Posted on 2022/04/04
久石譲のインタビュー動画が公開されました。4月15,16日開催「新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 #6」に向けての内容になっています。新日本フィル公式サイトには動画からのテキストもありますので、あわせてぜひご覧ください。
作曲家・久石譲が語るムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」(M.ラヴェルによる管弦楽編)、そしてドビュッシー(2022/4/15・16 フランス・プログラム) (約12分)
2022/4/15・16「すみだクラシックへの扉 第6回」で取り上げるプログラムについて、指揮を務める久石譲(新日本フィル Composer in Residence and Music Partner)が語りました。作曲家ならではの鋭い視点、フランス音楽らしさを描き上げるタクトに期待が高まります。
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲 Debussy:Prélude à l’après-midi d’un faune
サン=サーンス:チェロ協奏曲第1番 イ短調 op. 33 Saint-Saëns: Cello Concerto No. 1 in A minor, op. 33(チェロ独奏:リーウェイ・キン)
ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」(M.ラヴェルによる管弦楽編) Mussorgsky: Pictures at an Exhibition/ Arr. M. Ravel for orchestra
from 新日本フィルハーモーニー交響楽団YouTube
動画より抜粋
インタビュアー:柴田克彦(音楽評論家)
メインに「展覧会の絵」(ムソルグスキー作曲/ラヴェル編曲)を選んだ理由は?
(久石)「フランス音楽のプログラムを組むときに好きで、よく取り入れています。前半にドビュッシーの小組曲や「牧神の午後への前奏曲」、2曲目にラヴェルのピアノ協奏曲、最後にムソルグスキーの『展覧会の絵』、といったプログラムを組みます」
※今回は1曲目にドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」、2曲目はサン=サーンスのチェロ協奏曲
ラヴェル編曲の「展覧会の絵」ならでは面白さ、凄さは?
(久石)「作曲家の観点では、ムソルグスキーのピアノ曲『展覧会の絵』は、オーケストラのためのスケッチのような作品のように見えます。この曲をラヴェルが編曲したくなった気持ちがよくわかります」
(久石)「ムソルグスキーのピアノ曲はスケッチのような荒っぽい状態で、それをラヴェルがオーケストレーションしました。ラヴェルの良さと、ムソルグスキーの直截的な良さが両方出ています。ラヴェルの作品でもムソルグスキーの作品でもない、2人が合わさったところでできた作品と言えるのではないでしょうか。ラヴェルは素晴らしい作品をたくさん残していますが、こうしたガツガツした書き方はあまりしません。曲の強さに対して、オーケストラのさまざまなアイディアが入っています。オーケストレーションという点では、ラヴェルはリヒャルト・シュトラウスと並ぶ、ナンバーワンではないでしょうか。この曲はそうしたラヴェルのオーケストレーションの良さが前面に出ています」
(久石)「解剖学者の養老孟司先生は『絵を見て曲を書く人の気持ちがわからない』とおっしゃっていました。それは作曲家としてよくわかります。全く違う経路ですから。ムソルグスキーが友人の描いた絵にインスパイアされて書いた曲であると言われていますが、絵が素晴らしくて書いたかどうかははっきりしていません。もしかすると、むしろ友情やその人との関係があって書きたいという気持ちになったのかもしれない。かなり強い友情を持っていて、当時自分が書きたかった音楽と少し近いものがあってピアノ曲として残した、ということではないかと思います。そういう意味では、作品として完成されたピアノ曲というより、少しごつごつさせている所があり、それが作品の力にもなっています。ラヴェルの高度なオーケストレーションのテクニックに加わって、それぞれ一人ではできない、ちょうど2人が合わさった別の地点に作品として昇華された曲だと思います」
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲について
「この曲は、『海』『夜想曲』などと並び、ドビュッシー自身がオーケストレーションを行った数少ない曲のひとつです。ドビュッシーはラヴェルに比べるとオーケストレーションが上手くないので、バランスなどを指揮者が少し作りこむ必要があります。一方ラヴェルの楽曲はその必要がありません。オーケストレーションの達人ですから。ただ誤解しないでいただきたいのですが、オーケストレーションの達人、音楽をよく知っている人がよい音楽を書くかというと、必ずしもそうとは言えません。職人技のラヴェルの凄さはありますが、ドビュッシーが音楽史に与えた影響は圧倒的に大きい。オーケストレーションに多少難があったとしても、牧神の午後への前奏曲はフランス音楽の中でもっとも重要な作品のひとつであると私は思っています」
出典:新日本フィルハーモニー交響楽団|作曲家・久石譲が語る ~
https://www.njp.or.jp/magazine/27022?utm_source=facebook&utm_medium=social&fbclid=IwAR0-iIJIvYX3_O_0u5_orObMh9aUu3x1T8OPyYktQ_il5UOkXBhK-wcd2fQ
公演詳細もふくめて上記公式サイトをご確認ください。
公式サイトによるテキスト化、こまやかにうれしいです。インタビュー動画5:30-6:30、8:30-endはテキストになっていません。とても興味深い内容でしたので、要約するかたちで補完します。
「ラヴェルはピアノ曲でも精密なハーモニー。要するに、ざっくり言うとフランス人の作曲家は響きが重要。その響きを重要視する音楽のあり方というのがドイツとは全く違う。その違う流れってけっこうそのまま来てて。例えば、ドイツ流のやり方がそのまま現代音楽に来るかというと意外に違う。ウェーベルンとか新古典主義でつくってきてるものと、それから同じウェーベルンの影響を受けたとはいえブーレーズやなんかのフランス流のやり方って全然ちがう。音色がちがう。その起点になるのはたぶんドビュッシー。現代にまで通じる音楽になっている気がする。」
「指揮者みたいこのプログラム(笑)。作曲家だから自分の作品が一つでも入っていると指揮していいかなんて思うけど、一曲も入ってないと、おまえ指揮者でもないのに何やってんだ、って自分で思う。でもいいプログラム(笑)。」
「自分の作品入れてクラシックやると、現代的なアプローチ、例えばミニマル的なリズムに厳しいアプローチをしたままクラシックに行くいい作用がある。」
「『人生のメリーゴーランド』でもワルツでも、フランスのオケがやると違う。やっぱり色気がある。日本はまじめ。譜面に書いてないのになんでこんなに違うのって話になる。だけどこの部分がフランス音楽やるときにはいる。それをどうやって出させるかを考える。縦(リズム)を合わせる音程を合わせることじゃない、合わなくてもいいから自発的にやる方法を考えたほうがいいのかもしれない。むずかしいね。フランス音楽は重点が少し上がってくる、そういうものをどうやってやるのか興味がある。まじめなんだけど羽目外してもうワントライするような方向、それがやれるといいなという気がしている。」
(動画より書き起こし)