Posted on 2026/01/20
2026年1月17日「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第295回 定期演奏会」が開催されました。日本センチュリー交響楽団音楽監督に就任した今シーズンは、ベートーヴェン交響曲と近現代曲をプログラムしています。
前日16日には同内容プログラムでの北摂定期演奏会・箕面公演も開催されました。
日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #295
[公演期間] 
2026/01/17
[公演回数]
1公演
大阪・ザ・シンフォニーホール
[編成]
指揮:久石譲
ハープ:エマニュエル・セイソン
管弦楽:日本センチュリー交響楽団
[曲目]
久石譲:Encounter for String Orchestra
久石譲:ハープ協奏曲
—-Soloist Encore—-
ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女(1/16 箕面公演)
マルセル・トゥルニエ:「オ・マタン」(1/17)
—-intermission—-
ベートーヴェン:交響曲 第3番 ホ長調 作品55「英雄」
—-Orchestra Encore—-
シューベルト:「ロザムンデ」より 間奏曲 第3番
[参考作品]
まずは会場で配られたプログラム冊子からご紹介します。
Program Notes
久石譲:Encounter for String Orchestra
2012年にフェルメール展が催され、その作曲を依頼されたのですが、僕の強い要望でエッシャーも展示されました。ミニマリストとしてはフェルメールよりも(もちろん好きですけど)だまし絵のエッシャーの方に興味があったからです。その楽曲を中心に、後に「弦楽四重奏曲第1番(String Quartet No.1)」を作曲しました。その第1曲がこの「Encounter」です。それをストリング・オーケストラとして独立した楽曲にしました。マーラーがシューベルト等の弦楽四重奏曲をオーケストラ用に書き直していますが、厚くなる部分と、ソロの部分をうまく活かしてよりダイナミックに作っている。僕もそのことを大切にしました。
レの音を中心としてモードによるリズミカルなフレーズが繰り返されます。ややブラックなユーモアもありますが、変拍子と相まって曲の展開の予想はつきにくい、従って演奏もかなり難しいです。
曲のタイトルはエッシャーの「Encounter」という絵画(版画)からきています。もちろんインスピレーションも受けています。決して重い曲ではないので、楽しんでいただけたら幸いです。
(久石譲)
久石譲:ハープ協奏曲
Harp Concertoはロサンゼルス・フィルハーモニック(LAフィル)とボルドー国立オペラ、フィルハーモニー・ド・パリ、シンガポール交響楽団の共同委嘱として作曲を依頼された。LAフィルに在籍しているハープ奏者のエマニュエル・セイソンが演奏する前提の依頼である。
2023年の夏にハリウッドボウルで初めてLAフィルと共演して(その時は17500人の会場はSold Outになった)、エマニュエルとも最初のセッションを持った。早く作曲を開始したかったが過密なスケジュールのため翌年の2月から作曲を開始した。2024年5月に来日した彼とほぼ完成した第1楽章を聞きながら修正の方向を確認し7月にハープパートを完成し、9月中旬にオーケストレーションがも終了した。約30分の全3楽章の楽曲になった。
第一楽章はロ短調の分散和音を主体としたAllegroで構成し、一番最後に完成した第2楽章はニ短調6/8+7/8のゆったりしたリズムによる緩徐楽章になり、カデンツァを経て第三楽章のヘ短調Allegroのトッカータでクライマックスに到達する。通常イメージするハープは優雅で優しく穏やな音楽なのだが、このコンチェルトは激しく、荒々しく、躍動的で今までの概念とはだいぶ異なっていると思う。それはエマニュエルの演奏スタイルに感化されたこともあり自分が望んでいたことでもある。
約9ヶ月に及ぶ作曲期間は(もちろん思考していた時間も入れたら1年半以上になる)自分にとってはかなり長い期間である。もちろんその間多くのコンサートがあったため時間を取られたこともあるが、その分、曲を吟味する時間もあったことも事実だ。多くの関係者に感謝するとともに、これから演奏を通して楽曲が育っていくことを心から期待する。
(久石譲)
*ベートーヴェン作品については小味渕彦之氏による解説が掲載されています。
(「日本センチュリー交響楽団 第295回定期演奏会/北摂定期演奏会~箕面公演~」コンサートプログラム冊子より)
ここからはレビューになります。
久石譲指揮のオーケストラ配置は、対向配置がデフォルトです。
久石譲:Encounter for String Orchestra
この作品の誕生と変遷は、久石譲による楽曲解説にあるとおりです。いつもアグレッシブで音圧のある!ダイナミックで現代的な!演奏を聴かせてくれる日本センチュリー交響楽団弦楽セクションにはうってつけの作品です。弦楽四重奏版は4本の弦楽器、この弦楽オーケストラ版は約40名に拡大されています。
ミニマルに進んでいくモチーフの重なりと、長調とも短調ともとれない絶妙なバランスの上にたつ楽想は、聴くほどに味が出てきます。不思議な魅力というか、どうにも見過ごせなくなる作品です。『Vermeer & Escher フェルメール&エッシャー』収録のピアノ五重奏版がオリジナルです。それが弦楽四重奏第1曲となり、そこからまた弦楽オーケストラで単曲を引っ張り上げた経緯ですね。そうして振り返ってみると、アルバムの背面ジャケットになっている絵こそエッシャーの「Encounter」です。当時から久石譲の並々ならぬ手応えやその先の意欲まで伝わってきそうです。
ピアノ五重奏版(2012)


