Blog. 映画『悪人』(2010) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/26

2010年公開 映画「悪人」
監督:李相日 音楽:久石譲 出演:妻夫木聡、深津絵里 他

第34回 日本アカデミー賞 最優秀音楽賞も受賞した作品です。

 

映画公開時、劇場で販売された公式パンフレットより久石譲インタビューをご紹介します。

 

 

INTERVIEW

事前に手の内を明かさないように、
ニュートラルな位置から映画を推進していきたかった。

-久石さんの音楽が、映画を観る手助けをしてくれていると感じました。特に、祐一に対して。なぜか、やさしい気持ちで祐一を見つめていられる。でも、簡単に救いを与えているわけではなくて。負担を軽減してくれるというか、高度な音楽作用だと思いました。

久石:
祐一は殺人者だけど、誰もがなりえてしまう。若くて、思い通りに生きられない、大勢いる人たちのなかのひとりでもある、でも、それを音楽が肯定してもいけない。やっぱり罪を犯しているわけですから。距離はとる。けれども、彼が持っている孤独感や共感できる部分は、この映画のメインテーマになるだろうと思いました。あまり饒舌にもならず、たえず揺れる祐一の気持ちとシンクロしていくために、同じ音階を繰り返すミニマルな曲調を選びました。

 

-映画と音楽の距離感が絶妙です。

久石:
気持ちを煽ってしまうと、すごく安っぽくなってしまうから。あと、難しかったのが、この映画は後半、群像劇になる。房枝にしても、佳男にしても、それぞれがシチュエーションのなかで自分を乗り越えていく。一方、(祐一と光代の)ふたりの主人公は、逃避行がはじまってから、ドラマがなくなる。でも、最後には、祐一のテーマをメインにした、少しメロディアスなふたりの愛のほうに焦点を絞っていったほうが結果、観る側はこの映画にストレートに入れる。あの夕陽を見て終わっていく瞬間に、「これはふたりのラブストーリーだったんだ」ということが明確になってくれれば、観やすくなるんじゃないかと。そこに神経を使いました。

 

-だから、あのラストが効くのだと思います。

久石:
ラストの曲は、救い、じゃないんです。レクイエムでもない。ある種の救済的なぬくもりはある-でも、あったかいわけじゃない-それがあることで音楽的な構造は非常に明確になるんじゃないかと思いました。

 

-あのラストが、いわば「到着」の感慨をもたらすのは、序盤で流れる音楽が、それこそ山道の急カーブを祐一が駆る車の走りのように、どこに連れて行かれるかわからない、あらゆる「予感」だけが乱れ絡み合うドライブ、つまり多様なファクターの集積になっているからだと思います。

久石:
ある種のサスペンス。どうなっていくの? というニュアンスは絶対必要。でも、メロディアスに「これはラブロマンスですよ」と伝えるのもまったくの嘘。悲劇性が強すぎても駄目。つまり、事前に手の内を明かすような真似をしたらいけない。たえず、何かが繰り返されている。気持ちが増幅されていくかもしれないし、不安も増強されていくかもしれない。どちらにもいない、ニュートラルな位置から映画を推進していきたかったんです。

 

-あの雑多な「予感」は、全体に流れていますね。

久石:
李(相日)監督も(あの曲を)すごく気に入ってくれて。結果、今回は、ギリギリまで無駄をはぶいた構成になりました。

 

-徹底された?

久石:
そうですね。日本映画でここまで(曲のトーンを)抑えて作ったのは久しぶりですね。自分としても、「いつもだったら、こうしてしまうな」というところも全部、抑えて抑えて作った。結果的に、いままでやったことのないかたちにチャレンジができました。たいていの場合、音楽は、ある部分の感情だけを刺激するのはものすごく得意。でも、(それが何か)はっきりとは言わないで、押し上げていくようなことは難しい。音楽はどうしても、色を決めてしまうのが速い。でも今回はそこを極力避けるようにしましたね。あとは、音楽が映像と共存しつつも、映像から一歩退いたところで支えていく。たぶん、映像と音楽が(ドンピシャと)ハマってる箇所は一個もない。唯一の笑顔であるラストカットへのアプローチもやはりそうです。

 

-音楽そのものの可能性を追求された結果、日本映画というより世界映画と呼ぶべき作品が完成したと思います。

久石:
最も重要なのはクリエイティヴィティ。とにかく徹底的に「ほんもの」を作る。それだけです。我々はもっと危機感を持つべき。たえず挑戦するべき。この映画は間違いなく、世界に向かって放つことができるレベルの作品になったと思います。

 

-最後に。『悪人』というタイトルをどう捉えましたか。

久石:
人間。そう解釈しました。

 

(取材・文/相田冬二)

(映画「悪人」劇場用パンフレット より)

 

悪人 パンフレット

 

Blog. 映画『マリと子犬の物語』(2007) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/22

2007年公開 映画「マリと子犬の物語」
監督:猪俣隆一 音楽:久石譲

2004年の新潟県中越地震、実話を描いた絵本「山古志村のマリと三匹の子犬」をもとに映画化。

公開時映画館で販売された公式パンフレット内久石譲インタビューです。地震から数週間後に控えていた自身のコンサート新潟公演、そのエピソードまでを紹介しています。

 

 

INTERVIEW

文章でいえば、最後に句読点をつける役割が、映画音楽だと思います。英語で言うところの”アトモスフィア”、つまり、そのときの空気感や状況を表現していくこと。さらに人間の心理も表現する。映画の伝えたい事をピリオドで明確にして際立たせる。それが映画音楽だと僕は考えています。

この映画の導入は難しいんです。実際に山古志で地震が起こっているわけですから。出だしから災害がある、と予感させる手法もあるわけですよね。でも、最終的に監督が伝えたいことは希望。力強く、人々を励ます導入を目指しました。ストリングス(弦楽器)でさり気なく入っていくのが常套ではあるけれど、ここではいきなりブラス(管楽器)で始まるんです。

説明的な音楽にしたくありませんでした。たとえば、親が包み込む愛情は説明できるものはありませんからね。それに意外に長尺の映画なので、甘口の音楽をつけていくと、画面が流れてしまう。激しいところは激しく、明快に打ち出し、ダイナミックレンジをなるべく拡げるという作業を意識的にしましたね。予定調和に流れすぎると、観る側のインパクトはどんどんなくなっていきますから。

音楽の最も多い分、全体をどう構成していくか正直、作曲するときは苦しみました。通常よりも時間はかかったし、なかなか大変でしたね。メロディとメロディのひき出し方、その兼ね合いにいちばん悩みました。

この映画には悪役がいません。全員善い人なんです。だからこそ音楽的にあまり平和になりすぎると単調になってしまうので、それをお客さんがハラハラしながら見ていけるようにどう立体的にするのか考えました。

王道を往くオーケストラで、正統な映画音楽をこの映画にはつけたいと思いました。まず王道がしっかりあるからトリッキーなものが作れる。今、少なくなってきているこの王道を往く方法できちんとしたものを作っておかなければ、と思いましたね。この映画に関しては、スケール感のある音楽で包み込むということ。それができた手ごたえはあります。音楽が映像に寄り添っていくようにしたいと思っていました。

あの地震のときは、僕の実家がある長野もかなり揺れたようです。ですから他人事ではありませんでした。ちょうどコンサートツアーの直前でもあり、リハーサルをしているときでした。新潟公演も控えていたのですがそのような状況下で、はたしてコンサートをやっていいものかどうか、僕自身、かなり悩みましたね。コンサートは中止しようかという話もあったんです。そうしたら長岡のファンの方から一通の手紙をもらいました。そこには「いまは希望がないけれど、コンサートは何が何でも行きます。それが希望です」と書かれていて。それでやる決心がついたんです。その結果、新潟のコンサートは僕自身、燃焼することができましたし、パーフェクトな出来だったと思います。あの日は観客との素晴らしい一体感がありましたね。

久石譲

(映画「マリと子犬の物語」劇場用パンフレット より)

 

 

