1989年9月21日 CD発売 N29C-703
1989年9月21日 CT発売 N25K-703
1992年12月21日 CD発売 NACL-1506
鋭敏なエレクトリック・サウンドと生の声のミックス NY録音
INTERVIEW
Q.ニュー・アルバム『プリテンダー』のコンセプトの「原点」に戻る……ということについて、くわしく教えてください。
久石:
今回のコンセプトである「原点」に戻るということは、いわゆる本当の根本的な「原点」に戻るということではなく、自分が今ままでやってきた事で、例えば、『α-Bet-City』というアルバムをニューヨークでレコーディングした時、「フェアライトをこれだけ使うのはZTTかHisaishiだけだな」みたいな感じで、レコーディングしている最中にA&Mレコードやセルロイドから引き合いがきたり、自分が今までやってきた「インストゥルメンタル」、「音楽」、「世界レヴェルで通じるもの」を今回徹底して作ってみたいと思っていました。ヴォーカルものは英語詞で歌ったり、歌ってもらったし……。日本語だとどうしてもローカルになってしまうしね。「世界のフィールドで自分がどれだけ通用するか?」ということが一番根底にあったし、それがいわゆる「原点」ですね。
Q.海外のアーティストやミキサーと一緒に作り上げた今回のレコーディングのエピソード等がありましたら教えてください。
久石:
今回のレコーディングに参加してくれたミュージシャンを始め、ミキサーや各スタッフ達が日本発売とは思ってなくて、当然、世界発売……すくなくとも自分達の国の音楽だと思って、レコーディングに参加してくれたことが非常に嬉しかったことですね。
例えば、どのチャートを狙うのか、日本国内のチャートではなく、全米のブラコンやディスコ・チャートなのか、ポップス・チャートなのか。「どのチャートを狙うんだ」と、僕のところに親身になっていろいろと相談してくれて、「ブラコンやディスコ・チャートを狙うんだったら、良いミキサーを紹介するよ」って、いろいろ助言してくれたことが印象に残っています。
Q.国内とは違う環境でのレコーディングで何か変化や影響がありましたか? また、共演したアーティストやミキサーから触発されたものがありましたでしょうか?
久石:
一番は電話がかかってこないということですね。ふたつ目は、集中して音楽を創り上げられるということです。
基本的には国内でレコーディングしても同じだと思ってました。「海外でレコーディングをする」という意味は例えば、「海外でレコーディングした」ということは、もうアルバム・セールスにおいて「売りになる時代」にはならないし、それだけでインパクトがあるとも思っていないので、重要なファクターではないと思ってます。
今年(1989年)の3月にニューヨークに行って調べたミュージシャンやミキサーと知り合って、例えば、ドラムのノリ等の細かい点で、国内のドラマーが参加すると「こうなってしまう」とか、ある程度先が見えてしまう…海外のアーティストの場合、あるミュージシャンに参加してもらうと、その細かいリズムのノリや仕上がり具合がわかる。そういう意味では、海外でのレコーディングは必然的であったということだと思います。
根本的には海外でレコーディングしたから、今回のアルバムが出来たという気持ちはないけれど、それなりの+αはあったという感じはしています。
Q.『プリテンダー』で使用した主要なキーボード系、デジタル系(リズム・マシン、サンプラー、エフェクター等)の楽器を教えてください。
久石:
今回のアルバムでは、ほとんど生の楽器を多様しているし、生リズムで録ったのでシンセサイザーの使用頻度は少なめですが、使用した楽器はフェアライトIII、カーツェルやジュノー、DX7、S1000等の通常使用しているものです。
レコーディングに入る前にフェアライトIIIに全部のパートを打ち込んでおいて、本番ではそれを生の楽器に差し替えて録音しました。実際、レコードに収録されているフェアライトIIIの音や使用頻度は、全体の2~3割程度ですね。
曲のスケッチ段階で、ドラム・パートやベース・パート等すべてを打ち込んでおいて、それは、アルバムで聴けるフレーズや曲の感じの差はあまり変わってないということは、今回のフェアライトIIIの役目としては「縁の下の力持ち」になったということになります。
Q.最後に読者に対してコメントをお願いします。
久石:
今回の『プリテンダー』は、自分にとっても非常に大切なアルバムに仕上がりました。「日本」という独特な土壌の中で、日本の人々に受ける(日本人に受けるという言い方も変だけど)、つまり「国内向けに日本的なものを創る」というのではなくもっと乾いた「ウェットな部分ではない部分」を出したいというのがあって、そういう意味でいうと自分なりに納得するアルバム、「洋盤として納得するアルバム」に仕上がったと思ってます。
「聴き手」と「作者としての自分」の関係が「ベタベタ」したものではなく、むしろお互いに「対等」にあるような関係があって、自分の中ではとてもおもしろいチャレンジが出来たし、非常に納得したという部分があるので、その辺を感じながら聴いてもらえるとありがたいと思います。同時に、音楽的にもかなり高度な部分と、それを分かり易く噛み砕いてやている部分とがあるので、その辺がわかっていただけると幸いだし、また、本書を利用して演奏していただけると嬉しいと思います。