弦楽四重奏版(2014)*発表年

弦楽オーケストラ版(2017)*発表年

久石譲:ハープ協奏曲
2025年7月サントリーホール満を持しての日本初演とその衝撃から約半年。よし今日は少し落ち着いて聴けるかなと深呼吸。でもやっぱり始まってみたら全然落ち着いてなんかいられない。すごすぎる!やばい!待って!語彙力消滅。
エマニュエル・セイソンさんのハープ力は凄まじいものがあります。ハープの固定概念を吹き飛ばす楽想と演奏スタイルではあるのですが、さらに超えてくる表現力には驚嘆します。激しいけれど力任せじゃない強靭さ。ハープ用にマイク置いてる?!と勘違いしてしまうほどの圧倒的なボリュームと存在感。ハープの響きが引き立つようにと通常のオーケストラよりも少しだけ小さい弦12型編成その必要ないくらいの持って行き感。めまぐるしくキャストが入れ替わり立ち回っても常時輝いてしまう全編主役。ダンスグループなどで一人にフォーカスして追いかけるカメラアングル、韓国語でいうところの「チッケム」状態。英語圏では「ファンカム(Fan Cam)」ですね。もう目も耳も釘付けです。語彙力推し活。
第1楽章からハーピストが奏でるモチーフを、オケの中にもいるハープとピアノらで絡み合いながら進んでいきます。大きなタペストリーを織りあげていくように、ハープが中心となりオーケストラも合わせて流れていきます。とにかく第1楽章から激しく荒々しい、そして狂気なまでに美しい。鮮烈に圧倒されます。
第2楽章は緩徐楽章です。久石譲の交響曲第3番第2楽章にも見られるような、メロディアスなミニマルに心を打たれます。ハープらと一緒にチェロでも低音をピッツィカートしたりと音色が豊かに調合されています。耳だけでは難しいかもしれませんが、楽器や音色を目で見て気づくこともたくさんあります。弾(はじ)ける音のブレンドマイスター久石譲です。
個人的には「ASIAN SYMPHONY IV.Absolution」や「Asian Works 2020 II.Yinglian」なども思い起こします。深い慈悲や慈愛です。終盤ではオーケストラが重なり合い膨らみ押し寄せるように、旋律は大きな流れをつくりあげます。
カデンツァは、前回聴いたものと同じでした。本来は即興性の高いカデンツァですが、このパートにも久石譲の強いコンセプトが内在しているように感じます。まるで民族楽器を模したような特殊奏法については前回のコンサート・レポートで触れています。よかったら開いてみてください。このすぐ下にあります。
第3楽章は、カデンツァの延長上に続けられます。また激しく躍動的な楽章です。こちらも前回レビューに書いていたかもしれませんが、後半に「Encounter」(出会い/邂逅)に近しいユーモラスなモチーフも登場します。行きつ戻りつ繋がっているように感じます。本公演でプログラムを並べたのにも意図はあるのか?興味ポイントです。「Encounter」もさらに好きになってしまう。音楽っておもしろい面がたくさんありますね。
ハープ協奏曲は久石譲の真骨頂です。久石譲ミニマリズムの面目躍如です。そこへまた新しい言い方を加えたい。「久石譲のミニマルとリズムの美学」がここに。
初演を聴いたときの感想は、もう少し音楽的にしっかり感じ取りたいと努めて記しました。いろいろな面から読んでいただけるとうれしいです。
ソリスト・アンコール
ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女(1/16 箕面公演)
マルセル・トゥルニエ:「オ・マタン」(1/17)
うっとりするには充分すぎるほどの時間です。セイソンさんの音色は手先からというよりもハープと体が一体となって大地的な大きさと静けさで響いてくるようです。優雅に泳ぐ白鳥の水面下のように、ハープの足捌きまで見れる至近距離は贅沢そのもので、ペダルで音高の調節(半音装置)などを自由自在に、やっぱり全身からその音を奏でているのです。
ここでセイソンさんの登場が終わるかと思うと、いつまででも拍手したくなる、ついつい立ち上がりたくなる衝動を抑えていた観客は僕だけではなかったことが、終演後ファン談話で無事明らかになりました。エマニュエル・セイソンさんのハープが日本で聴けるチャンスは次あるのでしょうか!?やっぱり立てばよかったですね!
ベートーヴェン:交響曲 第3番 ホ長調 作品55「英雄」
クラシック定期演奏会らしい安定と貫禄のパフォーマンスでした。ベートーヴェンだと第3番、ブラームスだと第1番、シューマンだと第3番を選びたくなるマイ・フェイバリットです。理由は聴いていて好きだからです。つい最近、本の整理をしていたら、ブラームの交響曲第1番は「英雄」の作曲技法に近いとあって(第5番と第9番の影響も受けている)、シューマンの交響曲第3番第1楽章は「英雄」を強く意識しているとも知りました。なんとなく好きなグループにしていたものたちは、ちゃんと好きになってしまう理由がそこに潜んでいたんですね。自分の好きアンテナを褒めてあげたい。これだから聴くことと知ることはやめられない。天空の城ラピュタの音楽はブラームス交響曲第1番と深いところでつながっていると勝手に確信しています。
2014年長野・ホクト文化ホールで聴いた「英雄」は大きくて重い鎧だったとすると、それからフューチャー・オーケストラ・クラシックスの録音を経た現在のアプローチは、デザインも動きやすさも進化した現代的な鎧です。今回の演奏を聴いて、ちょうどいい重さだなと好きだけにうれしく感じました。ブラームスの第1番はアルバム版と別に全集用に新録音したものがあるように、この「英雄」も今のアプローチで新しく刻んでほしい。そう思う理由はたとえば、と話が続くのだけれど、それはまた今度。
チェロ素晴らしかった!第4楽章のあの重厚なザクザク感。弾いている上半身が浮いてしまうほど下半身に強く重心を置いてザクッ!ザクッ!を連発する。もう筋トレみたい。こんな音聴いたことない!というほどしびれました。音に電流が走り、こっちの体にも電流が走る。
第4楽章では主題が弦楽四重奏で奏でられるパートもあります。そしてオーケストラ全体に拡大する。ひとつの楽章のなかで拡大と削ぎ落としをやっている。久石譲交響曲第3番第2楽章などにも聴くことができます。何が言いたいのかって、つまり久石譲はクラシックの王道を行くんだと自らも語り、実際に伝統を継承しながら進化させているということです。こうやって時代の作品をクロスオーバーさせていくことで今の音楽がもっと輝きます。久石譲の音楽がさらに輝きます。

