Info. 2009/10/25 金沢工業大学「工大祭」公開講座 第83回創造学「JOE HISAISHI TALKS」開催

2009年10月25日 金沢工業大学「工大祭」公開講座
第83回創造学「JOE HISAISHI TALKS」開催

立川直樹 × 久石譲 対談

 

久石はアルバムを作った後にも再度その楽曲に向き合い、編成を変えて新たに書き直し、我々に大きな衝撃を与えてくれます。「久石さんは作曲家で自ら編曲もしてピアノも弾き、プロデューサーとしても更に指揮者としても活躍する」と、久石譲という人物に興味を抱いた立川さんから質問形式で話は進んでいきました。まずは作曲と編曲の違い、その先のアレンジの可能性に関しての投げかけがありました。これもひとつの構築学なのだろうか?と。

そこで会場に2つの「The End of the World」を流し、12人のチェロによる原曲(アルバム「Another Piano Stories」収録)と、その半年後に書き換えた3管編成のフルオーケストラバージョン(アルバム「ミニマリズム」収録)との聴き比べを行いました。

原曲は12本のチェロという楽器の限界に挑戦した作品。そして、3管編成のフルオーケストラバージョンはチェロの音色が木管、金管、そしてヴァイオリンやヴィオラ等他の音色に生まれ変わって響き渡る作品。まったく別のオーケストラ作品として耳に届きます。久石はこのことをアレンジしたとは言わず、チェロの曲をオーケストラに「切り替えている」と言いました。

作曲と編曲を切り離して考えること自体がポップスの発想だと、発想そのものに関してのお話がありました。音楽を書くというのは必ずすべての音を書くのが仕事だと思っている。オーケストレーションといわれる編曲は、オーケストラの音まで書いてこそ、と。歌曲のメロディは独立して動くので久石も第三者に託す場合もありますが、それ以外は基本的に作曲とオーケストレーションは一体化していると考えているのだそうです。それを踏まえた上で、作曲した作品を「切り替える」ことがあるのだと。「題材が同じでも別の作品として構築し直すということです」と久石。確かに、ここで聴いた2つの楽曲は各パートの構成の仕方が異なり、その印象もそれぞれ独立した完成度の高い別曲として耳に入ってきました。そこには作曲家のアプローチの仕方もそれぞれ違うのでしょう。

続いて話題は武道館コンサートに移ります。

2008年夏、1200人を超える出演者(オーケストラ、コーラス、マーチングバンド、歌手)を率い武道館3回公演を満席、大成功に収めたコンサートの話です。中でも印象的なマーチングバンドのシーンですが、これを2時間の合間に入れたことに関して、実は災い転じて福となった「ワザテン」パターンのひとつとのこと。アイディアの根底は企画当初からありましたが、鼓笛隊だけでやろうと構想していたそうです。でも鼓笛隊だけだと5、6分くらいしか場がもちそうもないと思い、プログラム構成もほぼ固まってきた頃、諸事情からオーケストラのために20分休憩が欲しいという話が急浮上しました。でも、武道館規模の会場で休憩時間を挟むとなると20分では自席に戻れないお客さんが出てきてしまう問題が伴います。しかしオーケストラは休ませなければならない…。それをどうまとめるか、というときに、久石はアイディアを膨らませて、吹奏楽のマーチングバンドだったら1コーナー15分程度をもたせることができる。そこに前後を付ければ20分!という発想に至り、この中間部が決まったそうです。コンサート終了後もこの「天空の城ラピュタ」のコーナーには沢山の方が感動し涙したとう声を聞いています。背景にこんな逸話があったとは。感動の「ワザテン」です。

そして最後に、ミニマル・ミュージックについて。久石の原点は現代音楽ミニマル・ミュージックにありますが、その間、ポップスを経由したり迂回したことによって、リズムのグルーヴ感等を培ったり、新たな風景と出会い、1981年の初期作品「MKWAJU」も2009年「ミニマリズム」という形で生まれ代わりのように表現することができた、と話していました。

そして会場にロンドン交響楽団演奏による「MKWAJU」のレコーディング風景の映像を流し「ミニマル・ミュージックとは」の説明を加えました。そしてこの演奏が終わったとき、今回の講義の締めくくりとして立川さんが「音楽にヴィジュアル感がある。ここではオーケストラが演奏しているVTRしか映っていないけれども、聴いていると色々な映像が感化されてくる力が感じられる。それっていい音楽が持っているものなんじゃないかなと僕は思う。」とまとめました。

その他にも映画音楽家久石譲の側面からの話や、創作の苦しみについて等、その内容は多岐にわたり、90分間があっという間に経過しました。後ろの方で立見になってしまった学生の皆さんも最後まで真剣に耳を傾けていました。

(ファンクラブ会報 JOE CLUB vol.12 2010.2 より)

*後日談として講座内容追記

 

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