Info. 2023/09/22 キングズ・シンガーズ「WONDERLAND」CD発売決定!! 久石譲「I was there」収録

Posted on 2023/06/22

キングズ・シンガーズ新録音!
リゲティ生誕100周年記念&委嘱作品集!

男声ア・カペラのレジェンド、キングズ・シンガーズ!リゲティ生誕100周年記念と55年の歴史の中で委嘱した作品を厳選!2022年12月の来日公演でも取り上げた、久石譲の《 I was there 》、木下牧子の《あしたのうた》も収録! “Info. 2023/09/22 キングズ・シンガーズ「WONDERLAND」CD発売決定!! 久石譲「I was there」収録” の続きを読む

Info. 2023/06/18 「久石譲 in ウィーン」(3月開催) グラモフォン「STAGE+」配信決定!! 【6/20 update!!】

Posted on 2023/05/20

2023年3月30日開催「CINEMA:SOUND JOE HISAISHI IN CONCERT」久石譲コンサート(ウィーン)の動画配信が決定しました。この公演は、ウィーン交響楽団との共演でウィーン楽友協会で開催されました。

このたびドイツ・グラモフォン(DG)のオーディオ・ビデオ・ストリーミングサービスである「STAGE+」で放送されます。当初4月15日予定と発表されていましたが、いよいよめでたくです。視聴環境や視聴料金などについては事前にご確認ください。

 

 

2023.06.20 update
アーカイブ動画公開されました。

久石譲:交響曲 第2番
久石譲:【mládí】for Piano and Strings
I. Summer / II. HANA-BI / III. Kid’s Return
久石譲:One Summer’s Day (Pf.solo)
久石譲:交響組曲「もののけ姫」
久石譲:となりのトトロ

収録時間:98分

公式サイト:STAGE+|久石譲 in ウィーンを観る(配信URL)
https://www.stage-plus.com/ja/video/vod_concert_APNM8GRFDPHMASJKBSPJ6CO

公式サイト:STAGE+|久石譲 ウィーンでの演奏会について(配信URL)
https://www.stage-plus.com/ja/video/video_APKM8PBFBSP3GCO

 

先に放送されたLIVE放送よりも4K ULTRAHDフォーマットで高画質になっています。再生チャプターも選択可能です。またLIVE放送時の冒頭収録された久石譲インタビュー(14分/4K ULTRAHD)も合わせて公開されました。

*7日無料お試し期間付き なども有効にご活用ください。インタビューは会員登録のみ(新規登録)で無料視聴できます。コンサートは「無料お試しを利用する」で再生できます。「常時解約可能」となっているので7日間以内に手続きをすれば課金は発生しません。次回からの久石譲コンテンツ(ライブ配信/音楽アルバムストリーミング)などは無料対象外となると思います。

ジョン・ウィリアムズのコンサートもアーカイブされてます。そのなかのウィーンフィル共演はCD/DVD/Blu-ray化、ベルリンフィル共演はWOWOWでも放送されています。久石譲コンサートもパッケージ化やチャンネルの広がりなど期待したいです。グラモフォンとの活動はこれからも継続されると思います。ゆっくり視聴できるタイミングでお楽しみください。

 

クラシックのライブ配信やアルバムも充実しています。現代作曲家ではジョン・ウィリアムズやマックス・リヒターも多数ラインナップされています。また、6/30new『a Symphonic Celebration』の「風立ちぬ」でマンドリンを演奏しているアヴィ・アヴィタルさんもグラモフォン専属アーティストです。アーカイブ動画やアルバムカタログを楽しむことできます。たくさんの音楽広がっていくコンテンツSTAGE+です。たっぷり視聴できる方法でお楽しみください。

 

 

 

Joe Hisaishi Interview

久石譲に聞く IN ウィーン

作曲するときにいつも大事にしているのは、映画の音楽を書くエンターテインメントの音楽を書く、それから作品を書くと、この二つともとても大事にしています。その大事にしているものを一つのコンサートで一緒にやることで、違ったサイドを二つ見てもらう。それがいつもコンセプトにしています。

今回は前半がミニマル・ミュージック、自分はミニマリストなのでそういうミニマル・スタイル同じフレーズをくり返す音楽を主体にした自分の作品。これは約35分かかるシンフォニーです。後半は、北野武監督に書いた映画音楽を僕のピアノとストリングスでやると、そういうものを作りました。それから一番最後にフル・オーケストラで宮崎駿さんの映画『もののけ姫』を交響組曲にしたものを演奏する。という自分にとって一番気に入ったプログラムを作りました。

 

ウィーン学友協会について

コンサートの前日にムジークフェライン(ウィーン学友協会)のホールに行きました。正直言って日本のNHKテレビなどで新年の新春ワルツコンサートをよく見ていましたので、あっここなんだと思いました。すごくきれいないいホールだなとは思いましたが、舞台が意外と狭いのでほんとに狭いんだと、僕の編成は結構大きいから入るのかなってそれをすごく心配しました。一番印象に残ったのは、サイドにある窓ガラスがあってそれが外から光がいっぱい入っていたので、ああこういうふうに作られてるんだっていうホールの感じをすごく感じましたね。二日目になって、ふっと考えたら、この指揮台にあるいはこの楽屋のコンダクターズ・ルーム、あっここにマーラーとかブラームスがきっといたんだな、あるいはここで指揮したんだなとか思ったら、急にああここでクラシック音楽の歴史が作られたんだ、そう思ったときに今自分がここにいることのすごさというか重みをすごく感じました。

 

ウィーン交響楽団の反応

我々僕もやっているクラシック音楽の中心はもともと歴史としてはどうしてもウィーンで作られてきてました。あまり現代的なものに対するアプローチってたくさんされてないと思ったんですね。現実に僕のようなミニマル・ミュージックのスタイルはおそらくやったことがない、実際に彼らも初めてだと言っていました。なのでこれは大変だなと実は思ったんですけれども。いい意味で本当に彼らは一生懸命やってくれて、そしてそのアプローチに一生懸命挑戦してくれました。結果的にいうと、非常に伝統的なものを持っていないと出ない深い大きな音と、僕の音楽が持っているミニマル・ミュージックのような非常に今日的なリズムの音楽、それが良いように作用して。通常ミニマル・ミュージックを演奏しているとわりとパキパキとしたまるで刻んだような音楽になりがちなんですが、そこにとても大きいフレーズで歌うトラディショナルな方法とミニマルが融合して、今まで僕も聴いたことないようなサウンドになったと思います。だからほんとに素晴らしかった。ウィーン交響楽団ほんとに素晴らしいオーケストラです。またぜひやりたいなと思います。

 

オーケストラメンバーとのコミュニケーション

譜面を読んで音楽でコミュニケーションしちゃうから、その段階で例えば、あっこの人たちは初めてなんだなとか、だいたいヨーロッパのオーケストラというのはどことやってもそうなんですけども、例えばこうやってダウンビートしますね、そうするとザァーンぐらいにとても遅く反応する、クラシックなオーケストラほど遅いんです。ミニマル・ミュージックは必ずタンタンとここで音が出ないといけないんですけど、あっもう遅れるなというのがあって、それはもうみんなが気づいててちょっと早くしなきゃいけない、みんながそれぞれ調節していく過程、だから質問やなんかで変なのはないです。

