Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(7)~ワラワラ・炎の少女 ほか~

Posted on 2024/08/17

つづけて、アルバムを聴いてみましょう。

 

Track.
16. 箱船

神秘的な世界への場面転換をシンセサイザーやエスニックなパーカッションを導入することで演出しています。久石譲らしい音色パレットはファンタジーらしさいっぱいです。

『千と千尋の神隠し』(2001)の「神さま達」で船に乗って登場するシーンにもボーンと響く打楽器が鳴っていました。

 

 

Track.
17. ワラワラ

前島:

「本作のスコアの中でもとりわけユーモラスな音楽として書かれた、ワラワラのテーマ。日本の観客ならば、メロディの曲調から日本の伝統的な「わらべ歌」を即座に連想するであろう。宮﨑監督がワラワラというキャラクター名を「わらべ」から発想したと仮定するならば、久石がそのテーマとして一種の「わらべ歌」を作曲したのは、非常に納得がいく。メロディの合間に聞こえてくるサンプリング・ヴォイスの掛け声も、おそらくはこの曲の「わらべ歌」な性格を強調するための隠し味であろう。ベートーヴェンの《月光ソナタ》を思わせるアルペッジョで始まる《転生》は、《ワラワラ》と全く異なる詩情豊かな音楽として書かれているが、熟したワラワラたちが夜空に飛び始めると、ワラワラのテーマが断片的に聴こえてくる。」

 

 

楽しいわらべ歌のような曲想がキャラクターに愛らしさを与えている一曲です。神秘的なオリエンタリズムに溢れていますが、本作で聴くことができるミニマルは西洋的なものから日本的なものまであります。ことオリエンタルなミニマリズムでいうと、久石譲は先駆者の一人として常に進化を続けてきました。日本を代表するミニマル作家は今さらに世界へ発信しています。

『となりのトトロ』(1987)の「メイとすすわたり」はピグミー族の声をエディットしたものです。『もののけ姫』(1997)の「黄泉の世界」、『千と千尋の神隠し』(2001)の「神さま達」、『ハウルの動く城』(2004)の「サリマンの魔法陣」、『かぐや姫の物語』(2013)の「天人の音楽」、久石譲がそれぞれに多彩なサンプリングボイスを込めた曲たちです。そこには神聖なもの霊的なものが表現されていると感じています。生命、魂を宿しているものたち。ワラワラのサンプリングボイスはどこからきたのでしょうか。

 

Scene 01:00:55 / Track 17. ワラワラ

 

 

Track.
18. 転生

シンセストリングスも融合しながら紡ぐピアノは、暖かくやわらかい響きに包まれています。繊細な音の強弱やテンポの揺らぎからくる久石譲らしいピアノのニュアンスとたゆたう調べは、生まれる前から知っていた心地よさに安らぎを憶えます。ストリングスの下から上への二音の繰り返しは、高く高く昇っていくことを誘導しているようです。ワラワラのモチーフも登場し、ここまでの三曲は神秘的なシーンを印象づけています。

 

Scene 01:07:00 / Track 18. 転生

 

 

Track.
19. 火の雨
25. 炎の少女
27. 回廊の扉

久石:

「やっぱり人の声を使うとより観る人に強く響く。なので、たくさん使うんではなく効果的なところに使いたい。今回の場合はヒミというキャラクターがとても重要で、そんなにたくさん出てくるわけではないんだけども、とても特別な部分を占めてると思ったので。ここにコーラス、それも女声コーラスを使う。わりと感覚的にそれがフィットするだろうと使いました。」(出典:2024年1月30日公開/DVD映像特典収録 久石譲インタビュー動画より)

 

前島:

「ヒミのテーマに基づく音楽だが、女声コーラスの歌声(歌唱は麻衣&リトルキャロル)が端的に示しているように、母性そのものを象徴した音楽と捉えるのが自然である。」

 

 

変幻自在な変拍子です。「火の雨」では、ストリングスの旋律の動きに合わせてスネアが重ねられています。音楽的に分厚くならなくても迫力や立体感を与える久石譲音楽の一手です。「炎の少女」では、メロディを歌うコーラスの3拍子とバックのオーケストラは4拍子という巧みなポリリズムを聴かせています。ものすごく複雑なことが起こっています。ミニマルはリズムもズレたり変化したりと、どこに集中して聴くかでがらっと表情が変わります。火を操るほどのリズムトリックは、聴くたびに面白い躍動感が迫ってきます。

 

Scene 01:08:35 / Track 19. 火の雨

 

Scene 01:23:55 / Track 25. 炎の少女

 

Scene 01:28:45 / Track 27. 回廊の扉

 

 

Track.
20. 呪われた海

本作サウンドトラックで唯一本編と差異のある一曲です。老ペリカンのシーンに使われているのは曲冒頭から約1分半まで、そして音楽無しでカットは少し進んで飛んで曲終部が使われています。サウンドトラックの中間部は本編未使用です。もともと一曲として出来上がっていてそのまま収録したのか真意は謎ですが、呪われた海を表現するのに充実した収録です。

 

Scene 01:10:40 / Track 20. 呪われた海

 

 

次回は、つづけてアルバムを聴いてみましょう。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(6)~青サギ・黄昏の羽根 ほか~

Posted on 2024/08/16

つづけて、アルバムを聴いてみましょう。

 

Track.
3. 青サギ
5. 青サギ II
8. 青サギ III
10. 青サギの呪い

久石:

「一つだけあったのは、物語序盤に青サギが出てくるシーンの音楽です。宮﨑さんは青サギの存在をさりげなくしたかったんですね。僕はそこに少し派手目の音楽をつけちゃっていた。青サギのテーマのベースの曲は、最初はもっと激しかったんです。宮﨑さんはこれだと大げさになっちゃうから、ここは音楽はなくていいんじゃないかとおっしゃって。だけど、青サギの存在はそれ自体が現実ではない存在感を持っているので、完全に音を外してしまったら、今度は逆に悪目立ちしてしまう。僕は何かあったほうがいいと思うと伝えたんです。それで、最終的にピアノ1本のポーン・タランだけのスタートに変えて、それが3回目に出てくるあたりでちょっと厚くなるぐらいに切り替えた。そしたら、これは音があったほうがいい、と喜んでくれました。」

「そこで僕は、それはちゃんとある種曲になってたんですけども、どんどん音を抜いていって、で最後にあの一音が一番いいと。ただ、一音が次のシーンでは3つ5つになり、次のまた出てくるところではちゃんと曲になってる。これに関しては宮﨑さんほんとに喜んで「あっ、これやっぱりあってよかった」って、ほんとに喜んでましたね。」(出典:2024年1月30日公開/DVD映像特典収録 久石譲インタビュー動画より)

 

「たぶん鈴木さんもそう考えるだろうなとか、いろいろなことが、やっぱり長いつき合いだからわかるんです。デモテープはこれでOKで、その後いろいろなことがあった今の段階で考えると、この方法で行くならば、ここをそれほど過剰にしないほうがいいとか。だから後半はかなり音を抜く作業をやっていましたね。加えるというよりは。」

「うん、加えない。派手にしない。抜いていく作業。」

 

 

4度の二音からなる極めて最小のモチーフです。鳥の鳴き声にも聴こえる執拗に散りばめられた二音の繰り返しや、鳥の喉仏が鳴っているようにも聴こえる木管の低音など、不穏さや捕えきれない魅力に引き寄せられていきます。風を切るように一瞬にして切り替わるミニマルのハーモニーも秀逸です。主人公にとって無視できない存在へと膨らんでいく青サギは、同じように楽曲群も豊かに展開しながら存在感を浮き立たせていきます。

また、2022年11月15日音楽仮付けで課題にあがったこの青サギのテーマが、音楽の方向性を決定づけていったこともわかります。こういう感じでいくというイメージが三者間でかちっとはまった、制作過程においても大きな役割を果たしたといえるテーマです。

『千と千尋の神隠し』(2001)の湯婆婆も4度の二音からなるモチーフです。どちらも鳥に変身して空を飛びます。

 

Scene 00:27:45 / Track 10. 青サギの呪い

 

Scene 00:28:40 / Track 10. 青サギの呪い

 

 