Production Notes

音楽

久石譲は、東宝の実写映画に久々の登板。近年は、宮崎駿監督や北野武監督の作品、中国・韓国の作品などでおなじみの巨匠だが、かつては『タスマニア物語』など、国民映画と呼ばれる作品も手がけていた。製作サイドは、”東宝のファミリームービーは実は久石さん向きなのではないか?”と考え、依頼。快諾していただいた。なお、猪俣隆一監督は大の久石ファン。冒頭、タイトルが出るまで延々音楽が流れる想定で撮影。久石自ら「音楽映画」と呼ぶほど、その楽曲を存分に鳴らしまくった。また、久石が作曲を手がけた主題歌「今、風の中で」を歌うのは平原綾香。実は平原は、中越地震とは縁が深い。震災後、FM長岡へのリクエストが相次いだことからデビュー曲「Jupiter」が”復興ソング”のように親しまれることとなり、2005年の長岡花火大会では、同曲を現地で熱唱しているのだ。今回の「今、風の中で」は被災者の方々に捧げられた1曲である。

(映画「マリと子犬の物語」劇場用パンフレット より)

 

 

久石譲インタビューにもあったように、地震が起こった2004年10月23日、その直後に行われたコンサートツアーは以下のとおり。

Joe Hisaishi Freedom Piano Stories 2004

[公演期間]32 Joe Hisaishi Freedom Piano Stories 2004
2004/11/3 ~ 2004/11/29

[公演回数]
全国14公演
11/3 相模原・グリーンホール相模大野
11/5 横浜・横浜みなとみらいホール大ホール
11/6 新潟・新潟市民芸術文化会館コンサートホール
11/9 名古屋・愛知県立芸術劇場コンサートホール
11/10 長野・長野県県民文化会館
11/12 広島・広島厚生年金会館
11/13 滋賀・びわ湖ホール
11/16 札幌・札幌コンサートホールKitara
11/18 埼玉・川口リリアメインホール
11/19 大阪・ザ・シンフォニーホ-ル
11/22 宮城・宮城県民会館
11/23 東京・Bunkamuraオーチャードホール
11/26 福岡・福岡シンフォニーホール
11/29 東京・東京オペラシティ

[編成]
ピアノ:久石譲
弦楽:アンジェル・デュボー&ラ・ピエタ
パーカッション:安江佐和子/二ツ木千由紀

[曲目]
【My Lost City】
1920~Madness
Two of Us
Tango X.T.C.

Quartet

【ETUDE2004 (for Pf,Vn,V Cell,Perc)】
夢の星空
Silence
a Wish to the Moon

【Freedom】
人生のメリーゴランド
Ikaros
Spring
Fragile Dream
Oriental Wind

【My Favorites】
Cave of Mind (弦楽合奏)
(候補曲)鳥の人 風のとおり道 もののけ姫
Asian Dream Song

—–アンコール—–
a Wish to the Moon
Summer
Kids Return
アシタカとサン (新潟)

 

新潟県中越地震からちょうど2週間後に日程が組まれていた新潟公演。公演前の経緯や公演の様子は上のインタビューにあるとおりで、実際に新潟公演のみアンコール曲が1曲多く演奏されています。

最終公演日でもない、新潟公演にて「アシタカとサン」が、久石譲によるピアノソロにて新潟の人たちに届けられた記録です。

 

マリと子犬の物語 パンフレット

 

Blog. 映画『トンマッコルへようこそ』(2005) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/20

2005年公開 映画「トンマッコルへようこそ」
(原題:Welcome to Dongmakgol)
監督:PARK Kwang-hyun パク・クァンヒョン 音楽:久石譲

 

久石譲にとって初めて手がけた韓国映画となる本作で日本人として初となる第四回大韓民国映画大賞最優秀音楽賞を受賞。もちろん日本人としては史上初の快挙。さらに、韓国のアカデミー賞ともいわれている権威ある映画賞である大鐘賞でも最優秀音楽賞にノミネートされました。

映画「トンマッコルへようこそ」劇場用パンフレットに掲載されたパク・クァンヒョン監督と久石譲の貴重な対談です。

 

 

対談:パク・クァンヒョン監督 × 久石譲

2005年の韓国映画界で最大の収穫になった『トンマッコルへようこそ』。神に祝福されたような成功ぶりだが、実は製作時点では問題が山積し、公開されるまでは”呪われたプロジェクト”とさえ陰で呼ばれていたという。監督自身、3年におよぶ製作のどの段階でも苦労が絶えず、何度も「もうあきらめたい」と思った、と語る。だが、それほどの難産だったデビュー作で、音楽監督を久石譲が引き受けてくれたことは、何よりの奇跡だった。2人のコラボレーションの成果は、完成作品が何よりも証明している。久しぶりに再会する2人の嬉しそうな笑顔、つきない話に、周囲の空気まで温かで穏やかなオーラに満たされた。

 

パク・クァンヒョン:
大学時代から久石先生の音楽の大ファンでした。『菊次郎の夏』の美しい旋律も、『ソナチネ』のエネルギーに満ちた音楽も、もちろん宮崎駿作品の音楽も、本当に心酔しています。最初にお会いしたときはファン丸出しで、持っているCDすべてにサインしてもらいました(笑)。すごく緊張して行ったのですが、とても優しい笑顔で迎えてくださって、そのことにまた感動しました。一瞬、目の前にいる人が本当の巨匠であることを忘れてしまうほど、心優しい笑顔だったんです。

久石譲:
僕がまず思ったのは、「俳優になってもいいぐらいかっこよくて若い人だ」でした(笑)。でも、いざこの作品のビジョンを話し出すと、止まらない。細部にいたるまで明快なアイディアを持っている。これぐらい強い思いを持っている作品なら絶対にいい映画になると確信しました。それに、監督も新人だし、スタッフもみんな若いと聞いて、それなら予定調和な作業ではなく、エネルギーに溢れた現場になるだろうというワクワクする期待感も持ちました。

パク・クァンヒョン:
今回一緒に作業してわかったんですが、どうやら私たちはどちらもビジネス感覚に欠けていて(笑)、確か事前の打ち合わせでは、「だいたい17曲ぐらいでしょう」ということだったはずですが、やっていくうちに曲数がどんどん増えていきました。久石先生が「ここにも曲をつけようか」とおっしゃって、私も「いいですね」と答える、そんなやりとりをしていくうち、結果的に34曲になりました。最初はオーケストラも小規模なものを考えていましたが、先生が70人編成にしたいと提案してくださったんです。以前に宮崎作品のDVDの特典映像で、久石先生がオーケストラを指揮していて、それを宮崎監督が後ろに座って見ている場面がありました。それを見て以来、「宮崎監督みたいに後ろに座って久石先生が僕の映画のために指揮するところを見る」というのが夢の一つになったんです。目の前で久石先生が汗をかかれて何度もTシャツを着替えながら指揮しているところを眺めていたら、「ああ自分の夢が今かなっているんだ」と思って、鳥肌が立つほど感激しました。

久石譲:
映画は、どこに音楽を入れて、どこには入れないか、それを判断することも大事な作業です。この作品の場合、戦争の話ではありながらファンタジーの要素があるわけで、場面場面を引き立てたり雰囲気を伝えるために音楽を入れる場所を考えていったら、結果的に34曲になりました。オーケストラの規模にしても、作品の内容が要求したからですよ。これだけの話になるとスケール感も必要だし、より深い感情を表現するために二管編成は必然でした。重厚さ、弦の優しさがほしかったし、特殊な楽器を使うことで不思議感を出すことも狙いました。この作品の曲は、沖縄のスタジオに10日間ぐらいこもって集中してつくりました。毎日、海を眺めながら、真冬の戦闘シーンに曲をつけていたわけです(笑)。例えばチョウチョのシーンの旋律は、実は沖縄の音階を取り入れているんです。不思議な感じが出せて、いい効果になったと思います。

