Posted on 2025/01/01
新年特集
戦後80年 音楽で問う 作曲家・久石譲さん【平和をつなぐ】
スタジオジブリ作品などの映画音楽や斬新な現代音楽で知られる作曲家の久石譲さん(74)。指揮者として世界を飛び回る一方で、戦争をテーマにした楽曲も手がける。戦後80年、その音楽は私たちに何を問いかけるのか、平和への思いを聞いた。
もはや戦前 「違い」を認め、周りとつながっていく努力が必要だと思います
戦後80年と言いますが、僕はもう戦後ではなくて「戦前」だと感じます。ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナ、他にも世界では多くの争いが起きています。次の大きな戦争がすぐそこまで来ているのではないか、と心配しています。
コンサートで世界中を回りながら感じるのは、人々がお互いの「違い」ばかりを言うようになってしまったということです。特に2001年の米中枢同時テロ以降、「違いはあるけど一緒にやろう」という風潮はなくなってしまった。今では想像以上に世界はぎくしゃくし、あらゆるところで分断が起きています。
24年夏、日本で戦争に関する曲を組み合わせたオーケストラのコンサートを開きました。一つは、僕が米同時テロをテーマに作曲した「ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド」。ニューヨークの光景やアラブ世界をイメージし、終楽章では同名のスタンダードナンバーをアレンジしました。もう一つは米作曲家スティーブ・ライヒの「砂漠の音楽」で、米国での核実験を題材にした曲です。
ただ、僕は「反戦コンサート」にはしたくなかった。そうすると、みんなの賛同を得るための運動になってしまう。それよりも、音楽を通して一人一人に「僕は戦争は良くないと思うけど、どう思う?」と問いかける方法を選びました。
同じプログラムを海外で演奏したい気持ちもあります。戦後80年をどう捉えるかは、決して日本だけの問題ではありません。世界中できな臭い雰囲気が漂っている今こそ、「みんな自分んの考えをちゃんと持たないとまずいよね」と伝えたい。
若い頃は、過去の価値観を否定して新しいものを作ってきました。20世紀を生きた作曲家も多くがそうだったと思います。でも、米同時テロで世界貿易センタービルに旅客機が突っ込み、崩壊したのを見て発想を変えました。破壊がもたらすのは分断でしかない。だからこそ、僕はクラシック音楽という過去を受け入れた上で今あるべき音楽を追求し、未来につながりたいと思ったのです。ベートーヴェンやマーラーの延長にある「王道」を歩むのだ、と。
大切なのは「つながり」です。海外のオーケストラを指揮して気付いたのは、年齢も能力も違うさまざまな人がいるからこそ、自分たちのサウンドが作れるということです。お互いの「違い」を認め、周りとつながっていく。そのための努力をしていくことが今の社会に必要だと思います。
音楽は世界を変えられるわけではないし、戦争を止めることもできません。ただ、音楽には人間を人間たらしめる重要な価値があり、(平和のために)できることがある。僕はそう信じています。
出典:岐阜新聞 2025年1月1日付/岐阜新聞デジタル
from 岐阜新聞社 マーケティング部 X
from 河北新報 2025年1月1日付
音楽で平和伝える 戦後ではなく「戦前」 戦後80年 久石譲が問いかけるもの
出典:福井新聞 2025年1月1日付 同旨掲載
音楽には人間を人間たらしめる重要な価値がある 戦後80年 作曲家・久石譲さんの思い
出典:中日新聞 2025年1月1日付 同旨掲載
インタビュー動画
久石譲さんインタビュー「音楽と平和」
from KYODO NEWS 2024/12/05