 

交響曲第2番について

交響曲第2番に関しては、コロナが始まって海外コンサートがすべて延期されたので、その分時間ができたとそれでちょうどいい機会だと思ってシンフォニーを書きました。スケッチからだいたいラフなオーケストレーションまで3,4か月で出来たんですね。その後はまたいろいろな映画音楽とか作っていたので、わりと気にしてなかったんです。ただあんまり先になっちゃうと嫌だから、そうですねちょうど1年後ぐらいにいいチャンスがあったのでそこで翌年もう一回最後の仕上げをしたんですけれども、そんなに苦しくはなかったです。あまり気にはしてなかった、待つことがね。この第2番で自分にとって一番重要だったことは、コロナ禍でみんなが動けなくなってしまった、人と人と会うことも出来なくなってた。そうすると僕も例えば作曲はいつも新しいものを書こうと努力します。それはわりと革新的なアイディアだとかわりとそういう曲を書こうとするんですが、その状況下で聴くのが疲れるような、あるいはメッセージ性の強いようなものを書こうとは思わなかったんです。どちらかというとバッハの対位法の音楽といいますかね、バッハのフーガのように、わりと音と音がちゃんと絡んだ音楽といいますか、変なメッセージ性のない非常に音楽的な、音楽だけで完結する世界、そういうものを書きたいとその時思いました。それはかえってコロナ禍であったからこそ思えたので、前衛的であることよりも音の運動性を書こう、それがすごく出来たことはうれしかったです。この第2番は3つの楽章ありますけれども、おそらくこれはそれぞれ独立して例えば序曲のような扱いで3曲まとめて演奏する必要がない、それぞれ独立して演奏してもいいように個別のタイトルを付けました。そう、第3楽章のそれは日本のわらべ唄という子供たちが遊びながら歌うメロディなんですね。それはとてもシンプルなメロディラインなので、これをくり返しあるいは1小節とかズレながらやっていくことでミニマル的なアプローチができるんじゃないかなと思ってそれで作った曲です。それともう一つ、早く出来たんですねあの曲は。なんで、なんかね神様が降りてきて作らせた、そういう感じがします。「かーごめ、かごめ、籠の中の鳥は~」もう非常にどこにでもあるようなフレーズなんですね。特別であったわけではない。ただこれをミニマルとして作るにはちょうどいい、そういうふうに感じました。マーラーの「交響曲第1番」とか演奏したことがあって、やっぱりあの時の第3楽章とかの感覚があって、こういうシンプルなメロディを組み立てていくことがミニマルになるんじゃないかっていう気持ちとか、あるいはヘンリク・グレツキの「交響曲第3番 悲歌の交響曲」やアルヴォ・ペルトだとかね、いろいろな音楽を聴いていて、こういう静かなくり返しのアプローチはいつかやりたいなっというのもありました。

 

北野武の映画音楽について

北野武監督に作った曲をたまたまチェコ・プラハで演奏することがあって、3曲を組み合わせてひとつのコーナーを作ろうと思った。場所がチェコだったんで、チェコ語にちょうど「mládí」という言葉が辞書で引いてたら出てきて「青春」という意味があったので、これが一番ちょうどいいなと思って付けました。

 

交響組曲《もののけ姫》について

『もののけ姫』を交響組曲にする段階で、だいたいストーリーに沿って全体の内容を25~27分の組曲にしたわけですね。もともとその中の「もののけ姫」のテーマ曲、これは映画のために書いた曲なのでそれを必ず入れたい。それから一番最後のシーンで、世界が崩壊していった最後に緑が野原に復活するシーンがあって、これはやっぱり映画のエンディングとして非常にふさわしいし宮崎さんもすごく喜んでくれた。だからそれに書いたメロディをとても自分でも気に入っていたんですが、最終的には歌のメロディになるんじゃないかっていうことで歌にしました。映画にも入っていた曲なので組曲の中でもちゃんと使ったわけですね。

 

(「久石譲 ウィーンでの演奏会について」インタビュー動画より 書き起こし)

 

(up to here, updated on 2023.06.20)

 

 

2023.06.13 update
「アシタカとサン」のライブ動画が先行公開されました。

Joe Hisaishi – Ashitaka and San (from ‘Princess Mononoke’) Live in Vienna

from  Deutsche Grammophon – DG Official

(up to here, updated on 2023.6.13)

 

 

 

収録配信

久石譲 in ウイーン
ウィーン交響楽団

2023年6月18日 3:00

1. 再配信 – 2023年6月18日 9:00

2. 再配信 – 2023年6月18日 20:00

収録時間 120分

 

宮崎駿監督のスタジオジブリ作品をはじめ、100本以上の映画音楽を手がけた久石譲。彼は映画音楽のレジェンドともいうべき存在ですが、もともとはミニマル・ミュージックの旗手として活動を開始しており、ミニマリズムにエレクトロニクス、西洋と日本のクラシックなど、多様なスタイルを融合させ、クラシック音楽でも様々な作品を書いています。本映像では彼の交響曲第2番をはじめ、映画『もののけ姫』の音楽などの代表作が久石本人の指揮、ウィーン交響楽団の演奏でお楽しみ頂けます。

久石譲:交響曲 第2番
久石譲:ピアノと弦楽器のためのムラーディ (Mládí for Piano and Strings)
久石譲:交響組曲《もののけ姫》

 

Joe Hisaishi in Vienna
Wiener Symphoniker

Joe Hisaishi: Symphony No. 2
Joe Hisaishi: Mládí for Piano and Strings
Joe Hisaishi: Symphonic Suite from “Princess Mononoke”

 

公式サイト:STAGE+|久石譲 in ウィーンを観る(配信URL)
https://www.stage-plus.com/ja/video/live_concert_9HKNCPA3DTN66PBIEHFJ6CPJ

WEBページは英語・ドイツ語・日本語に切り替えできます。

 

公式サイト:クラシックの映像&音楽配信「ステージプラス」
https://www.stage-plus.com/ja

 

 

なお、現時点のアナウンスからは、初回放送後に2回の再放送予定となっています。アーカイブでいつでも視聴できるタイプのものなのか否か不明です。できることならまずは6月18日放送を視聴できるようにご予定ご確認ください。

 

 

公演プログラムや公演風景についてはこちらにまとめています。

 

 

 

