきちんとすれば色彩が明確になってくる」

ー歌をメインにしたアレンジで大切なことは?

「最も大事なのは、歌のバックに入っているオブリガートのフレーズが歌をじゃましないこと。次に大事なのは、それぞれのフレーズがぶつかり合わないことですね。これが絶対条件です。『鏡の音楽』と僕は言っていますけど、できるだけ削る作業。とりあえず削って、削っていって有効なフレーズがきちんと有効なところに入っていれば、ベタに弾いてないのに全体がとてもゴージャスに聴こえる。昔、ロンドンでケン・ソーンとかロイ・バットなんかの、超一流のアレンジャーと言われる人の仕事をまのあたりにしたことがあったんです。そのとき彼らが『アレンジのコツは、コードからはずれた音をどう使うかだ』と言ったわけです。ド・ミ・ソのときにドとミとソを使うのはイモで、そのときにレ・ファ・ラ・シのその他の音をどう入れるか。これをやるとぶつかった色彩感が出てくるんですよ。瞬間でもいいわけです。つまりジャーンってド・ミ・ソを鳴らしますね。鳴った瞬間に、弦がレ→ミって行くと、出だしはド・ミ・ソにレが鳴ってるわけですね。これは別に違和感はない。コードが鳴った瞬間に他の音をどう入れるか。倚音(いおん)とか経過音とかいろいろあるけど、そういう音をいかに使っていくかでコード的色彩感が倍増するんです。メジャー7thとか9thとは、そんな単純なものじゃなくて。それをうまくアレンジしていかないと、特にオーケストラの曲はできないですね」

(キーボード・マガジン Keyboard magazine 1989年3月号 より)

 

 

久石譲 『illusion』

 

 

 

Blog. 「GAKUGEI 1996」久石譲インタビュー内容

Posted on 2020/11/01

青山学院女子短期大学の冊子「GAKUGEI 1996」に掲載された久石譲インタビューです。とても具体的で突っ込んだ内容は読み応えあります。

 

 

久石譲さん(作曲家)

音楽家になろうと決めたのは、三、四歳。それ以外(の職業)は考えたことがない

ーはじめに、「久石譲」さんという名の由来を教えてください。

久石:
学生時代、テレビなどのアルバイトのために、友人につけてもらいました。江戸川乱歩が、エドガー・アラン・ポーからきているように僕も、外国人の名前でいいのないかなって思ったのですよ。そしてクインシー・ジョーンズを使ってみたんです。一回こっきりのつもりだったんですけどなんとなく気にいってたのでそのまま続いちゃったのですよ。

ー先日行われたコンサートのお話をきかせてください。

久石:
今年、自分のコンサートをまだやっていなかったので、軽い気持ちで、小さいのをやりました。ピアノのソロコンサートは、初めてです。しかし、規模が大きかろうとと小さかろうと、弾くという行為に変わりはなく、プログラムは凄まじくハードでしたね。一日に十時間位練習しました。結果には、満足していますが、正直な気持ちこんなに大変とは思いませんでした。(笑)

ー舞台で弾くのは緊張しますか。

久石:
緊張はいつでもしますが、あがることはありません。前日までは、胸が締め付けられるほど、緊張していても、ピアノの前に座ると落ち着きます。オーケストラでは、二千人の聴衆より、ピアノの左にいる、「小さなころから、バイオリンを習い、留学し、コンクールで入賞している人」が審査員のような気がして、ガマの油のようです。

ー音楽以外の趣味は。

久石:
ウーン…あんまりないですね。強いてあげれば、泳いだり、体を動かすことは好きです。

ー家にこもりっきりってわけではないのですね。

久石:
体育会系ミュージシャンと言われたぐらいですから。(笑)昔は一日中、家にいて作曲などしたけど、今はだめですね。気持ちが変わらないから。

ー普段どんな音楽を聴きますか。

久石:
ありとあらゆる分野を聴きますよ。本当にプライベートで、ひとりで落ち着いたときは、モーツァルトなどのクラシックや、イギリスのピーター・ガブリエルです。

ーご自分の曲は聴かれますか。

久石:
聴かないです。作ってから仕上げるまで、何百回も聴いてますから、世の中に出る頃には「もう聴きたくない」という状況か、次のアルバムにとりかかっていますから、仕事以外では、自分で好んでは聴きません。

ー出来上がった映画はどうですか。

久石:
試写会だけです。

ーテレビで流れていると…

久石:
照れ臭いです。映画って、二時間なら二時間、長い時間を設計するわけですよね。そうすると、色々な意味で、「ああすればよかった、こうすればよかった」という反省が多くて、一年以上経たないと冷静にみられないですね。

 

 

