Posted on 2025/12/29
2025年12月26,27日「久石譲×日本センチュリー交響楽団 特別演奏会「第九」」が開催されました。今年4月から日本センチュリー交響楽団音楽監督に就任した久石譲のジルベスターコンサート的!年末の特別なひとときです。
今回ご紹介するのは、初めてコンサート・レポートを届けてくれた今夏からもう4回目のthuruさんです。コンサートを楽しむための予習から、余すところなく感じとったものまでが詰まっています。スコアを読める人だからこその鋭い気づきと分析の宝庫です。ぜひお楽しみください。
久石譲×日本センチュリー交響楽団 特別演奏会「第九」
[公演期間] 
2025/12/26,27
[公演回数]
2公演
大阪・フェスティバルホール
[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:日本センチュリー交響楽団
ソリスト:森麻季(ソプラノ) 山下 裕賀(アルト) 山本 耕平(テノール) 山下 浩司(バリトン)
合 唱 :日本センチュリー合唱団
オルガン:室住 素子 ※
[曲目]
久石譲:Orbis ~混声合唱、オルガンとオーケストラのための~ ※
—-intermission—-
ベートーヴェン : 交響曲 第9番 ニ短調 Op. 125「合唱付き」
—-encore—-
White Night (for Chorus and Orchestra)
[参考作品]

今回は日本センチュリー交響楽団第九特別演奏会の12月27日の様子をレポートさせていただきます。
今年は夏の3大コンサートなど日本での公演数が25回と海外公演の22回を上回る珍しい年となりました。そんな年を締めくくる最後の公演です。
会場の大阪フェスティバルホールは改装され赤を基調としたモダンでゴージャスの内装となっており美しかったです。ホール内には、限定久石ラベルの獺祭特別販売や新シーズンラインナップなども設置されていました。
曲目のOrbisと第九はセットで演奏されることが多いですが、意外にも2018年以来です。コンサートパンフレットには各楽曲の解説と、Orbis全楽章の歌詞(ラテン語、日本語)が掲載されていました。
久石譲:Orbis for Chorus, Organ and Orchestra
ラテン語で”環”や”繋がり”を意味するこの曲は元々はサントリー一万人の第九のために書かれたオリジナル曲です。そのため合唱も入る第九とたびたび一緒に演奏されてきました。2007年作曲のものですが2015年に組曲として三楽章からなる新版となっており、自分は今回初めて聞きました。
いつものように対向配置で、合唱が入るため打楽器は右端のほうに集中していました。スネアを担当する方のみ指揮台の前に配置されていました。今年の定期のボレロのような感じです。金管はティンパニを挟んでTrp,Hrnが左側、Trb,Tubが右側に配置されていました。指揮台より左側への指示出しが多かったように感じました。
第1楽章:Orbis~環
主に合唱とオルガンが中心の3/4拍子の部分とオーケストラによる11/8拍子によって構成されています。合唱部の歌詞は、第九と同じようにいくつかの単語からなっています。
OrbisもそうですしLinksやDeparturesの中間部、坂の上の雲より日本海海戦など2000年代後半から2010年代前半における久石リズムというのはこういった変拍子や独特なリズムがよくみられます。
メロディフォニー版から小さな変化が2つ。1つ目はチューブラーベルのパート譜です。具体的な箇所としては、スコアでいうと81小節目。11/8になる前のオルガンの六連符のさらに前のテノール(Fl,Picc,Ob,Ca,Hrn,Vla)によるアクセントの「Or-bis!」の部分が同じように演奏されていました。188小節目からも同じような再現部がありますがここはスコアに“Tub.Bells”と明記されています。いつもスコアを読み込んでいるからこそ気付いた本当に小さな変化です笑。スコア持っていない方、言語化が下手で申し訳ございません。
小さな変化の2つ目はテンポです。メロディフォニー版より遅めのテンポで始まりました。およそ10分の曲中で2度11/8になる箇所がありますが1回より2回目のほうが早くなっていました。意図されたアップテンポなのか、演奏で盛り上がっている中でのアップテンポなのかどちらかはわかりませんが、どちらにせよ聞く側としてもとても世界観が良くわかる、ノっていける演奏でした。出版スコアでは1回目も2回目もどちらも同じテンポ設定となっています。
