Info. 2024/06/28 『JOE HISAISHI IN VIENNA』CD発売決定!! 【9/12 update!!】

Posted on 2024/04/04

クラシック名門レーベル、ドイツ・グラモフォンからの第2弾アルバム!今回は久石譲渾身の現代作品を世界初録音。全3楽章を多彩なミニマルで魅せる「交響曲第2番」、そして世界的注目を浴びるヴィオリストのアントワン・タメスティを迎えての「Viola Saga」。共演オーケストラはウィーン交響楽団、ウィーン楽友協会でのセッション録音です。CD/LP/デジタルにて全世界発売! “Info. 2024/06/28 『JOE HISAISHI IN VIENNA』CD発売決定!! 【9/12 update!!】” の続きを読む

Info. 2024/09/12 久石譲「Viola Saga: Movement 2 (Pt. 1)」New Music Video公開

Posted on 2024/09/12

久石譲オフィシャルYouTubeチャンネルに、新しいミュージックビデオ「Viola Saga: Movement 2 (Pt. 1)(Official Video)」が公開されました。イギリス女優のジェシー・メイ・リー(Jessie Mei Li)さんが出演しています。

この楽曲は、ドイツ・グラモフォン第2弾アルバム『JOE HISAISHI IN VIENNA』(2024)に収録されています。ヴィオラは、アントワン・タメスティを迎えています。 “Info. 2024/09/12 久石譲「Viola Saga: Movement 2 (Pt. 1)」New Music Video公開” の続きを読む

Info. 2025/予定 Netflix新作アニメ『リヴァイアサン』久石譲オリジナル・ソング担当決定! 【9/10 update!!】

Posted on 2024/06/07

久石譲がオリジナルソングを担当、Netflixシリーズ「リヴァイアサン」来年配信

Netflixは7日、新作アニメ情報を発表し、ラインナップ特別映像を解禁した。 “Info. 2025/予定 Netflix新作アニメ『リヴァイアサン』久石譲オリジナル・ソング担当決定! 【9/10 update!!】” の続きを読む

Info. 2024/09/10 《速報》「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(サンフランシスコ) プログラム

Posted on 2024/09/10

2024年9月5-8日、久石譲によるスタジオジブリ宮崎駿監督作品演奏会がアメリカのサンフランシスコで開催されました。

2017年6月パリ世界初演、「久石譲 in パリ -「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」まで 宮崎駿監督作品演奏会-」(NHK BS)TV放送されたことでも話題になりました。 “Info. 2024/09/10 《速報》「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(サンフランシスコ) プログラム” の続きを読む

Info. 2024/09/06 久石譲、HarrisonParrott社(イギリス)とグローバル・マネジメント契約を締結

Posted on 2024/09/06

HarrisonParrottとのマネジメント契約のお知らせ

久石譲はこのたび、HarrisonParrott社(イギリス)とグローバル・マネジメント契約を締結いたしました。 “Info. 2024/09/06 久石譲、HarrisonParrott社(イギリス)とグローバル・マネジメント契約を締結” の続きを読む

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(10)~ネクストアップ~

Posted on 2024/08/20

最後は、これからです。今回改めて久石譲インタビュー・前島秀国氏解説に触れてからまた『君たちはどう生きるか』の音楽を聴き返してみましょう。きっと新しい聴こえ方がしてきます。これから先この映画音楽はどのような道を歩んでいくのでしょうか。誕生にも立ち会った、そしてこれからを一緒に見守りながら歩んでいけるファンは幸せものです。

 

 

久石:

「「ハウル」を書いたときの久石は間違いなく一生懸命書いていたんです。それと今の自分は同じ人間なんだけど、同じ作家じゃないんですよ。今あれと同じ曲を書こうとしても書けませんし、あれ風に書いてくれと言われても碌なものは書けないです。」

「今、自分はミニマルの作家でクラシックも指揮している。海外でツアーをするし、映画音楽も作る。その自分が考える正しい音楽、いいと思う音楽をしっかり書くしかない。それがたぶん一番誠実な作家の道だと思うんですよ。映画であろうと何であろうとそれを忘れちゃうと、注文をこなすだけの作家になっちゃう。」

 

「クラシックの世界ってちいさいんです。だからそこでばかり作品を作っていると人が喜ぶという実感が遠のいていく。だけどエンターテインメントばかりやっていたら、今度はいかに売れるかしか考えなくなる。作家としては両方が必要なんです。売れるためには今日的なニュアンスを勉強してでも入れなきゃいけない。年取ったら取ったほど意識的に入れなきゃいけない。エンタテインメントはそれを試す場所でもあるし、そこで身についたものを現代音楽やクラシックの作品の中でより深めてもいける。両側があるおかげで両方が上がっていく。」

 