パク・クァンヒョン:
一方で、例えばイノシシのシーンは、原始的なリズムで力強いエネルギーを感じるとともに、胸が高鳴るような喜びの気持ちも表現されています。どの曲も大好きですが、どしゃ降りの雨の中ヨイルが自分の汚い靴下を脱いで少年兵の顔を拭う場面がひときわ好きです。胸に響くと同時に、気持ちがよくなります。本当に、音楽のおかげで作品全体に神秘性と深みが増しました。

久石譲:
イノシシのシーンは、実をいうとね、送られてきた映像を見たとき、てっきり未編集バージョンだろうって思ってたんですよ(笑)。スローモーションがずっと続く長いシーンだったから、きっと途中でノーマルスピードに変えて編集するんだろう、と。だけど、待てども待てども送られてこない。「送ったものが最終バージョンです」って言われて、正直なところぞっとしましたよ。これは大変だって。あそこが一番苦労しましたね。ところが、完成作品を見ると、監督の狙いがぴったり当たって、ものすごく力強いシーンになっていた。おかしかったのは、韓国での完成披露試写会で質問がイノシシのシーンに集中してしまって、俳優さんが「俺のことも聞いてくれよ」って(笑)。

パク・クァンヒョン:
チョン・ジェヨンさんですね。「自分は主役だと聞いていたのに、出来上がってみたら自分の場面は少なくて、イノシシやチョウチョのほうが目立ってるじゃないか」って、最初はちょっとスネてました(笑)。私が最後まで編集の判断に迷ったシーンが3つあって、イントロの部分とイノシシのシーン、それからラストの戦闘シーンでした。ずっと悩みつづけて、久石先生にもスケジュール的にずいぶんご迷惑をおかけしてしまいました。

久石譲:
確かに時間的にはきつかったけど、逆にいうと今回はそれ以外の部分での葛藤や摩擦がまったくなくて、心から気持ちよくできました。僕自身、韓国映画という初めての場にチャレンジして、自分の可能性を広げられたと思っています。監督やスタッフから、作る情熱がものすごく伝わってきて、気持ちが燃えました。

(取材・文 片岡真由美)

(映画「トンマッコルへようこそ」劇場用パンフレットより)

 

 

プロダクション・ノート

久石譲を動かした監督の熱い思い
撮影準備中、パク監督の胸にあったのは「この映画には久石譲の音楽以外は考えられない」という思いだった。それを聞いたラインプロデューサーのイ・ウナは、「ぜひあなたが必要だ」と真心をこめて手紙を書き、翻訳した脚本と共に久石に送った。久石から打ち合わせを要請するメールが来たとき、パク監督は全製作期間を通して最大の歓声をあげたという。その後、仮編集のフィルムを見た久石は、「70人編成のオーケストラで作りたい」と表明。さらに、ファイナル・カット以外の映像は見ないという原則を破り、公開の5ヵ月前に韓国を訪れ、第2次編集の映像を見てパク監督と感覚を共有する作業を行った。

「音楽のテーマは人と人の和合。深刻な場面とユーモラスな場面が交差する中、純粋なトンマッコルの村人と戦争で心に傷を負った人たちがひとつの村で暮らすことで、次第に癒やされていくという物語が非常に感動的だった」と語る久石は、当初の契約では17曲のところ、倍の34曲を完成させるなど、並々ならぬ情熱を示し、パク監督を感激させた。

2005年韓国興行成績No.1を記録
『トンマッコルへようこそ』が韓国で封切られたのは、2005年8月4日。初日に20万人を動員し、『親切なクムジャさん』を抜いて週末の興収トップに躍り出た後、口コミによって人気が広がり、公開7日目で動員200万人を突破。24日目で、『マラソン』が8週で打ち立てた500万人の動員記録を塗り替え、翌日には2005年最高の興収記録を樹立。9月初旬まで5週連続興収第1位をキープした。大ヒットを記念して、9月1日には入場無料のサービスを行い、さらに広い観客にアピール。最終的には公開89日目で800万2000人の動員を記録した。この数字は、国民の6人に1人が観た計算になり、韓国歴代動員記録で第5位にランク・インした。

賞レースでは、9月にアカデミー外国語映画賞の韓国代表に選ばれたのに続き、11月29日に授賞式が行われた第26回青龍賞で、カン・ヘジョンが助演女優賞、イム・ハリョンが助演男優賞を受賞。12月4日には、アン・ソンギの司会で授賞式が行われた第4回大韓民国映画大賞で、作品賞、監督賞、助演女優賞、新人監督賞、脚本賞、音楽賞の6部門を制覇した。さらに、2006年7月21日に授賞式が行われた韓国のアカデミー賞と言われる大鐘賞では、9部門ノミネートのうち、カン・ヘジョンが3つ目の助演女優賞を獲得した。

(プロダクション・ノート ~映画「トンマッコルへようこそ」劇場用パンフレットより)

 

トンマッコルへようこそ パンフレット

 

Blog. 映画『壬生義士伝』(2003) 久石譲 インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/18

2003年公開 映画「壬生義士伝」
監督:滝田洋二郎 音楽:久石譲 出演:中井貴一 佐藤浩市 他

 

滝田洋二郎監督との初顔合わせ作品です。その後2008年映画『おくりびと』にて再びタッグを組むことになります。

公開当時、劇場で販売された映画『壬生義士伝』公式パンフレットより、久石譲インタビューをご紹介します。

 

 

インタビュー
音楽・久石譲

数々の映画音楽を手がけてきた久石譲だが、本格的な時代劇は初めて。
さらに監督滝田洋二郎とも初顔合わせ。
「王道をいく映画にふさわしい音楽を作りたかった」と語る笑顔の中に、
日本映画の面白さを知る久石ならではの自信がのぞいていた。

 

-本格時代劇にチャレンジしたご感想は?

久石:
滝田監督の映画が以前から好きだったので、これはいい機会だな、と思いましたね。時代劇は『福沢諭吉』(91)でやってはいますが、いわゆる本格的時代劇にチャレンジしてみたかったんです。とはいえ、時代劇だから特に何かが違うというわけではなく、あくまで内容に即するものを作りたい。今回はいい意味でオーソドックスな王道をいく作品なので、それにふさわしい音楽をつけたいという想いがありました。具体的にはオーケストラが一番向いていると思って、そこから入りましたね。

 

-オーソドックスということで、ご苦労された点は?

久石:
時代劇と言っても、現在作っているんだという点を出さなきゃいけない。そして10年後、20年後に観ても古く感じないようにしなくてはならない。それがオーソドックスということですよね。ですから、オープニング・タイトルが出るときの和太鼓にも、シンセサイザーを入れたりしています。また、この映画には非常にいろんな”情”が出てくるんですね。男と女の情だったり、家族愛や郷土愛、友情。そこにベタベタに音楽をつけてしまうと情緒に流されやすいので、ある意味、音楽はちょっと引いた感じにしました。泣かせるところに泣かす音楽をつけるのではなく、むしろそこは引いて、精神的なものを感じるように音楽をつけていく。そこが一番大変な作業でした。

 

-メロディの美しさとあわせて、今回はリズムを強く感じました。

久石:
そうですね。アクション・シーンが結構ありますからね。ただ、通常のリズムの音ではつまらないので、非常にエスニックなリズム、たとえば和太鼓とか、アフリカや中近東の太鼓も実は入っています。あくまでこの映画の独特の雰囲気を出すために、使ったんですけれど。

 

-滝田監督の作りあげた主人公像をどう思いますか?

久石:
すごく面白かったと思います。主役ってわりと類型的になりやすいんですけれど、貫一郎は非常に人間味がある。これだけ深い主人公像を造詣できたというのは、滝田監督の手腕と、もちろん中井さんの努力の賜物。他の方々も本当にみんな実力どおりというか、のびのび演技されている。前向きな姿勢というのが、やっぱり画面に出てくるんですよね。撮影現場でそういう雰囲気を作るのは難しいんですが、滝田組はすごくいい雰囲気だったんじゃないかな。

 

-『壬生義士伝』や北野武監督のような男の世界を描いた映画と、宮崎駿監督のアニメなどを、交互に手がけているのは意識されてのことですか?