ー学生時代のお話を聞きたいと思います。どんな大学生でしたか。

久石:
…つっぱっていて、鼻持ちならない(笑)学生だったかもしれない。高校は女性が各クラス一、二名しかいない共学で、ほとんど男子校だったんですが、音大に来たら立場が逆になって男女比が一対一〇くらいで、一瞬「どうなったんだろう」って思いました。だから音大の人たちよりは、よその学校の人とつきあっていました。自分が何をするかに集中していたから、あんまり大学通っていた感じがしないんですよ。四年生でまとめて単位とった感じです。学生時代から、外でコンサートをしていましたし、有名な作曲家に委嘱して、プロデュースしたりしてました。

ーす・ご・い。

久石:
音大の先生から、売り込みにきましたから。そのくらいガンガンにやってました。そういう意味で、つっぱっていましたね。学内では、先生方でも聴いたことのないような譜面を見つけてきて学生を集めては、練習させ、月一回コンサートを開いて、自分で全部やっていました。だから変な話、三年生ごろ先生から「授業出なくていい、お前が出るとうるさい」と言われました。先生より知ってましたからいろんなこと。だから何か一言先生が言うと、「あっ、すいません、それ古いんです。今はもうこうなってます。」とかいちいち言うもんだから、「単位はあげるから出ないでいい」そんな感じでした。だからあんまりまともないい学生ではありませんでした。

ーどうして先生より、そんなに知っていたのですか。

久石:
音大って、基本的にクラシックの古典中心の教えですよね。それはそれで音楽大学って、すごくいい。今思えばもっと勉強しとけばよかったけど、それは、英語勉強すればよかったとあとで思うようなもので、必要に迫られてなかったし、もっと新しい動き[コンテンポラリーミュージック]を追求したかった。それは学校ではできなかった。だから自分で、楽譜を探したりレコード買ったりするしかなかった。

ー学生時代の一番の思い出は。

久石:
…暗かった。(笑)絶えず何かに焦っていた。自分の音楽はどんなものを書いたらいいのか、そういう悩みが多かった気がします。あとはよくみんなで飲んだこと。

 

 

ー四歳のころから、バイオリンを習っていたそうですがそれは誰の意志ですか。

久石:
あのー、本当のところは分からないんですけど、たぶん僕の意志なんです。

ー小さい頃から音楽が好きだんたんですねー。

久石:
ウン、おもちゃのようなものを鳴らしているか、歌を歌っているか、レコードを聴いているか、朝起きてから夜寝るまで。

ーピアノではなくて、バイオリンだったわけは。

久石:
楽器屋さんの前を通ったとき、凄くかっこよく見えて「これやりたい」って。

ー久石さんにとって、音楽とは。

久石:
…ウーン…ALL OF MY LIFE、空気のような存在。僕が音楽家になろうと決めたのも、三歳か、四歳の頃なんですよ。つまり音楽以外考えた事がない。数多くある自分の外側の仕事から音楽を選んだのではなくて、自分の内にあるものだった。そのままここまできていることは本当に幸せです。もし自分が音楽をやってなかったら、とてもじゃないけどまともな人間になれなかった。エゴとかいろいろなことを含めて。僕が僕でいられるのは音楽を抜いたら考えられない。音楽をやることによって、最低限の人間らしいことができている。或いは普通の人だったら、とてもじゃないけど許せないことも、ものを作るという一点のために、世間と少しずれた行動をとってたりする。それは自分と音楽の関係で計っているものだから、世間の物差しとはちょっと違うよね。そういうときやっぱり、音楽を抜いちゃったら、自分は存在しないよ。

ー行き詰まったことはありますか。

久石:
しょっちゅうです。僕は、一時間おきに自分は天才だと思い、そしてもうだめかもしれないと思ってたりしますから。ただ僕は、考え方に合理的な部分があって、たとえば一時間の曲を頼まれたとする。一時間なんて大曲でしょ。しかもオーケストラでって言われたら二、三年かかちゃう。でもね、一時間の曲って、一〇分の曲だと六曲、五分の曲なら一二曲。僕は書くのが早いから五分の曲なら、一日でできる。すると一二日間で出来上がる。もっと言うと、一二曲全部違う曲を書いたらまとまりがつかない。そうすると、メインテーマのメインフレーズが何箇所かで出てくるから、これは実質七曲以内。僕の場合、一週間でできると言える。つまり、ある目標があって、どうするか考える時、みんなこの全体を見てしまうから「自分にできるか」って舞い上がるかもしれない。でも僕なら「これは何と何でできている、だから、自分ならどうなる。」そういう組立がうまいんです。

ーと、言うことは理系の頭ですか。

久石:
僕は感覚的に作曲したことはないです。論理的に割り切れることは割り切ってやる姿勢だから。

ー生活の中でフレーズが浮かんできて作曲することはありますか。

久石:
全然ない。(笑)

ーそれでは、即興で作曲はなさらないのですね。

久石:
遊びではよくやります。でも自由な音楽ってありえないんだよね。例えば、ジャズは基本的にコード進行など色々な規制の中で遊ぶわけで、ただの自由ではない。人間の生き方もそうなんだけど、勝手に生きなさいって言われれば、民主主義でもなんでもないわけで、ルールをきちんと守るからこそ、その中でどうやって自由にするかっていうところがあるじゃない。インプロビゼーション(即興曲)っていうものは僕の考え方ではそういうとらえ方ですね。

 

 

ーでは、人生と岐路についてお聞きします。生きがいは何ですか?