Track.
6. 黄昏の羽根
22. 回顧

本編前半部では小さい編成で本編後半部では大きい編成で流れる、塔のテーマともいえる曲です。久石譲の説明にもあった「前半は現実世界で後半はファンタジーという2部構成だと感じた」という音楽的アプローチが具現化されています。たしかに、前半部のほうは弦楽のざらざらした音像が羽根の一本一本やその肌ざわりまでも想起させてくれます。粒立ちのいいピアノにFutune Orchestra Classicsのノンビブラート奏法にとピンッと張った緊張感を保っています。ノンビブラートとは、歌う時のビブラートをかけるかけないと同じで、音を震わせずにまっすぐに鳴らす奏法のことです。

 

 

Track.
7. 思春期

転校先でのシーンに流れています。その鮮烈なカットに強い衝撃を受けますが、音楽はそんな主人公の行動や感情からは距離を置いたものになっています。まるで軍歌や唱歌のような旋律は、当時の時代背景や取り巻く環境を俯瞰しながらも、とても風刺の効いた映像と音楽の対位法になっています。

 

 

Track.
11. 矢羽根
23. 急接近

明るいミニマルが何かへの好奇心や夢中さを表しているようです。「矢羽根」では、強めのピッツィカートがまるで工作でトントン打っている音や、はたまたピンと弓の張り具合を確かめているようにも聴こえてきておもしろいです。ピッツィカートとは、弦楽器の弦を指ではじいて音を出す奏法のことです。曲としてもきちんと成立しているなかで、効果音的な響きまでも意図的に音楽的に盛り込まれています。映像やシーンとの相乗効果で、もっと言うと映像から離れたときにもイマジネーションをかき立ててくれる久石譲映画音楽の秘技です。

「急接近」では、少しやわらかくなった曲調が距離感や歩み寄りを感じさせてくれます。昨日の敵は今日の友、まるで正反対の構図で流れるこの曲は、言葉ではうまく説明できない関係性や心の変化をミニマルなピースたちで並べていきます。

『風立ちぬ』(2013)の「紙飛行機」でも工作や胸の高鳴りが、「隼班」でも設計(工作)が、ミニマルの手法で表現されていました。

 

Scene 00:37:50 / Track 11. 矢羽根

 

Scene 01:13:40 / There is no music in this cut.

 

 

Track.
13. ワナ

久石:

「眞人がキリコとともに屋敷の中でソロソロと入っていって、青サギとやりとりして地下へ向かう流れなどはシーンに合う曲をミニマルで書いている。こちらはやっぱりサスペンス調になるんですよ。すると、さっき言った夏子が子供を産むところや眞人がキリコと「下の世界」に行くシーンより、音楽の印象は薄いんです。」

 

 

久石譲インタビューは、誕生日プレゼントの「祈りのうた」や「祈りのうた II(聖域)」について語っているところからの流れです。この曲はその元になる素材(モチーフ)があったかどうかは別にしても、シーンに合わせて書かれたことがわかります。仮に映像と一緒に観た時マッチしていて音楽の印象は薄いと…全くそんなことは思いません。SNSでもNowplyaing投稿をよく見かけた曲でもあります。ずるずると嵌っていくように微細にグラデーションしていくハーモニーの変化も聴きどころです。

Futune Orchestra Classicsの特徴は、リズムをきっちり揃えること、音価(一音一音の音の長さ)をきっちり揃えることです。引き締まった音像になりとても芯の強い音楽になります。もうひとつは、感情を込めすぎないことで俯瞰した響きの印象になります。ある種つかむことのできない凄みが潜んでいます。ベタに怖いですよ怖いですよ、とは言っていない演奏といったらわかりやすいかもしれませんね。久石譲の最先端、現代的なオーケストラのアプローチは最新作にこそふさわしい、そう思えてきてうれしくなる曲たちばかりです。

 

 

次回は、つづけてアルバムを聴いてみましょう。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

Info. 2024/08/13 「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 京都特別演奏会」コンサート・プログラム 【8/16 update!!】

Posted on 2024/08/13

8月10日開催「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 京都特別演奏会」です。今年は夏恒例コンサートともいえる「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ(WDO)」の開催がなかったこともあり、この京都公演の注目度はプログラム発表前からキープしていました。翌日8月11日は同プログラムでの防府特別演奏会も開催されました。言わずもがなどちらも満員御礼です。 “Info. 2024/08/13 「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 京都特別演奏会」コンサート・プログラム 【8/16 update!!】” の続きを読む

Overtone.第98回 「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.11」コンサート・レポート by ふじかさん

Posted on 2024/08/12

7月25,26日開催「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.11」コンサートです。今年は「JOE HISAISHI FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.7」(7/31-8/1)とのスペシャルウィークです。久石譲の3大コンサート(WDO,FOC,MF)のうち2つのコンサートがこの夏一挙開催です。

今回ご紹介するのは、久石譲3大コンサートに久石譲指揮定期演奏会/特別演奏会にと足しげく参戦するふじかさんです。それうはもう聴きなれてる書きなれてるだけあって、そういう音楽なんだとイメージしやすい。ぜひお楽しみください。

 

 

JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE Vol.11

[公演期間]  
2024/07/25,26

[公演回数]
2公演
東京・紀尾井ホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:Music Future Band

[曲目]
フィリップ・グラス / 久石譲:2 Pages Recomposed
フィリップ・グラス:弦楽四重奏曲 第5番

—-intermission—-

デヴィッド・ラング:Breathless
マックス・リヒター / 久石譲:On the Nature of Daylight
久石譲:The Chamber Symphony No.3 *世界初演

[参考作品]

久石譲 presents MUSIC FUTURE IV

 

 

MUSIC FUTURE VOL.11 初日公演の様子をレポートさせて頂きます。

2024年7月25日 紀尾井ホール 19:00開演

久石さんが主宰するMUSIC FUTURE シリーズも早くも11回目になりました。現地に足を運ぶのは2018年以来、6年ぶりとなりました。コロナ禍から数年はライブ配信等もあり昨年まではネット上で追いかけることはできました。

開場10分くらい前に現地に到着。少し天気が崩れ始め、雨が少し降ってきたところで開場時間となりました。チケットもぎりをすぎて、ホール内に入ると天井のシャンデリアがとても煌びやかでした。

 

18:30を過ぎたところで、「第5回Young Composer’s Competition」の講評と演奏が始まります。まず依田さんが登場、紹介のちに、審査員の久石さんと足本さんが登壇されました。依田さんがMCで質問をしながら、久石さんと足本さんが回答するスタイル。近年の久石さんのコンサートではMCが無くなったため、久石さんの声を聞ける貴重なMFシリーズでもあります。

冒頭で依田さんの質問を久石さんが聞き取れず、何度も聞き返すところからはじまり、久石さんの「こんにちは」から始まり、MFが11回目の開催であること、コンペは5回目で、作品が40曲以上あったこと。今回の受賞作品は弦の書き方がよく、亡くなった西村先生へのオマージュも感じられたことなどから、ミニマルベースの作品ではなかったが、入賞することになったことなどが語られました。

一度、3人が舞台から袖に戻りましたが、慌てて依田さんが再登場。依田さんが「大事なことを忘れていました~」と久石さんが袖から「何のフリだよ~笑」と答えながら再登場。そこから久石さんが「今回は国立音大の学生さんたちが演奏してくださいます」と深々とお辞儀をされていました。その後学生カルテットチームが登壇し、コンペ作品の演奏に入りました。

 

・Fabil Luppi : SOL D’Oriente Fantasia for string quartet

3つの短めの楽章からなる作品でした。冒頭は久石さんの『Metamorphosis』のように音が変容していくようで、グラデーションが変化していくような音色でした。中盤の楽章ではグリッサンドで低音から高音まで駆け上がっていき、トレモロ奏法が各所で響き渡る構成。終盤ではピチカートやトレモロが次々と展開されて、さざなみが寄せて返していくような印象を受けました。

講評では「不協和音が全体を支配して~」とのことでしたが、聴きにくいわけではなく、カルテットという弦楽だけの響きを存分にいかした作品だなぁと素人目線ですが感じることできました。

 

演奏が終わり、奏者が退場すると、コンサート本編へ向けて舞台の配置転換が行われました。19:00すぎに会場が暗くなり、ステージに続々と奏者が登壇。チューニングの後に久石さんが登場。いよいよ本編のスタートです。

 

・Philip Glass/Joe Hisaishi:2 Pages Recomposed

2018年のMFでの演奏以来、再度プログラム入りました。「♪ソドレミファー」という音型をひたすら繰り返し、音型を微妙変えながら、発展させていくミニマルスタイルの作品です。久石さんがリコンポーズすることによって、久石さんの曲では?と錯覚を起こす楽曲でもあります。

