Overtone.第31回 ファンサイトにあらゆるテキストを記録する5つの理由

Posted on 2020/04/21

ふらいすとーんです。

ファンサイトでは、久石譲インタビュー内容などたくさんのテキストを載せています。雑誌・新聞・Webインタビューから、CDライナーノーツ・コンサートパンフレット・映画パンフレットなど多岐にわたります。

 

なぜこんなことをするのか?

それは、もちろん久石譲の音楽活動をあらゆる角度から記録しつづけることを目的としているサイトだからです。とはいっても、決して声を大にして言えるアピールポイントではありません。誉められることでもない、微妙なバランスのなか存在することができています。このことはいつも謙虚に、感謝の気持ちでいっぱいです。

 

なぜそこまでするのか?

リスクをおかしてまで、テキストを載せつづける理由はあります。ケンカを売っているわけでも、挑発的に臨んでいるわけでもありません。僕なりの小さな信念がそこにはずっとあります。でも、その小さな信念は、僕だけの小さな正義であって、振りかざすことはできません。いつか続けられなくなる日もくるかもしれない。そう思っています。

今回は、ファンサイトを運営するにあたって、あらゆるテキストを記録する理由をお話したいと思います。言い訳がましい、弁護がましく響くかもしれません。それでもなお、しっかり自分の思うところを示すことも大切だと思い、とすすめていきます。

 

1.書写すること

書き写すことの学びは大きいです。目で追って読む読書よりも、口に出して読む音読よりも、一言一句を丁寧に書き写す作業は、記憶と吸収力の差に直結すると信じています。小学校の授業でもありましたよね。大人になっても好きな本の一節や詩を、ノートに書き残すことはあったりしますね。書くという運動をとおして、自分のからだのなかに入っていく感触や手ごたえのようなもの。

実は、最初の動機はこの一点でした。久石譲の音楽活動という長い歴史を、少しでも自分のなかに血肉として吸収したい、覚えたい。インタビューのなかに知らない言葉があれば、パソコンのページを切り替えて、すぐに調べることもできる。久石譲の口から飛び出した他作曲家やその音楽作品、気になるキーワードもまた、同じように書き写しと並行して調べることができる。そういうことを、ひとつひとつやりこなすうちに、小さな好奇心が小さな学びとなって、ぷつっぷつっと自分のからだに付随してくる感覚です。

たぶん、読むだけだと、知らないことも知らない言葉も、読み流してなんとなく前後の文脈でフィーリングで理解します。雑誌1ページのインタビューも、読むと3-5分、書くと調べると15-30分。そんなアナログな作業を、僕はとてもささやかに楽しんでいます。

 

 

2.ファイリングすること

「そういえばこの曲について、何か言ってたな。あれどの本だっけ? えーっと、時代からみてあの本かなあ…」、「えっ、本じゃない?! じゃあ雑誌かなあ、パンフレットかなあ、動画かなあ…ムリ探せない…」

本であればわりとすぐに見つけることができる内容も、それ以外のメディアに書かれたこと語られたことから探すのは本当に大変です。そうやって、忘れられていく歴史的資料も多く、それは自然の流れなのかもしれません。残らなくていい記憶や記録というものもあるでしょう。時間のフィルターで大切なことだけが残っていく。

そうか、Web上に文章をのせてしまえば、自分のための検索として探しやすくなるな。Web上にファイリングしてしまえば、アーカイブしてしまえば、いつでもサクッと探しやすくなる。自分のために始めたことです。それがほかの人の役にも立つかもしれない、という心優しいことまでは、ちっとも考えていませんでした。Webにあげるということは、公開されるということ。もちろんその責任も理解していますが、静かに記録していくだけ、そっとファイリングされていくだけ。でも、今となってはそんな無責任な立場はとれません。だったら、やるなら穴がたくさんあいたパズルよりも、できるだけ公平に完全に近いかたちで網羅していきたい。その一心です。

 

 

3.Webインタビュー

近年はWeb公開される久石譲インタビューも多いです。インフォメーションで発信メディアを紹介するだけでなく、その内容をファンサイトでもあえて同じく収めています。理由はひとつだけ、公開終了になったら見れなくなってしまうからです。パズルのピースが時間とともに自然消滅的に抜け落ちてしまう。そんな風化にあらがうように、出典元をしっかり明記したうえで、記録させてもらっています。

 

 

4.書き起こし(ラジオ・TV・動画)

ラジオ出演した内容を運良く録音できたとして、それをそのまま音源としてアップロードすることはNGです。ずいぶん悩んだのですが、意を決して音声を書き起こして記録することにしました。悩んだ理由は、シンプルに膨大な時間とエネルギーがかかるからです。

便利なITツールで、パソコンで音声を流すと、それを自動で文字起こししてくれる、そんなソフトもたくさんあります。ちょっと試したこともあります。でも、テキスト化された文章は50点くらいしかあげられません。細かく添削しないといけないなら、ゼロから書き起こしたほうが、きっと楽です。集中力も精神力もかなり鍛えられますが、海外小説を辞書片手に翻訳するような、大きくカラフルなタペストリーを黙々と織りあげるような。そんな超アナログな作業を、僕はとてもコツコツと楽しんでいます。

Web動画もWebインタビューと同じく、いつかは公開終了となってしまいます。公開中の動画URLを紹介したうえで、話していることを文字にしています。

 

Transcription from RADIO

Transcription from TV

Transcription from VIDEO

ほか

 

 

5.世界中のファンが読むことできる

あらゆるテキストを記録するなかで気づいたことがあります。そうか、喜んでもらえるかもしれないと思ったことがあります。海外の久石譲ファンです。

 

情報をさがす
日本であれば簡単に情報は探せるし、新しい情報にもすぐに気づくことができます。それをそのまま見るなり読むなり聞くなり、なんの不便もなく理解吸収できます。でも、海外の人にはむずかしい。

 

CDライナーノーツ
海外ファンは久石譲CDの日本盤を買いたいはずです。でも、買っても日本語で書かれたライナーノーツは読むことできません。もし、Web上にテキスト化されたものがあれば、翻訳ツールを使って簡単に自国語として80~90%以上の理解度で、読み楽しむことができます。

僕も海外アーティストのCDを買ったりして、そこにぎっしりとインタビューが載っているのに英語が読めない、残念な思いをすることはたくさんあります。もし読んで楽しめたなら、音楽の聴きかた・楽しみかた・感じかた、さらに大きく広がるだろうなあと。

近年、LP化された久石譲オリジナル作品シリーズや、世界同時リリースのベスト盤は、英文ライナーノーツも併記されています。日本語だけよりは、ずいぶん親切に、そして世界へ向けたメッセージになりますよね。

 

 

雑誌インタビュー
海外から雑誌を買う人まではいないと思いますが、コレクションに購入しても、写真や雰囲気を眺めることしかできません。Web上にテキスト化してしまえば、同じように翻訳ツールで読むことができます。ここで肝心なのは、CDライナーノーツにしても雑誌にしても、写真や画像でアップロードしても意味がない(その前にその行為はNGです)。ウェブテキストになっていないと翻訳できません。スキャンしてアップしてしまえばすむ簡単なことも(くりかえしその行為はNGです)、海外ファンには伝わらない。1回ボタンをおしてカシャッと1秒で終わることと、カチカチと奮闘しながら時間をかけてタイピングすること。その時間のなかにささやかな親切心のようなものを感じてもらえたら、うれしく思います。

 

