Posted on 2020/03/24
久石譲率いるフューチャー・オーケストラ・クラシックスが第2弾コンサートを開催~新解釈のブラームス演奏に世界初演新作も
久石譲率いるフューチャー・オーケストラ・クラシックス(FOC)が2019年7月のVol.1に引き続き、2020年2月13日(木)にVol.2の演奏会をひらいた。FOCは、久石譲の呼びかけにより、2016年から長野市芸術館で活動を行っていたナガノ・チェンバー・オーケストラを母体として、国内外で活躍するトップクラスの演奏家たち(国内オケの首席奏者を数多く含む)が集って、2019年に創設されたオーケストラ。コンサートマスターは近藤薫。
東京オペラシティコンサートホールに満員の聴衆。普段のオーケストラ・コンサートに比べて客層が若い。この日は、アルヴォ・ペルトの「フェスティーナ・レンテ~弦楽合奏とハープのための」、久石譲の「3つのホルンとオーケストラのための協奏曲《The Border》」(新作)、ブラームスの交響曲第1番というプログラムが披露された。
今回もFOCは立奏(チェロやハープなどを除く)。弦楽器は10、10、8、6、5という編成。ヴァイオリンは第1と第2が左右に分かれる対向配置が採られる。現代エストニアを代表する作曲家、ペルトの「フェスティーナ・レンテ」は静謐な調べ。弦楽器のパート内でもさらに分割され、音が織り成されていく。
久石の「The Border」は世界初演。3つのホルンの独奏は、福川伸陽、豊田実加、藤田麻理絵が務めた。第1楽章「Crossing Lines」は、複雑なリズムの続く、久石らしいミニマル系の音楽。ホルンも細かな音型を吹く。第2楽章「The Scaling」では、静かにホルンがメロディを吹奏。ホルンの弱音の美しさを味わう。第3楽章「The Circles」は快活なロンド。福川が速いパッセージで超絶技巧を披露。弦楽器、木管楽器、金管楽器の首席奏者にもソロがあり、オーケストラも乗ってくる。最後にカデンツァのようなホルンの三重奏があり、3人がホルンの響きの魅力を示した。
メインは、ブラームスの交響曲第1番。まず、第1楽章序奏のテンポの速さとティンパニの強打に驚かされる。コントラバスも打楽器のようにダウン・ボウを繰り返す。ブラームスが交響曲第1番で長い年月をかけて醸成させた鬱屈が斬り捨てられていたのは斬新であった(第1ヴァイオリンの10人という薄めの編成が有効)。主部に入ってもテンポは速く、ビートやリズムが強調される。運動性に満ちた音楽は、対位法的な箇所がとりわけ面白かった。第1楽章が、あっという間に、12分程で終わる。第2楽章は歌謡的な緩徐楽章だが、ここでも久石は速めのテンポをとって、粘らない。弦楽器はヴィブラート抑えめ。古楽オーケストラのように響く。終盤での、ヴァイオリン、オーボエ、ホルンの三重ソロは、立奏ならではの三角形のコンタクト。第3楽章は動きのある木管楽器の活躍が印象に残る。第4楽章では、序奏のホルンの福川のスケールの大きなソロが見事。続く弦楽器による第1主題は古楽オーケストラのような素朴さ。コーダに入るところでは、弦楽器の立奏によって、運動性が際立った。手元の時計で、第1楽章の繰り返し込みで40分を切る、かなりの快速演奏だった。手垢のついたロマンティシズムを排し、作曲家・久石譲が現代的な視点で楽譜を読み直した、新鮮なブラームス演奏であった。アンコールにブラームスのハンガリー舞曲第4番。舞曲にふさわしい、ダンスのようなノリ。ホールから響きが溢れそうな演奏であった。
ブラームスと自作を含む現代作品とを組み合わせたプログラム。立奏、控えめなヴィブラート、快速テンポを採用しながら、ブラームスをアップデートした演奏は非常にエキサイティングだった。久石&FOCは引き続きブラームス・チクルスに取り組んでいくという。今後の演奏会が一層楽しみになった。
取材・文=山田治生
出典:SPICE スパイス
https://spice.eplus.jp/articles/265834