映画音楽で知られる作曲家久石譲が、3年ぶりのソロアルバム「アナザー・ピアノ・ストーリーズ」(ユニバーサル)を出した。米アカデミー賞外国語映画賞に輝いた「おくりびと」や「崖(がけ)の上のポニョ」……。昨年来話題の作品を彩る楽曲の数々に、12人のチェリストによるアンサンブルで新しい命を吹き込んだ。(西正之)
宮崎アニメや北野武監督の「HANA―BI」などで一躍国際的にも名を知られた。「おくりびと」の滝田洋二郎監督とも、03年の「壬生義士伝」以来の仲だ。
「意外と新人監督との仕事も多いんです。監督ごとに生理的なテンポがあって、5分くらい映像を見ると分かる。こんな感じで行けそうかなと思えたら、後は自然と音楽が寄り添っていく。そこまで行くのが大変なんですけど」
とりわけ宮崎駿監督とは84年の「風の谷のナウシカ」から25年の付き合いだ。「監督のテイストに、こっちの感性が合っていた。何も言わなくても通じると言いますか。絵を見なくても、音楽がぴったりあうから不思議」
「ポニョ」は主題歌も大ヒット。「主題歌をあれだけ童謡的に作った一方で、映画の中の音楽はかなり手の込んだものにしたんです。主題歌が力強いから、それでも全体が壊れなかった。思い通りのことができた作品ですね」
「おくりびと」「ポニョ」に、中居正広主演の「私は貝になりたい」と、08年は特に話題の作品が続いた。
「でもね、映画ばかりだと飽きちゃうの。ソロ活動もしないと。映画は監督との共同作業。思わぬ自分が出てくるよさはあるけれど、音楽が100%モノを言ってはいけない。音楽鑑賞用としては物足りないくらいにするんです」
今回のアルバムには、「ポニョ」「おくりびと」「私は貝になりたい」の楽曲を鑑賞用にアレンジし直した演奏を新録。12人のチェロアンサンブルを軸に構成している。
「楽曲が100%モノを言うように組み替えました。中にはメロディーだけ残って後は全く違うものになっているものもあります」
時代へのメッセージも込めた。昨年、ブラジルの国際映画祭に審査員として招かれた際、作品の多くが「戦争」を扱っていたことに衝撃を受けた。「世界は今、戦時下なんだと強く思いましたね」
「命」が永遠のテーマだという。命の源である自然への慈しみ、命を奪う戦争や暴力への怒り。手がけてきた映画の多くにも共通するテーマだ。今回書き下ろした「ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド」という4楽章からなる新曲にもその思いを込めた。
「限りある命だからこそ、人生は美しいし格好いいとも思う。そんな人生の応援歌を書いていければうれしい」
(asahi.com より)