書き起こし
自動で文字起こししてくれるITツールがあると紹介しました。実際に、久石譲ファンに限らず、海外ファンがお目当ての日本人を追っかけるなかで、こういったツールを駆使している人はいます。逆もまたしかりです。英語を読みあげている音声を文字化して、できあがったものを日本語に翻訳してみる。そういう使い方をしている人や分野は多いかもしれません。

でも50点なんです。とくにフリーソフトは。だったら、正確さを最大のモットーとして、日本人であることを武器として、書き起こしまでしたものを公開できたなら。きっと正しく伝わり、きっと正しく喜んでくれますよね。

 

 

近年、久石譲著書は中国などでどんどん翻訳されています。これはとてもうれしい動きです。でも、時代的にみて少し古い書籍たちになっていきます。そこにも十分な価値はあります。自国語で読めるのはなんといってもうれしいものです。リアルタイムな雑誌やラジオで「久石譲が語ったこと」は、瞬間的にはファンサイトで補ってもらいながら、長い目でみると、これから新しい久石譲著書が出版されていくといいなあと思っています。

 

◇データベース

このようにしてファンサイトのデータベースはできあがっています。もし気になることを調べたいときには、サイト内検索窓でキーワード検索してください。いろんな情報が見つかると思います。

ただし、”あいまい検索”はヒットしません。サイト内に書かれている正確なキーワードが必要です。Googleなら【ハウル動城】で《ハウルの動く城》のことだとヒットしてくれますが、こまやかな気配りは叶いません。ちゃんと【ハウルの動く城】と検索窓に入れてくださいね。

僕も気になって調べたいときに、調べるキーワードに迷走することがあります。あれ、この言葉は入ってなかったんだ…なんて言ってたっけなあ…と。

また、BiographyやDiscographyには、関連記事は紐付けているものも多いです。たとえばCD作品のページに、それにまつわるインタビュー記事をあわせて紹介しています。

 

◇正しく活用するために

久石譲が語ったことと、僕が思ったこと書いたこと。それは明確に区別しています。「久石譲はこう語っています」とテキストを抜粋紹介したうえで原典も記しています。その下や別のセンテンスで自分の文章を書いています。ごっちゃまぜにならないよう気をつけています。事実や正確性がゆがめられないように。

どうしても、それができないときもあります。そんなに多くはない、たとえばこの文章です。

 

”映画のメインテーマをロンドン交響楽団でやりたい、という久石譲の希望を実現させたのは、アビー・ロード・スタジオのチーフエンジニア、マイク・ジャレット氏です。オーケストラの手配からレコーディングのスケジュールまで。用意したのは85人編成、三管編成に6ホルン、50名のストリングスという大編成オーケストラでした。レコーディングも立ち会い機材やマイクを調整しと、当時の久石譲には欠かせない存在であり、強い絆と信頼で結ばれたパートナーです。

当時、こんなに大きな編成はコンサート用でも書いたことがなかった、という久石譲は、ロンドンに持ってきていた資料も少なく、現地でマーラーの交響曲第5番のスコアを買った。それを教科書として(音楽を真似するという意味ではなく)スコアから学びながら、図書館に通いながら書きあげたのが映画メインテーマ曲です。

ところが、1993年6月23日、マイク氏は37歳の若さで突然病気に襲われて亡くなってしまいます。一緒に制作を進めていた矢先の出来事です。アビーロードでのミックスダウンが終わったときマイク氏はこう言ったそうです。「これはハリウッドにも負けないグレートな音楽だよ」。彼の最後の仕事となったのが、久石譲とのこの映画音楽制作でした。”

Overtone.第30回 久石譲もうひとつの ”HOPE” より抜粋)

 

久石譲著書からのオリジナル文章は書き写さないこと、またこの本が絶版であること。これらを考慮して、本の数ページを要約して書いている例です。本のなかに【当時の久石譲には欠かせない存在であり、強い絆と信頼で結ばれたパートナーです。】、こんな文章はなかったはずです。同じ趣旨のことは言っていたにせよ、使っている言葉や表現は違うはずです。ここに僕の意思や伝え方が入ってしまっています。なるべくこういった方法での文章は、載せないほうがいいと思っています。ごちゃまぜになってしまうので。

 

すべては正確に知ってもらうために

もし、選り好みがはたらいてしまったら。ジブリのことはのせるけど、クラシックはのせないとか。オリジナル作品のことは追求するけど、CM音楽は興味ないとか。こうなると本末転倒です。だから、やるならできるだけ漏れのないように、穴抜けのないように。徹底的にやることが正確性と公平性の担保になると信じています。そうすることで、往年ファンだけどこのテリトリーは知らなかったという人、新しいファンで過去の活動をゆっくり探求していきたい人、海外ファンへの安心できる手引き。少しでもなにかのきっかけになれるならと思っています。

今までわからなかったことが、わかってくるとき。今まで興味のなかったことが、好奇心に変わるとき。あのときはスルーしていた久石譲の言葉が、今になって響いてくることもあります。インタビューを読み返すと、気になるポイントが変わってくることもあります。お気に入りの小説を数年後に読み返したら、感じ方や印象が以前とずいぶん変わっているように。

アーカイブすることは、過去をどんどん蓄積していくことだけじゃないと思っています。どんどん上積みされて古くなっていくものだけじゃないと思っています。アーカイブにふれることで、感じとりかたの変化した自分をもまた感じることができる。これは、ファンとしてたしかな成長や変化ともいえる瞬間です。また、あのときの点と点、久石譲の発言が活動が、時間の流れでやっと反応するように、ある日突然その重みや輝きがますこともあります。アーカイブは混ざることのない地層とはちがう、常に過去と現在を往来しています。そしていくつかの未来の方向性をさし示していることもあります。

 

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 Joe Hisaishi fan site “Hibikihajime No Heya” ~The room filled with Joe Hisaishi music~ です。《この部屋は久石譲音楽で満たされています》と表現しています。そこには音楽や音源そのものはありません。久石譲音楽をかたちづくっている大切な記録や足跡が資料館のように保管され、積み重なり溢れていったらいいなあと思っています。

それではまた。

 

reverb.
次回はつづけてテキストについて♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Info. 2020/04/17 久石譲「Nostalgia」Music Video公開

Posted on 2020/04/17

久石譲オフィシャルYouTubeチャンネルに、「Nostalgia」ミュージックビデオが公開されました。

映像を手がけたのは? そのコンセプトや想いは? じっくり見てしまう、じんわり安らいでいく、そんなMusic Videoになっています。ぜひご覧ください。 “Info. 2020/04/17 久石譲「Nostalgia」Music Video公開” の続きを読む

Blog. 「紅の豚 サウンドトラック」(LP・2020) 新ライナーノーツより

Posted on 2020/04/11

2020年3月11日、映画公開当時はLPでは発売されていなかった「魔女の宅急便」「紅の豚」の2作品のイメージアルバム、サウンドトラックに、あらたにマスタリングを施し、ジャケットも新しい絵柄にして発売されました。「魔女の宅急便」「紅の豚」各サウンドトラック盤には、前島秀国氏による新ライナーノーツが書き下ろされています。時間を経てとても具体的かつ貴重な解説になっています。

 

 

宮崎駿監督と久石譲の5本目のコラボレーション『紅の豚』の音楽は、それまでの4作品と同様、最初に久石が宮崎監督の音楽メモとイメージボードからインスピレーションを得てイメージアルバムを制作し、その後、改めて本編のサントラを作曲するという方法論で制作された。しかしながら、実際の制作過程では、それまでの4本の方法論には見られなかった2つの大きな要素が加わることで、スコア全体にユニークな特徴がもたらされた。ひとつは、ジャズという要素。もうひとつは、久石が制作した(映画と直接関係ない)オリジナル・ソロ・アルバムに宮崎監督が注目し、その収録曲をスコアの中に用いたという要素。そしてその2つは、本作の時代設定でもある1920年代という時代と密接に関わっている。