Info. 2023/07/07,14,21 [TV] 金曜ロードショー 3週連続スタジオジブリ『風の谷のナウシカ』『コクリコ坂から』『もののけ姫』放送

Posted on 2023/06/16

スタジオジブリ最新作公開記念!3週連続 夏はジブリ!! 7月7日『風の谷のナウシカ』/7月14日『コクリコ坂から』/7月21日『もののけ姫』

いよいよ7月14日に公開となる宮﨑駿監督作品『君たちはどう生きるか』。その公開を記念して、この夏3週連続でスタジオジブリ作品を放送! “Info. 2023/07/07,14,21 [TV] 金曜ロードショー 3週連続スタジオジブリ『風の谷のナウシカ』『コクリコ坂から』『もののけ姫』放送” の続きを読む

Info. 2023/06/08 久石譲「A Town with an Ocean View」 (Visualizer) Music Video公開

Posted on 2023/06/08

久石譲オフィシャルYouTubeチャンネルに、新しいミュージックビデオ「A Town with an Ocean View (Visualizer)」が公開されました。

この楽曲は5月19日に先行配信「海の見える街」(映画『魔女の宅急便』より)の新バージョンです。レコーディング風景バージョンのミュージックビデオも同日公開されています。 “Info. 2023/06/08 久石譲「A Town with an Ocean View」 (Visualizer) Music Video公開” の続きを読む

Disc. 久石譲 『I Want to Talk to You』(合唱版/弦楽版) *Unreleased

2021年3月24日 弦楽版 初演
2022年4月30日 合唱版 初演

 

作品について

合唱版
I Want to Talk to You 〜for Piano and Percussion〜
作曲:久石譲
1. I Want to Talk to You 作詞:麻衣、久石譲
2. Cellphone 作詞:久石譲

弦楽版
I Want to Talk to You ~ for string quartet, percussion and strings ~
作曲:久石譲

 

楽曲解説

「I Want to Talk to You」は、2020年5月に山形県山形市で行われる予定だった合唱の祭典コンサートで演奏するために山形県から委嘱されて作曲した。僕の作品としては初めての書き下ろし合唱作品になるはずだったがCovid-19の世界的パンデミックのため何度か順延され、2年後の2022年4月にやっと初演される運びになった。

当初は街を歩いていても、店に入っても電車の中でも人々は携帯電話しか見ていない。人と人とのコミュニケーションが希薄になっていくこの現状に警鐘を鳴らすつもりでこのテーマを選んで作曲したが、その後の人と人との接触を控えるこの状況では、携帯電話がむしろコミュニケーションの重要なツールになった。別の言い方をすると世間という煩わし い人との関係性から逃れる便利なアイテムが最小限の人との接触のアイテムになった。なんとも皮肉なことだが、それだけ携帯電話が人々にとって必須なものになったということだろう。

2019年12月から作曲を開始し、2020年3月に一応の完成を見たが、合唱が行われる状況にはほど遠くしばらく放置せざるを得ないと思ったが、作曲の過程で思いついた弦楽四重奏と弦楽オーケストラの作品にするアイデアが現実味を帯び、2021年3月の日本センチュリー交響楽団とのコンサートで弦楽バージョンとして演奏した。

作詞はいくつかのキーワード、例えば「Talk to you」をコンピューターで検索し関連用語やセンテンスを抜き出し、音のイメージに合う言葉を選んでいった。最終的には1.I want to talk to youは娘の麻衣が詩としてまとめ、2. Cellphoneは僕がまとめた。約20分の作品になり、小合唱グループと大合唱グループ、それに2台のピアノとパーカッションという編成となった。

作品としてはこれで完成しているが、僕としては日本語で聞きたいと思っている。つまり日本語バージョンであり、そこには弦楽オーケストラが演奏していることも想定できる。山形の皆さんにはこれが終わりではなく、これからも機会があるたびに進化していくこの 作品を聞いていっていただきたいと思っている。

2022年3月31日 久石譲

(2022年3月 山形・やまぎん県⺠ホール「合唱の祭典」プログラムノートより)

 

 

プログラム歴

合唱版
2022年4月 「合唱の祭典」(山形) *初演
2022年10月 「リトルキャロル26周年コンサート」(東京)**映像

2021年3月 日本センチュリー交響楽団(大阪)*初演 **映像
2021年7月 Future Orchestra Classics(東京、長野)**映像
2023年4月 シンガポール交響楽団(シンガポール)

 

 

 

『I Want to Talk to You』作品についてはまとめている。上記演奏会の詳細やコンサート・レポート、ライブ動画の紹介もしている。

 

合唱版を聴く機会に恵まれず、このたび2023年5月に公開されたライブ動画によって全貌に触れることができた。本来であれば作品レビューとしてDisc.ひとつにまとめたいところだが分けることにした。合唱版と弦楽版を比較しながらその魅力に迫りたいと新しいページに記した。それぞれの映像と音源は下を参考にしている。

初めてこの作品に触れる人にはとても親切じゃないレビューになっている。そこは映像や音源を何回も聴くことをおすすめする。また上記Discページにリンクのある初めて聴いたときのコンサート・レポートなどで入口の感想に触れてほしい。

 

 

 

 

I Want to Talk to You 合唱版/弦楽版 について

『I Want to Talk to You』は2楽章からなる約25分の作品。そのうち「I. I Want to Talk to You」は合唱版のちに弦楽版の二つが存在する。「II.Cellphone」は現時点において合唱版のみが存在する。

I. I Want to Talk to You
楽曲の骨格(全体構成、時間)はほぼ同じになっている。

楽器編成について
合唱版:小合唱(女声、男声ソリスト2人)、大合唱(女声、男声)、ピアノ2台、ビブラフォン、グランカッサ(大太鼓)

弦楽版:弦楽四重奏、弦楽合奏、ビブラフォン、マリンバ、グランカッサ(大太鼓)*弦楽版は弦10-12型を規模とし弦楽四重奏は立奏(チェロ除く)

ここからライブ動画の映像と音源で比較していくと、まずとても大きな枠組みで言うと、小合唱(女声)=弦楽四重奏(第1,第2ヴァイオリン)、小合唱(男声ソリスト2人)=弦楽四重奏(ヴィオラ、チェロ)、大合唱(女声)=弦楽合奏(第1,第2ヴァイオリン)、大合唱(男声)=弦楽合奏(チェロ、コントラバス)と同じパートを受け持っているようにみえる。ヴィオラ合奏は大合唱(女声or男声)どのパートに属しているのか、または時々で役割を行き来しているのかくっきり判別できるほどはわからなかった。

この全体的な見取図からしても楽曲の骨格はほぼ同じと言える。しかし、実際にはもっと緻密に声部の配置替えがされているように思う。男声ソリスト2人=弦楽四重奏のヴィオラ・チェロとするなら、楽曲開始3分半くらいからしかソリストは登場しない。合唱版ではそうだが弦楽版ではその前すでに弦楽四重奏の第1,第2ヴァイオリンの奏しているときに色合いを追加するように一緒に奏している。楽曲開始から2分あたりまでの弦楽四重奏パートは小合唱(女声)が歌い分けている、という感じになっている。