久石:
音楽でしょう。それ以外考えたことないです。それぞれの年代のときにそれぞれの形で常に音楽と向かいあってきたからね。かけだしの頃は「いい仕事がしたい」と思っていましたし、少しいい仕事が出来るようになると今度は「自分にしか表現出来ない世界をつくりたい。」いつもそう思いながらやってきたから、でも今になってもまだ表現していないことってあるから、ずっとそれがテーマになるだろうね。

ー音楽の道を選んだ訳を教えて下さい。もし作曲家にならなかったら何になりたかったのですか?

久石:
音楽を選んだのはさっき言ったように、三歳頃からもう決めていたから。ただ音楽と言っても、歌手になる道もあれば、演奏家になる道もあるし作曲家になる道もある。中学生位のときに吹奏楽などの音楽関係のクラブをやっていて、演奏するよりはその演奏の大基をつくる方が自分には向いていた。再現してやるもの。これが弾けたという喜びを余り感じなかったからね。それで自分はものを造る方がいいと思いました。

ーその頃からご自分で作曲なさっていたのですか?

久石:
うん、知ってる曲があったとして、これをみんなでやりたいって時に、音とって、譜面かいて、それをみんなに配って演奏する訳だ。それで音が出たときの感動といったら。その喜びって、やっぱり今でもあって、オーケストラでかくとかね、レコーディングなどでかく時に、本当は譜面かくの嫌いなんだよね。なんだか学生が残されて宿題やっているようでさ。(笑)何でこんなことしなくちゃならないんだろうっていつも思いながら、もうこれで止めたいっていつも思うんですよ。けれどスタジオで何十人という人が集まって、一斉に音を出したりすると、毎回同じテンションで、同じ真剣さで感動していますからね。そういう意味ではこれが自分の天職だな、と思いますね。

ー久石さんに影響を与えた人物・出来事を教えて下さい。

久石:
精神的な影響を受けた人っていうのは、二十歳位のときにテリー・ライリーっていうミニマル系のアメリカの作曲家の作品を聞いて、それが自分に影響しているな、と思うことはありますね。

ーそれから作風が変わったということですか?

久石:
ええ、結局作風を変えるといっても「はい、これ。」って変わらないじゃない。だからその音楽に対して自分がなじんで、その世界と同じような、自分独自の世界を作るような努力、そこから始まった訳ね。それから十年位はかかるけど、少なくとも自分がミニマル系の作曲家に変わったという感じならある。

ー幼いころから周囲の環境も音楽に関係のあるものだったのですか?

久石:
なかったよ。父は高校の化学の教師だったし。ただみんな音楽は好きだった。映画も家族でしょっちゅう見たし、そういう環境であった訳だから、いろんな意味で言うと自分がどうしても求めたんだな、と思います。

ー音楽をやると決めたとき、親の反応はどうでしたか。

久石:
冷たかった。(笑)やっぱり世間並の反対はあったりしましたよ。だけど、そんなに凄い反対ではなかった。自分でやりたかったら、と最終的には。たぶんテレビに出る歌手になりたいとか言ったりしたら、大変だったろうと思うけど。(笑)音楽大学に行って、作曲科を受けたいっていうのは、そういう意味でいうと、それほど抵抗のあるものでもなかったようだね。

 

 

ー次にその他の事にいきたいと思います。今一番興味のあることは何ですか?

久石:
インターネット。どういうものなのか、それをどうやって仕事に役立てるのか、個人的に興味がありますね。

ー事務所ではもう使ってらっしゃるのですか?

久石:
ええ、今、「やろう!」と言ってる最中。

ーでは、音楽以外でこれからやりたい事って何かありますか。

久石:
しいてあげると、自分が監督する映画を作りたいかな。

ーそれは音楽ではなくて、映画を撮るほう、つまり監督さん、ということですか?