まず、イメージアルバムの段階で作曲され、本編にもそのまま登場することになったテーマとしては、《帰らざる日々》の原型にあたる《マルコとジーナのテーマ》(イメージアルバム)、《Flying boatmen》の原型にあたる《ダボハゼ》(イメージアルバム)、そして《ピッコロの女たち》の原型にあたる《ピッコロ社》(イメージアルバム)などがある。その中で最も重要な楽曲は、『紅の豚』のメインテーマとなった《帰らざる日々》、すなわち主人公の飛行士ポルコ・ロッソ(=マルコ・パゴット)とホテル経営者マダム・ジーナとの関係を表現したジャズ・ピアノのテーマだ。

オーケストラを駆使する映画音楽作曲家にして前衛的なミニマル・ミュージックの作曲家、というイメージが強い久石ではあるが、学生時代からマイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、マル・ウォルドロンの音楽を愛聴していた久石は、実はジャズ的な語法を活かした音楽も得意としており、とりわけウォルドロンのピアノから受けた影響は非常に大きい。

『紅の豚』の物語は、1920年代のイタリア・アドリア海を舞台にしながら展開していく。当時は”ジャズ・エイジ”と呼ばれるほどジャズが隆盛を極めていたので、久石が主人公マルコとジーナを表すテーマをジャズ・ピアノで表現したのは、時代考証的にも理に適った選択だと言えるだろう。実際このテーマは、酒場のピアノが演奏するジャズという設定で、本編の中で初めて流れてくる。それが本盤に聴かれる《帰らざる日々》だ。

ただし、このテーマがジャズ・ピアノで書かれた理由は、それだけではない。

ジーナは戦死した夫の戦友でもあるポルコに想いを寄せ、ポルコも彼女の感情を気付いてはいるが、さまざまな要因によって、ふたりが一線を越えることはない。ふたりの関係を仮に”ロマンス”と呼ぶにしても、その”ロマンス”は決して成就することはない。少なくとも、それがポルコにとっての男の美学であり、彼のダンディな生き方でもある。

ある程度、名作映画をご覧になっているファンならば、そうした男のダンディズムの原型を『カサブランカ』でハンフリー・ボガートが演じた主人公に見出すことが出来るだろう(ポルコが着ているトレンチコートは、明らかにボガートを意識しているし、物語の最後、ポルコが17歳の設計技師フィオを”カタギの世界”に戻すシーンは、『カサブランカ』の有名なラストへのオマージュとみなすことも可能である)。そして『カサブランカ』と言えば、ジャズのスタンダード・ナンバーとしてもおなじみの主題歌《時の過ぎ行くままに(アズ・タイム・ゴーズ・バイ)》だ。

つまり《帰らざる日々》のジャズ・ピアノのテーマは、『カサブランカ』の映画的記憶を音楽で呼び覚ます役割も担っているのである。ただし久石は、このテーマを《時の過ぎ行くままに》風に書くのではなく、あくまでも宮崎監督の世界観に即しながら、彼らしい音楽、すなわち”久石メロディ”に基づくテーマとして書いてみせた。そこがこのテーマの素晴らしい点であり、ひいては『紅の豚』を『紅の豚』たらしめている最も重要なポイントと言っても過言ではない。

イメージアルバムから生まれた他の曲について簡単に触れておくと、空賊マンマユート団のテーマ《Flying boatmen》は、軍隊行進曲の一種のパロディとして書かれている。勇敢なようで、どこか間の抜けた空賊たちのキャラクターを巧みに表現した楽曲だ。ピッコロ社で働く女工たちの陽気なテーマ《ピッコロの女たち》は、途中からマンドリンが演奏に加わるが、その楽器の選択がイタリアという舞台設定を反映しているのは言うまでもない。

『紅の豚』のイメージアルバム制作とほぼ並行する形で、久石は自身のソロ・アルバム『My Lost City』を1992年2月にリリースした。当時久石が愛読していたF・スコット・フィッツジェラルドの作品にインスパイアされ、フィッツジェラルドが描いた1920年代、つまり”ジャズ・エイジ”の時代をテーマにした作品である(アルバム名もフィッツジェラルドのエッセイ集のタイトルに由来)。『紅の豚』も同様に1920年代を舞台にしているが、『My Lost City』の時代設定はあくまでもフィッツジェラルドに由来するものであって、決して『紅の豚』から着想したわけではない。にも拘らず、自分のソロ・アルバムと宮崎監督の最新作が偶然にも同じ時代を扱っていることに、久石は「とても運命的なものを感じた」という。

『My Lost City』リリース後、久石は完成したばかりの『紅の豚』のイメージアルバムと共に、自分の最近の音楽活動の例として『My Lost City』を宮崎監督に贈った。『My Lost City』を聴いた宮崎監督はその音楽を気に入ったばかりか、「あの曲が欲しい。全部『紅の豚』に欲しい」「イメージアルバムと『My Lost City』を取り替えてください」と自分の希望を久石に伝えた。ここから、『紅の豚』のサントラが大きな発展を遂げ始める。

物語中盤、ポルコは秘密警察から逃れるため、まだテスト飛行も終えていない飛行艇サボイアをアクロバティックに操縦し、ミラノの運河から離陸を試みる。そのシーンにまだ音楽が付いていなかった段階で、宮崎監督の提案により、『My Lost City』収録曲のひとつ《Madness》をテスト的に当てはめてみると、まるで初めからこのシーンのために書かれていたかのように映像と音楽が見事にハマり、スタッフ全員が驚嘆した。それが本盤に聴かれる《狂気 ー飛翔ー》である(サントラ収録に際しては、オリジナル音源に若干の編集が施されている)。

《狂気 ー飛翔ー》すなわち《Madness》は、ピアノ・ソロが正気の沙汰とは思えない(=Madness)速いパッセージを演奏する、一種のトッカータとして書かれている。なぜ久石がそのような音楽を書いたかと言えば、『My Lost City』制作当時、日本のバブル経済が達していた崩壊寸前の”狂乱”状態と、1929年の世界大恐慌直前まで人々が浮かれていたジャズ・エイジの”狂騒”が重なり合うのではないかと、アーティストとしての久石の本能が敏感に反応したからである。わかりやすく言えば、《Madness》は「こんな綱渡りみたいな曲芸に浮かれているなんて、日本のバブルは正気の沙汰じゃないよ」と警鐘を鳴らした音楽だ。その音楽が表現している”曲芸”の危うさを、宮崎監督は文字通りアクロバティックな飛行シーンのスリルに読み替えたのである。宮崎監督の眼識の鋭さ、久石の音楽に対する理解の深さが現れた一例と言えるだろう。

さらに『My Lost City』からはもう1曲、《1920~Age of Illusion》と題されたトラックが骨格となり、ポルコが空賊退治に出かけるオープニングシーンの楽曲《時代の風 ー人が人でいられた時ー》が生まれた。原曲にはなかった、激しく上行と下行を繰り返すミニマル風の音形を弦楽器が演奏することで、映画全体の要となる”飛翔感”が見事に表現されている。