CD音源にもなっているのですでに何度も聴いてきましたが、改めて生で聴くと、無いはずのフレーズが立体的に聴こえてくる面白さがより際立ちます。「ソドレミファ」の一部を強調していくだけで、揺らぎのような音型や、時計の針が動くような旋律が聴こえてきます。

中盤の盛り上がり後は、久石さんが音量を小さくする指示を出します。後半部は、ストリングスのトレモロが加わり、より迫ってくるような迫力が出てきます。1st Vnの奏でる「ソドレー」「ソドレミー」の鋭い旋律がとってもエモーショナルに感じました。

 

・Philip Glass:String Quartet No.5

舞台転換後、今度はカルテットのみの演奏。コンペの演奏では着席でしたが、本編では立奏スタイルになっていました。しかも、このカルテットでもいわゆる対向配置スタイル。久石さんのこだわりを感じます。

1.ピチカートのちに悲しげな旋律が提示されました。このモチーフが今後の楽章で展開されていきます。

2.チェロの波打つような低音の音型にピチカートと和音が繰り返されていきました。シンコペーションが印象的の少し明るさのある雰囲気から徐々に暗い雰囲気へ。

3.アップテンポで明るい雰囲気の楽章。二ノ国サントラの『ホットロイト』ような印象を受けました。時折2nd Vnの小林さんとViolaの中村さんが楽しそうに顔を見合わせながら笑顔で演奏されていました。

4.3楽章とは一変し、重苦しいく切ない旋律が印象的。1st Vnの郷古さんの音色が美しく響き渡っていました。

5.プログラムに記載されていた通り、ジェットコースターのように上下に大きく動き回る音型から始まります。時折『Tri-AD』に似たような旋律も聴こえてきます。1楽章の再現部の後に、激しいダンスパートのセッションへ。再度1楽章の再現部に戻り、最後はピチカートで静かに消えていくように終わりました。

 

ここまでで2曲の弦楽4重奏曲を聴いて、この編成の奥深さを感じました。久石さんのいつか書かれるはずの『String Quartet No.2』も期待しています。

 

ー休憩ー

 

・David Lang:Breathless

休憩をはさんで、今度は木管が中心の楽曲です。下手側からフルート、オーボエ、クラリネット、バスーン、ホルンと並んでいました。フルートから始まり次々といろんな楽器が単音を鳴らしていくと、それらが旋律のように聴こえたり、リズムが構築されていくような楽曲でしたが、個人的には今回のコンサートの曲目で一番難解に感じました。

小鳥のさえずりや、木々が風で揺れる音が意図しないところで楽曲のように聴こえてくるような効果を利用している雰囲気も感じました。演奏はとても難しそうで、皆がリズムをしっかりと刻みながら、個々のタイミングを測って音を紡いでいっているようでした。

 

・Max Richter/Joe Hisaishi:On the Nature of Daylight

続いては金管セクションがメインの楽曲。舞台下手側からトランペット、ホルン、バスーン、トロンボーンでトランペットのやや後ろよりにクラリネットという編成でした。

トロンボーンによる息の長い和音のベースにホルンの柔らかな旋律がゆったりとした気持ちにさせてくれました。そのホルンの旋律を福川さん信末さんと交互にパスしあう様子が印象的です。後半はトランペットのロングトーンも加わり、穏やかながら、とても力強いフィナーレへと向かっていきました。

 

最後の曲は、いままでのメンバー・セクションが集結して、久石さんの新曲へと続きます。

 

・Joe Hisaishi:The Chamber Symphony No.3

1.ストリングスの導入からはじまり、金管セクションが加わりました。「♪タラッ!タラー」というフレーズが随所に加わり、キャッチーで印象的なモチーフが繰り返されていきました。ピアノがそのフレーズを奏でると弦楽がピチカートを添えたり、木管が彩りを加え、フルートがそのフレーズを奏でるとトライアングルの音色が印象的に残ります。

中盤ではスローテンポとなり、弦楽とピアノをフレーズを紡いでいる記憶があります。終盤にかけて徐々に激しくなり、打楽器や金管が大活躍。スネアの連打や金管の華やかな咆哮から緊迫感がありました。

2.前楽章とは雰囲気が一変。急・緩・急の構成のためか、ゆったりと出だしから始まりました。古典的なピアノの旋律にストリングスが重なっていきます。元々はピアノソロのための作品だったためか、随所にピアノの旋律が場面転換時に現れる感じがしました。ピアノの旋律を挟み、金管が入ってきたり、木管が入ってきたり。

タンバリンとストリングス、ミュートのトランペットとピアノと音色が記憶残りやすい、組み合わせのパートが続きます。徐々に盛り上がっていき、『Metaphysica(交響曲第3番)』の2楽章のような構成を思い出しました。終盤は冒頭の雰囲気を再現し、次の楽章へ進みます。

3.かぐや姫の物語のサントラより『絶望』のような力強い音を4打くらい繰り返したのち、弦楽により細かく動くパッセージが繰り返されていきます。徐々に動きが大きくなり、上下へ駆け巡るような早い旋律が印象に残ります。この細かいパッセージがピアノソロや、木管、金管、弦楽と様々なパートへ次々と引継ぎ、時にはテンポを落としたり、急加速したり、息つく間もなく怒涛のように楽曲雰囲気が次々と変化していきました。

『Tri-AD』のような弦楽器が上昇していく様子や、『Contrabass Concerto』のような打楽器の連打。『2 Pieces』のような強い打撃の音。これらの久石さんの既存楽曲を次々と連想することができました。終盤は弦楽の上昇音型と激しいリズムの連打から、突如曲が止まり、ピアノの長い低音の伸ばす音で失速するようにして終わるのが記憶に強く残りました。

 

MFシリーズはアンコールはないため、演奏が終わると、メンバー全員がステージ前に一列になり、何度かお辞儀をしていました。久石さんも終始楽しそうにメンバーと交流をしていました。

今回、配信等は現時点では予定されていませんが、ステージや会場に少なくとも7台のカメラが置かれていました。収録用のマイクもかなりの本数がありましたので、新作を含め、どこかで機会がありそうです。

18:30くらいからスタートして、カーテンコールが終わると時刻は21:15くらい。舞台転換が多かったのもありますが、3時間近くのコンサートとなりました。

たっぷり音楽を聴けて大満足で会場を後にしました。

2024年8月9日 ふじか

 

そうこんなコンサートだったとか、そうこんな曲演奏してたとか、何年先に見てもすぐに思い出せそうです(感謝!)。そっかこんなコンサートだったんだとか、そっかこんな曲演奏してたんだとか、久石譲新作ってこんなんだったんだとか、何年先に映像がなくても音源がなくてもすごくイメージできそうです(チクッ!)。

ふじかさんのレポートにもありました「2 Pages Recomposed」の演奏についてです。音源化もされていて再演となりましたが、指揮の緩急や強弱は以前よりも明確になっていましたね。近年指揮するミニマル作品例えば「DA・MA・SHI・絵」などもそうですが、ある一定の音量で疾走感をキープする従来からの変化がうかがえます。ベートーヴェンやシューベルト交響曲にみられる明確な強弱記号のスコアなども影響があるのでしょうか。いずれにしても、ミニマルをp(ピアノ)で均一に鳴らすのはf(フォルテ)で鳴らすことよりも大変な気がします。ぜひ聴きどころです。

僕の知る限りふじかさんもショーさん(下に紹介)も、かなりの数のコンサートに行かれていて、イベントの重なるスペシャル・ウィークもあると思います。その全部を書くことはなかなか難しいことです。そんななかこうやって書き残してくれてありがたい限りです。

 

 

 

 

こちらは、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

みんなのコンサート・レポート紹介

会場でもお会いしたファンつながりショーさんのコンサート・レポートです。会場の雰囲気からコンサートの細かいところまでたくさん伝わってきます。同じコンサートにいても見ているところや感じているところは一人ずつ全く違う、それもわかって読んでてとても楽しいです。ファン歴も長く過去数多くのコンサート・レポートが収められています。今となっては触れれるだけ貴重なページ、ぜひめくってみてくださいね。

JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE VOL.11(2024.7.26)
from Sho’s PROJECT OMOHASE BLOG 改 seconda

久石譲コンサート オーナーの鑑賞履歴
from Sho’s PROJECT OMOHASE BLOG 改 seconda

 

それから、国際色豊かに英文レポートです。コンサート一日のことが鮮明に記されています。作品ごとの聴く前と聴いた後のイメージの変化がよく伝わってきます。こういう感じ方もあるんだと学びながら楽しく読ませてもらいました。世界各地の映画音楽作曲家のコンサートに足を運びそのレポートがいっぱいです。今は日本を拠点とされているようです。ぜひWeb翻訳してお楽しみください。

Joe Hisaishi presents Music Future Vol. 11 (2024) – Soundtracks in Concert
from Soundtracks in Concert – Your one-stop source for soundtrack concert reports, reviews and more!