久石:
そうだね、それも含めてね。本当にいいものを作りたいからね。今日本の映画ひどいでしょう。映画を観にいくって言ったらみんな洋画でしょう。(一同納得)だからこの二年間映画を作るのを断ってきたんですよ。来年からまた復活しますけどね。自分がこれだ!と思う仕事をしたいと思います。

ー一緒に仕事をした人とその後の付き合いはありますか。

久石:
ある人はありますよ。

ーでは、その中で一番印象に残っている人は誰ですか。

久石:
去年キングクリムゾンっていうバンドがあったんですけど、最近また復活して、この間も日本公演があったんです。そのキングクリムゾンの中に、ビル・ブラッフォードっていうドラマーがいるんですけど、そのときの彼のドラミングのワーク力とか、いろんな意味でやっぱり本当に一世を風靡した人だと、そういうのがとても印象に残っています。「やるときはやるぞ!」ってがんばりますからね、それは凄く感動しました。

ー一緒に仕事をした人と飲みに行くなんてことは無いんですか。

久石:
多いですよ。最近でも甲斐よしひろさんとか、長いつきあいの人とはしばしばですよ。ある仕事の企画で一緒になって、結局仕事の内容によって別れが全然違うものになるので、大体はそのままになっちゃうんですけど。お互いに「連絡しなきゃね。」って言いながら「お久し振りですー。」っていうようなケースが多いよね、やっぱり。(笑)

 

ー最後に、青短生にメッセージをお願いします。

久石:
女子だけなんだよね。そうだなー、この不況はしばらく続きますけど(笑)大変だろうとは思いますが、要するに自分達が生きていくうえで、「仕事」というのが生活の延長での仕事ではなくて、「可能性を保つ場」というとらえかたで、それがどんなことであれ、「自分達の存在理由をみつけていく場」だというつもりで頑張って下さい。

 

お忙しい中のインタビューにもかかわらず、音楽について熱っぽく語ってくれた久石譲さん。楽しくお話する中で、久石さんの音楽に対する真剣な姿勢が感じられました。今年は映画音楽にも復活なさるということで、今後の活躍がとても楽しみです。また素敵な久石譲ワールドがくり広げられることでしょう。

(GAKUGEI 1996より)

 

 

Info. 2020/10/30 久石譲が続けてきた音楽を未来につなぐチャレンジ WEBインタビュー (ONTOMO)

Posted on 2020/10/30

音楽之友社WEBマガジン「ONTOMO」に久石譲インタビューが公開されています。「久石譲が続けてきた音楽を未来につなぐチャレンジ」ロングインタビューです、ぜひご覧ください。 “Info. 2020/10/30 久石譲が続けてきた音楽を未来につなぐチャレンジ WEBインタビュー (ONTOMO)” の続きを読む

Info. 2020/10/28 久石譲「Joe Hisaishi : Studio Ghibli Experience, Part 4」Music Video公開

Posted on 2020/10/28

久石譲オフィシャルチャンネルに、新しいミュージックビデオ「Joe Hisaishi : Studio Ghibli Experience, Part 4」が公開されました。

今回はいろいろな作品からのセレクションではなく、「交響組曲 天空の城ラピュタ」全曲をまるごと。さらに「Kiki’s Delivery Service」も聴ける約30分間です。ぜひご視聴ください。 “Info. 2020/10/28 久石譲「Joe Hisaishi : Studio Ghibli Experience, Part 4」Music Video公開” の続きを読む

Disc. 久石譲 『Prayers』 *Unreleased

2020年10月19日 動画公開

 

明治神宮鎮座百年祭 記念曲「Prayers」

明治神宮公式チャンネルにて公開

 

 

明治神宮鎮座百年祭にあたり、わが国を代表する音楽家 久石譲氏に記念の楽曲をつくっていただきました。まるで森の中へと入っていくような、静けさと奥行きのある荘厳な調べは、まさに明治時代、日本の精神をもって西洋文明を取り入れた和魂洋才を思い起こします。この曲にあわせて編集された映像と共にご視聴ください。

作曲・編曲 久石譲
演奏 東京交響楽団
録音会場 ミューザ川崎シンフォニーホール
録音・ミキシング 江崎友淑・村松健(オクタヴィア・レコード)
映像編集 佐渡岳利・ 井上寛亮(NHKエンタープライズ)
映像撮影 宝貝社、凸版印刷、乃村工藝社・惑星社、HEXaMedia
アートディレクター 原研哉
写真 関口尚志
制作 サンレディ、ワンダーシティ
制作統括 明治神宮

from 明治神宮 公式チャンネル Meiji Jingu Official Channel

 

 

公開動画について

 

 

明治神宮の会員および関係者へ、CD+DVDパッケージ化したものが非売品として配布されている。音源も映像も公開されたものと同一収録されている。

 

 

 

 

 

和太鼓の強打によってはじまる曲は、静謐な五音音階的モチーフを幾重にも織りませながら厳かな雰囲気ですすめられる。いくつかの打楽器はあるものの、日本の伝統和楽器は使われていない。一般的な西洋オーケストラ楽器のみで、日本古来からの世界観を表現している。公式コメントにもあるとおり、まさに”和魂洋才”といえる。フルートやピッコロをはじめとした木管楽器で五音音階的ハーモニーや五音音階的不協和音を演出するなど、その響きは雅楽などにも共鳴するものがある。