この他、本編においては、フルートとマンドリンでイタリア的な情緒を表現したフィオのテーマ《Fio-Seventeen》、ポルコとフィオが飛行艇から見下ろす、アドリア海沿岸の牧歌的な風景をクラリネットのワルツで表現した《Friend》、ジーナの最初の夫ベルリーニが天空の雲に吸い込まれていく幻想的な光景をフェアライトの儚いシンセサイザーで表現した《失われた魂 ーLOST SPIRITー》など、いくつもの忘れ難い楽曲が登場する。しかしながら、基本的には先に述べた2つの要素、すなわちジャズと『My Lost City』という要素が、『紅の豚』を単なる飛行機アクションに終わらせず、映画としての深みをもたらすことに貢献した最大の音楽的要素ではないかと筆者は考えている。

本盤の最後には、本編でジーナの声を担当した歌手・加藤登紀子のヴォーカル曲が2曲収録されている。まず、先に触れた酒場のシーンで、ジーナが歌うシャンソンの《さくらんぼの実る頃》。パリ・コミューンの一員だったジャン=バティスト・クレマンが書いた詞に歌手アントワーヌ・ルナールが曲を付けたもので、クレマンはこの曲をコミューンの女性衛生部隊員に捧げた。クレマンの歌詞は、表面的にはさくらんぼの実る頃、つまり春に経験した恋煩いとその苦い結末を振り返った内容となっているが(ジーナもその歌詞に自分の心情を託している)、パリ・コミューン崩壊後、このシャンソンは”革命の挫折”という文脈でパリ市民たちに歌われるようになった。そしてエンドロールで流れる《時には昔の話を》は、1987年の加藤のアルバム『MY STORY/時には昔の話を』収録曲がオリジナル。偶然かもしれないが、歌詞の中にはスタジオジブリの社名の由来にもなった「熱い風」(イタリア語ではGhibli=ジブリ)という言葉が出てくる。

前島秀国 Hidekuni Maejima サウンド&ヴィジュアル・ライター
2020/1/10

(LPライナーノーツより)

 

 

 

 

紅の豚/サウンドトラック

品番:TJJA-10023
●主題歌「さくらんぼの実る頃」、エンディング・テーマ「時には昔の話を」歌:加藤登紀子
アコースティックなサウンドにこだわって約70名のフルオーケストラで録音。(初版1992.7.25)

SIDE-A
1. 時代の風 -人が人でいられた時-
2. MAMMAIUTO
3. Addio!
4. 帰らざる日々
5. セピア色の写真
6. セリビア行進曲
7. Flying boatmen
8. Doom-雲の罠-
9. Porco e Bella
10. Fio-Seventeen
11. ピッコロの女たち
12. Friend
13. Partner ship
SIDE-B
1. 狂気 -飛翔-
2. アドリアの海へ
3. 遠き時代を求めて
4. 荒野の一目惚れ
5. 夏の終わりに
6. 失われた魂-LOST SPIRIT-
7. Dog fight
8. Porco e Bella-Ending-
9. さくらんぼの実る頃
10. 時には昔の話を

音楽/久石譲
歌/加藤登紀子(SIDE-B M9 & M10)

 

Blog. 「魔女の宅急便 サントラ音楽集」(LP・2020) 新ライナーノーツより

Posted on 2020/04/11

2020年3月11日、映画公開当時はLPでは発売されていなかった「魔女の宅急便」「紅の豚」の2作品のイメージアルバム、サウンドトラックに、あらたにマスタリングを施し、ジャケットも新しい絵柄にして発売されました。「魔女の宅急便」「紅の豚」各サウンドトラック盤には、前島秀国氏による新ライナーノーツが書き下ろされています。時間を経てとても具体的かつ貴重な解説になっています。

 

 

宮崎駿監督と久石譲の4本目のコラボレーションとなった『魔女の宅急便』は、スコア全体に聴かれるメロディアスな曲想と、多彩な独奏楽器の使用が見事にマッチした作品である。そうした作曲の方法論を選択した理由について、久石自身が著書『I am 遥かなる音楽の道へ』で具体的に語っているので、まずはそれを引用する。

”「『魔女の宅急便』は、主人公の女の子が親から自立して、さまざまな困難を乗り越えて成長していく姿を描いている。だから、心情的なマイナーな──短調の──音楽をできるだけやめ、明るい音楽だけにした。それが宮崎さんと高畑さんの狙いだった。(中略)この作品では、あらかじめ松任谷由実さんの「やさしさに包まれたなら」がテーマ曲に決まっていたから、僕もそれを中心に音楽を組み立てていった。だから、いわゆる久石メロディとは違った、ポップス・メロディに非常にちかいものになり(中略)具体的なメロディ・ラインをもっている曲がとても多い。(中略)舞台は北欧、主人公は魔女という設定ではあるけれど、実際に舞台となる街には、なにか現実の地中海地方の雰囲気があった。だから、音楽も、あの地方の民族舞曲の要素を採り入れて、地中海的なニュアンスのものにしてみた。そのため、これまでの宮崎作品ではあまり使ったことがない、アコーディオンとかギターとかいった楽器を多用した」”(久石譲『I am 遥かなる音楽の道へ』69-71ページ)

この作曲家自身の言葉に音楽の本質的な部分がすべて語り尽くされているが、敢えてそこに説明を付け加えるならば、オカリナ、アコーディオン、そして数々の木管楽器など、息=風(ウィンド)を吹き込む楽器がスコアの中で多用されているという特徴を挙げることが出来る。”息=風”は、主人公キキがホウキに跨って飛ぶ”空の風”の象徴であり、彼女が暮らすコリコの街に漂う”空気感”の象徴であり、ひいては彼女自身の”生命の息吹”、つまり生命力の象徴でもある。もし、リスナーが本盤を聴いて「元気づけられる」「精一杯生きてみたくなる」と感じたら、それは久石がキキの成長物語を音楽で表現しながら、人間の生命力を肯定的に讃えているからだ。

音楽の制作過程を概観しておくと、まず公開1年前の1988年7月に第1回音楽打ち合わせが持たれたが、本編の制作進行スケジュールが非常にタイトだったため、高畑勲が音楽演出(ハリウッドのミュージック・スーパーバイザーに相当する)を引き受けることになった。翌1989年4月に『魔女の宅急便 イメージアルバム』をリリース後、5月から本格的なサントラ制作の打ち合わせが始まったが、その時点で本編が前半分のパートまでしか完成しておらず、しかも久石のソロ・アルバム『PRETENDER』ニューヨーク録音のスケジュールが重なってしまったため、1ヶ月間作業が中断。6月に帰国後、久石は追加作曲と編曲を瞬く間に仕上げ、7月頭にフル・オーケストラの楽曲を収録。そして7月29日の全国公開に間に合わせるという、現在では考えられない綱渡りのスケジュールで完成した。たとえ魔法使いのキキであっても、そんな”魔法”は不可能だろう。しかし、完成したサントラはタイトなスケジュールの痕跡を全く感じさせない、伸びやかで幸福な音楽が展開している。

以下、本盤収録曲を概説していく。

本編冒頭、キキが旅立ちを決意するシーンで流れる《晴れた日に…》(イメージアルバムでは《世界って広いわ》)は、本作でメインテーマの役割を果たすワルツの楽曲。オカリナとオーボエでメロディが導入された後、アコーディオン、マンドリン、ツィンバロンなど、地中海な音楽を連想させる楽器が多用されている。

彼女の旅立ちを家族や隣人たちが見送るシーンの《旅立ち》(イメージアルバムでは《かあさんのホウキ》)は、アコーディオンが”郷愁”を感じさせる、しっとりとしたテーマ。