 

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

reverb.
ひとつのコンサートに4つもコンサートのレビューを紹介できるなんてうれしい限りです。

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Info. 2024/07/15 《速報》「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(ニューヨーク) プログラム 【8/11 update!!】

Posted on 2024/07/15

2024年7月11-13日、久石譲によるスタジオジブリ宮崎駿監督作品演奏会がアメリカのニューヨークで開催されました。

2017年6月パリ世界初演、「久石譲 in パリ -「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」まで 宮崎駿監督作品演奏会-」(NHK BS)TV放送されたことでも話題になりました。 “Info. 2024/07/15 《速報》「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(ニューヨーク) プログラム 【8/11 update!!】” の続きを読む

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(5)~白壁・聖域・祈りのうた~

Posted on 2024/08/10

つづけて、アルバムを聴いてみましょう。(4)「Ask me why」とここでは久石譲が宮﨑監督に贈った誕生日プレゼントを集めています。

 

久石:

「今回は映像を見る以前に宮﨑駿という人間に寄りそった15曲のストックがすでにあったんですね。しかも誰か別の人間が作った曲じゃない。自分で作った曲で他で使っていない有り物がある。それは映画の映像を見て、それに合わせて作られたものではない。けれど、より深い部分、宮﨑駿という人間に向けて作られたという部分では通底するものがある。僕はその自分の曲を自由に選曲することができたわけです。」

「そう、劇と一本化した曲って印象薄いんですよ。劇とちょっとずれている、距離をとった音楽は印象に残る。これ、映画音楽の最大の鍵なんです。映像と距離をとる。それが一番重要なんです。だから今回のサントラCDに付属した冊子に鈴木さんが「今回の映画音楽はかつて宮﨑さんに贈った曲が多かった」と書いているけれど、実はそこまで多くはないんです。多くはないんだけど、印象に残る。だからそういう曲が多く感じるということなんです。」

「ええ。でもこんな体験は僕自身ももう二度とできない。」

 

 

Track.
2. 白壁

2017年誕生日プレゼントに贈られた「小さな曲」がその原曲です。三鷹の森美術館オリジナルBGMの一曲として入替制で流れています。また短編映画『毛虫のボロ』(2018)のエンディング曲としても約1分の曲尺で使用されています。”小さな”、毛虫の世界観とそのイメージが入っていた時期に作曲されたのかもしれません。

曲名が「白壁」となっているのは本編シーンに由来しています。久石譲はなぜこの曲を選曲したのか考察してみましょう。『毛虫のボロ』は、卵からかえるところから外の世界へ踏み出していく物語です。見るもの触れるものすべてが新しい世界であり、小さな毛虫にとって大きな外界は試練の連続です。行く先々で待ち受けているもの、そこは祝福されたものかもわからない。そんな毛虫の移動と主人公眞人の疎開をメタファーにしているのではないでしょうか。何ともいえないメランコリックな曲調はここしかない絶妙な選曲です。

この曲が三鷹の森ジブリ美術館の展示室用BGMとして使用されていること、小さな曲=毛虫のボロエンディング曲、これは情報提供いただきました。おかげでもっと長い線で結ぶことができました。ありがとうございます。

 

 

Track.
14. 聖域
15. 墓の主
16. 別れ

久石:

「今回それでいくつか成功しているところが、たとえば前半約1時間の現実世界からお屋敷に入って地下へ下り、床に飲み込まれて「下の世界」へ行くシーン。あそこで流れるターラーラ・ターラーラって曲、あれは狙って書けないですよ。」

「あれは2016年か17年ぐらいに書いた「祈りのうた2」という曲で、宮﨑さんに贈った曲なんです。当時はヨーロッパのミニマリストの影響をけっこう受けていて、それこそアルヴォ・ペルトだとかグレツキを自分なりに消化しようと書いていた曲なんですよ。そうすると、癒やしのような曲が地獄に呑まれるシーンに流れちゃうわけです。これ、狙って書けないです。セルフ選曲スタイルだからこそできたことになる。」

 

前島:

「宮﨑監督の誕生祝いとして書かれた《祈りのうたII》(2016)が原曲。本編のスコアにおいては、眞人が降りていく「下の世界」のテーマとみなすことができる。エストニアの作曲家アルヴォ・ペルトに代表されるティンティナブリ様式(鈴鳴り様式、鐘鳴り様式)の三和音の分散音型で書かれており、ゆるやかな3拍子のリズムと合わさり、永遠に回転運動を続けていくような印象をもたらす。その独特な時間感覚が、「下の世界」を支配する時間の流れ、つまり現実の「上の世界」とは異なる時間の流れを象徴していると考えることができる。」

 

 

『かぐや姫の物語』(2013)で高畑勲監督が久石譲にオーダーしたのは【運命を見守る】音楽でした。それは【登場人物の気持ちを表現してはいけない/状況につけてはいけない/観客の気持ちを煽ってはいけない】という具体性をもって映像に音楽がつけられていきました。この曲からも同じような俯瞰や畏敬を感じることができます。

ピアノ左手の動きは、一音一音上行したり下行したり、はたまた無軌道な動きを見せたりします。時間が大きく呼吸しているようなこのテーマは、現実世界とは異なる時間の進みや揺り戻し、異世界に足を踏み入れていることを体感させてくれます。

 

Scene 00:51:00 / Track 14. 聖域

 

 

Track.
29. 祈りのうた (産屋)

久石:

「物語終盤の産屋で夏子が子供を産むシーンに使用した曲は、2015年に書いた最初の「祈りのうた」です。これは東日本大震災の影響も受けて、祈りとしての分散和音だけで作った曲です。」

「そう、一番激しいシーン。あのシーンに音楽を書けと言われたらサスペンスと恐怖が混じってくるし、あれだけの紙がワサワサ回っているとオーケストラで激しくいきたくなりますよね。でも、実際に使用した曲は、基本はピアノ1本です。後半に弦が入るだけ。あれができたのも、やはり、あらかじめ曲があったからなんです。」

 

前島:

「原曲は2015年1月5日、すなわち宮﨑監督74歳の誕生日に献呈されたピアノ曲《祈りのうた》で、もともとは三鷹の森ジブリ美術館のBGMとして作曲された。同年夏に開催された久石指揮新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)のツアーで初演され(本盤と同じピアノ、弦楽合奏、チューブラーベルズのためのヴァージョンで演奏された)、その際、「Homage to Henryk Górecki(ヘンリク・グレツキへのオマージュ)」という副題が附された。その副題が暗示しているように、《祈りのうた》は久石が(ポーランドの作曲家グレツキの音楽で知られる)ホーリー・ミニマリズムの様式を強く意識して作曲し、東日本大震災の犠牲者追悼の意味を込めた作品である。曲の構成は、ピアノだけで演奏される主部、弦楽器が加わった中間部、そして主部の再現という三部形式で作られているが、中間部の終わりに聴こえるチューブラーベルズは弔鐘、つまり追悼の鐘にほかならない。出産を控えた夏子と眞人が産屋で再会するシーンにおいては、そのチューブラーベルズが鳴り響く瞬間、音楽は感情的に最も激しいクライマックスを迎えるが、そのシーンの映像と《祈りのうた》の音楽が生み出す、いわば”生”と”死”が隣り合わせになった凄絶な表現は、もはや筆舌に尽くしがたい。」

 

 

「祈りのうた」は、「祈りのうた for Piano」が『Minima_Rhythm II ミニマリズム 2』(2015)に、「祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-」が『The End of the World』(2016)にアルバム収録されています。約7分大きく静謐に繰り返す後者をもとに約4分のシーンに合わせて再録音されています。ピアノ左手の深い低音から一音一音上行していく動きは、深い場所から出口へ向かっていく神聖さを感じます。