少しスコアからしかわからない話をしますね。合唱部は全体通してソプラノ・テノールとアルト・バスがそれぞれ同じリズムで歌っています。途中でアルト、テノール間で半拍ズレていたりとオーケストラのみならず合唱にも難しいことを求めている作品です。オーケストラのほうは言わずもがな。なんだこれはとしか言えません。とんでもない数の16分音符です。果てしない数の音符からなるOrbis。生演奏でしかわからない気づきだだらけでした。
ここからの第2楽章と第3楽章は、音源もなく本当に初聞きだったので内容は薄くなってしまいます。すいません、、、
第2楽章: Dum fata sinunt ~運命が許す間は
「(第1楽章の作曲から)約8年を経ての作曲はスタイルも変化していて多少戸惑ったのだが、ラテン語の言諺で、”運命が許す間は(あなたたちは)幸せに生きるがよい。(私たちは)生きている間、生きようではないか”という言葉に出会い第2楽章を完成することができた。」(コンサートパンフレットより)
最初に思ったのは、この曲久石さんっぽくないな、ということです。作風が変化している中でOrbisに続く曲を作るという事で新しい試みだったんじゃないかなと思います。全体の雰囲気は教会のミサ音楽のようで、バッハのフーガのような感じもしました。
3拍子の短調で8分音符のオルガン伴奏から始まります。テンポはAndantino(4分音符=78)くらいだった気がします。オルガン、ストリングス、チューブラーベル、合唱の構成で管楽器の出番はありませんでした。ストリングスはヴィオラ、チェロ、コントラバスが和声を担当し、オルガン→2ndヴァイオリン→1stヴァイオリンの順を何周もするような形で同じ伴奏を繰り返していました。途中よりヴァイオリンの伴奏がトレモロになるなどミニマル的な要素ももちろん入り込んでいました。合唱は第1楽章とは異なり長い詩が歌詞となっているメロディーが中心の美しい旋律でした。女声メロディー→男声メロディー→同一単語を2度繰り返す、の連続です。
「運命が許す間は 幸せに生きるがよい 生きている間、生きようではないか 時は逃げる 時は逃げる」
歌詞より抜粋です。本当はラテン語ですが、少しでも伝わるように日本語訳を載せました。こんな感じで詩の後に2回何か言葉が繰り返されます。この繰り返す部分がユニゾンでした。リズムはナウシカレクイエムとほぼ一緒だったように記憶しています。一番スコアが気になる楽章です。
第3楽章: Mundus et Victoria ~世界と勝利
第2楽章からほぼ途切れることなく始まりました。一貫して11/8の第3楽章です。第3楽章の中でも曲調的に3つに分かれているような曲でした。常に合唱がメインのこの楽章は今までの久石さんの楽曲の要素を詰め合わせたような曲でした。
Part1,金管のファンファーレから始まります。弦楽器はポニョの浦の町のような雰囲気でした。合唱は第1楽章と第2楽章の間くらいの単語だけではないけど文章でもないくらいの言葉を歌っていました。イメージは第1楽章に近かったです。
Part2,ここではOrbisのメロディーが再現されていました。調を変えて少し変奏曲のような感じでした。途中から金管のファンファーレ、合唱はタタリ神の咆哮のような合唱も加わりました。
Part3,ヴィオラ、チェロのメロディーから始まります。僕の好きな系統のやつです。ちょっとXparkっぽさもあったでしょうか。Part2からたびたび出てくる金管のファンファーレがだんだん大きくなり盛り上がってアクセントのユニゾンで終わります。DA・MA・SHI・Eのラスト30秒のような盛り上がりでした。
第3楽章は全体通して一言でいうと長調でめちゃくちゃ明るい「Beyond the World」です。
久石さんが以前、1つのコンサートで自作と他の作曲家の曲をやるときは自作よりも他作を優先する。とおっしゃっていました。今回、自分も同じで第九ばかり勉強してあまりOrbisのほうに手が回せませんでした。今となってはすごく後悔していますが、新しい感覚で聞けてすごく満足しています。本当に度肝を抜かれました。素晴らしい演奏でした!