オーケストラ・アンコール
シューベルト:「ロザムンデ」より 間奏曲 第3番
美しい調べです。シューベルトの代表曲のひとつです。劇付随音楽『キプロスの女王ロザムンデ』のために作曲されたもので、この間奏曲第3番は単独でよく取り上げられます。シューベルトの手応えを象徴するかのように、のちに弦楽四重奏曲第13番イ短調(通称『ロザムンデ』)の第2楽章に、またピアノ即興曲集D.935の第3番(変ロ長調)にも転用されています。
本日のプログラム第1曲は「久石譲:Encounter for String Orchestra」です。弦楽四重奏であったものを弦楽オーケストラに拡大しています。まったく逆の流れになりますね。おもしろいですね!こうやって長い歴史のなかで作曲家たちは、自身の作品を拡大したり削ぎ落としたりしながら、コアを磨き上げている、尊い。
シューベルトはベートーヴェンを深く尊敬していました。ベートーヴェンの葬儀にも参列しその棺を担いだ一人でもあったと言い伝えられています。シューベルトにとってベートーヴェンは英雄そのものかもしれません。そこに想い馳せるとこのアンコール曲はまた格別なものになります。
リアルな現代社会を見ると、力を持つ人が英雄なのか、力を持ってしまった人が英雄なのか、戸惑い考えさせられることも多い日常にいます。本公演のプログラム全てを聴き終わった今、音楽だけが語ってくれる、音楽だけが導いてくれる真の力があることを強く感じました。たくさん聴いて、たくさん感じて、たくさん考えて、その繰り返しです。
ということで、僕はカーテンコールで立ちたかったけれど、立てませんでした。雰囲気を異にするクラシック演奏会は勝手に空気を読んでしまいます。それはスタンディングオベーションする恥ずかしさよりも、後ろの人の邪魔になるんじゃないかという気遣いのほうが勝ってしまう日本人です。ほら、冠・久石譲コンサートはわりとみんな一斉に立ち上がるから。そんな有志はきっとたくさんいたと思います。どうぞ今回は拍手の熱量で感じ取っていただけたなら幸いです。素晴らしい時間をありがとうございました。
久石譲音楽監督シーズン2年目のテーマは「ブラームス」
リハーサル風景











from 日本センチュリー交響楽団公式X(Twitter)/Facebook/Instagram
https://x.com/Japan_Century
https://www.facebook.com/JapanCentury
https://www.instagram.com/japan_century/
公演風景(1/16)



公演風景(1/17)










from 日本センチュリー交響楽団公式X(Twitter)/Facebook/Instagram



from SNS(ご提供いただきありがとうございます。)



from 久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋X(Twitter)
https://x.com/hibikihajimecom
最後まで読んでいただきありがとうございます。