この作品がエンターテインメントに属するかという点においても、レビューをためらう。聴いた感じやイメージで語ることはできたとしても、果たしていいのか、とためらう。信仰や宗教といった側面をもつこともあり単なるエンタメ気分だけで作曲していないことは確かだと思う。そうなると、信仰や宗教といったもの、それになぞらえたものを、どう音楽的手法に置きかえているのか、どこにコンセプトをおいているのか。そういった手引がないと、なにを表現しているのか、見当違いな回答を導きだしてしまう。それでいいのかもしれないけれど、やはりためらう。とっかかりがわかったほうがまっとうな理解は深まる。

「この曲を聴いて絵を書いてください」そう課題を出されたクラス全員の絵が、すべて違うような状態にある。もしそこに「作者は、森をイメージしたようです」「作者は、この楽器を火に見立てたようです」「作者は、このような儀式から着想を得ています」などと解説があれば、課題を出されたクラスの半数以上に、共通点が見つかる絵ができあがるかもしれない。ましてや鎮座百年という記念曲、歴史においても、ふたつの世界大戦をのみこむ長大な時間。そういうことです、レビューをためらう。

たとえば、印象にのこっているもののひとつに、執拗なトランペットの旋律、奏者にとっては最も過酷なパート(動画タイム 4:57-5:27 )。息つく間もなく祈りを唱えつづける言霊のようにも聴こえたり、はたまた、かがり火の炎がちりちりと火の粉たちをまき散らすようにも聴こえたり。容易に近づくことのできない信仰の集中力や、場の空気の緊張感といったものがひしひしと伝わってくる。

こういった部分的なイメージ空想の羅列になってしまうので、やっぱり控えることになる。シンプルに言うと「すごくかっこいいじゃないですか! That’ so Cool!!」と日本からも海外からも驚きと深い喜びでむかえられる楽曲。

この曲をひとつの楽章として置き、多楽章な作品へと発展する生命力を十分に宿した、今の久石譲を出し惜しみなく具現化した大曲。大衆性・芸術性の両軸をかねそなえた、歌わせる旋律とミニマルな旋律を交錯させた、日本と西洋を”いま”で表現した、そんな楽曲になっている。いつか、本人解説や楽曲コンセプトが知りたい。

 

 

 

 

Info. 2020/10/17 [雑誌]「音楽の友 2020年11月号」ベートーヴェン特集 久石譲インタビュー掲載 【10/16 Update!!】

Posted on 2020/09/25

クラシック音楽誌「音楽の友 2020年11月号」ベートーヴェン特集内で、久石譲インタビューが掲載されます。 “Info. 2020/10/17 [雑誌]「音楽の友 2020年11月号」ベートーヴェン特集 久石譲インタビュー掲載 【10/16 Update!!】” の続きを読む

Info. 2020/08/07 新都市型水族館『Xpark』久石譲 館内音楽全7曲書き下ろし(台湾) 【10/13 Update!!】

Posted on 2020/07/15

『Xpark』2020年8月7日(金)グランドオープン!世界的作曲家「久石譲」が館内楽曲を全曲書き下ろし!

2020年8月7日(金)、高鉄桃園駅前にグランドオープンする新都市型水族館『Xpark』(運営:台灣横浜八景島股份有限公司(桃園市中壢區春德路105號、董事長:藤井忠光))の館内展示エリアの楽曲(全7曲)を、世界的作曲家「久石譲」が全曲書き下ろしにて制作することが決定いたしました。 “Info. 2020/08/07 新都市型水族館『Xpark』久石譲 館内音楽全7曲書き下ろし(台湾) 【10/13 Update!!】” の続きを読む

Info. 2020/11/03 「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」 音楽 久石譲 初アナログ化決定! 【10/9 Update!!】

Posted on 2020/08/20

大好評発売中の“宮崎駿監督&音楽:久石譲”作品のアナログ盤シリーズに、いよいよ「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」が登場。毎年11月3日に行われているレコードの祭典、「レコードの日」の限定盤としてリリースされます。

各々のイメージアルバム、サウンドトラック作品が、リマスタリング、新絵柄のジャケットと豪華な仕様、解説も充実、ライナーノーツも楽しめる内容です。しかも、この4作品のアナログ盤は、これまで発売されたことがありません。ジャケットの美しさ、アナログならではの音の豊かさをお楽しみ下さい。 “Info. 2020/11/03 「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」 音楽 久石譲 初アナログ化決定! 【10/9 Update!!】” の続きを読む

Overtone.第35回 久石譲を短歌で詠む 100

Posted on 2020/09/27

ふらいすとーんです。

久石譲を短歌で詠む、気ままにツイートしていたものが百首たまりました。ちょうど年号が平成から令和に変わった、2019年5月から始めたものです。なぜ短歌? 久石譲短歌のルール? 短歌のおもしろさ、そんなことも記します。