三鷹の森ジブリ美術館オリジナルBGMです。2015年は同館「幽麗塔へようこそ展」が開催されていて、その時館内BGMとして使用されていた曖昧な記憶があります。本作の産屋のある塔と幽麗塔の世界、なにか関連はあるのでしょうか。次の情報が待たれるところです。

 

 

 

映画『君たちはどう生きるか』の音楽で誕生日プレゼントから選曲されたのは、「Ask my why」、「白壁」(小さな曲)、「祈りのうた」、「聖域」(祈りのうた II)の4曲は明らかになりました。ただ、一つの謎は残ります。

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2023.08.01 (posted on)

映画『君たちはどう生きるか』の音楽を手がけた久石譲さんのサウンドトラックアルバムが、8月9日(水)に発売されます。本日から発売日まで、久石さんの音楽作りの過程をお伝えしてゆきます。

久石さんは新年、宮﨑さんへ誕生日プレゼントの曲をたずさえ、スタジオにいらっしゃいます。
2020年1月6日(月)、久石さんがお持ちになった曲は、シンプルな単音中心のミニマルな曲でした。

少し不穏な雰囲気の曲を聞いた宮﨑さんは、目を閉じながら聞いたあと「地獄の門が開いた感じですね!」とひと言。鈴木さんもまた「久石さんの原点回帰ですね」と評しました。

久石さんは「そう! なにかそういう気がするんですよ」と答えます。
日本で最初に新型コロナウイルスが確認された1月中旬から、10日ほど前のことでした。

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from スタジオジブリ公式ツイッター(当時)

 

音楽にまつわる投稿第一弾だったこともあり、その時は「Ask me why」のことかなと思い込んでしまいました。しかし、久石譲インタビューを経て改めて注目すると、2020年1月6日と2022年1月5日、これは別の曲ということになります。さて、この曲は映画で使われたのでしょうか。いつか誕生日プレゼント(三鷹の森美術館オリジナルBGM集)がアルバムになって届けられたなら、その時に真実は明らかになるでしょうか。

 

 

次回は、つづけてアルバムを聴いてみましょう。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(4)~Ask me why~

Posted on 2024/08/09

では、アルバムを聴いてみましょう。

 

Track.
1. Ask me why(疎開)
12. Ask me why(母の思い)
34. Ask me why(眞人の決意)

久石:

「それから年が明け、(2022年)1月5日に宮﨑さんが、僕の仕事場に来られました。あの日は宮﨑さんの誕生日で、僕は毎年、曲を書いて二馬力に持って行くんですが、その時に作った曲が、眞人のテーマ曲ともいえる「Ask me why」だった。この段階では、僕は絵コンテも映像も観ていません。でも、宮﨑さんがその曲をすごく気に入られて、後日「宮﨑さんが『これってテーマ曲だよね』と言っていた」ということを伝え聞きました。それを聞いて、しまった、と(笑)。宮﨑さんって刷り込みの人だから、一度曲を聴いて「いい」というスイッチが入ってしまったら変更が利かない。僕自身は、映像を観てからテーマとなる曲を書くつもりだったけれど、こうなっちゃったらもう、戻れない。覚悟を決めました。」

「ただ、あの曲のアイデアは実は半年以上前から持っていたものなんです。歌のように、お経のようにつぶやいているものを書きたいとずっと思っていて。」

「毎年1月5日に持って行っていた曲というのは、最初はジブリ美術館用のつもりだったんですね。こういう展示物があるから作るというのではなく、何か展示するときに自由に使ってもらえばいいぐらいの感じで。そうするとイメージの源泉は宮﨑さんしかないんです。だって用途を頼まれて書いているんじゃなくて自主的に作るんだから。宮﨑さんに聴いてもらいたい曲を書くというコンセプトの中で、自分がそのときに素直に書きたいと思ったものを作る。」

「宮﨑さんが新作の制作に入ってからは、青サギが出てくるらしいということやインスピレーションを得た小説の話などは知っていましたが、具体的な内容なわからないけど、ちょっと心に引っかかりを持った少年の話になるみたいだと聞いてはいたんですね。頭にそれがあるから、5日に曲を書くとき、素直に宮﨑さんに聴いてもらいたいという気持ちと同時に、そのイメージが入ってくるんですよ、なんとなく。」

 

「七夕に初めて映像を観たとき、この映画の音楽は主人公のテーマとしてメインの曲を作って、それを中心に組み立てていくようなものではないとはっきりわかったんです。ようするにメインのメロディーをアレンジを変えて各所に押していくようなものではない。それをやると従来の古い形の映画音楽になってしまう。そのうえで一番重要なシーンにだけ厳選して使う。実際、主人公が疎開してくるオープニングと、本(君たちはどう生きるか)が机から落ちて母の字が見えたところ、あとラストの一つ前。この3カ所にしか使ってないんですよ。」

「普通だとこのメインのメロディーを弦でやったり、フルートでやったり、ヴァリエーションを増やしていくんだけど、これも一切やらない。これは完全にピアノだけでいく。どんな場合でもピアノでいくと決めちゃうとシーンができる。それをまず決めたら、そこに対してまたアイデアを考えていくということで組み立てていった。その結果として、実は鈴木さんが言ってくれた「ミニマル音楽で全編を」ということとは別に、ある意味でそれ以上に、映画音楽としてすごく特異な試みができたんです。」

 

「11月15日、映画の主要なシーンに10曲ほどの音楽を仮付けしたものを、宮﨑さんと鈴木さんに聴いてもらいました。映像を見ながらじっと音楽を聴いていて、眞人の部屋の机の上に積まれていたあの本(『君たちはどう生きるか』)が床に落ちて、表紙の内側に母の文字が見えたところに「Ask me why」が被さった時、宮﨑さんが涙を流されたということがありました。」

 

Joe Hisaishi, the veteran composer of every Miyazaki feature since 1984, responded to that original name and gave his theme the English title “Ask Me Why.” Through a translator, Hisaishi said he did that “to show that we’re constantly asking ourselves questions and asking ourselves the meanings of things.”(出典:Miyazaki’s ‘Boy and the Heron’ should be felt, composer says – Los Angeles Times, Nov. 29, 2023)

[自身のテーマに英語のタイトル「Ask Me Why」を付けた。久石は通訳を介して、「私たちが常に自分自身に疑問を持ち、物事の意味を問い続けていることを示すために」そうしたと語った]Web翻訳

(引用ここまで)

 

 

本作のメインテーマです。オープニングから本編終盤まで大切なシーンに3回だけ、他の楽器へのアレンジや変奏もなくピアノ1本で大切に奏でられています。シンプルでピュアな一曲です。オリジナルはおそらく約5分ほどのピアノ曲として仕上げられていると思います。本作ではシーンに合わせて曲想も手が加えられ曲尺も短くなっています。「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023」(2023.7)のアンコールでサプライズ披露されました。約3分半バージョンのピアノ・ソロはその後も海外公演などで演奏されています。

久石譲のジブリメロディといえば、新しくて懐かしい旋律に、神秘的に包み込んでくれるハーモニーにとファンをとろけさせてきました。「Ask me why」は、静かに呼吸するようなイントロに同音連打で始めるメロディと、まるで心の扉をノックしているようにも聴こえてきます。そして運命の扉をたたく、扉を開いていく力を感じています。映画を観た世界中の人々がフルバージョンで聴けるときをいつまでも心待ちにしている一曲です。

 

 

Ask me why のふしぎ

サビのメロディの一音が違います。とてもシンプルな曲だから同じことを繰り返しているだろう先入観もあってか、気づきにくいかもしれません。2回目に臨時記号♭(フラット)が付きます。この微細な変化が得も言われぬ奥深いニュアンスを与えてくれています。とても気に入っていました。しかし、コンサートなどで演奏しているピアノ曲は繰り返すどこにも♭は付いていません。ぜひ「34. Ask me why(眞人の決意)」を聴いてみてください。first time “D7”, second time “D7(-9)”のような、たった半音のズレからくる夢幻の響きです。この曲眞人の決意のためだけなのでしょうか。ズレあり派です。