ピアノ2台は、合唱版では至難な16分音符の細かい動きを加味し、弦楽版では同じフレーズではないが16音符の粒の細かさは弦楽器が発揮している。また舞台配置から見て2台ピアノはそれぞれ大合唱(女声、男声)の音程を支えている役割もあるのかもしれない。ビブラフォンは特殊奏法含めて共通だが、弦楽版は後半マリンバに移行している。これにもいくつかの理由がありそうだ。ひとつは、合唱版の音像の豊かさ(混声)と対比して同系の音像に統一される弦楽版に色彩を加える効果。もうひとつは、弦楽版にはピアノがないのでピアノ的なアタックの強いパートを加える効果。特に転調時の瞬間的にハーモニーを切り替えるピアノとマリンバの役割は大きい。そう解釈した。

ここまで、楽器編成を起点に映像と音源を確認しただけでも、2つの作品には独立性がある。同じスコアを使って楽器や声のパートをただスライドさせたのとは違う、合唱のための/弦楽のための作品として堂々たる姉妹作品になっている。

合唱版の効果
歌詞をもった作品であるということ。言葉が旋律にのる、グループの大小・高低のバリエーションで迫ってくる。それだけでもう充分なアイデンティティを持った楽曲である。人の声にはそれぞれの声質・表情がある。ゆえにソリストもそれぞれの性格を持ったものとして声部も浮かびあがってくるし、大合唱も女声と男声とでくっきり分かれた音像になる。ドラマティックという表現が曖昧になるなら、合唱版は劇的、生身の音(声)としてのリアリティがある。

躍動するパートの転調による切り替わりが曖昧だとも感じた。かなり近いキーの転調なので声だとすぱっと頭から安定した音程が出にくいのか、基音となっている声部がたまたま映像からは聴こえにくかったのか。転調で一瞬にしてトーンが変化する持ち味もあるこの作品、弦楽のほうが切り替わりが明瞭に感じた。もちろん微細に移り変わっていく転調箇所もあるのだが。

弦楽版の効果
合唱版に比べて単色である、とは言いたくないけれど、弦楽器で覆われた統一感がある。また合唱に比べても強いアクセントを与えることができる。鋭く刻む弦は中間部で展開するところなど聴きどころになっている。ピアノ箇所でも書いたが、合唱は8分音符まで、弦楽器ではより細かい16分音符の躍動を与えることができる。弦楽四重奏パートでもメロディがズレて奏される妙、あるいはメロディを受け渡したり少し重なったりで奏される妙。男声ソリストだと各単独で聴こえるところも、弦楽四重奏は一体感で溶け合っている。スタイリッシュという表現が曖昧になるなら、弦楽版は多重奏、耳を研ぎ澄ませる機微がある。

合唱版/弦楽版の融合(可能性)
久石譲の楽曲解説にこうある。「作品としてはこれで完成しているが、僕としては日本語で聞きたいと思っている。つまり日本語バージョンであり、そこには弦楽オーケストラが演奏していることも想定できる。」

いま2つの作品をようやく聴くことができて、そうかもしれないと思った。単純に合体できそうな気もするなというのが最初の印象だ。でも聴き続けていくうちに、どうだろう?と思いだした。合体したらごちゃごちゃになるんじゃないかと。そんな勝手な素人不安は気にしなくていいこと。キーファクターになっているのは「日本語で」じゃないだろうか。日本語にするなら音符ひとつに言葉ひとつの手法をとるだろうからかなり言数が減ると想像できる。楽曲はじまりの「I Want to Talk to You」(仮に言数14つ)を歌うのに音符7つ、日本語にしたら7つきれにはまる言葉を選ぶだろう。そうすると旋律的にも言葉的にも動きが減る、メロディを紡いでいく抑揚や高揚のようなものが減る。動的な動きの補助や合唱とユニゾンさせ厚み的な補助を弦楽が担う、、、そうなるともうそれはクラシックでいう合唱編成したオーケストラ作品と同じ密度高い構築物になっていく、、、第九やカルミナ・ブラーナのように。合唱版では歌詞をともなわないスキャットでハーモニーやリズムを担っているパートもある。融合版のときには、歌われる言葉、多重奏、合唱と弦楽とで役割が分担されたり補完しあったりするのかもしれない。ここでは「I. I Want to Talk to You」に関してのみ記したので「II. Cellphone」のところでもっと可能性は膨張していくことになる。

 

 

II. Cellphone
合唱版のみが存在するかたちになっている。楽曲レビューと融合版への可能性について記していく。

楽器編成について
合唱版:小合唱(女声、男声ソリスト2人)、大合唱(女声、男声)、ピアノ2台、グロッケンシュピール、ドラムセット、タブラ

「I. I Want to Talk to You」に比べて小合唱と大合唱の独立した役割が判別できなかった。それは弦楽版として聴き分けれていたものがあるか否かの経験もあるのかもしれない。

楽曲について
音楽は前楽章と切れ目なく演奏される。冒頭いろいろな着信音が舞台設置スピーカーから会場中に鳴り響く。団員たちはどこで鳴っているのと互いをきょろきょろ見合う。そして一斉に口元に人差し指を立て、静かにのポーズをとると着信音は一旦鳴りやむ。が、また違う種類の着信音たちが鳴り始める。止める。そのやり取りを数度繰り返すうち客席からは笑いも起こる。といった演出が1分間ほど続いたあと楽器は始まる。

スネアとピアノによるリズミックなイントロのあと歌が始まる。歌詞は「Cellphone」という単語を基調にくり返される。バックに鳴るピアノやグロッケンシュピールの速いパッセージの粒たちはまるで着信音を模しているようにもとれる。その一方で、ドラムセットを使ったパーカッション群、団員たちは足の踏み鳴らしや手で太股あたりを叩いてリズムを刻むボディーパーカッション、そこへハンドクラップも加わりとても大地的な躍動感を感じる。視覚的にも迫力が伝わりやすくおもしろい。ここでひとつイマジネーションを広げてみる。前者のピアノやグロッケンシュピールが着信音とするならば、後者の打楽器やボディーパーカッションは原始的コミュニケーションともとれるのではないか。なんとも風刺が効いているとは個人の解釈だ。

けたたましく鳴るピアノとグロッケンシュピールに幾重にもスキャットするパートなどは、電波の混線やコミュニケーションの飽和、ボーダレスの膨らみを感じさせる。それを経て、「Hello」「Good Morning」「Good Evening」「チャオ」「ニーハオ」など世界のあいさつ語が一斉に交錯する。声部ごとにジェスチャーを伴いながら各あいさつ語を発する。そのうちの「チャオ」「ニーハオ」は大合唱(女声)が担っていたが、大合唱(男声)のあいさつ語を聴きとることができなかった。

その後展開部に入り、「I. I Want to Talk to You」のハーモニーが導入される。雰囲気でそうかなと気づける印象かもしれない。その土台のうえに「I want to touch you」「I want to see you other time」と歌いだされる。リアルに触れたい会いたいというメッセージは、体全身を使ったボディーパーカッションやボディーランゲージの演出を経てきた今、切実に迫ってくるようだ。声だけじゃない、人の身振り手振り表情から伝わることも多いのだ。そうしてはっきり前楽章「I Want to Talk to You」と同じ旋律と歌詞が登場してくることになる。私はあなたと話したいから、私はあなたと対面して話したいへの強い変化が込められているように思う。終盤は、「Cellphone」の反復とボディーパーカッションとドラムとで力強く歌いあげられる。締まった!