まずは気楽に、つたない短歌を眺めてもらって、曲が思い浮かんだり、共感できたり、そんなものがひとつでもあったならうれしいです。

 

 

久石譲を短歌で詠む

行ったこと見たこともない宇宙(そら)や深海(うみ)
誘う音楽僕らは自由だ

踊るよう笑顔で楽しく指揮をする
のせられるオケ肩弾む客

あなたの手指揮棒にぎるペン走らす
そしてピアノに触れる手好きだ

タクト振る風をあやつるように見え
風を味方につけた音たち

コンサート一期一会の音出逢い
一期一会のファン出逢い

コンポーザー、プロデューサーに、マエストロ
真の肩書き久石譲

ドからド狭い少ない、でも僕ら
十二の音で羽を持つのだ

LinksとOrbis好きと言うファンは
広さと深さ測るものさし

コンサート曲知ってる僕らこそ
拍手最初に力強くね

おでかけの準備するメモ先頭に
プレイリスト作成とある

 

十一

ピアノ弾く人の通るステップに
Summerを弾けるようになりたい

ここ行きたい!ではない順番
この曲が映るところ!と選ぶ場所

これ勝る宣伝効果ないほどに
音楽:久石譲の威力よ

令和という新たな時代になりました
生まれくる曲綴るDiary

春告げる満開憧憬SakuraTour
早咲き遅咲き待ちわびし土地

新緑に”五月の村”を聴きながら
ビル風からも土草のにおい

世界ツアー日本公演こっちにも
どこでもドアがあっても足りぬ

アジアの夢世界の夢のそのさきに
日本の夢を五輪で聴きたい

マリンバのごとく会話が弾むとき
豊かな倍音アンサンブルだ

いざ試験自転車駆けるゴング鳴る
“KidsReturn”聴き会場乗りこむ

 

二十一

朝日課願かけ占いおまじない
いいことあるかな曲の神さま

急いでる朝の支度にコマーシャル
十五秒分奪取キメこむ

温泉の効能いっしょに染み入るね
湯あがり涼み薫る”Oriental Wind”(いえもん)

音楽を言葉にかえる難しさ
言葉にならない想い音にのせ

イヤホンで密封して聴く快感と
スピーカー越しふるえゆらぐ音

もう少しがんばってみる
音楽に背中押されて心ほぐれる

演奏会前のめりかぶるブラボー!は
気持ちわかるけどオフサイドかなあ

演奏会観客総立ちスタオベも
はじめはひとりふたりの動から

ファン歴を天秤にかけ間合いとる
いま好きです。そっちが大切

作曲も演奏会も切れ目なく
ファンつづけれることのうれしさ

 

三十一

時間軸・空間軸と君は言う
僕にとっては宇宙のようだ

衣食住生きていくのに不可欠なことに
僕はそれを加える

負けるなよ希望はあると君は言う
音楽にのせ国籍すら越え

紋どころ目に入らぬかとかざされて
音楽:久石譲とよみふす

伊右衛門はんえらいたくさんCM版
いつか盤にもしておくれやす

運動会かけっこ行進表彰台
盛り上がりそう二ノ国サントラ

夢に希望癒しやすらぎ鼓舞勇気
一日一錠、一日一譲

紫陽花と雨粒とけあう”la pioggia”(しぐれのき)
梅雨なきイタリア和心はこぶ

アジサイに雨やどりするかたつむり
出番まちたるホルン奏者

雨音とアンサンブルする部屋のなか
ただよう残響うるおう空気

 

四十一

三要素メロディリズムにハーモニー
どれをとってもあなたとわかる

あの曲がなければ出会わぬ人たちと
今こうやってつながっています

『深海』に『Deep Ocean』果てしない
『海獣の子供』海がひろがる

降りそそぐ雨照りつける陽のごとく
からだいっぱい浴びる音楽

コンビニのスイーツ数回ガマンして
ほしかった曲美味しくいただく

陽あたりよい窓辺に置いたサボテンに
ナウシカ聴かせ喜ぶようみえ

「今キテる最近ハマってるんだよね」
わかるニンマリどうぞ深みへ

生きものに命吹きこみ
背景に重力あたえ映像生きる

メロディと神秘和音に包まれて
心のトゲがやわらかくなる

陽あたりよい窓辺に置いたサボテンに
ナウシカ聴かせ喜ぶようみえ

 

五十一

休日の洗濯日和の昼下がり
“星の湖(うみ)へ”でうとうと気分

思い立つ”この世界の片隅に”
今年の盆は会いに行こうと

あの彼方立ちのぼる白ラピュタ雲
さがす夏の日空への憧れ

私しか知らない秘密の小屋ありて
“神秘なる絵”と向きあう時間

わたしにも脈々流れる血と誇り
気づかせたのは”アシタカせっ記”