次の《海の見える街》は、イメージアルバムの《風の丘》と《ナンパ通り》をベースにした楽曲。前半部の《風の丘》の部分は、キキの目に映った街のよそよそしさを反映するかのように、木管と弦のピツィカートがメロディを折り目正しく演奏する。バッハ風の間奏をはさみ、人々がキキの姿に感嘆の声を上げる後半部の《ナンパ通り》の部分になると、ギターやカスタネットを多用したフラメンコ風の音楽となり、キキの躍動感と期待感を表現する。

キキが忘れ物を届けに行くシーンの《空とぶ宅急便》は、メインテーマがベース。

彼女が、オソノさんのパン屋で働き始めるシーンの《パン屋の手伝い》(イメージアルバムでは《パン屋さんの窓》)は、アコーディオンを用いたコンチネンタル・タンゴのスタイルで書かれた楽しい楽曲。実質的には、オソノさんのテーマと見ることが出来る。

曲名通りのシーンで流れる《仕事はじめ》(イメージアルバムでは《元気になれそう》)は、民謡風のメロディを特徴とするシンセサイザーの楽曲。

「トムとジェリー」風のアニメの音楽という設定で流れてくる《身代わりジジ》(イメージアルバムでは《リリーとジジ》)は、調子っぱずれのホンキートンク・ピアノがユーモラスな楽曲。作曲者がのちに語ったところによれば、20世紀前半のアメリカで流行したディキシーランド・ジャズを意識した曲だという。

どこかのんびりしたチューバが老犬ジェフの緩慢な仕草を表現した《ジェフ》は、曲名通りジェフのテーマ。中間部には、軍楽隊風にアレンジされたメインテーマのワルツも登場する。

《大忙しのキキ》と《パーティーに間に合わない》の2曲は、上述の《海の見える街》後半部のフラメンコ風の音楽を基にした楽曲。

《オソノさんのたのみ事…》は、《旅立ち》のテーマをヴァイオリンとアコーディオンのソロでしんみりと演奏したバージョン。

キキと仲良くなった少年トンボが、彼女をプロペラ自転車に乗せて走るシーンの《プロペラ自転車》(イメージアルバムでは《トンボさん》)は、実質的には、トンボのテーマ。後半、ふたりを乗せた自転車が宙に浮かぶと、どこか田舎臭いワルツの音楽に変わる。

《とべない!》は、キキの魔法が弱くなり、飛べなくなってしまうシーンのために書かれたサスペンス音楽。本編では未使用となったが、彼女が直面する危機を表現した「危機のテーマ」と言える。

トンボからの電話にもまともに答えず、ひとり部屋に籠もってホウキを作るシーンの《傷心のキキ》(イメージアルバムでは《町の夜》)は、本編全体の中で唯一登場する「心情的なマイナー(短調)」の音楽。ただし、楽曲後半にアコーディオンやマンドリンが登場することで、本作の他の(長調の)楽曲と世界観の統一が図られている。

絵描きの少女ウルスラの誘いに応じ、キキが森の中のウルスラの小屋に泊まりに行くシーンの《ウルスラの小屋へ》は、メインテーマのワルツをほぼそのまま再現することで、キキが魔法を取り戻すきっかけを見出したことを暗示している。

その小屋の中でウルスラがキキを励ますシーンの《神秘なる絵》は、本作全体の中でも特にユニークな存在感を放っている楽曲で、オカリナ風のシンセによって演奏される。オカリナは、数あるウインド・インストゥルメント(管楽器)の中でも、最もシンプルかつプリミティブな楽器のひとつである。どこか太古の響きを感じさせる音色は、生命の根源そのものの象徴であり、わかりやすく言えば生命力そのものを象徴している。そのオカリナの音色をこのシーンに用いることで、人間としての自然治癒、自己回復を表現した楽曲と見ることが出来る。

《暴飛行の自由の冒険号》は、先に触れた未使用曲《とべない!》、つまり「危機のテーマ」をテンポを速めてアレンジした楽曲。本編では用いられなかった後半部では金管セクションが加わり、いやが上にもサスペンスを盛り上げる。

《おじいさんのデッキブラシ》は、飛行船に取り残されたトンボをキキが救いに向かうアクション・シーンのために書かれたが、最終的に本編未使用となった。《海の見える街》前半部のテーマを007風にアレンジした活劇調の音楽で、手に汗握るスリルとサスペンスを見事に表現した、本盤の中で最も聴き応えのある楽曲である。

そして物語の最後は、メインテーマのワルツを回帰させた《デッキブラシでランデブー》で華やかに締め括られる。

なお、『魔女の宅急便』公開30周年にあたる2019年8月、久石は本盤収録曲から《空とぶ宅急便》《オソノさんのたのみ事…》《ウルスラの小屋へ》を除く全曲をオーケストラ用に再構成した《交響組曲「魔女の宅急便」》を世界初演した。おそらく今後は、その形での演奏の機会が増えてくると思われる。

本盤の最後には、松任谷由実(荒井由実名義)が歌う挿入歌《ルージュの伝言》と《やさしさに包まれたなら》が収録されている。

まず、オープニング・タイトルにおいて、キキがホウキで飛びながら聴き入るラジオの曲、という設定で流れてくる《ルージュの伝言》(1975)のオリジナルは、松任谷のサード・アルバム『COBALT HOUR』収録曲。そしてエンディングで流れてくる《やさしさに包まれたなら》(1974)のオリジナルは、もともと不二家ソフトエクレアのCM曲として書かれた楽曲である。前者はフィフティーズのロカビリースタイル、後者はカントリーミュージックのスタイルでアレンジされており(いずれも松任谷正隆が担当)、それが特定の時代に縛られない本作独自の世界観にマッチしていると言えるだろう。

前島秀国 Hidekuni Maejima サウンド&ヴィジュアル・ライター
2020/1/10

(LPライナーノーツより)

 

 

 

 

魔女の宅急便/サントラ音楽集

品番:TJJA-10021
●挿入歌「ルージュの伝言」「やさしさに包まれたなら」歌:荒井由実
※「ルージュの伝言」は映画バージョン
映画で使用された楽曲をすべて収録したサントラ音楽集。(初版1989.8.10)

SIDE-A
1. 晴れた日に…
2. 旅立ち
3. 海の見える街
4. 空とぶ宅急便
5. パン屋の手伝い
6. 仕事はじめ
7. 身代りジジ
8. ジェフ
9. 大忙しのキキ
10. パーティに間に合わない
SIDE-B
1. オソノさんのたのみ事
2. プロペラ自転車
3. とべない!
4. 傷心のキキ
5. ウルスラの小屋へ
6. 神秘なる絵
7. 暴飛行の自由の冒険号
8. おじいさんのデッキブラシ
9. デッキブラシでランデブー
10. ルージュの伝言
11. やさしさに包まれたなら

音楽/久石譲
歌/荒井由実(SIDE-B M10 & M11)

 

Info. 2020/07/22 「もののけ姫」サントラ等 初のアナログ盤リリース決定!

Posted on 2020/04/11

「もののけ姫」サントラ等 初のアナログ盤リリース決定!