「当時の一番最初にミニマリストだった自分が、今回は徹底してミニマルですべて曲を書けた。ミニマルの曲を書いた。だから40年かけて一番自分がやりたかったことが出来た、ということになります。」(出典:2024年1月30日公開/DVD映像特典収録 久石譲インタビュー動画より)

 

 

前島:

「大雑把に言えば、ミニマル・ミュージックとはひとつのフレーズやリズムや和音を繰り返しながら、それらを徐々に変化させ、聴き手にその「差異」を強く意識させることで、既存の音楽のあり方に疑問を投げかけるような音楽である。同じであると思っていたものが実は違う、常識であると思っていたことが実は違う。そうした疑問の投げかけにこそ、ミニマル・ミュージックを聴く意義が存在し、聴く楽しみが存在する。

『君たちはどう生きるか』という映画も、ある意味では同じである。青サギと思われていた鳥がサギ男であり、「上の世界」で老婆だったキリコが「下の世界」で若い働き手であるというように、この映画で描かれている「同一性」と「差異」のさまざまな例をあげていけば、キリがない。だからこそ、この映画の音楽がミニマル・ミュージックで書かなければいけなかった必然性が生まれてくる。ひとつのキャラクターに特定のメロディを記号的に与えていくような、エンタテインメント作品でおなじみの映画音楽のやり方では、この映画のユニークな特徴を埋もれさせてしまうからだ。」

 

「『君たちはどう生きるか』という映画が全編にわたって暗喩的・象徴的・多義的な表現がこめられている以上、リスナーは誰かの考察に頼ることなく、自分自身で久石の音楽が意味するところを考え、咀嚼し、味合うべきであるし、それがこの音楽に最もふさわしい鑑賞法ではないかと思う。楽曲解説は、あくまでも筆者という映画の一観客の拙い考察であって、作曲者自身の公式見解ではない。それどころか、久石の作曲意図と大きく食い違っている可能性も高いので、それをあらかじめお断りしておく。」

(引用ここまで)

 

 

前島秀国氏のLPライナーノーツは、アナログ盤ジャケットサイズの濃密な約1万字です。今回、当サイト楽曲解説に際して引用したのはその2,3割程も満たしません。全曲きれいに取り上げて解説したものではありませんが、スタジオジブリと久石譲の関係性と歴史を俯瞰するように綴られています。英文・日文のインターナショナル仕様です。ぜひレコードを手にとってみてください。

 

 

あれ、今回の久石譲はいつもと違う。初めてこの映画を観たときにそう思った人は決して少なくないと思います。現実世界と異世界をミニマルで書ききったことは、映画公開から時間を経過してこそ強く深くその凄さを実感しています。ミニマルで貫くことで時間の流れも空間も異なる二つの世界に均衡な存在感を与えています。ミニマル・ミュージックは、どこで始まってもいいしどこで終わってもいい、あるいは終わりすら持たなくてもいい。作品世界観の永遠性とも繋がってくると感じます。エンドロール最後に「おわり」のクレジットもない本作は、宮﨑駿物語の序章に過ぎないこともまた示唆しているのかもしれません。

映像も音楽も新しさに満ちた『君たちはどう生きるか』は、待ち望んだファンに感動だけではなく挑戦や勇気の心も芽生えさせてくれました。好きなジブリ作品を3つ聞いたら世代がわかる、そのくらい日本人はジブリ作品で育ってきた、親密に過ごしてきた大切な時期があると思います。この作品は世代を超えて一人一人の人生にどのくらいランクインしてくるのでしょうか。

 

久石譲は映画やCMのために書いた曲を演奏会用の音楽作品として再構築することにも積極的に取り組んできました。スタジオジブリとの長い歴史のなかで自身が音楽担当した長編映画は全て交響組曲化されています。そのプロジェクトは新旧ありますが発表順にこのようになります。『風の谷のナウシカ』(1997/2015年版)『もののけ姫』(1998/2016/2021年版)『千と千尋の神隠し』(2001/2018年版)『となりのトトロ』(2002)『ハウルの動く城』(2005)『風立ちぬ』(2014)『かぐや姫の物語』(2014)『天空の城ラピュタ』(2017)『魔女の宅急便』(2019)『紅の豚』(2022・未音源化)『崖の上のポニョ』(2023・未音源化)です。

さらには2017年から「Joe Hisaishi Symphonic Concert:Music from the Studio Ghibli of Hayao Miyazaki」の世界ツアーを展開しています。2008年武道館コンサートから継承進化させたジブリ・スクリーンコンサートです。そのパリ公演の模様はNHKでTV放送され反響を呼びました。そして、ドイツ・グラモフォンと専属契約を結んだ第1弾アルバム『A Symphonic Celebration』(2023)で待望の音源化を果たすことになります。あとは未だ実現していない日本凱旋公演を待つのみです。

