8K映像は「海底1,300mに潜ったような体験」。NHK『深海の大絶景』試写会レポート
NHKは、8Kで深海を撮影した番組「深海の大絶景 世界初! 8Kが見た海底1300mの秘境」を、2月10日の19:30〜19:39にBS8Kにて放送する。それに先立ち、本日メディア向けの試写会が開催された。
試聴会の冒頭では、NHK 8K制作事務局長の落合 淳氏が挨拶。番組の見どころとして「通常は無人探査機にハイビジョンカメラを取り付けるが、今回はその16倍の解像度を持つ8Kカメラを使用した。それにより、研究者でも見たことのない映像を撮影することができた。あたかも無人探査機に乗り込んで、そこから深海を眺めるようなゴージャスな体験ができるコンテンツに仕上がっている。ぜひご覧いただきたい」とコメント。
実際に映像を視聴すると、1,300mという深海の底で生きる小さな生物たちの様子が克明に捉えられており、海底から吹き出す300度程度という熱水が起こす水流やマリンスノウなど、極めて細かな様子までもが高精細に映し出された。
会場には本番組中にも登場するJAMSTEC海洋工学センターの主任技術研究員である石橋 正二郎氏、JAMSTEC海洋生物多様性研究分野 主任技術研究員の吉田 尊雄氏も登壇。石橋氏は「今日はじめてこのコンテンツを見て、非常に感動した。4年前から共同開発を進めて、いかにしてNHKの8Kシステムを深海に持ち込むかに努力してきた。この映像は我々からすれば、信じられないくらいの情報量。これまでは探査機の照明があたるごくわずかな範囲のみが “深海” だったが、高精細で広い範囲を見ることができるようになった」と感想を述べる。
そして海域で生き物を調査しているという吉田氏も、「調査時はすぐ南に台風が来ていて、時間との戦いということもあり、現場でも映像を見ていたが気が気でなかった。今回あらためて映像を見て、どこに何がいるのかハッキリ分かる。8Kを用いない調査には戻れないくらい。普段、深海を調査している人間から見ても、その場にいるような映像だと思う」と8K映像の情報量に感動したとコメントした。
また、NHKのディレクター廣瀬 学氏は、「多くの人が関わった、とても大掛かりなプロジェクト。8Kカメラが海に潜れる、ということ実証できたので、今後はもっと様々な映像を撮影していきたい」と今後の展開についても意欲を見せた。
ハイビジョンカメラで行う調査との違いについて問われると、「ハイビジョンの場合、映像がかなり粗いため、例えば調査時に貝が生きているのかどうかも分からない。今回は8Kカメラだったため、現場で生きている貝を判別でき、効率よく調査を行えた」(吉田氏)という。
また石橋氏は「いくらうまくカメラを海底まで持って行くことができても、これまでは画角が狭く、粗い画になっていた。ハイビジョンではほぼ影としか分からなかったものが、8Kカメラであれば、小さなサイズの生物であることも分かった。もし8Kカメラをオペレーションに使用することができれば、ミリやセンチ単位での繊細な操作が行えるようになるだろう」と技術面からの見解を語った。
映像では海底から熱水が吹き出すシーンが多いが、それは今回の撮影現場である伊豆小笠原諸島が選ばれた理由にもあるという。廣瀬氏によれば、「8Kの威力を表現できるのは、細かいものや動きのある映像と考え、熱水が吹いている海底から、シーズンなどの条件を考慮して小笠原諸島を選択した」とのこと。また8K映像を研究に活用するにあたり、熱水が吹き出す海底を撮影することに意義があるとする学術的価値もポイントとなった。
番組でオススメのシーンについては、「我々が船上で感動したのは、目の前の光が当たっているスポットのみで移動しながら撮影する映像ではなく、LEDライトを使用して全体が照らされた状態で撮影された映像」と吉田氏。また石橋氏も「スタンドアロンのLEDライトを複数配置するのはかなり大変なことであり、光の特性にも考慮した設計が必要だった。しかし、その苦労の結果として深海をマクロなものではなく、広い風景として撮影できたのは世界でも稀だと思う」と同じく光に照らされた海底が見どころとした。
そして次はどこを撮影したいか、という問いには「今回は1,300mでの撮影だったが、3,000mまで耐えられる仕様となっているので、マリアナ海溝など世界でも最深部というところに潜って、8Kカメラで撮影することができれば幸せだな、と考えている」と石橋氏は語った。
あくまでそれはプロジェクトが動いているかどうかではなく、そういった世界を撮影できればという希望ではあるだろうが、実際にそうした映像が8Kで放送されるようであれば非常に楽しみだ。
〜〜「深海の大絶景 世界初! 8Kが見た海底1300mの秘境」あらすじ〜〜
8Kで深海を撮影する世界初のプロジェクトに、NHKと国立研究開発法人海洋 研究開発機構(JAMSTEC)が挑戦し、4年がかりで8K深海システムを完成させ、2018年7月、伊豆小笠原諸島でのダイブに挑みました。水深1300m の海底。そこには300度の熱水がジェットのように噴き上がる 「熱水噴出口」が立ち並びます。海底下のマグマで熱せられた海水は真っ黒な煙の ようにあたりに広がり、硫化水素など猛毒の物質も含んでいるといいます。
危険なはずの熱水に群がるように集まる生き物たちを、8Kカメラは次々と映し出します。目が退化したユノハナガニ、お腹に卵を抱えたオハラエビ、海底を埋め尽くすシチヨウシンカイヒバリガイの大コロニー。硫化水素からエネルギーを作り出す特殊な細菌を体内に住まわせ、生きているといます。40億年前、地球に生命が誕生した環境もこうした場所ではないかと言われている研究スポットです。
さらに潜水艇のパイロットの間で、「ビッグチムニー」と呼ばれる深海の絶景ポイントを目指します。それは途方もない時間をかけて成長した熱水噴出孔で、高さ20mを超えます。探索の末にたどり着いたのは、まるで深い森に立つ巨木のように、無数の深海生物を岩肌にまとってたたずむ姿でした。畏敬の念すら覚える神秘的な姿に研究者もエンジニアも言葉を失うほどです。世界で初めて8K超高精細映像で深海景観や深海生物の生態の撮影に成功。まるで海底に立って見たかのような臨場感で映し出します。
〜〜〜〜
出典:PHILE WEB
https://www.phileweb.com/news/d-av/201901/30/46428.html