 

~~~~

 

Scene 00:03:20 / Track 1. Ask me why (疎開)

 

Scene 00:42:30 / Track 12. Ask me why (母の思い)

 

Scene 01:51:50 / Track 34. Ask me why (眞人の決意)

 

 

次回は、つづけてアルバムを聴いてみましょう。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(3)~方法論 継~

Posted on 2024/08/08

映画『君たちはどう生きるか』で継承された方法論についてみていきましょう。中でも、久石譲が守り続ける作曲論と、もう一つは音響との関係性についてです。ミニマルについても継がれたものと新しいことを改めて整理してみましょう。

 

 

久石:

「僕が2010年にやった「悪人」という映画の音楽を高畑さんがすごく気に入られていたんですね。その理由というのは、音楽が登場人物についていない。距離を持っているということなんです。映画音楽というのは、どうしても感情につけるか、状況につけるかになる。大概はその二つなんです。悲しいところをもっと盛り上げるとか、あるいは今は戦時下ですというような状況の音楽とかね。それが基本といわれていたんだけど、僕はまったく違う方法をとっていて、主人公のテーマというのも考えたことがないんですよ。」

「あくあで監督目線でつける。監督がこれで何を表現したいのかということに対して音楽をつける。今回の映画もそうだけど、宮﨑さんの視点と観客との真ん中くらいの位置関係。悲しがっているシーンを強調したりせず、心情的なものを説明しないということに徹したのが良かったんじゃないかという気がしています。」

 

「多くの映画音楽というのは基本的に、登場人物の気持ちを表現するか、状況を表現するかの二つしかないんですよ。で、僕は両方やりたくないわけ。」(出典:2024年1月30日公開/DVD映像特典収録 久石譲インタビュー動画より)

「音楽は映像と距離をとってたほうがいい。あまり映像にシンクロしてしまうと、申し訳ないけど今のハリウッド映画みたいに(苦笑)ほとんど効果音楽になっている。走ったら速い音楽、泣いたら悲しい音楽っていう、すごくシーンを説明してしまうからね。僕はそれは絶対やりたくないから距離をとる。画面を説明しない。むしろ観る人がどんどん想像をかきたてるような、そういう音楽を書くことが理想だと思っています。ここは映画のことでとても重要なんですけども、観る人にイマジネーションをかきたてる、持ってもらう、観る人が想像できるようなものがいいと思う。音楽も説明しちゃってはいけない。」(出典:2024年1月30日公開/DVD映像特典収録 久石譲インタビュー動画より)

 

「進化なのか退化なのかはわからないけれど、デジタル機材が発達して以降のハリウッドの映画音楽は最悪になりました。それまでは言葉で作曲家に発注して何が上がってくるかわからない。何かイメージ違うんだよなと思っても、一定の範囲内で許容するしかない。そのズレって実は大切なモノだったと思うんです。ところがデジタルが発達しちゃうと誰もが簡単に切り貼りしたりシミュレーションできる。しかもその音楽を監督本人が選ぶわけではなく、分業化された「音楽ディレクター」とか「選曲屋」みたいな連中があたかも監督の代弁者のように振る舞って選びだす。これがほんとうに迷惑なんです。」

 

「作曲者ってやっぱりエゴがあって大概の場合、セリフと効果音って敵なんですよ。セリフも効果音も「うるさいから下げてください」って(音響演出の)笠松(広司)さんにしょっちゅう言っていたんですが、今回のように映画全体の音の設計を考えはじめると、「ここ、効果音くるよな」って想像がつくわけです。効果音がくるなら「ここはピアノ1本にしちゃうか」とか、トータルで設計ができるようになってくる。」

(引用ここまで)

 

 

作曲論

久石譲の作曲の流儀については、これまでも多くの機会で語られています。スタジオジブリファンや久石譲ファンにはご存知のとおりです。それもそのはず、時代をめくると『風の谷のナウシカ』(1984)や『天空の城ラピュタ』(1986)のときすでに同じことを語っているインタビューを発見できるから驚きです。作曲家として一貫したスタイルの約40年間です。

前回(2)方法論では、本作では無かったイメージアルバムについて触れました。何がイメージアルバムの役割を果たしたかというところまで踏み込んでみました。そもそもで振り返ってみると、イメージアルバムで作られた曲は特定のシーンに当て書きされたものではありません。宮﨑監督のキーワードや絵コンテをもとに、そのテーマや世界観を大きく表現する一曲になっています。そこから生まれた主要曲たちは映画本編でも大いに活躍していきます。登場人物が走っているか泣いているか、喜んでいるか悲しんでいるか、そんなどのシーンに使われるかわからない段階で書いた曲たちがぴたっとはまる、これが久石譲の言う距離をとった音楽その一つの現れなのかもしれません。イメージアルバムからであれ、本作に使われた誕生日プレゼントからであれ、タイプは違えど映像と音楽は対等な関係にあります。

イメージアルバムから振り分けていき足りないものは新たに書くという工程があります。映画公開に先駆けて届けられるイメージアルバム曲から、初めてお目見えするサウンドトラック曲まで、その楽しい時間と魅力は尽きません。本作では、事前に聴ける曲はありませんでしたが、そこには誕生日プレゼント・デモ音源・書き下ろし曲の三つがあります。誕生日プレゼントについては追って詳述したいと思います。

一つ例を想像してみましょう。「追憶」や「黄金の羽根」は、海外デモ音源の素材(モチーフ)からかたちにしていったのかもしれない。「思春期」や「ワラワラ」は、内包する世界観や独特性からすると書き溜めていた曲からではなく、シーンに合わせて新たに書かれたものかもしれない。「ワナ」については、素材があったかは不明ですがシーンに合わせて作っていったことは久石譲インタビューから明らかになっています。このように、イメージアルバムこそ無かったものの、久石譲が本作のために準備した楽曲群は、数年にもおよぶ創作期間の中から生まれた作家性の結晶です。一見するとバラバラなパズルのピースたちを高い次元でまとめあげています。

音響担当の笠松広司さんは、映画『ゲド戦記』(2006)以降のスタジオジブリ作品でも数多くクレジットされています。久石譲とは『崖の上のポニョ』(2008)『風立ちぬ』(2013)『かぐや姫の物語』(2013)ほか、『海獣の子供』(2019/STUDIO4℃)でも共に仕事をしています。

 

 

ミニマル・ミュージック

宮﨑監督の創造力に共振するように、久石譲は久石メロディを開花させ久石ブランドを進化させてきた。そういう歴史的側面はたしかにあります。本作では、ふたりのアイデンティティが真っ向から対峙しています。久石譲の音楽ルーツはメロディメーカー以前に現代音楽でありミニマル・ミュージックです。

ミニマル・ミュージックとは、短いフレーズやリズムを微細に変化させながら繰り返す音楽のことです。前衛音楽として始まり、現在までジャンルの垣根を越えて発展しています。本来の反復やズレはもちろん、ポップスからクラシックまで定義はより広がりをみせています。

久石譲は映画音楽の世界においても、ミニマルのアプローチを追求してきました。これまでのスタジオジブリ作品や北野武監督作品にもその一端は現れています。とりわけ、近年の日本映画『海獣の子供』(2019)『映画 二ノ国』(2019)や海外映画『赤狐書生 (Soul Snatcher)』(2020)『川流不“熄”(A Summer Trip)』(2021・未音源化)など、その比率は各段に上がっています。久石譲は「エンターテインメントでもミニマルのスタイルで貫けるときにはブレずにやる」と語っているとおり、どこまでミニマルでいけるのか挑んできた近年の志向性です。

ミニマル・ミュージックは、微細な変化を探求しているため、その音楽を明るいと感じるか暗いと感じるか、あるいは何を想像するかはリスナー一人一人に委ねられています。イマジネーションをかき立てる映像や物語に対して、音楽が先走ったり一つの答えを押しつけてしまってはいけない。久石譲の言う「距離をとった音楽」「観る人がどんどん想像をかきたてる音楽」のひとつにミニマルはあります。観る人や観るタイミングで微細に変化しながら、色褪せることなく長く愛され続けていきます。

ミニマルについて継承されたものは、久石譲というミニマル作家が映画音楽でも常にひとつの手法として如実に表現してきたことです。ミニマルについて新しいことは、遂に本作ではミニマルの手法で全曲書ききるという研ぎ澄まされた極致に達したということです。

 

Scene 01:39:10 / There is no music in this cut.

 

 

次回は、ではアルバムを聴いてみましょう。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(2)~方法論~