大好評発売中の「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「魔女の宅急便」「紅の豚」のLP盤に続き、「もののけ姫」のLP盤の発売が遂に決定! “Info. 2020/07/22 「もののけ姫」サントラ等 初のアナログ盤リリース決定!” の続きを読む

Info. 2020/05/30,31 「日比谷音楽祭 2020」久石譲出演決定 【中止 4/9 Update!!】

Posted on 2020/03/27

5月30日(土)・5月31日(日)に東京・日比谷公園で開催される<日比谷音楽祭 2020>が、第2弾出演者を発表。あわせて新型コロナウイルスの拡大防止対応に関する方針を決定した。

<日比谷音楽祭>は亀田誠治が実行委員長を務め、“フリーで誰もが参加できる、ボーダーレスな音楽祭”として開催されるイベント。 “Info. 2020/05/30,31 「日比谷音楽祭 2020」久石譲出演決定 【中止 4/9 Update!!】” の続きを読む

Info. 2020/04/06 久石譲×麻衣「いのちの名前」SNS動画公開

Posted on 2020/04/06

久石譲と麻衣によるライブ動画「いのちの名前」(映画『千と千尋の神隠し』より)が、公式SNSで動画公開されました。

新型コロナウィルスで自粛要請のつづく週末に、”stay at home”のメッセージとともに届けられました。

ぜひご覧ください。 “Info. 2020/04/06 久石譲×麻衣「いのちの名前」SNS動画公開” の続きを読む

Info. 2020/04/05 「Philip Glass/Joe Hisaishi: Les Enfants Terribles」from MF vol.6 コンサート動画公開

Posted on 2020/04/05

久石譲公式Youtubeチャンネルより、コンサート動画が公開されました。

2019年10月25日開催「久石譲 presents ミュージック・フューチャー Vol.6」コンサートより、「Philip Glass/Joe Hisaishi: Les Enfants Terribles」のライヴ映像です。 “Info. 2020/04/05 「Philip Glass/Joe Hisaishi: Les Enfants Terribles」from MF vol.6 コンサート動画公開” の続きを読む

Info. 2020/03/25 久石譲、アレクサンドル・デスプラ、ソルレイの特別鼎談 (Web Mikikiより)

Posted on 2020/03/25

久石譲、アレクサンドル・デスプラ、ソルレイの特別鼎談――川端康成生誕120周年記念オペラ『サイレンス』日本初演を記念して

ボーダーレス室内オペラ川端康成生誕120周年記念作品
『サイレンス』日本初演を記念して

川端康成の短編『無言』を原作に用い、フランスを代表する映画音楽作曲家アレクサンドル・デスプラが、公私にわたるパートナーでもあるソルレイ(ドミニク・ルモニエ)と共に作り上げたオペラ『サイレンス』。1月25日の神奈川県立音楽堂での上演には、デスプラの14年来の友人であり、彼の音楽を高く評価している作曲家・久石譲も駆けつけた。終演後の興奮も冷めやらぬまま、デスプラ、ソルレイ、久石が熱く語り合った鼎談をお届けする。 “Info. 2020/03/25 久石譲、アレクサンドル・デスプラ、ソルレイの特別鼎談 (Web Mikikiより)” の続きを読む

Overtone.第30回 久石譲もうひとつの ”HOPE”

Posted on 2020/03/24

ふらいすとーんです。

久石譲と”HOPE”

2016年フィギュアスケート羽生結弦選手がFS楽曲として使用し「Hope&Legacy」と名づけられた曲。久石譲「View of Silence」「Asian Dream Song」ふたつの楽曲を組み合わせた曲は、過去の名曲を新しい作品として蘇らせた印象的なトピックです。

 

  • ふたつの楽曲について(制作エピソード, CD・DVD収録作品)
  • 1998年長野パラリンピック冬季競技大会 プロデュース, テーマ曲
  • 久石譲が大会テーマに掲げた「Hope&Legacy 希望と遺産」
  • 1998年羽生選手がフィギュアスケートを始めた年
  • 2016年約10年ぶりにコンサート披露されたふたつの楽曲
  • フィギュア音響デザイナーが明かす「Hope&Legacy」誕生秘話

 

このあたりのことはまとめていますので、ゆっくりじっくり紐解いてみてください。

 

 

 

久石譲ともうひとつの”HOPE”

今回のお話はこちらです。

 

もうひとつの”HOPE”ってどの曲?

”HOPE”その象徴的な時代は?

「Two of Us」コンサートプログラムのわけ?

 

この大きく3つのことを、時代の流れにそって見ていきたいと思います。

 

 

映画『水の旅人 侍KIDS』(1993)

1990年代初頭、久石譲は音楽制作の拠点をロンドンにおいていました。この時期いくつかのオリジナルアルバムと映画サウンドトラックが制作されています。そのなかのひとつに、映画『水の旅人 侍KIDS』の音楽があります。

映画のメインテーマをロンドン交響楽団でやりたい、という久石譲の希望を実現させたのは、アビー・ロード・スタジオのチーフエンジニア、マイク・ジャレット氏です。オーケストラの手配からレコーディングのスケジュールまで。用意したのは85人編成、三管編成に6ホルン、50名のストリングスという大編成オーケストラでした。レコーディングも立ち会い機材やマイクを調整しと、当時の久石譲には欠かせない存在であり、強い絆と信頼で結ばれたパートナーです。

当時、こんなに大きな編成はコンサート用でも書いたことがなかった、という久石譲は、ロンドンに持ってきていた資料も少なく、現地でマーラーの交響曲第5番のスコアを買った。それを教科書として(音楽を真似するという意味ではなく)スコアから学びながら、図書館に通いながら書きあげたのが映画メインテーマ曲です。

ところが、1993年6月23日、マイク氏は37歳の若さで突然病気に襲われて亡くなってしまいます。一緒に制作を進めていた矢先の出来事です。アビーロードでのミックスダウンが終わったときマイク氏はこう言ったそうです。「これはハリウッドにも負けないグレートな音楽だよ」。彼の最後の仕事となったのが、久石譲とのこの映画音楽制作でした。

『水の旅人 侍KIDS オリジナル・サウンドトラック』CDライナーノーツのクレジットには、こう刻まれています。

 

Produced by JOE HISAISHI

All Songs composed and arranged by JOE HISAISHI

Recorded and Mixed by
MIKE JARRATT (for Abbey Road Studios)
Steve “Barney” Chase (for THE TOWNHOUSE)
SUMINOBU HAMADA (for Wonder Station)
TORU OKITSU (for Wonde Station)

Recorded and Mixed at
Abbey Road Studios , Air Studios , Lyndhurst Hall , Wonder Station
Avaco Creative Studios , Kawaguchiko Studio

Performed by
London Symphony Orchestra [1,7,16]

Dedicated to memory of MIKE JARRATT

久石譲 『水の旅人 オリジナル・サウンドトラック』

 

そして、映画エンドロール、最後に大林宣彦監督のクレジットが流れるその前に、CDと同じ追悼クレジットがしっかりと刻まれています。

 

 

オリジナルアルバム『地上の楽園』(1994)

CDライナーノーツには、物語風のエピソードが記されています。

そのなかに、

”例えば「HOPE」あのビル・ネイソンが詞を書いて歌ってもいるよ。すごくいい仕上がりだ。きっと君も気に入るはずだ。もともと「HOPE」は19世紀のイギリスの画家ワッツが描いたものなんだけど、地球に座った目の不自由な天女がすべての弦が切れている堅琴に耳を寄せている。でもよく見ると細く薄い弦が一本だけ残っていて、その天女はその一本の弦で音楽を奏でるために、そしてその音を聞くために耳を近づけている。ほとんど弦に顔をくっつけているそのひたむきな天女は、実は天女ではなく”HOPE”そのものの姿なんだって。いいだろう、だからほんとはその絵をこのアルバムのジャケットにしたかったんだよ。何故か無理だったけどね。”

(『地上の楽園』CDライナーノーツより 抜粋)

 

ここで登場するのがこの絵です。

 

HOPE 地上の楽園

「Hope」(1886)
GEORGE FREDERIC WATTS
Oil on canvas, 142.4×111.8cm
Tate Gallery (N 01640)

 

収録曲「HOPE」についてもこう書かれています。

 