、、と思ったら、会場からも拍手が起こり出すなか、間髪入れずに着信音が鳴り響き男声ソリストが応答し会話を始めてしまう。スピーカーもヘッドセットマイクもあるので拍手にかき消されて着信音に気づかないということはないし、会話も明瞭に聞こえる演出になっている。そして歩きスマホしながら舞台袖にはけていく。つづけてもう一人の男声ソリストも同じように着信に応答し会話しながら退場していく。それを見ていた残された団員たちは一斉にはぁっとため息交じりに大きく肩を落とす。この演出までで作品は終演となる。当公演においてはこのような演出だったが、別公演(山形)では指揮者がそうだったようで演出パターンはバリエーションを持っているようだ。会話の内容も決まった設定ではない、公演ごとに新鮮でタイムリーなものが考案されているのだと思う。そこには一気に日常生活感に引き戻させるシークエンスが必要だと言いたげに。大きなメッセージを帯びた楽曲の直後に起こる下世話さ、その風刺までを作品に内包させているような気がする。

合唱版/弦楽版の融合(可能性)
久石譲の楽曲解説にこうある。「作品としてはこれで完成しているが、僕としては日本語で聞きたいと思っている。つまり日本語バージョンであり、そこには弦楽オーケストラが演奏していることも想定できる。」

いま2つの作品をようやく聴くことができて、疑問も生まれる。久石譲はどこまでを指して言ったのだろうか。「I. I Want to Talk to You」についての構想なのか、全2楽章をふまえた構想なのか。だから、ここから書くことは根拠をもった可能性ではない、個人の願望でしかない。

創作時の久石譲の警鐘と、別軸で起こった実社会でのパンデミック、考えさせられる文明の表裏一体。込められた風刺と込められた希望、ツールに侵されることとツールを豊かに使いこなすこと。もし現代社会や世界の中でこの作品を考えるなら、それはもう管弦楽作品に昇華してほしいというひとつの願望にたどり着く。『THE EAST LAND SYMPHONY』(交響曲第1番に相する)にも風刺の効いた楽章が歌詞とともに盛り込まれてもいる。

第九プログラムと並列させてはどうだろうとも想像した。歌詞と旋律をはっきりと持たせたソプラノからバスまでのソリスト4人に合唱と管弦楽、そういった発展もあるのではないか。現時点では小合唱グループ(女声・男声ソリスト)はともに歌詞をのせる役割と器楽的な役割とその両方を果たしている。だから今のままで第九第4楽章のような作品構成にできる話でもない。それはわかっているつもり、でも魅力的な可能性だとは感じてしまう。

合唱版の全2楽章を聴きながら、久石譲が本格的にオペラを書いたらこんな感じになるのかなと思うところもあった。ミュージカルではないから団員による演出のことを言っているわけではない。オペラは役者のような演技はしない。台詞・歌・演技が同居しているのがミュージカルだ。高らかに歌いあげる独唱、かけあうソリストたち、そこに広がる合唱たち、そして管弦楽。久石譲はこの作品『I Want to Talk to You』のあと『I was there』という合唱作品第2弾も発表している。今後、合唱作品が増えていくという予測よりも、将来的なオペラ作品へいくための布石となってくる、そんな作品群と位置づけられるのかもしれないと想像している。

 

最後に、ひとつの願望は「I Want to Talk to you ~ for Vocalists, Chorus and Orchestra」に結ばれる。ソリストと合唱をもった管弦楽作品として聴いてみたい。あるいは合唱と管弦楽そう『Orbis』などのように。もちろん合唱版/弦楽版の融合でもいいけれど。今回2023年5月に合唱版の全貌を聴くことができた。これを予習としてWDO2023でバージョンアップという伏線的な未来予想図はないだろうか。今年の交響組曲は『崖の上のポニョ』とある。そこへもし合唱が編成されるのなら。ソリストはいないが『The End of the World』のようにオーケストラと合唱で高らかに響きわたるこの作品を、いつか聴いてみたい。

 

 

Info. 2023/05/26 中国映画『川流不“熄”(A Summer Trip)』音楽:久石譲 中国公開 【5/26 update!!】

Posted on 2021/03/03

中国映画『川流不“熄”(A Summer Trip)』の音楽を担当しました。

中国映画『川流不“熄”』
(英題:A Summer Trip / 邦題:A SUMMER TRIP ~僕とじいじ、1300キロの旅)

中国公開:2021年7月(予定)
監督:フォン・クーユー(FENG Keyu)
出演:ヤン・シンミン、フー・チャンリン、トゥ・ソンイェン、ダイ・ロロ、ヤン・トンス “Info. 2023/05/26 中国映画『川流不“熄”(A Summer Trip)』音楽:久石譲 中国公開 【5/26 update!!】” の続きを読む

Overtone.第93回 メロディの圧縮?増殖?

Posted on 2023/05/20

ふらいすとーんです。

今回は難しいところから易しいところへ、わかりにくいところからわかりやすいところへ、少しずつほぐしていけたら。ゆっくりタイムにでも読んでください。ときにリスナーには努力が求められます。どうぞ耐え抜いてお付き合いください。きっと、そういうことね!と言葉と音楽が結びつくとそう願っています。

 

2020年2月開催「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.2」コンサートです。プログラムからアルヴォ・ペルト作品です。楽曲解説はこうあります。

 

アルヴォ・ペルト:フェスティーナ・レンテ ~弦楽合奏とハープのための
Arvo Pärt:Festina lente for string orchestra and harp

1986年作曲の「フェスティーナ・レンテ」は、ローマ帝国の創始者である初代皇帝アウグストゥスも使った矛盾語法の「ゆっくり急げ」から着想したものである。このタイトルは構成だけでなく形式についても暗示している。作品は第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリン、ヴィオラ、そしてチェロとコントラバスの3つのグループからなるカノン様式で構成され、メロディは全員同時にしかし3つの異なるテンポで演奏される。最も速いメロディは7回繰り返され、短いコーダを経て音楽は静寂の中へと消えていく。

Blog. 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.2」 コンサート・レポート より抜粋)

 

そのときのレビューです。

アルヴォ・ペルト:フェスティーナ・レンテ ~弦楽合奏とハープのための

静謐なこの作品は、曲目解説にもそのコンセプトが紹介されています。さらにわかりやすく言うと、ひとつのメロディがあって、例えば第1ヴァイオリン・第2ヴァイオリンは4分音符で演奏します。ヴィオラはその2倍の長さ2分音符で演奏します。チェロ・コントラバスはさらにその倍の全音符で演奏します。この3つのパートが同時に演奏されて進んでいきますが、例えば4部音符でメロディを奏でるのに2小節あったとして、2分音符であればその倍4小節かかります、全音符であれば8小節かかります。すごく簡単にいうと。異なる対旋律はなく、ひとつのメロディの音符長さのズレだけで、自然的にハーモニーや大きなリズムが生まれる、そんな作品だと解釈しています。こういったところにアルヴォ・ペルト作品のおもしろさ、そして久石譲が創作において共感しているところがあるのだろうと思います。チェロやコントラバス、ハープといった楽器を座って固定しないといけないものを除いて、この作品でも立奏です。