Posted on 2024/08/07

映画『君たちはどう生きるか』でとたれた新しい方法論についてみていきましょう。中でも注目するのは大きく3つです。ミニマル・選曲・世界観です。エピソードに触れていくことで、音楽として具現化していった経緯や確信に満ちたアプローチまでみえてきます。

 

 

久石:

「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」

「この4、5年は中国の映画などでミニマル的アプローチで全編通すということをいくつか試みていたんです。で、今回「君たちはどう生きるか」の映像を初めて観たとき、ああ、これはもう愛と感動の方式をとらないでいいだろうと、はっきり思ったんですね。そのとき、メロディーではなくミニマルで行こうと腹を決めたのは事実なので、鈴木さんの解釈は正しいです。」

 

「7月に仕上がった映像を観て、最初に2部構成だと感じました。前半は「風立ちぬ」のように、少し前の時代の現代が舞台。後半は「崖の上のポニョ」のようなファンタジーであると。前半はできるだけ小さな編成でゆき、後半はオーケストラになっても構わないという構成をイメージしました。」

 

「映像を観終わったあと、宮﨑さんがふらりと顔を出されて「あとはよろしく」と一言(笑)。通常、映画の音楽を作るときは絵コンテや台本を読みながら、音楽打ち合わせを行います。今回は、それもなかった。「どこに音楽を入れるかもすべて任せますから、お願いします」と。」

「今回面白かったのは「じゃ、あとはよろしく」と言われたことで、一音楽家として曲を書くことより、ひとつの映画の音楽全体、あるいは音響全体までをまとめなきゃいけないという意識が強まったことです。新たに広がった視野で考えていった時、僕の掌の中にはすでに宮﨑さんに毎年贈ってきた曲が溜まりに溜まっていることに気づいたんです。4、5分以上の曲が14~15曲以上あって、すぐに「この素材を全部使えばいいじゃん」という発想に切り替わった。かなりタイトな制作期間だったにもかかわらず、制作に集中することができた。宮﨑さんが「これってテーマだよね」と言ってくれた曲があったことも心の支えでした。」

 

「映画に対して”選曲スタイル”でやったほうがいいケースの音楽もあるんです。それをうまくやった人間が(スタンリー・)キューブリック監督です。キューブリックは映画「2001年宇宙の旅」の宇宙航行のシーンで「美しく青きドナウ」というワルツを流す。無重力空間で。普通だったら派手なホルスト系の「惑星」みたいな曲になりそうなのにならない。見た瞬間からもうあれ以外考えられなくなりますよね。それが選曲の良さです。想像もつかない音楽をつけることができる。これはわれわれ作曲家にはできないんですよ。なぜなら映像を見て曲を書くから。」

「うん。テレビ番組などで選曲家が悲しいシーンに明るい曲をつけて楽しんでいるケースはあります。でも作曲家はまずやらない。計算して悲しいけど明るい曲を書こうとしたって、わざとやったらその意図はどうしても曲にあらわれてしまい、あざとさが透けて見えてしまう。だから本来、作曲家がキューブリックの「2001年宇宙の旅」のような選曲の妙を表現することはできないわけです。ところが今回、ある種の偶然も手伝って、僕は作曲家でありながら”選曲”の表現を試みることができた。」

 

(補足)

原典からの引用箇所を選ぶのが難しかったため、一点補足します。久石譲は海外ツアーの際に曲を書き溜めていました。『君たちはどう生きるか』や当時話が持ち上がっていたアメリカのテレビドラマの垣根はなく、何の用途もなく作ったデモ音源は約20曲ぐらいになっていました。誕生日プレゼントとこれらのデモ音源をはめたり、その流れを見ながら新たに浮かんできたところは曲を書き足していったということを明かしています。

 

 

前島:

「主人公・眞人が暮らす現実世界すなわち「上の世界」を描いた前半部と、眞人が足を踏み入れた塔の中で体験する「下の世界」を描いた後半部で映画の内容が大きく変わるので、前半部の音楽は眞人の心情に寄り添う形でピアノ・ソロもしくはピアノ・トリオのような最小限の編成で音楽を付け、後半部に入ってから初めてオーケストラを使用する。かつ、前半部も後半部もミニマル・ミュージックのスタイルを用いて作曲し、スコア全体の統一感を生み出す。」

「これまで久石が宮﨑監督の誕生日プレゼントとして書いたピアノ曲(いくつかはジブリ美術館のBGMとして使用されている)を本編の音楽に用いることで、映像と音楽が対等の関係を結ぶような効果を生み出す。音楽用語のアナロジーを用いれば、画と音がユニゾンでべったり進んだり、どちらかがホモフォニカルに従属したりするのではなく、ポリフォニックな関係によって互いの存在を引き立たせるということである。その際、宮﨑監督の画に対するカウンターポイントとして対置される久石の音楽は、もともと久石が宮﨑監督を念頭に置いて作曲した曲なので、宮﨑監督の自伝的要素が少なからず含まれる本作の内容から著しく逸脱することはない。そして、スタンリー・キューブリック監督が『2001年宇宙の旅』(1968)でクラシックの既成曲を選曲して大きな効果をあげたように、久石自身がそれらのピアノ曲を選曲し、スコアの中で使用することで、映像と音楽が織りなす予想外の対位法的効果をもたらすことができる。」

(引用ここまで)

 

 

久石譲が語ったことと前島氏の評から、新しい方法論として採用された《ミニマル・選曲》が音楽制作のうえで重要な鍵となったことがわかります。さらに、このことで現れ出ることになった《二つの世界観》についてみていきましょう。

ここでは、イメージアルバムをキーファクターとして追究していきます。本作では制作されていません。宮﨑駿×久石譲のゴールデンタッグにおいて盤石の方法論だったものがないことで起こったことがあります。それは、宮﨑監督の映画制作過程で久石譲のイメージ曲に影響を受けていないということです。これまでに、ドキュメンタリー番組などで久石譲のイメージアルバムを流しながら作業をしていたり、先に出来上がった曲に影響を受けてストーリーが導かれていったり、というエピソードを目にしてきました。本作では出来上がった純粋な映像から音楽がコラボレーションを果たしています。

一方では、なくても揺るがなかったことがあります。誕生日プレゼントから選曲したという点です。宮﨑監督のために書き下ろした曲たちは、いわば宮﨑駿イメージアルバムともなり得るからです。その中から宮﨑監督は「Ask me why」を選び久石譲は他の曲を選び、シーンに合わせて書き足されていった。【自身の少年時代を重ねた自伝的ファンタジー映画】(公式パンフレット 作品解説より)とあります。本作の音楽は、宮﨑監督という世界観と映画の世界観という二つの世界観を共生させて奥深い魅力を放っています。

イメージアルバムがないということは、いきなり本編映像に清書するようなものです。しかし、そこには熟成何年から十数年ものという誕生日プレゼントのピアノ曲があった。寝かせた旨味を冷静にテイスティングできた久石譲セルフ選曲こそ確信に満ちた一手です。かけられてきた時間をみても易々と追い抜くことのできない久石譲の達成です。

 

改めておさらいしてみましょう。キューブリック監督はクラシックの既成曲から選曲することで、本来全く違うものが重なり合い予想外の効果をもたらしました。久石譲は従来のイメージアルバムのように作品のキーワードや絵コンテから書いた曲ではなく、宮﨑監督をイメージの源泉として純粋に書いた曲から選曲することで、そのシーンからは想像もつかない音楽の効果を生みました。どちらも映像と音楽の対等な関係です。さらには、通常は外部の既成曲の場合使いたい部分の抜き出しやシーンに合わせた切り貼りしかできません。作曲家自ら選曲するということは、曲素材をもとに映像に合わせて音楽的に再構成することができる、その作品の世界観を統一性や意外性をもって音楽設計を進めていくことができる、ということになるのではないでしょうか。

 

Scene 01:14:35 / There is no music in this cut.

 

 

次回は、映画『君たちはどう生きるか』で継承された方法論についてみていきましょう。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)

 

Blog. 映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説(1)~イントロダクション~

Posted on 2024/08/06

映画『君たちはどう生きるか』(2023)公開から約1年。久石譲インタビュー(2023.10)と前島秀国LPライナーノーツ(2024.7)をもとに、本作品の音楽制作過程や楽曲解説をまとめていきます。何も情報のなかった公開当時に記したレビュー(2023.8)からミニマルにぎゅっと圧縮して今回新たに再考したことにも触れています。作曲家、評論家、それぞれが語ったことを並べるように進めていきます。