(「ピアノ弾き語り 久石譲/プリテンダー +BEST」 楽譜所蔵インタビューより 抜粋)
【楽曲解説】 Music Commentary by Joe Hisaishi
Meet Me Tonight
この曲は古き良きアメリカ、或いはビートルズ・エイジの人々が非常に懐かしく感じるようなメロディ・ラインを意識して作りました。
都会というよりは、田舎のハイスクールの学生が彼女のことを思うというような、ノスタルジックな暖かさを含んだ楽曲です。ニューヨークでレコーディングをしている時にも、ミュージシャンが思わず口ずさんでしまうという感じで、自分達の国の音楽として受け入れられた曲です。サビのコーラスの部分が特に自分でも気に入っています。
True Somebody
これはブリティッシュ・ロック系の曲を意図して作った楽曲ですが、ベーシックなリズム・ラインにはモータウンのリズムを取り入れました。ヴォーカルに黒人のヴォーカリスト(N.David “Tigger” Whitworth)を起用しており、世界的なマーケットでも通用するような曲に仕上がっていると思います。
Wonder City
この楽曲は、7~8年前にリリースした僕のソロ・アルバムの中に収められていたものです。当時、自分でも納得いかなかった部分もありましたが、今回の再度のチャレンジでかなり納得のいく仕上がりとなりました。自分でも、とっても気に入っている曲です。今年(1989年)の2月に行ったコンサートでもこの曲は非常に評判が良かった曲です。
Maria
これはシングル用に作った楽曲で、バラードの路線を狙って作りました。僕の音楽の特徴は、メロディ・ラインが非常に器楽的だということがありますが、それを強調してみようということで、音域の広い曲になっています。『秋の夕日が落ちていく海辺……』そんなイメージ。
All Day Pretender
このアルバムのタイトル『PRETENDER』が象徴するように、この曲が全体のコンセプト曲になっています。「いつも”ふり”をしている人」という意味をもったこの曲は、出だしの”モード”っぽいところからサビにいくまで、自分の中でも非常に納得した仕上がりになっています。ある意味では自分の原点的な楽曲といえます。
Manhattan Story
これは、古い新しいということではなく、スタンダードできちんとしたメロディを書きたいと思って書いたものです。都会派のメロディ・ラインを意識して作りました。
Holly’s Island
この曲は、「東洋的なメロディ・ラインとラテン的なサウンドをドッキングさせたらどうなるか?」ということを考えて作った楽曲です。アイランド的といいますか、非常にほのぼのとした感じが出ているので、自分でもとても好きな曲です。タイトルの”Holly’s”というのは、ドラマーのスティーヴ・ホリーと、「Holly Night(聖なる夜)」からきています。
Midnight Cruising
これはインストゥルメンタルの曲で、メロディも非常にクールなハードボイルド・タッチを意識して作った楽曲です。曲の中間部では、ジャズ・ワルツのような部分もあって、演奏面からいっても非常に難しいものなのですが、共演のミュージシャン達もノリにノッて素晴らしい演奏をしてくれました。
View of Silence
これはピアノとストリングス(ニューヨーク・フィルのメンバーとの共演)の楽曲です。
アルバム『Piano Stories』以来、ピアニストとしての僕は、前作品の『illusion』に引き続き、必ず最後にピアノの作品を入れていこうという意図で作った楽曲です。いわゆる映画音楽をひくるめて作ってきた、「僕なりのメロディ」というものの延長線上にあるものです。
今回はストリングス・セクションもニューヨークで録るということで、特に力を入れてアレンジをしました。「内なる情熱」というようなエモーショナルな部分が引き出せたと思います。
(【楽曲解説】 「ピアノ弾き語り 久石譲/プリテンダー +BEST」楽譜より)
「今回は「節」になるメロディーはやめようという考えがあったんです。日本のメロディーってみんな「節」でしょ? AがあってA’がきてBメロ、サビのC……という具合に分かれてて、それをビルト・アップしていく感じ。『イリュージョン』ではそれをやったんですよね。いかにも日本風のやつをやってみようと思ったから。だけど、今回はもっとシンプルなことをやりたかったんですよ。要するにリフの繰り返しでいけるようなことをしたい。非常にモードっぽくいきたい、と。日本だと1つのパターンで全曲押し切るっていうのはなかなかできないじゃない? 一度、そういうところでのメロディーのチャレンジをしてみたかったということなんです。外国の曲では当たり前のことなのに、日本では一生懸命コード変えたりとかするでしょ? 簡単に言うと、今回はできるだけ情報を整理したかった。情報量を最小限にして、ゴテゴテさせないっていう考えはありましたね。」