くもりなき眼(まなこ)でまっすぐ駈けるとき
“旅立ち-西へ-“勇壮ふるえ

春とけてうるおう景色に”The Rain”聴き
“Summer”の調べ夏もそこまで

落ちてきてほしい呼吸と間でもって
ピアノの音がふと降りてくる

気まぐれにシャッフル選ぶは”帰る家”
湯婆婆みなで大当たり!とな

淡い青”Silent Love”その音は
とても静かに近づいてくる

 

六十一

立奏は活き活きと跳ね群れ泳ぐ
大きい小さい魚と楽器

花ひらく瞬間みつめる子どもの目
おはよう”Summer”ひまわり笑う

速弾きに超絶技巧のメカニック
想い伝えるテクニックと差異

コンサートいつかは聴きたい名曲に
尺玉花火”この空の花”

人間(ひと)と樹(き)の”アシタカとサン”かかわりと
この限りある一刻(ひととき)を想う

たくさんの音からひとつを聴くことと
ひとつの音からたくさんを聴く

夏休み冒険のとき少年の
“タスマニア物語”にのせて

風物詩あれもこれもと胸弾む
“Summer”といっしょに夏をさがして

いつの日かジブリツィクルス
4日間交響組曲全作披露

“あの夏へ”この夏のことふり返り
思い出かさねる夏の終わりに

 

七十一

空ちかく流れとどまるラピュタ雲
黄昏赤く燃ゆるしずかに

封開けてケースひろげるCDと
学期始めに開く教科書

大切な思い出ずっと忘れない
あの曲聴けばあのときの自分

ふるさとに納税する習慣(こと)根づくよう
好きなオケにも寄付する文化

聴いてきた年月(としつき)盤に遺るなら
立派な年輪たしかに刻まる

時代ごと地層が変化するように
聴こえ感じる風合い変わる

夢のなか未知の新曲聴いたとき
砂漠のオアシスごとき渇望

ゆっくりと背中あずけて音楽に
心のずれをチューニングする

自分でも気づかずにもつ悲しみを
あふれださせる音楽がある

いっぱいの空気を吸ってまっさらの
あたらしい朝”始まりの朝”

 

八十一

衣替え秋の気配に誘われて
聴く音楽も装いあらた

風うけて涼しくいこうよ空みあげ
MELODY Blvd.(ブルーバード)サウンド

星空にスーパームーンの映るとき
憑かれたようにETUDE聴く夜

上弦と下弦の月のあじわいと
高弦低弦チェロの響きと

進化するスマホカメラの解像度
ジブリ交響作品もまた

“おくりびと”ピアノとチェロに誘われて
草原をなでる風のたちの声

身体ごと昔の記憶で温める
“Nostalgia”と明日のぬくもり

コロコロロ靴に当たったどんぐりに
“小さなオバケ”も聞こえてきたよ

“星の歌”宇宙のまばたきほどの時間
永遠(とわ)に廻れよ うたいたい旋律(うた)

音楽が人の数だけ街歩く
喜怒哀楽をポケットしのばせ

 

九十一

キラキラがこぼれてしまわないように
“White Night”イルミネーション

歩き指揮・運転中のながら指揮
たいへん危険となっております

賑やかに宴愉しみ湯につかる
“神さま達”と迎える正月

一瞬の風が心に舞ったとき
“空中散歩”ハウルのワルツ

「寒いね」と私が言えば「寒いね」と
温めかえす冬の音楽

コンサートむかう靴音 弾む呼吸
胸の鼓動のポリリズム鳴る

首もとをやさしく包みこむように
あったかマフラー冬の五線紙

首もとの顔をうずめる心地よさ
あったかマフラー冬の五線紙

並木道やさしい空になでる風
そして聴こえる秋の旋律

結局ね久石さんの音楽が
好きな自分が好きってなるよね

 

 

なぜ短歌をはじめたのか?

言葉遊びを楽しみたかったからです。限られた文字数のなかで、久石譲音楽の魅力をどう表現できるのか、それが出発点です。僕は、どうしても書きだすと文章が長くなってしまうタイプです。時間を置いて添削もするのですが、読んだ人には「ここいらないよね」と思う文章も、書いた本人はわからない、名残惜しい。だから、言葉遊びを使ったトレーニングをしようと。

久石さんのインタビューに「音楽的な主張が強くなって、複雑な方向にいきそうなとき、シンプルなワルツの力をかりる」といった発言があります。それと並べるなんておこがましいですが、気分は同じと思わせてください。ワルツの三拍子という制限と枠、短歌の三十一文字という制限と枠。制限は、ときに手法の一部になることがあります。

言葉さがしをしたかった。自分の言葉ってキャパ狭いです。いつも使う言葉、同じ表現に偏ってしまいがち。表現力を磨きたいとまで高い志はないにしても、使ったことのない言葉をさがす、自分の言葉の引き出しをふやす。それには短歌がうってつけだと思いました。文字数が限られているから、そこにおさまる言葉を必死に見つけようとします。あっ、これだとはみ出す、これだと足りない、これならおさまる。そんな小さな小さな積み重ねがキャパを広げてくれたなら。久石譲コンサートレビューや久石譲CDレビューも、もっと伝わるような表現豊かなものになってくれたなら。修行はつづくよ。

 

久石譲短歌のルール?

