1980年 LP発売 TP-60351
ポップスのヒット・ナンバーを混声で歌う!!
混声合唱による楽しいポップスの世界 ポピュラー合唱シリーズ vol.1 イエスタデイ
合唱:ミュージッククリエイション 指揮:熊谷弘 編曲:久石譲 英詩指導:Stuart Atkin
久石譲による全楽曲編曲解説つき
編曲のおと ポピュラー合唱シリーズVol.1 久石譲
合唱音楽にはいくつかの特徴があります。まず、他のどの楽器よりも直接に人々に訴えかける力がある事、そして言葉-詩-を語りかけられる事。
近年日本の合唱界も他の分野と同じく、小さい頃から音楽に接して来た若者達が多くなった為か、飛躍的な進歩を遂げていると思います。かなり難解な作品でも、割と平気で歌われているようです。
が、しかしポピュラー音楽を歌うと言う事に関してはどうでしょうか?美しいメロディーと詩、軽妙なリズム……多くの人々に愛されているのですが、それほど盛んには歌われていません。一つには、言葉の問題(やはり英語が多い)であり、又コンサートにかけられるようなボリュームのある編曲が少ない事があると思います。
今回、このレコード制作にあたって留意した点もそこにあります。まず一曲一曲が、コンサートにかけられるように、時間的に充分な長さと様々な変化を盛り込んで編曲する。次に、英語に関しては、S・アットキン氏の指導を受けて、完全な発音をする。そして、今回の主目的でもありますが、東亜音楽社によって楽譜の出版を同時に行う。以上の様な特徴があります。
編曲にあたっては、原曲の持つイメージを生かして、大きな構成を取ること。JAZZハーモニーもある程度使用するが、できる限り歌い易く、かつ歌って楽しいものにする事。基本的にノンビブラート唱法を取り入れること。(それの方がきれいなハーモニーが得られる)等々。
しかしこのレコードはあくまで観賞用でもあって教材用としてだけではありません。
ポピュラー音楽は、多くの人々にとって、歩んできた時間の、ある時代の代弁者であり、又良きパートナーでもあります。皆さんのレコードライブラリーに加えていたただければ、幸いです。
1.トライ・トゥ・リメンバー
この美しい名曲はこのアルバムの中でも最もスケールの大きなアレンジをしています。韻をふんだ構成のしっかりした詩は、それだけで一つの音楽になっています。この曲では、アメリカの「シンガース・アンリミテッド」以来、多くのアレンジャーによって転調の妙味を競いあっています。このアルバムでも3コーラスのうち2コーラスめから徐々に転調していきますが、詩のもつニュアンスに合わせて音も高揚して行きます。ア・カペラ(無伴奏)の持つ大きな表現力に注目してください。
2.シェルブールの雨傘
監督ジャック・ドミー、主演カトリーヌ・ドヌーブ、作曲ミシェル・ルグランのコンビによる同名の映画の主題歌。このあまりにも美しいメロディーは、その反面、大変難しい曲でもあります。跳躍の激しい、この器楽的なメロディーを歌うにはかなりの技術がいります。全体で3コーラスありますが、それぞれ半音づつ上がって行って盛り上げています。多少アカデミックに表現してみましたが、ピアノのパートはある程度の練習は必要でしょう。
3.アクエリアス
ミュージカル「ヘアー」の中の挿入歌で、フィフス・ディメンションの歌でヒットしました。このアルバム中、最もロックのリズムを強調したアレンジになっています。合唱と言うよりもコーラスグループに近い表現になっていますが、ディスコに通う若い世代から見れば、何の違和感もないでしょう。リズムはやや複雑ですが、パンチのあるダイナミックな歌が聞かれます。
4.ドンナ・ドンナ
ジョーン・バエズの歌などでおなじみの曲ですが、フォーク・ブームのとき、最も歌われた曲です。このアルバムでは、ほとんど英語の詩で歌われていますが、それは訳詩と原曲のイメージにかなりの距離があり、それならば原曲のイメージを大切にして英語で行こうと思ったからです。が、この「ドンナ・ドンナ」と「マイ・ウェイ」に関しては、日本語の詩でもかなりポピュラーになっていますので、日本語で歌われています。素朴な哀感をたたえるこのメロディーはあまり技巧に走らず、淡々と歌われるようにアレンジしています。
5.スカボロー・フェア/詠唱
「サウンド・オブ・サイレンス」と共に、映画制作の鬼才マイク・ニコルズが『卒業』に先ず決めた作品。サイモンとガーファンクルの中でも一番親しまれた曲のひとつになっています。ポール・サイモンがイギリスのフォーククラブを廻っていた頃、北海に面した小さな漁村で聞いた民謡をアート・ガーファンクルと共に採譜し、一年近くかけて仕上げた労作でもあります。美しく宝石のように散りばめられた詩は、S&Gの精緻な作品群の代表と云うべき光を放っています。幻想的な「スカボロー・フェア」で始まり、同じ曲調の「きよしこの夜」に殺ばつとした現実を伝えるニュースをからめた「7時のニュース/きよしこの夜」で終わるこの曲はポピュラー史上に残る名曲です。声をおさえて、ソフトな表現が大切です。
6.イエスタデイ
ビートルズの名曲「イエスタデイ」はその美しいメロディーもさることながら、詩の美しさにも感嘆します。ア・カペラ(無伴奏)で歌われますが、合唱の大きな魅力は何と言っても無伴奏で歌われる詩です。大きなフレーズを取り、時には速く又遅くメロディーに合わせてテンポが揺れる時、そこに表れる美しいハーモニーに耳を傾けない人はいないでしょう。テノールがメロディーを歌う事が多いですが、クラシック的な発声よりもソフトな声で歌った方が良いでしょう。又多勢の合唱でも可能ですが、少人数で清涼なハーモニーを意図しても別の美しさが出ると思います。