久石:
あまり気にしてないですよ。あくまで作品に対して自分がどう思うか、同時に、作品からイマジネーションをどれだけ豊かにできるか、そこが一番大切。宮崎さんのアニメーションであろうと、なんであろうと、僕の中では普通にやっているんです。でも、幅はありますよね。ひとりの人間の中にもいろんな顔がありますから。心温まる作品のときは、必然的にメロディ・ラインが大事になってきますし、突き放したような映画のときには、自分の中にもそういう部分はありますから、極力音楽がでしゃばらないように作る。共通するのは、画面をなぞるような音楽は作らない、ということ。あくまで、もしかしたら絵で表現しきれなかったものを表現する、というようにしています。音楽って非常に怖いんですよ。世界観とかムードを決定してしまうところがありますから。

 

-ご自身の監督経験は、音楽にも影響がありましたか。

久石:
簡単に言えば、功罪半ばって感じです(笑)。『カルテット』(01)を撮った直後は、監督の気持ちがわかってしまい、「ここはきっと大事にしているな」なんて思うと、音楽をやたら抑えちゃったんですよ。気づいたら、絵に音楽が近づき過ぎている。でも本来、音楽が鳴るなんて異質なんですよ。だって、日常では鳴るわけないんですから。やっぱり距離をとっておいたほうがいい、と反省しました。だから多少、監督が大事にしているシーンだろうがなんだろうが、無視しようと(笑)。お互いの軋轢から、相乗効果が生まれるようにしないといけない。どちらかが寄り添っちゃうと、そのダイナミズムは出ないな、と気づきましたね。今回は、音楽がでしゃばりもせず、けれど主張するところでは主張する、という点はうまくいった気がします。

 

-滝田監督との共同作業はいかがでしたか?

久石:
滝田監督とはコミュニケーションが非常にうまくとれました。いわゆる本当に大人の監督なんです。全ての部署にものすごいプロの方を配して、技術の方々の意見をきちんと聞く。監督というのはある意味、調整役なんですが、監督は「こういう方向で」という指示が大変明確な方で、さらにそれぞれのスタッフをすごく大事にしてくれる。その辺りのスタンスが、滝田監督らしいな、と。世の中にはもっとわがままな監督はいますからね(笑)。でも、ものを創る人はみんなわがままなものですけど。滝田監督もこだわりはありますけれど、非常に明快で悩まれることがない。とてもやりやすかったですね。

 

-最後に観客の方へ一言お願いします。

久石:
メインテーマも含めて、映画音楽の王道をいく音楽をつけたと自分では思っていますので、映像と音楽が一緒になったときのダイナミズム、あるいはサウンドトラックCDで音楽だけを聞いて、両方の楽しさを味わっていただければと思います。

(聞き手・構成 石津文子)

(映画「壬生義士伝」劇場用パンフレット より)

 

壬生義士伝 パンフレット

 

Blog. 映画『パラサイト・イヴ』(1997) 久石譲 インタビュー 劇場用パンフレットより

posted on 2016/2/14

1997年公開 映画「パラサイト・イヴ」
監督:落合正幸 音楽:久石譲 出演:三上博史 他

 

ベストセラー原作の映画化作品。シンセサイザーを基調としたスリリングかつダイナミックな楽曲とピアノと弦による美しい旋律の対比が印象的な作品です。

公開当時、劇場で販売された映画パンフレットより、久石譲の貴重なインタビューをご紹介します。

 

 

「映像で表現しきれなかった登場人物の気持ちや背景を、音できちんと語ったつもりです」

-この映画の音楽を担当されることになったきっかけから伺いたいのですが。

久石:
落合監督とは何度か仕事を一緒にやらせてもらってまして、監督が僕の音楽が好きらしくて、コンサートに来て頂いたりとかした時に、いつかホラーをやりたいねという話をしたんですよ。それからしばらくしたら、実はということで、この話を頂いたんですよ。

 

-久石さんご自身はホラーはお好き。

久石:
映画の分野として自分の音楽がすごく生かされる分野だと思ってます。

 

-この原作はあらかじめ御存知でしたか。

久石:
すでに読んでましたので、この話を聞いた時はしめたと思いました(笑)

 

-脚本についてですが。

久石:
僕はもっとホラーに徹するべきだと思いました。ただ、たまたま他の仕事で大林監督にお会いした時に「実は今、ホラーをやってるんです」っていう話をしたら、大林さん曰く「ホラーは究極のラブロマンスだよね」って仰ったんですよね。要するに、現実の世界では何らかの理由でうまくいかなくて、片方があの世に逝っちゃたりして、そこから来る怨念のような物がいろいろ絡まってくる話だから、根底は究極のラブロマンスだと。その話を聞いてなるほどなって思いましたね。

 

-それで音楽的には。

久石:
音楽的に言うと、非常に綺麗なメインテーマをワンテーマ。後は完全なホラーサウンド。そのホラーサウンドも怖いタイプと、宗教がかった運命的な物とか、そういう使い分けで全体を構成しました。

 

-今回の音楽でのドラマ作りというのは。

久石:
落合監督の画は、波が寄せては返し、寄せては返しっていうある種の繰り返しのようにしてジワジワと来る感じなんですよ。それは僕が得意なミニマルミュージックにすごく近いんですね。だから監督が意図されたことと、僕が音楽的に設計図を引いたことがすごくいい形にドッキングしていると思います。

 

-今回の音的な部分についてですが。

久石:
恐怖を煽っていくシーンは、基本的に非常に不思議なエスニックな音とか、とんでもない生楽器ではない物を主体にしました。メインテーマに関しては、生の僕のピアノとか、クラシックのソプラノの歌手だとか、ストリングスだとか、非常に空気感のある人間的な物にして、思いっきり対比をつけました。

 

-今回の音楽のポイントは。

久石:
画面が進行していながら呼吸するように、音楽もやっぱり呼吸しているわけですよね。そうすると、これはもう僕のポリシーなんだけど、単に画面をなぞるような劇伴は一切、書いたつもりはないんです。むしろ映像で表現しきれなかった登場人物の気持ちとか背景、そういう事をきちんと語れるようにしたいと思っていて、もちろん映画にはいろんな要素があるし、映像あっての物ですから、完璧に出来たとは思ってないですけど、うまくいけたなっていう気はしています。

(映画「パラサイト・イヴ」劇場用パンフレット より)

 

パラサイト・イヴ パンフレット

 

Blog. 映画『水の旅人 -侍KIDS』(1993) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/12

1993年公開 映画「水の旅人」
監督:大林宣彦 音楽:久石譲 出演:山崎努 他

一寸法師を思わせる水の精・墨江少名彦と小学生・悟の友情と冒険を描いた、大林宣彦監督のSFX大作。サントラ演奏を担当したロンドン交響楽団を意識して作曲した大編成の勇壮なテーマ曲は、大河の如く滔々と溢れる数々のメロディと相まって、その後の久石譲の演奏会に欠かせない人気曲のひとつに。

 

 

音楽=久石譲インタビュー
「水の旅人」 音と映像のアンサンブル

-今回の『水の旅人』の映画音楽づくりは、どんなところから始められたんですか?

久石:
今回はまずふたつのポイントがありましてね。ひとつは『タスマニア物語』に続いて手掛けるフジテレビの大作ということで、その風格というか、そういう感覚、スタンスがまずある。もうひとつは、大林さんの映画の音楽をずっとやってきているということ。ここには、はっきりとした大林宣彦の世界があるわけです。フジテレビに大林さん、両方とも自分が関わってきて、それがここで一緒になっちゃったわけですよね。ですから、大作としての風格と大林作品が持っているヒューマンな部分とが、全部生かされるような音楽を一番意図したわけです。

 

-結果としてはいかがでしたか?