4. HOPE
その日、僕はテイトギャラリーにある「HOPE」の前に立った。1886年、WATTSが描いたそれはいつもと変わりなく僕を迎える。地球に座った目の不自由な天女「HOPE」が奏でる音楽を聞きたいと君はいった。

(『地上の楽園』CDライナーノーツより 抜粋)

 

 

絵と曲がつながりました。

 

この曲、実は「水の旅人 メインテーマ」と同じ曲なんです。

まったく曲調も雰囲気も違うので、またインスト曲とボーカル曲なので、突然そんなこと言われても、そうだったっけ? と半信半疑かもしれません。今から、Aメロ・Bメロ・サビ・間奏と、ふたつの曲を線でつながていきます。そう言われればそう聴こえてくるかも…。そんなレベルじゃありませんよ。ちゃんと同じ原石から分かれた、いわば二卵性双生児のようなふたつの曲。

 

ぜひ『地上の楽園』CD盤をひっぱり出してきてください。

 

地上の楽園

 

「HOPE」
Aメロ(00:25~00:59)
Bメロ(01:00~01:20)
サビ(01:21~01:37)
間奏(02:45~03:18)

それぞれのパートが一致していきます。

「Water Traveller」(水の旅人 メインテーマ)
Aメロ(01:36~02:23)
Bメロ(02:24~02:50)
サビ(04:41~05:31)
間奏(05:49~06:34)

となります。

「Water Traveller」の印象的な主題(サビのようなもの)であり幾度登場する旋律(00:26~01:09)は、「HOPE」には使われていません。

「HOPE」のサビとなっている旋律は、「Water Traveller」の中間部パートにあたるという離れ業。さらには、「HOPE」間奏はコード進行もまったく違うので一致しにくいですが、シンセストリングスで鳴っている旋律が「Water Traveller」ではホルンの旋律、まったく同じです。

 

Joe Hisaishi – Water Traveller

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

『長野パラリンピック支援アルバム HOPE』(1998)

CDライナーノーツには、このようなメッセージが記されています。

 

”長野パラリンピックは、アジアで初めて開催される冬季競技大会であり、20世紀最後の大会となります。大きな時代の変わり目の時、開会式は希望「HOPE」をテーマにしました。

そして、このテーマの出発点となったのが、フレデリック・ワッツの描いた一枚の絵「HOPE」です。今回このアルバムに参加して頂いたアーティストには、この絵を見てもらったイメージから新曲を作って頂いたり、演奏して頂いたりしています。”

(『長野パラリンピック支援アルバム HOPE』CDライナーノーツより 抜粋)

 

収録曲のなかに「HOPE」や「Water Traveller」は含まれていませんが、1990年代の久石譲音楽活動において、ひとつのテーマとなっていたのが”HOPE”であることがわかります。大会テーマ曲「旅立ちの時 ~Asian Dream Song~ / 宮沢和史 with 久石譲」はこのアルバムに収録されています。

 

久石譲 『長野パラリンピック支援アルバム HOPE』

 

 

「HOPE & LEGACY 希望と遺産」

長野パラリンピックの開会式は「Hope 希望」をテーマに、閉会式は「Hope & Legacy 希望と遺産」をテーマに行われました。久石さんは式典の総合プロデューサーを務めていました。開会式フィナーレでは、盛大な演出のもと「旅立ちの時 ~Asian Dream Song~」が披露されています。

 

『Melodyphony メロディフォニー ~Best of JOE HISAISHI〜』(2010)

2009~2010年、久石譲は音楽活動の両軸である作家性と大衆性の集大成となる、それぞれふたつのアルバムを完成させます。『Minima_Rhythm』(2009)と『Melodyphony』(2010)です。

『Minima_Rhythm』のエピソードでは、こう語っています。

 

-アビー・ロード・スタジオへの想い

久石:
僕がロンドンに住んでいた頃、アビー・ロード・スタジオにマイク・ジャレットというとても親しいチーフエンジニアがいたんです。一緒にレコーディングをすることも多く、本当に信頼の置ける人物だったのですが、惜しいことに若くしてガンで亡くなってしまった。彼の最後のセッションが僕との仕事で、ロンドン交響楽団演奏による『水の旅人』のメイン・テーマのレコーディングだったんです。そのときはエアー・スタジオのリンドハース・ホールで録ったんですが。そしてマイクは亡くなり、僕はロンドンを引き払った。そのあたりのことは『パラダイス・ロスト』という本にかなり詳しく書いています。その後、ロンドンでのレコーディングは何度もしたんだけど、アビー・ロード・スタジオでのレコーディングは避けた。ちょっと行くのがきつかった……。

数年前、『ハウルの動く城』のとき、チェコ・フィルハーモニー交響楽団でレコーディングしたものを、アビー・ロード・スタジオでサイモン・ローズとMixしたんです。それが久しぶりでしたね。そのとき、このスタジオに戻ってきたなぁという感慨があって、スタジオの隅、地下のレストラン、どこもマイクの遺していった匂いのようなものが感じられた。イギリス人独特のユーモアや品の良さ、クリエイティブな匂いとでもいうのかな。

そして今回、僕としては最も大切なレコーディングになるので、それはアビー・ロード・スタジオ、そしてロンドン交響楽団しか考えられなかったのです。マイクの亡き後も、アビー・ロード・スタジオでは伝統がきちんと引き継がれています。マイクのアシスタントだったサイモンは、今はジョン・ウィリアムズ等を録る一流のエンジニアになっているし、今回のエンジニアのピーター・コビンは、マイクの抜けた穴を埋めるべく、オーストラリアのEMIからスカウトされた。高い水準を維持するために。

Blog. 久石譲「Orchetra Concert 2009 Minima_Rhythm tour」コンサート・パンフレットより 抜粋)

 

 

そして、『Melodyphony』では、

 

”ロンドン交響楽団とは、15年くらい前に、「水の旅人 -侍KIDS」という映画のテーマ音楽を録ったんですね。また昨年には、前作となる「ミニマリズム」の録音も行いました。日本以外で音楽を表現できる場として、ロンドンでの活動がまた復活したというのがうれしいですね。

私には、大きな夢が2つありました。一つは、芸術家としての自分が追い求める、ミニマル・ミュージックをテーマとしたアルバムを完成させること。この目標は、昨年の時点で「ミニマリズム」というアルバムを完成させることで実現しました。ただそれだけではなくてもう一つ、これもやはり自分が長年続けてきた映画音楽やテレビ・ドラマのサウンド・トラックに代表されるメロディアスな音楽を、オーケストラを使って録りたいと去年からずっと思っていたんですよ。つまり、作家としての自分と、メロディー・メーカーとしての自分の両方を生かしたいというか。去年の「ミニマリズム」の録音時に書いていたノートを引っくり返してみると、両方の種類の音楽についてのメモを残しているんですね。年が明けて考えてみて、やはりこれは両方あってこそ自分の姿ではないか、と強く思うようになって。「ミニマリズム」と「メロディフォニー」の2つを持って、自分をすべて表現できるという気持ちです。”

Blog. 久石譲 「ミニマリズム」「メロディフォニー」 Webインタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

あえて距離をとっていたアビー・ロード・スタジオへの想い、自身の大切な作品となる『Minima_Rhythm』と『Melodyphony』を、ふたたびイギリスへ行き、ロンドン交響楽団で録音したかったという強い想いが伝わってくるエピソードです。

宮崎駿監督作品、北野武監督作品をはじめ、多彩で人気のあるメロディたちがたくさんあるなか、「Water Traveller(水の旅人 メインテーマ)」がしっかり選ばれ、15年前と同じロンドン交響楽団によって『Melodyphony』に収録されたこと。