「「オールデイ・プリテンダー」という曲は全曲を通して「ラミシミレミラミ」というシーケンスがずっと鳴ってるんです。これはどちらかというとAmモードっぽいですよね? ところが、ベースは出だしからDの音なんです。レミファソ……といって、ラはなかなか出てこない。でも、「ラミシミ……」と鳴ってベースがDだとDのモードにも聞こえる。ベースがEに行くと、Esus4にも聞こえる。Fに行くとF△7の変形にも聞こえるし、Gに行くとG6……。基本的に要素が少ないでしょ? 右手はずっと同じだから。ベースの音が1個変わるだけで世界がパッと変わる。そういうのがやりたかったんです。「ワンダー・シティ」は最初から最後までベースが同じですからね。音が1つも変わってない。省エネの極致だね(笑)。」
(Blog. 「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1990年1月号」久石譲連載 第2回 ドからド。それだけで作れる音楽 より抜粋)
「今までは90%くらいは電気楽器、打ち込みものとかが多かったのですが、今回は逆に85%近くは生のピアノやドラム、ベースなどを前に出して非常にバンドっぽくあげたかったんです。打ち込みだとジャストでしょ。ジャストだとニュアンスがないからつらい部分があって…。そういう意味では今回はリズムのノリもいいし、かなり欲しいニュアンスが録れたなと感じますね。中には1曲めと5曲めのように部分的に打ち込みを使った曲もありますが、後は全部生です。その打ち込みの部分も、生の音との違いがほとんどわからないくらい精密に、フェアライトで作っていったんですよね。今回はバンドっぽいサウンドということをコンセプトにおきましたから、そういう意味でのカラーの統一をしたかったんです」
「1曲1曲、思いっきりパワーを持つように作ったんです。今回はインストとボーカルものを混ぜてしまったし、下手するとバラバラになっちゃうような非常に難しいアルバムだったんですよ。ただ正解だったのはバンドっぽい音ということで、リズム体を変にサンプリングで入れ替えたりして凝りすぎないで、全曲、素直に通したんです。曲の表わし方の個性をどうつけるかでジャジイなものがあったり、ピアノ曲があったりするけど、その上でもっと大きな個性で結実しないかなという思いはありました」
(Blog. 「KEYBORD LAND キーボード・ランド 1989年10月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)
「そうですね。今回一番思ったことは、確かに向こうの人はすごい体力もあるし音もすごいからハデな曲を持ってった方がいい、という発想はあったんだけど、逆にこういう「マンハッタン・ストーリー」とか遅い曲も彼らはすごくうまいんですよ。で、ワーッと思ってね、テンポが8つくらい、128ぐらいだったのを110いくつくらいにしたのかな、すごい量を落としたんです。中間のファンクっぽい部分が成立するギリギリのテンポまで落としました。
それで、ほとんどの曲が東京で組んだテンポのままなんですよ。せいぜいひと目盛り下がるかどうかという……。それに関してもかなりシビアにやってったから、ほとんど変わんなかった。唯一変わったのが「マンハッタン……」。それがドドド……って落ちたっていう……。この辺がやっぱりノリのすごさなんだなっていうことを思いましたね。」
「そう、最初にまずピアノを録って、それから弦のアレンジして弦を録ったんです。ピアノを録る前の日に曲ができましたからね……。
あの「ヴュー・オブ……」は今までの自分のメロディーらしいメロディーと、同時にちょっと踏み出してるんですよ。メロディーの中でのキーのチェンジが激しいですからね。一歩間違うと今回のコンセプトに合わない曲なんですよ。あの曲を外すかどうか迷いましたね。
で、アルバムに入れた中では唯一ミニマルっぽい扱いですね。途中からピアノが一つのフレーズの繰り返しで押し切って、それとは別に弦が動く。あそこらへんからモードっぽい進行に切り換えることによって、やっとアルバムに入ったんですよ。辻褄が合うようにした。それがすごい難しかったね。
コード進行にそった形でピアノのアルペジオを入れるといちばん僕らしくなるんだけど、今回それをやるとちょっと違うんじゃないかっていう感じがあって。それがちょっと苦しかったとこですね。「ヴュー……」は楽曲的には自分でも納得いってたから、今回入れるためには他の曲とのつなぎの接点でモードというのを使ったんです。そういう方法というのは全体にあるんです。」
(Blog. 「KB SPECiAL キーボードスペシャル 1989年11月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)
「MARIA」は幻のシングル・バージョンが存在する。発売には至らなかった。
1. MEET ME TONIGHT
2. TRUE SOMEBODY
3. WONDER CITY
4. HOLLY’S ISLAND
5. MARIA
6. MIDNIGHT CRUISING
7. ALL DAY PRETENDER
8. MANHATTAN STORY
9. VIEW OF SILENCE
Lyric:宇多田照實 1. 2. 3. 7.