Blog. 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.2」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

今ならコンサート特別配信されています。

 

JOE HISAISHI FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.2 全曲特別配信! Special Online Distribution

アルヴォ・ペルト:フェスティーナ・レンテ ~弦楽合奏とハープのための
久石譲:The Border 〜Concerto for 3 Horns and Orchestra〜
ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調 作品68
ブラームス:ハンガリー舞曲 第4番 嬰ハ短調

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

 

2022年3月4日開催「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第262回 定期演奏会」でも、同作品はプログラムされています。

 

これ以上ここで言葉を尽くしても難しいので先に進みます。でも、最後まで読んだあとにまたここに戻ってきてください。今ならちょっとわかる!そうなるとうれしいです。

 

 

今回のテーマは、メロディの《圧縮》《増殖》についてです。近年の久石譲作品の楽曲解説、および久石譲が取り上げる現代作品の楽曲解説に、たびたび登場する言葉です。ということは、同じく音楽的な手法も共通しているものがあるということになります。アルヴォ・ペルト、フィリップ・グラス、デヴィッド・ラング、そして久石譲。ここでは2020年以降の久石譲作品から見ていきます。

 

と、その前に、やっぱり言葉だけだと難しくって読むの諦めますね、読み飛ばしたくなりますね、譜面といっしょに図解しようとがんばります。

 

図1

上の図は、同じ音型を使って音符の長さごとに繰り返しています。???

 

図2

赤丸ひとつの音型です。

ここに《圧縮》《増殖》の両方があります。

8分音符を軸にしてみましょう。音型をモチーフとします。モチーフを1回奏でるのに1小節です。これを《圧縮》つまり16音符の長さに縮めると1小節に2回奏でることができます。逆にこれを4分音符の長さに伸ばすと1小節では0.5回、2小節に1回奏でることができます。もっと引き伸ばすと2分音符は、、というようになります。そして、上の譜面の状態は、モチーフが《圧縮》されたりしながら同時に流れている、モチーフが4つのパートで《増殖》している状態、ということになります。(あくまでも一例です)

 

なあんだ、そういうことか。《圧縮》とか《増殖》とかいうから、すごい難しい理論だと思ったら、圧縮って音符を伸ばしたり縮めたりしてるだけじゃないか、増殖って音や楽器が増えて盛り上がってるっていうことでしょ、なんか敷居高めに言いやがって、、(ちょっとお口が悪いですよ)、わかるとスッキリしますね。そうはいっても、言葉にするとこうとしか言えないのもまたしかり、決して置いてけぼりにするつもりない、言葉と音楽との境界線です。だからわかってしまえばこっちは1UPです。

 

 

「久石譲:交響曲第2番」第2楽章や第3楽章で《圧縮》《増殖》を聴くことができます。第3楽章「Nursery rhyme」はタイトルとおりわらべ唄のようなモチーフが登場します。フィナーレを迎えるラスト2分は、モチーフが幾重にも圧縮したり伸ばされたりで同時に奏でられいます。2分音符から16分音符まで、まさに上の譜面図のようになっています。もちろんシンプルではありませんから、カノン風に旋律はズレうねり、ピッコロ、オーボエ、トランペットらが掛け合うように装飾的に交錯しています。モチーフの増殖を螺旋のように描きあげながらピークを迎えます。

「久石譲:交響曲第2番」はまだ音源化されていません。そのなかで第2楽章「Variation 14」はアンサンブル版も作られ、こちらはリリースされています。例えば、7分あたりから1分間くらいの箇所は聴きとりやすいです。モチーフを高音ヴァイオリンらが16音符の速いパッセージで繰り返しているとき、低音チェロやトロンボーンらは4分音符に引き伸ばして奏しています。まるでベースラインのようなおもしろさですが同じモチーフです。そこへフルート、オーボエ、クラリネットらがまた、モチーフの素材を部分的にカラフルに奏してます。ここもまた《圧縮》と《増殖》が現れている状態といえます。

「Variation 14」には久石譲が推し進める《単旋律》の手法もあります。同じように低音で比べてみます。わかりやすいところで4分半あたりから1分間くらい、ときおりボンボンと不規則に鳴っているベースのようなパートは《単旋律》の音です。メロディライン(モチーフ)のなかの一音を同じところで同時に瞬間的に鳴らしている、そんな手法です。この楽曲の注目ポイントは、《単旋律》の手法と《圧縮》の手法をスムーズに切り替えながら構成されている妙です。さらにすごい、ラスト1分などは《単旋律》と《圧縮》の手法をミックスさせて繰り広げられています。だから厳密には《単旋律》(ドとかレとか同じ音だけ鳴っている)とは言えないかもしれませんが、それは理屈であってこだわらなくて大丈夫、《単旋律》オンリーもちゃんとやっています。この楽曲は、交響曲第2番第2楽章は、久石譲の近年作曲アプローチから《単旋律》と《圧縮》を昇華させ構築してみせた、すごいかたちなんです!(たぶん)聴くだけでもワクワク楽しい楽曲ですが、その中に技法もいっぱい詰まっているようです。ここだけでずっと話したくなる、またいつか語り合ってみたい。先に進めましょう。

 

Variation 14 for MFB (2020) (世界初演)

from official audio

 

 

「久石譲:Metaphysica(交響曲第3番)」です。ちょっと交響曲第2番で盛り上がりすぎちゃった感、しゃべり過ぎちゃった感あり割愛します。音源化もまだです。期待を膨らませるさわりくらいに。

 

第2楽章の楽曲解説はこうあります。

”II. where are we going? は26小節のフレーズが構成要素の全てです。それが圧縮されたり伸びたりしながらリズムと共に大きく変奏していきます。”

ほんとにこのとおりになっています。なにやら静かにゆっくり始まって、ガラッと一変鋭くリズミックになって、魅力的な弦楽四重奏のみ構成にもなって、力強い爆発力で解き放たれる。どんどん曲想が変わって同じようにメロディラインも変わっているように錯覚しますが、楽曲解説のとおり同じモチーフで首尾一貫です。

第3楽章の楽曲解説はこうあります。

”III. substance は ド,ソ,レ,ファ,シ♭,ミ♭の6つの音が時間と空間軸の両方に配置され、そこから派生する音のみで構成されています。ちなみにこれはナンバープレースという数字のクイズのようなゲームからヒントを得ました。”