7.夢のカリフォルニア
ママス・アンド・パパスのなつかしい歌ですが、今年同名のタイトルで映画にもなりました。したがって、映画のサウンド・トラックに近いアレンジをしてみました。この曲では、先行するメロディーとそれを追いかけるバックコーラスが同等のニュアンスで必要です。ロックのリズムですが、それほど難しいノリではなく、言葉の持つリズムを強調すれば、全体のサウンドは、かなり力強く響くと思います。
8.ブルーレディに紅いバラ
ディーン・マーチン等の歌でおなじみの曲です。4ビートに乗って歌われるこの明るく大らかな曲は、いかにも良き時代のアメリカを感じさせます。歌の始まりは男声が取りますが、全体に男のイメージが強いです。中間部のサンドペーパーと歌のかけ合いはリズムの面白さをねらってみました。技術的には、シェイクと言って、声をゆらす(大きな又は強調したビブラート)テクニックを使用していますが、これは、スイング・ナンバーの特徴的な歌い方です。
9.コンドルは飛んで行く
南米のインカ民謡で、ポール・サイモンがロス・インカスとめぐり逢ってレパートリーに加えた為、世界的なヒット曲となりました。このアルバムでは、南米の民族楽器、ケーナ(笛)、チャランゴ(弦楽器)、ボンゴ(太鼓)等を使用してその雰囲気を出しています。声はむしろカスレるほど息を多く出して、おさえて表現した方が良いです。音域の広いメロディーですが、その民族性ゆえに独特のムードがかもし出されます。
10.ロミオとジュリエット
オリビア・ハッセー、レナード・ホワイティングのコンビで映画化され、その若々しいカップル(当時?)の新鮮な演技で評判を呼びました。音楽は「太陽がいっぱい」「ゴッドファーザー」など数々の映画音楽を作曲したニーノ・ロータが担当しています。曲は、ルネッサンス・バロック時代によく使われた和音進行に基いて作曲されている為、非常に格調の高い、それでいて素朴な表現になっています。アレンジにあたっても、その原曲の持つムードを損なわないよう注意しました。また本来、ピアノの伴奏で良いのですが、このアルバムでは、ハープを用いて原曲のイメージに近づけています。
11.マイ・ウェイ
フランク・シナトラやポール・アンカの歌でヒットした曲です。大変スケールの大きな曲で、多少歌唱力に自信のある歌い手さんは好んでこの曲を取り上げています。編曲にあたって、男性コーラスを中心にして、スケールの大きな正攻法で表現してみました。この曲も日本語の詩で歌われています。
12.ミッシェル
レノン&マッカートニーの作詩・作曲で、1965年に発表されましたが、特にその優しく温かみのある音楽は、「マッカートニー・サウンド」と呼ばれています。この曲はそれの代表的な曲の一つです。この曲もア・カペラ(無伴奏)ですが、ややキー(音域)を下げ、声を張り上げずにおさえて表現してあります。
(編曲のおと ~LPライナーノーツより)
●ミュージッククリエイションとS・アットキン
今回のレコーディングで活躍したミュージッククリエイションは、全員がコーラスグループの経験者で、又ソリストとしてもスタジオ、ステージ等で活躍している新しいスタイルのシンガーズである。又、S・アットキンは英国生れ、キング・エドワーズスクール、オックスフォード大学卒業、現在東京在住。今回のレコーディングでは、英語の歌詩を徹底的に指導協力してくれた。陰の大功労者である。
ミュージッククリエイション:
ソプラノ 2/アルト 2/テノール 2/バリトン/バス
このレコードに収録したものと同じ楽譜が、㈱東亜音楽社発行、㈱音楽の友社発売で出版されています。『混声合唱による楽しいポップスの世界』レコード共々御活用下さい。
(LPライナーノーツ より)
(LPジャケット 表/裏 LPライナーノーツ 表/裏)
なお、『ポピュラー合唱シリーズ Vol.2』も、レコード・楽譜共に発売されていた。
Disc. ミュージッククリエイション 『混声合唱によるニューミュージックの世界 ポピュラー合唱シリーズVol.2 – Sachiko』
SIDE 1
1.トライ・トゥ・リメンバー TRY TO REMEMBER
2.シェルブールの雨傘 LES PARAPLUIES DE CHERBOURG
3.アクエリアス AQUARIUS
4.ドンナ・ドンナ DONNA DONNA
5.スカボロー・フェア SCARBOROUGH FAIR
6.イエスタデイ YESTERDAY
SIDE 2
1.夢のカリフォルニア CALIFORNIA DREAMIN’
2.ブルーレディに紅いバラ RED ROSES FOR A BLUE LADY
3.コンドルは飛んで行く EL CONDOR PASA
4.ロミオとジュリエット A TIME FOR US
5.マイ・ウェイ MY WAY
6.ミッシェル MICHELLE
編曲:久石譲
指揮:熊谷弘
合唱:ミュージッククリエイション
Arranged by JOE HISAISHI
Conducted by HIROSHI KUMAGAYA
Song by THE MUSIC CREATION