Musicians
Steve Holly(drums)
Brian Stanley(Bass)
Paul pesco(Guitars)
Steve Thornton(Percussions)
Steve Elson(Saxophone)
Recording:Sorcerer Sound,Sanctuary Recording,RCA Studio,Wonder Station
April 1989~June 1989
MEET ME TONIGHT
Keyboards: Joe Hisaishi
Piano: Joe Hisaishi
Guitars: Paul Pesco
Chorus: Kysia Bostick,
N.David “Tigger” Witworth
Vocal: Joe Hisaishi
TRUE SOMEBODY
Drums: Steve Holly
Bass: Brian Stanley
Keyboards: Joe Hisaishi
Guitars: Paul Pesco
Chorus: Kysia Bostick
N.David “Tigger” Whitworth
Joe Hisaishi
Vocal: N.David “Tigger” Whitworth
WONDER CITY
Drums: Steve Holly
Bass: Brian Stanley
Keyboards: Joe Hisaishi
Guitars: Paul Pesco
Percussions: Steve Thornton
Tabla: Adam Rudolph
Chorus: Kysia Bostick
N.David “Tigger” Whitworth
Joe Hisaishi
Vocal: Joe Hisaishi
HOLLY’S ISLAND
Drums: Steve Holly
Bass: Brian Stanley
Keyboards: Joe Hisaishi
Guitars: Paul Pesco
Saxophone: Steve Elson
Chorus: Kysia Bostick
N.David “Tigger” Whitworth
MARIA
Keyboards: Joe Hisaishi
Piano: Joe Hisaishi
Guitars: Paul Pesco
Percussions: Steve Thornton
Saxophone: Steve Elson
* String Section
Violin: David Nadian (Concertmaster), Marti.J.Sweet
Harry Lookofsky, Arnold Eidus
Richard Sortomme, Sol Greitzer
John Pintavalle, Charles Libove
Barry Finclair, Lamar Alsop
Viola: Elena Barer, Jan Mullen
Cello: Charles P.McCracken, Richard Locker
String Arrangement: Ed Bilous
Chorus: Kysia Bostick
N.David “Tigger” Whitworth
Vocal: Joe Hisaishi
MIDNIGHT CRUISING
Drums: Steve Holly
Bass: Brian Stanley
Keyboards: Joe Hisaishi
Guitars: Paul Pesco
Percussions: Steve Thornton
Piano: Joe Hisaishi
Saxophone: Steve Elson
ALL DAY PRETENDER
Drums: Steve Holly
Bass: Brian Stanley
Keyboards: Joe Hisaishi
Chorus: Kysia Bostick
N.David “Tigger” Whitworth
Vocal: Joe Hisaishi
MANHATTAN STORY
Drums: Steve Holly
Bass: Brian Stanley
Keyboards: Joe Hisaishi
Piano: Joe Hisaishi
Saxophone: Steve Elson
String Section: *
String Arrangement: Ed Bilous
Vocal: Kysia bostick
VIEW OF SILENSE
Piano: Joe Hisaishi
String Section:
String Arrangement: Joe Hisaishi
Executive Producer: Masaharu Honjon
(NEC Avenue)
Mamoru Fujisawa
(WONDER CITY)
Producer: Joe Hisaishi
Co-Producer: Thomas Hiruta
(WONDER CITY)
Akira Shimabukuro
(NEC Avenue)
Ed Bilous
Recording Engineer: Roger Moutenot
Kennon Keating
Don Wershba
Suminobu Hamada
Mixing Engineer: Roger Moutenot
Mastering Engineer: Tony Dawsey
(Masterdisk)
Assistant Engineer: Jim Goatley
Judy Kirscher
(Sorcerer Sound)
Eric Hurtig(Sanctuary)
Anthony Sanders
Soundtrack)
Fairlight/Synth Programmer: Joe Hisaishi
Bill Seery
Steve Rimland
All songs composed and arranged
by Joe Hisaishi
Recording Studios: Sorcerer Sound
Sanctuary Recording
RCA Studio
Wonder Station
Mixing down Studio: Soundtrack
Mastering Studio: Masterdisk
Co-ordination: The MEDIUS Corporation, NY
Recorded on April 1989~June 1989
Object Manufacturer: Eisaku Kitoh
Photographer: Katsumi Takada
Design: Rieko Kanno (AC Project)
Art Co-ordinator: Yumi Horie(NEC Avenue)
Special Thanks: Jin Tamura (Inner Photo)
PARCO (Obje TOKYO-TEN 1989)