6つの音からなるモチーフが稲妻のような速さで鳴り響き、それが中間部ではまるで強烈なフックのように2分音符に引き伸ばされた長さで重厚にたっぷりに奏されます(下の音で)。とても強い印象をのこします。「交響曲第3番」にも《圧縮》は散りばめられています。いやこれだと正確じゃない。楽曲解説の「時間と空間軸の両方に配置され」、《圧縮》は横の流れなので時間、《増殖》は縦の広がりなので空間と捉えることもできるなら。「交響曲第3番」ここもまた《圧縮》と《増殖》が現れている状態といえます。

 

第2楽章だけ特別に公開されています。どうぞゾクゾクしてください。

 

 

「久石譲:2 Dances for Large Ensemble」第2楽章です。長尺なメロディラインが4,8分音符で奏されたあと、同じテンポをキープしたまま16音符に圧縮されて奏される変化を聴くことができます。コンサート映像が公開されています。18分20秒あたりから2分間くらいの箇所です。この楽曲も同じモチーフで首尾一貫です。さらに高度に解析すると、基本モチーフは8分音符の粒です。でも18分20秒あたりの展開はスウィングする付点リズムのようになっているから「4,8分音符」とここでは書きました。そう、圧縮のパターンは等倍だけじゃありません。8分音符が等間隔で16音符や4分音符になるだけでじゃない、いろいろ変形した伸び縮み方もしている。圧縮バリエーションと言っていいのかな、いやむしろ、《圧縮》と《変奏》の合わせ技と言ったほうが正しいに近いのかもしれません。ほかでも旋律がカノン風にズレて増殖していたり、音符の長さを変えて同時に並走していたり。ここもまた《圧縮》と《増殖》が現れている状態といえます。まだまだ話し足りないけど先に進める、名残惜しい。

 

“JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE Vol.8” Special Online Distribution

 

 

(余談)

近年の久石譲作品から「Single Track Music 1」「2 Pieces」「2 Pages (Recomposed)」などにも《増殖》や《圧縮》といったキーワードは出てきます。曲ごとにどこを指して増殖している状態なのか?注目して聴いてみるのもおもしろいです。

 

(余談)

「増殖」と近い言葉に「増幅」があります。使い分けるなら「増殖」=ふえる、ふやす、「増幅」=ます、ふくらむ、おおきくする、というように前者の数的なものと後者の範囲的なものになるのかなとこれは個人の解釈です。そんなこともあってか音楽作品の楽曲解説には「増殖」が使われていることが多いようです(少なくとも久石譲作品と関連作品はそうでした)。評論やレビューでは「感情を増幅させて」などと使われていたりもします。範囲ですね。細かいところの言葉のこと。

 

(余談)

当サイトでは、久石譲作品の楽曲解説やコンサート・レポートなどを収めています。「disc 曲名」「blog 曲名」「レポート 曲名」などで検索してみてください。いろいろな聴きかたを紐解けるかもしれません。曲名だけだとたくさんのページにヒットしすぎるかもしれません。

 

 

急にサウンドトラックの話をします。海外TVドラマ「THE FLASH/フラッシュ」というヒーローアクションものです。シーズン8くらいまである人気作で、サウンドトラックもシーズンごとに出ています。そのおかげもあって、メインテーマはじめ主要楽曲のいろいろなバリエーション、シーズン・バージョンアップなど、音楽を追いかけても楽しい作品です。

 

The Fastest Man Alive (Always Late)

from Blake Neely – Topic (official audio)

メインテーマです。スピードヒーローということもあってか、モチーフの象徴的なフレーズが登場しています(00:14-00:27)。ここだけでモチーフとなっている音型を7回繰り返しています。その後も繰り返しながもうひとつの主旋律が上で鳴っていたり(00:40-00:50)、音型の一部を素材にして繰り返したり(01:00-01:25)、徹底的にこの音型にこだわって作られています。曲は曲想を変えながら進んでいきます。ピアノも変奏だし(02:29-2:40)そのあとの弦楽も変奏だし(02:43-end)。なんですけど、今回は変奏の楽しみはぐっとガマンして基本音型だけにこだわっていきます。

 

 

Sending Reverse Flash Back / Wells Betrays

16分音符だった速いモチーフが、8分音符の長さに伸びています(2:30-2:50)。より力強くより重く聴こえてきます。ここの盛り上がったピークなんて『スター・ウォーズ』ばりのお手本のようです。音符の長さが変わった印象の違い、この曲はこれだけ言って流します。、、なんて言いながら曲のエンディング、低弦でモチーフを刻む重厚さは『トップガン:マーヴェリック』などにも聴けるハリウッド手法の定番です。

 

 

Stuck in the Speed Force

モチーフの耳が慣れたころ、きれいにフォーカスしてくれます。ピアノは8分音符で(2:10-2:27)、ホルンらは2分音符で(2:33-)、その上にストリングスは16音符でモチーフの素材を断片的に散りばめながら。その流れのまま高音ストリングスは8分音符でクライマックスへ。ここでもモチーフの最初の2音や4音を抜き取って効果的に繰り返しています。もうわかりますね、《圧縮》の手法を使った曲と言えます。

 

Ready to Save the World

一番わかりやすい曲!3:10-endまでの1分間を集中して聴いていきます。モチーフが3つのラインで並走しています。ストリングスは16音符で、ピアノは8分音符で、そしてホルンは2分音符です。同じメロディを使い、音符の長さが違うこともはっきりと聴き分けながらその織りなす流れを楽しむことができます。

 

ここ、上の譜面図と同じ《圧縮》と《増殖》状態です。

 

そしてもしこの箇所を冒頭の「アルヴォ・ペルト:フェスティーナ」のように解説したらこうなるのかもしれません。

[楽曲は弦楽、ピアノ、そしてホルンの3つのグループからなるカノン様式で構成され、メロディは全員同時にしかし3つの異なるテンポで演奏される。最も速いメロディは10回繰り返され、反復を経て音楽は静寂の中へと消えていく。]

全く同じ曲のこととは思えないほど高邁になってしまいました。でも、言っていることもやっていることも説明としては一緒です。テレビドラマの音楽が一気にありがたいものに格上げされた気さえしてきます。おもしろいですね。

 

 

The Right Decision3

この曲はモチーフをピアノで演奏したものです。ここでは《圧縮》の話は置いておく。映画もドラマも海外もアジアも、ほんとモチーフの時代だなと感じます。従来の息の長いメロディライン、旋律が豊かに広がっていく曲想は今ちょっと影をひそめている。切り詰められた短いモチーフをどう料理していくか。料理の仕方には音色・リズムなどいろいろな手法がありますが、一番顕著になっているのはハーモニーです。この曲を聴いても、あの急速で力強いモチーフが、ここまで変わるんだとびっくりします。印象に影響を与えているのは複雑なハーモニーやさじ加減のあるエモーショナルなコード進行です。今の作曲家には、映画全体から音楽を構成するの意のなかにアレンジ力も大きく求められているように感じます。ワンテーマからの引き出しの多さがものをいっている。だから欧米も韓国もチームで音楽を作ることが主流になっている。モチーフが音数を変化させながら流れていきます(01:30-)。