久石:
まずメインテーマですが、これはロンドン・シンフォニーオーケストラ85人を使って実に壮大なシンフォニーを作りました。

 

-ロンドン・シンフォニーというと『スター・ウォーズ』などを手掛けたジョン・ウィリアムズもよく使うところですね。

久石:
そうです。ですからメインテーマは男性的なメロディというか、力強いテーマですね。圧倒するぞって感じです(笑)。ロンドン・シンフォニーのメンバーも興奮してたし、喜んでましたよ。ただこうしたスケール感の大きいメロディに対して、やはりみんな久石メロディといったものを望むでしょうから、主題歌のヴォーカルの方は極力心の優しさといったものを出したつもりです。

 

-主題歌は今回中山美穂さんですね。

久石:
ええ。ヴォーカルのレコーディングもロンドンでやりました。これは映画の最後のエンディングロールで流れるんですが、メインテーマと主題歌と、共に映画音楽の顔に当たる曲を自分なりにかなりの完成度で、思い通りに仕上げることができて僕自身は非常に満足しています。

 

 

監督と音楽家の”覚悟”のデュエット

-全編にわたる音づくりの方はどうでしたでしょうか?

久石:
ふつうだとオールラッシュを見て、全体の設計図を引いてから音楽を作り出すんですけど、今回は合成シーンも多いので映像が少しずつしか来ないんです。監督のラブレター付きで(笑)。その点では全体像づくりにちょっと苦労しました。でもその代わりフィルム一巻ずつ音楽を付けていくということは、映画の流れと一緒に作っているわけです。これはまた珍しいやり方で、全編に音楽がぴったりとついている感じになるんです。今回はカット数もたいへん多いけど、同じように音楽もふつうここまで合わせるかという所まで合わせてます。そういう意味えは実にくたびれる作業をしてます(笑)。

 

-時間の制約もありますしね。

久石:
それはもうかかわっている全員が思い切り苦しい状況でしたね。監督とも何本か一緒にやってくると、できるだけ違うことをやろうとするから大変なんですね。でも今回はハナから大変ということで始めてますから、むしろお互い不思議な一致を見ることのほうが多いんです。いろんなところで考え方が一致しちゃうというか、それはすごくうれしいことだと思ってます。また、監督と以前に「才能と覚悟」という話をしたんです。才能だけあってもいいものは作れない。これからの映画づくりや芸術活動には覚悟が必要だと。で、後からまた大林さんから手紙がきまして…。

 

-それには何と?

久石:
「今回は覚悟でいきます」と決意表明があったからこれは困ったなと(笑)。というわけで、もう今回はプロの技術の極致をお互いやろうと決めたんです。大林さんもそういった要求をするし、それならば僕も絶対にそれに応えるしかないんです。だから実際すごい合わせ方ですよ。もうディズニーもメじゃないってくらいです。

 

 

2度3度見て楽しめる『水の旅人』

-久石さんから観客のみなさんに何かメッセージがあればお願いします。

久石:
パワフルで内容も濃く、たいへん実験的な映画にも仕上がっていると思います。音づくりも自分の思い通りやれましたから、是非じっくりと聴いてほしいと思います。それからどうしても『水の旅人』は、2、3回見てほしい。1回目はどうしてもストーリーを追ってしまうけど、2回目以降は映像と音楽の絡み方も含めて、きっと細かい点で別の楽しみ方もできる映画だと思うんです。そうやって見てもらえれば、僕はたいへん幸せですね。

(「水の旅人-侍KIDS」劇場用パンフレットより)

 

 

水の旅人 パンフレット

 

Blog. 映画『タスマニア物語』(1990) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/10

1990年公開 映画「タスマニア物語」
監督:降旗康男 音楽:久石譲 出演:田中邦衛 薬師丸ひろ子 他

タスマニアの大自然を舞台にしたファミリー映画。その雄大な大自然と久石譲による壮大なオーケストラによるメインテーマが印象的な作品です。

映画「タスマニア物語」パンフレットより、貴重な制作秘話や映画音楽についてのことなど。今から25年以上前の作品ではありますが、なるほどと唸る箇所もあります。久石譲の一貫した映画音楽に対する姿勢もそうですし、こわだりや論理・技法なども。

「ワンテーマ」で押しとおすことのでき得る、映画音楽メインテーマ曲について。興味深いです。差し引いて見てほしいのですが、ここで語っているのは1990年です。今ならそんなこと当然な手法や、映画音楽の正統な扱いやポジションも、まだ当時はかなり邪険に扱われていた時代です。

いい映画とは?
いい映画音楽とは?

そういった視点で読んでみてもおもしろい内容だと思います。

 

 

これぞ、正統的な映画音楽の王道です。

いろいろと調べてみましたが、バリ島だったらガムラン、インドだったらシタールのように地域差を出すためのエスニックな楽器というものが、オーストラリアにも、タスマニアにもない。オーストラリア民謡ってないんですよ。この音を聞いたら、それだけで、オーストラリアのイメージがパッと浮かんでくるような音がなかったので、ひたすら広大な大陸を連想させる、スケールの大きなシンフォニー・サウンドに徹した方がいいと思いました。

今回の音楽は、とんでもなく手間暇をかけているんですよ。1曲が4分近くあって、長い。本当に画面と、どこまで密接して作るか考えて、洋画に近い作り方をしたなあという気がします。例えばセリフが一言あるとすると、そのセリフによって、音楽が反応する。コンピュータを駆使して、5秒間に14フレーム、ピシッと入れて、4分間連続して音楽が入る。それが全部で20数曲あるという。これ以上はないほど、正統的な映画音楽の王道をゆくものになったと思いますよ。今まで僕が手がけた映画音楽の中では最大規模でやらせてもらいました。

基本的には、メインのワンテーマだけは前面に押し出して作りました。いい映画って、1曲だけで充分なんですよ。だって「ティファニーで朝食を」で、”ムーン・リバー”以外覚えていますか? 「E.T」で、あのメインテーマ以外に覚えてますか? この映画の参考のために、昔の映画を何本か見てみたんですが、みんな緻密に作ってあるんですよ。やはり、お金と時間をかけてキッチリと作っている。「E.T」にしても、あのメインテーマは、映画の3分の1以上進行しないと、出てこないんです。本当に少ない。最初に出てくるのは、自転車が空を飛ぶ場面ですからね。あのテーマは、あれだけみんな覚えているけど、そんなにひんぱんには出てこない。それほど大事に使っている。インパクトのある場面だけに、ちゃんと流すんですよ。メロディが一寸だけずつ流れる。メロディを全部キチンと流しているのは、そんなに多くない。ああいう音楽の設計の仕方、緻密さは最も大事なことです。あそこまでやらないと、映画音楽とはいえない。この映画でも、メインテーマは最初から出てこないんですよ。随所にモチーフが表れるんですが、メロディが有機的にだんだんと展開していく。それを初めて試みることができました。だから、ワンテーマで十分なんです。現在の日本の映画音楽は、みんなそうですが、メロディを4つか5つ用意すれば、3日か4日で映画音楽を作ることはできる。ワンテーマだと、よほど緻密に設計しないと飽きられちゃうんです。

画面を見ていると、これは非常に正統的な映画だと思います。田中邦衛さんの演技は、見ていても泣かせるし、全体的にも決して奇をてらっていない。特にそういう場面を用意することもなく、降旗監督は本当に大人の眼差しで、手堅く作られたという感じで、僕はすごく好きです。音楽も、それに合わせて正統的に、堂々とやりたかった。時間がなくて徹夜続きでしたが。

ただ僕自身のスタイルは全然変わらないし、監督が映画の中で何をやろうとしているのか、それに対して自分の考えを述べるのが、映画音楽のあり方でしょ。この映画の前に「ペエスケ・ガタピシ物語」をやったんですけど、あれは、わらべうたのような単純なメロディに、超アヴァンギャルド・サウンドを乗せました。それはそれで、映画へのひとつのメリハリのつけ方なんです。そういう意味では、今度はジャズ風にとか、ロック風にとか、クラシック風に作ろうとか、あんまり思わないんですよ。自分のスタイルを守りつつ、その中で、この映画だと、今回はベースドラムを入れて、ポップスっぽい扱いを全くするべきじゃない、スタイルとしては完全にフル・オーケストラで、最先端のサンプリング楽器を使って、どっちがどっちか分からないくらいに作るんです。その混ぜ具合が、作品ごとに違う。いいメロディさえ書けば、それで全て用が足りるかというと、それはそうなんですが、やっぱり同時に表現方法として、時代のテクノロジーがあるわけです。それに対して、新しい表現はどんどん出てくるわけですから、ただミュージシャンを大勢集めて、一斉に演奏してもらって、映画音楽を作るやり方には、あまり興味がありません。