前島秀国さんは、久石譲CD作品の数多くのライナーノーツを手がけています。また近年にかけてラインナップされたスタジオジブリ作品サウンドトラックのアナログ盤においても新ライナーノーツを書き下ろしています(久石譲が音楽担当した作品)。小説に添えられた文庫解説と同じように、作家とその作品群に精通した専門家による評であり、そこには鋭い個人の解釈と久石譲の代弁者ともなり得る説得力があります。正解ではなく共感できるか、磨かれた一つの回答がそこにはあります。

出典は頁末に記しています。全てを書き出して振り分けていくことはできません。興味を抱いた事柄については、ぜひオリジナル・テキストを手にとってください。

 

 

約40年間の歩み

宮﨑駿監督と久石譲のコラボレーションの歴史は、初めてタッグを組んだ映画『風の谷のナウシカ』(1984)に始まります。これまでに長編映画10作品、短編映画3作品、そして10年ぶりの最新作『君たちはどう生きるか』は11作目になります。高畑勲監督と初タッグとなった映画『かぐや姫の物語』(2013)も加えて共に歩んできた約40年間です。

宮﨑駿×高畑勲×久石譲によって確立されたとも言える、イメージアルバムからサウンドトラックまでという音楽制作の方法論は、映像にとってあるいは作品の世界観にとっていかに音楽が重要であるかということを示してきました。これまでに培ってきた盤石の方法論たちは本作では継承されたのか打破されたのか、これから紐解いていく大きなポイントになります。

 

 

音楽制作日誌

2021年11月 宮﨑監督から正式に依頼される
2022年1月5日 宮﨑監督へ誕生日プレゼント「Ask me why」
2022年7月7日 初めて試写を観る
2022年11月15日 主要シーンの音楽仮付け
2023年1月20日 ピアノ・レコーディング開始
2023年1月21日 オーケストラ・レコーディング開始

 

久石譲インタビューは当時を回顧するように詳細に語られています。前島氏はそこからきれいに要約してまとめています。

 

前島:

「2021年11月、久石は宮﨑監督から『君たちはどう生きるか』の作曲を正式に依頼されたが、翌年の夏ぐらいまでにほぼ映像ができあがる予定なので、それを先入観なしに観てほしい、それまでは絵コンテも読まないほうがいいと宮﨑監督から伝えられ、映画の内容に関する具体的な話は出なかった。次に久石が宮﨑監督と会ったのは年明けの2022年1月5日、すなわち宮﨑監督の誕生日である。毎年、久石は監督への誕生日プレゼントとしてピアノ曲を作曲・録音し、それを本人に届けるのが恒例となっているが、2022年の誕生日プレゼントとして書かれた新曲《Ask me why》を久石から贈られた宮﨑監督はこの曲を大変気に入り、宮﨑監督の希望でこの映画のテーマ曲に用いられることになった。それから7ヶ月後の同年7月7日、久石はようやく本編映像の試写に臨み(その段階で映像は95%以上完成していたという)、本作の内容を初めて知る。しかしながら、これまでの作品で必ずおこなわれてきた宮﨑監督との音楽打ち合わせはいっさいなく、「あとはよろしく」の一言だけで久石は宮﨑監督から音楽の作曲を一任された。試写で受けた衝撃を消化するのに数ヶ月を要した久石は、海外ツアーの合間にデモ曲の作曲に着手すると同時に、これまで宮﨑監督の誕生日プレゼントとして作曲したピアノ曲のいくつかをサウンドトラックに用いるという決断をした。11月15日、久石は映画の主要なシーンに10曲ほど仮付けしたものを宮﨑監督と鈴木敏夫プロデューサーに聴かせ、両者の了承を得る。そして11月後半から本格的な作曲作業に入り、翌2023年1月21日からオーケストラの収録がスタートし、その後まもなくサウンドトラックが完成した。」

 

 

サウンドトラック

上映時間は約124分、サウンドトラック盤は約69分、本編の約半分に音楽がついています。この中で、複数回使用された曲(一曲/曲部分)はありません。未収録曲もありません。映画本編に沿って曲順も曲尺もそのままに収録されています。ある一曲を除いて。「20.呪われた海」は、本編に使われたのはその一部で使われなかったパートもふくめて音源化されています。

 

 

音楽クレジット

作曲・編曲・プロデュース:久石譲

指揮・ピアノ:久石譲
演奏:Future Orchestra Classics
ゲストコンサートマスター:郷古簾
コーラス:麻衣&リトルキャロル

 

指揮は、コンサートも音楽収録も作曲者の久石譲によって音たちが導かれていきます。

ピアノは、久石譲本人によるものです。そんなのご存知と思うかもしれませんがそうでもありません。あえて区別しているのか定かではありませんが、近年だけを見ても映画『海獣の子供』(2019)や映画『二ノ国』(2019)などは別のピアノ奏者をたてています。宮﨑監督作品については全作品ご存知のとおり久石譲ピアノです。本作の主人公は宮﨑監督であり、宮﨑監督へ贈られた曲たちも大切な役割をもっています。おのずと久石譲が紡ぐピアニズムが欠かせません。とりわけ本作では、物語のなかに常にいて寄り添っている久石譲ピアノです。

演奏は、久石譲の呼び掛けのもと若手トップクラスの演奏家たちが集結するFuture Orchestra Classics(FOC)です。2016年の母体から精力的にクラシック演奏会を開催し、それらを収めたアルバムは高い評価を得ています。久石譲新作から現代作品まで、常に現代的なアプローチで臨み久石譲が追求する音楽を共に研鑽し進化させています。本作は、記念すべきFutune Orchestra Classics名義でのサントラ初クレジットになります。

これまでのスタジオジブリ作品サウンドトラックは、新日本フィルハーモニー交響楽団、読売日本交響楽団、東京交響楽団といった在京オーケストラと共演してきました。FOCは室内オーケストラです。室内楽ほどの小さい編成からオーケストラほどの大きい編成までその柔軟な駆動力を活かしながら、現代的なアプローチとまっすぐ伸びるノンビブラート奏法も相まって極めて芯の強い音像になっています。

ゲストコンサートマスターは、その冠のとおりFOCに客演で初参加となった郷古簾氏です。2022年からNHK交響楽団のゲスト・コンサートマスターを務め、2024年4月から第1コンサートマスターに就任しています。同年7月には久石譲MFコンサートVol.11にも初参加を果たしています。

コーラスは、麻衣&リトルキャロルです。過去には『崖の上のポニョ』(2008)のイメージアルバムとサウンドトラックにも参加しています。『風の谷のナウシカ』(1984)の少女の歌声は当時4歳の麻衣さんです。『もののけ姫』(1997)のイメージアルバムで「もののけ姫」を歌唱していたのもまた麻衣さんです。麻衣名義・リトルキャロル名義とありますが、これまでに数多くの久石譲映画音楽に華を添えてきた女声コーラスグループです。

 

 

受賞歴

世界各国の映画祭・賞レースで盛り上がりをみせる本作ですが、その中から音楽賞にフォーカスしても枚挙にいとまがありません。最優秀賞に輝いたニュースは瞬時に世界を駆け巡ります。

  • 第28回フロリダ映画批評家協会賞 作曲賞
  • 国際シネフィル協会賞 作曲賞
  • 国際映画音楽批評家協会賞 アニメ映画部門作曲賞

 

このほか名だたる映画賞の音楽部門/作曲賞で数多くノミネートされ話題を集めました。

  • 第81回ゴールデングローブ賞
  • 第51回アニー賞
  • 第17回ヒューストン映画批評家協会賞

ほか

2024年8月現在

 

 

次回は、映画『君たちはどう生きるか』でとられた新しい方法論についてみていきましょう。

 

 

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

引用元:

  • 久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」スタジオジブリ『熱風2023年10月号』
  • 久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」東宝『君たちはどう生きるか ガイドブック』
  • 前島秀国 ライナーノーツ 徳間ジャパン『君たちはどう生きるか サウンドトラック』アナログ盤
  • スタジオジブリ作品静止画『君たちはどう生きるか』場面写真 STUDIO GHIBLI

そのほかの引用については個々に注釈をつけています

 

 

映画『君たちはどう生きるか』
The Boy and the Heron

原作・脚本・監督:宮﨑駿
プロデューサー:鈴木敏夫
制作:スタジオジブリ ⋅ 星野康二 ⋅ 宮崎吾朗 ⋅ 中島清文
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師

上映時間:約124分
配給:東宝
公開日:2023.7.14(金)

 

(関連リンクはこちらにまとめています)