 

 

The Most Important Part Of The Job

久石譲指揮で演奏会にプログラムされたこともある「チャイコフスキー:交響曲第5番」は、第1楽章のモチーフ(第1主題)が短調で織りあげられ、第4楽章で同じモチーフが長調で奏されるという形式をとっています。短調が長調に変わっただけで気づけなくなるくらいがらっと印象も変わっています。「久石譲:交響曲第2番」第3楽章もわらべ唄のようなひとつのモチーフで織りあげられ、明るくなったり暗くなったりと響きの変容を楽しむことができます。たぶん、チャイコフスキーのそれよりも同じ楽章内ということもあって、聴きとれ楽しめると思います。

今回取り上げた海外ドラマからのモチーフも、基本となるメインテーマの第1印象は、速い・鋭い・アクションものらしい、そんな感じです。でも、この曲のように180度印象を変えて、希望・明るい・ハッピーエンディングをイメージさせるような曲想になったりします(01:00-)。後ろで聴かれるホルンの旋律も、なんとなく雰囲気で鳴らしているのではなく、モチーフの音型からうまく拾いあげられているように思います。

 

 

ポップスにいく。

クラシック音楽や現代作品だと説明されてもハテナしか浮かばないことも、実はやっている手法は近かったりすることはたくさんあります。サウンドトラックから耳を慣らしていくのはとても楽しいです。なんといっても、聴きやすい!探しやすい!見つけやすい!サウンドトラックやポップスから耳のレバレッジをかけていく、楽しいストレッチを習慣にする。

海外TVドラマ「THE FLASH/フラッシュ」のメインテーマ・モチーフは、定番音型と言えるほど幅広い楽曲で耳にすることができます。久石譲の『悪人』や『坂の上の雲』のサントラにも近いものが聴けたりします。すぐにどの曲か思い浮かぶ人はすごい、とてもよく聴いていますね。

ポップスにもモチーフの波は押し寄せている?メロディラインだけじゃなくて伴奏音型やフレーズでインパクトのあるもの、その楽曲カラーを決定づけるもの。たくさんあると思いますが、ぱっと浮かんだのがこれだったので、同じ音型を使っています。BTSです。

 

N.O

from BANGTANTV official

 

 

終わりに近づく。

今回、一番最初に難易度高いほうから紹介した「アルヴォ・ペルト:フェスティーナ・レンテ」。とても高邁で構えてしまいそうですけど、紹介してきた海外テレビ・サントラとまったく同じことをやっているんです。ほんとですよ、ちょっと見てみましょう。

 

from Festina lente – Arvo Pärt Centre (official) より image edit
https://www.arvopart.ee/en/arvo-part/work/517/

曲のはじまりです。ヴァイオリンが2小節でやっていることを、ヴィオラは倍の長さ4小節でやっています。チェロとコントラバスはさらに倍の8小節まで伸びています(赤)。同じように次の2小節も伸びていきます(青)。「メロディは全員同時にしかし3つの異なるテンポで演奏される」楽曲解説とおりです。《圧縮》と《増殖》のどちらもあります。

同じことをやっているのに、見つけられるサントラと見つけられないクラシック。クオリティを問うつもりも大衆さと高邁さを競うこともありません。そこにはアプローチと志向性の違いがあります。映画音楽はエンターテインメントとして観客に気づいてもらわないといけない。「ああだからここでこのメロディがくるんだね」とわかってもらわないと映像との効果を発揮できません。一方のコンテンポラリーな作品は、すぐにはわからないかもしれないけれど、音楽として強靭な構造をもったもの……音楽だけで……そう純音楽なんですね。この作品は冒頭から一番速いヴァイオリンで1コーラス1周するのにおそらく1分近くかかっています。そんな息の長い旋律が伸びたり折り重なってる、モチーフも変容している、楽曲解説があってもなくても気づけわかれと言われるほうが超難問って感じです。

 

もう一度、アルヴォ・ペルト作品を聴いてみましょう。イントロから20秒間が上の公式譜1ページ目です。前よりは3つのメロディが聴きわけられるようになった気がしませんか?20秒だけ集中力MAX!!

 

Festina lente

from Paavo Järvi -Topic (official audio)

 

 

むすび。

現代作品から久石譲作品から海外ドラマサントラからK-POPまで。いろいろな角度から手法の共通点を紐解いてきました。偶然にも同じ音型をベースにして幅広いジャンルで聴けるおもしろさもありました。

もうお腹いっぱい

だとは思いますが、耳のストレッチができたら「久石譲:2 Dances」や「久石譲:Variation 14」もアルバムやライヴ映像でまた聴いてみてください。普段よく耳にするサウンドトラックでやってることと同じようなことが起こっている?とあまり力まず楽しく耳をすませて。なんかハマっちゃいそうってなるかも。

もうお腹いっぱい

だとは思いますが、とても興味深い点もあります。「アルヴォ・ペルト:フェスティーナ・レンテ」を聴いて、静謐・美しい・宗教的・エモーショナル、そんな感想もあるかと思います。でも曲を紐解くと決して感性だけで作っていないことがわかります。メロディを論理的に組み立てて、圧縮したり増殖したりと運動性を追求した先に、その旋律の交錯からハーモニーやリズムが生まれているという楽曲構造になっています。くだけて言っちゃうと、神様に祈りを捧げながら思い向くまま作っているわけではない、だって譜面が論理的なのはわかったし。感性よりも論理性が勝っている、作る側は。

このあたりのことは、久石譲の今の志向性と共通しているのかもしれません。美しいと感じるかエモーショナルに感じるかは聴く側のこと、作る側は感情に訴えようとは思っていない。あくまでも論理的に音を配置した結果、運動性を追求した先に、そこからリスナーのイマジネーションをかきたてるものが生まれてくる。コード進行や和音で曲を広がらせるのではない、旋律たちの織りなす瞬間に生まれるハーモニー、つまりポリフォニー、つまりバッハ時代ですね。

きっとこれからの久石譲作品を聴くヒントにもなると思います。そして、いつか届けられる日がくるだろう「久石譲:交響曲 第2番・Metaphysica(第3番)」を聴くときに、ぜひちょっとだけ思い出してください。そのときまた耳のストレッチのお手伝いができて、久石譲交響曲をさらに楽しむきっかけになれるのならうれしいです。

 

それではまた。

 

reverb.
好きな音楽をさらに楽しめる自分に出会えるならうれしい。努力の根源は好奇心だ!なんて。

 

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Info. 2023/05/19 久石譲「A Town with an Ocean View」New Music Video公開

Posted on 2023/05/19

久石譲オフィシャルYouTubeチャンネルに、新しいミュージックビデオ「A Town with an Ocean View (from Kiki’s Delivery Service)」が公開されました。この楽曲は新録音で同日音源も配信リリースされています。

ぜひご覧ください。 “Info. 2023/05/19 久石譲「A Town with an Ocean View」New Music Video公開” の続きを読む