(映画「タスマニア物語」 劇場用パンフレットより)

 

タスマニア物語 パンフレット

 

Blog. 映画『ふたり』(1991) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2016/2/8

1991年公開 映画「ふたり」
監督:大林宣彦 音楽:久石譲 出演:石田ひかり 他

 

曲名「Two of Us」

久石譲の往年の名曲であり、コンサートでも演奏されることの多い楽曲。時にピアノ・ソロで、時にアンサンブルで、時にオーケストラでと、いろいろなバリエーションがあり、CDとしても複数のヴァージョンが残っています。

その原曲にあたるのが、映画『ふたり』主題歌として使用された「草の想い」という楽曲です。なんとも逸話の多い楽曲なのです。

  • デモ制作時点では「愛と哀しみのバラード」という曲名であった。
  • 主題歌を大林宣彦監督と久石譲のデュエット・ソングとして発表した。
  • NHKにて抜粋版放送時、音楽について、だれが歌っているのか、譜面が欲しい、テープが欲しいと、800通もの問い合わせがあった。
  • オリジナル・アルバム『MY LOST CITY』にて「Two of Us」というインストゥルメンタル・バージョンが完成した。
  • 90年代某人気TV番組の「ご対面/再会シーン」で流れる音楽として印象的に使用され続け、その番組のためのオリジナル作品と勘違いする人も多かったほど。

などなど、数々の逸話を残している名曲です。

 

 

映画公開当時、劇場で販売されていた映画パンフレットより、久石譲インタビューを中心にご紹介します。

 

 

音楽監督から 久石譲

ちょっと優しく

大林監督の声はとても魅力的だ。優しくて暖かで、モダンで、そう、男が男らしくいられた時代のカッコ良さがある。大林監督の手はとても大きい。その手でピアノも弾くし作曲もされる。そして驚くほど音楽が好きで信じられないほど音楽について詳しい。

大林監督にお会いしていると本当に楽しい。僕たちはこの都会の大人の社会で生活しているわけで、嫌なことや悲しいことが日々襲ってくる。でもそんなささくれだった心も、大林監督にお会いするとスッと身体の力が抜けて行き、少年の日の心が戻ってくる様な気がする。だから実は毎日でもお会いしたい。そうすればちょっと人に優しくなれるかも知れないから。

ある日、僕達はピアノの前に座っていた。すでにその映画のなかで使用するシューマンとモーツァルトの楽曲は録音を終えていた。そして僕が書いたメインテーマ用のデモテープを1~2回聞いた。ピアノで弾きだそうとした時には、すでに監督は歌い出されていた。それも音程一つ間違えないで。翌日、その歌詞が送られてきた。「昔人の心に、言葉、一つ生まれて……」映画『ふたり』の主題歌『草の想い』が誕生したのだ。

そして僕には歌手、大林宣彦さんのデビューが当然のことに思えた。でもシャイな監督は一人で歌うのを「ウーン…」と首をひねり、問わず語りの眼差しで、僕の方を振り向いたので僕も「ウーン…」と答えた。そこで奥様でありプロデューサーである恭子さんが「ふたり」なのだから「ふたり」で歌えば、という画期的な裁定を下した。大林宣彦&フレンズが歌う『草の想い』はこうして巷間に流れることになった。

映画『ふたり』との出会いはとても幸せだった。すばらしい作品を担当できるなんて音楽家にとって最高の喜びだ。中には8分台の長さの音楽が幾つかあって難しかったのだけれども、そのハードルを越えることにかえって燃えた。

クライマックスの後で、母親が父親に語りかけるシーンがある。「あなた…」「風呂はまだ…」変ロ長調のストリングスの和音が妻であり、母親である一人の女性の台詞と絡みながら徹かに聞こえてくる。静けさと優しさと愛に満ちたシーンだ。

人が人を許しあい、あるいは認めあい、喜びも悲しみも寂しさもすべてそのまま受け入れて生きていく。ほとんど宗教的とも言えるその深さは、この映画が真の傑作であることを決定的なものとしている。

僕はこの映画を3回見る事をお薦めする。1回目は友達と、そうすれば友情の有り難さが分かり、2回目は恋人と、そうすればかけがいのないものが分かり、3回目は父親と、そうすれば誰よりもあなたを愛している人が分かる。

大林監督とお会いしていると本当に楽しい。でも、忙しい監督に毎日お会いするわけにも行かないので僕は大林さんの映画を沢山見ることにした。そうすればちょっと、人に優しくなれるかも知れないから。

(映画「ふたり」劇場用パンフレット より)

 

 

イントロダクション
「ふたり」、映画、この指とまれ。

大林ムービーに欠かせないクラシック音楽の調べ。加えて、今回全編に流れる主題歌”草の想い”は、劇中、石田ひかり、中嶋朋子、島崎和歌子によって唄われ、映画を見終わった後も思わず口ずさんでしまう、美しく、せつないメロディーだが、これが監督自らの歌詞であり、映画のエンディングでも自らメロディーに乗せたナレーションとして唄われているのも話題である。昨秋、テレビヴァージョンがオンエアされるや、この主題歌についてのただならぬ反響が沸き上がり、とうとう映画公開に合わせて大林監督版、中嶋朋子版がそれぞれCDで発売された。本来がアイドル歌手でもある石田ひかり版が無いのは、彼女がこの『ふたり』において女優誕生の責務をきちんと果たしたので、『ふたり』をアイドル映画になどしないという、いわばご褒美として、女優石田ひかりは唄わないことになった。その結果、監督自らが”父親代わり”にこの物語の心の想いを伝える言葉を、語り、唄うことになった。

この一度聴いたら忘れられない魅力的なメロディーの生みの親は、『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』などの映画音楽で多くのファンの心を掴んだ久石譲。大林監督の前作『北京的西瓜』(89)を映画館で見、その手づくり映画のあり方に感動し「今度、ぜひ大林さんの手づくり映画に手弁当で参加したい」とラブコールを送り、それに監督がさっそく応え、久石氏はそのまま尾道に直行、二百人に及ぶ尾道の女学生の出演者たちのオーディションの審査席に座ってしまった。そして海や山のロケハンに参加、その感動がそのままメロディーとなったもの。こうしてクラインク・イン前にすでに主題曲がつくられていたので、映画本編中いわば唄うダイアローグとして効果的に使用されることになった。全編に渡る映画音楽は、これほど映像と音楽とが幸福に出会えたことはないと思われるほどの出来栄えであるが、これも尾道の空気を共に吸い、味わったことの成果ともいえるだろう。さらに言えば監督版CDでFRIENDとして監督とふたり、陰の声で唄っているのは久石氏である。

中嶋朋子版のCD製作は、この地道に女優の道を歩む一少女への、石田ひかりとは逆の形でのご褒美である。監督はさらに映画では唄われなかった”わたし、いないの”を新たに千津子のイメージ・ソングとして作詞、久石譲のメロディーを添えて中嶋へ『ふたり』の想い出として贈った。

(映画「ふたり」劇場用パンフレット イントロダクションより 抜粋)

 

映画 ふたり パンフレット

 

Blog. 舞台「祝祭音楽劇 トゥーランドット」久石譲 公演パンフレットより

Posted on 2016/1/20

2008年舞台「祝祭音楽劇トゥーランドット」です。舞台やミュージカルの音楽を担当することのない久石譲が、この作品を手がけた理由とその想い、音楽制作過程や主要楽曲の解説まで。

 

公式パンフレットよりご紹介します。

 

舞台「祝祭音楽劇 トゥーランドット」
演出:宮本亜門 音楽:久石譲 作詞:森雪之丞 衣装:ワダエミ
出演:アーメイ、岸谷五朗、早乙女太一、安倍なつみ、中村獅童 他

[公演日程]