『Melodyphony』から10年後の2020年、久石譲が世界に向けてリリースしたベストアルバム『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』にも収録されている「Water Traveller」。久石譲ファンにとっても人気のある曲、コンサートでもたびたび演奏される曲、そして久石譲にとっても特別な一曲なのかもしれませんね。

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

【Hope】for Piano and Strings
View of Silence
Two of Us
Asian Dream Song

「久石譲 ジルベスターコンサート 2016」のプログラムでサプライズの演目です。久石譲ピアノと弦楽合奏による3つの楽曲からなるコーナー。冒頭で紹介したフィギュアスケート羽生結弦選手の「Hope&Legacy」が世界中に感動をあたえた年、その同じ年の大晦日に披露された息を吹き返した名曲たち、象徴的な出来事でした。

 

久石譲のコメントには、

”弾き振り(ピアノを弾きながら指揮もする)に初挑戦します。そのためこのコーナーはすべて新しくオーケストレーションし直しました。

その弾き振りの「HOPE」というコーナータイトルは長野パラリンピックのときに作った応援アルバムのタイトルからとりました。折しもフィギュアスケートの羽生結弦さんが今年の演目で採用している楽曲が2曲含まれます、お楽しみに。”

Blog. 「久石譲 ジルベスターコンサート 2016」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

ふむふむ。よくわかります。それじゃ、「View of Silence」と「Asian Dream Song」にはさまれた「Two of Us」、どうしてこの曲が選ばれたんだろう?  それを紐解くヒントもまた、”HOPE”というテーマにあり、マイク・ジャレット氏との共同作業のなかにありそうです。1990年代前半のディスコグラフィーから、クレジットでわかっているものをピックアップします。

 

久石譲 i am
1991.2.22
I am

Recorded at:
Abbey Road Studio London
Taihei Recording Studio Tokyo
Music Inn Yamanakako Studio Yamanashi
Wonder Station Tokyo

 

My Lost City 久石譲
1992.2.12
My Lost City

Recorded at Abbey Road Studio, London etc
Recording Engineer:Mike Jarratt (Abbey Road Studio)

 

久石譲 Symphonic Best Selection
1992.9.9
Symphonic Best Selection

Recording & Mixing Engineer:Mike Jarratt (Abbey Road Studio)
Mixed at Wonder Station, Tokyo

「完全決定ではないんですが、このライヴをやった時には、一応ライヴ盤も作ってみようという発想はあったんです。ただああいうクラシックの形態だと後で手直しがきかないんですよ。ですから、上がったもののクオリティによって出すか出さないかを最終的に決めようというスタンスはとってたんです。ただ、録るということに対する最大限の努力としてアビー・ロード・スタジオのチーフ・エンジニアのマイク・ジャレットを呼んだりとか、サウンドのクオリティが高いものになるよう万全は期したつもりです。」

Blog. 「キーボード・マガジン 1992年10月号」「Symphonic Best Selection」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

久石譲 Sonatine ソナチネ
1993.6.9
Sonatine ソナチネ

Mastered at Abbey Road Studios

 

久石譲 水の旅人 オリジナル・サウンドトラック
1993.8.4
水の旅人 -侍KIDS- オリジナル・サウンドトラック

Recorded and Mixed by
MIKE JARRATT (for Abbey Road Studios)
Steve “Barney” Chase (for THE TOWNHOUSE)
SUMINOBU HAMADA (for Wonder Station)
TORU OKITSU (for Wonde Station)

Recorded and Mixed at
Abbey Road Studios , Air Studios , Lyndhurst Hall , Wonder Station
Avaco Creative Studios , Kawaguchiko Studio

 

地上の楽園 久石譲
1994.7.27
地上の楽園

Recorded at:
Townhouse Studio,London
Abbey Road Studio,London
Music Inn Yamanakako
Crescente Studio Tokyo
Wonder Station Tokyo

 

 

もう見えてきましたね。

今回、映画『水の旅人 侍KIDS』(1993)を起点に紹介してきましたが、アビー・ロード・スタジオでの録音は、すでに『I am』(1991)までさかのぼります。そして『My Lost City』(1992)では、マイク・ジャレット氏がクレジットされています。『Symphonic Best Selection』(1992)では、マイク氏を日本にまで呼び寄せるほどの信頼と絆、『水の旅人 侍KIDS』を経過して、氏の亡きあと『地上の楽園』(1994)までアビー・ロード・スタジオで音楽活動し、これを区切りにロンドンをあとにします。

「Two of Us」は『My Lost City』に収録されています。マイク・ジャレット氏と一緒に仕事をした1990年代前半、ここからひとつの楽曲を選びたかったのではないか。メロディの際立ったものからのセレクト、ファンのあいだでも長い間人気のある「Two of Us」が選ばれたのではないか。そして、1998年の長野パラリンピックからとったというコーナータイトル「HOPE」は、同時にロンドン音楽活動時代と重なる、いわば時代の足跡です。

 

 

もうひとつの”HOPE”ってどの曲?

”HOPE”その象徴的な時代は?

「Two of Us」コンサートプログラムのわけ?

 

それは、

  • 「水の旅人 侍KIDS」メインテーマ
  • アビー・ロード・スタジオ
  • マイク・ジャレット氏
  • 「HOPE」というボーカル曲
  • 「HOPE」の絵
  • 「長野パラリンピック」ひき継がれたテーマ”HOPE”
  • 旅立ちの時 ~Asian Dream Song~
  • 「Water Traveller」『Melodyphony』収録
  • ふたたびアビー・ロード・スタジオ、ロンドン交響楽団
  • コンサートコーナー「HOPE」
  • 1990年代の音楽活動を象徴するテーマ”HOPE”
  • 「Two of Us」『My Lost City』収録曲

 

こういったいくつもの点と点が、絡み合いながら、単純な一本の線になるのではなく、時代の足跡のように、幾重にも交錯しあいながら、結ばれていくようです。

久石譲のインタビューにもありましたが、この時代のことは書籍『パラダイス・ロスト』に詳しく書かれています。ただ絶版かもしれません。小説というかたちをとっていますが、そのなかにあるのは、ほぼノンフィクションです。これは物語なのかエッセイなのか、フィクションなのかノンフィクションなのか、不思議な余韻をのこす本です。おそらくは「小説」という体裁をとることでしか書けなかった、久石譲自身に深く切り込んだものだからかもしれません。

「水の旅人 侍KIDS」メインテーマにおける、他の久石譲楽曲と類似性をみない独創的で雄大な序曲のような大編成オーケストラ曲。コンサートリハーサルではまずこの曲をやるというほど、その鳴りのよしあしのベンチマークとなっています。またコンサートでも序盤にプログラミングされることも多いです。

「水の旅人 侍KIDS」メインテーマ=「HOPE」(地上の楽園)=「Water Traveller」=「HOPE」の象徴、と簡単な一直線で言うつもりはありません。たぶんそういうことでもありません。ただ、なにかしらつながっているんだという実感のようなものが伝わったなら、うれしいです。

 

 

 

Overtone.第3回 羽生結弦×久石譲 「Hope&Legacy」に想う(2017.1.20)の結びにこう記していました。

”実は「HOPE」には、もうひとつ久石さんエピソードがあります。ありますが、それはまた別の機会に。ちゃんと調べなおしたい、紐解きなおさないといけない。”

…だいぶん時間があいてしまいましたが、ようやく -完- となります。

それではまた。

 

reverb.
久石さんの公式音源から紹介できるのはうれしいかぎり♪

 

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