宮﨑駿監督、高畑勲監督とのコラボレーションはプログラムの要望も高く、久石譲が指揮・ピアノを務める日本/海外公演と注目の的です。さらにジブリ演奏会の需要は高まるばかり、交響組曲の音源化と並行してオリジナル・スコア出版も進めています。映画が世界中に広まるのに合わせて音楽でもそのブランドを広げてきたスタジオジブリ×久石譲の一大プロジェクトは、今まさに歴史のど真ん中にいます。映画『君たちはどう生きるか』のピアノ曲や交響組曲がそのラインナップに加わることは歴史の必然と言えるでしょう。

究極のヒサイシズムがここにあります。久石譲にとって宮﨑駿監督は常に本気になれるところ、全力で向かって行けるところ、そう思います。

 

 

 

2023年8月7日スタジオジブリ公式ツイッターから投稿された動画と同じ、海外配給会社GKIDSから再投稿されたものです。「Ask me why」(2023年1月ピアノ・レコーディング風景)

 

 

ピアノ・レコーディング風景から「転生」(ピアノパート・オンリー)「白壁」「Ask me why」の一部を聴くことができます。

THE BOY AND THE HERON | Joe Hisaishi on the Piano (約1分)

from GKIDS Films Official YouTube

* same video posted on X(Twitter) Jan.27, 2024

 

 

オーケストラ・レコーディング風景から「最後のほほえみ」です。NHKドキュメンタリー番組で放送されたものよりも長尺です。

THE BOY AND THE HERON | Joe Hisaishi Conducts “The Last Smile”(約1分)

from GKIDS Films Official YouTube

* same video posted on X(Twitter) Feb.23, 2024

 

 

「Ask me why」をBGMに使用した『風の谷のナウシカ』から『君たちはどう生きるか』まで宮﨑駿監督作品ラインナップにもなっています。

THE BOY AND THE HERON | The Final Teaser (約1分半)

from GKIDS Films Official YouTube

* same video posted on X(Twitter) Nov 30, 2023

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(9)~眞人とヒミ・大伯父 ほか~

Posted on 2024/08/19

つづけて、アルバムを聴いてみましょう。

 

Track.
26. 眞人とヒミ

時空を超えた二人の触れ合いにそっと寄り添っている曲です。メロディの断片のような旋律は、ここではきれいに時間は進み流れることのない、ただ漂っているだけの空間、そんな異世界を暗示しているようにも聴こえてきます。ひとときの中で二人が感じる温かいぬくもりもまた伝わってきます。

 

Scene 01:26:05 / Track 26. 眞人とヒミ

 

Scene 01:26:25 / Track 26. 眞人とヒミ

 

 

Track.
30. 大伯父
33. 大伯父の思い
35. 大崩壊

この世界の天から地までを司るように高音域と低音域を同時に強く鳴り響かせるピアノが印象的です。そのハーモニーは神聖さや荘厳さをもって大伯父の大局観を見事に表現しています。弦楽と管楽の上から下へ連なる二音の連続は、トリルや特殊奏法を駆使しながら鋭く重層的に鳴っています。そこからは、稲妻や亀裂のような現象性から軋轢や歪みといった関係性までもを滲ませ現出させています。曲が進むごとにそのねじれは大きくなっていきます。

 

Scene 01:38:05 / Track 30. 大伯父

 

 

Track.
36. 最後のほほえみ

やさしく果てしなく広がっていく曲です。この曲もメロディの断片のようで、もしかしたら「眞人とヒミ」にアプローチや意図のつながりがあるのかもしれません。海のように大きく包み込むものを感じます。

 

Scene 01:49:55 / There is no music in this cut.

 

Scene 01:56:35 / Track 36. 最後のほほえみ

 

 

Track.
37. 地球儀 / 米津玄師

映画公開時から多くの活字や動画などで制作過程やエピソードは語られています。そちらにじっくり触れることをおすすめします。Disc.ページに関連リンクはまとめています。

この曲を初めて聴いたとき、言葉への比重が大きい曲だと思いました。曲は素朴でシンプルです。曲想も転調もリズムもアレンジもどこまでも凝ってドラマティックに仕立て上げられることは、これまでに発表された楽曲達から一目瞭然です。この曲はあえてそれをしなかった、削ぎ落としていって残ったものが結晶となって強く光っています。

Aメロは変拍子になっていますが、まるで手紙を読むようにセンテンスの間を感じます。込み上げてくる感情を抑えながらとつとつと読まれる手紙、駆け巡る走馬灯にひと呼吸おきながら一文一句読まれる大切な手紙。だから、リスナーもその行間をくみ取るようにいろいろなことが伝わってきます。静かにすっと心に入ってきます。