東京公演
2008年3月27日~4月27日
赤坂ACTシアター

大阪公演
2008年5月2日~5月9日
梅田芸術劇場メインホール

名古屋公演
2008年5月13日~2008年5月22日
御園座

 

祝祭音楽劇 トゥーランドット Musical Number

【第一幕】
序曲
黄金の都
飢えた満月
トゥーランドットを讃える歌~飢えた満月 Reprise.
トゥーランドットを讃える歌 Reprise.
孤独の旋律 (ハミング)
陛下の気持ちが分からない
何のために生きる?
新たな挑戦者~飢えた満月 Reprise.
血の祝祭
トゥーランドットを讃える歌 Reprise.
三つの謎とその答え
熱燗売りの歌
孤独の旋律~混乱
何のために生きる? Reprise.
愛するための愛
論争!
狂気と美学
炎の花
草の根を分けても
進むべき道

【第二幕】
新たな逃亡者
草の根を分けても Reprise.
月の人
飢えた満月 Reprise.
謎解き、再び。
再び、の謎。
運命は遠い日の約束
光と夢と愛の国
ダンス~光と夢と愛の国

音楽:久石譲

音楽アレンジ:
久石譲
山下康介
宮崎幸子
足本憲治

 

 

INTERVIEW

無謀へのチャレンジ

正直に言うと、僕はミュージカルというものが好きではありません。普通にセリフを話していた人間が急に歌い出す、あの不自然さがどうも苦手で。ですから最初にこの舞台の企画をもらった時も、しばらく躊躇しました。しかも題材は、プッチーニのオペラの印象が強い『トゥーランドット』です。これは無謀以外の何ものでもないな、と。

それでも最終的に引き受けたのは、自分が日本人である以上、日本語をちゃんと使った作品を書いてみたいという思いからです。これまでも、映画で「劇」と「音楽」という仕事はしてきたわけですし、自分なりにチャレンジしてみようと心を決めました。

よかったなと思うのは、早い段階から台本作りに参加させてもらったことです。僕が曲を作る段階では詞がないので、自分である程度イメージを作る必要があるんですが、お陰でかなりイメージが作りやすくなりました。

最初に作ったのは、純粋で素朴で一途で、登場人物の中で最もキャラクターが明快なリューの曲です。(『月の人』)。書き終えて、「あ、これは行ける」と思いました。そんなふうに滑り出しがすごくよかったので、そこから2~3曲書いたところで、早くも全体が見えてきました。11月の末から12月の頭にかけては、実質10日間で14曲のミュージカル・ナンバーを書いたんですよ。あれは本当に嬉しかったですね。自分がやりたいことを奇跡的な勢いで、楽しくストレートに書けました。ビギナーズ・ラックなのかな(笑)。

作曲の際に心がけたのは、トータルなバランスです。例えば、全部メロディアスに作ってしまうと劇にマッチしなくなるし、あまりにオペラ的なものだと一般の人が入って行きづらくなる、とか。あるいは、中国を舞台にした作品ではあるけれども、東洋の匂いだけは残してインターナショナルな感じを出すにはどうしたらいいか、とか。中国的な色を出せば出すほど、それっぽくはなるけれども、結局それで終わってしまいますからね。そのあたりは、一番考えました。

あとはやはり、作るからには後々まで残る完成されたものを作りたい、ということですね。そのためにも、ミュージカルを専門にやってきてはいないメンキャストの皆さんに、曲を合わせ過ぎてはいけないし、かといって、かけ離れても上手くは行かない。悩んだ末に、歌う人のキーや歌唱力を考慮しつつ、一歩ずつステップが高めのものを要求していくのが一番いいと判断しました。ですから、ハードルは全体的に高いと思いますよ。

でもみんな、本当によくやっています。特にコーラスは、グランド・オペラにかけてもいいくらいのレベルのものを、きっちりとやってる。稽古を見ながら、この方向は正しかったと確信しています。間違いなく、今までの日本の創作ミュージカルでは絶対にあり得なかったレベルまで行っている…そんな手応えを感じます。

できたら、何度か観に行きたいですね。映画と違って、舞台は作曲している段階では自分の世界ですが、稽古が始まると演出家のものになって、初日が始まってからは役者のものになる。しかも毎回違うから、飽きることがありません。化学反応を起こしながら日々変わっていく舞台を、今から楽しみにしています。

久石譲

(「祝祭音楽劇 トゥーランドット」舞台公式パンフレット より)

 

久石譲 『祝祭音楽劇 トゥーランドット DVD』

 

《楽曲解説》

本作品の多彩なミュージカル・ナンバーはどのように作られたのか?
作曲者・久石譲が語る楽曲のポイント。

 

飢えた満月
儀式を待ち望む民衆たちが歌うコーラス曲

三番目に書き上がった曲です。プッチーニの名作に自分なりに挑戦するにあたって、ダイナミックな部分を出すにはどうしたらいい?と考えたら、やっぱりコーラスなんですよ。ですから、この曲にかぎらず、コーラスにはかなり凝っています。実は難曲揃いです。

 

二胡の調べ Instrumental
ミンの舞いの伴奏となる二胡の独奏曲

二胡に中国らしい五音階の曲を書いてしまうと、あまりにありきたりになってしまいます。いかにもベタな二胡の曲ではなく、もう少し精神的なものにしたかったので、あえてスコットランドやアイルランドといった、イギリス北部の民謡のような音階で書きました。

 

孤独の旋律
トゥーランドットの内面を表すドラマティックなバラード

特にアーメイさんを意識したわけではなく、主役として歌うなら、こういう世界観をきっちり作って欲しいなと思って書いた曲です。でも結果的に、アーメイさんにすごくハマっている曲だと思いますね。本番では、さらによくなっていくのではと期待しています。

 

何のために生きる?
故国を追われたカラフの心情を歌うソロ

二番目に作った曲です。脚本に書かれたセリフから、カラフの心情を僕なりにイメージしました。この曲に関しては、さらに岸谷さんが歌っているイメージもちょっと加味したところで、メロディが浮かんできました。

 

草の根を分けても
カラフを探すワン将軍と軍人たちの歌

たぶん、これが一番僕っぽい曲じゃないですかね。ちょっとミニマルミュージック的なものがベースになっていて。通常の歌モノとはちょっと違う楽曲も必要なんです。こういう曲がきちんと成功することで、この音楽劇自体が立体的になっていきます。

 

月の人
森に逃れたリューが月に歌うソロ

最初に作った曲です。メインテーマ曲を作る前に、その世界に映えるであろうもう一つの曲を作りたくて、リューを選びました。純粋で素朴なリューは、プッチーニの『トゥーランドット』でも一番オイシイ役。要は、複雑じゃないキャラクターなので、取っ掛かりやすかったんです。

 

運命は遠い日の約束
トゥーランドットとカラフのデュエット

メインテーマ曲です。演出家の意図もあって、「トゥーランドットとカラフのデュエットで、全体のメインテーマになる。しかもラスト近くになって初めて出てくる歌」というコンセプトで書きました。何回か書き直しましたが、比較的早めに出来ました。

 

光と夢と愛の国
物語のラストを飾る盛大なコーラス曲

書き上げて「これが最後が締まる」と思えた曲です。祝祭らしい曲ですが、単純に「めでたし、めでたし」で終わるような音楽は書きたくなかったし、聴く人が聴いた時にそれなりの楽曲の力が残るようにと思って作りました。圧倒的なコーラスの迫力を感じてください。

(「祝祭音楽劇 トゥーランドット」舞台公式パンフレット より)

 

同パンフレットには、メインテーマ曲であるM43「運命は遠い日の約束」のメロディ譜も収められている。メロディ五線譜とコードおよび歌詞が掲載された一段譜である。

 

「運命は遠い日の約束」
TURANDOT M43 “Destiny Is A Promise from the Distant past”
作曲:久石譲 作詞:森雪之丞