正式な短歌にならって、季語のようなルールをつくろう。必ず、〈音楽にまつわる言葉やキーワードを入れる〉/〈曲名やアルバム名を入れる〉。どちらかを満たせばOKとしました。…そして数ヶ月したころ気づきました。季語のルールは俳句(五七五)だけ、短歌(五七五七七七)は季語いらないと。まあ、”音語”ルールには影響しないことです。音楽にまつわる言葉を見つけるだけでも楽しいですね。

曲を聴きながら思ったこと、思い出をふり返りながら思ったこと。具体的な日常の一場面を連想させるもの、抽象的な思いのようなもの、季節も一緒に連想させるもの。なかなかに楽しいですよ。

 

リズムを味わう

短歌をはじめてから、ふだんの生活のなかで、気に入った言葉の文字数を数えてしまうことが増えました。五文字や七文字なら、短歌に使えばポンとおさまるとか、四文字や六文字なら、うーんどう組み合わせられるかなあとか。同じように三十一文字のなかでどう区切るのか。これがパズルみたいで結構ハマります。

 

五|七|五|七|七

型どおりにきれいに区切ることもできます。たまに、おもしろいおさまり方をしてくれるものが浮かぶとうれしいです。

 

五|七五|七|七

キラキラが|こぼれてしまわないように
“White Night”|イルミネーション

五|七|五|七七

歩き指揮・|運転中の|ながら指揮
たいへん危険となっております

 

こんなふうに言葉としてつながってしまうことでリズムが面白くなる。短歌はリズムで味わうものでもあるんだなあ。そして句の区切り方の変化って、音楽的に言うとシンコペーションみたいですよね。強拍と弱拍の変化、アクセントの移動で、独特のリズム感がうまれるように。言葉も拍子(句)どおりの規則正しいリズムもあれば、変化球で独特なグルーヴ感がうまれることもある。そんな気もしてとても楽しんでいます。

 

 

ピアノ弾く人の通るステップに
Summerを弾けるようになりたい

句で区切ると

ピアノ弾く|人の通る|ステップに
Summerを弾ける|ようになりたい

意味で区切ると

ピアノ弾く人の|通るステップに
Summerを|弾けるようになりたい

 

おもしろいですよね。

 

短歌は”いま”を詠む

短歌に言葉少なに託すこと。そのときの思い、その瞬間のこと、いまここ、を詠むものです。それは日記のようですし、140文字のツイートのようです。短歌は、そこに31文字というルールがあるだけ。少ない文字数ともいえるけれど、きっちり文字数を使い切らないともいけない。この範囲のなかで、なにをどう詠めるか。過去に思い馳せて詠むものもあると思います。それでも、詠んでいる(想っている)ことは”いま”です。常に、”いま”を起点としています。

詠み人は、その短歌をつくったときの光景や感情や季節をしっかりと覚えていたりするものです。なんとなくわかる、なぜあのときあの短歌をつくったのか。自分の”いま”を短くささやかに一首ごと綴っていく、そんな記憶のあたため方も素敵だと思いませんか。

 

色彩豊かに

8色の絵の具で描く世界。限られた色で趣向を凝らし表現する世界。一方で、もっと手持ちの絵の具がふえたなら。200色の絵の具で描く世界。色彩豊かに、イマジネーション豊かに、伝わるものも豊かに。

手持ちの言葉がふえたなら。表現豊かに、コミュニケーション豊かに。『言葉は武器になる』『言葉は人をつくる』よく言われます。なにかを目指して精進するわけじゃなくても、言葉の引き出しをふやすことは、シンプルに感情を豊かにすることにつながります。

「感動した」の一言も、「心の底にあるマグマが一気に爆発した」、「僕はそのとき確実に数センチは宙に浮いていたと思う」、「新しい風が吹き込んできて、僕のなかの新しい扉を開いてしまった」なんて。

これ、言った人は言葉と一緒に体感している、そんな自分をイメージしていますよね、きっと。シンプルに、自分に合う、自分の好きな言葉を磨いていきたい。人として豊かな人に、ちょっとずつでも前進したい。

 

 

次の「久石譲を短歌で詠む 100」がいつかまたできますように。もし、おもしろそうかもと思ってくれたら、ツイッターのハッシュタグ #久石譲を短歌で詠む で一緒に詠みましょう!

それではまた。

 

 

2023.01.05 update

 

 

reverb.
a tanka; a traditional Japanese poem containing five lines of 5, 7, 5, 7 and 7 syllables, respectively, for a total of 31.

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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