バグパイプを使用した理由は、エリザベス女王の国葬からきているとエピソードで語られています。昔からアイルランドによく旅行で訪れていた宮﨑監督にとってもケルティックなものへの馴染みは深いです。他方、『君たちはどう生きるか』で「影響を受けた本」としてクレジットされている「失われたものたちの本/ジョン・コナリー著」アイルランド作家です。とにもかくにも、宮﨑駿監督への生涯のリスペクトの意志が込められているようにバグパイプの音色は響いています。祝福の架け橋のようなピアノ・ブリッジも素敵です。

映画『海獣の子供』(2019)は音楽:久石譲、主題歌:米津玄師「海の幽霊」で共演しています。サウンドトラックと主題歌はそれぞれ独立してリリースされました。本作は、スタジオジブリ作品では恒例といえる主題歌までサウンドトラックに収録されています。

 

次回は、これからです。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(8)~追憶・陽動 ほか~

Posted on 2024/08/18

つづけて、アルバムを聴いてみましょう。

 

Track.
4. 追憶
9.静寂

および

Track.
24. 陽動

28. 巣穴
31. 隠密
32. 大王の行進

前島:

「実はこれら6つの楽曲に、本作の謎めいた象徴表現を読み解く重要な鍵が隠されていると、筆者は考えている。便宜的にa.とb.のふたつのグループに分けて分析していくと、まずa.の《追憶》と《静寂》は、いずれも眞人が自室のベッドで横たわっているシーンで流れてくる楽曲。2曲とも、同音反復を特徴とするミニマルなモティーフと静かな和音が交互に登場する形で始まる。物語の状況に沿って聴くならば、ミニマルなモティーフは外から眞人の様子を伺っている青サギの気配を、静かな和音は眞人の孤独な心情を代弁していると言えるかもしれない。そして、ミニマルなモティーフと和音が繰り返された後、ピアノがリズミカルなモティーフを新たに導入する。そのモティーフが何を意味するのか、《追憶》と《静寂》が流れてくる時点ではわからない。しかし物語が後半部に入ると、このリズミカルなモティーフはb.のグループ《陽動》《巣穴》《隠密》《大王の行進》の4曲において、全く予想外の形で再登場する。b.の4曲は、「下の世界」にあふれかえったインコのテーマとして書かれているが、その楽想は弦楽器がピツィカートで演奏するユーモラスなモティーフ──ここでは仮にインコのモティーフと呼んでおく──を中心にして構成されている。そのピツィカートのモティーフ、すなわちインコのモティーフこそ、実はa.の2曲に出てきたリズミカルなモティーフにほかならない。なぜ、インコのモティーフが、物語前半部の眞人のシーンの音楽にも登場するのか? 作曲者の久石がインコのモティーフをa.の楽曲の中に意識的に仕込んだことは間違いないが、その真の理由は、作曲者以外に誰もわからないし、おそらく本人もそれを明かすことはないだろう。答えは観客ひとりひとりの解釈に委ねられている。」

 

 

前島氏が指摘したこの箇所は、当時久石譲ファンのブログでも解釈や考察がなされていました。他にも気づいていた人はいたのかもしれません。その時自分は同じ旋律が隠れていることに気づけていなかったので、はっと驚いたことを覚えています。

「SWITCH VOL.41 NO.9 ジブリをめぐる冒険」(2023.8)の中で、鈴木敏夫プロデューサーはこんな発言をしています。【宮さんは「インコ大王は自分だ」と言う。そして「なりたかったもうひとりの自分が眞人だ」と言っていました】。真実は神のみぞ知るですが、そういう視点で映画をまた観ると面白いです。大伯父との会話や並んで歩く姿、積み木を崩し終焉へと導いたインコ大王。さておき、前島氏が言うように久石譲が意識的に仕込んだことは間違いないと思います。たまたまの可能性は極めて低い、久石譲の音楽設計において、宮﨑駿作品はなおさらのこと。

 

「追憶」ではピアノで「静寂」ではハープで、どちらも曲の約1分過ぎあたりから聴けるモチーフです。

 

 

「陽動」のイントロから、こんぺいとうのようにパステルにカラフルなインコたち、音色も色彩感いっぱいに魔法をかけられています。鳥の鳴き声や群集を思わせるウッドパーカッションも効果的です。曲ごとに同じモチーフを使いながら、高い音から低い音まで鳥の大きさの変化に合わせてバリエーション豊かに並んでいます。

『紅の豚』(1992)の「セリビア行進曲」、『ハウルの動く城』(2004)の「陽気な軽騎兵」、『風立ちぬ』(2013)の「カプローニ(設計家の夢),(幻の巨大機)」や「ユンカース」など、久石譲の行進曲はパレード的な賑やかな描写にとどまらない、そこに国が築かれていることやそこが活気に満ち繫栄しているであろう世界観までも立ち上げてくれます。

 

Scene 01:44:30 / There is no music in this cut.

 

 

次回は、つづけてアルバムを聴いてみましょう。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)