微かな 光がある
闇の中に あなたがいる
二人が 抱えてきた
その痛みと 同じ場所で
夢はまた生まれ 輝くから

道を違えた その度
運命に 導かれ

あなたと逢うために 誰よりも
この世界で 孤独だった
人は皆迷子のまま 旅をしてる
遠い日の約束を 果たすために

悲しい 物語を
終らせれば 夜明けは来る
扉を 叩く様な
命の音 聴いていたい
あなたの胸に 抱かれながら

死んで
生まれて
生まれて
幾度も
幾度も
何処かで
めぐり逢い 恋をして

あなたとあたためあう そのために
指はいつも 凍えていた
見つめれば散った花が 宙に止まる
そこに運命の絆が 揺れてるから

 

 

メインテーマ曲「運命は遠い日の約束」について。

2008年11月19日発売 「祝祭音楽劇 トゥーランドット」DVDでは、本舞台公演が収められている。またDVDにてエンドクレジットおよびPRムービー(約1分半)に聴かれるのは、同舞台メインテーマ曲「運命は遠い日の約束」のピアノ・バージョン、デモ音源である。実際に本編で使用されたメロディ旋律と異なる箇所があることから、制作期間の仮音源・デモ音源であることがわかる。

本舞台の音楽はオリジナル・サウンドトラック盤としては発売されていないので、DVDでのみ聴くことができる作品。

 

ただし2点。

DAISHI DANCEのアルバム『WONDER Tourism』にて、「Predestinate」という曲名でカバー収録されている。ヴォーカルは麻衣が担当しており、英語詞による歌唱と、デジタルビートと旋律美の融合が味わえる。

久石譲作品では、『Another Piano Stories ~The End of the World~』にて、「Destiny of Us (from Musical Turandot)」という曲名で収録されている。ピアノ、弦楽、アコースティック・ギターからなる、同楽曲のインストゥルメンタル・ヴァージョンである。

 

 

祝祭音楽劇 トゥーランドット ポスター

 

Blog. 「モーストリー・クラシック 2009年10月号」 久石譲 インタビュー内容

Posted on 2016/1/19

クラシック音楽誌「MOSTLY CLASSICS モーストリー・クラシック 2009年10月号 Vol.149」です。久石譲音楽活動においては、ソロアルバム「ミニマリズム」(2009)を発表した時期になります。「ミニマリズム」を作り終えた直後の作品に対する具体的な話を、当時のクラシック音楽指揮活動もふまえながら語られています。

 

 

STAGE Chapter 02

宮崎駿のアニメ映画作品や北野武の作品、今年話題になった「おくりびと」などの映画音楽を手がけ国際的にも高い評価を得ている。近年は、新日本フィルや関西フィルなどのオーケストラを指揮して、自作の映画音楽とクラシック音楽の指揮も行っている。その実り多い体験を経て、自らの原点であるミニマルミュージックの作曲に再び着手し、CD「ミニマリズム」を発表した。ベートーヴェンなどの古典音楽とミニマルミュージックの共通点を見いだし、新しい音楽の世界を切り開いた。

-2005年の本誌のインタビューで「オーケストラのシンフォニーのような少し大きな作品を体力のあるうちに作りたい」といわれました。

久石:
音楽大学の作曲科に在籍していたころから始まって、卒業後の20歳代は、現代音楽の作品を書いていました。それから、映画やCMなどのエンターテインメントの世界で作曲活動をしてきました。

しかし、最近、また自分自身のための作品を書きたいという気持ちが強くなってきたのです。そこで、大学時代に感化されて、自分の作風としていた、つまり原点にあるミニマルミュージック(最小限の音型を繰り返す音楽、以下ミニマルと表記)をもう一度しっかりやってみたいというのと、自分の中でクラシック音楽がどういったものなのかということを確認しようと思ったんです。

 

-今年1月の新日本フィルとの演奏会で指揮されたチャイコフスキーの交響曲第5番は、特に終楽章の構成が見事で感銘を受けました。

久石:
僕たちが大学に入って作曲をしていた時は、いまも核の部分は変わっていないのかもしれないけど、古典芸能のようなクラシックを「古い音楽」と否定して現代音楽を作りました。その頃は、ベートーヴェンやマーラーを調べてる余裕があるのなら、シュトックハウゼンやクセナキスを勉強して、クラシック音楽の勉強に割く時間も少なく、「こんなもんだ」とわかったような気でいました。

自分が指揮する立場になると、なんでこの音をこういった形で書き、展開させて行ったのかということを考えなければならない。そうしているうちに否定していたはずのクラシック音楽の凄さに気付かされたんです。そういったことは、本来は大学時代にやるべきだったのでしょうが、作曲科にいて新しい曲を求めていたことによって、抜け落ちていたことに気がつき「もう一回、クラシック音楽をちゃんとやろう」という気持ちが強くなってきました。

 

-CDに収録されている作品は、我々が知っているミニマルミュージックとは、かなり違っています。

久石:
それは、作曲の姿勢を、エンターテインメントの要素を取り入れて作曲していた自分の立脚点を、クラシックの方に置きかえてミニマルを作ろうと考えたからです。なぜミニマルかというと、我々が作曲を学んでいた当時は、不協和音をぶつけたり、図形のような譜面を書くなどといった作曲法が全盛で、響きを重視していた一方で、リズムには無関心でした。ポップスが、体に響くリズムを使って、存在感を増していったのに反して、それがない現代音楽は衰退していった。しかし、ミニマルは現代音楽でありながら、リズムと調性が残っていた。そこに共感し、また可能性を見いだし、それ以来、ミニマルの作曲を中心に行っていました。

 

-今回発表された曲は、初期のミニマルとは、核は同じですが音楽がより豊かになっています。ミニマルについての考え方が変わったのでしょうか。

久石:
指揮をやりはじめて、クラシックの曲の構造などをもう一度勉強し直してみると、ベートーヴェンは交響曲第5番で、有名な出だしの4つの音を、至るところにいろんな形で繰り返して使って、大きな構造物を作り上げている。ブラームスにもそういうところがあります。手法は違うのですが、ミニマルに相通ずるところがあるんです。

そこから発想したのが、「シンフォニア」という曲です。交響曲のもとになる言葉なんですが、元来イタリアでは、3部形式からなるディヴェルティメントのようなもっと気楽な管弦楽曲だったんです。室内オーケストラで出来る、古典音楽を素材にしたミニマルを作りました。

 

-クラシック音楽を聴いた人間ですと、第九の断片を聴き取ることは可能です。単なる引用ではなく、展開の仕方も面白く、一筋縄ではいかない曲になっていますね。

久石:
第2楽章では、コード進行と古典的なフーガが続いて現れ、第3楽章では、ティンパニやホルンなどが加わって、和声も4度、5度の進行をベースに作っているので、ベートーヴェンの第九の断片のような音が出てくる部分もあります。

 

-そういった古典音楽の手法が使われていながら、ミニマルの規則的に移り変わって行く音楽の特徴はそのままなので、演奏は至難では。

久石:
それもあって、名手ぞろいのロンドン交響楽団とアビーロード・スタジオで録音しました。アビーロード・スタジオのチーフエンジニアやコンサートマスターのカルミネ・ラウリが参加、最初は映画音楽の録音と思っていたようですが、事務局に曲のことを説明し、譜面も送っていたので、ロンドン響もクラシック音楽を演奏するときの陣容で録音に臨んでくれました。

曲のリハーサルをやっているうちに、ミニマル特有の音型を繰り返す音楽なので、縦の線を合わせるために、クリック(規則正しく繰り返される電子音)をつけてずれないように演奏し、録音もうまく行きました。

彼らはジョン・アダムズなどのミニマルの作曲家の作品も手がけていることもあって、とてもふくよかで豊かな演奏になっています。それに、録音後のマスタリングでも、ポピュラーや映画音楽などはCDのプレイボタンを押すとすぐ音楽が始まるように設定しているんですが、別にこちらからオーダーしたわけではないのですが、クラシック音楽のように、音が出るまで時間をあけてくれたんです。作品を聴いて、彼らがそう感じてくれたのは嬉しかったですね。

(「モーストリー・クラシック 2009.10 Vol.149」より)

 

モーストリー・クラシック 2009.10