Orbisだけでもこんなに長くなってしまいました。うまく言語化できておらず、伝わりにくいかもしれませんが少しでもなんとなくわかれば幸いです。
―休憩―
ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱付き」
日本ではこの正月によく演奏される、一年を締めくくるこの曲は実に7年ぶりの披露となりました。今回この演奏会に行けるとわかったときから、時間があれば第九の勉強をしてきました。今回の教材は3つ。音源(FOC)、スコア、著書です。久石さん曰く、第九は“無駄をそぎ落とした完璧なスコア”だそうで、自分も勉強をしていく中でたくさんの気づきがありました。また、腕時計をはめて演奏時間も測ってみました。(ちゃんと演奏のほうに大集中しています)タイムは最後に発表します。
※ここからの解説はスコアを確認しながらのほうが120倍わかりやすいです。動画共有サイトやIMSLPなどにのっているので確認してみてください。申し訳ありません、、、
第1楽章:Allegro ma non troppo, un poco maestoso
2ndヴァイオリン、チェロの6連符から始まります。スコアに着目すればするほどベートーヴェンのすごさがどんどんわかってきます。ニ短調ですが数小節、調性が決定されないようにベートーヴェンによって仕掛けられています。小節数でいうと最初のおよそ20小節です。空虚5度というものが使われています。最初に何とも言えない雰囲気にもっていかれる原因です。最初、1stヴァイオリンが「ミラ ラミ」という感じで下がっていくんですがこの2つ目の4分音符がすごい伸びていました。テヌートくらいですかね。音源よりも全体的に解釈が新しくなっている印象でした。
第2楽章:Molto vivace
僕の1番好きな楽章です。解釈関係なく元のテンポ設定が速くてスコアでもついていくのが難しいこの楽章。久石さんはベーレンライター版で二楽章のリピートはすべてやります。「タンタタン,タンタタン,タンタタン」フォルテッシモの轟音で始まります。が、最初は少し抑えめでだんだん大きくなるように調節されていました。中間部のチェロの流れるような旋律は本当に美しいです。久石さんの指揮にのせてどんどん盛り上がっていきました。
第3楽章:Adagio molto e cantabile
木管の旋律から始まります。本当に美しい。その言葉に限る楽章です。ここで寝ちゃう方、まだまだです。見どころ満載ですよ。弦楽器のピチカート、ファゴット、ホルンのソロなど要所に見どころがあります。ホルンのソロ、本当に素晴らしかったです。めちゃくちゃうまい。ホールに響き渡る残響もちょうどよく耳に届いてとても聞きやすかったです。ホールの良さかな?
第4楽章:Finale, Presto(S,森麻季 A,山下裕賀 T,山本耕平 B,山下浩司)
嵐のような轟音を響かせスタートします。チェロとコントラバスのソロです。第1楽章から第3楽章を振り返り、それを否定する形です。途中では歓喜の歌のメロディーも登場します。ふたたび轟音が鳴ったかと思えばバリトンのソロです。マイクも使わずにホール全体に響き渡る声量は本当にすごいです。テノールのソロも同様で男性でもあそこまで高い声を響かせるのは本当に脱帽です!合唱も素晴らしかったです。一般募集の臨時団員も参加していたそうですがそれも全く感じさせない歌声でした。alla marciaでは跳ねるように楽しそうに指揮をされていました。最後の100小節ほどのからの「シラ」(名前でいうとPoco allegro stringendo il tempo, sempre più allegro)のところからは観客の皆さんがスゥーともうクライマックスが来る!と言わんばかりの音にならない深呼吸をしていました。自分もその中の1人です。大団円完璧に決まりました。ちょっと拍手早い人何人かいたかな??それでも本当に素晴らしい演奏でした。
第九全楽章通して変わらないことはいくつかありました。まずは左手の指揮が効いていたことです。左手での指示出しが露骨に演奏に反映されていて、久石さんがやりたかったことは伝わっていたんじゃないかなと思います。そしてもう一つ。音源(FOC)とは表現が変わっていることです。全体的にタメが多く、ここだ!というところで一発ドカンとくる印象でした。(特に第1、2楽章)
今回の演奏時間を発表します。カウント開始は久石さんが1拍目をとった13時55分25秒(推定)です。今回の演奏時間は63分でした。音源から数分伸びています。しかしこの伸びた時間は決して久石さんの個性が薄れたとかではなく、今年1年日本センチュリー交響楽団とベートーヴェンの交響曲を通していく中での新しい気づき、解釈、試みだったんじゃないかなと思います。素晴らしい演奏でした!!!
―Encore―
久石譲:White Night (for Chorus and Orchestra)編曲:宮野幸子
まさかの曲です。まず第九にアンコールを持ってくるのかと。過去公演ではアンコールなかったですし、やるとしても合唱版World Dreamsかなと思っていたんですが、ピアノストーリーズⅡよりこの曲でした。本当にまさかの選曲。原曲はピアノを中心としたものですがそれを合唱に置き換える形となっていました。オーケストラの伴奏も途中でタンバリンやトランペットの軽やかなメロディーなどクリスマス感もある編曲が施されていました。一年間頑張ったねと労わってくれるようなそんな曲でした。リトルキャロルの公式YouTubeに女声のみのヴァージョンがアップロードされています。参考程度に聞いてみてください。
激動の2025年を締めくくる今回のコンサート、足を運べて本当に良かったです。新年の国内最初のコンサートは1月16日の定期演奏会です。ハープコンチェルト行きたいですねー。いや行くしかない。日程が合えば行きます。来年以降は個人的に予定がたくさん入っていてもしかすると一度もコンサートに行けないかもしれないのでそんな気持ちで向かった今回の第九でしたが本当に満足です。久石ファンとしてはやっぱり完全版Orbisすごかったです。もっとたくさんの人に聞いてもらいたい。音源化、映像化、全楽章スコア出版、待ってます!!
長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました♪
2025年12月28日 thuru

オリジナル版Orbisから新版Orbis 第1楽章の微細な変化の気づきもおもしろかったです。第2楽章の深く聴いている様子も、第3楽章の久石譲らしさを浴びている様子も、とても楽しく伝わってきました。
第九も勉強の成果がすごくてただただ脱帽です。スコアや音楽用語がわからなくても雰囲気で伝わってくることもいっぱいある、わかりやすさもまたすごいです。確かに今回の第九は快速感は音源よりも感じなかったかもしれませんね。演奏するたびにアプローチやこだわりも進化していく久石譲指揮を感じるのがコンサートです。
まさか第九コンサートにアンコールがあるなんてびっくりしますよね!今回も最後まで楽しく読ませていただきました。コンサートの翌日にここまでホットで濃厚な感想を届けてくれて感謝です。来年もまた楽しんでいきましょう!
「行った人の数だけ、感想があり感動がある」
「想い書くことで、新しく聴こえる音がある」
コンサートについて語りたいそう願うのは、ほかならぬ私もまた誰かにコンサートや音楽の魅力を教えてもらった一人だからです。
どうぞお楽しみください。
reverb.
ハープコンチェルト行けるといいですね♪







